【黙示録】焼き尽くす悪意

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 94 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月09日

リプレイ公開日:2008年12月08日

●オープニング

●デビル防衛線
 ――イギリス各地でデビルの出現報告が届くようになる。
 村や町で騒動を起こす事件もあるが、共通する点が一つ確認された。
 一部のデビルが北海に向けて収束しているらしい。
 裏付けるようにキャメロットより北で出現情報が多くなり、メルドン近隣に集中しつつあった。
「王よ。黙示録の時が近づいております」
 マーリンは静かに告げる。
「地獄のデビル共が動き始めています。静かに。だが確実にその爪を伸ばして参りましょう」
「北海の騒動が要因か元凶か定かでないが、デビルに集結される事は勢力拡大を意味する。北海のデビルと思われる男の早期探索と、北海付近に進軍するデビルの集結阻止が重要となるか」
 アーサー王は王宮騎士を通じてギルドに依頼を告げた。

「王宮からの依頼は北海に向かうデビルの早期発見と退治だ。我々は北で防衛線を張り、デビルと対峙する事になるだろう。既に向かったデビルを追っても仕方ない。今は僅かでも勢力を拡大させない為にも、冒険者勇士の協力を期待する」
 幸いというべきか、円卓の騎士により、北海のデビルと思われる男の探索依頼は出されている。王宮騎士団は北海地域に展開しており、日々出現し続けるデビルと奮戦中との事だ。
 つまり、冒険者達は最前線に陣を置き、デビルを探索、退治する事が目的となる。
「ここでデビルの動きを伝えよう」
 デビルの動向には大きく二つに分類された。
 北へ向かうデビルと、近隣の村や町に留まり、騒動を起こすデビルである。
 推測に過ぎないが、デビルにも嗜好というものがあるらしい。
 しかし、北海に向かわない保証はないのだ。



 そこは、キャメロットから街道を北へ三日ほど行ったところにある小さな村。
 集落の周りを麦畑が囲み、水路には水車がからからと回る、これといった特徴もない静かな村だ。
 そこに今、生命あるものを憎む静かな悪意が暗い炎を灯していた――。

「オリヴァーんとこの穀物蔵が燃えているぞ! 畑に延焼する前に壊してしまわないと! 手の空いている男はすぐに来てくれ!」
「またかよ! これでもう四件めだぞ! いったいどうなってるんだ?」
 夕焼けに染まる静かなはずの村に、人々の怒号が交錯する。
 日暮れ前の村は夕焼けの優しい橙色ではなく、暗い紅に彩られていた。村の中央あたりにある穀物蔵が、真っ赤な炎をあげて燃え上がっているのだった。
「誰か巻き込まれたやつは?」
「幸い、いないみたいだ。でも穀物は全部燃えちまった」
「おい、あっちで何か見つかったみたいだぞ! どうやら‥‥デビルらしい!」
「デビル? な、なんだってこんな村に?」
「知るかよ! でももしかして‥‥そいつが放火したのかも!」
 村人たちの怒鳴り声はやまない。
 荷馬車を連れて穀物の仕入れにやってきた商人のジュリアン・アンダーソンが村を訪れたのは、そんな時であった。


「お姉さん、大変なんだ!」
 日暮れ前のギルドに息せき切って駆け込んできたジュリアンが、受付嬢に向かって叫ぶ。
「あら、ジュリアン君、ちょっと落ち着いて! いったいどうしたっていうの?」
 受付嬢が差し出したコップの中の水を一気に飲み干して、ジュリアンが口を開く。
「穀物を仕入れに行った村で、たまたま火事があったんだ。で、調べていたら焼け跡近くで、デビルが見つかって。どうやらそいつが放火したんだって!」
「デビルとは穏やかじゃないわね‥‥そのデビルはどうしたの?」
「デビルといってもそいつは単なるインプだったから、村人たち総出で倒すことができたんだ。だけど、その後にもまた火事があって‥‥どうやら、他にもデビルがいるらしいんだ」
 ジュリアンの話を整理すると、こうだ。
 キャメロットから北に三日ほど行ったところにある小さな村で、ここ数日で原因不明の火事が多発している(ジュリアンが村を出る頃には、合計で六件、どれも三日以内に起こっている)。いずれも、誰もいない小屋や倉庫、家屋が出火しており、怪我人や死者はいない。
 四件めの時に焼け跡近くで一匹のインプが見つかり、村人たちによって倒されている。しかし、その後も二件の火事が起こっており、他にもデビルが潜んでいるのではないかと、村人たちは憔悴しきっているとのこと。
「たまたまそこに通りかかってしまったのも何かの縁だし、放っておくわけにはいかないと思うんだ。だから、冒険者さん達の力を借りようと思って‥‥」
 いつになく真剣なジュリアンの言葉に、受付嬢も深くうなずく。
「わかったわ。すぐに冒険者を派遣するようにします。ジュリアン君、ありがとう」
 礼を言って帰らせようとする受付嬢に、ジュリアンは首を横に振り、まっすぐに彼女を見据えて口を開く。
「俺も行くよ」
「ジュリアンさん?」
「俺も商人の端くれだからさ。最近イギリスの雰囲気が何かおかしいことくらい気付いてる。色んなところにデビルがあらわれてるって話も聞くし。俺はイギリスが大好きだし、ここで商人をやっていこうと思ってるから、それは他人ごとじゃないと思うんだ」
 驚くほど大人びたジュリアンの表情に、受付嬢は思わず言葉を失った。
「それに、俺は冒険者さん達を信頼しているからね。今回の依頼は俺の護衛も兼ねて、ってことでいいでしょ? できれば美人のおねーさん達に守られる、っていうシチュエーションを、俺は期待してるんだけど‥‥」
 最後に付け加えたお約束のセリフに、受付嬢は苦笑しながらうなずくのだった。

●今回の参加者

 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


「正直、今世界中で一気に事態が動き過ぎてバタバタしてるからね。こういう風に商人経由でも情報が入ってくるのは有難い」
 冒険者ギルドでの作戦会議。最初に口を開いたのは伏見鎮葉(ec5421)だ。
「ここは俺たちの生きてるイギリスだからね。デビルたちなんかの好きなようにはさせないよ」
 ジュリアンが誇らしげに答える。まだ若いながら、随分と商人という仕事に対する自覚が出てきたようだ。
「ところで、デビルの目的は何なんだろう?」
 尋ねたジュリアンの言葉に、冒険者たちが一斉に考え込む。
「ジュリアンが最初に放火を知った時、燃えていたのは穀物蔵。これから冬の時期、蓄えが燃やされたら厳しいはず。食料無いのも厳しいし、売るものがなければ必需品を買うこともできないからね。それが狙いかな?」
 鎮葉が腕を組みながらつぶやく。
「冬の備えもそうだけど‥‥春用の種もみも大事な問題だからね。そのあたりに狙いがありそうだな」
 目立つ橙色のローブに身を包んだジーン・インパルス(ea7578)がうなずく。
「人の食料を奪うインプ、ですか‥‥そこらへんの力押しだけのデビルよりも厄介ですね。‥‥まぁ、村人のために、たまには善い事でもするとしますか」
 後半は口の中だけで呟いて、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)が言う。
「ジュリアン、出来る範囲でいいけど、村へ持ち込む食糧とか種もみとか用意できたら持ってきてもらいたい。デビルの狙いがそれなら誘き出しに使えるし、そうでなくとも役に立つ」
「村の人たちも、食糧がなくなって困るだろうしね」
 鎮葉とジーンが言い、ジュリアンがしっかりとうなずく。
「任せておいてよ! 親父から言われているんだ。『困った時はお互い様。困っている人への協力は惜しむな』ってね」
『あ、そうだ、ジュリアンさん、お願いがあります』
「わぁ、頭に声が」
 突然ジュリアンの頭の中に声が響き、驚いた声を上げる。
『私です、私』
 声の正体は、リーマ・アベツ(ec4801)がスクロールを用いて使ったテレパシーの魔法だった。イギリス語が話せない彼女だが、これを使えば意志の疎通が可能だ。
『小麦粉を一袋用意してくださいますか?』
「小麦粉?」
『もしかしたら、デビル退治に役に立つかもしれないのです』
 リーマの言葉に、ジュリアンは理解できないままにうなずいた。


「この三日でまた三件、ですか。狙われている時間帯は、ほとんどが夜ですね。日没寸前から夜明けまで、というところです」
 村にたどりついて報告を聞き、フィーナが確認する。
「さっき現場を見てきたけど、デビルの仕業だってことは間違いないみたいだな。どこにも、奴らのものらしい足跡が残ってた‥‥しかも複数だ」
 そう言ったのはジーン。
「残っている食料庫を重点的に張り込もうと思ってたけど、倉庫や人家も燃えているみたい。共通しているのは‥‥人気のないところ、か」
 鎮葉が考え込む。
『ほぼ同時に複数の場所が放火されていることもあるみたいです。デビルの数は思ったより多いのかも‥‥』
 テレパシーを使って、リーマも会話に参加している。
「あ‥‥ねぇ、みんな。これって‥‥」
 口を開いたのはさっきから村の大まかな地図を書いていたジュリアンだ。
「被害に遭った場所、村の南端から順に、辿っていくと‥‥」
 そう言いながら彼は、手製の地図を指し示していく。
「徐々に、北に向かってる、みたいですね‥‥」
「でも、なんで?」
「さぁ‥‥」
 口々に言うが、誰も疑問に答えられない。
「とにかく、夕方から早朝まで、村の北側で人気のないところを張り込むのがよさそうですね」
 フィーナの言葉に、みんながうなずく。
『念のため、北にある食料庫に穀物を運びこんで、誘き出してみましょう。発泡酒に目がないデビルもいると聞きますし、それも置いておきます』
「見回りには村人のみんなにも協力してもらおう。指揮は俺がするよ」
 リーマとジーンがそれぞれに言う。
「デビルどもはもともと遠まわしな手段を使っているわけだし、既に仲間のインプが一体やられてる。発見されたら、戦わずに逃げるかもしれないね。あらかじめ追いかける方向を決めておいて、一か所に追い込むようにしておこう」
 鎮葉が提案する。
 作戦が決まってからの冒険者たちの行動は迅速だ。一瞬のうちに全員が動き始めたのだった。


「こっちにいたぞ!」
「まったく、あとからあとからでてきますね」
『こちらです!』
「とっとと消えやがれ!」

 夜の村に、人々の怒声が響き渡る。
 人気のない怪しいところを中心に、冒険者と村人の総出で張り込みを行っていたところ、思ったとおりあちこちでインプが発見された。所々で上がった火は、駆け付けたジーンがことごとく消していく。インプ達は正面から戦うのが目的ではなかったらしく、人間に見つかると一目散に逃げていった。あらかじめ決めていた通りに巧みに村の広場へ追い込んでいく冒険者たち。
「さて、もう逃げられないよ」
 鎮葉がインプ達に向けて言う。集められたインプは八匹。その周りを、四人の冒険者が取り囲んでいる。
「ヒ、ヒィ。ネルガルサマ、タスケテ!」
「ア、コラ! ソノナマエハ、イッチャイケナインダゾ!」
 耳障りな声で、インプ達がささやき合う。
「気を付けてください! 集まったインプは八匹ですが、ここには呼吸の反応が九つあります」
 ブレスセンサーを使ったフィーナが言う。
「え、どういうこと、八匹なのに九つって‥‥」
 ジュリアンが首をひねる。
『こういうことです!』
 リーマが、抱えていた小麦粉の袋を破り、インプ達の中央あたりに向かって投げつけた。もうもうと舞う白い煙。
「あ、デビルがもう一匹!」
 ジュリアンが叫ぶ。粉まみれになったインプ達に混じって、誰もいなかったはずの空間にインプより幾分大きな生きものの粉をかぶった輪郭が、はっきりと見えた。
「チッ、コシャクナ!」
 インプ達よりはいくらか低めの声とともに、輪郭だけだった姿が露わになっていく。インプに似た姿だが、ひときわ目を引く大きな黒い翼。そしてその体を包むのは、燃え盛る炎。インプの言った『ネルガル』というのがこのデビルの名だろう。
「姿を隠すのだけが取り柄のデビルが、姿を現したらもはや唯のザコ。心おきなく倒して差し上げますわ」
 フィーナの言葉で、ネルガルの顔が怒りに歪む。
「オマエタチ! ヤッテシマエ!」
 デビルの言葉と同時に、冒険者たちも動いていた。
 初めに動いたのは鎮葉。接近戦では味方の魔法の邪魔になると判断した彼女は魔力を帯びた日本刀「無明」を抜き放って、ソニックブームをインプに向けて放ち、これを切り裂く。
 リーマはレミエラの力を解放して範囲を広げたグラビティーキャノンで、複数のインプにダメージを与えている。
 同じく、フィーナも範囲化したライトニングサンダーボルトを放つ。集まっていたインプの半数が重傷を負い、戦線を離脱する。
「コレデモ、クラエ!」
 怒りに身を任せたネルガルが、魔法を唱える。瞬間、ジーンの足もとから炎の柱が噴き出し、彼の体を包む。だが、その炎が彼の体を焼くことはなかった。
「残念。俺は、炎には強いのさ」
 ジーンが笑う。あらかじめかけていたレジストファイヤーの効果だ。
「ク、クソッ!」
 ネルガルの表情が悔しさに歪む。
 戦況はすでに、冒険者側に傾いていた。残ったインプ達が一斉にブラックフレイムを放ち、フィーナ、鎮葉、リーマにそれぞれかすり傷を負わせるが、それが最後の抵抗だった。
 フィーナとリーマによる再度の魔法攻撃によってインプたちは壊滅した。唯一残ったネルガルが鋭い爪を振るってジーンに軽傷を負わせたものの、鎮葉の連撃とフィーナのウィンドスラッシュによって満身創痍となり、ついにはリーマのストーンの魔法で物言わぬ石と化したのであった。


 その後、リーマの魔法などを駆使して村中を探しまわったが、どうやらこの村のデビルはすべて退治したようだ。
 穀物の損失が思っていたほど多くなかったのと、ジュリアンが持ってきた穀物を村に無償で提供したおかげで、村は飢えることなく冬を越えることができそうだった。
「困った時はお互い様。また今度、村が元気になったらたくさん儲けさせてもらいますよ」
 ジュリアンはそんなことを言って、村の人たちに大層感謝された。
「しかし、商人の卵にはもったいない正義感だこと」
 鎮葉が感心した声で言うと、ジュリアンがにっこりと笑う。
「へへ。俺にできるのは商人だけだからね。商人として、できるだけのことをやりたいな、って」
「そっか。ま、あんたが選んだ以上、応援するだけだけどさ」
「鎮葉さんみたいな美人に応援されたら、頑張っちゃいますよ!」
「はいはい」
 ジュリアンの軽口に苦笑しながら、鎮葉は思う。この世界で戦っているのは、冒険者たちだけではないということを。
「それにしても‥‥デビルどもはいったいなぜ、北へ向かおうとしているのでしょうか」
 フィーナが呟くが、答えは出ない。
 世界を巻き込む未曾有の動乱は、まだ始まったばかりだった――。