【ステキな招待状】ケイ様のひ・み・つ☆

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月22日〜05月25日

リプレイ公開日:2009年05月30日

●オープニング

 キャメロット某所。
 所有者の趣味だろうか、様々なハーブや色とりどりの花が所狭しと植えられた、植物園のような趣のある庭園に、ぽかぽかとした午前中の陽射しが差し込み、時を忘れさせる。
 庭園のちょうど中央あたりに置かれた繊細な細工のアンティークの椅子に腰かけ、円卓の騎士にして国務長官のケイ・エクターソンは一枚の便箋に目を落としていた。
 ここは、円卓の騎士でも知る者は極めて少ない、サー・ケイの自宅の庭であった。ケイが、いつも見られるような能面のごとき無表情ではなく、驚くほどに穏やかな表情を浮かべているのがその証拠だ。
「ふむ‥‥勢いで出席しますと言ったはいいものの‥‥」
 ケイがひとり呟く。どうやら手にした便箋の文面について思案しているようだ。
 空色の可愛らしい便箋には「招待状」と書かれている。トリスタンからの手紙を届けに来た冒険者がケイに手渡していったものだ。内容は、冒険者たちが開くというお茶会への招待。
「失礼します、サー・ケイ」
 不意に昼下がりの静寂を破った美しい声に、ケイは顔を上げる。
「‥‥トリスタン」
 現れたのは、女性と見まがうばかりの美貌の騎士、トリスタン・トリストラム。
 リラックスしていたところを見られたのが幾分気まずかったのか、ケイがわずかに身を起して背筋を伸ばす。
「サー・ケイ、そちらにもお茶会の誘いが‥‥」
「ああ、そのことなら今ちょうど断ろうと思っていたところです。私は甘いものが大嫌いですからね」
 顔にいつも通りの皮肉な笑みを浮かべて、ケイが答える。
「そうですか、残念です。モードッレッドは喜んで行くと言っていましたが」
 心底残念そうな表情を浮かべたトリスの言葉に、ケイが反応した。
「ちょっと待って下さい。モードレッドが‥‥モルも呼ばれているのですか?」
「ええ、何でも、お茶会の会場は彼の屋敷だそうです」
「そうですか‥‥なるほど。やはり、私も参加することにしましょう。モルがあまり羽目を外しすぎないように、見ていてやらないといけませんから」
 いつまでもモードレッドのことを子供扱いしているケイの言葉に、トリスが内心で苦笑する。
 モードレッドがほんの小さい頃から面倒を見ているケイは、なんだかんだといいながら、彼の保護者のような気分なのだろう。乳母のクレアひとりに育てられたモードレッドには男親がいないから、自分がその代わりのつもりなのかもしれない。‥‥もちろん、本人に尋ねたらものすごい勢いで否定するだろうが。
 トリスがそんな胸の裡を感じて暖かな視線をケイに向けていると、不意にケイがその端正な顔をぐっと近づけてきた。
「サー・ケイ?」
「‥‥ところで、トリスタン、お茶会で出る菓子類は、持ち帰り可能ですか?」
 誰かに聞かれるのをはばかってか、ケイがトリスの耳元で囁く。
「ああ、お土産ですね。あの、可愛らしい方への」
 庭園の奥にある屋敷の方に目を向けながら、トリスがほほ笑む。彼の視線の先には、お客様の為にお茶の用意をするひとりの女性――いや、少女といった方がいいかもしれない――の後ろ姿が小さく見えている。
「ええ、少しくらいなら構わないと思いますよ」
 答えたトリスの言葉に小さくうなずいたケイの表情は――長い付き合いのトリスが驚くほど、穏やかだった。
「では、土産選びは貴方に任せますよ、トリスタン。私ではどれがおいしいのかわかりませんから」
 少し照れたようなケイの言葉に、トリスは微笑みながらうなずいた。
「ところでトリスタン、その包みはいったいなんですか?」
「あ、いえ、これは‥‥」
 トリスが抱える大きな包みを指差して言ったケイに、トリスの目が泳ぐ。
「気になりますね。見せてみてください」
「あ、いや、ちょっと‥‥」
 あわてたそぶりのトリスに構わず、ケイが包みを解く。
「これは‥‥」
 中から現れたのは、可愛らしい狐耳と尻尾、それに上品なデザインの高級執事服。
「トリスタン‥‥いつからこんな趣味が?」
「あ、いえ――これはその、モルが、プレゼントだ、と‥‥」
 トリスの言葉に、ケイが目を細める。
「ほぉ、モルにこのような趣味があるとは知りませんでした。耳と尻尾はともかく、執事とは‥‥私が、『イギリス王国の執事』であると知ってのことですか!」
 ケイの顔に浮かぶのは不気味な笑み。
「これは負けていられません。私もびしっと決めていきますよ、執事服で。トリスタン、どちらが真の執事にふさわしいか、勝負です!」
 何だかわけのわからないことを力説するケイ。‥‥意外と彼とモードレッドは、似たもの師弟なのかもしれない。

●今回の参加者

 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5127 マ??E?◆Ε札薀?E expires(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

緋村 櫻(ec4935

●リプレイ本文


 お茶会当日。フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)とシルヴィア・クロスロード(eb3671)、マルキア・セラン(ec5127)の三人は、王城へ向かっていた。
 国務長官のケイ・エクターソンを迎えに行くためだ。
「ケイ卿‥‥ねぇ。王様の義理のお兄様に当たるってことは、かなりのお歳のはずよね‥‥」
 呟いたのはフィオナだ。その表情はいくぶん残念そうである。
「私は以前ケイ様にお会いしたことがありますぅ。すごくお若く見えましたよ?」
 マルキアがおっとりと言うと、シルヴィアもうなずく。
「ええ、私もそう思いました」
「お若く、ねぇ‥‥」
 フィオナが呟く。ざっと計算しても、ケイの年齢は四〇才近いはずだ。いくら若いと言っても‥‥。
「誰を探しているのですか?」
 よく通る声が響き、冒険者たちが顔を上げる。
「あ、ケイ様! 迎えに参りましたぁ」
「ケイ卿。本日もご機嫌麗しゅう」
 マルキアとシルヴィアが言い、フィオナが言葉を失う。
 透き通るように白く美しい肌に、切れ長の瞳。その顔からは歳を重ねたものに特有の落ち着いた力強さがにじみ出ているとはいえ、とても四〇才近いとは思えない美貌だ。
「‥‥円卓の騎士って、イケメンしかなれないのかしら」
 フィオナが、ぼそりと呟いた。


 会場であるモードレッドの邸宅につくと、いくつかの部屋や庭先に大きなテーブルが置かれ、それぞれに準備をしている様子だった。
 ケイ達が門をくぐると、モルの乳母でケイとも面識のあるクレアが庭に置かれたテーブルの一つに案内してくれる。そこには、ティズ・ティン(ea7694)とリース・フォード(ec4979)が待っていた。
「私はリース・フォードです。以前、酒場でお会いしましたね」
「私、ティズ・ティンと申します」
 ケイを認めると二人とも膝を折り、丁寧な挨拶をする。
 だが、幼いティズにとって、礼儀正しい態度は長くは続かないようだ。すぐに友達感覚で喋りはじめる。
「で、王宮の執事ってどんなことしているの? 私、メイドでもあるんだよね。貴族じゃないけど」
 ケイが思っていたよりずっと好みな風貌であることに気を良くしたフィオナも、はしゃいでふわりと飛び、なんとケイの肩に乗って楽しそうにおしゃべりを始める。
「お菓子をお持ちしましたぁ。どうぞたーくさんお食べくださいませぇ」
 そう言ってマルキアが持ってきたのは、蜂蜜ケーキにアップルケーキ、ジャムクッキーにおはぎ‥‥。すなわち、ケイの苦手な、甘いものばかり。ケイの額にうっすらと青筋が浮かぶ。極めつけは、シルヴィアの一言。
「あ、そうだ。ケイ様にお願いがあります。お城に残られているパーシ様に林檎パイを届けてくださいませんか? ケイ様でしたらお城にいきやすいでしょうし‥‥」
「なぜ私がパーシ卿に、そのようなものを持って行かねばならないのですかっ!」
 思わず声を荒げて立ち上がる。ケイとパーシが犬猿の仲であることは、王宮の中では有名な話だ。
「ご、ご気分を害してしまいましたか? ご、ごめんなさいぃ〜!」
 ケイの不機嫌な声に、マルキアが目に涙を浮かべて悲鳴のような声を上げた。
「見捨てないでください、ご主人様ぁっ!」
 マルキアはこう見えてファイターである。彼女の全力でのしがみつきに、体力はからっきしのケイは身動きすらできない。というか無意識に‥‥締めてる、締めてる!
「わ、わかりました、わかりましたから落ち着いてください!」
 その時確かに、ケイは青ざめていた!
「‥‥俺だけ失礼にならないように気をつけたって‥‥」
 苦労性のリースは、テーブルの隅で頭を抱えるばかりだった。


 気を取り直して。
 甘くないパイや、シルヴィアが持ってきたミントティーを啜るケイも、やっと落ち着いてきたようだ。
(執事勝負とやら‥‥本当にするおつもりなのだろうか‥‥でも見たい)
 そう思いながらリースは先ほどからケイの様子をチラチラとうかがっていたが、思い切って口を開いた。
「なんでも、トリスタン卿に対決を申し込まれたと耳に挟みましたが?」
 ケイの表情がぴくり、と動く。そう言えば、ケイの格好はいつにもましてビシッと決めた、漆黒の執事服。まんざらその気がないでもないらしい。
「ふーん、執事対決ねぇ。楽しそうじゃない♪」
 すっかり気を取り直したフィオナが、悪ノリする気満々の笑みを浮かべる。
「私はケイ様を応援しますぅ。頑張ってください!」
 マルキアも拳をぐっと突き出してうなずいてみせる。
 ちらりと奥の部屋の方に目をやると、そこにはトリスタンの――執事服に、狐耳と尻尾をつけたトリスタンの姿が。なんというか‥‥元が美しすぎるだけに、そんな格好すら絵になってしまって危険。
「相手は狐耳装備ですか? 手強いですねぇ‥‥では対抗して」
 そう言いながらマルキアが、懐‥‥というか胸元から、何かをごそごそと取り出す。
「ねこさんキャップです! あ、こっちのラビットバンドの方がいいですかぁ?」
「私は猫耳がいいと思います。対決するのなら条件は公平にしなくてはいけません。きっとお似合いですよ」
 真面目な顔をしてそんなことを言うのは、もちろんシルヴィア。本人にはおかしなことを言っているつもりは全くなかったり。
「‥‥わたしをからかっているのですか?」
 再び額に青筋を浮かべそうになったケイに、リースが真剣な表情で告げてみせる。
「決して、からかってなどいませんよ。普段王宮におられるケイ卿はご存じないでしょうが、けも耳執事は今、キャメロットの流行です。いまや執事と言えばけも耳、けも耳と言えば執事というくらい民草の間では浸透しております。イギリス王国を代表する執事であらせられるケイ卿が、それをご存じなかったと民草が知った時にはどれほど悲しむか‥‥」
 最後には哀れっぽい表情まで浮かべてみせたリースは、なかなか名演だったと言えるだろう。だが、相手は【舌で竜を殺す者】、一枚上手だった。
「イギリス中の執事の手本となるべき私が、なぜ民草を手本になどしなくてはならないのです? 民草の間で流行しているからと言って、私がすべき理由にはなりませんね」
 リース、撃沈。
 だが次にティズが無邪気に尋ねた一言に、今度はケイが硬直した。
「で、誰の執事をするのですか?」
「そういえば、執事はサービスする側ではありませんか?」
 シルヴィアも首を傾げる。ニヤリと笑ったのはフィオナだ。
「今回、ご主人様にふさわしいのと言えば‥‥」


「さぁ始まりました奉仕無制限一本勝負! モル君の寵愛を受けるのはトリスたんか、サー・ケイかっ?」
 言葉巧みな司会で盛り上げるのはフィオナだ。完全に悪ノリしている。
「なぜだ‥‥なぜ私がモルにほ、奉仕などと‥‥」
 青ざめるケイに対し、モードレッドは甘味のせいもあってご機嫌だ。
「トリスの奉仕は素晴らしかった! 先生のご奉仕も楽しみだな〜」
 モルは、幸せに浸るあまり、思いっ切り調子に乗った発言をもらす。
「モル、あなたは‥‥」
「執事はご主人様に絶対じゃないの?」
 思わず説教しかけたケイを、自称審査員のティズの言葉が引きとめる。
「‥‥いいでしょう、私の本気を見せて差し上げますよ」
 ひきつった笑みを浮かべるケイが覚悟を決めて、それはそれは優雅に一礼して見せる。
 噛みつきそうな勢いで羊皮紙片手に執事対決を見守っているギャラリーから、ため息がこぼれる。
 そのまま完璧な姿勢でモルへと近づいたケイの視界に、ふと一冊の本が入る。誰かがテーブルの上に置き忘れた手作りの薄い本。
 タイトルは――『鬼畜執事のイケナイご奉仕』。
 それを見たケイはにやりと――それはそれは邪悪な笑みを浮かべてみせる。
「ふむ、なるほど。こういうご奉仕もありですか。ねぇ、『ご主人様』?」
 人間としての本能で身の危険を察知したモルが椅子から転げ落ちるように後ずさる。
「け、結構です、参りました‥‥」
 あまりの恐さに、思わず呟くモル。
「ご主人様が降参したら、審査できないじゃない!」
 ティズが不満そうにつぶやくが、もはや続行は不可能だった。


 そんなこんながあったにせよ、全体としてお茶会はほのぼのと進んだ。
 トリスタンの弾き語りを聴いたり、フィオナがシルヴィアのことを「パーシ君の未来の奥さんです」などと紹介して本人を慌てさせたり。
 モルはと言えば、彼を囲む甘味の数々にいつになくはしゃいでいる。そんな彼を心配そうに見ているケイに、リースが微笑みかける。
「気を揉まれるお気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてください。モードレッド卿もきっとお考えがあることでしょう‥‥我々の英気を養ってくださっているのやも‥‥」
「いいえ、ただ自分が楽しんでいるだけです」
 ケイがきっぱりと言う。
「ですが‥‥それがモルなのです。自分が楽しむことで周りを楽しくさせる。ああして、いつも楽しそうでいればいいのですが」
 遠い目をしながらケイが呟く。彼の目にはモードレッドの未来に、何が見えているのだろうか。
「さて、私はそろそろ。あまり遅くなるわけには――」
 そう言いながらケイは、テーブルに残った菓子類の品定めをし始める。
「ケイ卿が甘いものを? あ、もしかしてご家族へのお土産でしょうか?」
「え、えぇまぁ」
 シルヴィアの問いに、ケイが珍しく歯切れ悪く答える。
 お菓子作りをしていた冒険者から持ち帰り用のバスケットを渡されたり、トリスタンが選んだ四葉型のケーキやシルヴィアがお勧めの林檎パイを選んだりで、ケイの手元にはたくさんのお土産が集まった。
「可愛らしいあの方によろしく」
 トリスが耳元でささやくと、ケイの顔がほんのわずかに赤みを帯びたような。
「これで今までの嫌な気分も抜けたなら、得だと思わなくっちゃね!」
 相変わらず礼儀のなってないティズの言葉だったが、それでもケイはほんの少しだけ、微笑んだのだった。