【微睡みの終焉】因縁の咆哮

■ショートシナリオ


担当:sagitta

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 2 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月29日〜10月09日

リプレイ公開日:2009年10月09日

●オープニング

「ついに・・・・恐れていたことが現実になってしまいましたか」
 南方の遺跡にて、【邪眼】のバロールが復活。
 サー・ケイがその知らせと、血塗れのモードレッドがキャメロットに運び込まれたことを聞いたのは、【邪眼】復活から数日後、キャメロット城においてだった。
 さらわれた王妃も、奪われた聖剣も、いまだこの城には戻っていない。
 度重なる未曾有の事件に、キャメロット城と円卓の騎士たちは休む暇もなかった。
 ケイも傷が癒えたばかりの身体を押して、王城で情報収集と事態打開の策を練るために、昼夜もなく王城に詰めるようになって半月近くにもなる。側近の話によれば、その間ずっと執務室に籠もりきりで、差し入れられた食事をわずかに口にするのと、一日に数時間だけ仮眠を取っているのを除けば、まったく休んでいる様子がないと言う。
「事件の裏にはデビルどもの影があることも間違いないようです。となれば・・・・王国にとって危険きわまりないと言えるでしょう。そして、王国を守るべき円卓の騎士の多くが、今動ける状態にはない。これはゆゆしき自体です」
 白皙の細面をさらに白くして、ケイが独り言のように呟く。報告に来た騎士が思わず目をそらすほど、その表情は険しかった。
「【邪眼】の復活だけではありません。クロウ・クルワッハ――すなわち、【混沌の竜】が目覚めたとの報告もあります。詳細は不明ですが、【混沌の竜】と【邪眼】にはなにやら関係があるという伝承もあるようです」
 言いながら、ケイはそっと目を閉じる。
(モル、トリス・・・・私の親しい者たちは傷ついてばかりだ・・・・)
 血塗れで運び込まれたモードレッド、心臓を奪われて死に瀕しているトリスタン。ケイが心から信頼する数少ない友が、次々と傷を負っていく。
 そしてその中心にあるのが、南方遺跡での一連の事件だ。
「しかし、悪いことばかりではありません。人間に仇なす【邪眼】が目覚めたように、人間の護りとなる【銀の腕】もまた目覚めています。そしてもうひとつ、『スカアハ』という名の槍持つ女戦士。私の推測が確かならば、彼女はきっと我々に協力してくれるはず――」
 そこまで言って、ケイは執務室の窓から空を仰いだ。白銀色の月光が斜めに射し込み、室内を青白く染める。
 キャメロットを包むのは、暗い雲ばかりではない。闇夜の中で輝く月や星の光のように、人びとの希望の光は決して消え去ってはいない。
「私はすぐに、南方遺跡に向かいます。冒険者ギルドに触れを出しなさい。私の護衛となる冒険者を集めるように」
「ケイ卿自らが? しかし、南方は【邪眼】の復活によって活発化したフォモールたちによって大変不穏な空気です。ここは我々騎士団が――」
「控えなさい。ここで我が身可愛さの余り出陣をためらう者が、円卓の騎士と言えますか? それに――この仕事は私でなければ務まりません。・・・・あの【銀の腕】に――かつての神々の王に、神同士の戦いの始まりを告げに行く、この役目は」

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)
 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

メグレズ・ファウンテン(eb5451

●リプレイ本文


「邪眼のバロール・・・・悪魔とも何ともつかないとんでもない者が蘇ってしまったのだ。余自身もその忌まわしい復活の現場に居合わせ、遺憾ながらデビルの姦計も邪眼とやらの復活も止められなんだのだ。無念至極である」
 顔をしかめながらケイ・エクターソンに話しかけているのは、神聖ローマ帝国のテンプルナイトにして貴族でもあるヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)だ。彼は護衛もかねてケイの馬車に同乗し、独りでは沈みがちなケイの話し相手も務めていた。
「いえ・・・・責められるべきはツェペシュ卿ではありません。私こそ、早々に邪眼の情報をつかんでいたというのに、全てが後手に回ってしまい、結果的にその復活を許してしまった・・・・」
 ケイが苦しげに答える。彼の顔に浮かぶのは深い自責の表情だ。
「・・・・ケイ卿。過ぎたことを悔やんでも始まりません。今は我々ができることを成すことが大切なのですよ」
 馬車の外からそう声を掛けたのは、セブンリーグブーツで馬車に併走するルースアン・テイルストン(ec4179)だ。護衛のために周囲の気配に気を配りながらも、彼女はやつれた様子のケイのことを気に掛けているようだ。
「そうであるぞ。かくなるうえは、ケイ殿が交渉に成功した『神』ヌアザとの共同戦線。これが頼みであるな」
 そう言ったヤングヴラドが、ふと自分の言葉を思い返して複雑な表情になる。
「・・・・『神』か。慈愛神の地上代行者たる教皇庁直下テンプルナイトとしてはいささか釈然とせぬ話ではあるが」
「『神』とは大いなる力を持つ者への尊称と考えるべきでしょう。実際、【銀の腕】を目の当たりにした時に、彼が『神』と呼ばれる理由を肌で理解しました。・・・・ジーザスの教えに背くようなものではないと、私は考えています」
 ケイがヤングヴラドに語りかける。すらすらと言葉が出てくるところを見ると、おそらく事前から自分の中で考えていたことなのだろう。
「そうであるな。余は狂信者ではないつもりである」
 ヤングヴラドがにこりと笑う。
「そうだよ! ヌアザ様ったら、すごかったんだから!」
 不意に明るい声が聞こえ、ケイたちが顔を上げると、黄金の竜に跨った白銀の鎧の騎士、ティズ・ティン(ea7694)が馬車の近くまで降下してきたところだった。
「でも、ファッションがやっぱり昔風だったなぁ。イマドキは、神様だっておしゃれしなくっちゃ! ふふふ、実ははやりの服をいくつか作ってきたんだ。ヌアザ様、着てくれるかなぁ?」
 ティズにかかれば、一度会ったものは神様だって友達である。そんな彼女の無邪気な様子に、ケイたちは気負っていたものが少しだけ軽くなったような気がした。
「みなさん、野営をするべき場所を見つけましたよ――って、あれ? 何だかみなさん、楽しそうですねぇ」
 空飛ぶ絨毯で偵察をしていた元馬祖(ec4154)が、そう言ってちょこん、と首を傾げた。
「休める時にはきちんと休むことも大切ですからね。ケイ卿がしっかり休めるよう、護衛は万全にさせていただきます」
 ルースアンがそう言い、他の三人もしっかりとうなずく。
「みなさん――お気遣い、痛み入ります」
 素直に頭を下げた【舌で竜を殺すもの】ケイに、冒険者たちは目を丸くするのだった。

 「護衛は万全に」とのルースアンの言葉に偽りはなかった。
 ルースアンと馬祖が常に監視役をかって出て、周囲への警戒を怠らない。馬祖のインフラビジョンの魔法により、夜中でも周囲に気を配ることができた。
 あまり整備されていない街道を通ることも多かったから、命知らずの盗賊や、腹を空かせた野生動物に襲われることも何度かあったが、ヤングヴラドやティズの圧倒的な戦力の前に、何かが出来ようはずもない。
 そもそもケイ自身がそのような輩に後れを取ることはないから、護衛の依頼自体は容易なものだった。
「フォモールが、現れませんね」
 不審そうに呟いたのは馬祖だ。以前あれだけ周囲の村を騒がせたフォモールが、その片鱗さえ見せてこない。
「親玉が復活したのならば大喜びで騒いでいてもよさそうなものであるがな」
 ヤングヴラドもそう言って頭を捻る。
「もしやどこかに集って何かよからぬことを企んでいるのではないでしょうか‥‥」
 ルースアンが不安そうに呟く。
 暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばしたのは、ティズの明るい声だ。
「まぁ、今考えていてもしょうがないよね。とりあえず、ヌアザ様のもとへレッツゴー!」


 そうして、何事もなく到着した【銀の腕】の遺跡。
 荒涼とした様子は変わらずだったが、主が復活を遂げた今、どことなく精気に満ちているように感じられる遺跡を横目に、冒険者たちは地下へと進んでいく。
 古き言葉が刻まれた石の扉の前で立ち止まり、ケイは大きく息を吸い込む。
「円卓の騎士ケイ・エクターソン、盟約によりいと高き【銀の腕】に見えんと欲す!」
『――来たか、ケイ。入るがいい』
 威厳に満ちた低い声とともに、扉がゆっくりと開く。
 部屋の奥には黄金の椅子に腰掛けた初老の男性の姿。右腕には銀製の義手。【銀の腕】のヌアザである。
「お久しゅうございます、ヌアザ王」
『久しいだと? 永劫の時を生きる我にとっては瞬きしたほどの時に過ぎぬ』
 一礼したルースアンに対し、ヌアザが笑う。
「お初にお目にかかります、神々の王よ。私はウィザードの元馬祖と申します」
 そう言って丁寧に頭を下げ、持ってきた酒を献上しようとした馬祖に、ヌアザが手を振って応える。
『まどろっこしい気遣いは無用だ。我が神々の王などと呼ばれたのは遙か昔のこと。今は我とお前たちは同盟者だ。あの忌々しき【邪眼】との戦いにおける、な。そうだろう、ケイ?』
「ええ。そのように言っていただけると、大変心強い」
 どうやら【銀の腕】はずいぶんと機嫌がいいらしい。それを見たティズがうれしそうにヌアザの元に駆け寄った。
「ヌアザ様! 久しぶりだね! 今回は正装してきたよ。そうそう、それからね、ヌアザ様におしゃれしてもらおうと思って今風の服を持ってきたんだ。はい、お土産。やっぱり、第一印象はどんな場面でも大切だからね。人は強さや知恵だけじゃ、ついてきてくれないものだよ」
 いつの間に着替えたのか、フリルメイドドレスを着込んだティズが、持っていた服を取り出してはハイテンションでまくし立てる。
 文字通り神をも恐れぬ物言いにあたりが凍り付くが、ティズは気づきもしないでしゃべり続ける。
 一瞬の沈黙。
 全員の視線が、ヌアザに注がれる。
『がっはっはっはっ!』
 豪快な笑い声。
『永い時を生きてきたが、我に向かってこのように話す小娘はお前が初めてだ!』
 どうやらティズの突き抜けた傍若無人さが、かえってヌアザ神に気に入られたらしい。緊張しながら事態を見つめていたルースアンと馬祖がほっと胸をなで下ろす。
 一方、部屋に入ってから一言も話していないヤングヴラド。不審に思った馬祖が彼の方を振り向くと――。
「か、か、か!」
「か?」
「神降臨キター!」
 両手を天に掲げて、ヤングヴラドが吠える。どうやら、異教とはいえ神を目の前にして、興奮が抑えきれないらしい。
「あなたが神か? 普段はどんな風に過ごしているのであるか? 神というからには、使徒に魔法を授けられたりするのであるか? 奇跡を、奇跡を起こすこともできるのであるかっ? やはり神には人間以上のスペックを期待してしまうのだ!」
 興奮のあまり、ずいぶんと失礼なことを言っていることにも気付いていないようだ。
 だが、それを聞いたヌアザの表情は意外にも深い思案に沈んだ。
『神、か。多くの信奉者を持っていた遙か昔には、我は紛れもなく神であった。だが、豊かな地を追われ、信仰するものも失った今、我々は古き神に過ぎぬのかもしれん・・・・』
 ヌアザの言葉に、ケイは言葉を失う。ヌアザたち古き神々を追いやったのは、イギリス王国に他ならない。
『だが我は再びこの地に甦った。使命を見つけたからだ。その使命を果たすため、我が全ての力を掛けよう』
「ヌアザ王は、やはりバロールが目覚めたことをご存じなのですね」
 ルースアンの言葉に、ヌアザは深くうなずいた。
『ああ、もちろんだ。今ならわかる。我が目覚めたのは奴を滅ぼすため。そのために主ら人間と手を結ぶとは夢にも思わなんだ。だが再び我の存在意義を見出したと思えば、愉快ではないか!』
 豪快に笑い飛ばしたヌアザに、先ほどの陰はもうない。
「そうそう、スカアハ様ってのが活動しているみたいだけど、ヌアザ様の奥さん?」
 ティズが言うと、ヌアザの表情がふっと穏やかになった。
『スカアハか。妻ではない。あれは我の側近であり、仲間であり、友でもあったものだ。そうか、あれもまた甦ったか』
「やはりそうでしたか。このたびの【邪眼】との戦いに協力してもらえるよう、スカアハ殿にも働きかけていただけますか」
 ケイの言葉にヌアザはうなずく。
『無論だ。あれがいれば心強い』
「他の神々は、どのような方がいらっしゃったのですか?」
 ルースアンが尋ねる。
『様々な神がいたが、今どうしているかはわからぬ。だが、そうか・・・・【邪眼】が復活したとなれば、聖剣を――』
「聖剣?」
『我々が【邪眼】を封印した時、いつの日か封印が解かれた時のために大いなる力を持つ三本の剣を作った。カリバーン、カラドボルグ、そしてエクスカリバーだ』
 冒険者たちはヌアザ神の口からエクスカリバーの名が出たことに驚き、そしてそれが今どこにあるのかを思い至って暗澹とした気持ちになる。
 だが、沈んでばかりもいられない。運命の歯車はもう動き出しているのだ。放っておけば世界は奈落へと墜ちてゆくばかりだろう。
「改めて、ヌアザ閣下。【邪眼】を倒し、世界を滅びから救うため、剣の誓いをお願いいたします」
 ケイがそう言って剣を抜き、掲げる。ヌアザもうなずいて玉座から立ち上がり、光の剣クラウソラスを抜き放った。
 刃が打ち合わされる甲高い音は、人びとの希望への序奏となるはずだ。