【噂ハンタージャジャ】街中にドラゴン?!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2008年04月09日

●オープニング

「ふむ、これが噂の『冒険者ギルド』というものか! なんだ、思ったより寂れているではないか!」
 穏やかな昼下がり。目立った依頼もなく、閑散としていたギルドに、素っ頓狂な大声とともに見慣れない奇妙な男が飛び込んでくる。目にも鮮やかな真っ赤なシャツに、コントラスト眩しい緑色のタイツ。羽根飾りのついた大きな紫色の帽子を斜めに被り、極めつけに真っ青なマントまで羽織っている。よくよく見れば巻き毛のブロンドに白い肌の、なかなかに美しい顔をしているのだが、あまりに奇抜な服装がその男の印象を『変人』以外のなにものでもなくしている。
「あ、あのう‥‥見慣れない顔ですが、どちら様ですか?」
 男の奇妙さに圧倒されながらも、プロフェッショナル意識を思い出した受付嬢が尋ねる。
「ふふふ、お嬢ちゃん、よくぞ聞いてくれた! 私はジャニー・ジャクソン、人呼んで、『噂ハンターのジャジャ』だ!」
「は、はぁ‥‥」
「お嬢ちゃんは毎日昼間っからこんなしけたところに引きこもっているから知らないのも無理はないが、これでも、キャメロットのご婦人方には大変有名なのだよ! 世界各国の存亡から円卓の騎士の今日の朝ごはん、それにお隣の職人夫婦の夫婦喧嘩に至るまで! ありとあらゆる噂の真偽をこの目で確かめ、退屈に殺されかけている有閑マダムたちにお届けする情熱の詩人、『噂ハンターのジャジャ』! 本来であればこう呼んでもらいたいのだがね。真実を追い求めるもの。すなわち、ジャジャ・ザ・トゥルースシーカーと!」
「‥‥長い」
 受付嬢が思わずぼそり、と呟く。そもそも『ご婦人方に大変有名』などと自称しているのも怪しいところだ。少なくとも受付嬢はそんな噂聞いたこともない。
「ん? 何か言ったかね?」
「いいえ、何も。それで、その『有名な』詩人さんが冒険者ギルドに何の用です? 冒険者登録ですか? それとも依頼?」
 尋ねた受付嬢のいささか辟易した様子を気にも留めず、ジャジャは真っ青なマントをふぁさっとはためかせ、唇の端をニッと吊り上げてみせる。
「その両方‥‥といったところかな」
「両方?」
 怪訝そうな表情の受付嬢に向かって、ジャジャはぐいっと親指を立ててみせた。
「そう、両方だ。私はこれから真実を追い求めるための冒険に出る。だが私一人では心許ない。荒事は私の得意とするところではないからな。そこで、だ。私とともに真実を探求してくれる仲間を探している、というわけだ」
「‥‥なるほど」
「実は今、素晴らしいネタを掴んでいるんだ! 実はな‥‥」
 そう言って、ジャジャはその顔をぐっと受付嬢の耳元に寄せる。
「なんと、このキャメロットの街に、ドラゴンがいるらしいんだ!」
 内緒話のように見えるのは格好だけで、こんなに大声では意味がないだろう。受付嬢ももはや、完全にあきれている。
「ドラゴンが、街中に? まさか。そんなのがキャメロットにいたら、大騒ぎになりますよ?」
 明らかに信じていない表情で見やる受付嬢。ジャジャはその視線を意に介すこともなく、興奮した口調で話し続ける。
「当たり前じゃないか、だから大事件なのだよ!」
「‥‥その調査に協力する冒険者を募集すればいいのですね」
 すっかり事務的な口調に戻った受付嬢が、淡々と貼り紙を作成する。あくまでも空気を読まない噂ハンターは、その様子を満足げに見つめるのだった。

●今回の参加者

 eb3722 クリス・メイヤー(41歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec4482 影山 千尋(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec4590 大地 大五郎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ec4712 リカルド・オールドソン(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec4717 神名田 少太郎(22歳・♂・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文


「聞き込み?」
 怪訝そうな顔で問い返すジャジャに、クリス・メイヤー(eb3722)がうなずきを返した。
「うん。今ジャジャさんが得ている情報は、『職人街の辺りでドラゴンらしき黒い影を見た』っていうあいまいな情報だけでしょう? 真実を知るためには、もっと具体的な情報を知る必要があると思うんだ。まずは目撃者にもう一度詳しい話を聞くのと、彼の情報が正確でない可能性もあるから、他に見た人がいないかどうか、付近に住んでいる人にも話を聞いたほうがいい」
「そうですね。実際に影が目撃された時刻と場所がわかったら、その時の状況をシミュレートして現場検証をしてみると、影の正体に近づけるのではないでしょうか」
 クリスの言葉に続けたのは、神名田少太郎(ec4717)だ。
 ジャジャは、二人の提案にふむふむとうなずき、ふぁさっと青いマントを翻す。
「なるほどな! よし、さっそく聞き込みへゆくぞ!」
「おいおい、一人で行くのは危ないぜ。俺があんたを護衛する」
 すでに走り出しかけていたジャジャの背中に、リカルド・オールドソン(ec4712)が声をかける。
「護衛? 私が向かうのはキャメロットの街中だぞ? 危険など‥‥」
「あの辺りでも路地裏に入ってしまえば治安のよくないところも多い。それに、あんたはご婦人方に人気なんだろ? そういうのは、どこで誰に恨みを買ってないとも限らないからな。用心するに越したことはない」
「ふむ、なるほど! さすがは年の功というやつか。年配の意見は聞いておくべきだな」
「年配って‥‥あのな、俺はこう見えてもまだ若いんだぜ!」
 ジャジャの言葉に、リカルドが憤慨した様子で息巻く。リカルドは61歳だが、彼はハーフエルフだからまだ年配と呼ばれるには少し早いはずだ。だが老けて見える顔のせいか、年をよく間違われるのをリカルドは気にしているらしい。
「まあまあ。それはともかく、確かにジャジャさんはリカルドさんに護ってもらった方がいいね。聞き込み役として、少太郎さんもそっちに同行してもらおう。で、こっちはおいらと大五郎さん、千尋さんでいいかな?」
「ああ、拙者は構わぬぞ。こちらの護衛は任せてもらおう」
 クリスの言葉に、大地大五郎(ec4590)が豪快にうなずく。
「拙者は‥‥団体行動は苦手ですので、差し支えなければ一人で隠密行動をさせていただきたく。集めた情報は皆様に伝えますので」
 控えめな口調で影山千尋(ec4482)がそう提案すると、少し考えてクリスもうなずく。
「うん、わかった。忍者の千尋さんは隠密行動の専門家だから一人でも大丈夫そうだしね。それじゃあ、3グループに分かれて情報収集、情報が集まったらいったんギルドに集合して、全員で現場検証と捜索に入ろう」


「というわけで、皆が集めてきた目撃証言と同じ、日没寸前の黄昏時の職人街の外れで影が現れるのを待つというわけだな」
 並んで歩いているジャジャが冒険者達の手際に感心したように言うと、少太郎がうなずいた。
「ええ。必ずしも同じ状況であらわれるとは限りませんが、漠然と捜索するよりは会える可能性は高いと思います。とはいえ、職人街は広いですからね。クリスさんにはリトルフライの魔法で上空から、千尋さんには街中で捜索してもらってます。何かを見つけたらすぐに連絡が来るはずですよ。あとは、問題の黒い影と遭遇した時ですが‥‥」
「街を脅かす黒い影など、わが新当流で一刀両断だ」
「依頼人のジャジャは、俺が護るから心配しなくていい」
 大五郎とリカルドが交互にいい、それぞれの剣と刀を掲げてみせる。
「必ずしも戦う必要はありませんが、もしもの時は頼りにしています」
 そう言って少太郎は笑顔を見せた。
「ふむ。準備は万端というわけだな。これで後はドラゴンがお出ましになるのを待つばかりか。ドラゴンだぞ、ドラゴン! ふふふ、この大事件の真相を世の者どもに知らしめてやれば、このジャジャの名もキャメロット中にとどろくことに‥‥」
 一人にやにやと想像‥‥いや、妄想を繰り広げるジャジャ。それを尻目に、少太郎はひとりごちた。
「うーん、もし本当にドラゴンだとすると、僕らの戦力では正直心許ないですけれど。おそらくは、影はドラゴンではないでしょうね。目撃者の方も単に『巨大なトカゲみたいだった』と言ってただけですし‥‥」


「‥‥ジャジャさん、皆様、発見しました」
「みんな、見つけたよ!」
 足音を立てない走り方で駆け寄ってきた千尋と、夕焼けに染まる空をふわふわと漂ってきたクリスが、ほぼ同時に言った。別行動をしていた二人が、同時に問題の影を発見してきたらしい。
「本当かっ! ドラゴンはどこにっ?!」
「そこだよっ!」
「‥‥そこです」
 興奮した声で聞き返すジャジャに、二人が同時に答える。二人の指差す方向‥‥ジャジャたちの背後に当たる部分にゆっくりと首を向ける。
 見れば、建物の影からのっそりと姿を現す3メートルを超える巨大な影。斜めに差し込む夕陽がその岩のような身体に深い陰影を刻む。
「なるほど! 『ドラゴンの影』の正体はこれか!」
 ジャジャと一緒に振り返った少太郎が、パチン、と指を鳴らした。
「こ、これは?」
「『クロコダイル』だ。もっと暑い地方のジャングルなんかに棲む、大型の爬虫類。この辺に普通にいたりはしないと思うけど、どっかのお金持ちがペットとして連れて来たのが逃げ出したのかも」
 疑問の声を上げたジャジャに答えたのはクリス。
「凶暴なのですか?」
「どうだろう。肉食であることは確かだから、空腹なら襲い掛かってくるかもしれないけど‥‥」
 前衛たちから一歩下がって、ジャジャを護るように囲んだ少太郎とクリスが、油断なくクロコダイルを見据えながら囁きをかわす。
「な、なんとも恐ろしげな風貌だな‥‥」
 場慣れしている冒険者達とは違い、さすがのジャジャもやはり一般人なのだろう。二人の間で、圧倒されたように立ちすくんでいる。
 ごつごつとした鎧のような鱗に、一本一本がダガーのように研ぎ澄まされた牙が無数に並ぶ巨大な口。ドラゴンほどではないにしろ、その姿は圧倒的な迫力だ。その凶暴そうな外見に、リカルドと大五郎、千尋が呼吸を整えてそれぞれの得物を抜き放つ。相手が襲い掛かってきたらすぐにでも反撃できるよう待ちの構えだ。
 にらみ合うこと数分。
 クロコダイルはいっこうに襲い掛かってくる気配を見せない。というより、動く気配すらない。
 耳を澄ますとかすかに聞こえてくる、すーすー、という音。
「‥‥これは、もしかして」
「ね、寝てる?」
 クリスと少太郎が、あきれたような声をかわしたとおり、クロコダイルは冒険者達とにらみ合った体勢のまま、寝息を立てていたのだった‥‥。


 その後。
 すっかり眠ってしまいウンともスンとも言わないクロコダイルを、「街の平和を脅かす可能性があるから」ということで衛兵に報告して捕獲してもらい、一件落着。
 ジャジャは、冒険者達の活躍に(正確には、冒険者に依頼することにした自分の判断に)ずいぶん満足していたようで、「これからもネタを見つけ次第、ギルドの方に依頼をかけるから見かけた時は是非また受けてくれたまえ」と言い残して、マントを翻して颯爽と去っていった。

 その翌日の昼下がり。
 クリスはキャメロットの広場でジャジャを見かけた。ジャジャは「ご婦人方に人気」の言葉通り、十人近くのおばさま方に囲まれてご満悦の様子だ。
「そこにあらわれたのが巨大な影! 身の丈は5メートル、いや10メートルはあったかも知れぬ。肌はごつごつしてまるで岩のよう、牙はさながら鋭いダガー! ぐわっと口を開ければジャイアントでも一飲みだ!」
 大袈裟な身振りつきで話すジャジャ。その挙動一つ一つに、ご婦人方から歓声が上がる。反応は上々のようだ。
「ジャングルの暴君クロコダイル、その凶暴さはドラゴンもかくや! やつは私を見つけると、その巨体からは信じられぬ、矢のような速さで襲い掛かってきた! 私はその攻撃をすんでのところでかわすと、マントをひらりと翻し、腰から引き抜いたナイフでやつの喉元をグサッと‥‥」
 話しながら、見えないクロコダイルの攻撃をかわしてみたり、それにナイフを突き出してみたり。一人で大立ち回りを演じてみせるジャジャ。観客達もかなり盛り上がっている。
「襲い掛かってきた、って。ずいぶん脚色してるなぁ‥‥でもまぁ、楽しそうだからいっか」
 苦笑して呟きながらも、生き生きと喋るジャジャを見るとそれに水をさす気は起こらない。観客達も面白おかしい話を求めているだけだから、害はないだろう。
 クリスはふっと小さく笑うと、楽しそうに冒険活劇を話して聞かせるジャジャの元を、そっと後にした。