【バロール侵攻】銀色の緒戦
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■ショートシナリオ
担当:sagitta
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 95 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月24日〜11月03日
リプレイ公開日:2009年11月02日
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●オープニング
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南方遺跡群の地に封印されていた邪眼のバロールの復活から間もなく、領主は騎士団を再編成しバロール討伐隊を領地内の各所に配置した。
しかしその人数は決して多いとは言えず、今回も各町村から有志の男性が集まり、騎士と住人による混成部隊がいつ来るかもしれないバロールとその軍勢の警戒に当たる事となった。
不安と緊張の中で過ごす日々は1日1日が────いや、1秒でさえも長く感じる。
「神経が焼き切れちまいそうだ‥‥あんた達はいつもこんな辛い事を俺達の為にやっていてくれてたんだな」
見張り番の男性は、隣で篝火を炊く騎士をジッと見つめ口を開いた。
「ありがとよ。改めてあんた達騎士を尊敬するぜ」
「当然の事をしてきただけだ。礼を言われる程の事はないさ」
騎士は感謝の言葉に頭を振ると、鼻の下を擦って照れ臭そうに微笑む。
「寧ろ貴殿達住民の皆には感謝してもし切れない。この地を守る為に力を貸してくれてありがとう」
「よせやい。体中がむず痒くならぁ」
今度は男性が気恥ずかしそうにぼさぼさ頭を掻き、暮れ行く空へと視線を移す。
そして騎士が淡い微笑と共に空を見上げた、その時であった。
ぞわり、と体中が粟立つ感覚が2人を襲う。
武器に手を伸ばし周囲へと彷徨わせた視線を真正面に戻した2人は、驚きに目を見張る。
「お前‥‥いつからそこに?」
音もなく現れたフードを目深に被った人物に、男性は掠れる声でそう尋ねた。
「遥か昔からだ‥‥地の奥深くに追いやられている間も、片時とて忘れた事はなかった‥‥この胸を焦がす憤怒と憎悪を」
「デビル風情が訳のわからぬ事をっ!」
「‥‥否。我はデビルに非ず。我は‥‥邪眼のバロール」
「なっ!?」
体の心が凍える程の冷たい声音の後、その人物は揺らめく炎に包まれ始める。
事態を悟った2人は町中に駐在する仲間の元へと走り出すが、背中から襲う熱風に吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ‥‥」
「大丈夫か!? くそっ、背中を焼き焦がされているな。すぐに手当てを‥‥」
倒れたまま動かない男性を抱きかかえる騎士は、ふと上げた視線に映るものに再び目を見張る。
「な、何だあれは‥‥」
左右にある森を焼き尽くす炎の中に佇んでいるのは、まるで塔の如き巨大な何か。
そしてその背に迫り来るのは、空を覆う黒い影。
「人間どもよ‥‥この地を汚し我から娘を奪った大罪を、その命を以って購うがいい‥‥」
────憎しみに満ちたその言葉が、一方的な進攻戦の狼煙であった。
それまでの沈黙が嘘の様に、邪眼のバロールはデビルの大軍を率いて南方遺跡群にある町への蹂躙を開始した。
人々は成す術もなく逃げ回り、混成部隊は防戦を強いられその数を減らしていく。
そして程なく、南方遺跡群領主はキャメロットに向け救援要請を出すのだった。
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「バロールが、村を――」
偵察隊の報告に、国務長官ケイ・エクターソンは唇を噛んだ。
ついに、本格的な侵攻が始まった。遙か昔に世界を恐怖に陥れた【邪眼】のバロールの侵攻だ。大規模な戦いになることは免れないだろう。
放っておけば、いくつの村が灰燼に帰すかわからない。王国を守るものとして、そのようなことを許すわけにはいかない――。
「ヌアザ閣下への連絡は?」
「はっ、ご指示の通り、私と同時に伝令が立っております。今頃はすでに閣下のお耳に入っていることと思われます」
鋭い刃のような表情のケイに、伝令の騎士が頭を垂れて報告する。
「よろしい。私もすぐに立ちましょう。ギルドに、救援要請の手配を」
そう言ってケイは、部屋に架けられていた漆黒のサーコートを身にまとう。
「円卓の騎士がひとり【王国の執事】ケイ・エクターソン、【銀の腕】のヌアザと合流し【邪眼】のバロールを討つため、南方の村に向かいます」
装飾のついた細身の剣を抜き放ち、ケイは高らかに宣言した。
●
「はあっ!」
気の弱いものなら聞いただけで倒れてしまいそうな裂帛の気合いを込めた掛け声が、南方遺跡群に響き渡る。
声とともに銀色の義肢から繰り出された光の一閃――光の剣、クラウソラスが、悠久の刻を経て存在してきた巨大な岩を真っ二つに断ち割った。
「くぅ・・・・やはり衰えは隠せぬ、か――」
凄まじいまでの破壊力をみせた主は、しかし苦しげな表情で言う。
「今の我は、最盛期の足元にも及ばぬ――かつてのように【邪眼】と対峙することはできないかもしれぬ」
その名を口にする時、唇が強く噛みしめられ、破れた皮膚から血が滴った。
「だが、今はひとりではない。人間たちが、我とともに戦おうとしている」
――証明してみせますよ。我々が、閣下にとって役に立つ存在である、と言う事を。
そういった銀髪の男のことを、彼は思い出す。
「いずれにせよ、我はこの命を賭して【邪眼】を滅ぼすまでだ。そのために、我は再び目覚めたのだからな」
そして、【邪眼】を斃した暁には、この世界を彼らに――次世代をになう人間たちに託し、自分はもう、眠りについてもいい頃かもしれない――。
心の片隅でそんなことを考えながら、かつての神々の王、【銀の腕】のヌアザはその大きな足を一歩踏み出した。最後の決戦の地へと――。
●リプレイ本文
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円卓の騎士ケイと【銀の腕】ヌアザ、そして彼らに協力する冒険者たちが辿り着いたとき、問題の町は剣戟と怒号、そして悲鳴に包まれていた。
必死で戦う派遣された騎士たちと村人による自警団に立ちはだかるのは、不吉な黒い雲。その正体が、おびただしい数のデビルたちだと知って、冒険者たちは戦慄する。
「うわぁ、これまた、たくさん出てきたね」
明るい声で呟いたのはティズ・ティン(ea7694)だ。武者震いをして、愛用の剣の柄を握りしめる。
「あそこにおるのはデビルばっかやな? フォモールさんたちはなるべく攻撃せぇへんようにしたいんやけど」
藤村凪(eb3310)が黒雲を見据えながら呟くと、マナウス・ドラッケン(ea0021)がそれにうなずく。
「フォモールもバロールも、可能ならば殺させないようにしたいところだ。殺すことで止めたりしたら、デビルの思う壺だからな」
「だが、フォモールはいないようであるな。見えるのはデビルばかりだ」
アヴァロン・アダマンタイト(eb8221)が首をひねりながら言う。
「おかしい・・・・フォモールどもはいわば、【邪眼】めの手足のようなものだ。このような時に、そばについていないなど考えられないのだが」
町をにらみつけながら、ヌアザがひとりごちた。
「ヌアザ神よ、お聞きしたいのだが、バロールというのはどのような神だったのです? なぜフォモールたちはあれほどまでにかの神を慕っているのでしょう?」
マナウスの問いに、ヌアザが怒りの炎を宿した瞳を向ける。
「やつは破壊と暴力の化身だ。やつを慕うべき要素などない。フォモールどもがやつに従っているのは、信仰や献身のためではなく、やつが、フォモールどもを創ったからだ。フォモールどもにとって、【邪眼】は創造主であり、絶対者なのだ」
「古き神だか何だか知らないが、今を脅かすのなら排除すべき敵でしかない。申し訳ないが、俺たちにとっては今こそが大切で、守るべきものなのだから」
アリオス・エルスリード(ea0439)が自分に言い聞かせるようにそう呟いて、ペガサスを駆った。
「ああ。古代の神と言えど、今を生きる者たちの生を自由にして良い筈が無い。人々を守る為に戦おう」
パラディンのヒースクリフ・ムーア(ea0286)も愛用の剣を抜き放つ。
「慈愛の神よ、勇者たちを邪悪なる存在からお護りください!」
リュー・スノウ(ea7242)が唱えたレジストデビルの魔法が、冒険者たちを包み込む。その対象は、ヌアザも例外でなく。
「我にも加護を・・・・くれるか」
「神たる身とはいえ此度は志を同じくする同志・・・・仲間ですから」
リューの言葉に、ヌアザが豪快に笑う。
「我の力は往時には及ばぬとも、我には今仲間がいるのだ。【邪眼】などに負けはせぬ」
「神と神との対決ねぇ・・・・しかも、あたいらもそれに関わろうってんだ。すごすぎじゃねぇか?」
クリムゾン・コスタクルス(ea3075)がそう言って不敵に笑う。
「さて・・・・現れたようですよ」
ぼそりと言ったのはケイだ。彼の言葉に、全員の視線が町の奥に注がれる。
黒煙を上げる炎の柱から姿を現した、塔のごとき巨影。
岩のような肌。突きだした二本の角。
そして、固く閉じられた一つきりの瞼。
「やれやれ今年は地獄で魔王様が甦ったと思ったら今度は邪神が復活? 何ともまぁ忙しないねぇ」
驚愕を軽口に替えて、グリフォンに跨ったアシュレー・ウォルサム(ea0244)が肩をすくめる。
「負傷した場合は、一旦退いてください。私が、治療しますから」
リューがみんなに声をかける。
「とうとう決戦の時だね。私がちゃんとアシストするから、ガンガン攻めちゃって!」
「私もあなたとともに、先陣を務める!」
口々に言ったティズとアヴァロンにうなずきかけ、【銀の腕】ヌアザが大地を蹴った。
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「雑魚の掃除はうちらに任しとき! ・・・・と言いたいとこやけど、なんちゅー数や! 交互に弓を撃って、迎撃を途切れさせんようにするんや」
「おぅ、任せろ! ヌアザって神さんを、なんとかあのバロールの野郎のところまでいかせねぇと。おめぇら、邪魔者はすっこんでろってんだ!」
走り出した前衛たちを追いかけるように、凪とクリムゾンが弓に矢をつがえ、一射ごとに飛び交う下級デビルを撃ち落としていく。
「矢を一点に集中して、ヌアザたちの通り道を作るんだ!」
「前衛があのバロールに集中できるようにするのが、俺たちの役目だ」
頭上ではアシュレーとアリオスが、それぞれの乗騎を駆って空中から矢を放っている。
「ところがどっこい、あいにくと今回は外す気がしないんでね」
軽口混じりのアシュレーの矢が、接近してきていたデビルを仕留めた。
「やれやれ、いくら下っ端とは言ってもさ、せっかく連れてきた配下のデビルたちが、そーんなに簡単に撃ち落とされたんじゃ、たまんないよな〜」
突然聞こえてきたのは、耳障りな高い声。何もない虚空から突如現れた鋭い爪が、治療の為に待機していたリューの腕を浅く切り裂いた。
「リュー、大丈夫かっ?」
「ええ、かすり傷です」
尋ねたクリムゾンの声に気丈に応え、リューが自らの敵をにらみつけた。
「貴様は・・・・!」
呻くような声を上げたのは、後方支援隊の隣で戦況を見据えていたケイだ。その細面は怒りのあまり朱に染まっている。
「あはは〜。また会ったね〜、目の前で王妃が攫われるのも止められなかった、役立たずの円卓の騎士どの〜! きゃはは!」
虚空から姿を現したのは、翼を生やした黒い犬の姿をしたデビル、カークリノラースだった。
彼はその翼で戦場を縦横無尽に駆け巡りながら、人間たちの突撃を妨害している。
「まったく、あの目ん玉お化けにはさ、せっかくフォモールっていうしもべどもがいるってのに、わざわざ僕らデビルたちがこーんなに招集されちゃってるんだぜ? まったくやんなっちゃうよね〜。あのフォモールとかっていう陰気なやつらは今、お城だか何だか作ってるみたいだけど・・・・」
そこまで言って、カークリノラースはハッとして口を噤む。
「アレ、僕ってばまたなんか余計なこと話しちゃったかな? ほんのすこーしだけ口が軽いのが、僕の唯一の欠点なんだよね〜。いけないいけない。あ、でもま、いっかー。ここにいる人たちはみーんな、殺しちゃえばいいんだもんね〜ってグハァ!」
甲高い声でしゃべりちらしていたカークリノラースの言葉が悲鳴に変わる。
「ヌアザ神が力を存分に発揮できるようにするのが我らの役目。貴様に邪魔はさせん!」
「私たちが道を開けちゃうから、ヌアザ様はどんどん進んでいってね!」
「お前たちの好きなようにはさせないぜ!」
最強の前衛たるヒースクリフ、ティズ、マナウス、アヴァロンらの強力無比な攻撃を受けては、さしものカークリノラースもひとたまりもなかった。複数の剣に切り裂かれ、デビルは永遠に沈黙した。
「援護感謝する! 今度こそあの【邪眼】めに一太刀くれてやるぞ!」
ヌアザが光の剣クラウソラスを振り上げて、鬨の声を上げた。その時。
「‥‥邪眼だ! 奴の目を見るなっ!!」
誰かの叫び。固く閉じられていた【邪眼】が、今まさに開かれんとしていた。
深紅の閃光。
先にバロールと対峙していた義勇兵の魔術師たちが声もなく地に伏していった。倒れたときにはすでに息はない。
この瞬間を待ち構えていたアシュレーが、開かれた目を狙って矢を放つが、纏わり付くデビルの身体に阻まれて届かない。
「見たものを死に至らしめる、必殺の邪眼――か。だが、今こそ!」
ヒースクリフがパラスプリントで一気に間合いを詰める。事前にヌアザに聞いていたバロールの弱点――邪眼を開いた後の隙を狙う。
動いたのは彼だけではない。射手たちの一斉射撃によって道が開く。バロールの周囲にまとわりつくデビルを前衛たちが蹴散らした。露になったバロールに【銀の腕】のクラウソラスが、電光となって襲いかかる。
確かな手応え。バロールは、身の毛もよだつ叫び声を上げて、耐えきれず膝を付いた。
「【邪眼】め、今度こそ本当に、滅びるがいい!」
ヌアザが咆え、再び剣を振り上げた。誰もが勝利を確信した、その時。
「僕を忘れてもらっちゃ困るなぁ」
くすくすと笑う声。
視界は、闇に包まれた。
『銀の腕め‥‥人間どもを味方につけ、我の前に立ちはだかるか‥‥』
呪詛の呻き声が響く。
闇が晴れた後、バロールの姿はない。
「逃がした、か」
放心したように、ヌアザが呟く。
「長年寝てたから、まだ寝ぼけてんじゃねぇのか?」
クリムゾンの容赦のない言葉に、ヌアザはふっと苦笑する。
「かもしれんな。だが、これで終わりではない」
「バロール――彼の憤怒と憎悪は、何処から来たのか。やっぱり、裏で糸引いてやがんのはあのルーグとかいうデビルだな」
マナウスが呟く。できることなら説得したい、とも思う。彼らも同じ国に住む者なのだから。