セイ・アルザードの苦難

■ショートシナリオ&プロモート


担当:坂上誠史郎

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月04日〜04月09日

リプレイ公開日:2005年04月13日

●オープニング

「あの‥‥依頼、したいんですけど‥‥いい、ですか?」
 ギルドの受付に現れたのは、花も恥じらう様な美少女だった。
 歳の頃は十代半ばだろうか。黒く大きな瞳に、同じ色の髪を肩口で切り揃えている。
 気弱で清純そうなその姿は、小動物の様な愛らしさがあった。
 これは目の保養だ。受付の青年は、鼻の下をのばしながら少女を見つめ‥‥ある事に気づいた。
 少女がフォレスト・オブ・ローズの制服を着ていること。そして‥‥スカートではなく、スラックスをはいている事。
「‥‥失礼ですが、学生証を見せてもらえますか」
「あ、は、はい」
 慌ててポケットから学生証を取り出す少女。受付の青年は注意深く目を通した。
 名前:セイ・アルザード。
 年齢:15歳。
 クラス:神聖騎士。

 性別‥‥‥‥男子。

「‥‥時々、神は残酷だと思う」
「え? え?」
 受付の青年は、ショックを隠しきれない様子だった。

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「つまり、女性につきまとわれて困っている、と」
「は、はい‥‥」
 美少女率九割九分のセイ少年は、頬を赤らめながら少しうつむいた。こんな姿もたまらなく愛らしい。
 外見は好みど真ん中なのに‥‥受付の青年は、まだショックを引きずっていた。
「その女性と、つきあってみようとは思わないの? 好みじゃないとか?」
「あ、い、いえ‥‥シャナルさんは素敵な方だと思いますけど、ボクはまだ修行中の身ですし‥‥両親も、ボクが一人前の神聖騎士になる事を、楽しみにしてくれてますし‥‥」
 『シャナル』というのは相手の名前か。モジモジする少年を見ながら、受付の青年は理解した。
「ちゃんとハッキリ断った? 君は一応男性なんだから、少し乱暴にでも追い払うことはできるだろう? まぁ、女性相手に良い方法とは言えないが‥‥」
「あ、えと‥‥それは、無理です。シャナルさん、とても強いファイターで‥‥ボクじゃあ、かなわなくて‥‥一応、『修行中の身ですから』とお断りしたんですけど、それ以降シャナルさん、なんだか‥‥すごく強引になって‥‥ボクいつか、お、おし、押し倒されちゃうんじゃ、ないかって‥‥」
 顔を真っ赤に染めて話すセイ。恥じらいのためか、どんどん声が小さくなっていく。
 この少年が女性に押し倒される場面を想像し、受付の青年は鼻血を吹きそうになった。
「それに、あの‥‥こんな事を言うのは失礼かもしれないですけど‥‥ボク、恋愛には憧れがあって‥‥いつか恋愛するなら、花も恥じらう様な、純粋で、可憐な人がいいな、なんて‥‥」
 自分の様な女性が好みなのかと心中で突っ込みを入れつつ、受付の青年はセイを見つめた。
 何だかもう、男でもかまわないかもしれない様な気がする愛らしさだ。
「見ぃ〜つけた‥‥ここにいたのねぇ、セ・イ・君」
 受付の青年が危ない世界へ踏み出す直前、ギルドの入り口に一人の少女が現れた。
 セイの全身が、びくんと震える。ゆっくり振り返り‥‥
「あ、しゃ、シャナルさん‥‥」
 怯えた声で少女の名を呟いた。そう、彼を追いかけている女性本人だ。
 受付の青年は、ゴクリと息をのんだ。
 歳の頃はセイより二、三歳上だろうか。フリーウィルの制服を着ているが、スカートの丈は通常よりかなり短く、すらりとした白い足を惜しげも無くさらしていた。腰はキュッとしまり、対照的に胸はドーンと自己主張。
 何とも‥‥匂い立つ様な色香の持ち主だった。
「んふふぅ‥‥もう逃げちゃダメよぉ。ね‥‥遊ぼ?」
 背中に届く金髪を指先で玩びながら、好色そうに青い瞳を細める。
 セイはジリジリと少女から遠ざかり‥‥
「ご‥‥ごめんなさいっ!」
 脱兎のごとく逃げ出した。
「あっ! ダメよ! もう逃がさないんだからぁっ!」
 シャナルも続いてギルドを飛び出してゆく。
 後には、呆然とした青年だけが残された。
「‥‥時々、神は不公平だと思う」
 求めぬ者がセクシー美少女に追われ、なぜ自分は一人なのか。
 彼はしばらく自問していた。

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「‥‥その何時間か後にまた戻って来て、正式に依頼をしていったんだがな」
 冒険者達を前にして、受付の青年は説明を始めた。
「依頼内容は、相手の女性に自分を諦めさせてほしいって事だ。そのために恋人のフリをしてくれる女性や、彼女の意識を自分からそらす様な魅力的な男性を雇いたいらしい。乱暴な事をせず、穏便にすませたいんだろうな」
 やれやれ、と青年は肩をすくめた。
「ただ、一筋縄じゃいかないだろうな。依頼人は何度か断ってるらしいが、全く諦める様子が無いらしい。何であんなにホレられたのか‥‥男冥利ってモンだと思うがなぁ」
 言って、彼はしばらく考える様な仕草を見せた。
「これは、あくまで俺の意見なんだけどな‥‥プラトニックな関係だったら、二人をくっつけちまうのもアリな気がする。彼女のアタックが強烈すぎるから、依頼主も逃げてるだけだと思うんだよなぁ‥‥」

●今回の参加者

 ea1115 ラスター・トゥーゲント(23歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1509 フォリー・マクライアン(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0311 マクシミリアン・リーマス(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「なるほど、男の人にからまれてたシャナルさんを助けたのが、きっかけだったんですね?」
 ため息混じりに言ったのは、ハーフエルフの神聖騎士、マクシミリアン・リーマス(eb0311)だった。
「で、逆にその男達にからまれた所を、シャナルさんに助けらちゃったわけね‥‥」
 レンジャーの少女フォリー・マクライアン(ea1509)も、呆れた様に肩をすくめる。
「‥‥熱烈な愛の始まりとは思えない間抜けさだね」
 そして最後はエルフのウィザード、ファラ・ルシェイメア(ea4112)がクールな口調で止めを刺した。
「はうぅ‥‥」
 三人の言葉を聞き、セイは顔を真っ赤に染めて俯いた。
 まだ昼前の学食には、四人以外の人影はまばらである。彼らは隅のテーブルに陣取り、セイとシャナルの『馴れ初め』を聞き出していたのだった。
「しかしセイ‥‥恋愛に不慣れなのはわかるが、君からも少し行動したらどうだい? 淑やかなタイプが好みなら、自分でシャナルを教育し直すくらいの根性が無くてどうする」
「きょ、教育だなんて‥‥そんな、ボクには、とても‥‥」
 ファラの言葉に、再び顔を赤くするセイ。
 エルフであるファラは、外見こそ若々しいがもう六十年近い年月を生きている。人生経験の浅いセイが同じ様にできるはずもなかった。
「まあまあファラさん、口下手なセイ君にそれは酷ですよ。同じ神聖騎士として、彼の悩みもわかりますし‥‥まずは僕達が、ファラさんと話してみましょう」
 困惑するセイに、マクシミリアンが助け船を出した。
 隣でフォリーがうんうんと頷いている。
「で、モノは相談なんだけど‥‥」
 フォリーはセイ以外の二人を招き寄せ、
「私としてはさ、できれば二人が幸せになってくれたらなぁ‥‥なんて思うのよ。そんなに熱烈な女の子‥‥ただ追い返すのも後味悪いじゃない?」
 依頼主に聞こえない程度の小声でささやいた。
「そうですね‥‥多少依頼内容とは違いますけど、そうなれば一番いいと思います」
「演技でその場だけ取り繕っても、結局は元の木阿弥、という気もするしね」
 話を聞いた二人も、同じ様に小声で同意する。
 不思議そうなセイを尻目に、冒険者達による『作戦』は始まったのである。

  ◆

(「あ‥‥あれが‥‥シャナルお姉様‥‥」)
 市場の人混みの中、少年レンジャー、ラスター・トゥーゲント(ea1115)は、一人の女性から目を離せなくなっていた。
 ミニスカートからすらりとのびた足、豊満な胸と対照的に細い腰、さらりと流れる金髪に大きく青い瞳‥‥間違いなく、シャナルその人である。
 年上の綺麗なお姉さんはみんな好きなラスターの目は、ハート型になっていた。
「しゃ‥‥シャナルお姉様ーっ!」
 背後から駆け寄り、そのまま背中に抱きつこうとして‥‥ラスターの両腕は空を切った。
「あ、あれ?」
「こんな明るい内から‥‥積極的ねぇ、ボウヤ」
 背後から女性の声がした。ラスターが振り返ると‥‥鼻先にロングソードを突き付けられる。
 剣を構え、優雅に微笑むシャナルの姿がそこにあった。ラスターの胸は更に高鳴る。
「あ、あのっ! オイラ、ラスター・トゥーゲントっていいます! シャナルお姉様に一目惚れしました! オイラのお姉様になって下さいーっ!」
 頬を朱に染め、ラスターは周囲に響き渡る様な声で告白した。通行人達の目が、一斉に二人へ集中する。
 シャナルはあっけに取られ、一瞬言葉を失った。
「‥‥ありがとう」
 ややあって、シャナルは剣を鞘に収めながら小さく呟いた。
 ゆっくりラスターへ歩み寄り‥‥少しかがんで、少年の頬にキスをする。
「でも私‥‥好きな人がいるの。ごめんなさいね‥‥素敵な告白、嬉しかったわ」
 真剣な口調でそう言うと、シャナルは小さく微笑んだ。
 とても綺麗で‥‥とても悲しそうな笑顔だった。
 シャナルがその場から立ち去ると、周囲の人の流れも元に戻った。
「何で‥‥そんな悲しそうな顔するんだよ‥‥」
 一人残されたラスターは、人混みの中に立ち尽くしていた。

  ◆

「最近セイ君につきまとってるのって、あなたね?」
 フリーウィルの校舎内で、フォリーはシャナルに声をかけた。
 廊下には人気が無く、シャナルも声をかけられたのが自分であると気づいた様だった。
「そうね‥‥私の事だと思うわ。貴方は?」
「私はフォリー。あなたの恋敵って所かな、シャナルさん」
 フォリーは強気に、挑発する様な口調で言った。もちろん演技である。
 シャナルの眉がわずかにつり上がった。
「‥‥貴方も、セイ君の事が好きなの?」
「そうよ! 私なんかず〜っと前からセイ君に目をつけてたんだから!」
「嘘」
 フォリーの言葉を、シャナルは短い一言で遮った。表情を和らげ、優しく微笑む。
「もしかして‥‥セイ君に頼まれたの? 私を牽制してくれって」
「ちっ、違うわよ! 私は、本当に‥‥」
「本物の嫉妬って怖いのよ、本当に。貴方の表情も声も、優しすぎるわ」
 慌てるフォリーに、シャナルは笑顔のまま言った。
 フォリーは二の句が継げなかった。まさか、こんなに早く見抜かれるとは思っていなかったのだ。
 驚く程の観察眼、そして頭の回転速度である。
「私‥‥そうとう嫌われてるみたいね、セイ君に」
「ち、違うわ! あなたが積極的すぎて、少し困ってるだけよ! もっと違う感じでアプローチすれば、セイ君だってわかってくれるわ!」
 シャナルの笑顔が、急に悲しみで塗りつぶされた。
 フォリーは演技をやめ、慌ててフォローを入れる。シャナルを傷つけてしまったと、罪悪感が重くのしかかった。
「‥‥ね、私とセイ君の事、どのくらい聞いてる?」
 短い沈黙の後、シャナルが尋ねてきた。
「え‥‥男の人にからまれてたあなたを、セイ君が助けたって事くらいしか‥‥」
「そっか‥‥」
 フォリーの応えを聞き、シャナルは何事か考えている様だった。
 そして‥‥決心した様に口を開いた。
「私ね、昔‥‥娼婦だったの。家が貧乏でね‥‥下の妹達を食べさせるために、売られたの」
 突然の打ち明け話に、フォリーは絶句した。
「私の周りには、私の身体しか見てない男しかいなかった。それは、ある程度のお金を貯めて、娼婦をやめた後も同じだったわ。だから私は、自分の外見を使って男を引きつける方法をよく知ってるの」
 自嘲的に笑い、シャナルは言葉を続ける。
「でもね‥‥逆に言えば、私はそれしか知らなかったの。初めて、私の身体目当てじゃない‥‥ただ親切で、私を助けようとしてくれた人‥‥セイ君に出会って、どうしていいかわからなくなったの。話すたびに、どんどん彼を好きになったわ。でも‥‥私は自分の身体を使ってしか、『好意』を伝える方法を知らないのよ。そうするごとに、セイ君は私から逃げて行くの‥‥」
 フォリーは心から後悔した。自分は、シャナルの『触れられたくない傷』に触れてしまったのだ。
 シャナルは無理に笑顔を浮かべた。悲しみに滲んだ笑顔だった。
「フォリー‥‥だったわね、教えてくれる? 『もっと違う感じで』って、貴方は言った。どうすればいいの? どうすれば‥‥セイ君に伝わるの‥‥?」
「僕達がお手伝いしますよ」
 言葉を失うフォリーに代わって返事をしたのは、マクシミリアンだった。隣にはファラの姿もある。
 シャナルは新たに現れた二人へ視線を向けた。
「貴方達も、セイ君に頼まれた人?」
「そうだ。けれど君とセイを引き離すつもりでもない。そんな弱気でいられたら、僕達もやる気が出ないな」
 冷静に‥‥けれど相手のやる気を刺激するように、ファラは言葉を投げかけた。
 シャナルが不思議そうに首を傾げる。
「どういう事‥‥? 貴方達、私をセイ君から遠ざけたいんじゃないの?」
「もし二人が上手くいくなら、一番幸せじゃないですか。シャナルさんの純粋な気持ちを聞いて、そう思いました」
 マクシミリアンは強い口調で言った。
「今フォリーに言った言葉を、そのままセイに伝えればいい。セイは君を誤解していたと気づくだろう」
 ファラも静かに‥‥だが確信を込めた口調で続く。
 しかしシャナルは首を横に振った。
「無理よ‥‥こんな事セイ君が知ったら、余計嫌われて‥‥」
「君の愛した人は、そんなに度量の狭い男かい? 君は不幸な経験をして、偏った思い込みをしている。そこから一歩抜け出し、『本当の自分』を見せなければ‥‥本当の愛情など産まれないよ」
 シャナルの弱気な台詞を、ファラの声が遮った。
「セイ君の趣味とか好きなタイプとか、ちゃんと調べてあるんですよ。ただ身体を前面に押し出すだけじゃなくて、セイ君の事を考えながら、今後どう接していくか考えましょう。僕達も協力しますから」
「そうだよ! 私も力になるから!」
 優しく諭すマクシミリアンに、フォリーも力強く同意する。
「うん‥‥ありがとう‥‥」
 シャナルの瞳から涙が溢れた。

(「勝てそうにないなぁ‥‥セイさんには」)
 たまたま通りかかったラスターは、階段の影に隠れて全ての話を聞いていた。
(「どうせ失恋するなら‥‥シャナルお姉様が幸せな方がいいよな」)
 心中でそう呟くと、ラスターは足音を忍ばせてその場から立ち去った。

  ◆

「私‥‥変じゃない‥‥?」
 シャナルは自分の姿を見て、恥ずかしそうに尋ねた。
 廊下での告白から二日、今シャナルは市場で買ったばかりの白いワンピースに身を包んでいる。
 丈は膝が隠れる程度あり、今までの服装に比べると露出度は大幅に減っていた。
「すごいキレイ! バッチリ清純派だよっ! ねっ?」
 フォリーが嬉しそうに手を叩いて言った。
「ええ、とても似合ってますよ。素敵です」
「まぁ‥‥悪くはないね」
 マクシミリアンとファラも、それぞれに賛辞の言葉を贈る。
 太陽の下、純白の衣服を纏うシャナルは、今までと全く違う爽やかな魅力に溢れていた。
「よーしっ! それじゃあさっそく、セイ君の所へ‥‥」
「シャナル‥‥さん‥‥?」
 フォリーが号令をかけようとしたその時、突然目的の人物‥‥セイが現れた。
 不意をつかれ、一同は飛び上がるほど驚いた。
「せっ、せせっ、セイ君っ!? どど、どうして、ここに‥‥」
 特に心の準備が必要だったシャナルは、いつもの余裕など吹き飛んでしまった様に動揺している。
 セイは一瞬俯き、視線をシャナルへと向けた。
「ラスターさんが、教えてくれたんです。市場にシャナルさんがいるからって‥‥」
 その言葉に、一同は再び驚いた。特に冒険者達は、ギルドで依頼を受けた時以来あの少年と顔を合わせていなかったのだ。
「あ、あのね、セイ君‥‥私、セイ君に話が‥‥」
「全部、聞きました。ラスターさんから」
 絞り出す様なシャナルの言葉を、セイの静かな声が遮った。
 シャナルの顔が凍り付く。しかしセイは彼女を和らげる様に、硬直したシャナルの右手を握った。
「ボクは‥‥自分が恥ずかしいです。外見や、表面的な行動ばかりを見て、シャナルさんの心に目を向けることができなかった。ボクは‥‥本当に馬鹿です」
 握る手に力を込め、セイはシャナルの瞳を正面から見上げた。
「ボクはもっとシャナルさんの事を知りたいです。もっとシャナルさんとお話ししたいです。ボクの事も‥‥知って欲しいです。ただ、あの‥‥ボクは修行中の身ですから‥‥その、肉体的な‥‥ごにょごにょ‥‥は、できない、ですけど‥‥」
 顔を真っ赤にして、精一杯の言葉を贈るセイ。
 今すぐに恋人になれるという訳ではない。けれど、シャナルにはそれで十分だった。
「うん‥‥うん。私も、たくさん話したい。私も‥‥セイ君の事、知りたい‥‥」
 手を握り返し、シャナルは大粒の涙を流した。
 冒険者達は手を打ち合わせ、計画の成功を祝っている。
「そのワンピース‥‥すごく似合ってますよ」
 セイの言葉は、その日最高の贈り物だった。

「はぁ〜‥‥オイラ損な役だよなぁ」
 遠くから様子を見つつ、ラスターは呟いた。
 けれど、好きな人のあんな笑顔を見られたんだから良しとしよう。
 シャナルに小さく手を振り、少年は市場を後にした。