酔い覚めの騎士
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■ショートシナリオ
担当:坂上誠史郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月05日〜05月10日
リプレイ公開日:2005年05月14日
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●オープニング
「なにぃ? ビリー・クルスが戻って来やがっただとぉ?」
その名を聞いて、盗賊達は色めき立った。
「畜生あの野郎、今度こそぶっ潰してやる!」
「そうだそうだ! やられっぱなしじゃ男がすたるぜ!」
周囲の盗賊達も、血気盛んな言葉を発する。が‥‥
「でもよぅ‥‥俺らであいつに勝てんのか‥‥?」
その発言を聞き、場の空気が一気に沈静化した。
しばしの沈黙。
「‥‥なぁに、キャメロットの街に潜入しちまえばいい。あの野郎の居場所を突き止めたら、隙を見て‥‥」
提案を聞き、メンバー全員が『それだ!』という顔をした。
◆
「えー‥‥どーも師匠、ご無沙汰してました」
豪華な造りの部屋に通され、ビリー・クルスは努めて明るく挨拶した。
歳は二十代半ば程。長身で体格も良く、騎士の鎧を身につけた姿はなかなか精悍であった。
「ほ〜ぅ‥‥やっとキャメロットに戻ったと思ったら何の連絡もよこさず、二週間も経って挨拶に来たと思えば第一声がそれか‥‥」
ビリーの前で小柄な少女‥‥リュウレイト・ラグナスが不機嫌そうに呟いた。
外見はどう見ても十代前半の愛らしい少女だが、エルフである彼女の実年齢は既に六十を越えている。エルフの中でもかなりの童顔だ。
大きな緑の瞳をキッと細め、こめかみをピクピクと震わせている姿は、爆発寸前の火山を連想させた。
この愛らしい女性が、騎士ビリー・クルスの剣の師匠なのである。
「や、師匠、二週間は言い過ぎです。俺はまだ帰ってから十日くらいしか‥‥」
「似た様なもんじゃこの大馬鹿弟子がぁっ!!」
ビリーの的外れな言い訳と同時に、火山が大噴火を起こした。
つかつかとビリーに歩み寄り、鋭い視線で睨み付ける。リュウレイトの頭はビリーの肩よりも低い位置にあり、そこからこの愛らしい外見の女性に睨み付けられても、今ひとつ迫力が無かった。
「ワシに何の相談も無く! 騎士の務めも放り出して! 何ヶ月もどこで何をしておった!!」
「ケンブリッジで飲んだくれてました」
ビリーは肩をすくめ、さらりとそう言った。
リュウレイトは一瞬絶句し‥‥何事か言おうとして、代わりにため息をついた。
「お前は、ずっと『あの事件』を引きずっておったのか‥‥?」
「‥‥ええ。でももう立ち直りました。ですから、鈍った体を師匠に鍛え直していただきたいんですよ。前よりも、もっと強くなるために」
語気を落とすリュウレイトに、ビリーは笑顔で答えた。
ビリーの瞳には一点の曇りも無い。弟子の申し出に、リュウレイトも怒りを静めるしかなかった。
「よかろう、稽古をつけてやる。じゃがその前に‥‥」
リュウレイトは顔を上げ、ニヤッと笑みを浮かべた。
「馬鹿弟子の出戻り歓迎会を開いてやる。以前の仲間も大勢呼んで、盛大に騒ぐぞ。覚悟しておけ」
◆
「‥‥まぁ、久々に帰った弟子の歓迎会を開いてやろうと思ったのじゃがな」
冒険者ギルドのカウンターに腰掛け、リュウレイトは説明を始めた。身長が低いため、カウンターの前で普通に立つと話がし辛いのである。
不作法な依頼主ではあるが、そういった輩に慣れているギルド職員の男性は特に注意しなかった。
「あやつは以前、警護の任務に失敗しておる。商人一家の旅の警護中、盗賊の一団に襲われてのぅ‥‥盗賊達は追い払ったし、家族に犠牲者も無かった。しかし、商人の一人娘が額に傷を負ってなぁ。馬鹿弟子は、その事が元でしばらく騎士の勤めから逃げ出しておったのじゃ。『誰かを守れない事が怖い』と、ケンブリッジの学食で飲んだくれていたらしい」
リュウレイトの愛らしい顔が、一瞬暗く沈んだ。
「じゃがケンブリッジでその少女と再会し、立ち直ったそうじゃ。ワシとしても弟子の復帰は喜ばしいが‥‥最近嫌な噂を耳にしてな。追い払った盗賊の残党が、逆恨みであやつを狙っておるらしいのじゃ。姑息な奴らじゃ、正面からかかってくる様な事はせず、街中で隙をうかがっとるんじゃろう。大した腕ではなかろうが、酔っぱらった所を多人数で襲われては面倒じゃしな」
愛らしい顔を苦々しく歪め、リュウレイトはため息をついた。
「ワシらは心おきなく大騒ぎがしたいのじゃ。そこでな、この盗賊どもを退治してほしい。恐らく街中に潜んでおるじゃろうが、奴らは全員星のマークが入った青い布を腕に巻いているらしいから、注意して探せば見つかるじゃろう」
ひょい、とカウンターから飛び降り、リュウレイトはギルド職員を振り返った。
「盗賊退治が終わったら、興味のある奴は歓迎会に参加してくれてかまわん。依頼料以外に、酒と料理くらいは振る舞うと書いておいてくれ」
●リプレイ本文
「それでは馬鹿弟子の帰還を祝って‥‥乾杯じゃっ!!」
『おぉぉぉーーっ!!』
リュウレイトが音頭を取ると、弟子達が雄叫びと共にジョッキを打ち合わせる。
夕方から夜へ変わる時間、ビリー・クルスの歓迎会は始まった。
体格の良い男達が十数人、その中心に小柄で愛らしいリュウレイト。
酒場の一角は、おかしな雰囲気で盛り上がっていた。
「お‥‥おぉぉ‥‥」
その時、突如としてエルフの老人ウィザード、オルロック・サンズヒート(eb2020)が酒盛りに割り込んできた。
高齢のためかヨロヨロと近づき‥‥
「ま、孫よぉぉ‥‥」
リュウレイトに抱きついたのである。
「ぎゃー! な、何をするこのじじいっ!」
「大きくなったのぉぉ‥‥」
突然の出来事に悲鳴を上げるリュウレイト。
少々記憶力の怪しいオルロックは、どうやら彼女を孫と勘違いしている様だ。
周囲の弟子達は爆笑し、この闖入者に拍手を送っている。
「‥‥あれ? じいさん、こんな所で何してるんだ」
オルロックの姿を確認すると、ビリーは驚いて駆け寄って来た。
「び、ビリー! このじじいを知っているのか!?」
「ええ、以前ケンブリッジで世話になりました。じいさん、こっちに来てたのか」
じたばたと暴れるリュウレイトをなだめ、ビリーはオルロックに話しかけた。
老エルフはビリーとリュウレイトを交互に見つめ‥‥
「こ、この男‥‥ま、まさか、孫の婿なのかいのぉ!?」
とんでもない事を言い出した。
顔を真っ赤にするリュウレイト。
困った様に笑うビリー。
そして無責任にはやし立てる弟子達。
歓迎会は、序盤から異様な盛り上がりを見せていた。
◆
「‥‥大騒ぎだな、ご老人は」
外から酒場内の様子をうかがい、ハーフエルフの神聖騎士ミーシャ・クロイツェフ(ea9542)は溜め息をついた。
筋肉質な体格で、男らしい外見の青年である。
「ま、あのじいさんなら依頼がバレる事も無いだろ」
その横で、忍者の椎名十太郎(eb0759)が苦笑混じりに言う。
同じく男らしい筋肉質な青年で、今日はこの筋肉コンビが酒場周辺の警護担当だった。
「十太郎殿、あれを」
「‥‥ああ、間違い無さそうだな」
ミーシャが路地裏へ視線を向け、十太郎もそれを確認した。
歓迎会が始まる前、依頼主から盗賊の人数、特徴など情報は聞いている。
だからすぐに気づいた。路地裏から酒場を見つめる二人組の男‥‥その腕に巻かれた、星のマークが入った青い布に。
「ぐあっ!」
大斧の一撃をくらい、盗賊の一人が吹き飛んだ。
「いい年してお礼参りなんて、男として薄らみっともないぜ」
立ち上がる事もできない盗賊に向け、十太郎は止めの一言を投げかけた。
路地裏に自分達以外の人影は無い。
「ぐっ‥‥てめぇ‥‥」
必死に上半身だけを起こし、盗賊は悔しそうに歯ぎしりした。
十太郎はやれやれ、と肩をすくめる。
「そう怖い顔しなさんな。俺にやられたあんたは幸運なんだぜ‥‥『あっち』に比べりゃな」
言って、路地裏の更に奥へ視線を向けた。そこには‥‥
「くっ、くそっ、ナメやがって‥‥」
バーストアタックで鎧や武器を破壊され、丸腰でうずくまる盗賊と‥‥
「あ〜らしぶといのねぇ‥‥まだやる気なのぉ?」
クネクネと腰を振りながら、女言葉で話すミーシャがいた。
先刻までの男らしさはどこへやら、彼は『狂化』すると女性らしい言動になる。
盗賊は背筋に悪寒が走りっぱなしだった。
「もぅ、しょうがないわねぇ。それじゃあ‥‥ちょっとだけ、可愛がってあげましょうか☆」
満面の笑顔で言って、既に反撃する余力も無い盗賊を、路地裏の更に奥へと連れてゆく。
「な、なんだよ! てめぇなにする気だ!?」
「大丈夫よぉ、痛いのは最初だけだから♪」
泣きわめく盗賊を引きずり、暗がりの奥へと消えて行くミーシャ。
その後の光景を想像し、十太郎は哀れな盗賊に祈りを捧げた。
◆
「実は私ども、新製品のお菓子を開発しまして、その試食をお願いしたいのです。もちろん、報酬もお支払いいたします」
お菓子職人を装い、ファイターの青年クラウス・ウィンコール(eb0911)は巧みな話術で一人の男に話しかけた。
男の手首には、依頼主から聞いた『目印』が結ばれている。
ここは冒険者街の一角。この盗賊は、恐らくビリーの住処を探しているのだろう。
「へぇ‥‥菓子食って感想言えば、金くれるってのか?」
「ええ、その通りでございます。一応新製品という事で、人目のある所ではちょっと‥‥こちらへいらしていただけますか」
丁寧な言葉遣いで、クラウスは路地裏へ盗賊を案内する。
何の疑いも無く着いてくる男が、人気の無い路地裏へ踏み込んだ瞬間、
「スリープですっ」
可愛らしい声と同時に、その場に崩れ落ちた。魔法によって眠らされた盗賊は、地面に横たわり寝息を立てている。
「はぁ‥‥少し緊張しました。上手くいって良かったです」
言ってエルフのバード、ラシェル・カルセドニー(eb1248)はホッと胸をなで下ろした。
盗賊を発見したらクラウスが路地裏に誘い込み、ラシェルがスリープで眠らせる‥‥計画通りのコンビプレイだった。
「さて、どうする? バッサリやっておくか?」
眠っている盗賊を見下ろし、クラウスは相棒に尋ねた。
彼は女性には優しいが、男には容赦が無い。
しかしラシェルはふるふると首を横に振った。
「命を奪うことが目的ではありませんし‥‥縛ってお役所へ差し出しましょう」
「了解だ」
短く返事をし、クラウスは盗賊の両手、両足を縄できつく縛った。
「助かりました、クラウスさん。相手をおびき寄せる危険な役を請け負って下さって‥‥心強かったです」
感謝の言葉を述べ、にっこりと微笑むラシェル。
不意をつかれたのか、その笑顔が愛らしかったからか‥‥クラウスは少しだけ頬を赤らめ、
「別に、礼を言われる事じゃない。仲間‥‥だからな」
照れ隠しにそう言った。
◆
「えへへ‥‥ぎゅー」
ビリーの左腕に抱きつき、神聖騎士の少女セリス・フォレット(ea3201)は可愛らしく微笑みかけた。
胸が腕に当たっているが、その感触は限りなく平坦に近い。
この日の歓迎会も終わり、酒場から冒険者街にあるビリーの住処へ帰る途中である。
ビリーが気に入ったのか、セリスは酒場からべったりとくっついていた。
「‥‥セリスさん、少しくっつきすぎではありませんか?」
ビリーを挟んで反対側から、ナイトのマリーティエル・ブラウニャン(ea7820)が控えめに抗議した。
ビリーと同年代の彼女は、セリスとは対照的に落ち着いている。衣服に隠されたその身体も、対照的に豊満であった。
二人はビリーの送迎担当だった。もちろん依頼の事は伏せてあり、騎士職の二人は『是非ビリーと話をしたい』と、帰り道の間付き添っているのだ。
「あれー? なーにマリーさん、ヤキモチ?」
「ちっ‥‥違います! セリスさんは神聖騎士でしょう! 神に仕える方が、男性と、そんな‥‥」
ニヤっと笑うセリスに、マリーティエルは赤面しながら反論する。
「両手に花ってのは嬉しい状況だが、喧嘩はよくないぞお嬢さん達」
二人の中央にいるビリーは、酔っぱらった赤ら顔で苦笑した。
ハッとするマリーティエルを尻目に、セリスはことさら強くビリーの腕に抱きついた。
「ね、それよりビリーさん。私、もっとお話ししたいなぁ。ビリーさんのお家、お邪魔してもいいですか?」
上目遣いで、誘う様に言うセリス。
反対側では、マリーティエルが顔を真っ赤にして何か言おうとしている。
ビリーはやれやれ、と溜め息をつき‥‥まるで赤ん坊を抱き上げる様に、ひょいとセリスを抱え上げた。
「ひゃっ!?」
「お色気なんて、お嬢ちゃんには似合わないな。せっかく可愛い顔してるんだ、『素材』を生かして男に迫れば、逆らえる奴なんていないさ。どうしても色気で落としたいなら‥‥」
ビリーは驚くセリスの胸を指さし、
「もう少し『ここ』を成長させなきゃな」
「‥‥!!」
笑いながら言った。
言葉を失うセリスを地面に降ろし、ビリーはマリーティエルへ視線を向ける。
「お前さんも、せっかくのいい身体を隠しちゃもったいない。胸元が大きく開いて、ヒップラインのよくわかる服を着るといい。それだけで男なんてイチコロだ」
「‥‥!!」
顔を真っ赤にして、同じく言葉を失うマリーティエル。
ビリーはカラカラと笑いながら二人に手を振った。
「見送りありがとう。失礼な事を言ったかもしれないが、酒のせいだと許してくれ」
言って、一件の家へ入って行く。いつの間にか、ビリーの住処へ到着していたのだ。
取り残された二人は、無言のまま立ち尽くしている。
「な‥‥なによなによ、胸が小さいからって馬鹿にしてーっ!」
「わ、私は、胸やお尻で男性を誘ったりしません! 不潔ですっ!」
ややあって、同時に叫び声が上がる。
そんな時‥‥
「おいお前ら、今のはビリー・クルスか?」
最悪のタイミングで、二人の男が話しかけてきた。
セリスとマリーティエルは、ギロリ、と同時に鋭い視線を向ける。
男達の腕には、星印入りの青い布が巻かれていた。
「いーいとこに来てくれたよね〜‥‥」
「少し‥‥八つ当たりにつきあってもらいましょうか」
凄まじい怒りと殺気を発し、二人は同時に武器を構えた。
数分後‥‥盗賊達は、二人に声をかけた事を心から後悔する事になるのだった。
◆
「あなたは〜私が〜‥‥そんなはしたない女性に見えるのですかっ!」
「あんたはなぁ、気合いが足りないんだよ気合いが。男っていうものはなぁ、ガーっとやってバーっとまとめてだなぁ」
「あ〜‥‥わかったわかった」
かなり酔っぱらったマリーティエルと十太郎が、二人してビリーにからんでいる。
それぞれの役目を終えた後、冒険者達はビリーの歓迎会に乱入していた。
「エール、樽で‥‥三つ」
先刻からものすごいペースでのんでいるのはクラウスだった。
彼の横では、赤ら顔のラシェルが気分良く歌っている。
その歌声を聞きながら、クラウスもまた気分良く、注文した酒を胃に流し込んでいった。
「うふふふ‥‥目にもの見せてやるんだから」
セリスはニヤリと笑い、酒の入った壺を手に取った。
『禁断の壺』と呼ばれ、そこから注がれた酒を飲むと‥‥服を脱ぎたくなるという危険なアイテムだ。
その壺を持ってビリーに近づき‥‥
「お、なんじゃ、まだ酒があるではないか」
リュウレイトに壺ごと奪われた。
「ああっ! ちょ、それは‥‥」
セリスが止める間も無く、リュウレイトは壺から直接酒を飲み始める。
ひとしきり飲み終え‥‥
「‥‥暑い」
突然着ていた服を脱ごうとする。
「わーっ! 何やってんですか師匠!」
「うるさいのじゃー暑いのじゃー」
「うわっ目がやばい! 師匠を止めろっ!」
途端に騒ぎが大きくなる。
そんな一団の隅で‥‥
「私は、いったい何をしたんだろう?」
狂化中の記憶を無くしたミーシャが、一人首をひねっていた。
◆
「くそっ‥‥見てやがれ。絶対仕留めてやる」
路地裏から酒場をを苦々しく見つめ、ただ一人残った盗賊が呟いた。
懐からナイフを抜き、ゆっくりと歩き出す。
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
その瞬間、突如として背後から衝撃を受け‥‥盗賊の身体は炎に包まれた。
振り返ると、そこにいたのはエルフの老人。
オルロックが、ファイヤーバードの魔法で体当たりしたのである。
油断していた盗賊は、その突進をまともにくらってしまったのだ。
すぐに炎は消え‥‥盗賊は地面に崩れ落ちる。
「ほっほっほ、甘いのぅ」
言って、オルロックは酒場へと向かって行く。
その歩みは、普段の彼とは違っていた。
とぼけた老人のふりをしているのか、それとも今が特殊な状態なのか‥‥それは、本人以外には解らない事であった。