跡取り息子を叩きなおせ!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:sagitta
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月28日〜05月01日
リプレイ公開日:2008年05月05日
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●オープニング
「‥‥というわけで、息子の成人の儀式に同行してくださる冒険者の方を求めているのです」
落ち着き払ったバリトンで告げたのは、キャメロットで代々商人を営むエイブラハム・アンダーソン。
穀物や生活必需品を扱う商人である彼は、堅実な経営と実直な人柄で定評がある。
「なるほど。アンダーソン家では、男子が15才になると街の近くにある洞窟に入り、証拠に奥の壁を削って戻ってくるという伝統があり、息子さんが今度15才になられるのでそれを執り行いたい、というわけですね」
受付嬢が確認すると、エイブラハムが真剣な表情でうなずく。
二人はどちらともなく、店の奥に目をやった。そこには、今回の話の当事者であるはずの少年、エイブラハムの息子で跡継ぎ候補のジュリアン・アンダーソンがギルドの事務係の若い女性になにやらちょっかいをかけている。
「ねぇ、姉ちゃん、そんなつまんない仕事放り出して、俺とどっか遊びに行こうぜ」
「いえ、仕事中ですから」
「ちぇ、つれないなぁ」
それを見つめる受付嬢とエイブラハム、二人で同時にため息をつき、視線を元に戻す。
「‥‥ですがうちの息子には少々問題がありまして」
「‥‥そのようですね」
「儀式そのものは、狭い洞窟の奥から壁を削り取ってくるだけなので大して難しいものではないんです。ネズミやらコウモリやらは出ますが、冒険者の方々には問題ないと思われます。ただ‥‥ついでに、うちの放蕩息子を叩きなおして欲しいんです」
エイブラハムが父親の表情になって、情けなそうに言う。
「善処いたします」
「くれぐれもお願いいたします」
うなずいた受付嬢に深々と頭を下げ、席を立つエイブラハム。
「ほら、いくぞ」
ジュリアンに声をかけてさっさとギルドを出て行く。ジュリアンは、ナンパをあきらめ、父について行こうとしてくるりと振り返り、受付嬢の耳元に囁く。
「俺はかったるいからさ、代わりに冒険者の人が洞窟に入って証拠を取ってきてくれよ。そんで、親父にうまく言ってくれればいいじゃんか。金なら出すからさ」
「ちょ、ちょっと‥‥」
言うだけ言って、言い返す暇も与えずにギルドを去っていく。
受付嬢はもう一度、盛大なため息をついた。
●リプレイ本文
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「うひょー、きれいなお姉さんがいっぱい! あの堅物オヤジも、たまには粋なことするよなぁ!」
「あのね、私たちはあなたの遊び相手に来たんじゃなくて、あなたの試練を手伝いに来たのよ? そこんとこわかってる?」
あきれながら言ったのはリディア・レノン(ec3660)だ。
「わかってるよ。でも、リディアさんみたいなきれいなお姉さんに会ったら、試練なんてどうでもよくなっちゃうのは、男のサガというやつで‥‥」
「あんたね‥‥」
心の底からあきれながらも、ちょっぴりだけ悪い気がしないのはリディアの乙女心といったところだろうか。
(「そういえば若い頃はよく声をかけられたのに、最近はどうもご無沙汰な気が‥‥って、いけないいけない、そんなのはどうでもいいわ」)
「そのように軽薄な態度では、女性にもてませんわよ。レディにはもっと紳士的な態度で接していただきたいものですわ」
落ち着いた声で指摘したのは、エルフのルースアン・テイルストン(ec4179)。ジュリアンがくるりとそちらを振り向く。
「わわ、こっちのエルフのお姉さんの落ち着いた物腰もなかなか‥‥」
「だから、そういう態度が軽薄だと申し上げているのです」
ぴしゃりと言い放たれても、ジュリアンは肩をすくめるばかりで反省の色がない。
「そうそう、試練の話だけどさ」
相変わらず軽薄な笑みをその顔に浮かべて、ジュリアンが口を開く。
「俺はかったるいからさ、代わりに洞窟に入って証拠を取ってきてくれよ。そんで、親父にうまく言ってくれればいいじゃんか。心配しないでも、ちゃんと報酬なら払うぜ。何なら特別料金を追加してもいい」
「だめですよ〜、そんなことしたらあたしたちがエイブラハムさんに怒られちゃいます〜」
ちっちゃな頭をぶんぶんと左右に振って主張したのはパラの鳳玉麗(ea2284)だ。彼女がジュリアンをその気にさせるために「頼りにならない新米冒険者」を演じていることを、もちろんジュリアンは知らない。
「ちっちゃい玉麗ちゃんが、じたばたしてるのも可愛いなぁ‥‥ってそうじゃなくて。だって、伝統とか試練とか、かったるいじゃんか。大丈夫だよ、親父には俺からうまく言っとくからさ」
「おやおや、まあまあ。かったるいだなんて。ご先祖様からの伝統を感じられるよい機会ですよ。いずれはあなたが背負っていくものですよ?」
ルースアンの言葉にも、そういったものへの実感がないジュリアンは肩をすくめるばかりだ。
『行くぞ』
今まで黙っていたドワーフのレイ・アレク(ec4772)が有無を言わせぬ口調で短く告げる。レイはイギリス語ができないため、それはゲルマン語だったが、荷物を肩に背負って席を立った彼の行動を見ればその意図するところは明らかだ。
「お、おい、おっさん待てよ。まだ話は途中‥‥」
背中に声をかけるジュリアンを意に介さず、レイは黙々と歩き出し、酒場を出て行こうとする。
「ほらほら、あきらめなさい。まさか洞窟が怖いとか、そんなわけじゃないでしょ?」
「こ、怖いなんて、まさか。ただかったるいだけで‥‥」
「そうですよ、ジュリアンさん、お願いしますよぅ。あたし達には、ジュリアンさんが頼りなんですから」
すがるような玉麗に見つめられ、ジュリアンは渋々立ち上がった。
「しょうがないなぁ、そこまで言うなら‥‥」
●
真っ暗な洞窟の中を、ジュリアンが握りしめたランタンの灯りが頼りなく照らす。
反響する水音、うっすらと映し出されるごつごつとした岩肌、かすかに漂う湿った黴の臭い。
その全てが不気味に思え、ジュリアンの足を震わせる。けれど、背中にぴったりと玉麗がしがみついていては、ルースアンに渡されたランタンを放り出して逃げ出すわけにもいかない。
「あたし怖いですぅ。なんかでてきそうですよね、ジュリアンさん」
ジュリアンの背中で、不安げな声の玉麗が言う。実際には、洞窟に出る可能性のあるモンスターは調査済みだ。商人が試練の儀式に使っているだけあって、危険性はそんなに高くない。
「お父様曰く‥‥幽霊が出るらしいですわね」
だから、努めて低い声でルースアンが言ったのは、ジュリアンを怖がらせるための作戦。
「ゆ、幽霊?!」
思惑通り、ジュリアンは声を裏返らせて反応する。
「私も聞いたわ。大昔に洞窟で死んじゃった人が、天国に行けず今も洞窟の中で彷徨っていて、入ってきた人間に取り憑いて幽霊にしてしまうんだって」
「そうそう、洞窟の枝道の方から、しくしくとその幽霊の鳴き声が聞こえてくるらしいですわよ」
リディアとルースアンが口々に言って、ジュリアンを怯えさせる。
ただでさえ暗闇が怖いジュリアンは、何もかもを放り出して逃げたくてたまらなかったが、(少なくとも見た目は)か弱い女性三人に囲まれて、自分が一番先に逃げ出すわけにはいかない、と思いとどまった。
唯一頼りになりそうなレイはといえば、一行の一番後ろ、三歩ほど離れたところにいて、周囲に油断なく目を向けて密かにジュリアンたちを護っている。少し離れたところにいるのは、何かあったときにジュリアンがすぐに彼に頼ってしまうのを防ぐためだ。もちろん、本当に危険な目に遭ったときにはすぐにでも助けに入れるよう、警戒は怠らない。
(「そろそろいい頃合かしら」)
一歩遅れてジュリアンの背中を眺めて、リディアが思う。隣のルースアンに視線を向けると、彼女も「いいですわよ」とばかりにウィンクしてみせた。
「ねぇ、ジュリアン、この音、何かしら」
わざとらしく声を潜めて、リディアが自分の耳に手を当ててみせる。
「音?」
「ほら、聞こえるじゃない。しくしく、しくしくって」
「ま、まま、まさか? ゆ、幽霊の泣き声?」
「きゃ、きゃあっ! じゅ、ジュリアンさん、あれ!」
玉麗が悲鳴を上げ、ジュリアンが恐る恐るそちらを振り返ると‥‥ジュリアンが背負っていた袋から保存食やらロープやらが飛び出てふわふわと宙を待っている。ルースアンの「サイコキネシス」の仕業だ。
「ぎ、ぎゃあーっ!」
ジュリアンの絶叫が洞窟内に響く。放り投げられたランタンが地面に転がる。
「も、もうやだ! こんなのは俺じゃなくて、冒険者がやればいいんだ! 俺は帰る、帰るぞ!」
ジュリアンをしっかりさせるための作戦だったが、どうやら裏目に出たらしい。恐慌をきたし、何もかもを放り出して帰ろうとするジュリアン。
『いい加減にしろっ!』
野太い声がと、バシンッという音があたりに響いた。情けないジュリアンの態度に腹を据えかねたレイが、ジュリアンの背中を叩いて一喝したのだ。十分に手加減したとは言え、ジュリアンは痛みにうずくまってしまう。
『何でもかんでも、人のせいにするんじゃない! いつまでも誰かに頼っていられると思うな!』
その言葉は幼い頃からゲルマン語を習っているジュリアンには理解できたはずだが、彼は俯いたまま返事をしない。
「あなたも上に立つ人間になるのなら、仲間を見捨てることだけはしてはいけませんわ」
不貞腐れるジュリアンに、ルースアンがぴしゃりと言う。
「レイさん、ルースアンさん、モンスターが!」
その時、玉麗の切羽詰った言葉。見れば、いつの間にかジャイアントラットの群れが彼らを取り囲んでいる。
「数が多いわね‥‥」
リディアが呟く。他の冒険者達もそれぞれの武器を構えて臨戦態勢に入る。ジュリアンだけがうずくまったままだ。
「チュウ〜ッ!」
腹をすかしているのか、血走った目で一斉に飛び掛ってくるジャイアントラット。レイが十手で叩き伏せ、リディアがグラビティーキャノンを叩きつけ、ルースアンがサイコキネシスで石を発射して追い払う。
「う、うわぁあああっ!」
突然響いた大声に、冒険者達は思わず振り返った。見れば、ジュリアンが護身用のナイフを抜いて、玉麗に対峙したジャイアントラットに飛び掛っていた。その剣幕に気圧されたのか、敵はわずかな傷を負っただけですぐに逃げ出してしまう。
「あたしのこと‥‥護ってくれたの?」
驚いたように呟く玉麗。本当は格闘技の心得がある玉麗にとってジャイアントラットなど敵ではなかったが、それはこの際関係ない。
臆病者の放蕩息子に、ほんの少しだけ、跡取りとしての自覚が生まれ始めた瞬間だった。
●
「あ、戻ってきたよ!」
ジュリアンが洞窟最奥部にひとりで入って行ってからおよそ10分。心配そうに洞窟の奥を見つめていた玉麗が、ジュリアンの姿を見つけ声を上げた。
「どうでした?」
心配そうに尋ねるのはルースアン。
「あら、その青い石の欠片‥‥ジュリアン、なかなかやるじゃない!」
リディアがうれしそうな声を上げる。
「へへ、ご褒美にリディアさん、チューしてくれます?」
「調子に乗るんじゃないわよ!」
バシッと頭を叩きながらも、すっかり調子が戻った様子に、顔がほころぶ。
「演技までして、ハッパをかけただけのことはあったわ!」
「なんだよ玉麗ちゃん。俺に頼ってたのは演技だったの?」
「あったりまえでしょ。ジュリアンなんて、まだまだだよ。でもまぁ、助けてくれた時は‥‥ちょっとだけかっこよくないこともなかったかな」
「へへ、だろ、だろ? じゃあ、そのお礼にデートくらい‥‥」
「だから、調子に乗るな、っての!」
「いたた、エルフのお姉さん、何とか言ってくださいよ〜」
「私はもっと芯のしっかりとした、理知的な殿方が好きですわ。ジュリアンさんはまだまだですわね」
「そんな〜」
そんな様子を目を細めて見つめながら、レイが小さく呟く。
『これから何を目指していくのか、人に頼るのではなく、自分で考えねばならんぞ。わかってるな、ジュリアン』
彼がその名前を口にしたのは初めてだ。その名を呼ぶのは、相手を認めた証。
こうして、ジュリアンの跡取り息子としての道はようやく始まったのだった。