【家出娘】冒険者修行!

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2008年10月08日

●オープニング

「あの‥‥」
 昼下がりの冒険者ギルドに、おずおずと入ってきたのは一五才ほどの赤毛の少女。
「あ、あなた。えっと‥‥」
「アンジェリカ。えっと‥‥この前は、その、ごめんなさい」
 入って来るなり、受付嬢に向かって頭を下げる、アンジェリカと名乗る少女。
 その姿に、受付嬢は先日のことを思い出す。
 その日、アンジェリカは父親の反対を押し切って、「冒険者になる!」と家を飛び出してきてギルドに飛び込んだのだった。「覚悟が足りないから」と依頼を渡すことを拒んだ受付嬢に「もうあんたなんかには頼まないよ!」と叫んでギルドを飛び出して行ったことを思い出したのだろう。気まずそうに上目づかいにこちらを見上げる彼女を見て、受付嬢は思わず微笑ましくなった。
「今日は、家出してきたわけじゃないんでしょうね?」
 ちょっと意地悪な口調で言ってみると、アンジェリカはあわてた様子でぶんぶんと激しく首を横に振ってみせた。
「ち、違うよ! 今日はちゃんとパパに許可をもらってきたんだから!」
「そう、あなたを信じるわ。それで、今日はどんな御用なの?」
 さりげなく言った受付嬢の言葉に、アンジェリカの表情がパッと明るくなる。前回の冒険で自分の未熟さを思い知ったアンジェリカは家に戻り、冒険者になることについて父親としっかりと話し合ったのだった。
「パパのおつかいで、近くの村に商品を届けに行くから、冒険者にその護衛をお願いしたいの」
「近くの村に? あなたが行くの?」
 驚いた受付嬢に、アンジェリカがうなずく。
「いつもはパパが用心棒を雇って行ってるんだけど、今回はパパが、『丁度いいから、お前が行きなさい。冒険者の働きぶりを目の前でしっかりと見てきて、学んでくるんだ』って」
 そう言ってアンジェリカが腰帯から鞘ごと引き抜いてみせたのは、おそらくはアンジェリカにあわせて小振りに作ったのだと思われる、細身の剣だ。
「最低でも、自分の身は自分で守れるように。そうでなければ冒険者は務まらない、って」
「‥‥なるほど」
 受付嬢は、アンジェリカの父クライドの決意に心の中で感心する。かわいい一人娘を近くの村とは言え、旅に出すのは心配でたまらないはずだ。しかし、心の底から冒険者になりたがっている娘のために、本当の冒険を教えるため、あえてわが子を旅に出したのだろう。
「これが、パパからもらってきたお金。これで足りる?」
 アンジェリカが取り出した袋に入っていた硬貨を見て、受付嬢はもう一度感心する。ただ隣村へ護衛するための報酬としてはかなり多い額だ。一介の職人には少なくはない出費のはずだ。これにはくれぐれも娘を頼む、という意味が込められているのだろう。
 お金を受け取った受付嬢が、アンジェリカの目を見つめながら言う。
「あなたも冒険者を目指すのならば、彼らの行動から目をそらさないこと。そして、決して足手まといにならないこと。ただ守られているだけじゃ修行にはならないわ。覚悟を持って臨みなさい」
 受付嬢の言葉に、アンジェリカが真剣な表情でうなずく。
「それから、もうひとつ」
 一つ息を吸ってから、一言一言をかみしめるように言う。
「決して、死なないこと。それが冒険者にとって、一番大切なことよ」
 うなずいたアンジェリカの瞳は、決意と希望に満ちていた。

●今回の参加者

 eb2045 アズリア・バルナック(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4683 円 旭(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)
 ec4989 ヨーコ・オールビー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

リチャード・ジョナサン(eb2237)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文


「まずは‥‥アンジェリカさん、着替えてください」
「‥‥へ?」
 元馬祖(ec4154)の出し抜けな言葉に、アンジェリカの表情が固まる。
「ああ、いえ。おかしな意味ではなくてですね。あなたの服装は、冒険をするのにはふさわしくないと思うのです。こちらは私から差し上げますので」
 そう言って馬祖は荷物から旅装束やら保存食やらを取り出し、アンジェリカに差し出す。
「で、でも、もらうなんて悪いよ‥‥」
 あわてて首を振ったアンジェリカに、馬祖は優しく笑いかける。
「いいのですよ。私にはふさわしい装備がありますから。あなたもそのうちにふさわしいものを見つけるでしょうから、それまでの仮の装備に使ってください」
 馬祖の言葉に、アンジェリカがうれしそうにうなずいた。
「あ、でも剣はいらない。‥‥これがあるから」
 短剣を渡そうとした馬祖を制して、アンジェリカは腰に吊るした剣に手をやる。父クライドが、彼女のために特別に作った細身の剣だ。
「ねぇ、嬢。この荷馬車なんだけど」
 親しげな口調で声をかけたのは伏見鎮葉(ec5421)。前の依頼で、彼女とは顔なじみだ。
「荷台のところを全部麦藁で覆ったらどうかと思うんだけど」
「麦藁? どうしてそんなことするの?」
 不思議そうな顔をしたアンジェリカに、鎮葉が説明する。
「武具を運んでいることがあからさまだと、野盗やらオーガやらに狙われやすいんだ。武具は高価だし、利用価値もあるからね。だから、大したものを運んでないように、偽装するのさ」
「ただ上から藁を乗せるのではなく、簡単に引っぺがせるように途中で藁を軽く編んでおくのがいいですね。密輸や何かと間違えられても厄介ですから。検問なんかがあったときには偽装をはがして、正直に野盗対策だと説明するわけです」
 理路整然と言ったのは円旭(eb4683)。アンジェリカは、感心したように何度もうなずきながらやり取りを見ている。
「それなら、私たちも普通の商人に見えるように偽装してはどうですか?」
 馬祖の提案に、鎮葉は静かに首を横に振った。
「それはしない方がいいと思う。荷を偽装してローリターンな獲物だと思わせても、私たちが偽装していたら護衛のいないローリスクな相手だとも思われかねない。私たちは護衛らしくして、ハイリスクローリターンな獲物だと思わせた方が得策だと思うわ。ま、護衛が固いってことから荷物の偽装を見破る相手がいるかもしれないけど、そこまで頭の回る相手ならむしろちゃんと戦える装備を整えておかないと危ないだろうし」
「そうですね。私などはいかにも護衛らしく振舞って襲撃者の注意を自分に向けさせるように努めようと思います」
 穏やかに言ったのはジャイアントのソペリエ・メハイエ(ec5570)だ。
 実は一連のやり取りは、アンジェリカのためになるようにとあえて聞かせているものだったりする。思惑通り、アンジェリカは感心して熱心に聞き入っている。
「クライドはんに野盗の出やすそうな場所聞いてきて、地図にチェックしといたで! ほな、出発しよか!」
 あわただしく走ってきたのはヨーコ・オールビー(ec4989)。手には、目的地までの手作りの地図を握りしめている。
「冒険者って、出発する前からすごいんだなぁ‥‥」
 思わず呟いたアンジェリカに、ヨーコはにっこりと笑いかけた。
「そや、出発前から冒険は始まってんねん!」
「冒険者は、段取りが八割を占めています。計画段階でほとんどが終わっていることが理想ですね。残りの二割は計画通りに進めること、不慮の事態に対処することに気をつけるんです」
 円旭が持論を説く。アンジェリカは終始、感心しきりな様子だった。


 ぱちぱちと火の爆ぜる音だけが響く、静かな夜。
 無事に目標以上の距離を進んだ一日目の夜、一行は木陰で野営をしていた。焚き火を囲んで見張りをしているのはヨーコと鎮葉、アズリア・バルナック(eb2045)の三人。アンジェリカは鎮葉の隣で寝息を立てている。
「あたしも見張りをする!」と主張する彼女を、「体力残して、足手まといにならないようにするのが嬢の役目だからね」と説得して寝かしつけたのは鎮葉だ。
「アズリアはん、なんや無口みたいやけど、大丈夫か?」
「いや‥‥心配には及ばない。私はあまり口がうまくないからな」
 ヨーコの言葉に、アズリアは笑ってみせる。本当は体調が芳しくないアズリアの顔は蒼白だったが、焚き火の朱に紛れてヨーコ達にはわからない。
「アンジェリカはんやないけど、うちもみんなの冒険の心得とか聞いてみたいと思うんやけど」
 ヨーコに尋ねられ、鎮葉が口を開く。
「私は、好きで冒険者やってるからね。『冒険者やりたいなら、本気でやりたい理由を見つけて、それにふさわしい努力を重ねてからやること』なんて前に嬢には言ったけど、あれは自分に言い聞かせたようなものね」
「私の場合は騎士だから、冒険者とは少し違う部分もあるが‥‥」
 そう前置きして、アズリアも話し始める。
「私の家は代々騎士の家系だが跡取りの男子が生まれず、養子で取った弟は異種族であるハーフエルフと恋をして駆け落ちしてしまい、家を守るのはもう私しかいなくてな。私が騎士になるしかなかったんだ‥‥だが後悔はしておらぬ。こうして様々な出会いや縁を守ろうとする気持ちは、使命に生きる私の心の奥の孤独を取り去ってくれる」
「そっか。うちはまだまだ心得、なんて言えるほどやないんやけど。敢えて言うなら『日々これ精進』ってとことやろか」
「まったく、その通りだな」
「そうだね」
 ヨーコの言葉に、二人はうなずく。アンジェリカだけじゃない。彼女たちの冒険も、まだまだ始まったばかりなのだ。


 二日目の夕方。あと少しで目的地に着くという頃合だった。
「そこの荷物を俺たちによこしな。大人しくしてれば悪いようにはしないぜ。特に女たちはな!」
 無精ひげを生やした中年の男が、後ろにいる仲間たちと下卑た声で笑い合う。手には抜き身の鉈を構えている。
「ふぅ。せっかく偽装とかしても、本当の馬鹿には効果がないのが難点ね」
 ため息をついて言った鎮葉の言葉に、野盗どもは色めきたった。
「誰が馬鹿だ!」
 リーダーらしい無精ひげの男をはじめ、全員が刃物を抜き放って振り上げて見せる。その数、七人。数の上ではアンジェリカも含めた冒険者たちと同じだ。
「相手は女子供ばかりだ。痛めつけてやれば、ひぃひぃ泣いて許しを請うことになるぜ!」
「‥‥己の死よりも誇りと名誉を守るのが騎士‥‥この命尽きるまでわが生き様を見せてくれよう」
 アズリアが鋭い視線で野盗をにらみつけながらロングソードを抜き放つ。
「私が相手になります」
 ソペリエが大きな体を一歩踏み出してみんなを守るように槌矛を構える。
 その後ろに日本刀を手にした鎮葉と木剣を構えた円旭が立ち、ヨーコと馬祖はアンジェリカに寄り添うようにしてそれぞれの武器を握りしめている。
「あ、あたしも戦う!」
 そう言って剣を抜き放ったアンジェリカだが、その足は小刻みに震えている。その肩に、ヨーコがそっと手を置いた。
「アンジェリカはんは、自分の身を守ることだけを考えたらええ。受付の人に言われたこと、忘れたらあかんで?」
 冒険者にとって一番大切なことは、決して死なないこと。その言葉を、アンジェリカは胸に刻みつける。
「なめるなぁ!」
 痺れを切らして鉈を振り下ろした野盗の一撃を、先頭のソペリエが盾で易々と受け止める。手下の男たちもソペリエやアズリア、鎮葉に殺到するが、ソペリエとアズリアは盾で受け止め、鎮葉は軽々と身をかわしてみせる。逆に、反撃を開始した前衛たちの攻撃は野盗どもの装備を貫いて傷を与えていく。
「うちもやるで。安らかな眠りを!」
「後衛の護りは、僕が!」
 前衛を迂回してアンジェリカを襲おうとしていた野盗の一人が、ヨーコのスリープの魔法でへなへなとその場にへたり込んで寝息をたてはじめ、駆け寄った円旭の一撃を頭に受けてそのまま昏倒する。
「あれ? 馬祖さんは?」
 アンジェリカがあたりを見回す。つい先ほどまで彼女の隣にいたはずの馬祖の姿が見えない。
「うぎゃぁ!」
 ソペリエと武器を交えていたリーダー格の無精ひげの男が突然悲鳴を上げ、前のめりに倒れた。白目をむいて気絶している。
 その背後にゆっくりと現れたのは、馬祖の姿だ。透明化の指輪を使ってリーダーの背後に回り、その急所に手刀を叩きこんだのだ。
「いまだに武道家だった頃の癖が抜けないのが困りものでして。早く一人前のウィザードになることが当面の目標です」
 そんなことを言って小さく舌を出す。
 リーダーを失った野盗どもが降伏するのは、時間の問題だった。

「お、終わったの?」
 アンジェリカが呟いた。ひどく緊張していたのだろう。糸が切れたようにその場に座り込んでしまう。
「ああ。嬢はよく戦った」
 鎮葉が言葉を掛ける。
「あたし、何にもしてない‥‥」
「生き残ったじゃないか。それで十分。ぶっちゃけ、嬢は戦えなくてもいいんだよ、特に今回なんかは」
「私もまだ冒険者としては駆け出しですから偉そうなことは言えませんが」
 戦っていた時とは別人のような穏やかさで口を開いたのはソペリエ。
「自分が出来る事をする。自分に与えられた役割を全力でこなしていく。その積み重ねで冒険者は成長してくものだと、私は思いますが。ご判断は、アンジェリカさんにお任せします」
「冒険者はな、人の話を聞くのが重要やねん。特に、親身になってくれる人の意見は要チェックや。ここの皆、ええこと言ってくれたやろ? おとんの意見も同じことやで。将来何になるにしろ、おとん泣かすような真似したらあかんよ。‥‥ま、これも冒険者の心得の一つやな」
 アンジェリカはしっかりとうなずく。
 彼女の胸に今回の様々な経験と言葉が刻まれたことは、間違いない。