おおかみさんをまもるのれす

■ショートシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2005年07月20日

●オープニング

 狼さんは さびしがり
 でも 森のみんなは 狼さんがきらいです
 リスさんも 鳥さんも うさぎさんも
 お肉ばかりたべている 狼さんがこわいのです
 だからだれも まっしろでふさふさな毛を さわってくれません

 狼さんは さびしがり
 でも 森のみんなは 狼さんに近づきません
 だから 狼さんはいつも一匹
 森にはいかず つめたい石ばっかりの丘の上で
 今日もさびしくしています

 ある日狼さんは すこしとおくの森へいきました
 大きくてきれいな水たまりのそばに
 小さくてまっしろな お花がさいています
 狼さんはおどろきました お花をみるのははじめてです
 狼さんは お花にちかづきました
 じぶんとそっくりな色をしています
 においをかいでみました
 とてもよいにおいです
 狼さんは お花のそばにすわって すやすやとねむりました
 うまれてはじめて さびしくないとおもいました
 その日から 狼さんはずっと お花のそばでくらしました

 またある日 狼さんとお花のところに 一人の男の子がやってきました
 お花をとりにきたとおもった狼さんは うなりごえをあげます
「あ、ごめんなさいれす。ぼくは悪いことしないれすよ」
 狼さんよりちいさそうな男の子は ぺこりとあたまをさげました
 狼さんは うなるのをやめました
 男の子のことばはわかりません
 でもこの男の子からは 『いやなかんじ』がしないのです
 男の子は ゆっくりちかづいてきて‥‥狼さんをなでました
 あたまとせなかを ちいさな手で やさしくなでてくれます
 あったかい と狼さんはおもいました
 男の子は 狼さんの はじめての『ともだち』になりました

 またある日 狼さんとお花のところに だれかがやってきました
 狼さんは うなりごえをあげます
 こんどは『いやなかんじ』がするのです
 へんなかおの ちいさなやつが六匹
 よくにた おおきなやつが一匹
 ゴブリンとホブゴブリンです
 狼さんは こいつらを見たことがあります
 人間をおそったり 森をあらしたりするやつらです
 狼さんは キバをむいて むかっていきました
 『いやなやつら』は とがったもので狼さんをきりつけます
 あいてが一匹なら まけたりしません
 でも『いやなやつら』は 狼さんをかこみます
 狼さんは 少しずつ きずついていきました

「あっちいくのれすっ!」
 そのとき ちいさな石が『いやなやつら』の一匹にあたりました
 狼さんは ふらふらする『いやなやつら』の一匹に たいあたりします
 ちいさな石は つぎつぎと『いやなやつら』にあたりました
 そのたびに 狼さんは『いやなやつら』をつきとばします
 しばらくすると 『いやなやつらは』にげていきました
 狼さんは あんしんしました
 でも からだじゅうがいたいのです
「あっ、だいじょぶれすか!? 今、てあてしてあげるのれす!」
 いつのまにか すぐそばに『ともだち』がいました
 いたいところに何かをぬって そのうえに やわらかいものをまいてくれます
 しばらくすると いたいところは ずいぶんらくになりました
「しばらく、おとなしくしてなきゃダメれすよ」
 『ともだち』が やさしくあたまをなでてくれます
「ぼくが、おおかみさんを助けてあげるのれす!」
 『ともだち』が 何かいっています
 ことばはよくわかりません
 でも狼さんは なんだかとても うれしいきもちになったのでした

  ◆

「おおかみさんを助けてほしいのれす!」
 冒険者ギルドの受付で、パラの少年戦士プラム・ハーディーは必死に訴えた。
 まだ十歳になったばかりで、幼い顔は愛らしく、しかし真剣だった。
「ゴブリンとホブゴブリンが、おおかみさんをいじめたのれす。おおかみさんはケガをしてるのれす。またあいつらが来たら、おおかみさんがあぶないのれす!」
 プラムは泣きそうになりながら、一生懸命説明する。
 受付のギルド職員は困った顔をしながら、少年の頭をなぜた。
「落ち着いてください。慌てずに、ゆっくりでいいですから説明して下さい。まずは、その場所から‥‥」

●今回の参加者

 ea0943 セルフィー・アレグレット(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5382 リューズ・ウォルフ(24歳・♀・バード・パラ・イギリス王国)
 eb1158 ルディ・リトル(15歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 eb1205 ルナ・ティルー(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1903 ロイエンブラウ・メーベルナッハ(25歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 eb2674 鹿堂 威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2849 沙渡 深結(29歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb2962 凍扇 雪(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「おおかみさんっ! 無事だったのれすね!」
 目的の場所が見えると、プラムは勢い良く駆け出した。
 キャメロットから徒歩で数時間。森の中には美しい泉が沸いている。
 泉のほとり‥‥一輪咲く白百合の前で、真っ白な毛並みの狼が一匹座っていた。
「よかったれす‥‥心配したれすよ」
 狼の隣にしゃがみ込み、プラムは小さな手で友人のふさふさとした背中をなでた。
 狼は座ったまま嬉しそうに尾を振る‥‥が、すぐに止まった。プラムの後からやってくる者達に気づいたのだ。
「あ‥‥大丈夫れすよ。あの人たちは悪い人じゃないれすよ」
 プラムは慌ててそう言った。しかし狼に言葉はわからない。
 狼はゆっくりと腰を上げる。
『大丈夫、私達は敵じゃないよ』
 その時、狼の頭に直接優しい少女の声が響いた。
 パラのバード、リューズ・ウォルフ(ea5382)がテレパシーで話しかけたのである。
『おいらも、おおかみさんとお友達になりたいのー♪』
 続いて、明るく無邪気な声が狼の頭に響く。
 シフールの少年バード、ルディ・リトル(eb1158)が、同じくテレパシーで話しかけたのだ。
 狼はぴたりと動きを止め、近づいて来る二人を見上げた。
 片方は『ともだち』と同じくらい小さな少女。もう片方は、もっと小さい羽の生えた少年‥‥
 どちらの言葉からも、安心できる雰囲気が感じられた。
 狼は再びその場に座り、パタパタと尾を振った。
「あ‥‥おおかみさん、わかってくれたのれすか?」
 テレパシーの内容は、術者と狼にしかわからない。大人しくなった狼を見て、プラムは不思議そうに問いかけた。
「うん、わかってくれたみたい。優しくて頭のいい子だね」
 プラムの問いに答えると、リューズは優しく狼の頭をなぜた。
「わーい♪ ふかふかなのー♪」
 安全だとわかるやいなや、ルディは狼の背中に飛び乗った。満面の笑顔を浮かべ、ふさふさとした毛の中で寝転がる。
 安心しているのか、狼は抵抗する事無く静かに座っていた。
「よかったれす。おおかみさん、お友達が増えたれすね」
 プラムも笑顔で狼の背中をなぜる。
 その言葉に応える様に、狼はパタパタと尾を振った。

「あぅ‥‥ふかふかのおおかみさん、私もさわりたいです‥‥」
 和気藹々とする三人と一匹の様子を、シフールの少女セルフィー・アレグレット(ea0943)は物陰からこっそり見つめていた。
 人見知りで恥ずかしがりな彼女は、正面切って『触りたい』とは言い辛いのだ。
「‥‥プラム君もかわいいです‥‥私、ああいう弟が欲しいです‥‥」
「それは聞き捨てならんな」
 狼からプラムに視線を移し、セルフィーが再び呟いた瞬間‥‥背後から圧力を感じた。
 振り返るとそこには、エルフの女騎士ロイエンブラウ・メーベルナッハ(eb1903)が立っている。
「プラム君は私のだぞ。ずっと前から目をつけていたんだからな」
 ジロリとセルフィーを睨み付け、長身の女騎士はズイッと詰め寄った。
 ロイエンブラウは以前依頼でプラムと出会っており、可愛い少年好きの彼女は一目でプラムを気に入っていたのだ。
 プラムの依頼は二度目という事で、そこにかける意気込みも強かった。
「あ‥‥あぅ‥‥」
「いじめたらダメれすよ、ロイおねーさん」
 セルフィーが口ごもっていると、いつの間にやらプラムがすぐそばまでやって来ていた。
 少し怒った様子のプラムを見て、ロイエンブラウは慌てた表情になる。
「ご、誤解だぞプラム君! 私は決していじめてなど‥‥」
「あぅ‥‥ありがとうですプラム君〜」
 ロイエンプラウが弁解しようとした瞬間、セルフィーが半べそをかきながらプラムの頭上に避難した。
「ロイおねーさん、仲良くしなきゃダメれすよ」
 プラムは『めっ』と注意する。
 そのまま女騎士を一人残し、狼の所へと戻って行った。
「ふ‥‥不覚‥‥」
 弱々しく呟き、ロイエンブラウはがっくりとうなだれた

  ◆

「おまえはあっちに加わらないのか?」
 大きな木の下に歩み寄り、青年浪人の鹿堂威(eb2674)は問いかけた。
 少し離れた所から、狼と戯れる小さな少年少女達を微笑ましく見つめている。
「私みたいな黒い大人が近づいたら、いらない警戒をさせてしまいそうですし」
 そんな威の頭上から、あくび混じりの声が降ってきた。
 太く水平にのびた枝の上に寝そべった、同じく浪人の青年、凍扇雪(eb2962)である。
「何だ、着いて早々居眠りか?」
「安心して下さい。夜には起きて見張りをしますから」
 呆れた様な威の言葉に、とぼけた調子で答える雪。
 威はやれやれ、と肩をすくめた。
「まあ、やる事をちゃんと解っているんなら文句は無いけどな」
「わかってますよ。ええと、狼退治‥‥じゃなかった、ゴブリン退治ですね、はい」
 笑い混じりに言う雪を、威は鋭い視線で睨みつけた。
「おい、冗談でも今のは‥‥」
「大丈夫ですって。ちゃんとわかってますから、そんな睨まないでくださいよ。いやぁ、イギリス語って難しいですねぇ」
 雪の軽い口調は変わらない。
 ほんの冗談だろうが‥‥プラムと狼の話に感じる物があった威は、あまり良い気分ではなかった。
「依頼金分の仕事はしますよ。交代の時間になったら起こして下さい」
 そう言うと、雪はすぐに静かな寝息を立て始めた。
「ふん‥‥いきなり戦闘が始まっても、驚いて落ちるなよ」
 小声で言うと、威は木の下から離れて行った。

  ◆

「‥‥ふぅ。こんなものでしょうか」
 作業の手を止め、パラの女性忍者、沙渡深結(eb2849)はホッと一息ついた。
 森の入り口から狼のいる泉までの中間地点に、男性用と女性用二つのテントを設置し、野営の準備はほぼ終了である。
 テントはそれぞれ草が生い茂った所に設置され、その外側に草や枝でカモフラージュを施したのだ。
 これなら夜にゴブリン達が襲って来ても、すぐにテントだとは気づかないだろう。
 逆に、テントの中からゴブリン達の不意をつく事もできる。
「すごいのー、テントできてるのー♪」
 準備の整った野営地を見て、ルディが感嘆の声を上げた。
「悪いな、女の子に力仕事なんかさせて」
 続いて現れた威が、すまなそうに謝罪する。
 しかし深結は笑顔で首を横に振った。
「いいえ。森の事とか植物の事とか、少しわかりますから‥‥やりやすかったです」
「そうか‥‥でも、今度から力仕事の時は呼んでくれよ」
 ポンと深結の小さな背中を叩き、威は微笑んだ。
「みんなーっ! ごはんだよーっ!」
 その時、よく通るゲルマン語で食事の呼びかけがあった。
 ファイターながら家事も得意な女性、ルナ・ティルー(eb1205)の声である。
「食事だぞー‥‥」
 先刻の事を引きずっているのか、気落ちしたイギリス語でロイエンブラウが通訳した。
 ゲルマン語しかできないルナのために、通訳として彼女についているのだ。
 二人の声を聞き、冒険者達が集まって来る。
「お口に合うかどうかはわからないけど、頑張って作ったよっ! さあどうぞ!」
「食っても問題無いだろう‥‥遠慮無く食うといい」
 元気なルナの言葉を、ロイエンブラウが落ち込み気味に意訳する。
 女騎士のテンションとは逆に、食事は冒険者達に好評だった。

  ◆

 深夜、月が中天にさしかかる時間。
 ロイエンブラウは何となく眠れず、テントから出て森の中を歩いていた。
「まったく‥‥プラム君との依頼だというのに、何故こんな気分なのだ」
 誰へともなく呟き、溜め息をつく。
 野営を始めて数日がたつ。まだゴブリンは現れず‥‥プラムとも何となく話し辛い。気分が重い原因は明らかに後者だ。
「どうも何と言うか、変に意識してしまっていかん。二人きりになるチャンスでもあれば‥‥」
 そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか泉へと辿り着いていた。
 そこでロイエンブラウは硬直する。
 泉のほとりの白百合と狼‥‥そのすぐ横で、小さな少年が丸まって眠っている。プラムだった。
 狼はちらりと女騎士へ目をやり、再び目を閉じた。警戒はされていない様である。
 ゆっくりと歩み寄り、プラムの柔らかそうな頬をなで‥‥
「お楽しみの所すみませんが」
「‥‥!!」
 突然背後から声をかけられ、ロイエンブラウは無言で飛び上がった。
 振り返ると、雪が笑顔で佇んでいる。
「べ、別に何も楽しんでなどいないぞ! 断じて! そ、それより何の用だ!?」
 狼狽しつつも、声を抑えながら問いつめる女騎士。
 雪の顔から笑みが消えた。
「ゴブリンらしき一団が、森に近づいています。皆さんを起こした方がいいでしょう」
 その言葉を聞き、ロイエンブラウも真剣な表情になった。

  ◆

 粗雑な足取り、ガチャガチャとうるさい装備品の音。
 六匹のゴブリンと一匹のホブゴブリンが、森の入り口に姿を現した。
 ゴブリンが三匹ずつ二列に並び、その後をホブゴブリンが偉そうに歩いている。
 不格好ではあるが装備を調えており、隊列を組める程度に統制も取れている様だ。
 森へ入り、真っ直ぐに進んで行く。このまま進めば、狼のいる泉へ‥‥
「ここから先へは行かせません」
 その瞬間、一団の背後に音も無く深結が姿を現した。
 一匹のゴブリンを斬りつけ、すぐに近くの茂みへ身を隠す。
 何が起こったのか解らず、ギャアギャアと騒ぐゴブリン達。
「ムーンアローなのーっ!」
「スリープ!」
「あぅ‥‥い、イリュージョンです!」
 ゴブリン達に落ち着く間も与えず、ルディがムーンアローを、リューズがスリープを、セルフィーがイリュージョンを、それぞれ発動させた。
 光の矢が一匹のゴブリンを直撃し、もう一匹のゴブリンが眠りに落ち、ホブゴブリンは恐ろしい物でも見た様にその場で取り乱している。先制攻撃は大成功だった。
「ねーねーセルフィーおねーさん、ホブゴブリンに、どんなイリュージョンを見せたのー?」
 恐怖の余り暴れるホブゴブリンを見て、ルディが不思議そうに尋ねた。
 セルフィーは恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「ええと‥‥大きな猫さんやわんちゃんの群れに襲われて、踏み潰されるって幻影を‥‥」
「‥‥見かけによらずえげつないね、キミ」
 イリュージョンの内容を聞き、リューズはポツリと呟いた。

 その後の展開は一方的だった。
 不意打ちと魔法で混乱した一団に、次々と前衛組が切り込んで行く。
「いくのれすっ!」
 プラムのダーツとナイフ攻撃を受け、ムーンアローで傷ついていたゴブリンが倒れ‥‥
「外さないよっ!」
 ルナの放ったスリング三連発を全部くらい、一匹のゴブリンが倒れ‥‥
「プラム君をキズモノにしようとする奴は‥‥許さん!」
 プラムに向かって行こうとしていたゴブリンは、ロイエンプラウの強烈な一撃に倒され‥‥
「あの場所を血で汚す様な無粋はしたくないからな‥‥」
 泉の方向へ駆け抜け様としていたゴブリンは、威の日本刀に一刀両断され‥‥
「昼間寝てた分、ちょっと気合い入れますかね」
 盾で攻撃を受け流しつつ、雪はカウンターで一匹のゴブリンを切り伏せた。
 これで五匹のゴブリンが倒され、一匹は魔法で眠っている。
 残るは、イリュージョンで恐慌状態に陥ったホブゴブリンのみだった。
 前衛組はホブゴブリンを取り囲み‥‥一斉にそれぞれの攻撃を叩き付けていく。
 戦闘の終わりはあっと言う間だった。

  ◆

 狼さんは さびしがり
 でも 森のみんなは 狼さんに近づきません
 だから 狼さんはいつも一匹
 森にはいかず つめたい石ばっかりの丘の上で
 いつも さびしくしていました

 でもいまは 狼さんはさびしくありません
 まっしろでふさふさな毛を さわってくれる『ともだち』がいます
 やさしく せなかを なでてくれる『ともだち』がいます
 『いやなやつら』から 守ってくれた『ともだち』がいます
 狼さんには たくさんの『ともだち』ができたのです

 狼さんは なぜか ないていました
 狼さんには りゆうがわかりません
 けれどきっと この心のあたたかさが
 こたえなのだと おもいました