妖精さんを助けて!

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月20日

リプレイ公開日:2009年05月20日

●オープニング

「ようせいさんをたすけて!」
 昼下がりの冒険者ギルドに飛び込んできたのは、鈴の音を思わせる澄んだ高い声。
「あら、ジョン君じゃない、久しぶり。また何かあったの?」
 ギルドに飛び込んできた小さな人影に、受付嬢が優しい声をかける。
「ようせいさんが、こまっているの。たすけてあげて!」
 つぶらな瞳を潤ませて、一生懸命に主張したのは、まだ年端もいかない少年だった。
 ジョンはキャメロットに住む裕福な商人の息子だ。
 たまたま彼の部屋に迷い込んだ小妖精ピクシーと友人になり、ゴブリンたちに占領されてしまったピクシーの住処を解放するために、ギルドに助けを求めたことがあった。その時は、冒険者たちがゴブリンを追い払い、ピクシーたちは無事平和を取り戻したはずなのだが‥‥。
「また、妖精さんのおうちが怪物たちに襲われちゃったの?」
「ううん、こんどはようせいさんのおともだちがたいへんなの!」
 ジョンがそう言うのと同時に、ジョンの背負っていた袋から小さな影がぴょん、と飛び出してくる。
 30センチほどの背丈に、ふわふわの赤い髪とだんご鼻。
 受付嬢には見覚えがあった。
 ジョンと冒険者たちが助けた「トゲトゲ葉っぱ」という名のピクシーだ。
「ようせいさんのともだちが、こわいところにいっちゃって、たいへんなんだって!」
 ジョンが一生懸命に話し、トゲトゲ葉っぱがうなずく。
 彼の話をまとめるとこうだ。
 トゲトゲ葉っぱたちピクシーは、森の中で、光にあふれた安全なところを住処にして、平和に暮らしている。
 森の中には太陽の差さない危険な区域があって、ピクシーの子供たちは長老から、決してそちらには近づかないようにときつく言われている。ところが、トゲトゲ葉っぱと、友人であるピクシーが森の中で遊んでいたときに迷子になって、誤ってその区域に入り込んでしまった。トゲトゲ葉っぱは辛うじてそこから逃げ出してきたが、友人とはその区域の中ではぐれ、見失ってしまったというのだ。
 トゲトゲ葉っぱは急いで大人たちに報告したが、臆病なピクシーたちは危険な区域に入ろうとしない。そこで、彼は前に彼らを救ってくれたジョンに助けを求めたのだ。
「こわいところには、きょうぼうなしょくぶつや、どうぶつがいっぱいなんだって!」
「それは‥‥心配ね」
「おねえさん、ようせいさんを、たすけてよ!」
「わかったわ‥‥なんとかしてみます」

●今回の参加者

 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec4683 ルチア・シビル(34歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文


「わ〜、トゲトゲ葉っぱ! 久しぶり、会いたかったわ! 元気してた?」
 そう言ってピクシーをぎゅっと抱きしめたのは、以前の依頼で彼と仲良くなったアニェス・ジュイエ(eb9449)だ。トゲトゲ葉っぱは柔らかい胸に埋もれてにへら、と笑顔を浮かべている。
「ジョンくん、トゲトゲ葉っぱさん、久しぶり♪」
 同じくルチア・シビル(ec4683)も、嬉しそうに微笑む。
「ジョンも久しぶりねぇ。ちょっと大きくなったかしら。嬉しい。あんたがまだ、妖精と心が通じる子でいてくれて」
 アニェスがそう言ってジョンの頭を優しく撫でる。撫でられたジョンは一瞬だけ嬉しそうな顔になるが、すぐに心配そうな顔になって冒険者たちを見上げた。
「おねえさんたち、ようせいさんのおともだちを、たすけてくれる?」
「もちろんです。私たちに任せてください。‥‥私はお姉さんではなく、お兄さんですが」
 そう言って優しく微笑んだのは、ベアータ・レジーネス(eb1422)だ。確かに彼は、一見すると女性のように見える。
「そういえば、一番最初に受けた依頼も妖精を救出する依頼だった気がしたわ」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)が懐かしそうに目を細めながらつぶやく。
「おねえさんたちとおにいさん、ようせいさんのおともだちを、たすけてあげて!」
 ジョンの真剣な表情に、冒険者たちは心の底から、強くうなずくのだった。


『ねぇ、トゲトゲ葉っぱ。迷子になったお友達のピクシーはなんていう名前なの?』
 森の中を歩きながら、クァイが魔法の指輪の力を解放してトゲトゲ葉っぱに話しかける。ちなみにジョンは家でお留守番だ。
『とんがり耳』
 アニェスの胸に抱かれたトゲトゲ葉っぱが、ちょこんと首を傾げながら答えた。
「とんがり耳かぁ。特徴がわかりやすい名前だね。性格とか、隠れそうな場所とか分かるかい?」
「迷子になった場所と時刻も詳しく聞きたいですね」
 アニェスとベアータが言い、クァイがそれを通訳する。
『怖がり。すぐ木に登る。迷子になったのは、暗くて怖いとこ。じこく‥‥?』
 矢継ぎ早な質問に目を白黒させながら、それでも真剣に答えていたトゲトゲ葉っぱが、ベアータの質問に困ったような表情を浮かべた。
「そうか。妖精に時間の概念はないのかもしれない。ええと、キミは、とんがり耳がいなくなってすぐにジョンの所へ行ったんですか?」
 質問を変えたベアータに、トゲトゲ葉っぱがまあるい眼をくるくるさせてこくんとうなずいた。
『トゲトゲ葉っぱ、急いでジョンのとこ、行った』
「となると、迷子になってからそれほど日時は経過していないようだね。食事とか、心配ではあるけど‥‥」
「ティル、あんたも地のエレメントでしょ? 知恵貸して頂戴な」
 アニェスがそう言って、ペットのエレメンタラーフェアリーを振り返る。話しかけられたティルは、なぜかアニェスの背中にしがみつくようにしていた。
「ティル、こわーい」
「こわーい」
 気づけばベアータのペットのアナンタも同様に彼の背中にしがみついている。
「怖いっていったい何が‥‥」
『ここ、暗くて怖いとこ』
 クァイの問いに答えたのは、トゲトゲ葉っぱだった。顔を上げると、いつの間にか彼女たちが森の随分奥の方に来ていたことに気づく。
 冒険者たちの目の前には深く濃く生い茂る木々によって作られた自然のトンネルのようなものの入り口が、ぽっかりと口を開けていた。その先は幾重にも重なった葉や枝が太陽の光を遮り、今は真昼だというのに、闇に包まれているようだ。
「ここが、とんがり耳が迷子になったところ?」
 ベアータの問いに、トゲトゲ葉っぱがこっくりとうなずく。
「じゃあ、ちょっと見てみよう」
 そう言ってベアータがスクロールを紐解き、過去視の魔法を発動する。
「見えた、とんがり耳だ」
 次にベアータが唱えたのは、幻影を生み出すファンタズムの魔法。冒険者たちの目の前に、トゲトゲ葉っぱと同じくらいの背格好で、彼よりも幾分ぽっちゃりとしたピクシーの姿が浮かび上がる。その名の通り、ピンと尖った耳が目立っている。
 一方ルチアは、グリーンワードの魔法を唱えて周りの植物に尋ねていた。
『あそこには、どんな動物や植物がいるの?』
『凶暴』
「‥‥うーん、まぁ、そんなものだよね。とりあえず、人工的だったり魔法的だったりするわけではなさそうだけど」
「そこにいたリスに尋ねてみたけど、結果は似たようなものね」
 クァイも肩をすくめる。
「あとはもう‥‥突入しかないね」
 アニェスの言葉に、冒険者たちは互いの顔を見合せ――光の射さない暗い森へと、足を踏み出した。


「森の中は住民の領域。境界を侵しているのはこちら。できる限り、森を騒がせるのは避けたいところね」
「ええ。もともと住んでいるところに侵入者が来たら攻撃するのは当然です。救出のためとはいえ、攻撃されたから退治するというわけにはいきませんよね」
 アニェスとベアータがそれぞれに言い、仲間たちがうなずく。
 動植物に必要以上に危害を加えない。そう決めた冒険者たちは――逃げる逃げる逃げる。
 なるべく忍び歩きで気づかれないように探索をしようと試みたアニェスも、動物たちの鋭い感覚にはかなわない。クァイがパンの葦笛でジャイアントパイソンの注意をひきつけ、襲ってきたウルフの目の前にルチアがストーンウォールを立て、もう少しで毒牙を突き立てられそうになったベアータがグランドスパイダをアイスコフィンで氷漬けにする。毒を噴出するビリジアンモールドをやりすごし、ブラウンベアの気配を感じた時には、冒険者全員が息を殺して行き過ぎるのを待った。
 そうした努力の傍ら、ベアータはブレスセンサーの魔法を何度も唱え、ピクシーと同じくらいの大きさの呼吸がないかどうか、地道に探していった。
 そして、冒険者たちがいい加減疲れを感じ始めてきた頃――。
「この木の上に反応が――あっ!」
 頭上を見上げたベアータが大きな声を出す。
『とんがり耳!』
 守るようにアニェスに抱えられていたトゲトゲ葉っぱが叫ぶ。
 高い木の上にうずくまって震えていたのは、まぎれもなくピクシーのとんがり耳だった。
「よし、今迎えに行くよ!」
 そう言ってアニェスが木を登ろうと枝に手を掛ける。
「アニェス、危ない!」
 とっさにそう叫んでアニェスを突き飛ばしたのはクァイだった。放り出されたアニェスは強かに尻もちをつく。が、寸前まで自分がいたところを鋭い風切音をたてて何かがかすめたのを見て、目を丸くする。
 一瞬遅れて、アニェスが手を掛けていた枝が切り離されて宙を舞う。その切り口は鋭利な刃物で切断された痕。
「武器? 何者だ?」
 咄嗟に得物を引き抜いて身構えた冒険者たちがそこに見たものは。
 体長3mはある、巨大なカマキリだった――。
『侵入してごめんなさい。敵意はないの、見逃して!』
『餌餌餌! 喰喰喰!』
 クァイがテレパスで語りかけるが、どうやら聞いちゃいないようだ。
「騒ぎは避けたいけど‥‥仲間に危険が迫るなら、迷わない」
 アニェスが覚悟を決めたように、愛用の金鞭に手を掛ける。
 ジャイアントマンティスが準備運動とばかりに唸りを上げて鎌を振り回す。
『ぎゃあ!』
 鎌はとんがり耳がしがみついていた枝をバッサリと切り落とした。枝と一緒にとんがり耳が宙を舞う。
「うわっ!」
『むぎゅ?』
 突然胸に飛び込んできたピクシーを、クァイが慌てて抱きとめる。どうやらちょうどクッションになったのか、無傷のようだ。‥‥何がとは言わないが。
『餌餌餌!』
 ジャイアントマンティスが狩りに入るべく、鎌を振り回しつつ残り4本の足を踏み出そうとする。
 冒険者たちは顔を見合わせて、そして同時に言った。
「「「「たいきゃくうぅぅっ!」」」」


 命からがらトンネルの外にたどり着いた冒険者たちは、疲れ果ててへたり込む。
 そんな彼らの目の前で、二匹のピクシーが楽しそうに踊っていた。
「ここまで来たらもう大丈夫みたいですね」
 ベアータがほほ笑む。
『ありがと。うれしい』
『ジョンに、よろしく』
 そう言って踊りながら、彼らは楽しそうにぴょこぴょこと住み家へ帰って行く。
「最近ちょっと煮詰ってたけど‥‥ふふ、何だか初心に戻れたかも」
 前にもトゲトゲ葉っぱを助けたことを思い出して、アニェスが小さく微笑む。
「あれ、なんだろうこれ?」
 不意にクァイが驚いたような声を上げる。
「いつの間にか膝の上に‥‥こんな袋が」
 クァイはそう言って葉っぱでできた小さな袋を持ち上げてみせる。彼女だけじゃない。4人の冒険者それぞれの膝の上に、同じものがいつの間にか置かれていた。
 中を開けてみると、黄色い粉が詰まっている。「妖精の粉」と呼ばれる不思議な品物だった。
「また、きっと妖精たちからの贈り物だね。まったく、律儀だなぁ」
 ルチアが笑った。
 穏やかな風が、森の中を抜けていった。