【黙示録】消えた警備船

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月01日〜12月11日

リプレイ公開日:2008年12月09日

●オープニング


 神に仇なす者たちの死の足音が鳴り響く。
 それは、破壊と悪徳を刻む足音か。
 黙示録の時、来たれり‥‥。
 なれど今、それを知る者は少ない。
 ただ、感じるのみ。闇の訪れを‥‥。

 メルドンの壊滅以後、皮肉にも一時期静まりを見せていた北海は最近再びその牙を人々に向け始めていた。
 増加する海難事故。犯罪者の激増。そして‥‥
「キャアア!」
 海洋モンスターの出現数と被害もまた増加の一途を辿る。
 街を破壊するもの。船を沈め、海を荒らすもの。人々を攫い、傷つけ、殺すもの‥‥。
 人々は噂する。
『奪え! 破壊せよ! 愚かなる神の子らにこの世の真の支配者が誰か思い知らせるのだ』
 その影にはいつも一人の『人間』の姿があると‥‥。

 冒険者ギルドに北海の異変を知らせる報が届けられたのは、王宮よりの来訪者の登場とほぼ同時であった。
「パーシ卿?」
 銀の鎧を纏った円卓の騎士パーシ・ヴァル
「やはり、北海からの事件が急増しているようだな‥‥」
 掲示板に張り出されつつある依頼を目で確かめると、パーシは係員の方を向きマントを翻すと
「これら依頼に仕事を追加したい。勿論、報酬は支払おう」
 真剣な顔で告げた。
「現在、メルドン近郊ではギルドにも届いているとおり海洋モンスターによる騒動が増加している。そしてメルドンで復興支援に従事している騎士からの報告によれば彼らを指揮する者の存在が確認されたそうだ。証言によるとその人物は黒髪、黒眼、体格のしっかりとした男性だ。年のころは中年から初老、というところらしい。船乗りの服装をしているので便宜上彼は『船長』と呼ばれている」
「パーシ卿‥‥それは‥‥」
 ギルドの係員は彼が言う特徴の人物を知っている。
 先にメルドンに現れ、自らを海の王と名乗り、海に消えたという人物と同一であろう。
 そして彼‥‥『船長』‥‥はパーシにとっては育ての親とも言える人物であった筈だ。
「海洋モンスターを指揮する者『船長』を見つけ出して欲しい。恐らくこれらの事件に姿を見せる可能性はかなり高いと思われる」
 いつもと変わらぬ表情と、顔つきで彼はギルドに来た理由を告げる。
 『船長』の所在調査と、可能であれば確保。
 それを冒険者に頼みたかったのだ。と。
 だが『彼』は神出鬼没。どこに出現するか解らないし、どこにいるのか手がかりも当然無いに等しい。
 だからパーシは先に届いた依頼、そしてこれから出る依頼にその人物『船長』の捜索という目的を追加する、というのだ。
「パーシ卿は‥‥お出にはならないのですか?」
 依頼を確認しながら係員は問う。
 元より神出鬼没はパーシの代名詞。今まで何か事件があれば誰よりも先に飛び出していった雷の騎士が今度に限って何故‥‥と。
「まあな。‥‥今回、俺は動かない方がいいようだから」
 頷きパーシは肩を竦め、笑って見せた。
「『彼』は俺を呪われた悪魔の子であると告げた。その事もあって‥‥いろいろ煩くてな。俺は当分城下から出ないと誓っている。まあ、成り上がりの辛い所さ」
 秘めた微笑。それに込められた思いに頷き係員は依頼を受理する。
 現在、イギリス各地でも異変が相次いでおり、北上していると思われるデビルも確認されていた。
「何故奴らが北の海に集いつつあるかは定かではないが、『船長』が今回の異常事態に関与している可能性は極めて高い。早急な事態把握が必要だ。よろしく頼むぞ。北海の‥‥ひいてはイギリスの平和の為に‥‥」
 かくしてパーシ・ヴァルは去り、冒険者に願いと祈りの込められた依頼が託されたのである。


 円卓の騎士パーシ・ヴァルの命を受けた若き王宮騎士が冒険者ギルドの扉を叩く。
「消えた警備船を探してほしいのです」
 そう告げた若き騎士、ルパートの言葉は悲痛に震えていた。
「これを見てください」
 そう言って彼は、一枚の羊皮紙を広げる。ところどころ破れ、水に濡れた跡も見られるそれは、判読するのも困難なほどだが、何とか読み取れる文字が示していたものは――。
「『北海海上にて「船長」を発見、引き続き、捜索に向かう』‥‥この、『船長』というのは‥‥」
 眉をひそめた受付嬢の言葉に、ルパートは静かにうなずいた。
「ええ、例の『船長』です。これを伝えた王宮騎士の警備船は伝書鳩で手紙を送った後、消息を断ちました。警備船の行方に、『船長』が関わっている可能性が高いと思います。この依頼は、イギリスの未来に関わるかもしれない重要なものです」
 受付嬢の瞳をまっすぐ見据え固い表情でそう告げたあとに、ルパートはふっと視線を落とす。
「‥‥船にはヴィンセントが‥‥私の一番の親友が乗っていたんだ。職業上、殉職は覚悟しているが、せめて‥‥せめて遺体だけでも回収して弔ってやりたい」
 低い声で独り言のようにそう言って、若き騎士は唇をかみしめる。
 国や世界を揺るがす大事件の前に、人一人の命が喪われていく、そのことがいかに重いことであるのか、ギルドの受付嬢はそれを今改めて感じていた。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec0317 カスミ・シュネーヴァルト(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

白鳳 多輝(ec2111)/ 琴乃宮 雅(ec3789

●リプレイ本文


 穏やかな海。
 一見すると、いつもと変わらぬ、恵みに満ちた美しき海原。けれど、僅かにうねる海面、遠くに沸き立つ雲、海鳥たちの甲高い声。そうしたごく普通の海の情景一つ一つに、ほんのかすかな、不安や恐れを感じるのは、神経が過敏になっているせいか、それとも――。
「ふははははは! 海洋のナゾを求め、いざ出航なのだ〜‥‥」
 小型船の舳先に立って威勢よく言ってみたヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)だったが、周りからの反応はない。
 シーン、と静まり返る船上。行方の分からない船を探す依頼だ。もう慣れたこととは言え明るい気持ちにはなれない。
「年月に変わったのは己だけ。未だにキャメロットはあの頃のまま‥‥旅先の 岬に立ちて 思うこと 美しくない 我の生き様‥‥」
 海面をじっと見つめながら、オラース・カノーヴァ(ea3486)がひとりごちる。異界より戻ってきてからまだ日が浅い彼には、久しぶりのイギリスの様子に思うところがあるのだろう。
「騎士たちの生存の可能性は正直かなり低いだろうな。何度同様の苦さを味わってきただろうか‥‥だが、だからこそ、最後まで望みを捨てるわけにはいかないのだ」
 決意を込めた表情で呟いたのはルシフェル・クライム(ea0673)。
「世界が大きく動いている気がします。それを見極めたいものです」
 ペガサスに跨って上空から偵察しているカスミ・シュネーヴァルト(ec0317)も水面を見つめながら静かに呟く。
「カスミさん、ペガサスが羽を休める時にはガマの助とオヤジの背中を足場にしてくれてかまわねぇからな。オヤジの背中は滑るかもしれねぇけど‥‥」
 海面から顔を出して上空に向かって声をかけたのは、海に潜って捜索中だった河童の黄桜喜八(eb5347)。ちなみに「ガマの助」は彼が召喚した大ガマ、「オヤジ」は彼のペットの水神亀甲龍だ。
「喜八さん、ありがとうございます。‥‥悪魔が関係している可能性もあります。大変だけど一緒に頑張りましょうね」
 前半は喜八に、後半はペガサスに向けてカスミが言う。
「航路は大体、こちらの方向でいいんだよな?」
 海原の先をにらみながら尋ねたのは、操船を任されたレイア・アローネ(eb8106)だ。
「伝書鳩に尋ねたところからしても、船の航路から考えても、この先に何かがあることは間違いないであろうな」
 その「何か」とはおそらく――。喜八から借りた龍晶球を弄びながら、マックス・アームストロング(ea6970)が唸る。
「遠くに何か――影が見えます!」
「あれは――船だ」
 ペガサスに乗るカスミと、船の先端で監視をしていたヒースクリフ・ムーア(ea0286)が鋭く叫ぶのと、マックスの龍晶球が激しく輝き始めるのは、ほぼ同時だった。念のために展開した喜八の惑いのしゃれこうべも、カタカタと音をたてはじめる。
「デビルかアンデッドに属する敵と対峙する可能性は高い、と思っていたが‥‥その両方とは」
「まぁ当然ではあるが、余のサーチフェイスフルには反応しないであるな。聖なる母の信仰をもたぬ、愚かなる者どもだ」
 ルシフェルとヤングヴラドがそれぞれため息をつく。
 刻々と近づいてくる船影を見据えながら、熟練の冒険者たちは戦闘の準備に余念がなかった。


 船が近づくにつれ、その上に乗る敵の姿が次第に露わになってゆく。
 冒険者たちを待ち構えるように甲板に立つ五つの人影。見慣れた鎧に身を包んだ彼らは――。
「王宮騎士――だった者たち、か。これはひどい――」
「ある程度は予想していたとは言え‥‥デビルども、許すまじ!」
「彼らを救う方法はただ一つ‥‥この剣で、忌まわしきくびきから解き放ってくれよう!」
 舳先で接舷を待つルシフェル、マックス、ヒースクリフがそれぞれ自身を強化する魔法を身にまとい、得物を抜き放つ。
 彼らに対峙するのは、イギリスの騎士の正規の鎧を身にまとったかつての王宮騎士たち。まだ年若い彼らがこの国の未来を担うことは、もはやない。その瞳は何も移すことのないガラス玉となって、生けるものを憎むかのように虚空をにらみつけている。
 そしてもう一つの影。王宮騎士たちの後ろに控える、鱗に覆われた醜い姿。それを人魚のようだ、と評したら人魚たちからの激しい抗議を免れないだろう。
「あれは――おそらくダゴンです。海で死んだ人間の死体を配下とするデビル――」
 蒼白な顔で、カスミが指摘する。普段はなかなか目にすることのない希少なデビルの登場に、身が引き締まる。
「『船長』は、いないようであるな。できれば捕獲するのが理想であるが‥‥仕方あるまい」
 自身で奥義と呼ぶカリスマティックオーラでアンデッドどもを牽制しながら、ヤングヴラドが呟く。
「こちらからいかせてもらおう」
 そう宣言して、レイアが接舷を待たずに直刀を振るう。振るった刃は衝撃波となり、かつて王宮騎士であったズゥンビに襲いかかる。直撃を受けたズゥンビが薙ぎ倒され斬られた腕が宙を舞うが、もはや生命活動を終えた存在はうめき声ひとつ上げることもない。
 間髪いれず、今度はカスミが指輪を煌めかせて雷撃を放つ。レミエラの魔力によって広範囲に広がった稲妻が、ズゥンビ達を薙ぎ払う。
 かつて人間であった者たちを相手に戦う冒険者たちに、遅滞はない。彼らはすでに生きてはいない。彼らに遠慮して攻撃の手を緩めることは、正義に殉じた彼らへの冒涜に他ならない事を誰もが感じているからだ。
「ぐわっ!」
 突然叫び声を上げたのは、ロングスピアを構えていたオラースだ。お返しとばかりにダゴンが見えない邪悪な波動を放って、生命力を奪ったらしい。目には見えないが決して浅くはない傷を負ったオラースが、苦悶の声を上げる。
「安らかに成仏しろ、ってんだ!」
 不意に敵側の船から声が聞こえて、みんなの視線がそちらへ向かう。見れば、海を泳いで裏側から敵船に乗り込んだ喜八が、懐に忍ばせていた清らかな聖水をズゥンビに向かってぶちまけたところだった。聖水を浴びたズゥンビの体がしゅうしゅうと音を立てて溶けていく。
 喜八の投げたロープをヒースクリフがつかみ、一気に引くと反動で船は地響きを上げて接舷し、戦士たちは敵船に乗り込んでいく。
 ヒースクリフ、ルシフェル、ヤングヴラド、オラース、マックス、レイア。熟練した戦士たちの振るう魔剣が、ズゥンビを易々と薙ぎ倒し、ダゴンの鱗の皮膚に傷を負わせていく。ダゴンもロブライフの魔法を放って抵抗するが、ヤングヴラドのカリスマティックオーラやマックスのエクソシズム・クロスの力に阻まれて不発に終わる。
 そしてついには、オラースのロングスピアがダゴンの喉元に深々と突き刺さり、海の悪魔はゆっくりと斃れたのだった。


「船倉に騎士が一人‥‥まだ息があるぞ!」
 戦いが終わり、船の中を捜索していたルシフェルが叫ぶ。見れば年若い騎士がひとり、船倉の隅に倒れていた。
「しっかりしろ!」
 マックスが騎士の体を毛布で包み、暖を取らせる。だがその体は恐ろしいほどに冷たい。
「ああ‥‥ルパートか‥‥」
 若い騎士が息も絶え絶えに呟く。どうやら、マックスのことを親友と勘違いしているらしい。もはや目もほとんど見えていないのだろう。
「ということは‥‥君がヴィンセントか」
 ヒースクリフが呟く。依頼主であった若き王宮騎士ルパートが気にかけていた親友。
「『船長』は‥‥俺たちの知っている『船長』じゃなかった‥‥『船長』が、あの海の悪魔に命じて、俺たちの船を襲わせたんだ‥‥」
 ヴィンセントは何かに憑かれたように、たどたどしい言葉で紡ぎ続ける。
「『パーシ様はあなたのことを気にかけています!』そう言った俺に、『船長』はこう言って笑ったんだ‥‥『パーシ・ヴァルか? はっ、それがどうしたというのだ』‥‥」
 言い終えて、ヴィンセントの体から急速に力が抜けていく。先程からずっとルシフェルがリカバーを唱えているが、すでに尽きた命は戻らない。おそらくは最後に残ったわずかな意志の力だけで話していたのだろう。
「これは‥‥ルパートさんに届けておきます。だから、ゆっくり休んで」
 遺品として、ヴィンセントの服から取ったボタンを握りしめて、カスミが小さく呟いた。
「‥‥ヴラド、騎士たちの弔いを頼めるか?」
 レイアが低い声で呟く。
「散り逝く騎士たちの魂よ、安らぎあれ」
 ヤングヴラドの祈りの声が、風に千切られていく。