変態演出家アーチボルドの野望!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:sagitta

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月16日〜04月21日

リプレイ公開日:2008年04月21日

●オープニング

「つまりだね、フィクションにはリアリティというものが不可欠であると、この私は思うわけだよ」
 丁寧に刈り込まれた自慢の髭をしごきながら、アーチボルドが熱烈に語る。
「モンスターなど見たこともなく、命のやり取りをしたこともないものが、冒険譚を演じることに意味があるだろうか? 答えは、否だ。ギリギリの世界、生きるか死ぬかの瀬戸際の緊張感は、体験したものにしかわからぬ。そうではないか?」
「は、はぁ」
 ぐい、とアーチボルドの濃い顔に迫られ、受付嬢はあいまいな笑みを浮かべる。その頬からは冷や汗が滴り落ちている。
「私は長年、フリーの脚本家、演出家として多くの演劇を手がけてきたが、既存の劇団の役者どもは私の劇を小器用に演じるだけで、そこにリアリティは全くなかった。このままではいかん。天才たるこの私は、本当の演劇を作るべきだ、との結論に思い至ったというわけだ」
「ほ、本当の演劇?」
「そのとおり!」
 お愛想程度に受付嬢が尋ね返すと、アーチボルドは興奮した声でびしっ、と人指し指を受付嬢の眼前に突きつけた。
「ひ、ひいっ!」
「私が作る演劇は、命のやり取りを体験したものでなければ演じられぬ。となれば、役者にふさわしいのは、そう‥‥冒険者だ」
 そう言うと、アーチボルドは自分が出した答えに満足するようにゆっくりと目を閉じた。
「役者だけではない。脚本そのものも、冒険者達の本物の体験をもとに執筆するべきなのだ。それに協力したいと申し出る熱意ある冒険者を、私は求めているのだ」
「で、でも、そんなに長い時間は取れないですよ? 脚本を書くのもお稽古をするのも、2日くらいで済ませないと。冒険者達はきっと、演劇の経験なんてないでしょうし‥‥」
「君は、私を誰だと思っているのかね? 天才演出家、アーチボルドだ。2日もあればぺーぺーの素人を大俳優、大女優に変えてみせるとも」
「さ、さいですか」
「求む! わがリアリティ演劇の賛同者よ! 私とともに、新たな芸術の構築に挑もうではないか!」
 すくっと背筋を伸ばして立ち、かっと目を見開いてアーチボルドは宣言した。

●今回の参加者

 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec4647 サラ・クリストファ(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●脚本執筆&配役決定
「よし、行ける、行けるぞ! 断言しよう、これは素晴らしい作品になるっ!」
 上ずった声で唾などを飛ばしながら、机に向かったアーチボルドが一心に羽根ペンを動かす。わき目も振らずに羊皮紙に大量の文字を書き付けていくアーチボルドを遠巻きに眺める4人の女性。
「思った以上にすっごいテンションだねー。でも、どんな脚本になるのかな。楽しみー」
 そんな声を上げたのは、サラ・クリストファ(ec4647)。
「そうですね! 壮大な聖杯探索のお話ですもんね。そんなお芝居をやるなんて、身が引き締まります」
「私は自分の役がどんな風に書かれるのか、少し心配ですけれど‥‥」
 夢見がちに目を輝かせたのがヒルケイプ・リーツ(ec1007)、少しだけ心配そうなのが陽小明(ec3096)だ。
「私も、自分の体験がどのように舞台になるのか、とても興味があります」
 ウィザードらしい知的好奇心を示してみせたのはフィーナ・ウィンスレット(ea5556)。今回の舞台の脚本は、彼女が聖杯探索に参加したときの体験をもとに執筆されることになっている。
「私もいつか、こういったものの題材になるような壮大な経験をしてみたいです。そのためにはもっと経験を積んで、実力をつけないと。頑張りますよー!」
 小さくそう呟いて、ヒルケはぐっ、と拳を握りしめた。
「出来た、出来たぞぉっ!」
 この世のものとは思えぬ叫び声を上げ、がばと立ち上がるアーチボルド。フィーナが体験談を語り終えてからまだ数時間と経っていないから、信じられぬ速筆だ。私も見習いたい。‥‥いや、こっちの話。
「よし、では配役を発表するっ! 円卓の騎士ユーウェイン役は陽小明! そして敵役の聖杯騎士ローエングリンはサラ・クリストファだ!」
 アーチボルドがよく通る声で宣言する。ここまではすでに内定済みだったものだ。今回の舞台の鍵となる二人の騎士の役には、武道家の小明とナイトのサラ、二人の戦士がふさわしい。
「そしてユーウェインを助ける冒険者には、大魔法使いレイストリン役をフィーナ・ウィンスレット、短剣術の達人でレンジャーのアラン役にはヒルケイプ・リーツだ!」
「なるほど、私がレイストリンで」
「私がアランですね。‥‥あれ、この名前って、ふたりとも男性?」
「その通り!」
 小さく首をかしげたヒルケの眼前にびしっと人差し指を突きつけて、アーチボルドが叫ぶ。
「今回は、全員が男役、男装の舞台だ。どうだ、話題性たっぷりだろう?」
「え、ええっ! 私が男役ですか? 私は背もちっちゃいし、男の人には見えませんよっ?!」
「問題ない! 貴様の役は二十に満たぬ少年だ。往々にして、『美少年』は男より女が演じる方が様になるというものだ。それに貴様はさらしを巻く必要もなくて便利ではないか!」
「なんか今、さらっとひどいことを言われたような気が‥‥」
 呟くヒルケはさらりと無視して、アーチボルドが背筋を伸ばし高らかに宣言した。
「では、練習を始めるぞ! 容赦なくやるから覚悟したまえ!」

●決戦前夜
 時は移って公演前日の夕方。
 4人の冒険者‥‥もとい役者達は、連日の練習でへとへとな体を励まして街に出ていた。
 アーチボルドと彼の協力者達は今、明日の舞台設営で忙しい。フィーナの提案で、その間に役者たち4人で宣伝活動をしようということになったのだ。
「き、緊張します‥‥どきどき」
 ヒルケが、自分の格好を何度も確かめながら呟く。本番用の衣装ではないものの、アーチボルドが見立てた仮の衣装を身に纏っての宣伝だ。当然、4人とも役にふさわしい男物の服装をしている。
「しかし、とうとう明日ですね。どうなるのでしょうか」
 フィーナが期待と不安が入り混じった表情で呟く。
「ええ。今更ながら、自分の演じる役が大役であることを実感してきました。‥‥無様な姿を晒してイメージを崩さぬよう気を引き締めてかからねば」
 そう言いながら、小明が手にした剣をビュッと鋭く振ってその重さを確かめる。サラに教わりつつ、何度も何度もくり返した殺陣は、既に身体に染み付いている。
「上手く‥‥いくかなぁ」
 不安げに呟くヒルケ。
 彼ら4人の頭に浮かんだのは、最後の稽古の時のアーチボルドの言葉。
『見栄えだの段取りだの、余計なことは考えるな! 貴様らの浅はかな考えなど必要ない! 全ては貴様らの身体に刻まれている! そのために練習してきたんだろうが!』
「うん、信じるしかないよね。まぁなんとかなるでしょ! 頑張っていこう!」
 ことさら明るい声でサラがそう言って、他の3人もそれぞれにうなずき、4人は宣伝のため大通りに向かって歩き出した。

●本番!
 珍しく晴れ渡った空。
 キャメロットの野外広場に柵やら舞台装置やらが建てられ、いつの間にか立派な舞台が登場していた。前日の宣伝が功を奏したのか、広場に布を敷いて作られた即席の客席はほぼ満席だ。
 幕が上がった瞬間から、観客達は息を呑む。
 手作りの舞台装置とライトやファンタズムの魔法を駆使して舞台上に創り出された荘厳な回廊。そこに対峙する、男装の役者が4人。薄暗い照明効果に照らされた4人の立ち姿は妖艶とさえ言いたくなる。アーチボルドの教えの通り、「余計なことは考えずに」ただ純粋に睨み合う彼らの間に漂う緊迫感は本物だ。
「我は聖杯を守る騎士、ローエングリン! 聖杯の手がかりが欲しければ我を倒していけ!」
 漆黒に染め上げられた全身鎧に身を包んだ、サラ演じるローエングリンが朗々たる名乗りを上げて自分の背丈ほどもある槍を静かに構える。自然と口元に浮かぶ不敵な笑みが、その精悍さを際立たせる。
「私は円卓の騎士がひとり、ユーウェイン。己が忠誠と剣に懸け‥‥参る!」
 ローエングリンとは対照的な純白の鎧の、小明演じるユーウェインが叫び、剣を抜き放つ。ちなみに、小明が演じやすいように実際のユーウェインよりも寡黙な設定にしてあるのは、役者の実力を最大限に引き出す舞台を心がける、アーチボルドの機転によるものだ。
「‥‥わが魔法で、ユーウェイン殿を援護しよう」
「聖杯の手がかりを得るため、負けるわけにはいきません!」
 ユーウェインの一歩後ろで、同時に戦闘体勢をとるフィーナ演じるレイストリンと、ヒルケ演じるアラン。長く美しい銀髪を揺らす『美青年』レイストリンと思わず抱きしめたくなる華奢な『美少年』アランのコンビに、客席からため息が漏れる。
『はっ!』
 同時に発せられた小明とサラの気合の声と、剣と槍がぶつかり合った高い金属音を合図に、静かだった舞台上が急展開、忙しなく動き出す。
「神の雷をその身に受けよ、ライトニングサンダーボルト!」
 クールな表情を湛えたフィーナの全身が緑色の淡い光に包まれ、薄暗い舞台上に浮かび上がる。
 次の瞬間その手から放たれたのは、一条の稲妻。演出効果ではない、本物の魔法だ。稲妻はすれすれのところでサラの脇をかすめ、青空を焦がす。綿密な打ち合わせと、繰り返しの練習、そしてフィーナの高い集中力がなせる極限の業だ。
 すれすれで稲妻をかわしたサラに、銀色に光る短剣を構えたヒルケの舞うような斬撃が襲い掛かる。身軽な身体を活かして高く跳躍して身体をひねり、降下する勢いで短剣をふるう、極めて美しい攻撃。成功するまでに何度転倒し、体中に痣を作ったことだろうか。だが、本番に強いのが冒険者というものか。ヒルケ演じる短剣の達人アランは、危なげもなく優雅に舞う。
「くっ!」
 ヒルケの攻撃を槍の柄で受け止めたサラが、わずかに体勢を崩す。もちろんそれも、打ち合わせどおり。
 一瞬の隙を突いて、小明が距離を詰める。
(「次がクライマックス‥‥大丈夫。何も考えなければいい。身体が覚えているはず!」)
 心の内で断じ、小明が剣を振り上げる。
「これで、終わりだっ!」
 裂帛の気合とともに放たれた小明の声が、広場中に響き渡る。小明の、いや円卓の騎士ユーウェインの剣が煌き、絶妙のタイミングで掲げられたサラの、聖杯騎士ローエングリンの槍を見事に弾き飛ばす。槍は練習で何度も繰り返したとおり、回転しながら空中を舞い、客席から遠く離れた舞台後方の地面に突き刺さった。
 耳が痛くなるほどの、静寂。
 武器を失ったローエングリンの喉元に剣を突きつけたユーウェインは、十分な間を取ったあと、口を開く。
「私の、勝ちです。これが試練なら、殺しあう道理はないでしょう」
 さらりと笑ったその顔に浮かぶ表情は、凛として。
「ぬしらの勝ちだ。これを受け取るがいい」
 水晶の箱を投げ渡しながら浮かぶ皮肉げな表情は、精悍そのもの。
 誰もがその姿に見惚れ、しばし時が止まる。
 一瞬遅れて、割れんばかりの歓声と拍手が、キャメロットの空に響き渡った。

●楽屋裏
「出来は最悪だ! 貴様らはどうしようもない下手糞な役者どもだな!」
 舞台を降りて、戻ってきた冒険者達にかけたアーチボルドの第一声は、そんなものだった。
「だが‥‥貴様たちの真剣さが、観客どもに伝わったと思わなくもない」
 早口にそんなことを付け加える。
「せいぜい‥‥30点ってとこだな! さっさと着替えておけ、このあとはみっちり反省会だ!」
 顔をそっぽに向けて怒鳴ると、冒険者達に背を向けてのしのしと楽屋を出て行く。
 と、こらえられない様子で吹きだしたのは、アーチボルドとは旧知の仲だという演出助手の女性だ。
「ふふふ、先生ったら、よっぽどあなた達に感動したのね。先生が30点なんて出すの、何年ぶりかしら」
 どうやら、機嫌が悪そうにしていたのは照れ隠しらしい。
「よ、よかった〜」
「なんとかなったね」
「いい体験でした」
「き、緊張しました‥‥」
 ほっと息を吐き、途端に全身の疲れに気づいてへたり込む冒険者達。ヒルケなど、涙目になっている。
 こうして、冒険者達の舞台は、文字通り、幕を下ろしたのだった。