【メルドン慰問】ジャジャ調査団
|
■ショートシナリオ
担当:sagitta
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 97 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月05日〜10月15日
リプレイ公開日:2008年10月14日
|
●オープニング
●メルドンへの誘い
冒険者ギルドを訪れた者は掲示板を前に足を止めた。
――メルドンへ慰問団を派遣する依頼。
小さな港町メルドンの大津波による災害は、誰もが知る大事件である。
――自分もメルドンの民を励ます力になりたい!
慰問団は10人前後。護衛を兼ねた冒険者はキャメロットに戻る必要がある。
訪問期間を調整すれば、慰問の人手は多いに越した事はないだろう。
ジャニー・ジャクソン、通称噂ハンターのジャジャは受付に向かった。
●
『メルドンで船乗りをしていた婚約者の安否を知りたい』
『故郷であるメルドンに住んでいる高齢の両親夫婦が心配だ』
『メルドンに妻と娘を残してきた。なんとかして連絡を取りたい』
「‥‥ふぅ」
冒険者ギルドの受付嬢は、次々と舞い込んで来る依頼のメモを眺めながらため息をついた。
港町メルドンが、突然の津波によって壊滅したという恐るべき事件は記憶に新しい。キャメロットから、健康な者なら徒歩で四日程度で行ける所にあるメルドンとはそれなりの交流もあったわけで、メルドン壊滅の報を聞いて即座に知り合いの顔が浮かんだキャメロット市民も少なくはなかったはずだ。
メルドンの正確な情報を得ることも困難な今、そこに知人を持つ者はさぞ不安な日々を過ごしているだろう。
だが、旅慣れた者にとってはわずか四日で行ける距離とはいえ、自分が生まれた町から離れたことがないような一般市民にとっては随分な遠方だ。日々の暮らしを何とか生きている者たちには、往復で十日近くも家を空けることはとても難しい。まして、メルドンが正常な状態ではない現在とあってはなおさらだ。
そこで、自分たちに代わって旅慣れた冒険者たちにメルドンの様子を見てきてほしい、そして知人の安否を確認してほしいという依頼が、連日ギルドに集まってきていた。
「一体何を悩んでいるのだ?」
不意に声をかけられて、受付嬢は顔を上げた。そこには、色とりどりの派手な服装に身を包んだ、若い男。
「ジャジャさん‥‥」
受付嬢は見慣れた顔を見て、ほっとした表情を浮かべる。
ジャニー・ジャクソン、通称噂ハンターのジャジャ。各地に珍しいものを見に飛んで行っては広場でみんなに話して聞かせる、変わり者の詩人だ。
「実はですね‥‥」
受付嬢はジャジャに、ギルドに舞い込む依頼について話して聞かせる。いつもははた迷惑なまでの明るさが取り柄のジャジャも、神妙な表情で話に耳を傾ける。
「‥‥なるほど。メルドンの悲劇については私も耳にしていたが、それはキャメロットにとっても決して他人ごとではない、ということだな」
真剣な表情のジャジャの言葉に、受付嬢はうなずく。
「真実を追い求める者として、私にはメルドンの現状をこの目で見てきて、それを伝える義務がある。護衛および調査の補助として、冒険者たちを集めてくれないか?」
いつになく真面目なジャジャの様子を頼もしく思いながら、受付嬢は大きくうなずいた。
●リプレイ本文
●
「私たちには、メルドンの被害をキャメロットに伝える使命がある! 協力してくれるな?」
集まった冒険者たちに熱い言葉で語るジャジャ。いつもは過剰気味のジャジャのセリフも、これほどの一大事にあっては誰もが納得できる。
「私は占い師だから、被害を伝えるなんて柄じゃないけど、人探しは得意だもの。それで役に立てるなら少しでも依頼人さんたちの不安を減らせるように頑張るわよ!」
いつも明るい顔を少しだけ曇らせて、しかし決意に満ちた表情でネフティス・ネト・アメン(ea2834)が言うと、姜珠慧(eb8491)もうなずく。
「皆さん、さぞご心配な事でしょうね。わたくしでお役に立てるなら、きっとご家族の無事を確かめて参りますわ」
「人捜し‥‥大変だけど、頑張ってみましょう。‥‥しかし、もうちょっと情報が欲しいですね。対象者の特徴とかでも」
そう言って首をひねったのは、新米冒険者のスト・ハン(ec5617)だ。彼の言葉にネフティスも同意する。
「私が一日使って、依頼人さんたちに特徴を聞いて回ってみるから、ジャジャさん達は先にメルドンに行っていてくれる? 七里靴で急げば途中で追いつけるはずだし」
「あら、わたくしも駿馬の蘭がおりますから、ネフティスさんにご一緒するわ」
珠慧も言う。隣で聞いていた神名田少太郎(ec4717)がパチン、と指を鳴らした。
「そうだ、僕が依頼人の方に特徴を聞いて、人相書きを描いてみます」
「よし、出発前に全員でそれぞれの依頼人にあたって対象者の特徴を詳しく聞いておくことにしよう! 一日、という時間は貴重だが、特徴もわからぬままに捜しては見つかるものも見つからん。ここは、メルドンでの滞在時間を削ってでも事前準備をしっかりしておくことが重要だ!」
ジャジャがそう宣言した。
●
街道を行くこと四日。メルドンの町が見えてくる。
「思ったより、復興は進んでいるみたいですね」
少太郎の言うとおり、人々の懸命の復興作業により、二か月ほど前に「壊滅」とさえ言われたとは思えないほどの活気が、メルドンには戻ってきていた。
「でも‥‥」
あたりを見回していたネフティスが、その顔を曇らせる。彼女の視線の先には、無造作に積み上げられた無数の木の破片。おそらくは「かつて家だったもの」だ。どれもがすさまじい力で砕かれた跡を残しており、津波の恐ろしさを物語っている。
「まずは何よりも安否不明な人々を探すことが先決だ。時間はあまりないが、決してあきらめずに探そう」
ジャジャが言い、真剣な表情で各自がうなずく。
「今は昼間だから、私が太陽神にお伺いしてみるわ」
そう言ってネフティスが祈りを捧げる。彼女の体が静かに金色の光に包まれる。
「‥‥駄目だわ。お陽さまの下にはいないみたい」
ネフティスの言葉に、息を詰めていたみんながため息をついた。
「仕方ありませんわ。それぞれの方の住んでいた場所をお聞きしていますから、そちらへ行ってみましょう」
珠慧が提案する。ジャジャがうなずいた。
「そうだな。時間もあまりないから、手分けすることにしよう。この人数だと二手に分かれるのがせいぜいだな」
「では、僕はジャジャさんと一緒に行動します。街の被害の状況も、一緒に確認していきたいですし」
少太郎が言う。
「じゃあ、私とネフティスさん、珠慧さんで、まずは船乗りのオスカーさんの家に行ってみますね」
スト・ハンが提案し、全員がうなずいた。
●
船乗りの青年オスカーの家は、メルドンの港からほど近い海のそばにある。今回の津波で、最も被害が大きかったあたりだ。
「これは‥‥酷い」
「家は、跡形も残ってないみたいですね‥‥」
ネフティスとスト・ハンが眉をひそめる。珠慧は青ざめた表情で黙りこくっている。
海岸沿いに家が立ち並んでいたであろう部分には、ほんのわずかに残った家の基部と思われる木の破片だけが、骸骨のように無残に地面に突き刺さっていた。
「慰問団の人かい?」
途方に暮れる三人に、豪快な声がかけられる。振り返ると、復興作業の途中なのだろう、大きな丸太を肩に担いだ船乗り風の風貌の中年の男性が立っていた。
「はい、えっと、安否不明の方の捜索に来た冒険者です。オスカーさんという、船乗りの方を探しているのですが‥‥」
珠慧が事情を話すと、男性の表情がさっと曇った。
「オスカーか‥‥あいつなら死んだよ。まだまだこれからだったんだがな‥‥」
男が低い声で言う。ある程度想像していたこととはいえ、突き付けられた残酷な事実に言葉も出ない。
「‥‥あいつ、婚約者がいたんだな。すまない。すぐに伝えてやれればよかったんだが」
申し訳なさそうに言う男性にスト・ハンはあわてて首をふった。
「とんでもないです。あなただって、大変だったんですから」
「その‥‥もし、遺品や遺髪があれば、婚約者の方に届けてあげたいんだけど」
唇をかみしめながら、ネフティスが言う。
「ああ、遺髪ならとってある。ぜひとも渡してあげてくれ」
男性がうなずく。
ありがとう、と告げながら、ネフティスはまだ幼ささえ残した顔で「どうか、オスカーを捜してください」と泣きぬれていた婚約者のことを思い出して涙があふれるのを抑えられなかった。
「魂よ安らかに」
珠慧は、小さく呟くので精いっぱいだった。
●
老夫婦アトキンズ夫妻の家は町の中央付近、避難所となっている広場の近くにあった。
ジャジャと少太郎は、教えられた通りを歩いていく。少太郎は時折町の様子を絵に描きとめて、後で報告する際の記録にしている。
「このあたりはそれほど津波の被害が激しくなかったようですから、無事に会えそうですね」
少太郎が言うと、ジャジャもうなずく。海の方の深刻な被害に比べると復興も進んでおり、二人の足取りも軽い。
ところが、目的の場所に行ってみると、家は残っているのだががらんとしていて人がいる気配はない。
「あの、このお二人を知りませんか? アトキンズさんという方なんですけど‥‥」
仕方なく少太郎は自分で描いた人相書きを使ってあたりを聞いて回ることにした。五人目でようやく、知っている、と言う人にたどりついた。
「ああ、アトキンズさんたちね‥‥」
答えた中年女性の表情は暗い。
「残念だけど、亡くなったよ。津波の数日後にね」
「え?! でも、家は無事だったのに!」
信じられない、という表情で少太郎が尋ね返す。
「熱病にかかっちまったんだ。津波の直後に町中が混乱して、食料も水も十分に得られなくなったし、衛生的にも悲惨な状態になったから。二人とも結構な年だったから、きっと耐えられなかったんだろうねぇ」
彼女は、目の前でたくさんの死を見てきたのだろうか。その瞳はうるみ、表情は悔しそうだ。
「今はだいぶよくなったけど、それでも病気で死ぬ人がいないわけじゃない。津波の後のこの町は、まさに地獄だったよ」
震える声で話す女性の言葉に、ジャジャと少太郎は言葉も出ない。今回の悲劇の、想像以上の恐ろしさにただ戦慄する。
「あんたたち、どうか他の町の人たちにこの町の現状を伝えてくれないかい? ここはまだまだ、助けを必要としているよ」
「ああ。必ず、伝えよう」
拳を強く握り締めて、ジャジャは約束した。
●
最後に、旅商人コンスタンスの妻子の家があるという通りで、冒険者たちは合流した。
家は、半分壊滅していた。中に人がいる様子はない。
冒険者たちが二人の生存を絶望しかけたその時。
「あの‥‥何をしているのですか?」
背中から控え目な声がかけられる。振り向くと、三〇才くらいの女性が家の中を覗き込んでいた。
「ああ、すみません。僕たちは怪しいものではなくて‥‥」
少太郎が事情を説明すると、女性は驚いたようにうなずいた。
「セリアさんとエリカちゃんを‥‥。なるほど、ではついてきてください」
そう言って歩きだす女性。わけがわからないまま、冒険者たちは彼女の後を追う。
案内されたのは、近くに設けられた簡易避難所だった。
女性が避難所のテントに入っていくと、幼い少女が駆け寄って彼女を出迎えた。
「おばちゃん、おかえりなさい」
「エリカちゃん、ただいま」
女性が答えた。冒険者たちがはっとする。
「エリカちゃん? 無事だったのね!」
ネフティスが表情を輝かせた。依頼人に聞いた特徴とおなじ。間違いない、探していたエリカだ。
「エリカちゃん、ちょっと向こうで遊んできてくれる?」
女性がそういうと、エリカはこくん、とうなずいてテントの向こうに走っていく。
「その‥‥セリアさんは?」
スト・ハンが恐る恐る女性に尋ねる。女性はため息をついて首を横に振った。
「亡くなりました。あの子をかばって、瓦礫の下敷きになって‥‥友人だった私が、彼女に代わってエリカちゃんの面倒をみています」
「そうですか‥‥」
一斉に俯いた冒険者たちに、女性はしっかりとした言葉で言った。
「死んでしまった、と嘆くんじゃなくて、よくエリカちゃんを守った、って褒めてあげてくださいよ。セリアは立派に、戦ったんですから」
冒険者たちが顔を上げる。彼女は気丈にも、頬を涙で濡らしながら微笑んでいた。
冒険者たちの目に、遠くで遊ぶエリカの笑顔が映った。その笑顔が、未来を照らす希望となるような、そんな予感を覚えながら。
キャメロットに帰ったらエリカの父コンスタンスに状況を告げて迎えに来てもらうよう手配すると約束して、ジャジャ達はメルドンを後にした。
ふと振り返ると、メルドンの港町が沈みゆく夕日に照らされて輝いているのが見えた。今日太陽が沈んでも、明日になればまた日は昇る。悲劇の町メルドンにも、変わらずに日は昇るのだ。