歌姫志願騎士未満

■ショートシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月13日〜05月18日

リプレイ公開日:2005年05月23日

●オープニング

「神よ‥‥何故なのです‥‥」
 兄の葬儀の日、母はずっとその言葉を繰り返していた。
 母に寄り添いながら、父は無言で涙を流している。
 両親のこんな姿を見ているのは辛かった。
 だから言った。少しでも元気を取り戻して欲しくて。
「わたし、騎士訓練校に行く。兄さんの分まで、立派な騎士になってみせるから」
 自分の『夢』を置き去りにして‥‥

  ◆

「お前がサボリとは珍しいな、エミリー」
 大きくため息をついた後、セレナ・ヴァンディミルは呆れ顔で級友の名前を呼んだ。
 歳の頃は十代半ば程。耳にかかる程の金髪と、意志の強さを宿した大きな瞳‥‥凛とした雰囲気の美少女で、騎士訓練校の制服がよく似合っていた。
「ん‥‥ちょっと、色々疲れちゃってね」
 日向の草むらに寝転がりながら、エミリー・ラングは呆れ顔の級友を見上げた。
 長く艶やかな黒髪を草の上に広げ、愛らしい顔に疲れた笑顔を浮かべている。セレナとはまた違い、女の子らしく騎士訓練校の制服を着こなしていた。
 対照的な雰囲気の二人だが、『魅力的』という点では共通していた。
「初めて聞いたな、お前の弱音なんて」
 セレナは少し口調を和らげ、級友の隣に腰を下ろした。
 彼女が知る限り、エミリーはいつも明るく、真面目でひたむきだった。辛い訓練にも弱音を吐かず、笑顔で周囲を元気づける。
 堅物で人付き合いが苦手なセレナにとって、エミリーは良き競争相手であり、良き友人であった。
「‥‥何があった? 私で良ければ、力になるぞ」
 表情の変化は少ないが、セレナの声は優しかった。
 エミリーは上半身を起こし、セレナとは違う方向を見つめる。
「セレナは、何のために騎士を目指してるの?」
「え‥‥?」
 突然の問いかけに、セレナは驚きを隠せなかった。
 遠くを見つめるエミリーの横顔は、真剣だった。セレナはしばし無言で考え‥‥迷いの無い瞳を級友へ向けた。
「一言で言うなら、『憧れ』だろうな。大切な人を守れる、強い騎士に対する憧れだ。私もそうありたいと思うから、日々努力を重ねている」
「カッコイイなぁ、セレナ」
 明るい口調で言い、エミリーはセレナを振り返った。
 羨ましさと疲れと悲しさと‥‥様々な感情が入り混じった、複雑な笑顔を浮かべていた。
「わたしの兄さんもね、騎士訓練校の生徒だったの。ずっと努力して、勉強も剣術も頑張って、やっと騎士の叙勲を受けられるっていう日に‥‥病気で死んじゃった」
 セレナは言葉を失った。エミリーと知り合って二ヶ月になるが、初めて聞く話だ。
「父さんも母さんも、見ていられないくらい落ち込んじゃって‥‥だから、わたしも悲しかったけど『騎士訓練校に行く』って言ったの。『兄さんの分まで、立派な騎士になってみせる』って。二人とも喜んでくれて、少しずつ元気になって‥‥」
 心の中にたまっていた物を吐き出す様に、エミリーは話し続けた。
 話しが進むにつれ、彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
「‥‥でもわたしね、本当は、バードになりたかったんだ。歌で色んな人を勇気づけたり、大切な人のために歌ったり‥‥したかった。父さんと母さんが喜んでくれて、私も嬉しい。だから、騎士になりたいって気持ちは嘘じゃない。嘘じゃない、はずなのに‥‥息苦しいの。どうしたらいいのか、わからないのよ‥‥」
 一気に話し終え、エミリーは俯いた。手の平で顔を覆い、流れる涙を抑えている。
 セレナには、ただ何も言わず、級友を抱きしめる事しかできなかった。

  ◆

「エミリーは、本当に良い娘なんだ!」
 ケンブリッジギルド『クエストリガー』の受付で、ギルド職員の青年相手にセレナは熱弁を振るっていた。
「家族のため、騎士になりたいという彼女の気持ちは本物だ。しかしそのために自分の『夢』を犠牲にしてしまい、彼女は苦しんでいる。私はなんとか、彼女の望む物を両方叶えてやりたいんだ。騎士が歌を歌ったってかまわないだろう!」
 ダン! とカウンターを叩き、セレナの弁舌は更に熱を帯びていった。
「‥‥その、エミリーさんが素敵な女性だってのは解りましたから、とりあえず、どんな依頼か教えてもらえますか‥‥?」
 長時間に渡って『素敵な友人話』を聞かされたギルド職員は、溜め息混じりに本題を切り出した。
 セレナはハッとし、周囲の視線が自分に集まっていると気づいて頬を赤らめた。
「あー、その、歌や楽器や踊り‥‥つまり、音楽について経験や知識のある奴を集めて欲しい。私のクラスメイト達は、そっち方面に理解が無くてな。訓練に必死で、音楽をやろうなんて奴はいない。仲間を集めて‥‥エミリーに、好きな音楽をやって欲しいんだ。それから‥‥」
 少し声のトーンを落とし‥‥
「ついでに、私にも歌か楽器を教えて欲しい。私自身が‥‥エミリーの『仲間』になりたいからな」
 セレナは依頼内容を補足した。
 顔を赤らめ、小さな声だったが‥‥ギルド職員は、笑顔でその依頼を受けたのだった。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8937 ヴェルディア・ノルン(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 割れんばかりの拍手と歓声。
 その場にいる全ての人達が、自分へと惜しみない賛辞を送ってくれる。
「誰かのために歌うのって‥‥こんなに素敵な事だったんだ」
 『発表会』の最後を全力の歌で飾ったエミリーは、舞台の上で噛みしめていた。
 歌い終えた『今』の感動。そして今日に至るまでの、仲間達との楽しかった日々を‥‥

  ◆

「音楽発表会をやろ〜♪」
 明るくそう言い出したのはファム・イーリー(ea5684)だった。
 シフールらしく愛らしい外見だが、歌も楽器もハイレベルにこなすバードである。
「ええっ!? 発表会なんて、そんないきなり‥‥私、初心者みたいなものだし‥‥」
 突然の提案に、エミリーは目を白黒させて驚いた。
 セレナがエミリーに冒険者達を紹介したのがつい先刻。音楽仲間ができて喜ぶエミリーに、『発表会』は刺激の強い言葉だった。
「大丈夫ですよ、初心者に等しいのは私も同じです。何事も経験してみる事が大切ですよ。色々勉強になりますし」
 優しくエミリーを元気づけているのは、エルフのエレナ・レイシス(ea8877)だった。
 ウィザードとしてなかなかの実力者である彼女、実は楽器の経験も少々ある。
「あ、じゃあ僕、宣伝のチラシ作るよ。歌はあんまり上手くないけど‥‥それなら僕も協力できるから」
 おっとりした口調でそう言ったのは、エルフの少年ウィザード、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)だ。
 音楽の経験が無い彼は、エミリーやエレナと同じく音楽を教わる側である。
「音楽は自由なんだから、機会と場所がなければ自分たちで作る! 心配するより楽しもう♪ ね?」
 エミリーの肩に乗り、ファムが情熱のこもった口調で言った。
 本職のバードにそう言われては、エミリーも心が動かないはずは無い。
「うん‥‥私も、頑張る。やっと好きな事がやれるんだもんね‥‥みんな、ありがとう」
 言って、エミリーはとびきりの笑顔を浮かべた。

  ◆

「じゃあ次はこの音を出してみて」
 言って、エルフのバード、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)は竪琴を軽くつま弾いた。
 バードとして知名度の高い彼女は、今回講師役を買って出てくれたのだ。
 共同部活棟の一室を借り、邪魔の入らない環境で練習に打ち込んでいる。
「はい、それでは‥‥」
 大きく息を吸い、ヴェルディア・ノルン(ea8937)は高音域の発声を披露した。
 本職はファイターの女性だが、歌の経験もある。
 彼女の発声を聞き、ヴァージニアは小さく頷いた。
「うん、なかなかいい声ね。練習すれば、きっと素敵な歌い手さんになるわ」
「本当ですか? ありがとうございます」
 にこにこと微笑みながら、ヴェルディアはぺこりとおじぎをする。育ちの良さが感じられる仕草だった。
「はい、じゃあ次はエミリーさんね」
「は、はいっ!」
 名前を呼ばれ、エミリーは緊張した面持ちで講師の前に立った。
 ヴァージニアは有名なバードである。エミリーにとって、話すだけでも緊張する人物であった。
「そんなに硬くならないの。ほら、肩の力抜いて」
 苦笑しつつ、ヴァージニアはエミリーの肩に手を置いた。
 エミリーは頬を赤らめ、大きく深呼吸する。完全にではないが、幾分硬さが抜けた様だ。
「うん、じゃあまずはこの音、出してみて」
 言って、ヴァージニアは再び竪琴をつま弾いた。それに合わせてエミリーが声を出す。
 次の音、また次の音‥‥ヴァージニアは目を見張った。まだまだ拙さはあるが、少女の声は初心者の域を脱している。
「‥‥ねえセレナさん。貴女‥‥バードと騎士の仕事、どっちが好き?」
 発声練習を止め、ヴァージニアはそう問いかけた。
「亡くなったお兄さんのために‥‥って話は聞かせてもらったわ。でも、貴女は貴女で、お兄さんじゃないのよ。もし騎士の訓練を無理に続けているんなら‥‥貴女のためにならないと思うの」
 少女の心を気遣う様に、ヴァージニアは優しく言った。
 それを聞き、しばし無言だったエミリーは、小さく首を横に振った。
「どっちか一つは‥‥選べません。この学園に入る前だったら、きっと迷わずバードだって言ったと思います。でも‥‥今は騎士として訓練してきた『経験』があります。一緒に学んできた『仲間』がいます。それは‥‥バードになりたいっていう『夢』と、同じくらい大切です」
 真っ直ぐに講師を見つめ、エミリーは言った。そこに迷いや不安定な気持ちは見られなかった。
「バード、騎士‥‥そういった職種に、こだわる必要は無いと思いますよ」
 少女の言葉を聞き、レテ・ルシェイメア(ea7234)は言った。。
 彼女もまた実力派のバードであり、講師役を請け負ってくれた一人である。
「騎士でも素晴らしい音楽の才能を有している方はたくさんいます。私はむしろ、エミリーさんには『歌姫騎士』を目指して欲しいですね。若いんですから、欲張りなくらいが丁度いいです」
 柔らかな微笑みを浮かべ、レテはエミリーの頭を優しくなぜた。
 エミリーもまた、満面の笑顔を浮かべる。
 その光景を見て、ヴァージニアも小さく頷いた。
「じゃあ次はエミリーさんとヴェルディアさん、パート分けして二人で歌ってみましょうか」
「はいっ!!」
 ヴァージニアの言葉に、生徒達の返事が重なる。
 エミリーの顔は、今までに無い程生き生きと輝いていた。

  ◆

「は〜い、じゃあこの音出してみて〜♪」
 明るい調子でファムが竪琴をつま弾いた。しかし‥‥

 ボェ〜♪

 返って来たのは、調子っぱずれの音である。
「‥‥じゃ、じゃあ次はこの音ね〜」
 少し高かったのかと、今度はやや下の音をつま弾く。が‥‥

 ボヘェ〜♪

 ‥‥再び『変な音』が返って来る。
 講師役のファムは、思わず頭を抱えた。
「全然合ってないよ〜。もっとよく音を聞かなきゃダメ!」
「ん? 合ってないか? おかしいな‥‥」
「ふむ‥‥音楽とは難しいものですね。ですがまあ、楽しくやるのが上達の道という事で」
 ファムの指導を受けているのは、セレナとルーウィン・ルクレール(ea1364)の騎士コンビである。
 歌の経験が無いメンバーの指導を任されたファムだったが‥‥最初から暗礁に乗り上げている様だった。

  ◆

「‥‥なあルーウィン」
「‥‥何ですかセレナ殿」
 舞台用の板を組み合わせながら、セレナとルーウィンは顔を見合わせた。
「つい先刻まで歌の練習をしていたはずだが‥‥」
「そういえば‥‥何故舞台造りをさせられているんでしょうね?」
 市場の大通りに『発表会』用の舞台を設置しつつ、二人は頭を捻っていた。

  ◆

「これで最後‥‥っと」
 校舎の壁に最後のチラシを張り、ジェシュファは大きく息を吐き出した。
 チラシには、音楽発表会の日時やメンバー、場所等が書かれている。
 彼は一人で十数枚もチラシを作り、ケンブリッジの人目に付くところ‥‥特に騎士訓練校の周囲に張って回ったのである。おっとりした雰囲気だが、なかなかの努力家だった。
「‥‥あれ? 何だこの張り紙」
「へぇ、音楽発表会だって‥‥あれ? このエミリーって、うちのクラスの?」
「セレナと‥‥ルーウィンさんの名前もあるよ。これホント?」
「ちょっとクラスの奴らに声かけてみるか」
 ジェシュファが遠くから見ていると、騎士訓練校の生徒達がチラシの周りに集まって来る。
 どうやら宣伝として役に立った様である。
 こうして、『発表会』の準備は着々と整っていったのだった。

  ◆

「まずはヴェルディア・ノルンさんの登場です!」
「曲名は『ご挨拶の歌』‥‥それではどうぞ!」
 セレナとルーウィンの司会で、『発表会』の幕は開いた。
 夕方から夜にかかろうかという時間、チラシ効果か、舞台のある市場の大通りには、多くの学園生徒が集まっている。
 拍手に迎えられ、ヴェルディアが舞台の中央に立つ。
 にこにこと優しい笑顔のまま、すぅっと息を吸い込んだ。

 色んな言葉でご挨拶
 あなたの言葉でご挨拶

 こんにちは
 さようなら
 ありがとう
 おめでとう
 ごめんなさい
 よかったね

 きちんとご挨拶出来ますか?
 あなたの言葉でもう1度

 簡単な歌詞と旋律だが、その言葉一つ一つを違う国の言葉に変え、また繰り返す。
 簡単な挨拶程度なら、彼女は様々な国の言葉を話す事ができる。それを使った、まさに『ご挨拶の歌』だった。
 観客から、自分の母国語を叫ぶ声が聞こえる。最初の『つかみ』には最適の歌だった。

  ◆

「どうぞ、ゆっくり見ていって下さい」
 四十歳前後の中年夫婦を案内しながら、ヴァージニアは発表会の会場に現れた。
 既に観客達が人垣を作っているが、その後ろからでも舞台の様子はよく見える。
 舞台では、エレナの伴奏でジェシュファが故郷ロシアの歌を歌っている。魔法学校の生徒達から、一際大きい歓声が飛んでいた。
「あの子は‥‥小さい頃から歌が好きでした。私達のために‥‥無理をしていたのですね」
 中年女性‥‥エミリーの母は、悲しそうに呟いた。
 しかしヴァージニアは首を横に振る。
「いいえ。エミリーさんは言ってましたよ。騎士になる事は、バードになるって夢と同じくらい大切だって。私はただ‥‥ご両親にその事を知っていて欲しかったんです」
 言って、明るく微笑むヴァージニア。
 この日のために、彼女はエミリーの両親を手紙で招待していたのである。
 ジェシュファが歌い終え、舞台にはファムの姿があった。
 彼女の登場に、魔法学校の生徒は更なる盛り上がりを見せた。

 音楽ってなんだろね♪ それは、音を楽しむことなのさ♪
 音楽ってどうやるの♪ まずは、リズムを刻むのさ♪
 ほら歩いてごらん♪ 足音がリズムを刻んでる♪
 あなたの残した足跡は♪ あなただけの楽譜♪
 ほら自分の胸に手を当ててごらん♪ 鼓動がリズムを刻んでる♪
 あなたの胸の鼓動は♪ あなただけの音楽♪

 歌い終え、再び大きな歓声と拍手が起こる。
 エミリーの両親にも、その感動は伝わった様だ。
「音を楽しむ、か‥‥私の知らぬ楽しみを、エミリーは自分で見つけていたのだな‥‥」
 エミリーの父は、感慨深げに呟いた。
 そして‥‥続いて舞台には、レテとエミリーが姿を現した。
 両親は娘に向かい、観客達と一緒に大きな拍手を送る。
 レテが横笛を構えると、エミリーは大きく息を吸い込んだ。

  ◆

「本当に‥‥お世話になりました」
 発表会が終わった後、エミリーの両親は冒険者達に向かって頭を下げた。
 娘の生き生きとした姿が見られて、本当に嬉しかったのだろう。
「ぐすっ‥‥みんな、本当にありがとうね‥‥」
 涙をぬぐいながら、エミリーもメンバー達と抱き合っている。
「泣かないで下さい、エミリーさん‥‥こっちまで、涙が‥‥」
 エミリーの頭をなぜながら、エレナも涙ぐんでいた。
「エミリーさん‥‥これ、受け取って下さい」
 そんなエミリーの前に、ヴェルディアが一本の横笛を差し出した。
 エミリーは不思議そうな顔をする。
「発表会が終わっても‥‥私達は『仲間』です。エミリーさんが音楽を好きでいる限りずっと。これは‥‥その証です」
 柔らかな笑顔で言うヴェルディア。
 エミリーは涙を流れるに任せ、ヴェルディアに抱きついた。

  ◆

「セレナ殿にも‥‥」
 幸せそうなエミリーの姿を見つめるセレナに、ルーウィンは一本の横笛を差し出した。
 セレナは驚き、長身の騎士を見上げる。
「ヴェルディア殿からです。セレナ殿も、お疲れ様でした」
 横笛を受け取りながら、セレナは苦笑する。
「まったく疲れた。私は歌よりも、舞台作りの方が向いているらしい」
「同感です」
 言って、笑い合う二人。
 春の夜は少し肌寒いが、ここにある笑顔は何物にも代え難い暖かさに満ちていた。