思い出の花

■ショートシナリオ&プロモート


担当:坂上誠史郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月30日〜04月04日

リプレイ公開日:2005年04月05日

●オープニング

「結局、ぼくに才能なんて無かったんだ‥‥君と結婚するなんて、最初から身分違いだったんだよ!」
「待ってアレン! お願い! 考え直して!」
 走り去る少年の背に、少女は必死に呼びかけた。
 しかし彼は振り返ることなく、宵闇の向こうへ消えて行った‥‥

●少女の決意
「‥‥失礼します」
 朝、まだ依頼者の姿もほとんど無い時間、一人の少女が冒険者ギルドに現れた。
 歳の頃は十代半ばだろうか。幼さの残る愛らしい顔立ちだが、青く大きな瞳と艶やかな金髪が、少女をどこか大人びて見せた。
 もう五年もすれば、大変な美人になる‥‥ギルド職員の男がそんな事を考えていると、
「依頼をしたいんです‥‥もう、私一人じゃどうしようもなくて‥‥」
 少女は瞳をうるませ、うつむいたまま泣き出してしまった。
 突然の出来事に、ギルド職員は顔を青くする。
「ちょ、ちょっとお嬢さん落ち着いて! あの、事情を話しちゃくれませんか。ゆっくりでいいですから‥‥」

_______________

「まぁ、よくある話なんだがな‥‥」
 冒険者達を前にして、ギルド職員は説明を始めた。
 依頼主はハイルゼン家の一人娘、ミュー。それなりに金のある貴族の家だが、親に内緒の依頼らしく、彼女が持ち込んだ報酬額は正直少なめだった。
「そのミューお嬢さんが、幼なじみだった使用人の少年と、少し前から『いい仲』らしくてな‥‥それを知った両親は、大事な一人娘についた『悪い虫』をクビにしちまったそうだ」
 依頼主の悲しそうな顔を思い出し、ギルド職員はため息をつく。
「クビになった後、その彼はお嬢さんの両親に認めてもらうため、ナイトを目指してたんだそうだ。だが剣術の修行についていけなくなったらしくてな‥‥やさぐれて、同じ落ちこぼれ達と町を抜け出し盗賊になっちまったらしい」
 ギルド職員はやれやれ、と肩をすくめた。
 盗賊達はキャメロット付近の森に住み着き、旅人達から小銭をまきあげているらしい。
「彼氏を説得するために、ミューお嬢さんは盗賊どものアジトへ行きたいそうだ。お前さん達の仕事は、お嬢さんの護衛と彼氏の奪還。まぁ人数も少ないし腕も中途半端な奴らだ、大した危険も無いだろうが‥‥くれぐれも、依頼人と彼氏の安全には気をつけてくれよ」
 依頼書を冒険者達に渡すと、ギルド職員は何か思い出した様に言葉を継いだ。
「ああそれから‥‥アジトに行く前にな、お嬢さんはその森で花をつみたいそうだ。以前彼氏からプレゼントされた思い出の花が、森にはたくさん咲いているらしい。今度はその花を自分がつんで、彼に送りたいと言ってたよ‥‥健気だよなぁ」

●今回の参加者

 ea3664 ガンド・グランザム(57歳・♂・ジプシー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea5748 ノエル・エーアリヒカイト(37歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb0131 アースハット・レッドペッパー(38歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1158 ルディ・リトル(15歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 eb1159 クィディ・リトル(18歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)
 eb1380 ユスティーナ・シェイキィ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1504 白峰郷 夢路(23歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「ミューおねーさん、こっちにもお花いっぱいあるのー♪」
「あっ、待って下さいルディさん」
 純白の花が咲き乱れる中、バードのルディ・リトル(eb1158)は愛らしい仕草でミューを呼んだ。
 ミューもまた、軽い足取りでシフールの少年を追う。
「ルディ、あまりミューさんを連れ回すなよ。どこに盗賊がいるかわからないんだ」
 周囲の音に気を配りつつ、二人の少し後からクィディ・リトル(eb1159)が冷静に諫めた。
 彼はルディの兄で同じシフールのバードだが、愛らしい弟とは反対に、大人びた冷静さを持っている。
「ぶー。クィディおにーちゃんもお花摘もうよー」
「花は摘むよ。でも、ミューさんの安全が第一なんだ」
「ご、ごめんなさいクィディさん、私なら大丈夫ですから‥‥」
 慌てて兄弟の仲裁に入るミュー。この森へ着くまでの旅の間、よく見られた光景だった。
 ミューは両親に、『ケンブリッジの学園を見学したい』と言って家を出た。心配する両親を何とか説き伏せ、冒険者達と合流したのである。
 初めての旅で緊張するミューの気持ちを、この小さな兄弟が和らげてくれたのは間違いなかった。
「ふふっ、相変わらず仲がいいわよね」
 言い合う兄弟を横目で見ながら、エルフのウィザード、ユスティーナ・シェイキィ(eb1380)はミューに歩み寄った。
「ね、ミューさん。今更だけど‥‥ちょっと聞いていい?」
「はい?」
「‥‥彼のさ、どこが好きなわけ? あんな情けない人よりも、ミューさんだったらもっと素敵な人を見つけられると思うんだけど」
 ユスティーナはずっと腹を立てていた。ミューを残して逃げ出した恋人、アレンに対してである。
 ミューは悲しそうに微笑んだ。
「ユスティーナさんは‥‥好きな方の悪い面を見た時、どうなさいますか?」
「え‥‥?」
 逆に問い返され、ユスティーナは面食らった。
 ミューは再び微笑む。
「愛する人が間違った道へ行こうとするなら、それを正すのが私の愛し方です」
 ユスティーナは二の句が継げなかった。温室育ちの少女から、これ程強い『決意』を聞くとは思っていなかったのだ。
「苦境に立たされるとも、愛を失わず相手を想う‥‥素晴らしい覚悟じゃの、ミュー殿。」
 拍手と共に現れたのは、筋骨隆々のドワーフ、ガンド・グランザム(ea3664)だった。
 自らを『愛の伝道師』と称する壮年のジプシーは、ミューの言葉にいたく感動したらしい。
「しかしな、おぬしの恋人が犯した罪は償わねばならん。小銭程度とはいえ、盗賊は盗賊じゃ。罪を償わぬ限り、本当に幸せにはなれんと思うでな。その覚悟も‥‥せにゃならんぞ」
 ガンドは真剣な眼差しでミューを見つめた。
 少女はその視線を受け止め‥‥はっきりと頷いた。
「‥‥で、あなたは花も摘まずに何してるわけ?」
 ユスティーナは振り返り、花畑の外から遠巻きにこちらを見ているアースハット・レッドペッパー(eb0131)に問いかけた。
「あぁ、いや‥‥きれいな花畑だね。武者震いが止まらないよ‥‥」
 ニヒルなナンパ師ウィザードは、顔を青くしながらおどけて見せた。
 美しい依頼者の手前、『ミツバチが怖い』などとは口が裂けても言えないのである。
「よいしょ、よいしょ‥‥」
 ‥‥ぼふっ。
 突然、アースハットの背後から白い花の山が降って来た。
「ふぅ〜‥‥ミューさん、たくさんお花を摘んできました」
 長身のアースハットを大量の花に埋没させ、白峰郷夢路(eb1504)が姿を現した。
 小柄な少年忍者は満足そうに微笑んでいる。文字通り、山ほど花を摘んできた様だ。
 一同は呆然と夢路を‥‥そして花の山を見つめている。
「‥‥あ、あれ? ボク、頑張って集めて来たんですけど‥‥足りなかったかな‥‥」
「い、いえ、あの‥‥」
 不思議そうな夢路に、困り顔のミュー。そして‥‥
「ちょっと多すぎなのー」
「自然破壊だね」
「あなた、何個花束作るつもりなの?」
「少々張り切りすぎじゃの」
 一斉に突っ込みが入った。
「はうぅ‥‥つ、次、がんばります〜‥‥」
『頑張らなくていいっ!』
 半泣きの夢路に、再び総突っ込み。
 ただ一人‥‥
「だぁーっ! こんな花まみれにしたらハチが来るだろうがーっ!!」
 花の山から飛び出たアースハットの声だけが、半テンポズレていた。

  ◆

「どうなさいました?」
 ミュー達の大騒ぎを聞き流しつつ、メイド兼ファイターのノエル・エーアリヒカイト(ea5748)は静かな口調で問いかけた。
 すらりとした長身の女性で、その物腰からは礼儀正しさがにじみ出ている。
「‥‥これだけ騒がしくしていれば、盗賊にも気づかれるでしょう‥‥ミュー殿の気持ちをアレン殿に伝えるには、『邪魔者』抜きの方がよろしいかと‥‥」
 一人森の奥を見つめていた長身痩躯の僧兵、長寿院文淳(eb0711)は、ポツリと質問に応えた。
 ノエルの表情が僅かに緊張する。
「アレン様以外の盗賊を先に倒しておくべき、という事ですか?」
「‥‥そうです‥‥そのためには、二手に分かれるべきでしょう‥‥」
 言って、ノエルと文淳はミューへ視線を向けた。
 山の様な花の中から、より美しい物を真剣に選んでいる。恋人への強い想いが目に見える様だった。
「わたくしは、ミュー様に付き添います。花束作りには、まだしばらくかかりそうですし」
「‥‥リドル兄弟も、恐らくそう言うでしょう‥‥私は、残りの方々と露払いをします‥‥」

  ◆

「なっ、何なんだよてめぇらはっ!?」
 怯えた表情で、盗賊の一人が叫んだ。
 六人いたはずの仲間達は、既に二人にまで減っている。
 一人は文淳の六尺棒で叩き伏せられ、
 一人はアースハットのスクロール、ライトニングサンダーボルトをまともにくらい、
 一人は夢路のスリングショットがこめかみに命中し、
 一人はユスティーナのグラビティーキャノンで地面に打ち付けられ、
 盗賊達は四人仲良く意識を失っていた。
「‥‥最初に言った通り、私達はアレン殿に用があります‥‥話も聞かずに向かって来られたので、仕方なくお相手したに過ぎません‥‥」
「ぼ‥‥ぼくに何の用だって言うんだ!?」
 文淳の言葉を遮る様に、残った盗賊のもう片方が叫んだ。
 ミューと同じ年頃らしい小柄な少年‥‥依頼の『目標』、アレン本人である。
「おぬしを連れ戻しに来たんじゃよ。自棄になっての盗賊家業と聞くが、愛する者を悲しませてまでやる事ではなかろう? どうせなら、それこそ剣の修行にヤケクソになっても良かったろうに」
 荒事があまり得意ではないガンドは、ここぞとばかりに説得を開始した。
 『愛する者』‥‥その言葉を聞き、アレンの顔色が変わる。
「あんた達、まさか‥‥」
「‥‥そうです‥‥私達は、ミュー殿に頼まれたのですよ‥‥挫折感に浸るのも悪いとは言いませんが‥‥理由はどうあれ、想ってくれる人を一人ぼっちにしてはいけません‥‥」
 文淳の言葉を聞き、アレンは俯いた。肩が小刻みに震えている。
「おいてめぇら! それ以上近づくんじゃねぇぞ!」
 冒険者達の表情が緊迫した。残った一人の盗賊がアレンを羽交い締めにし、首筋にナイフを突きつけたのだ。
「なっ、何するんだよ!?」
 アレンは信じられないといった表情だった。
「てめぇら、こいつを死なせたくなけりゃ武器を捨てて後ろに下がれ!」
 目が狂気に歪んでいた。下手な事をすれば、アレンは‥‥
「何て奴‥‥心底腐ってるわ」
 ユスティーナが吐き捨てる様に呟いた。盗賊の視線が彼女に向く。
(「アレンおにーさん、もうぐ自由にしてあげるのー。そしたらすぐ盗賊さんから離れてほしいのー」)
 盗賊の注意がそれた瞬間、アレンの頭に直接声が響いた。そして‥‥
「ぐあぁーっ!!」
 盗賊が悲鳴を上げた。右腕にダーツが刺さっている。
 訳もわからないまま、アレンは盗賊の腕を振りほどき、横に飛び退いた。
「手加減はしておきます」
 突如現れたノエルが盗賊の前に立ち塞がり‥‥
 ドスッ!
 ロングクラブを相手の身体にめりこませた。
 盗賊は苦悶の表情を浮かべ、力無く崩れ落ちる。
「はぁ‥‥悪いね、助かったよ」
 アースハットは肩をすくめ、安堵のため息をついた。
 ルディのテレパシー、クィディのダーツ、そしてノエルの一撃‥‥突然現れたのは、花摘みを手伝っていた三人だった。

  ◆

「アレン‥‥」
 盗賊達が片づくと、恐る恐るミューが姿を現した。手には純白の花束を持っている。
 アレンは驚きを隠せなかった。
「ミュー!? まさか、君までわざわざここに‥‥」
「この方々に護衛をお願いしたの。どうしても‥‥あなたにこれを渡したくて」
 花束を持って、ミューはゆっくりとアレンに近づいていった。
「‥‥受け取れないよ」
 アレンは俯き、消え入る様に呟いた。ミューの足が止まる。
「ぼくは逃げたんだ‥‥ナイトの修行からも‥‥君からも。今更、君の気持ちを受け取るなんて‥‥」
 言葉を切り、アレンは唇を噛みしめた。
 ミューは必死にかける言葉を探していた。だが、いざとなると上手く話すことができなかった。
「‥‥アレンさん」
 いつの間にか、ユスティーナがアレンのすぐ隣に歩み寄っていた。
 驚いて顔を上げるアレン。
 その顔面を、思い切りグーで殴りつけた。
「なっ‥‥」
 全員が言葉を失った。
「情けない事言ってんじゃないわよ! あたし達がついてるとはいえ、貴族のミューさんがここに来るのに、どれだけ勇気を振り絞ったと思うの!? あなたも勇気を振り絞って、その気持ちに応えたらどうなのよ!」
 ユスティーナは、ため込んでいた怒りを全て吐き出した。
 非力なエルフのウィザードである。殴られても大したダメージは無いだろう。
 しかしアレンには、棍棒で百回殴られたよりも響く言葉だった。
「ほんと、情けないねぇ‥‥どうだいミューさん、彼の事は忘れて、俺とよろしくやるってのは」
 ユスティーナの言葉を継ぐ様に、アースハットがおどけて言った。
 突然の事に、ミューは困惑の表情を浮かべる。
「え、ええっ?」
「大丈夫だって。俺だったら、君の寂しい心まで包み込んであげられるよ‥‥」
 キザな口調で言い、ミューの肩を抱くアースハット。
 アレンは鋭くナンパ師を睨み付けた。
「ミューに手を出すなぁーっ!!」
 その瞬間、アレンは驚く程のスピードで駆け出した。
 ナンパに夢中なアースハットは反応が遅れ‥‥
「ぐほぉっ!?」
 アレンの右拳を顔面に食らい、吹っ飛ぶ羽目になった。
「ミュー、大丈夫!?」
「う、うん‥‥大丈夫」
「ふっ‥‥彼女が忘れられないみたいだな、少年」
 寄り添う二人に、アースハットは大人ぶって言った。鼻血が出ているのでいまいち決まらない。
 アレンは自分がミューを抱き寄せている事に気づき、離れようとした。
 しかしミューが彼の腕をギュッとつかむ。
「アレン‥‥私は、アレンと一緒にいるために、できる限りの事をしたいの。お願い‥‥もう一度、戦いましょう‥‥二人で」
 真っ直ぐに愛しい人を見つめ、ミューは言った。
 アレンもその視線を受け止め‥‥純白の花束を手に取った。
「うん‥‥戦うよ。君と、君がくれたこの花に誓う」
 しばし無言の後、アレンは言った。その瞳に、もう迷いは無い様だった。
 冒険者達は目配せして笑い合う。
「はうぅ‥‥えぐっ‥‥良かったですよぉ〜‥‥ぐしゅ‥‥」
 夢路だけが、喜びの涙でぐしゃぐしゃになっていた。

  ◆

 その後、アレンは他の五人と一緒にキャメロットへ送られた。きちんと罪を償い、またナイトを目指すのだと言う。
 先は長いだろうが‥‥今度こそ苦難を乗り越えてほしいと、冒険者達は願っていた。
「俺のナンパ師ぶり、なかなかの演技だったろ?」
 アースハットがおどけて言う。
「あれが演技ならすごいね。八割方本気に見えたけど」
「日頃身についた物が出た、という感じでした」
 クィディとノエルが冷静に突っ込む。
「へぅ‥‥ほんとにほんとに、幸せになって下さいね〜‥‥えぐえぐ」
 その横で、夢路の涙はまだ止まらない様子だった。