おねーちゃんのためなのれす

■ショートシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月18日〜04月23日

リプレイ公開日:2005年04月26日

●オープニング

「カミーオおねーちゃん、ぼくに任せるのれす」
 パラの少年プラムは、小さな胸をポンと叩いて見せた。
 少年の真剣な眼差しを見て、カミーオは困惑の表情を浮かべる。
「あ‥‥あのね、プラム君。私の事だったら、もういいの。だから気にしないで。こんな危ない事、プラム君には無理よ」
「心配無用なのれす。ぼくはもう、立派なファイターなのれす」
 愛らしく、にっこりと微笑むプラム。
 プラムは、二十歳の人間であるカミーオよりも頭一つ小さい。舌っ足らずな口調が、少年をより幼く感じさせた。
「ぼく、冒険の準備をしてくるのれす。がんばるから、おねーちゃんは安心してほしいのれす」
「あっ、待ってプラム君っ!」
 カミーオの制止も聞かず、小走りに家を出て行くプラム。
 しばらく呆然と立ち尽くしていたカミーオは、決心した様に駆け出した。
 冒険者ギルドに向かって。

  ◆

「ぐすっ‥‥私、もう涙が止まらなくて〜」
 ギルド職員の少女は目頭を押さえて、涙をハンカチでぬぐった。
「‥‥依頼人のカミーオ・シェルトンさんは、一ヶ月ほど前に恋人を病気で亡くされたそうです。けれど最近、郊外にある墓地の辺りでズゥンビが数体目撃されて‥‥その中に、カミーオさんの恋人もいたそうなんです」
 ぐすっとすすりあげ、ギルド職員は再び涙目になった。
「恋人を失ったばかりなのに‥‥カミーオさんは本当に辛かったと思います。彼女は恋人の魂を安らかに眠らせてあげたいと、悩んでいたそうです。そんな時、近所の男の子に何気なくその話をしたら‥‥その子が、カミーオさんの代わりに墓地へ行くって言い出したらしいんです」
 ちーんと鼻をかみ、ギルド職員は大きくため息をついた。
「男の子‥‥プラム君っていうそうですけど、かなり本気みたいです。今は何とかカミーオさんが止めていますけど、このままじゃいつ勝手に墓地へ行ってしまうかわからない状態で‥‥皆さんには、そのプラム君の護衛をお願いしたいそうです。そしてできれば‥‥ズゥンビになってしまった彼女の恋人を、安らかに眠らせてあげて下さい‥‥」

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9817 ルチル・カーネリアン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0603 イリヤ・ツィスカリーゼ(20歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1031 李 香桃(40歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1155 チェルシー・ファリュウ(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb1384 マレス・イースディン(25歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 月は中天に達し、辺りを煌々と照らしている。
 目的の墓地まで徒歩十分余りの場所にキャンプを張り、冒険者達は食事と休息をとっていた。
「はい、プラムさん。できあがりですよ」
 にこにこと微笑みを浮かべ、倉城響(ea1466)は食事を大きめの葉に乗せて差し出した。
 料理好きな彼女は、浪人とは思えない手つきでプラムの保存食を美味しく調理したのである。
 プラムは受け取ると恐る恐る口に運び‥‥パッと笑顔を浮かべた。
「おいしいのれす!」
「ね、おいしいよねプラムくん♪ 響さんすごいなぁ〜☆」
 プラムの隣で、イリヤ・ツィスカリーゼ(eb0603)も同じ様に笑顔を浮かべ、調理された保存食を食べている。
 まだ十歳の愛らしい少年だが、既に何度か依頼をこなしているナイトなのだ。同年代という事もあり、彼はいち早くプラムとうち解けていた。
「ふぅ‥‥手間かけさせてすまない」
 少年達の横で申し訳無さそうに響の手料理を食べているのは、エルフのウィザード、ルチル・カーネリアン(ea9817)だった。
 彼女は冒険前に保存食を買い忘れてしまったため、響の食料を分けてもらったのである。
「うふふ、お料理は好きですから、気にしないでください」
「そうそう、困った時はお互い様ってな。足りない分は仲間内で分け合おうや」
 言って、響の料理に手をのばすマレス・イースディン(eb1384)。既に自分の食事を終えたはずだが、ドワーフらしく大食漢で、なおかつ食い意地も張っている様だった。
 しかしその手をプラムにぺちんと叩かれる。
「響おねーさんのごはん、食べたらいけないのれす」
「おおぅ、厳しいなぁプラムは」
 大げさに痛がって見せ、マレスは手を引いた。
 微笑ましい光景に、冒険者達からもつい笑みがこぼれた。

「よ、良かった。プラム殿‥‥う、うち解けて、くれたみたいで‥‥」
 冒険者達と笑い合うプラムを見て、ハーフエルフの武道家、壬鞳維(ea9098)はポツリと呟いた。
 武道家らしく体格の良い青年だが、口調から引っ込み思案な性格がよくわかった。
「ええ‥‥でも、大変なのはこれからです。一応墓地と周辺の地形について話は聞いていますから、普通にズゥンビを倒すだけなら問題無いのですけど‥‥」
 ため息混じりに言ったのは、エルフのバード、ラシェル・カルセドニー(eb1248)だった。
 彼女は事前に、墓地周辺の地形や出没するズゥンビについて情報を集めておいたのである。
 しかし問題はプラムだ。できる事なら、カミーオの恋人は彼に倒させてあげたい。
 そのためにはどうすべきか‥‥鞳維とラシェルは、しばし無言になった。
「あの‥‥」
 沈黙を破ったのは、李香桃(eb1031)の声だった。
 女性にしては長身で、武道家らしく筋肉もついている。
 そんな彼女が、声をひそめて二人に近づいて来たのだ。
「ど、どうしたんですか?」
 鞳維もラシェルも、神妙な面持ちで耳を傾ける。
 しばし間を置き、香桃は口を開いた。
「食料、分けてもらえませんか? 帰りの分の保存食、買い忘れちゃったみたいで‥‥」
 恥ずかしそうに言う香桃。
 鞳維とラシェルは思わずズッコケた。

  ◆

「どうやら、あれみたいだね‥‥」
 夜目のきくルチルが、緊迫した声で言った。
 彼女が見ている方向には、五つの人影‥‥ズゥンビ達の姿がある。
 ある程度距離をとっている事もあり、ズゥンビ達はこちらに気づいていない様だった。
「ぼ、ぼく、がんばるのれす‥‥」
 岩陰からズゥンビ達を見つめ、プラムは明らかに緊張している様だった。
 そんな少年の肩に、ルチルが優しく手を置いた。
「プラムはしばらく、私達と後衛にいな。先輩冒険者の戦いを見るのも、大切な事だよ」
「え‥‥で、でも‥‥」
「き、気持ちはとっても大切ですが‥‥カ、カミーオ殿を心配させては駄目ですよ‥‥」
 反論しようとするプラムを、鞳維も控えめに諫める。
「あくまで俺たちは露払いさ、お前が俺達の要だかんな。俺達がザコを倒したら‥‥カミーオの恋人は、お前に任せるぜ」
 マレスもまた、笑顔でプラムの肩に手を置いた。
 プラムはしばし押し黙り‥‥
「‥‥あい、わかったのれす。最初は、皆さんにお願いするのれす」
 ぺこり、と頭を下げた。
 冒険者達は、よし、と頷き合う。それが、戦闘開始の合図だった。

「さぁていくよ! ファイヤーボムッ!」
 岩陰から飛び出し、ルチルはズゥンビ達に向けて炎の玉を放った。
 夜の闇に赤い残像を残して飛ぶ炎は、瞬く間に五体のズゥンビ達を包み込んだ!
「私もいきます‥‥シャドゥボムッ!」
 間を置かず、ラシェルも呪文を唱えた。
 ルチルの放った炎が消えた瞬間、ズゥンビ達の足下に浮かぶ影が突然爆発を起こす!
 まだズゥンビを倒すには至らないが、明らかに動きが鈍っていた。
 ルチルとラシェルは手を打ち合わせた。完全に奇襲成功である。
「さあプラム君、皆さんの戦いを良く見ているんですよ」
「チャンスが来たら、カミーオの恋人を呪縛から解き放ってあげな‥‥その手でさ」
 二人の言葉を聞き、プラムは無言で頷いた。

「次は、私達の番ですね」
 笑顔を崩さぬまま、響は一体のズゥンビに向かって突進した。
 愛用の長槍を構え、ズゥンビの間合いの外から攻撃を加える!
 動きの鈍っているズゥンビは、彼女の攻撃をまともに食らっていた。
「苦しいんですよね‥‥」
 笑顔のまま‥‥しかし悲しそうに呟き、響は再び槍を構え直した。
 一度フェイントを混ぜ、渾身の一撃を放つ!
「‥‥もう、迷ったりしちゃダメですよ」
 槍はズゥンビの身体を貫いていた。
 ゆっくり引き抜くと‥‥ズゥンビは力無く地面に倒れ、土へと還っていった。

「い、一度亡くなった方を、もう一度倒すのは心苦しいんですけど‥‥」
 ズゥンビの一体に接近すると、鞳維は暗い顔をして十二形意拳の構えをとった。
 両手のナックルには、既に香桃からオーラパワーを付与されている。
「ごっ‥‥ごめんなさい‥‥」
 力無く謝り、鞳維は攻撃を開始した。
 右の拳打を命中させ、至近距離でズゥンビの攻撃を避けると、一歩離れて上段回し蹴りを炸裂させる!
 口調とは反対に、力強い攻撃だった。
 数m背後に吹き飛び、ズゥンビは辛うじて立っている状態だ。
「さ、最後です‥‥」
 呟いた瞬間、鞳維は先刻の攻撃を遙かに上回るスピードで地面を蹴った。
 目にも止まらぬ蹴り技が、ズゥンビを直撃する!
「じゅ、十二形意拳、酉の奥義‥‥鳥爪撃」
 その言葉と同時に、ズゥンビは地面に崩れ落ちた。

「久々に身体を動かせます! ワクワクします!!」
 一体のズゥンビと対面し、香桃は目を輝かせていた。
 鈍ったズゥンビの攻撃をひらりとかわし、左右の拳を連続して打ち込む!
 オーラパワーの宿った拳は、ズゥンビに確実なダメージを与えた。
「でも‥‥これじゃまだ足りない!」
 身を屈め、素早い下段蹴りでズゥンビの足を払う!
 バランスを崩し、ズゥンビは仰向けに倒れ込んだ。
 馬乗りになり、香桃は大きく拳を振り上げた。
「これで‥‥終わりです!」
 全力の拳を、ズゥンビに向けて振り下ろす!
 拳はズゥンビの身体を貫いた。ズゥンビは一度ビクンと痙攣し‥‥活動を停止した。

「さあプラムくん、いこう」
 ロングソードを構え、イリヤが言った。
 残るズゥンビは二体。片方は金色のネックレスをしている‥‥カミーオの恋人に間違い無かった。
「う‥‥うん。いくのれす‥‥」
 ショートソードを構えるプラムの肩は、小さく震えていた。
 初めて見るズゥンビを前に、精一杯恐怖を抑えているのだろう。
「だいじょうぶだよ、プラムくん。プラムくんは一人じゃない。みんなで力を合わせれば、きっとできるよ」
「そういうこった。いっちょ、あのお兄さんを安らかに眠らせてやろうや」
 イリヤとマレスが笑顔でプラムを勇気づける。
「あいっ! ぼく、がんばるのれす!」
 先刻までの震えが消え、プラムは力強く言い放った。
「よーし偉いぞ! 行ってこい!」
「お姉さんのために、頑張ってくるんですよ」
 元気づけるふりをして、ルチルがフレイムエリベイションを、握手のふりをして、戦闘から戻った香桃がオーラパワーを、それぞれ気付かないようにかけてあげたのは秘密である。
「せやあぁぁーっ!」
 気合いの声と共に、プラムが恋人のズゥンビ目がけて突進した。
 隣にはイリヤ、背後にはマレスが続く。
 もう一体のズゥンビは、戦闘を終えたメンバー達が相手をしていた。
「たぁっ!」
 パラらしく素早く踏み込み、プラムはズゥンビの脇腹を斬りつけた。
 しかし踏み込みが甘いのか、まだまだ致命傷には遠い様だった。
「ほらっ、こっちだよ!」
 プラムに攻撃しようとするズゥンビを、イリヤは背後から斬りつけた。彼のロングソードには、マレスからオーラパワーを付与してもらっている。
「よっしゃ、もういっちょ!」
 ズゥンビの意識がイリヤへ向いた瞬間、オーラパワーを宿したマレスの剣が、ズゥンビに命中した。
 今の連続攻撃で、ズゥンビはかなりのダメージを受けた様である。最後の力を振り絞り、弱々しく腕を振り回した。
 イリヤはそれを食らい、マレスはガードし‥‥
「わぁーっ!」
「ぐああぁっ、やられたぁっっ!」
 イリヤは軽傷だったが、マレスと一緒にものすごくわざとらしく、吹き飛ばされたフリをした。
 最後はプラムに花を持たせるつもりなのだ。
「だ、だいじょぶれすかっ!?」
「ご、ごめん、プラムくん‥‥僕もう、ダメみたい‥‥」
「プラム、止めは頼んだぞ〜‥‥」
 他のメンバー達が頭を抱える様な『迷演技』だったが、プラムは完全に信じた様である。
 真剣な眼差しでズゥンビの前に立ち、剣を構えた。
「静馬おにーちゃん‥‥」
 小さく、プラムは呟いた。
 『静馬』‥‥それがズゥンビの名前なのだと、全員が気づいた。
 低い身長を更に屈め、プラムは地面を蹴った。
 弱々しいズゥンビの腕をかわし‥‥深々と剣を突き立てる。
「お休みなさい、なのれす‥‥」
 涙を流しながら、プラムは呟いた。
 ズゥンビはグラリとバランスを崩し‥‥地面に倒れ込む。
 もう二度と、動き出す事は無かった。

  ◆

 依頼を終えた後、冒険者達はカミーオとプラムを連れ、再び墓地を訪れた。沢山の花束を抱えて。
 カミーオの恋人‥‥静馬を始め、土に還った五体のズゥンビ達を弔うためだった。
「苦しかったでしょう? もう‥‥ゆっくり休んでいいのよ‥‥」
 金のネックレスと共にもう一度恋人を埋葬し、カミーオは泣いていた。泣きながら‥‥祈っていた。
 全ての花を墓前に供え、冒険者達もズゥンビ達の冥福を祈る。
「さて、帰ったら酒場へ行くかね。魂が天へと召される様に‥‥乾杯しようじゃないか」
 酒好きドワーフの提案を聞き、一部は賛成し、一部は苦笑しながらため息をついた。
 降り注ぐ陽光が、まるで天へと続く階段に見える‥‥そんな春の日の午後であった。