傍若無人マイ・シスター

■ショートシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月04日〜06月09日

リプレイ公開日:2005年06月15日

●オープニング

「大丈夫‥‥これからは、あたしがあんたを守ってあげる」
 そう言って、姉は泣きじゃくる弟の手を握った。
 埋葬されてゆく両親の棺を見つめながら、姉の目に涙は無い。けれど暖かい手の平は小さく震えていた。
「あたしが‥‥ずっとあんたを守るから」
 握った手の平に力がこもる。
 その日から、姉弟は強い絆で結びついたのだった。

  ◆

「ほら遅いわよ秋一郎。キビキビ歩く!」
「あぅ‥‥待ってよぉ〜春菜姉様ぁ〜」
 爽やかな日差しの降る昼下がり、キャメロットの通りを一組の少年少女が歩いている。
 山ほどの荷物を持たされた困り顔の少年。その彼を強気な口調でせかす少女。
 二人とも、年の頃は十代半ば程だろう。艶やかな黒髪を肩口で切り揃え、大きな瞳は髪と同色。愛らしい顔立ちも小柄で細身の体型も、まるで一流の画家が模写した様にそっくりだった。
「男なんだから、そのくらいで弱音はかないでよね」
 足を止め、姉の茜春菜は呆れた様に溜め息をついた。
 顔立ちは弟にそっくりだが、勝ち気な表情と胸元のふくらみで見分ける事ができるだろう。
 腰に帯びた日本刀は、彼女が侍である証だった。
「でも‥‥これみんな姉様の荷物じゃないかぁ〜」
 大量の荷物と共によたよたと歩を進めているのは、弟の茜秋一郎である。
 気弱そうな彼の表情は、姉よりも女らしく愛らしい。
 戦いの苦手な彼は、姉とは違い僧侶としての修行を積んでいた。
「な〜によあんた、男のくせに、女の子のあたしにそんな荷物持たせるわけ?」
 春菜は弟に近づき、柔らかな頬をつんつんとつつく。
「あぅ‥‥そりゃ僕は男だけど‥‥力は姉様の方が強いじゃないか‥‥」
 秋一郎は目をそらし、小声で反論した。
 両親を亡くし、姉弟で冒険者となってから既に三年。住み慣れたジャパンを離れ、現在はキャメロットの冒険者街で日々の生活を送っている。
「さ、あとはいつもの店でパン買って帰りましょ。それまでは頑張りなさいよね」
 さも当たり前の様に、手ぶらの春菜はスタスタと目的の店へ歩いて行った。
 買い物好きな姉に付き合うたび、秋一郎は過酷な荷物持ちを命じられる。彼がどんなに反論しても、傍若無人な姉は聞く耳持たないのだ。
 昔は優しかったのになぁ‥‥などと心中で呟き、秋一郎は姉が歩いて行った方へよたよたと向かう。
 姉に遅れること数分。パン屋が見えて来た頃には、既に姉の買い物は終わっている様だった。
「うわ、すげー荷物。なに、買い物中?」
「おー、可愛いコじゃん。買い物なら、俺らが付き合おうか?」
 秋一郎がパン屋へ向かおうとしたその時、突然二人の男達から声をかけられた。
 チンピラ風の男達は、いい獲物を見つけた‥‥とでも言いたげな、いやらしい笑みを浮かべている。
 どうやら外見で女性に間違われ、ナンパされたらしい。秋一郎は困惑の表情を浮かべた。
「あ‥‥えっと、大丈夫です。連れがいるから‥‥」
 そう言って立ち去ろうとする秋一郎の腕を、男の一人がつかんだ。
「そうつれない事言うなって。ちょっとくらいいいじゃん?」
「あ、連れってもしかして女の子? だったら一緒に‥‥」
「あたしの弟に‥‥何してんのよっ!!」
 げしっ!
 その瞬間、秋一郎の腕を掴んでいた男が吹っ飛んだ。背後から、春菜がものすごい勢いで跳び蹴りをくらわせたのである。
「なっ、何だてめ‥‥」
「うっさい死ね!」
 驚愕するもう一人の男に、春菜は容赦無く『股間蹴り』をおみまいする。
 まともにくらい、男は白目を向いて崩れ落ちた。有無を言わせぬ連続攻撃である。
 春菜は秋一郎の荷物をほとんど肩代わりすると、彼の手を掴んで強引に引っ張った。
「え、ね、姉様?」
「馬鹿! ぼーっとしてないで、とっとと逃げるわよ!」
 言って、足早に駆け出す二人。
 その後方では‥‥
「あれ‥‥お、おい、どうした!?」
「おい! 白目むいてるぞ!」
「誰だよ! 俺らのメンバーにナメた真似しやがったのは!」
 男達の仲間らしいチンピラが更に六人、倒れた二人の周りに集まっていた。

「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 男達が追ってこない事を確認し、二人は足を止めた。
 あまり体力の無い秋一郎は、呼吸を整えるのに必死だった。
「まったく‥‥ホント、世の中即物的な男ばっかでイヤになるわ」
 苦々しい表情を浮かべ、春菜は吐き捨てる様に悪態をついた。
 全部の荷物を持ちながらにも関わらず、呼吸が全く乱れていない。
「いい? 秋一郎。あんな風に声かけられるのは、あんたも悪いのよ。ポヤンとしてて、ガードが甘そうだからあんな馬鹿が寄って来るの!」
「うん‥‥ごめんね姉様。いつも‥‥ありがとう」
 憤慨する姉に、秋一郎は素直な感謝の言葉を贈った。
 それを聞き、春菜は少しだけ頬を赤らめる。
「べ、別に、礼なんていいわよ。あたしはお姉さんだし、あんたを守るのなんて、当たり前だし‥‥」
 照れくさそうに視線をそらし、春菜はぶつぶつと言い訳めいた事を言った。
 この人は、自分の好意を素直に表現できない不器用な人だ。それを知っている秋一郎は、こういった瞬間に姉からの愛情を感じて幸せな気分になる。
「ほ、ほら! 無駄話してないで、とっとと帰るわよ!」
 強引に会話を打ち切り、春菜は足早に住処へと戻って行く。
 そんな姉を微笑ましく見つめていた秋一郎だが‥‥ふいに表情が曇った。
 姉が倒した男は二人。後から姿を表した仲間が六人‥‥合わせて八人である。もし再び顔を合わせれば、黙って素通りという訳にはいかないだろう。
 いくら腕の立つ春菜でも、八人を相手にできるとは思えない。そして‥‥自分には、姉を守れるだけの強さが無い。
「こら! 何やってんのよ秋一郎っ!」
 遠くから、姉の呼ぶ声が聞こえる。
 曇った表情のまま、秋一郎は重い足取りで姉の後を追った。

  ◆

「あ〜‥‥まぁ要するに、護衛の依頼だな」
 冒険者達を前にして、ギルド職員の青年は説明を開始した。
「依頼人は茜秋一郎。依頼人と、その双子の姉を護衛してくれって事だ。何でも八人ばかりのチンピラとモメたらしくてな、そいつらを何とかしてほしいってのも依頼の内だ」
 少年らしからぬ外見の依頼人を思い出し、ギルド職員は溜め息をついた。
「それから‥‥依頼人の姉貴には、護衛の話は伏せてほしいらしい。気の強い姉貴らしくてな、依頼の事が知られたら、どんな文句を言い出すかわからんそうだ。それとなく近づくなり、影から見守るなり、上手い事姉弟の安全を確保しつつ、相手のチンピラが依頼人達に近づかない様にしてやってくれ」

●今回の参加者

 ea2639 四方津 六都(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0200 オードフェルト・ベルゼビュート(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0276 メイリア・インフェルノ(31歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1591 キドナス・マーガッヅ(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2189 イシュト・ヴェルリッヒ(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「メイリア‥‥いくら何でも、これは持たせすぎだろう」
 初夏の陽光が照りつけるキャメロットの冒険者街。大量の荷物を一手に引き受けさせられ、ナイトの青年オードフェルト・ベルゼビュート(eb0200)は控えめに不満を漏らした。
「あらオード、女性の荷物持ちは殿方のたしなみですよ?」
 しかし彼の前を歩く女性‥‥神聖騎士のメイリア・インフェルノ(eb0276)は、悪戯っぽい微笑みを浮かべるばかりだ。
 オードフェルトは諦めた様に溜め息をつき、メイリアの後をついて行く。
 が‥‥
「うぉっ!?」
「わっ!?」
 何かにぶつかり、オードフェルトは抱えていた荷物を通りにばらまいてしまった。
 ぶつかった『何か』‥‥依頼人の秋一郎と目が合い、オードフェルトは目で合図を送った。
「わ‥‥ご、ごめんね。大丈夫だった?」
「‥‥ああ、大丈夫だ。荷物も俺も、どうやら無事らしい」
 視線で確認をとり、二人は初めて会ったかの様に言葉を交わした。
 秋一郎は、既に冒険者達と顔合わせを済ませている。なのにこんな事をする理由は‥‥
「こら秋一郎! なにドンくさい事やってんのよ!」
 この春菜に接近するためであった。
 依頼の事を話さず、なおかつ怪しまれぬ様に。そのための一芝居だ。
「悪いわね、うちの弟が‥‥ケガ無い?」
「ああ‥‥いや、こっちも荷物のせいで前方不注意だったしな。気にしないでくれ」
 素直に謝る春菜に、オードフェルトは荷物を集めながら言った。
「‥‥良かった。ネックレスは無事みたいです」
 散らばった荷物の中から自分の物だけを拾い集め、メイリアは安堵の吐息を漏らす。
「‥‥ねぇ、もしかしてあんた達、双子とか?」
 そんな二人の様子を興味深そうに見つめ、春菜が尋ねた。
 さらりと流れる銀の髪、ルビーの様に鮮やかな真紅の瞳‥‥オードフェルトとメイリアは、血のつながりを感じさせる共通点を持っていた。
「ああ、俺たちは‥‥」
「恋人です♪」
 返答しようとするオードフェルトの腕に、メイリアが笑顔で抱きついた。
 二の腕に豊かな胸を押しつけられ、オードフェルトは顔を赤らめる。
「ばっ‥‥な、何言ってるんだメイリア!」
「あら、私オードの事大好きですよ?」
 慌てて腕を振り解こうとする青年に、メイリアは笑顔で追い打ちをかける。
 オードフェルトは赤面したまま言葉を失った。
「ふ〜ん‥‥あんたはその大好きな彼氏に、大量の荷物を持たせてたわけ?」
 二人のやりとりを呆れた様に見つめる春菜。
 メイリアは少女に向き直ると、にっこりと微笑んだ。
「ええ。女性の荷物持ちは、殿方のたしなみですから」
 さらりと言ってのけるメイリアを見て、春菜もニヤリと笑った。
「あんたとは気が合いそうね」
「ええ、とっても」
 言って、軽く手を打ち合わせる二人。
「お互い‥‥苦労するな」
「僕‥‥もう慣れたから」
 その後ろで、こちらも意気投合するオードフェルトと秋一郎。
 どうやら、合流は成功した様であった。

「チッ‥‥手応えのねぇ奴らだぜ」
 路地裏から依頼人達を見つめ、浪人の青年、四方津六都(ea2639)は小さく舌打ちした。
 彼の足下には、チンピラが二人苦悶の表情でうずくまっている。物陰から依頼人を狙っていたため、有無を言わさず叩きのめしたのだ。
 強者との対戦を望む彼にとって、チンピラは退屈な相手だった。
「仕方ないよ。手応えがある様な奴らなら、チンピラなんてしてないだろうし」
 その横で、レンジャーの少年レイエス・サーク(eb1811)は溜め息をついた。
 彼もまた、影から依頼人達を見守る一人である。
 接近戦の六都と射撃のレイエス。そこいらのチンピラでは相手にもならないだろう。
 六都は一人のチンピラを掴み上げ、腫れ上がった顔を睨み付けた。
「同じジャパン人のよしみでな、あのガキ共に手ぇ出そうって連中には容赦しねぇ事にしている。今度あいつらに付きまとってるトコに会ったら‥‥命は無ぇと思うんだな」
 凄味をきかせた口調で言うと、再びチンピラを地面に放り出した。
 何とか身体を起こし、倒れていたちんぴら達はヨタヨタと逃げ去って行った。
「さて‥‥これで、あいつらの目が依頼人から私達に移ればいいんだけど」
「さあな。尻尾巻いて逃げ出すんじゃ‥‥」
 言いかけて、六都は言葉を切った。強い視線と殺気を感じたのだ。
 見ると‥‥春菜が鋭い視線でこちらを睨み付けている。
 ほんの一瞬目が合い、六都は物陰に姿を隠した。
「どうしたの?」
「‥‥いや、何でもねぇ」
 レイエスの問いに答え、六都は薄く笑みを浮かべた。
 あの距離から自分の殺気を感じ取り、同じ殺気を返した少女。
 チンピラ共の相手より、余程面白そうだ‥‥六都はそんな事を考えていた。

  ◆

「これで二人‥‥四方津殿からの連絡も合わせると四人か」
 路地裏に倒れ伏す二人のチンピラを見下ろし、エルフの神聖騎士、キドナス・マーガッヅ(eb1591)は片手の指を四本立てた。
 艶やかな銀髪と青い瞳は育ちの良さを感じさせる。
「そうですわね。そろそろ、依頼人の警護をされている方々にも連絡をしましょう」
 キドナスの隣で、同じくエルフのウィザード、キルト・マーガッヅ(eb1118)が上品に微笑んでいた。
 青年と同じ銀髪碧眼の美しい女性であり、名字からも解る様に二人は兄妹である。
「連絡というと‥‥やはり、あの暗号か?」
 妹へ視線を向け、キドナスは複雑な表情を浮かべた。
 その暗号というのも‥‥
「そうですわ。四種類の花を見つけ、四本ともつんだ‥‥という暗号でしたわよね?」
 キルトが微笑みながら説明する。
 発見したチンピラの数を花の種類。倒した数をつんだ花の数‥‥春菜に依頼内容を知られぬ様、冒険者達はそう暗号を決めたのだ。
 しかし‥‥キドナスはそれが恥ずかしかった。
「ぐっ‥‥やはり、花じゃなくてはならんのか? 大の男が花を摘みなど‥‥」
「キドナスお兄様? 一度決まった事なのですから、きちんとしなくてはいけませんわ」
 にっこりと微笑み、キルトは兄の提案を却下した。
 キドナスは言葉に詰まった。昔から、妹が怒った所を見た覚えが無い。だからこそ‥‥この有無を言わせぬ微笑みが怖いのである。
「‥‥わ、わかった」
 力無く頷き、キドナスは警護班がいる場所へと歩き出した。
 何も知らない依頼人にこの暗号を聞かれた場合、どんな言い訳をしようかと考えながら。

  ◆

「あーもう‥‥可愛い可愛い♪」
「え、ええと、あの‥‥ひゃ! あ、あんまり変な所に抱きつかないで下さい〜」
 春菜に抱きつかれているのは、シフールの少女リノルディア・カインハーツ(eb0862)である。
 冒険者酒場の一角に席を取り、茜姉弟とメイリア、オードフェルトが食事をしていたのがつい先刻。そこへ、メイリアの友人だと言って合流したのだった。
 しかし‥‥
「なによ〜、減るモンじゃないしいいじゃないのよ〜」
「それは、確かに減りませんけど‥‥きゃっ! ダメですってば!」
 メイリアの頼んだエールを飲んで酔っ払った春菜が、小さく愛らしいシフールの少女を気に入ってしまったのである。
 酔っぱらいの相手を押しつけられたリノルディアは、抱きしめて頬ずりをされ、顔を真っ赤に染めていた。
「花は四本つまれたそうです。これで引いてくれればいいんですけど」
 じゃれ合う春菜とリノルディアを横目に見ながら、ナイトの青年イシュト・ヴェルリッヒ(eb2189)が秋一郎に説明した。
 本来はリノルディアと二人で経過報告に来たのだが‥‥シフールの少女は酔っぱらいの相手で忙しく、報告は彼一人の役目となった。暗号を恥ずかしがるキドナスの代理でもある。
 リノルディアが春菜を引きつけてくれているおかげで、依頼の内容について普通に話す事ができた。
「うん‥‥でも元気な人がまだ半分いるから、まだ来るんじゃないかなぁ‥‥」
 言って、秋一郎は不安そうに溜め息をついた。
 そんな彼の頭に、イシュトは優しく手を置いた。
「安心して下さい。そんな時のために私達がいるんです。ほら、不安がっていると、お姉さんが心配しますよ」
 言って微笑むイシュト。長身ではあるが女性の様な顔立ちの彼と、姉よりも少女らしい秋一郎‥‥男から視線の集まる二人組であった。

  ◆

「本当にこっちでいいんだろうな」
「間違いねぇ。もう少し先だが、確かにこっちだ」
 冒険者街の裏通り。足音を忍ばせ、四人のチンピラ達が夜道を歩いている。残りの四人は怪我か恐れをなしたか‥‥どちらかの理由で不参加なのだろう。
 彼らの進行方向には、春菜と秋一郎の住処がある。どう調べたのかはわからないが、このまま行くと姉弟は寝込みを襲われることになる。
 ヒュッ‥‥ドスッ!
 その瞬間、一本の矢が地面に突き刺さった。
 チンピラ達が矢の飛んできた方向へ視線を向けると‥‥月明かりの下、屋根の上で真紅の長髪をなびかせ、イシュトが弓をかまえていた。
「これ以上私の友人に手を出すのでしたら‥‥次は射ち抜きますよ?」
 柔らかな笑顔のまま、さらりと恐ろしい事を言うイシュト。
 そしていつの間にか、細い裏通りの前後を冒険者達が塞いでいた。
「覚えておいてください。私は『真紅のスナイパー』‥‥イシュトです」
 その言葉と同時に、冒険者達は一斉に武器を構える。
 もう、チンピラ達に逃げ道は残されていなかった。

  ◆

 その後、このチンピラ達の姿はキャメロットから消えた。
 冒険者達に散々恐怖を植え付けられ、逃げる様にキャメロットを去ったらしい。
「本当に‥‥力を貸してくれてありがとう。僕一人じゃ‥‥どうしようもなかったから」
 深々と頭を下げ、秋一郎は冒険者達に心から感謝をした。
「でも‥‥今回のチンピラは君達に近づかなくなるかもしれないけど、また似たようなことがあったらどうするの?」
 そんな秋一郎に、どこか納得いかない表情のレイエスが尋ねた。
 秋一郎は言葉をつまらせる。
「また、冒険者に依頼する? それじゃあダメでしょ‥‥もっと君自身が強くならないと。もっと強い心を持たないと、きっとまた同じことが起こる」
「あ‥‥うん‥‥」
 レイエスの口調は厳しいものだった。秋一郎は俯き、まるで叱られた子犬の様な顔になる。
 しかしそこまで言うと、レイエスはふっと表情を和らげた。
「私に出来ることがあれば、いつだって協力するからね? 冒険者への依頼ではなく‥‥友人として」
 その言葉を聞き、秋一郎は顔を上げた。レイエスの笑顔がすぐ近くにある。秋一郎もまた、ゆっくりと笑顔になった。
「うん、ありがとう‥‥ありがとう。僕、忘れないよ‥‥」
 秋一郎の目に涙が浮かぶ。それは、喜びの涙だった。

  ◆

「あんたでしょ、あの時チンピラどもをぶちのめしたの」
 人気の無い路地裏で、春菜は挑発する様な口調で言った。
 彼女の前には、六都が静かに佇んでいる。
「違う‥‥つっても信じねぇよな、目が合っちまったし。だったらどうした?」
「‥‥何であいつらをかたづけてくれたのかは知らない。でも実際助かったわ。あたし一人ならいいけど‥‥秋一郎を連れて八人とやり合うのは、ちょっとキツかったと思うから」
 そこまで言うと、春菜はニヤリと楽しげな笑みを浮かべ‥‥
「でさ‥‥お礼の意味も込めて、一勝負しない? あたしと」
 表情を変えずに言った。
 それだけで、六都には解った。こいつは自分と同じ生き物なのだと。強そうな奴を見ると放っておけない‥‥大馬鹿野郎なのだと。
「俺は強いぜ?」
「偶然ね、あたしもよ」
 軽口を叩き合い、同時に小さな笑みを漏らす。
 しばしの沈黙‥‥そして頭上の木から葉が舞い落ちた瞬間、二人は同時に刀を引き抜いた。