【夜空の女騎士】うちのリス知りませんか?

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月28日〜12月03日

リプレイ公開日:2008年12月05日

●オープニング

 昼下がりの冒険者ギルド。
 カウンター越しに受付嬢と話しているのは、全身を真っ黒な鎧に包み、美しい黒髪を無造作に垂らした若い女性。「夜空の女騎士」の異名をとる下級貴族のアヴリル・シルヴァンだ。
「すまない。少し頼みたいことがあるのだが」
 秀麗な顔に似合わない無骨な口調でアヴリルが言う。
「はい、アヴリルさん、どんなことでしょう?」
「近くの村の娘に頼まれたのだが。逃げ出したペットを探してほしいというのだ」
 自分を支えてくれる周囲の住民たちに強い義務感を持っていて、そして頼まれたことは断れないのが、彼女の性格だ。
「ペットというと‥‥犬、それとも猫ですか?」
「リスだ」
「リス?」
 アヴリルの言葉に、受付嬢は目を丸くする。犬や猫ならともかく、リスを見つけるのは至難の業だ。キャメロットのような都会はともかく、少しでも木の生えた村へ行けばリスなどはいくらでもいる。そもそも、どうやってリスの個体を見分ければいいのか。
「そのリス――テト、というのだが――には鈴の付いた青い首輪をしてあるらしい。生まれつき足が少し悪いようなので、それほど遠くには行ってないのでは、というのが飼い主の考えだ。特定の種類のドングリが好物らしいので、それを使っておびき出せればいいのだが‥‥」
「なるほど、それなら少しは見つけやすいかもしれないですね」
「本当か? なんとしても見つけてやりたいのだ。協力を頼む」
 受付嬢の言葉に、アヴリルがぱっと顔を明るくする。
「実は、飼い主の娘‥‥シーラという五才の女の子なんだが‥‥半月ほど前にテトがいなくなって以来、ずっと泣き暮らしているらしいんだ。私も目の前で泣かれてしまって‥‥」
 困ったような表情のアヴリルの中に、彼女なりの不器用な優しさを見て、受付嬢は思わず微笑んだ。
「ええ。ぜひ見つけてあげたいですね。張り紙を出しておきます」

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ec3246 セフィード・ウェバー(59歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec4114 ファビオン・シルフィールド(26歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4717 神名田 少太郎(22歳・♂・志士・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

小 丹(eb2235

●リプレイ本文

●シーラ宅
「テトを探して! テトはあたしの大事なおともだちなの! テトがいないと、あたしは、あたしは‥‥えーん!」
 やってきた冒険者たちに向かって一生懸命に話しながら、5才のシーラはエメラルドのような大きな瞳から大粒の涙を流した。
「え、あ、な、泣かないで、ほら、お兄ちゃんたちが一緒に探してあげるから‥‥あ、アヴリルさーん!」
 あわてた声でアヴリルに助けを求めたのは、神名田少太郎(ec4717)だ。普段は冷静な判断を心がける彼も、子供の涙には勝てない。
「あ、いや、その、だな。頼むから泣きやんで‥‥わ、私に助けを求めないでくれ」
 振られたアヴリルも困った表情だ。
「私たちでテトを探そうと思う。それにはシーラ、君の協力が不可欠なんだ。協力してくれるか?」
 目の高さが合うようにシーラの前にしゃがみこんで、オイル・ツァーン(ea0018)が言う。彼の真摯な態度に、シーラも泣くのを止めて真剣な表情でうなずいた。
「あ、シーラちゃんのお家で何か無くなってません? もしかしたらお家のそばにいるかもしれませんね」
 少太郎が指をパチン、と鳴らして言う。
「‥‥私も思ってた。最初はシーラのお家の中とか探そうと思う。‥‥シーラも一緒に探す? ‥‥なら、これ」
 そう言ってレン・オリミヤ(ec4115)がシーラのために暖かそうな帽子とマフラー、手袋を差し出すと、シーラはようやく笑顔を見せた。

●村の中
「小さい動物だからな。根気よく探していくしかない」
 ファビオン・シルフィールド(ec4114)がそう言うと、セフィード・ウェバー(ec3246)がうなずく。
「鈴のついた首輪をしているそうですから、近くで動けば音が聞こえると思いますが、鈴も身体にあわせて小さいでしょうから、注意深く探すしかありませんね」
 シーラの家の中ではテトを見つけられなかった冒険者たちは、村の中を歩き回っていた。さすがに外を連れまわすわけにもいかないので、シーラは留守番だ。
「グスタフにテトが使っていた毛布の匂いを嗅がせて、テトがどちらに行ったのか調べてみたんだ」
 オイルが言う。グスタフというのは、彼のペットの犬のことだ。ちなみに今は、テトを怯えさせないようにとの配慮からグスタフはシーラの元に置いてきている。今頃はシーラの遊び相手になっているはずだ。
「ずいぶんと時間が経ってしまっていてはっきりとしたことはわからなかったが、どうもテトはシーラの家から北の方へ向かったらしい」
「テトがいまも村の中にいるのかどうかは、わからない。‥‥でも、足がよくないって言ってたから遠くじゃないはずだから」
 つぶやくように言ったのはレンだ。
「近場に、餌場になりそうなところはありますかね?」
「好物だという種類のどんぐりの木が多く生えているところがあれば、そのあたりを重点的に探したいな」
 セフィードとオイルが口々に言うと、アヴリルが口を開いた。
「ああ、それならこの村の北に、小さな林があるな。その種類のどんぐりが多く生えているといえば、この村ではそこしかない」
 彼女の言葉で、冒険者たちの向かう場所が決定する。
「それなら私はベゾムで上空から探すことにしましょう」
 そう言ってセフィードが箒にまたがって空へ舞い上がる。彼が飛び立ったのを確認して、アヴリルが言った。
「では、私たちは地上から探してみることにしよう」

●どんぐり林
「‥‥村の子供たちに聞いたら、鈴付けたリスを、この辺りで見たって」
 林に向かいながら聞き込みをしていたレンが、この辺りを遊び場にしている子供たちから目撃証言を得た。
 この林にテトがいるに違いないと確信を得た冒険者たちは、上空と地上から、林に目をこらす。
「う〜ん、足が悪いなら、あまり木に登らず穴を掘っているかもしれませんね」
 少太郎が言うと、オイルも同意する。
「身を守る為に身を潜めている可能性もあるな。木の洞や他の動物が作った後放棄した巣穴などを利用しているかもしれない。そうしたところを重点的に探してみよう」
「逆に穴か何かに落ちて、動けなくなっているのかも」
 ファビオンもそう言って、地面に目をこらす。
「‥‥なかなか、見つからないな」
 しばらくしてアヴリルが思わず、といった感じで呟いた。それほど広くないとはいえいくつもの木の茂った林の中で、小さなリスを見つけるのはなかなかに困難だ。
「仕方ありませんね。トラップを仕掛けましょう」
 少太郎が言うと、アヴリルが眉をひそめる。
「トラップ?」
「おいおい、テトはペットだぞ。捕まえるにも、余計な怪我やストレスはないに越したことはないだろう」
 心配そうな顔で言ったのはオイルだ。そんな二人をよそに、少太郎は自信満々に胸を張ってみせる。
「大丈夫ですよ。僕に任せてください」

 冒険者たちは茂みに隠れ、少太郎の作った罠を固唾をのんで見つめていた。
 地面にテトの好物のどんぐりが撒かれ、その上には斜めに傾いた木の籠。それを支えるのは一本の木の枝で、木には紐がくくりつけられている。紐は地面を長く這い、その先は少太郎の手に握られている。
「テトがどんぐりを食べにやってきて、ちょうど籠の真下に入ったときにこの紐を引けば、籠を支えていた木の枝が倒れて、落ちてきた籠でテトを閉じ込める、といったわけです」
「なるほど。うまくいけば、全く怪我をさせたりせずに捕まえられるわけですね」
 得意気に説明する少太郎に、セフィードが感心した声を上げる。
「問題は、テトがえさにおびき寄せられてくれるか、ってことだな。‥‥なにせ、ここはどんぐりだらけだからなぁ」
「どんぐりより、あの毛布に寄ってきてくれるかもしれないな。テトにとって、シーラの香りがする懐かしいものだろうし」
 ファビオンの言葉に答えたのはオイルだ。オイルの提案で籠の下にはどんぐりと一緒に、テトが寝床にしていた毛布が置いてある。
「‥‥きっと、来る。テトも‥‥シーラを心配してるって、思う‥‥」
「ああ、きっとそうに違いない」
 レンの呟きにアヴリルが優しい声で応える。二人はほんの少しだけ視線を交わし、わずかに微笑みあった。人見知りの強い二人だが、それだけに一度通い合った絆は強い。
「‥‥聞こえる。鈴の音‥‥」
 レンの言葉に、一同は一斉に静まり返った。
 ちりん。
 澄んだ音ともに現れた小さな影は、すばしっこく籠の下に入り込んだ。
「捕まえましたよ!」
 少太郎が紐を引くと木の枝がずれ、小さな影は見事籠の中に囚われたのだった。

●捕えたのは
「これは‥‥」
「一匹じゃない?」
「‥‥赤ちゃん、いる」
「一、二‥‥二匹いるぞ」
「テトの子供でしょうか?」
 冒険者たちが籠の中を覗き込んで口々に言う。
 籠の中に捕らえられていたのは、一匹の大人のリスと、それにしがみつくようにして、小さな赤ん坊が二匹。大人のリス――おそらくは、これがテトだろう――は、赤ん坊を守るようにして冒険者たちを睨みつけている。
「テトは、父親だったんですね」
「‥‥ううん、違う」
 セフィードの言葉に、レンが首を振る。
「テト‥‥ママの顔、してる」
「メスだったとは‥‥知らなかった」
 驚いた顔で言ったのはファビオンだ。
「なるほど! 子供を産むために、シーラちゃんのところを離れたんですね!」
 少太郎がパチン、と指を鳴らして言う。
「さぁ、あとはアヴリル、あなたからテトをシーラに返してあげるんだ。元はアヴリルが頼まれたことだし、『冒険者に頼む』という手段を選んだのもアヴリルだ。これはあなたの手柄だろう」
「手柄だなんて‥‥みんなには、本当に感謝している」
 オイルの言葉にとんでもない、と首を横に振って、アヴリルが答える。
「そうやって人に頼れるのは自分の分を弁えている証だし、人に頼られるのは信を集めている証だ。‥‥いい領主になれるといいな」
 優しげな笑顔を浮かべたオイルの言葉に、アヴリルが頬を赤らめてうなずく。
「‥‥ありがとう」
「それにしてもかわいらしいリスですね。ちょっとスケッチしておきましょう。‥‥あれ、この仔は?」
 紙とペンを取り出そうとした少太郎が、声を上げる。彼の足元にリスの赤ん坊がもう一匹。ひときわ小さいその子は、母親であるテトからはぐれてしまっていたようだ。
「もしかしたら、育児放棄されてしまったのかもしれないな。リスにはよくあることみたいなんだ。かわいそうだが、体が弱いと自然界では生きていけないからな‥‥」
 オイルの言葉に、アヴリルははっと顔をこわばらせて、小さな小さな赤ん坊リスをみつめた。親に見放されながらも懸命に体を動かそうとしているその姿に、自分の孤独な姿を重ね合わせているのかもしれない。
「この仔を私に任せてもらえないか、シーラに頼んでみようと思う」

 ステラ、と名付けられたそのリスが、後に【夜空の女騎士】のかけがえのない相棒となることを、その時はまだ、誰も知らなかった――。