【夜空の女騎士】殲滅!オーガ山賊団

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2008年09月24日

●オープニング


 商人ワット・マクレーンは、その道を選んだことを後悔し始めていた。
 仕入れ先からたっぷりと商品を仕入れたその帰り道。彼の家族を乗せた馬車を先頭に、荷物を満載した荷馬車が小さな隊列を組んで、薄暗い道を進んでいく。
 彼らが行くのはいつもの街道ではなく、まともに整備されていない獣道というべき小道だ。彼とて、いつもならこんな道を通りはしない。まして荷物を満載した後とあっては、多少遠回りになろうとも安全な街道を行くのが当然だ。
 だが、マクレーンは先を急いでいた。仕入れ先の村で偶然会った昔馴染みから、マクレーンの故郷の祖父の体調が芳しくないという噂を聞いたのだ。
 マクレーンの祖父は胸の病を患っており、何より高齢だ。あくまで確証のないうわさに過ぎないとはいえ、聞いてしまったら気になるのが人情というもの。心配になったマクレーンは次の訪問先の予定も切り上げて、故郷の村に向けて急いで出発したというわけだ。
 仕入れ先から故郷の村へ続く街道は、広い道を作りづらい灌木地帯を避けて大きく迂回している。一国の時間も惜しんだマクレーンは、街道を外れ、人通りの少ない林の中を突っ切る道を選んだのだった。
 道は想像していたよりもずっと薄暗く、人気がないところで、旅慣れたマクレーンをも憂鬱にさせた。
 だが、彼を心の底から後悔させる出来事は、その後に起こった。

 初めに気付いたのは、馬たちだった。
 今まで快調に歩いていた馬たちが突如その足を止めたのだ。御者が必死になだめようとするが、馬たちは歩くのを嫌がって頑として動かない。その様子は、何かに脅えているようだった。
「一体何があるって‥‥」
 言いかけた御者は、永久にその先を言うことができなかった。顔をあげた彼の眉間に、太い槍が深々と突き立っていたからだ。
 一瞬のち、薄暗い林に目の覚めるような鮮血がまき散らされる。マクレーンと彼の家族たちが恐慌をきたし、声にならない叫び声をあげた。護衛たちがようやく武器を構えるが、いつの間にか目と鼻の先にまで迫っていた複数の影に、あっという間に薙ぎ倒されていく。
「ば、化け物‥‥」
 マクレーンが思わず呟く。現れたいくつもの影は、人間のものではなかった。ボロボロの鎧を身にまとい、やはり古びた槍やこん棒を手にしたその姿は人間に似てはいたが、その頭部はむしろ豚や熊のそれによく似ている。ひときわ大きな一匹などは、その頭部から凶悪そうな二本の角を生やしている。
 オーガ。人に似て非なる凶暴なモンスター。しかもそれらが、明確な敵意を持って人間に襲いかかってきている。やつらはさながら、オーガの山賊団であった。
「父さん! 母さんとフローラを連れて逃げて!」
 呆然自失のマクレーンを叱咤するように、絶叫にも似た言葉がかけられた。目をやれば、18歳になる長男のマックスが護身用の剣を抜き放っていた。
「ま、マックス、お前は!」
「僕はいいから! 父さん以外にだれが母さんと妹を守るんだよ!」
 のどが張り裂けんばかりの悲痛な叫び。マクレーンは思わずうなずいていた。
「お、おまえも、後から来るんだぞ、必ず、必ずな!」
 そう言って、妻と3歳の娘のもとへ走りだしたマクレーンに、マックスはうなずくことはなく、ただ悲しい笑顔を向けるだけだった‥‥。


「オーガの、山賊団ですか‥‥」
 ギルドの受付嬢が真剣な表情で呟き、語り終えた下級貴族のアヴリル・シルヴァンがいつになく険しい表情でため息をつく。
 数日前、今は亡きアヴリルの両親と懇意にしていたという商人のワット・マクレーン氏が妻と幼い娘を連れ、満身創痍で彼女のもとを訪れて助力を懇願したのだという。
 本当ならすぐにでも討伐に出発したかったアヴリルだが、マクレーン氏の話を聞く限りでは、オーガは少なくとも5匹以上はいたとのこと。しかも、その外見を聞くところによれば、おそらくはコボルドやゴブリン程度ではすまない強力なオーガが含まれている可能性がある。アヴリル一人では、返り討ちに遭う恐れがあった。
「それで、冒険者たちの助力を頼みたいと思って参った」
 そう言いながら、漆黒の甲冑に身を包んだアヴリルは腰に差した細身の剣の柄を握りしめる。今にも飛び出していきたいのを、必死でこらえているかのようだ。
「わかりました、すぐに冒険者を集めてみましょう」
 受付嬢が真剣なまなざしで、彼女の手を握り、その黒曜石のような瞳を覗き込んで言う。アヴリルもまっすぐに受付嬢を見据え、【夜空の女騎士】の異名にふさわしい美しい黒髪を揺らしてうなずいた。

●今回の参加者

 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3466 ジョン・トールボット(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4772 レイ・アレク(38歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文


 一列に並んだ馬たちが、林の中の小道を駆け抜けていた。背にはそれぞれ人間を乗せている。
 先頭を行くのはアヴリルだ。その表情は険しく、一刻も早くオーガどものもとにたどりつこうと必死になっているのが見て取れる。
「そう思いつめるな」
 声をかけたのは、馬には乗らず魔法の靴でアヴリルの馬に並走しているレイア・アローネ(eb8106)だ。
「一般人が心配なのは私達も同じだ。お前は決して一人ではない。だから無理はするなよ」
 言葉巧みではないが、純粋にアヴリルを気遣う。生真面目で熱しやすいアヴリルに自分を重ね合わせているところもあるようだ。
「決して自らの命を捨てるようなことはしないように。誰も貴殿にそのようなことは望んでいないからな」
「単独で飛び出せば、他の全体に危険が及びます。くれぐれも血気にはやることがないようにお願いしますよ」
 馬上のジョン・トールボット(ec3466)とロッド・エルメロイ(eb9943)も口々に心配そうな声を上げる。
「アヴリル‥‥私たち、ついてる‥‥」
 アヴリルのマントの裾を引っ張りながらそう言ったのはレン・オリミヤ(ec4115)だ。
 彼女たちを見回して、アヴリルはふっと息をついた。
「すまない、みんなに心配させてしまったようだな」
「その、なんだ。私も言われたことがあるがな。眉間にしわを寄せてばかりいては、助けられる側も浮かばれん。過去にこだわるなとは言わないが、お前の周りにも心配する仲間がいることを忘れずにな」
 レイアの言葉に少しだけ微笑んで、アヴリルは道の行く先に目を向ける。
「目指すは、オーガ山賊団どもの殲滅だ。決して、これ以上の被害を出さないために」
 その言葉に全員がうなずいた。みんなの心は、一つだった。


「襲撃されたのはこのあたりですか。状況から考えて、縄張りに入る相手には問答無用で襲撃を仕掛ける奴らのようです。奇襲されないよう警戒を怠らないように」
 言いながら、ロッドが自身もブレスセンサーを使用して警戒する。レイアも鷲のラクリマを飛ばして警戒にあたらせている。
「周囲には山賊どものアジトになりそうな洞窟もいくつかあるらしい。こちらから探索するか?」
「いえ、どうせ襲ってくるのなら待ち伏せをして逆に罠にはめてしまってはどうでしょうか? しなりのある枝なんかである程度殺傷能力のある罠が作れますし‥‥」
 ジョンの提案に対して述べたのは陰守森写歩朗(eb7208)だ。
「リーダー格がどういうやつか、推測できるか?」
 声を上げたのは、今まで沈黙を保っていたドワーフのレイ・アレク(ec4772)。ロッドが答える。
「確実なことは言えませんが、目撃証言に出てきた『二本角のオーガ』、おそらく人食い鬼オーグラです。だとすれば多くの配下を従えて君臨していても不思議ではありません」
「人食い鬼‥‥」
 その言葉に、アヴリルの顔が蒼白になる。
「オーガ風情が山賊行為とはふざけた話です。悪いけど消えてもらいましょう」
 嫌悪感も露わにその端正な顔を歪めたのは『黒』の女性司祭、シャリオラ・ハイアット(eb5076)だ。
「オーガにまで、人真似されちゃかなわないな。しかも盗賊行為などを」
 ジョンも肩をすくめた。
 その時、レイアのラクリマが大きな羽音を立てて戻ってきた。
「何か見つかったようだ」
 レイアが言い、ロッドがとっさにブレスセンサーを展開する。
「お出ましみたいです」
「罠を仕掛ける暇はなかったな‥‥せめて、結界だけでも」
 そう呟きながら、森写歩朗がレミエラの力を解放して、あたりにオーガの力を弱める結界を張る。
「私は皆さんの強化を。全員には無理ですが、せめて前衛の方だけにでも」
 そう言ってロッドはレイアとレイ、ジョン、それにクロック・ランベリー(eb3776)に、次々とフレイムエリベイションをかけていく。
「アヴリルさん、あなたは後衛組を守っていただけます?」
「前衛は俺たちに任せて、味方との連携を頼むぜ」
 シャリエラが自身も後衛として下がりながらアヴリルに言い、前衛に立つクロックもそれに同意する。守る者がいればアヴリルも無茶はできないだろうという判断からだ。
「‥‥援護するから」
 小さく呟いたのはレン。
「ああ。‥‥任せておけ」
 彼らの意図を察したアヴリルは深くうなずき、白銀の剣を抜き放った。


 林の陰から一斉にオーガどもが飛び出してくる。大抵の旅人にとっては不意打ちになるに違いない、奴らの常套手段だ。
 だが今回は十分に予測済み。登場のタイミングに合わせたロッドのマグナブローが炸裂する。
「ギョエエエエッ!」
 オーガたちの悲鳴が響く。山賊団の一兵卒に当たるオークの半数が業火に巻き込まれて戦線離脱する。
「マックス、は‥‥?」
「マックス、いたら返事をしろ!」
 レンが呟き、ジョンが大声で呼ばわる。答える声は、ない。
「このあたりにはいないようです! 今は目の前の敵を倒すことに集中しましょう!」
 森写歩朗が言う。
 そうしている間にも前衛たちは間合いを詰め、未だ混乱の残るオーガ山賊団の真ん中につっ込んでいく。
「貴様らに殺された人間たちの無念、思い知れ!」
 レイアが、槍を構えた一本角のオーガ戦士に二連続のスマッシュをくらわせ、レイが熊の顔をしたバグベアの闘士に鬼剣「斬鉄」を叩きつける。強力無比な攻撃に、敵はあっという間に深刻な傷を負って戦意を喪う。
 森写歩朗とジョンも、二人がかりで戦士クラスのオークを仕留める。クロックも剣を振るい、オーク戦士に手傷を負わせている。
 だが、敵の数は思った以上に多い。一匹のバグベアが前衛をすり抜け、後衛の魔術師たちに襲いかかろうとする。
「させない‥‥」
 レンが静かな決意で呟き、魔法の鞭を振るってバグベアをからめとる。
「くらえ!」
 からめとられたバグベアにアヴリルが剣を突き立てた。どす黒い血を噴き出しながら、バグベアが絶命する。
 先程から魔法の詠唱をしていたシャリオラがにやり、と笑う。
「甦れ、亡者よ! クリエイトアンデッド!」
 シャリオラの言葉とともに、たった今絶命したはずのバグベアが、大量の血を流したままゆっくりと起き上がる。
「ふふふ、あいつを、やっつけなさい!」
 シャリオラが二本角のオーグラを指差して命令すると、バグベアだったものは、ぎこちない動きで斧を構えてそちらへ歩き出す。
「さぁ、みなさん。死んでも動けますから、安心してください」
 にっこりと笑って言ったシャリオラの言葉に、アヴリルをはじめとする冒険者たちが寒気を覚えたのは言うまでもない。

 順調に敵を撃破し続ける冒険者たちだったが、もちろんオーガたちもただ倒されていたわけではない。
 二匹のオークが同時にレイに向かって戦槌を振るう。一本は盾で阻まれるが、もう一本がレイの胸を直撃する。
「こんなものか!」
 レイが吠えてみせた。分厚い鎧と強靭な肉体に阻まれ、攻撃はほんのわずかなかすり傷をつけただけだ。
「ガルルッ!」
 ふがいないオーガたちに業を煮やしたのは、山賊団のボス、二本角の人食い鬼オーグラだ。手にした太い木の棒を振り上げ、最前列にいたレイアに叩きつける。とっさにかわそうとするが、思った以上に速く正確な動きを、避けられない。
「‥‥くっ」
 レイアが苦悶の声をもらす。致命的な傷ではないがオーグラの一撃は重く、殴られた左肩は黒く変色してしまっている。
 だがその反撃はもはや、最後のあがきともいうべきものだった。
 戦闘員の大半を失った山賊団、対して冒険者たちはほぼ無傷。さらにはシャリオラが絶命したオーガを次々にズゥンビ化して投入し、形勢は明らかに冒険者側に傾いていった。オーグラを除くオーガたちはすでに敗走モードだ。冒険者たちは逃走を阻止し、追撃する。ここで逃してはこれ以上の犠牲が出る可能性があるからだ。
 最後に残ったオーグラも、五人の前衛たちに取り囲まれてはひとたまりもない。ついにレイの「斬鉄」がオーグラの喉を貫き、それがとどめとなった。


 シャリオラのペットのイゴールや森写歩朗の円、レイアのラクリマの感覚を頼りにした捜索で、ようやくオーガ山賊団のアジトである洞窟を発見したのは、夕刻になってからだった。
「ひどいな‥‥」
 アヴリルが顔をしかめながらつぶやく。腐った食べ物や引き裂かれた布、錆びた武器が散乱したアジトの中はひどい有様だった。
「マックス! いないか?」
 半ばあきらめながらも、ジョンが大声で呼ぶ。返事は‥‥ない。
「これは‥‥おそらく人間の」
 苦しげに呟いたのは、森写歩朗だ。アジトに最も多く散乱しているもの――それは、生物の骨だった。
「これ‥‥」
 呟いて、何かを拾い上げたのはレン。マントを留める小さな金属の飾りだ。刻まれているのは三本の小麦のマーク。マクレーン家が商標として使っているもので、家族のみがつけているものだった。
「マックス‥‥」
 誰ともなく、呟きが漏れる。
 飾りの落ちていたあたりには、引き裂かれた服、折れた剣、そして、骨の欠片。
「また、救えなかった‥‥」
 アヴリルが頭を抑えてしゃがみこんだ。その顔は今にも倒れそうなほど蒼白だ。レイアが、そっとその肩を抱く。レンもアヴリルの隣にしゃがんで、彼女の黒髪に触れた。

 ロッドが洞窟に火を掛け、シャリオラが死者の冥福に祈りを捧げる。レイはマクレーンに届けるための、マックスのマント留めを握りしめる。
「何をしているんだ?」
 木の陰にしゃがみこんでいるジョンに、クロックが尋ねた。
「盗賊どもの墓を、と思ってな」
「オーガの?」
「奴らを許すわけじゃないが、オーガだって生ける者だ。供養くらいはしてやろうと思ってな」
 そう言ってジョンは、木で作った簡素な十字架を地面に立てたのだった。