上昇志向マイ・ブラザー
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■ショートシナリオ
担当:坂上誠史郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月25日〜07月30日
リプレイ公開日:2005年08月05日
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●オープニング
「あの子は剣が強くて、あなたは僧侶として頑張っています。できる事が違うだけで、どちらが上かなんて事はないのですよ」
母がそう言ってくれた事を覚えている。
小さい頃から姉は強かった。
剣術の才能豊かで、意志も強く、戦う事が苦手な自分をいつも守ってくれた。
自分は僧侶として修行を積み、傷ついた姉を癒す。ずっとそんな関係が続いていた。
それでいいと思っていた‥‥両親が亡くなるまでは。
「あたしが‥‥ずっとあんたを守るから」
両親が亡くなった日、姉はそう言って抱き締めてくれた。
故郷のジャパンを離れ、キャメロットで冒険者として暮らし始めて三年‥‥だんだん、それだけではいけないと思う様になった。
自分のために強くなろうとする姉。自分のために傷つく姉。
戦う事ができない自分のために、彼女はいつも傷だらけだった。
それを『イヤだ』と思った。
すぐに彼女を守れるくらい強くなるのは難しいだろう。
だからせめて、姉に心配かけないですむくらいしっかりしなければ。
それは、十五歳になる茜秋一郎の小さな決意だった。
◆
「あ〜‥‥ただいまぁ〜‥‥」
キャメロット冒険者街の棲家に茜春菜が帰って来たのは、既に夜空の星々が輝き出した頃であった。
声も表情も元気が無く、かなり疲労しているのが一目瞭然だ。
裾の短い衣服から覗く白い手足には、小さな傷や痣がいくつもついている。
「姉様! またそんなに傷だらけになって‥‥」
姉の帰りを待っていた茜秋一郎は、慌てて駆け寄りすぐにリカバーの呪文を唱えた。
白く優しい光が春菜を包み、傷や痣が消えてゆく。
「はぁ、助かったわ秋一郎。さっきまで師匠にシゴかれててさぁ、相変わらずバケモノみたいな強さだわ」
「そんなになるまでやらなくてもいいのに‥‥頑張りすぎだよ姉様は」
「だって嬉しいじゃない? 厳しくされるのは、認められてる証拠だもの」
心配する弟へ、春菜はニッと自信ありげに笑って見せる。稽古用の木刀を床に放り出し、ネコの様に大きくのびをした。
二人は今年で十五歳になる双子の姉弟。艶やかな黒髪を肩口で切り揃え、大きな瞳は髪と同色。愛らしい顔立ちも小柄で細身の体型も、一流の画家が模写した様にそっくりだった。
「ほら、そんな顔してんじゃないわよ。あたしが強くなれば、それだけ確実にあんたを守れるんだから」
言って、今度は優しい笑顔を浮かべる春菜。
彼女は最近、冒険者街の近くにある剣術道場へ通っている。元々腕の立つ侍だったが、道場での稽古を始めてから着実に実力を高めていた。
しかし秋一郎は、そんな姉の気持ちを嬉しく思う反面、心苦しくも思っていた。
自分がもっとしっかりしていれば、姉様をこんな傷だらけしなくてすむのに‥‥そんな思いが頭から離れないのだ。
「あ‥‥そうだ。あのさ、秋一郎。師匠と弟子の皆で、合宿に行く事になってさ‥‥明日からしばらく泊まりで出かけようと思うんだけど‥‥」
その時、思い出した様に春菜が言った。秋一郎は驚いて顔を上げる。
「えっ‥‥姉様、大丈夫なの? 今日もあんなに疲れて返って来たのに‥‥」
心配そうに、そしてとがめる様に、秋一郎は問いかけた。しかし春菜は呆れた様にため息をつく。
「心配なのは、あたしよりあんたの事よ。あんたが一人で街をウロついて、変なヤツに連れてかれるんじゃないかって思うと気が気じゃないわ。あんた、あたしより男にモテるんだから」
「そっ、そんな事ないよっ!」
姉の冗談めいた言葉に、秋一郎は顔を赤らめて反論する。
春菜はカラカラと笑った。
「‥‥僕なら、大丈夫だよ。心配しないで」
姉の笑いがおさまった頃、秋一郎は静かにそう言った。
「‥‥ほんと? 一人で大丈夫?」
心配そうにたずねる春菜。秋一郎は笑顔で頷いて見せる。
「一人で危ない所うろつくんじゃないわよ? 暗くなる前にちゃんと帰って、道を歩く時は人にぶつからない様にしなさい。それから‥‥」
「もう、わかってるよ。姉様こそ、稽古で無理しすぎないでね」
口うるさい姉の言葉に、秋一郎の笑顔は苦笑に変わった。
しかし春菜の耳に弟の言葉は届いていない様である。
「父様、母様、あたしがいない間、秋一郎を守ってあげて。おなか出して寝て、風邪ひいたりしない様に‥‥」
「ねっ、姉様っ! 父様と母様に変な事言わないでよっ!」
形見の品の前に手を合わせる春菜。赤面しつつそれを止める秋一郎。
姉弟の棲家は今夜もにぎやかだった。
◆
「‥‥そんな感じで、僕、いつも姉様に心配かけちゃってて‥‥」
翌朝、合宿へ向かう姉を見送った後、秋一郎は冒険者ギルドへと足を運んでいた。
少し照れながら説明する少年を前に、ギルド職員の青年は鼻の下をのばしていた。顔立ちも口調も仕草も、何とも言えず可愛らしい。
「だから僕、姉様に安心してもらいたいんです。姉様が合宿から帰って来た時に、『一人でも大丈夫そうだ』って思ってくれる様に」
言って、秋一郎は顔を上げた。
「もうすぐ、父様と母様の命日なんです。お墓はジャパンにあって、ちょっとお参りには行けないんだけど‥‥毎年命日には、二人が好きだった花を形見の品の前にお供えしてるんです。その花が、ここから少し離れた森に咲いてて。もし姉様がいない間に、僕がその花を摘んでいたら‥‥姉様も、少しは僕の事を心配しなくなるんじゃないかなって‥‥」
照れ臭そうに、けれど嬉しそうに、秋一郎は笑顔を浮かべた。
「でも少し危ない場所だから、護衛をお願いしたいんです。僕も、精一杯頑張りますから」
秋一郎はぺこりと頭を下げた。
気弱そうな少年には、この依頼をするだけでも大決心だったろう。
その決意をおもんばかり、ギルド職員は笑顔で頷いた。
●リプレイ本文
「あんたねぇ‥‥もう少しこう、男らしくできない?」
依頼人に会い、話を聞くなり、ナイトの少女トリスティア・リム・ライオネス(eb2200)はそう言った。
愛らしく整った顔が、不機嫌そうにゆがんでいる。
「ええと‥‥男らしくって言われても、どうすればいいのかな」
「とりあえず私の荷物持ちなさい。あんたはまず、そのヒョロっとした体から何とかしないとダメよ」
いきなりそんな事を言われ、困惑の表情を浮かべる秋一郎。
しかしトリスティアは、おかまい無しに自分の荷物を依頼主の少年に背負わせる。
わがままお嬢様な彼女にとって、秋一郎は格好の『カモ』だった。
「‥‥お嬢、依頼主にそんな事させたらダメじゃん」
「機嫌を損ねられて、報酬が出ないと困りますしね」
そんな傍若無人な振る舞いをする少女の前に、二人の男性が現れた。
しゃくれたアゴがやけに目立つ屈強な騎士シャー・クレー(eb2638)と、対照的に細身で美形な青年騎士ロドニー・ロードレック(eb2681)である。
二人とも、トリスティアの従者であった。
「‥‥ふん。このくらいで報酬を出し渋る様な心の狭い依頼主なんて、こっちからお断りよ」
諫められても、お嬢様の態度は改まらない。従者二人はこっそり溜め息をついた。
「秋一郎、お嬢の言う事は気にしなくていいじゃん。男のユーが自分より可愛いからスネてるだけじゃん」
「だれがスネてるのよっ!!」
「へぶぅっ!?」
秋一郎に笑いかけるシャーのアゴを、トリスティアの鉄拳が直撃した。
たまらず吹っ飛ぶシャー。
「そんな事ないよ。僕、トリスティアさんはすごく綺麗だと思う」
顔を赤くして怒るトリスティアに、秋一郎は愛らしい笑顔を浮かべながら言った。
「え‥‥な、なによいきなり。そんなの、あ、当たり前じゃない」
突然の言葉に、別の意味で顔を赤らめるトリスティア。
しかし秋一郎は、今度はシャーの方を向き‥‥
「あ、それからシャーさんも。男らしくてステキなアゴだよね」
同じく愛らしい笑顔でそう言った。素直な彼に悪気は無い。
トリスティアの表情がピキッと引きつった。
「わっ‥‥私の美貌はシャーのアゴと同じかぁっ!!」
「お、落ち着いて下さいトリス様! 依頼主です依頼主!」
「秋一郎! 俺のアゴの魅力がわかるとはセンスいじゃん!」
暴れるトリスティア、なだめるロドニー、喜ぶシャー。
お嬢様と部下二人は、最初から大騒ぎであった。
◆
「先程は大変でしたね」
目的地へと向かう道すがら、ファイターの明王院未楡(eb2404)は、笑顔で秋一郎に話しかけた。
二人の前方を、トリスティアが不機嫌そうに歩いている。
「何だか、怒らせちゃったみたいで‥‥しっかりしなきゃって思ってたのに、いきなり失敗しちゃったなぁ‥‥」
秋一郎は落ち込んだ様子である。未楡はそんな彼の頭を優しくなぜた。
「無理に背伸びをする事はありませんよ。少しずつでいいんです」
「でも‥‥それじゃあ、姉様を安心させてあげられないから‥‥」
秋一郎は沈んだままである。そして未楡も、少年を優しくなぜ続けた。
しばしの沈黙。
「私にも‥‥兄がいました」
静寂を破ったのは未楡だった。秋一郎は俯いていた顔を上げる。
「私の両親は、兄を『家を継ぐ者』としか見ていなかったのです。兄は‥‥私を庇って死にました。私はそれからずっと、両親に憎まれていました」
寂しげに苦笑し、未楡は自分の過去を話し始めた。
「両親の愛を知らずに自暴自棄になっていた私を、初めて優しさと愛で包み込んでくれた人‥‥それが私の夫です。彼のお陰で、私は立ち直る事ができました」
辛い過去を、優しい笑顔のまま語る未楡。秋一郎は、そんな彼女から目が離せなくなっていた。
「その人の全てを認め、包み込む優しさ‥‥誰かの心を支える事も、人の強さだと思います。あなたには‥‥きっとそれができます」
言って、未楡はもう一度微笑んだ。
その笑顔を、秋一郎は自分の記憶にある女性と重ね合わせていた。
「未楡さんは‥‥母様みたいです」
思わず敬語になって、そう呟いた。
◆
「えーと‥‥これをこう‥‥」
「ああ、それは違うよ。貸してごらん」
危なっかしい手つきでテントを準備する秋一郎を見かね、エルフのナイト、ヴェイル・フォルト(eb2808)が作業を交代した。
既に日も落ち、一行は野営の準備をしている。盗賊を警戒し、目的地から少し離れた岩場の陰を野営地にしたのだ。
「あ‥‥ありがとう。こういう事って、いつも姉様がやってくれてたから‥‥ダメだね、僕」
しょんぼりと肩を落とす秋一郎。初めて姉と離れ、自分の頼りなさを再確認させられた気分だった。
ヴェイルは作業の手を止め、秋一郎の肩をポンと叩いた。
「どうも、他人という気がしないな」
「え‥‥ボクがですか?」
「いや、お姉さんの方」
不思議そうな秋一郎に、ヴェイルは苦笑しながら言った。
「僕にも弟がいてね。恥ずかしい話だが、君のお姉さんと同じように、守るんだって必死になってた‥‥僕の場合、それで嫌われてしまったんだが」
小さく肩をすくめ、ヴェイルは思い出話をする。
そんな彼の手を、秋一郎はそっと握った。
「僕は‥‥姉様が好きだよ。だから‥‥ヴェイルさんの弟さんも、本当はヴェイルさんが好きなんじゃないかな‥‥きっと」
「私もそう思います」
秋一郎の後に続いたのは、エルフのウィザード、ハルカ・ヴォルティール(ea5741)だった。
秋一郎とヴェイルが視線を向けると、ハルカはその美しい顔に優しい笑みを浮かべる。
「秋一郎さんが春菜さんに心配かけまいと頑張る気持ち、そしてヴェイルさんが弟さんを守ろうとする気持ち‥‥どちらも健気で好きですよ。応援したくなります」
そう言うと、ハルカは秋一郎の隣に歩み寄った。
「でも‥‥甘えたっていいと思いますよ。春菜さんは、貴方を守るために頑張っているのでしょう? それなのに秋一郎さんが全然お姉様を頼らなくなったら‥‥きっと寂しいと思います。ねえ、ヴェイルさん?」
「‥‥ああ、そうだな。心配するだけでもいけない、甘えるだけでもいけない。二人で共に成長する事が‥‥大事なんだな」
腕を組み、一言一言考えながら言うヴェイル。
秋一郎もまた、何事か考えている様だった。
「僕も‥‥なれるかな。そんな、理想的な姉弟に」
『もちろん』
少年の問いに、ヴェイルとハルカの答えが重なった。
◆
「ふふっ‥‥まだやりますか?」
優雅に短刀を構え、女性神聖騎士メイリア・インフェルノ(eb0276)は笑顔で問いかけた。
月は既に中天を過ぎ、周囲は夜の空気に包まれている。月明かりでうっすらと照らされた地面には、二人の盗賊がうめきながら倒れている。
「もう立てやしないよ、メイリア。仲間の所へ帰らない様に、縛って茂みの中にでも放り込んでおこう」
メイリアに声をかけたのは、自分の身長よりも長い大剣を持つ青年騎士オードフェルト・ベルゼビュート(eb0200)だった。手早く盗賊達を縄で縛り、口に布を噛ませる。
二人とも、透ける様に美しい銀髪とルビーの様な真紅の瞳の持ち主である。体格こそ違うが、確かな血の繋がりを感じられる外見だった。
夜の見張り役だった二人が、斥候らしき二人の盗賊を発見したのがつい先刻。その後、不意をついてあっという間に叩き伏せてしまったのである。
「これで今夜はもう来ないでしょうし‥‥ね、オード‥‥続きをしましょう?」
「なっ、何だ続きって! べ、別に何もしてないだろう!」
大きな胸をオードフェルトの腕に押しつけ、何やら悩ましげな声を出すメイリア。
神聖騎士らしからぬ色気でこの青年をからかうのが、メイリアの楽しみの一つだった。
「‥‥って、何やってるんだお前ら」
顔を真っ赤に染めていたオードフェルトが、ふと視線を止めた。
そこには‥‥
「や、親切な方々から寄付をいただいているのです」
「ちっ、盗賊のくせにシケてやがるじゃん」
縛り上げた盗賊達の所持金を失敬する、ロドニーとシャーの姿があった。
◆
翌朝、縛った盗賊二人を放り出して一行は目的地に到着した。
「うぉ‥‥本当にここは『花畑』だな‥‥」
目の前に広がる花畑を見て、オードフェルトは感嘆の声を漏らした。色取り取りの花たちが、夏の日差しに負けず咲き誇っている。
「はい。以前何度か姉様と来たんですけど、すごく綺麗ですよね」
秋一郎も嬉しそうな笑顔を浮かべた。無事目的地に辿り着き、ホッとしているのだろう。
「はい秋一郎さん、プレゼントです♪」
その時、ふいにメイリアが秋一郎の頭に何かをかぶせた。驚いて頭に手をやると、それは手作りの花冠だった。
「ふふっ‥‥お似合いですよ」
メイリアに微笑まれ、秋一郎は頬を赤らめる。
その姿を見て、オードフェルトは溜め息をついた。
「メイリア、一応俺達は秋一郎の警護なんだから‥‥」
「はい、オードの分もありますよ」
満面の笑顔を浮かべ、メイリアがもう一つ花冠を差し出す。
顔を引きつらせるオードフェルトの横を、どこからか吹いてきた風が通りすぎて行った。
◆
「なーによ、歯ごたえの無い奴ら。ウサ晴らしにもならないわ」
倒れ伏す盗賊達を見下ろし、トリスティアが舌打ちした。彼女の周囲では、シャーとロドニーが盗賊達から『寄付』をいただいている。
「まあ、これで秋一郎くんの花摘みを邪魔されずにすむな」
「ええ‥‥お姉様のための花摘み、心安らかにしてほしいですものね」
ヴェイルと未楡は、安堵した様に言葉を交わした。
昨夜の盗賊二人からアジトを聞き出し、秋一郎が花畑に着くよりも一足早く、アジトに襲撃をかけたのである。
現れた盗賊達に、ハルカがストームの魔法で奇襲をかけ、混乱した五人の盗賊達を前衛のメンバーが個別撃破したのだ。
勝負はあっという間だった。
「あとは‥‥秋一郎さんの気持ちが、春菜さんに伝わるのを祈るばかりですね」
遠くに花摘み中の秋一郎を眺め、ハルカは心からの願いを口にした。
◆
「へはぁ〜‥‥つっかれたぁ〜‥‥」
キャメロットに帰り着き、道場のメンバー達と別れた春菜は大きく息を吐き出した。
既に太陽は地平に迫り、反対側には夕闇が迫っている。
この日まで激しい稽古を積んできた春菜は、疲れ切った体で冒険者街の方向へ歩き出した。
「そこのお嬢さん‥‥」
その時、突然何物かが春菜を呼び止めた。その瞬間‥‥
「あ‥‥う!?」
春菜は苦悶の声を上げた。疲れた全身が更に重くなり、頭にもモヤがかかった様になる。
思い体で振り返ると‥‥そこには、マントのフードを目深に被って顔を隠した人物が立っている。声から察するに男だろう。
「最近の女性は強い人ばかりですね、でもこれなら動けないでしょう」
男は笑い混じりにそう言った。
春菜は舌打ちする。この感じはオーラホールドの魔法だ。しかもそれなりに心得のある者である。全身の疲労も相まって、まともに動くのも辛いだろう。
「ね‥‥姉様!? 姉様っ!!」
膝を折りそうになる春菜の耳に、聞き慣れた声が届いた。
必死に重い頭を上げると、心配そうな顔で走り寄る秋一郎の姿が見える。
「バカ‥‥来るんじゃ、ないわよ‥‥」
弱々しい声で言う春菜。
しかし秋一郎は全力で駆け寄り、マントの男から春菜をかばう様に立ちはだかった。
「腰抜けは黙って見ていて下さい」
言ってマントの男は剣を抜き‥‥秋一郎へと向けた。
春菜の顔色が変わる。
「秋一郎! 逃げなさいよっ‥‥!」
「イヤだ!」
弱々しい春菜の言葉を、秋一郎は全力で拒否した。
その瞬間‥‥
『せいやぁーっ!!』
「ぶほぁっ!?」
気合いの声がいくつも重なり、マントの男を遙か後方へと吹き飛ばした。
秋一郎を追ってきた、冒険者達である。
「え‥‥メイリア‥‥? オードフェルト‥‥? なんで‥‥?」
よろよろと顔を上げ、見知った顔を不思議そうに見上げる春菜。
冒険者達と喜び会う秋一郎が、何故かとても男らしく見えた。
「‥‥ちゃんと、攻撃は止めるつもりだったんですがね」
路地裏まで吹き飛ばされ、マントの男‥‥ことロドニーがぼやいた。
春菜のピンチを演出するため、秋一郎にも内緒で一芝居打ったのである。冒険者達の乱入は予想外だったが。
「なかなか名演技だったじゃん」
「変装のセンスは微妙だけど」
地面に転がるロドニーを、シャーとトリスティアが溜め息混じりにねぎらう。
演技派ナイトの名演技は、姉弟の今後に良い意味で刺激を与えた様だった。