【噂ハンタージャジャ】霧の中の惨劇!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:sagitta
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月04日〜05月09日
リプレイ公開日:2008年05月12日
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●オープニング
家々の灯りも消え、すっかり静まりかえった夜の街。
春になったとは言え、夜になればまだまだ冷え込みは厳しい。特に今日のような深い霧の夜はなおさらだ。
夜の暗さに霧の深さが手伝って少し先を見通すのも難しいこんな夜に一人で出歩くなど、大人の男性でもためらうだろう。頼りないランタンの灯りだけを頼りに家路を急ぐジャクリーンとて、普段ならとっくにベッドの中で寝息を立てている時間だ。子供が急に高熱を出して、急いで薬をもらいに行かなければならなくなったりしなければ、そしてちょうどそんな夜に夫が泊りがけの仕事で家を離れていたりしなければ、こんな風に外に出ようなどとは決して思わなかっただろう。
身体が弱く、発熱が大事に至りやすい彼女の9才の娘のために、前もって薬を買い置きしておかなかったことを激しく後悔しながら、彼女は半ば走るようにして、人気のない道を急いでいた。
不安と緊張のためか、昼間ならなんともない家までの道のりが何倍にも遠く感じてしまう。こころなしか、霧もより深くなってきたようだ。
「はぁ、はぁ、あとちょっとで、はぁ、家につく、はずだわ」
自分にそう言い聞かせながら、ジャクリーンは歩を進めた。運動不足のせいか、それとも不安のせいか。おそらくその両方なのだろう、ジャクリーンの息はすっかり上がってしまっている。
その時。
「きゃああああっ!」
ジャクリーンの甲高い悲鳴が、夜の大通りに響き渡る。
彼女自身、何が起こったのか把握できない。彼女の視界が突然反転、彼女はいささか大きなお尻を強かに地面に打ちつけていた。
自分が転んでお尻を打ったのだ、と理解した彼女は、慌てて起き上がるとランタンを放り捨てて走った。幸い、彼女の家はすぐ目の前に見えていた。そのままコートも脱がずに家に飛び込むと、恐怖に慄きながら震える手で急いで鍵を掛ける。
今だ震えが止まらない彼女の足首には、なにやら細長いものに絡めとられた生々しい痕が、赤く残されていた。
* * * *
「ということなのだ。私は、霧の中の化け物の正体を、突き止めなくてはならない!」
芝居がかった仕草でそう叫んだのは、真っ赤なシャツに緑のタイツ、紫の帽子に青いマントという、色彩感覚の狂ったド派手な男。自称「噂ハンター」のジャニー・ジャクソン、通称ジャジャだ。
街の広場で暇を持て余したご婦人方に噂話を語って聞かせるのが日課の変人で、前にも見つけてきたネタを確かめるために冒険者を雇ったことがある。今回はそれに味を占めて、もう一度、というつもりらしい。
「では、ジャジャさんのところにいつも通っていらっしゃるご婦人が、そのようなことをおっしゃっていたわけですね。それでジャジャさんは、その真相を確かめたい、と」
「そのとおりだ! なかなかどうして、物分りがよくなったではないか、お嬢ちゃん」
物分りが、というより変人の相手が、巧みになった受付嬢の反応に気を良くしたジャジャが満足そうにうなずく。
「では、ババーン、と貼り紙をしておいてくれたまえ。タイトルはそうだな、『霧の中の惨劇!』で」
「惨劇、って、特に大きな怪我をしたわけじゃないんですよね? その題名はちょっと大袈裟なんじゃ‥‥」
「何を言う、これから惨劇になるかもしれないではないか!」
「縁起でもない事を言わないでください! そうならないようにするために、冒険者を派遣するんですから!」
受付嬢に一喝され、しゅんとなるジャジャ。だがすぐに気を取り直すと、にやっと笑った。
「そうだな。街の平和を守るため、このジャジャ、一肌脱ごうではないか!」
●リプレイ本文
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キャメロットの下町、ジャクリーン・オーデン宅。
「お手数をかけてしまって恐縮です。すでにジャジャさんがお話をうかがっていると思うのですけど、聞き手が違えば感じ方も違うかもしれませんし、これも原因究明のためだと思ってご協力いただけますでしょうか」
丁寧な口調でリディア・レノン(ec3660)が言うと、ジャジャ・ファン筆頭ことジャクリーン・オーデンは丸っこい顔に人懐こい笑みを浮かべて歓迎してみせた。
「もちろんですとも。ぜひとも解決してくださいな!」
彼女は生来の話好きの性格をフルに活かして、その時の様子を一つ一つ丁寧に語ってくれた。
深い霧の夜に人気のない路地を早足で歩いていた彼女は、突然、何かに足をすくわれて転んでしまった。それはなにやら生暖かく、何かの生き物のようだった。
お尻を強かに打ちつけたものの、特に怪我というほどにはならなかった彼女は、振り向きもせずに起き上がって家に駆け込んだ。
落ち着いたあとで足首を見てみると、縄のようなものに絡め取られたような、細長い痕が残っていたという。
「なるほど、だいたいがジャジャの言っていたとおりね‥‥」
「ちょっと待ってください、転んだ時、ジャクリーンさんはお尻を打ったんですよね?」
リディアの後ろからそう言って顔を突き出したのは、神名田少太郎(ec4717)だ。
「え、ええ。そ、そんな、男の人に面と向かってお尻なんて言われると照れちゃうわ‥‥」
何を思ったか、頬を赤らめて身をくねらせるジャクリーンには目もくれず、少太郎が興奮した声で続ける。
「走っていて、足をとられて、そしてお尻を打った。もしジャクリーンさんがたとえば地面近くに張ってあったロープにつまずいただけなら、普通は前に倒れますよね? ということは、その細長いものは前からではなくて、後ろからジャクリーンさんの足をすくったことになる。とすれば、その細長いものは動いていた、ということになりますね」
すらすらと推測を述べる少太郎に、リディアも頷く。
「前もって友人のレアに『フォーノリッジ』で見てもらった未来にも、霧の中に小さな影が映っていたらしいわ。これがどうやら何らかの生き物の仕業だ、ってのは間違いなさそうね」
「そういえば僕の故郷には脛を擦るモンスターが‥‥いやいや、これは関係ないですね」
同時刻、キャメロット下町の路地。
「ふむ、他に類似被害がないか聞き込みをするというのだな?」
街での聞き込みを主張したクリス・メイヤー(eb3722)に、ジャジャが尋ねた。前回の依頼でもジャジャを助けたクリスのことを、ずいぶんと信頼しているらしい。四六時中何かしら喋っているジャジャが、その意向を聞こうと耳を傾けているほどだ。
「今回は霧の中だったから、ジャクリーンさんも姿を見れなかったみたいだけど、どこかで霧の中以外の目撃証言があるかもしれない。おいらは蛇か何かじゃないかなーと思ってるんだけど、証拠もなしに決め付けるのは問題だからね。具体的な外見がわかればその正体がわかると思うし、対策も立てやすいと思うんだ」
「なるほど。俺にも異存はないな」
クリスの合理的な説明に、同行していたシュウジ・クロツキ(ec4860)も賛意を示した。
「よし、聞き込みは私がやろう! ではそこらの家の扉を手当たり次第叩けばよいのだな!」
「あ、いや、ジャジャさんが出るまでもないよ。聞き出すのはおいら達に任せてくれればいい。ジャジャさんは大事なブレーンなんだからさ、後ろでじっくりと話を聞いて分析していて欲しいんだ」
意気込むジャジャを、慌てて押さえてクリスが説得する。せっかくの聞き込みだというのに、不用意に相手を警戒させてしまっては情報収集も上手く行きはしない。ここは、ジャジャには黙っていてもらうのが得策だ。
「なるほど、お前の言うことはいちいちもっともだな。よし、聞き込みはお前に任せ、私は後ろで黙っていることにしよう」
すっかり気を良くしたジャジャは、クリスの思惑通り一歩下がって着いてくるのだった。
●
翌日、冒険者ギルド。
二手に分かれていた冒険者達が合流し、お互いの情報を交換し合う。
「聞き込みで霧の中以外の目撃証言を探したんだけど、それが一件もないんだ」
「そう、残念だわ」
クリスの説明に、リディアがため息をついた。ところが、クリスはにやりと笑って首を横に振る。
「そうでもないよ。逆に、霧の中でなら同様の事件が少なくとも3件は起こってる。しかもその3件は3日連続、同じ街区で、なんだ」
「そんなに都合よくいつも霧だなんて‥‥あっ」
そこまで言って、少太郎が何かに気づいたようにパチン、と指を鳴らした。
「もしかして、その生き物が、霧を作り出している?」
「そのとおり! それにジャジャさん、踊り子の話を覚えてる?」
クリスが尋ねると、ジャジャがもちろん、と胸を張ってみせる。
「被害に遭ったジプシーの踊り子が驚いてカンテラを割ってしまい、あわてて『ライト』の魔法を使ったところ、甲高い悲鳴のようなものが聞こえて、子供ぐらいの大きさの影が霧の中を走り去っていくのを見た、というやつだろう?」
「その直後、霧が急に晴れた、とも言っていたな」
ジャジャの言葉を、シュウジが補足する。
「そう、それだよ。子供くらいの影、生暖かい縄のようなもの、ライトの魔法で逃亡、そして不自然な霧‥‥よしよし、わかってきたぞ」
不敵な笑みを浮かべるクリスの青い瞳が、きらりと輝いたように見えた。
●
家々の灯りも消え、すっかり静まりかえった夜の街。
人気のない路地を一人行くのは、商人の娘に扮したリディア。か弱い女性達ばかりが狙われているとのことで、適任者は彼女しかいない。
(「別にホラーが好きってわけじゃないんだけど‥‥っていうかちょっと怖い‥‥でもお仕事だし‥‥」)
心細くなってあたりを見渡すが、いつからか出始めた霧のせいで、隠れているはずの仲間達の姿は見えない。
(「ほ、本当に霧が出てきた‥‥みんな、ちゃんと着いてきてるわよね?」)
彼女が本格的に不安になってきたその時。
足首に生暖かい感覚。鞭のようにしなる何かが、リディアの足にまとわりついたのだ。
予期していたリディアは、もちろん転ばされたりしない。逆に、絡まる何かを踏みつけてやる。
「ヒギャッ!」
奇怪な悲鳴。霧に紛れてはっきりとは見えないが、眼前にあるのは子供くらいの大きさの影だ。
「囲まれている‥‥? 一体じゃないの?」
気がつけば少なくとも三つの影に、リディアは囲まれていた。
「ヒギィッ!」
リディアの一番近くにいた影が、怒りに任せてリディアに襲い掛かろうとする。頭脳派のリディアに接近戦闘は望めない。牙によるその攻撃は、リディアの身体を引き裂くかに見えた。
刹那。
ピシャアアンッ!
深い霧を引き裂いて頭上から轟く雷鳴。
リトルフライの魔法で空中から監視していたクリスが、ライトニングサンダーボルトの魔法を放ったのだ。狙いを妨げる霧のせいでそれは影に命中するには至らなかったが、ひるませるには十分だった。
「踊り子さん、今です!」
リディアの背後から、少太郎の叫び声が聞こえた。
振り向いたそちらから、金色の光が出現する。事情を説明して同行してもらった例のジプシーの踊り子が、ライトの魔法を発動したのだ。
「ヒギャアアアッ!」「ハギャッ!」「プギィーッ!」
三つ分の叫び。影がのた打ち回っているのが、うっすらと確認できる。
「霧が、晴れていくぞ!」
驚きの声を上げたのはジャジャだ。
「なるほど、これが霧の中の怪物の正体だったんですね!」
少太郎が、ぱちん、と指を鳴らす。
晴れてきた霧の中から現れたのは、一見すると巨大なネズミのような生き物。3mはある長い尻尾をくねらせている。リディアの足にまとわりついた細長いものの正体は、彼らの尻尾だった。
「クルード、という低級のデビルだよ。口から霧の息を吐くんだけど、陽系の魔法が大の苦手なんだ。ライトの呪文で驚かせてやれば思わず霧も消えちゃうんじゃないかと思ったんだけど、うまくいったみたいだね」
クリスが得意げに言う。
「霧がなければ、こんなやつらはおそるるに足りないな。さぁ、神妙にしやがれ!」
そう言ってシュウジが剣を抜く。少太郎もそれに続いて短刀を抜き放つ。
クリスが背後のジャジャに向かって叫んだ。
「ジャジャさんは、踊り子さんを護ってて! ジャジャさんだから任せる、大役だからね!」
「お、おう! 任せるがいい!」
●
その翌日。
無事に報酬を受け取ったクリスは、街の広場に繰り出していた。
シュウジの言うとおり、霧のないクルードなど冒険者達の敵ではなかった。あっという間に傷を負って逃げ出そうとしたところを捕獲して衛兵に引き渡し、事件は一件落着。
今頃ジャジャは、嬉々として顛末を語っているに違いない、と考えたクリスは、その様子を眺めにきたのだ。
「お、いたいた♪」
クリスの予想通り、ジャジャはいつもの広場でご婦人方に囲まれている。もちろん、他のご婦人方に混じってジャクリーンさんも最前列でその話に耳を傾けている。
「ジプシーの少女が唱えた光の呪文! 呪われし霧の悪魔は、太陽の精霊の大いなる力を借りた光の前になす術もなく悲鳴を上げる!」
興奮した声で、ジャジャは続ける。
「霧は晴れ、悪魔どもの醜い姿が白日の下に晒される! クルードという名のその悪魔、鞭のような尻尾と鋭い牙で立ちふさがる! だがもちろん、霧を失った悪魔など、このジャジャの敵ではない! 剣を抜き放った私は三匹の悪魔をバッサバッサと斬り伏せ‥‥」
木の棒を手に、見えない敵との大立ち回りを演じてみせるジャジャに、ご婦人方から歓声があがる。
「またずいぶん脚色してるなぁ。でも、楽しそうだね、よかったよかった」
クリスは呟き、上機嫌で広場を後にするのだった。