【家出娘】冒険者になる!

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月20日〜08月26日

リプレイ公開日:2008年08月28日

●オープニング

 様々な人が集まる冒険者ギルド。自分の腕一つで生きる冒険者には、二十にもならない若者も少なくない。
 だから、おそらくは一五才ほどだろうその赤毛の少女も、その年齢だけならば決して不自然な存在ではなかったのだが‥‥。
「なんでだよ! どうしてあたしには依頼できる仕事がないっていうのさ! あたしより年下の冒険者なんていくらでもいるじゃないか!」
 食ってかかる少女に、ギルドの受付嬢は冷静に応じる。少女が手にしているのは、ゴブリンを退治する依頼の詳細を書いた張り紙だ。
「年齢の問題ではありません。覚悟の問題です。冒険者というのは命がけの仕事なのよ。誰にでも仕事を依頼できるというものではありません」
「覚悟ならある! あたしは命がけで冒険者になるんだ!」
「親御さんはなんて言っているの?」
「‥‥親は関係ない。あたしは一人で生きるんだ」
 目をそらした少女に、受付嬢は事情を悟る。
「あなた、家出してきたのね」
「‥‥もういい、あんたなんかに頼まないよ! 勝手に行くから!」
 そう捨て台詞を残して、赤毛の少女はギルドを飛び出していく。どこかウサギを思わせるような、軽やかな動作。手には、依頼の張り紙を持ったままだ。
「あ、ちょっと待ってください!」
 受付嬢の制止も聞かず、飛び出していく少女。気にはなるが、まさか仕事を放り出して追いかけるわけにはいかない。どうしたものかと思案する受付嬢。
「あ。あの、こちら冒険者ギルドですよね?」
 考えがまとまらないうちに、受付嬢は声をかけられて顔をあげた。視界に入ったのは、見慣れない中年の男の顔。考えに没頭しすぎて、店に新しい客が来たことにも気付かなかったようだ。
「あ、す、すみません。いらっしゃいませ」
「あの、こちらに赤い髪の毛の一五才ほどの少女が来ませんでしたか?」
 男性の言葉に、先ほど駆け出してきた少女の顔が浮かぶ。
「あ、ちょうど先ほど出て行かれましたけど‥‥」
「やっぱり、アンジェリカのやつ、本当にギルドにまで来ていたのか‥‥」
「よかったら、事情をお聞かせ願いますか?」
 尋ねた受付嬢に、中年の男性がうなずいた。
「私はクライドと申します。キャメロットで武器の製作をしております。アンジェリカは私の娘なのですが‥‥」
 クライドは、キャメロットの職人街に住む、腕のいい鍛冶屋だ。流行病で妻を亡くしてからは、一人娘のアンジェリカと二人で暮らしていた。多少仕事中毒のきらいがあるクライドだったが、とりあえず特別なこともなく、それなりに幸せに暮らしていたはずだった。ところが、一五になった娘が突然、「自分は職人にはならない。冒険者になる!」と言い出したのだという。
「娘は母親に似て、一度言い出したら聞かない奴なんです。私が反対したら、何も言わずに家を飛び出してしまって‥‥」
「お父様は、アンジェリカさんが冒険者になろうとしていることについてどう思われます?」
 探るような瞳で尋ねた受付嬢に、クライドは少しだけ沈黙し、そして受付嬢の方をまっすぐに見つめて答えた。
「娘の人生は、娘のものです。正直言って、娘には職人は向いていないと思いますし、本当に心から冒険者になりたいと真剣に願っているなら、私が止めることはできないと思います。ですが、もしそれが一時の反抗心や、その場の思いつきにすぎないのなら‥‥」
 そう言って、クライドは緩めにはいたズボンの左裾を持ち上げてみせた。下から現れたのは――本来左足があるべき所に見える、金属の棒。
「娘には教えていませんが、私も若い頃――ちょうど、今の娘と同じくらいの時でした――冒険者をやったことがあるんです。ほんの駆け出しのころ、冒険を甘く見てへまをやって、この通り左足を失いました」
 クライドの真摯な表情に、受付嬢は黙ってうなずく。
「娘には、冒険者の厳しさをきちんと知ったうえで、もう一度考えてほしいんです。それでもやはり冒険者になるんだ、というのなら止めはしません」
「あなたの気持ちはわかりました。できる限り、協力しましょう。とにかく、一人で飛び出してしまった彼女を、現役の冒険者に頼んで追いかけてもらいますね」
 受付嬢の言葉に、クライドは少しだけ笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。娘を、アンジェリカをくれぐれも、よろしくお願いします」

●今回の参加者

 ea7454 霧崎 明日奈(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2045 アズリア・バルナック(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4929 リューリィ・リン(23歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ec4936 ファティナ・アガルティア(24歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4984 シャロン・シェフィールド(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec5379 ラヴィ・ガラシャ(24歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ガンド・グランザム(ea3664

●リプレイ本文


「‥‥おっと、あれがアンジェリカ様かしら? アズリア様にそっくりな頑固そうなお嬢様ですわね〜♪」
 冒険者街の片隅の物陰に隠れながらクスッと笑ったのは、元忍者で現メイドの霧崎明日奈(ea7454)だ。きっとどこか安い宿に泊っているに違いないと踏んだ冒険者たちは、周囲に聞き込みを繰り返し、アンジェリカの泊っている宿を見つけ出したのだ。
「できれば街の中にいるうちに説得したいですね」
 シャロン・シェフィールド(ec4984)がそう言うと、リューリィ・リン(ec4929)は小さく首をひねった。
「うーん、あたしはすぐに接触する必要もないんじゃないかな、って思う。しばらく好きに動かせておいて、いざゴブリンと戦闘になったらあたしたちが助けに入る、って形でもいいんじゃない?」
 二人が互いにそれぞれの意見を検討していると、アンジェリカの様子をじっと眺めていたファティナ・アガルティア(ec4936)がぼそりと呟いた。
「まずはみんなで食事を取りましょう」
「食事?」
 唐突なその言葉に、明日菜が首をかしげる。
「ええ。初めての家出は、何よりもおなかがすくものだと思うのです。‥‥ほら」
 ファティナが指差した先に視線をやると、剣を振っていたはずのアンジェリカが、ぱたりと倒れた。
 一瞬のちあたりに響き渡ったのは、ぐぅ〜という盛大なおなかの音だった。


 目の前で倒れられては、まさかそのまま物陰で見守っている、というわけにもいかない。事情を話し、とにかく何か食べよう、ということで一行はアンジェリカを食堂へと連れてきた。
「お金は心配しなくていいのです。とにかくおなかいっぱいにしないと、きちんとものを考えられないのです」
 ファティナがそう言ってにっこり笑う。その笑顔に安心してか、それとも空腹に負けたからか――おそらくは後者だ――初めは警戒していたものの、観念して目の前の料理に手を伸ばし始めた。
 しばし、夢中で食事をとる。
 少し落ち着いたころ、シャロンが口を開いた。
「まず伝えたいことは、あなたのお父上がとても心配していた、ということです」
 父のことが出ると、アンジェリカは決まり悪そうに目をそらす。
「勘違いしないでいただきたいのは、お父上は冒険者になることそのものに反対なわけではないのです」
 シャロンがそう言うと、アンジェリカは驚いたように彼女を見た。シャロンは、クライドがギルドで言ったことを話して聞かせた。
「‥‥でも、パパは冒険者が嫌いじゃないの?」
「嫌い? どうしてそう思うんです?」
 初めてまともにしゃべってくれたことに微笑みながら、明日菜が優しく尋ねる。
「だって、冒険者だったせいで、脚をなくしたから」
「‥‥知ってたんだね」
 リューリィが尋ねると、アンジェリカはこくん、とうなずき、話し始めた。
 彼女は幼い頃から冒険者に憧れていた。
 仕事柄、父の工房には冒険者の客が訪れることも多く、仕事を手伝っている時に彼らから様々な話を聞かされて、彼女の胸には冒険に対する憧れが育っていったのだ。
 ある日、父親がいない時に訪れた古い友人から、実は父が若いころ冒険者をしていたことを教えられる。
 父が冒険者だったことを知って嬉しくなったアンジェリカだったが、同時に脚を失ったのはその時だということも聞かされる。
「だから、あたしが冒険者になりたい、って言ったら反対されると思ったの。‥‥パパが時々、お酒を飲んで『俺にきちんと脚さえあれば‥‥』って泣いているの知ってるから」
「だけど、冒険者になりたいって気持ちは本当なのね?」
「人生の大切な選択を、一時の感情に任せてよいものではありませんよ?」
 リューリィとシャロンが言う。アンジェリカはまっすぐに彼女たちの目を見て、うなずいた。
「あなたたちには感謝してる。けど、戻るつもりはない。あたしはゴブリンを倒しに行く」
 断固とした様子のアンジェリカ。冒険者たちはふっと息をつく。
「そこまで言うなら止めないわ。でも、一緒に行かせてもらってもいい? いやだと言っても付いていくけど」
「僕もまだ駆け出しで戦闘経験も実力も皆無なのでぼこぼこにされるかもしれませんが、でも、精いっぱい頑張りますよ、ちょっと怖いですけど」
 リューリィとファティナの言葉にアンジェリカがちょっとだけほっとしたような表情になって、小さくうなずいた。
「‥‥アンジェリカ様を助けてなお村のゴブリンも掃討したならば追加報酬が望めますかしら‥‥♪」
 明日菜は口の中で小さくつぶやいた。


 一方、騎士のアズリア・バルナック(eb2045)と浪人の伏見鎮葉(ec5421)は、先回りしてゴブリンの洞窟へ向かっていた。敵の情報を正確に把握して、万が一アンジェリカに危険が及ばないようにするためだ。
「冒険者家業してる私たちが、冒険者の厳しさを説くっていうのも、よくよく考えれば変なものの気がするし、駆け出しって意味なら私もたいして変わらないんだけど」
 鎮葉が言うと、アズリアもうなずく。
「私もかつては父の反対を押し切って騎士となった‥‥故に放っておけんのやも知れぬ」
 二人とも、アンジェリカの行動に何かしら共感する部分があるらしい。
「普通のゴブリンが三匹に、ちょっと装備がいいのが一匹か。‥‥まぁ、それほど怖い相手じゃなさそうね」
 鎮葉が聞き込みで得た情報を整理する。
「いざという時のため、いつでも助けに入れるように身を隠しておくとしよう」
「もう少ししたらみんなも到着するだろうしね。ちょうど、ここのゴブリン達が活動を始めるらしい時間だし」
 二人は洞窟付近の草むらに身を隠した。ほどなくして、アンジェリカをはじめとする一行が姿を見せる。
「‥‥結局一緒に来ることになったのか。それでは隠れている意味はないかもしれんな」
「でも、身を隠していればゴブリン達への奇襲にはなるわ。それに、あんまり大勢で守られていたら緊張感は薄れてしまうんじゃないかしら?」
「それもそうだな。もう少し隠れたままあとをつけることにしよう」
 二人は物陰でうなずき合い、こっそりとアンジェリカ達の後を追った。


 洞窟内に足を踏み入れていくらもしないうちに、不気味なうなり声と足音が聞こえてきた。
「ゴブリンさん達、本日は特別なデリバリーメイドのご奉仕などはいかがでしょうか♪」
 そんなことを言いながら、明日菜がアンジェリカを守るように一歩踏み出す。
「ぎゃるるる!」
 物騒な叫びをあげながら現れたゴブリンは四匹。一匹はフレイルを持ち、あとの三匹は斧を構えている。
「きゃぁあ!」
 ゴブリンが現れた途端、その強烈な殺気にアンジェリカが腰を抜かす。ファティナが彼女をかばうように剣と盾を構えた。
「先手必勝!」
 そう叫んでソニックブームを叩きつけたのは、物陰に隠れていた鎮葉だ。同時に、アズリアも飛び出して最前列に立つ。
「明日菜、アンジェリカ殿を守ることに徹せよ! 私は残りを叩く!」
「了解ですわ!」
 手傷を負ったゴブリンが接近を開始する。近づいてくるゴブリンにシャロンの放った矢が突き刺さり、あっという間に一匹を無力化する。鎮葉も再びソニックブームを放ちもう一匹も倒れる。
 何とか接近した一匹のゴブリンに、ダーツを構えたリューリィが頭上から急降下を掛けて攻撃を試みるが、これは外れてしまう。入れ替わるように剣を振るったファティナがゴブリンの皮膚を切り裂き、軽傷を負わせた。
「ギィイッ!」
 怒りの声を上げ、斧を振るうゴブリン。それをファティナは盾で受け止める。バランスを崩したところを明日菜の忍者刀が襲い、ゴブリンは倒れる。
 フレイルを握った体格のいいゴブリンを迎え撃つのはアズリアだ。フレイルでの攻撃をやすやすと盾で受け止めると、カウンター攻撃。彼女の剣が、鎧ごとゴブリンの体を切り裂く。
 もはや勝敗は決したも同然だった。逃げ腰になるゴブリンを、シャロンとリューリィが追撃し、あっという間に敵は全滅した。


「さて、アンジェリカ嬢、本物の戦闘の緊張感はわかったかしら? 言っておくけど、私だって怖くないわけじゃない‥‥それでも戦えるのは、私が好きで冒険者やって、好きで戦ってるからよ。父親を見返すだとか、そんな理由で選んだのならこの先やってけないわ」
 ゴブリン退治の報告に訪れた村の酒場で、鎮葉があえて厳しい口調でアンジェリカに告げる。
「あたしも冒険者になるって決めた時にモンスターに襲われて失った兄と親友のための復讐心がなかったと言えば嘘になるから‥‥あなたにも何か強い理由があるなら、それを聞いてみたいな」
 そう言ったのはリューリィ。
「報告に来た時の、村の方々のほっとした表情を覚えているでしょう? 冒険者の仕事はただ自分の満足だけでなく、こういう人々の願いを背負うことです。その意味を、もう一度よく考えてみてください」
 シャロンが諭すように優しく言い、アズリアもうなずく。
「そなたの選ぶ道はそなたが決めよ。自分で選んだ道ならば誰もそれを咎めはせぬ」
 みんなの顔を見回して、アンジェリカがゆっくりと口を開いた。
「広い世界が見てみたいの。その気持ちは本当、今も変わらない。でも、自分が未熟なのはよくわかった。まずは‥‥もうちょっと、パパと話してみる」
 そう言って、照れくさそうに笑う。
 アズリアがほほ笑んで、自分の首のネックレスを外し、アンジェリカの首にかけた。
「そなたの進む未来に幸運を祈ろう」
「キャメロットに帰ったらみんなで飲みません? もちろん、アズリア様の奢りで♪」
 明日菜が明るく笑う。ファティナはアンジェリカの腕をとった。彼女は同年代の話し相手ができてうれしそうだ。
「帰りは僕のテントで仲良く夜を過ごすのです!」
 アンジェリカは少し恥ずかしそうに、うなずいたのだった。