『おねえさん』と呼ばれたい

■ショートシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2005年10月29日

●オープニング

「構えが下がっておるぞ! 気を抜くな!」
「うっす! すんません!」
 キャメロット冒険者街の近くに建つ剣術道場では、今日も威勢の良い声が響いていた。
 板張りの道場内には強面の男達が集まっており、涼しくなり始めた気候の中、厳しい稽古で汗を流している。
「脇を締めよ! 隙ができるぞ!」
「はっ、はいっ!」
 そんな男達を指導するのは、一人場違いな程愛らしいエルフの戦士、リュウレイト・ラグナスだった。
 肩にかかるふわふわとした金髪、大きく美しい緑の瞳、パラと見紛うばかりの小柄な体格‥‥リュウレイトは既に六十年程生きているが、外見はまるで十歳前後の愛らしい少女だった。いかにエルフの老化が人間よりも緩やかとはいえ、極端な童顔である。
 しかし外見に似合わず剣の腕は素晴らしく、筋骨隆々の弟子達を何人も相手しているのに汗一つかいていない。
「打ち込みが遅い! 腕だけで剣を振るからじゃ!」
「げふ‥‥あ、ありがとうございました‥‥」
 木刀での一撃を腹にくらい、弟子の一人が崩れ落ちた。リュウレイトの攻撃は的確に人体の急所をつく。加減してはいるのだが、この日倒れた弟子はもう五人目だった。
「姉さん、お疲れさまです。そろそろ一息入れませんか?」
 その時、道場の入り口から女性の声がした。リュウレイトも稽古中野弟子達も、手を止めて声の主へ目を向ける。
 歳の頃は二十代前半だろうか。すらりとした細身の身体だが、出るべき所と引っ込むべき所のメリハリがついている。肌は透ける様に白く、背中に届く銀髪は艶やか。大きく青い瞳には愛らしさと美しさが同居し‥‥何とも魅力に溢れた女性だった。
「お、おうエリューシア、よく来たのう」
 リュウレイトは少し顔を赤らめ、現れた女性の名を呼んだ。
 エリューシア・ラグナス‥‥リュウレイトが溺愛する、義理の妹である。
 ずっと離れ離れだったのだが、冒険者達の協力により、数ヶ月前に姉妹として一緒に暮らし始めたのである。
「はい。あ、これ差し入れです。よかったら、皆さんで食べて下さい」
 柔らかく微笑み、エリューシアは大きな袋を道場の床に置いた。開けると、中には美味しそうな焼きたてのパンがつまっている。
「あっ! これ角のパン屋のヤツじゃないっすか! 俺これ大好きなんすよ!」
「いやぁエリューシアさん、お美しいだけじゃなくてセンスもいい!」
「いやでもホント、エリューシアさんが来てくれて助かりました。あのままじゃ、俺達しごき殺されてましたよ」
 途端に弟子達がエリューシアの周りに集まって来た。美しいエリューシアは、男達の憧れの的なのである。
 しかし次の瞬間‥‥
「ぐはっ!」
「げはぁっ!?」
「おぎょぉぉぉぉっ!」
 苦悶の叫びを上げ、エリューシアに群がっていた弟子達が吹き飛んだ。
「わしの義妹に手を出すなと‥‥何度言わせれば気がすむのじゃっ!」
 木刀を手にしたリュウレイトが、こめかみを引きつらせ怒りの表情でエリューシアの前に立っている。もちろん、弟子達を吹き飛ばしたのも彼女だ。
 義妹を大事にする余り、リュウレイトはエリューシアに近づく男を片っ端から排除しているのだ。
 エリューシアは困った様に微笑み、義姉の小さな肩に手を置いた。途端にリュウレイトは赤面する。
「姉さん、お稽古はいいですけど、暴力はよくないですよ」
「あ、いや、これはだな、いやらしい奴らからお前を守ろうと‥‥」
「りゅーちゃん、けんかはだめなんだよ」
 リュウレイトが弁解を試みていると、幼い少女の声がそれを遮った。
 リュウレイトの赤面が引き、ピクリと体が硬直する。
「えりゅおねえさん、またりゅーちゃんが、わるいこ」
 エリューシアの背後から、幼い少女がリュウレイトを指さしている。大きな青い瞳、耳を隠す程度の柔らかな金髪‥‥肌は透ける様に白く、人形の様に愛らしい。
 ミナ・ウェッジ‥‥元リュウレイトの弟子だった男の娘で、まだ十歳である。母は病死し、父はとある罪で投獄中のため、リュウレイトの家であずかっているのだ。
「‥‥ミナ、『りゅーちゃん』はやめろと言ったじゃろう。エリューシアよりも、わしの方が『おねえさん』なのじゃぞ」
 エリューシアにくっついている少女を、リュウレイトは不機嫌そうに見つめた。
 ミナはリュウレイトとエリューシアを交互に見比べ‥‥
「うそ」
 短くそれだけ言った。
「う、嘘ではないぞ! わしの方がずっと‥‥」
「だってりゅーちゃん、わたしとおなじくらい」
 言い返そうとするリュウレイトを、再びミナの声が遮った。
 彼女の言う通り、リュウレイトとミナの体格はほとんど同じである。
 見ていた弟子達も思わず吹き出すが、リュウレイトに睨まれて再び沈黙する。
「ねーえりゅおねえさん、りゅーちゃんわるいこ」
 言ってエリューシアに抱きつくミナ。
「わ、わしは悪い子ではないぞ! それよりミナ! さっきからエリューシアにひっつきすぎじゃ!」
 負けずにリュウレイトも言い返す。
 中央で困った様に微笑むエリューシア。
「姉さん‥‥小さな子相手なんですから、そんなに怒らないで下さい。大人げないですよ」
 その言葉により、『エリューシア争奪戦』はミナの勝利に終わった。

  ◆

「十歳の子供に負けてはおれんのじゃ!」
 冒険者ギルドのカウンターに腰掛け、リュウレイトはぐっと拳を握り締めた。
「エリューシアは『おねえさん』で、わしは『りゅーちゃん』‥‥ミナはわしを甘く見ておるのじゃ! ミナにわしのすごい所を見せてじゃな、『りゅーおねえさん』と呼ばせてやるのじゃ!」
 愛らしい顔を不満そうに歪め、カウンターをべしべしと叩く。
「じゃから、力を貸して欲しいのじゃ‥‥あ、エリューシアや弟子達には内緒じゃぞ。また『大人げ無い』と言われてしまうからのぅ」
 少し顔を赤くして、ギルド職員に詰め寄るリュウレイト。
 溜め息をつきながら、ギルド職員は不作法者からの依頼を受け入れた。

●今回の参加者

 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea7487 ガイン・ハイリロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3587 カイン・リュシエル(20歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「ねーみゆおねえさん、わたしね、もうおくすりいらないんだよ」
「まあ‥‥ミナちゃん、元気になったのですね」
 秋の優しい日差しが差し込む道場の隅で、明王院未楡(eb2404)は膝に乗ったミナの頭をそっとなぜた。
 彼女は以前、依頼でミナと彼女の父ガンツに会っている。依頼の事を隠し、『ミナの様子を見に来た』と言って道場の家事手伝いに納まっていた。
 母の様な雰囲気を持つ未楡に、ミナも安心して甘えている。
「はいミナちゃん、甘いお菓子ですの。一緒に食べましょうですの」
 そう言って奥の厨房から現れたのは、エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)だ。
 未楡の連れとして道場にやってきた彼女は、料理の腕を振るって未楡の手伝いをしている。
 この日もエヴァーグリーンは小皿に手作りのお菓子を乗せ、ミナに差し出した。
 依頼に参加した冒険者達の中では一番年下であり、ミナも姉ができたかの様になついていた。
「わー! えばおねえさん、ありがとうー♪ むぐむぐ‥‥」
「ほらほら‥‥こぼさない様にしましょうね」
「まだありますから、ゆっくり食べるですの」
 パッと顔を輝かせ、ミナは差し出されたお菓子を嬉しそうに頬張った。
 そんなミナをエヴァーグリーンと未楡は笑顔で見つめている。
 何とも微笑ましい三人組であった。

  ◆

「うぬぬぬ‥‥あ、あっさり『おねえさん』と‥‥」
 談笑するミナ達三人の姿を、リュウレイトは物陰に隠れながら見つめていた。
 『おねえさん』と呼ばれた未楡とエヴァーグリーンが羨ましいのだろうが‥‥背後から見ると何とも間抜けな姿である。
「ふ‥‥くく‥‥素直になれずに覗き見なんて、『りゅーちゃん』は可愛いなぁ」
 そんな小さな後ろ姿に、ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は笑いをこらえながら話しかけた。
 リュウレイトは顔を赤くして振り返る。
「な、なんじゃ。いくら年上とはいえ、わしはお前に『りゅーちゃん』などと呼ばれる筋合いはないぞ」
「あーダメだなそんな怖い顔して。『おねえさん』になりたいなら、エリューシアさんの様に優雅さを持たないと」
 からかう様な口調で言い、ツウィクセルはニヤっと笑みを浮かべた。リュウレイトの顔が更に赤くなる。
 『体験入門』という名目で道場に来ているのだが、リュウレイトを気に入ったのかよくこうやってからかって遊んでいるのだ。
 そして最後は決まって‥‥
「うっ、うるさいのじゃ! 口の減らぬ弟子はお仕置きなのじゃ!」
「え、ちょ、ちょっと待て! 暴力を振るうのは『わるいこ』なんだぞ!」

 ごすっ!

 問答無用で張り倒されるという寸劇が繰り広げられるのだった。

  ◆

「‥‥『おねえさん』は遠そうだなぁ」
 大騒ぎのツウィクセル達を遠目に眺めながら、カイン・リュシエル(eb3587)は溜め息をついた。
 彼は『モンスターに襲われた所をリュウレイトに助けられ、ケガが治るまで泊めてもらう事になった』という理由で道場に滞在している。
「カインさん、もうお怪我は大丈夫なんですか?」
 そんな彼に、心配そうな表情でエリューシアが問いかけた。
 依頼のためとはいえ、カインは嘘をついている事に少しばかり胸が痛んだ。
「あ‥‥うん、随分楽になったよ。それよりさ‥‥リュウレイトさんって、もしかしてミナちゃんから『おねえさん』って呼ばれたいんじゃないかな」
 罪悪感を振り払う様に、カインは話題を変えた。
 その言葉を聞き、エリューシアもリュウレイトへと視線を向ける。倒れたツウィクセルの頬を、小さな手でつねっている様だ。
「いや、未楡さんとエヴァさんを羨ましそうに見てたから、そうなのかなって」
「姉さんは‥‥苦手なんです。愛情を与えたり、受け止めたりするのが」
 カインの言葉に答える様に、エリューシアは言った。
「姉さんは、両親から愛情を受けずに育ちました。そして家を飛び出して‥‥ずっと剣の腕一本で生き抜いてきました。だから、『愛情』っていう物に慣れていないんです。本当は好きなのに‥‥素直になれなかったり、ツンケンしてしまったり」
「‥‥だから、ミナちゃんに対しても『おねえさん』になり切れない、ってこと?」
 カインの問いに、エリューシアは無言で頷いた。
「なるほど‥‥そういう所は、ミナちゃんと同じ『子供』なんだ‥‥」
 小さく呟くと、カインは複雑な思いで溜め息をついた。

  ◆

「まぁ、確かに稽古はキツいけどよ‥‥ちゃんと教えてくれるしな」
「ああ、ここを逃げ出す奴はほとんどいないぜ」
「つーか‥‥なーんか放っておけないんだよな、師匠は」
「あんだけ強いのに、時々外見通りのガキみたいな所あるしな‥‥」

「‥‥意外と人望あるみたいだな」
「ええ。厳しいだけの方ではない様ですね」
 何人かの弟子達から『師匠の感想』を聞き、ガイン・ハイリロード(ea7487)とバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)は顔を見合わせた。
 二人とも『体験入門者』として道場に足を運んでおり、その合間にリュウレイトの評判を聞いているのだ。
「しかしこういう魅力は、まだ子供のミナちゃんには伝わり辛いだろうな‥‥」
 眉根を寄せ、ガインは溜め息混じりに言った。
 いつも笑顔のバーゼリオも、困った表情になる。
「ええ。かといって、リュウレイト殿に『大人の余裕』は期待できないでしょうし‥‥」
 言って、二人は同時に溜め息をついた。
 カインがエリューシアから聞いた話については、二人も報告を受けている。その内容を聞いて、『大人らしくしろ』と言うのも酷な話だ。
「長く生きているんだから、ムキにならない落ち着きを持てればいいんだがな」
「そうですね。でも物は考え様です。実際の年齢を言及すると、『おねいさん』じゃなくて『おばさん』扱いされかねませんから」
「う‥‥それはキツいな。というか、さらりと毒舌を吐いたな」
「まったくじゃ。『おばさん』とは酷い言われ様じゃのう」
「いえいえ、真実とは時に辛い物で‥‥」
 その瞬間、二人は言葉を切った。二人の物ではない声が、会話に参加している事に気づいたからだ。
 恐る恐る背後を振り返ると‥‥こめかみを引きつらせたリュウレイトが立っている。ガインとバーゼリオは顔面蒼白になった。
「そんな無駄話ができるとは‥‥わしの稽古が甘かった様じゃな?」
 そう言うとリュウレイトは二人の腕を掴み、強引に引きずって行く。
「ま、待ってくれ、話し合おう。俺達の目的は、稽古じゃなくて依頼の‥‥」
「じ、自分はバードですから、剣より歌を‥‥」
「遠慮するな、特別フルコースじゃ」
 リュウレイトの力は全くゆるまない。
 ややあって、道場に悲鳴が二つ響き渡った。

  ◆

「ほぉら、どこ見てるんだい!」
「うごっ!」
 シルフィリア・ユピオーク(eb3525)の振るう木刀を頭にくらい、弟子の一人が悲鳴を上げた。
 体験入門の一人である彼女、身長は男性に負けぬ長身であり、すらりとた体つきだがしっかりと筋肉がついている。
 しかし何より、大きく胸元の開いた衣服から覗く巨乳が、男達の集中力を殺いでいた。
「あんたらがそんな調子だから、お師匠さんが無駄に警戒するんだよ。稽古の後のお茶くらいなら付き合うからさ、きちんとメリハリつけな」
 言って笑顔でウインクするシルフィリア。
 いつの間にやら、周囲には彼女の色香に惑った弟子達が何人か集まっていた。

「‥‥エロバカ弟子ばかりじゃのう」
 シルフィリアに群がる弟子達を横目で見つつ、リュウレイトは大きな溜め息をついた。
「隙ありっ!」
 その瞬間、リュウレイト目がけて木刀の突きが放たれた。体験入門の一人、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)である。
 小柄だがなかなか腕が立ち、見所があるとリュウレイトが個人指導をしていた所なのだ。
「おっと、そうはいかんぞ。それぃ!」
 リュウレイトは寸前で突きを避け、反対に突きを返す。
「つっ‥‥はぁっ!」
 突然の反撃に驚きながらも、クリムゾンは体を反転させ突きをかわす。
 その動きを見て、リュウレイトは驚きの表情を浮かべた。
 ややあって、驚きは満面の笑顔に変わり‥‥木刀を放り出すと、突然クリムゾンに抱きついたのだ。
「わひゃぁっ!?」
「お前! なかなか良いぞ! 稽古とはいえ、剣をかわされたのは久しぶりじゃ! 見所あるのぅ!」
 慌てるクリムゾンを意に介さず、リュウレイトは笑顔のまま新弟子の頭を小さな手でなで回した。彼女なりに褒めているつもりなのだろう。
「‥‥その顔を、ミナにも見せてやればいいのに」
 手荒な賞賛を受けながら、クリムゾンはポツリと呟いた。
 リュウレイトは不思議そうな顔をすると、新弟子を放した。
「‥‥今の顔を、ミナに?」
「あんたさ、何かいっつもつんつんしてんじゃん。あんたが『お姉ちゃん』として欠けてるのは、『頼りやすさ』と『親しみやすさ』だと思う」
「妹さんが大切なのは良い事だけど、あんまり大人気ない対応もなんだね‥‥子供っぽく見えるよ」
 クリムゾンの言葉に続き、いつの間にやらすぐ隣まで来ていたシルフィリアが言った。
 二人の言葉を聞き、リュウレイトはハッとした表情になる。
「ミナがわしを『おねえさん』と呼ばないのは‥‥わしの態度に原因がある‥‥と?」
「そういう事だ。それをわかってもらうために、俺はあえて『りゅーちゃん』をからかっていたんだ」
 落ち込むリュウレイトの肩に、これまたいつの間にやら現れたツウィクセルが優しく手を置いた。笑顔も浮かべている。
 その笑顔を見つめ返し‥‥
『それはウソだ』
 リュウレイト、クリムゾン、シルフィリアの突っ込みが重なった。

  ◆

「リュウお姉さんは、ミナちゃんのお父さん‥‥ガンツさんのお師匠様なんですよ」
 道場の隅でミナを膝に乗せながら、未楡は話し始めた。
 それを聞き、ミナは不思議そうに小首を傾げる。
「え‥‥でもみゆおねえさん、へんだよ。だってりゅーちゃん、わたしとおなじくらい」
「リュウお姉さん達エルフさんは凄く長生きで‥‥体が大人になるのに時間が掛かるんですよ。もしかすると‥‥ミナちゃんが大人になっても、リュウお姉さんは余り変わっていないかもしれませんね‥‥」
 優しい笑顔のまま、未楡は少女をなぜた。
「じゃあ、じゃあ‥‥りゅーちゃんは、おとうさんの、せんせいなの?」
 信じられない、といった表情で、ミナは未楡を見上げた。
「そうですの。リューさんもお弟子さん大事にしてますですの。そうでなかったら、お弟子さんの娘さんあずかろうなんてふつー思わないですの」
 未楡の隣にいるエヴァーグリーンが、笑顔で返答した。
「素直じゃないけれど、優しく強い小さな剣士‥‥いい歌ができそうです」
「まあ‥‥もうすこーしだけ‥‥お弟子さん達を気遣ってくれると、ポイント高いんだけどな‥‥」
 連日の猛稽古でボロボロのバーゼリオとガインが、床に転がりながら付け加えた。
「リュウレイトさんはね、ミナちゃんが好きなんだ。ただ‥‥素直になれないだけなんだよ」
 ミナの隣に歩み寄り、エリューシアから話を聞いたカインもそう続けた。
「おとうさん‥‥りゅーちゃん‥‥」
 父の事を思ったのか、寂しそうに‥‥そして思い悩む様に、ミナは小さく呟いた。
 その時。
「大丈夫さ! 『お姉ちゃん』がここにいるじゃん!」
 クリムゾンの快活な声が道場に響いた。
 彼女の後ろには、シルフィリア、ツウィクセル‥‥そして、神妙な顔をしたリュウレイトが立っている。
「ミナ‥‥すまなかった」
 リュウレイトは一歩前に出ると、ミナに向かって頭を下げた。
「わしは‥‥自分の事しか考えていなかった。ミナの寂しさに‥‥目が向かなかった」
 頭を上げると、リュウレイトはミナの近くまで歩み寄り、膝を着いた。
「ガンツがいなくて‥‥お前も寂しかったのだな。なのに、わしは‥‥」
「あのね、りゅーちゃん」
 リュウレイトの声を遮る様に、ミナが言った。
 未楡の膝から立ち上がり、そのままリュウレイトを抱き締める。
「え、み、ミナ?」
「おねえちゃんって、よんでもいい?」
 驚くリュウレイトに、ミナはそっと問いかける。
 しばしの沈黙。そしてリュウレイトはミナを抱き締め返した。
「‥‥当たり前じゃ」
 涙混じりの笑顔で答える。
 冒険者達は顔を見合わせ、依頼の完了に沸き返った。
 それは、小さなリュウレイトに二人目の『妹』ができた瞬間だった。