神隠しの森
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:sagitta
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月17日〜04月22日
リプレイ公開日:2008年04月23日
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●オープニング
「う、うちのハックを、探して欲しいんです!」
青ざめた顔でギルドに飛び込んできたのは、薄汚れた野良着に身を包んだ明らかに農民風の男。キャメロットの街には似つかわしくない、ましてギルドに顔を出すことなど本来なら生涯なかっただろうと思われるような人物だ。
「落ち着いてください。何があったんですか? ハック、というのはお子さんの名前ですか?」
ギルドの受付嬢がコップに注いだ水を差し出し、冷静な声をかける。男はそれに二度三度うなずくと、コップの水を一気に飲み干し、深呼吸をして呼吸を整えて口を開いた。
「ハックは、九つになるわたすのムスコです。ちょっと目を放した隙にいなくなってしもうて。もうまる二日も帰ってきてないんです。わたすのムスコだけじゃのうて、村の子供たちが5人もいなくなってます。きっと、村の隣の森の中に入ってしまったんだ。あすこは猛獣もいっぱいいる、おっかないとこなのに‥‥」
なまりの強いイギリス語で、興奮したように男は話す。
「あなたのお名前は? 村というのは、どの辺りにあるのです?」
「わたすはピーターです。村はここから歩いて丸1日かかります」
ピーターによれば彼が住んでいるのは、キャメロット近くの、農業で生計を立てている田舎村。数日前から、子供が行方不明になる事件が相次いでいるらしい。
しかも、子供達は自分たちで親の目を盗んで森に入っていくらしい。
村の隣には深い森があるが、危険な動物や植物も多く、村が農村であることもあり、村人達はなるべく中には足を踏み入れないように暮らしてきた。もちろん、子供達にも口をすっぱくして言い聞かせてきたはずなのだが、最近では何故か子供達の間で森に入ることが「流行っている」らしい。誰かが噂を流しているという話もあるが、子供達はなかなか口を割らない。
「いなくなる前日に、ハックが森の屋敷がどうとか話していたのがもしかしたら手がかりになるかも‥‥ああ、こんなことになるなら、もっとムスコの話を聞いてやればよかっただ‥‥」
森に行かないように大人が必死で説得したが効果はなく、ついには5人もの子供が行方不明になるにいたり、現在ではやむなく全ての15才以下の子供を家の中から出さないようにしているとのことだ。
「家から出さないって?」
「外から鍵をかけて閉じ込めてます。ほんとはこんなことしたくないけど、これ以上子供がいなくなったら大変です」
とはいえこのままじゃどうにもならない。なんとかしなくては、と頭を悩ませた大人たちは、なけなしのお金を集めてピーターに持たせ、村の代表としてキャメロットへ送り出したのだった。
「どうか、ハックを探し出してください! そんで、原因を突き止めてこの事件を終わらせて欲しいんです!」
ピーターが悲痛な表情で懇願する。受付嬢はそれにしっかりとうなずく。こういうときこそが冒険者の出番であるはずなのだから。
●リプレイ本文
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「ほ〜らみんな、遊び〜ましょっ♪」
昼下がりの農村に、尾上楓(ec1272)の明るい声が響く。それに応じるように上がるのは、子供達の歓声だ。閉じ込められて退屈していたためか、はたまた生来の純朴さゆえか。村の子供達は突如現れた冒険者達にすっかり打ち解けている。
事件の謎を解く鍵は子供達にあると考えたセフィード・ウェバー(ec3246)が村の大人たちを説得して、子供たちを村の広場に連れ出したのだ。行方不明の子供を思って胸を痛める大人たちを励まし、「必ず私達がお子さんを連れ戻しますから安心してください!」と見得を切ったのは、マリエッタ・ミモザ(ec1110)だ。幼い頃に両親を亡くしている彼女は、心配している親を見るといてもたってもいられないのだ。
「ほら、手品だよ〜」
そう言って、マリエッタは子供たちの前でファンタズムのスクロールを広げてみせた。目を閉じて念じると、彼女のペットであるフォックスのゼファーの黄金色の背中に、白鳥のような美しい翼が出現する。もちろん幻なのだが、子供たちは目を丸くして歓声を上げている。
他に、楓がお腹をすかせた子供たちに桜餅を与えたりしてすっかり子供たちの警戒心も溶けた頃、セフィードが慎重に切り出す。
「みんなは、他の子たちがどこへ行ったか知らないかい?」
「あなた達が大事にしてるものを荒らすつもりはないのよ。ただ、他の子たちが帰ってこないのは、普通のことではないの」
マリエッタが真剣な表情で訴えると、楓もうなずく。
「実は私達、あなたたちのお父さんお母さんに、心配だから様子を見てきてほしい、って頼まれたの。大人の人たちも、あなたたちを心配しているのよ」
急に真剣な雰囲気になった三人に、子供たちがしん、となる。やがて一番年下の、4才のトムが口を開く。
「ハックたちは、森へ入ったんだ」
「あ、トム。ハックたち、お父さん達に言っちゃいけないって言ってたよ」
咎めるような口調で言ったおませな女の子、6才のアンナの頭に、セフィードがぽん、と手を乗せる。
「君たちが話したくないというんなら、ご両親たちには内緒にしておこう。約束するよ。私達は『お父さんたち』ではないからね。ハックも、私達に話してはいけないとは言ってないだろう?」
「そうよ。ただ私たちは、みんなが安全なところにいるのかどうか、それだけが聞きたいの」
アンナたちはしばらく眉間にしわを寄せて、セフィードたちの言うことを考えていたようだったが、やがて話してもいい、と判断したらしい。他の子供達に目配せをすると、ぽつりぽつりと語り始めた。
「森にね、かっこいいお屋敷があるんだって。お話の中に出てくるみたいな、お城みたいなの」
「最初に、アンソニーとジェーンが屋敷を見つけるんだって、森の中に入っていったのよね」
アンナの言葉を引き継いで、ヘレン(同じく6才)も興奮した様子で話す。親たちから事前に聞いていた情報によれば、最初にいなくなったアンソニーとジェーンはともに12才、アンソニーはこの村のガキ大将的存在だったらしい。
「すぐにジムとダニーも追いかけたわ。『アンソニーたちよりも早く屋敷を見つけてやる』って。でもみんな戻ってこなくて、ハックが僕が探しに行く、って」
一気に話して、ヘレンがふぅとため息をつく。横ではアンナとトムもふるふると首を縦に振っている。
「なるほど‥‥ね」
彼女達の話を聞きながら、セフィードが気になったのは先ほどから一言も喋らずに複雑な表情で俯いている最年長のチャーリー(11才)だった。マリエッタと楓の耳元に唇を寄せて、小さく耳打ちする。
「私はチャーリーと二人きりで話してみようと思うんだ。他の子たちを連れ出して遊びに行ってくれないか」
彼の言葉に、二人はしっかりとうなずいて子供たちに笑顔を向けた。
「ありがとう、すごく助かったわ! さぁ、みんなもう少し遊びましょうか。妖精ごっこ、教えてあげるわ!」
そう言って楓がヘレンとアンナの手を引く。
「ゼファーも、みんなと一緒に遊びたがってるわ。ねぇ、ゼファー?」
マリエッタが言うと、フォックスのゼファーは『仕方がないなぁ』とばかりに耳を伏せて、背中を触りまくるトムにされるがままになっている。
5人が行ってしまうと、広場の片隅にセフィードとチャーリーだけが残された。
「さて、チャーリー。何か話したいことがあるんじゃないかな?」
「ど、どうして?」
初めて口を開いたチャーリーの声はおどおどと震えている。
「私は別に君を責めようと思っているわけじゃない。ただ本当に、真実が知りたいんだ。君も、いなくなった子たちが心配なんだろう?」
セフィードが優しい声でそう言うと、チャーリーは泣きそうな表情になって話し始めた。
「黒ずくめの人に、脅かされたんだ! 『森の屋敷まで子供を連れて来ないとひどい目に合わすぞ』って‥‥ボクは、どうしていいかわからなくて、それで、それで‥‥ひっく」
もはや完全に泣きながら話し続けるチャーリーの言葉に、セフィードが眉をひそめながら耳を傾ける。
チャーリーの話をまとめると、こうだった。
チャーリーは気が弱いいじめられっ子。ある日森の近くで一人ぼっちで遊んでいると「黒ずくめの男」がチャーリーのところに来て、「森の屋敷まで子供をつれて来い、さもないと痛い目に合わすぞ」と脅された。怯えたチャーリーは、妙案を思いつく。負けず嫌いのアンソニーの前で、「森に立派な屋敷があるって聞いた。古い屋敷で、冒険者が行く遺跡みたいに、お宝とかいっぱいあるかもしれない。でも森は危険だから、そこに行ける勇気のあるやつなんていないよなぁ」と話したのだ。
負けず嫌いなアンソニーは、思惑通り森に行った。でもまさかジェーンまで行くとは思わなかった。慌てた彼は、ジム、ダニー、ハックに相談した。もちろん思惑を隠して。そうしたら、三人まで帰ってこなくなってしまったのだという。黒ずくめは、それ以来きていない。屋敷への道は、黒ずくめに教えられている。
「ふむ‥‥そういうことか。これは思ったよりまずいことになっていそうだ」
セフィードがひとりごちる。
「ごめんよ‥‥ボク、ボク、こんなことになるだなんて思わなくて‥‥」
泣きじゃくるチャーリーの頭を、セフィードが優しく撫でる。
「わかっているよ。よく話してくれたな。そしてよく頑張った。大丈夫だ、みんなは私達が必ず連れて帰るから」
チャーリーに話しながら、セフィードは決意を新たにするのだった。
●
チャーリーに教えられたとおりに森に入った一行は、やがて目的の屋敷にたどり着く。
小ぢんまりとした屋敷ではあるが、こんな森の奥にあるには不釣合いなほど立派なものだ。おそらく相当に古いもので、ところどころが壊れている。
「中に呼吸は7つあります。大きな呼吸と小さな呼吸がひとつずつ、近くに。あと、小さな呼吸が5つ。これは少し離れたところに固まってあります」
マリエッタが、屋敷の入り口で「ブレスセンサー」の魔法を使い、中を確かめる。
「離れたところにある小さな呼吸5つ、というのが子供たちでしょうね。固まっているのは、閉じ込められているから、かな」
「もうひとつの小さな呼吸、というのがわかりませんが、チャーリー君の言うとおりなら大きなのはおそらく黒ずくめ、ですか」
楓が幼さの残る眉をひそめながら呟く。
「こうしている間にも子供達に危険が及んでいるかもしれません。突入しましょう」
扉に鍵はかかっておらず、ギイという音を立てて冒険者達を中へと導く。
中では、漆黒のローブを身を纏ったウィザード風の男が、一行を睨みつけていた。
「あなたですね、子供達をさらっているのは。いったいどうするつもりなのです!」
楓が鋭い表情で問うと、男はにやりと笑った。邪悪な笑みだ。
「私の名はグレゴリーだ。実はこの屋敷で、古い書物を見つけてな。念のためにすでに燃やしてしまったが、中身は頭に叩き込んである」
「書物?」
マリエッタが首を傾げると、グレゴリーは嬉しそうにうなずく。
「魔道書だよ。その内容はこうだ。『7人の子供を生贄に捧げよ。さすればデビルの王が現れ、汝の願いをかなえるだろう』」
「そのために生贄だと! なんと邪悪な!」
「交渉の余地はなさそうね」
「とにかく、子供達は帰してもらいます」
セフィードが吐き捨て、マリエッタ、楓も臨戦態勢をとる。
「邪魔するものは排除するまでだ。インプよ、やつらを引き裂いてしまえ!」
グレゴリーのそばにいた『小さな呼吸』の正体は小悪魔インプだったらしい。狡猾な笑みを浮かべた小悪魔が、宙を舞って楓に襲い掛かり、戦いの火蓋は切って落とされた。
切りかかったインプの攻撃を巧みにかわし、逆に小太刀で切りつける楓。その力の差は歴然だ。あっという間に重傷を負わされたインプは、屋敷の外に逃走してしまった。
「これでも食らえ!」
高速で詠唱を終えたセフィードがコアギュレイトの魔法を放つが、すんでのところでグレゴリーに抵抗されてしまう。
その間に詠唱を終えたグレゴリーがマリエッタに向けて放ったのは、グラビティーキャノンの魔法。必死で身をかわすも、黒い帯が足をかすめわずかに血が滴る。
「お返しです!」
マリエッタが叫び、放たれた一条の電光がグレゴリーを襲い、軽傷を負わせる。
「今度こそ!」
再び襲う、セフィードの呪縛の魔法。今度は抵抗もままならず、グレゴリーは動きを封じられて観念したのだった。
●
無事に村に連れ帰った子供たちが、親たちの元へ走っていく。
村にたどり着くまでは強がっていたアンソニーやハックも、親の顔を認めるとぐしゃぐしゃに泣き出し、広げられた腕の中へ飛び込んでいく。
言葉は要らない。ただぬくもりが、自分へ注がれる愛情を教えてくれるはずだ。
無事に仕事を終えた冒険者達は、満足そうな顔で彼らを見つめていた。