おとこらしくなるのれす

■ショートシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月28日〜06月02日

リプレイ公開日:2005年06月08日

●オープニング

「プラム君、パンの配達お願いしていい?」
「あい、了解なのれす!」
 大好きな『カミーオおねーちゃん』に頼まれ、プラム・ハーディーはパンのぎっしり詰まった袋を背負った。
 小さなパラの少年が大きな袋を背負う姿は、何とも微笑ましく愛らしい。
 女主人カミーオ・シェルトンが経営する小さなパン屋は、キャメロットの冒険者街近くに建っている。
 元は恋人と二人で経営していたのだが、数ヶ月前に病気で恋人を亡くして以来、二十歳の細腕一本で店を切り盛りしてきたのである。
「それじゃあよろしくね。気をつけて」
「あい! 行ってくるのれす!」
 カミーオに優しく頭をなでられ、プラムは小走りに店を出て行った。
 カミーオが一人になって以来、プラムはいつもこうして彼女の仕事を手伝っている。まだ十歳のプラムにとって、カミーオは近所の『おねーちゃん』であり、『大切な人』であった。
 まだ子供の自分に出来る事は少ないから、少しでも大切な人の力になりたい。早く‥‥男らしく、強い大人になりたい。そうすれば、もっと『おねーちゃん』の力になれるのに‥‥最近、プラムはそんな事をよく考える様になった。
「失礼しますれす」
 目的の店に着くと、プラムは裏口の戸を開き、元気良く挨拶した。
「おやプラム君、お疲れさま。いつも偉いねぇ」
 見慣れた恰幅の良い女将が、プラムを笑顔で迎えた。
 この店は、よくカミーオのパンを注文してくれる、いわゆる『お得意様』だった。
「あっ! プラム君だ! いらっしゃーい!」
「また一人で来たの? 良い子良い子」
「パン重かったでしょうに‥‥偉いわねぇ」
「やーんもう可愛いなぁープラム君は♪」
「はわわわ‥‥ま、まいどありがとうございますれす」
 小さな配達員に気づいた女性店員達は、我先にと駆け寄りプラムをもみくちゃにした。天真爛漫で愛らしいプラムは、この店の女性達から大変可愛がられている。
 女性の店員しかいないこの店が、一体何の店なのか‥‥小さいプラムにはよく解らなかった。ただ、みんないつも疲れた顔をして、悲しそうな感じがする事だけはよく解った。
 『おねーちゃん』程ではないが、プラムはここの人達も好きだった。だから、自分が来た時笑顔になってくれる事が嬉しかった。
「ほらほらあんた達、あんまりプラム君に迷惑かけるんじゃないよ。食事を済ませたら、店開ける準備しな」
 溜め息混じりにそう言うと、女将は女性達の中からプラムを助け出した。
 クスクスと笑いながら、彼女達は袋から好きなパンを取り出し、それぞれの持ち場へと戻って行く。
 もみくちゃにされていたプラムは、まだ頭がフラフラしていた。
「すまないねぇ‥‥うちのコ達は皆あんたが好きなのさ。許してやっとくれ」
「あい。ぼくもみんな大好きなのれす」
 満面の笑顔でプラムはそう言った。
 女将も微笑みを浮かべ、プラムの頭をなぜる。
「あんたがいてくれたからなんだろうねぇ‥‥カミーオが立ち直れたのは。うちの店を抜けて、やっと恋人とパン屋を始められたってのに‥‥その恋人を亡くしちまって。プラム君、これからもカミーオに着いててやっとくれ」
 女将の微笑みには、やり切れない悲しみが浮かんでいた。
 そんな悲しみを吹き飛ばす様に、プラムはドン! と自分の胸を叩く。
「あい! 当たり前なのれす!」
 その返事を聞き、女将は満足そうに頷いた。
「‥‥と、そうだ。プラム君、この店に来る時は気をつけなよ。最近、物騒な奴らが辺りをうろついてるからね」
 ややあって、女将は思い出した様に忠告した。
 プラムは不思議そうに首を傾げる。
「ぶっそう‥‥れすか?」
「ああ。明るい内は大丈夫だと思うけど‥‥最近タチの悪いチンピラどもがこの辺をうろついててね。気にくわない奴にインネンふっかけたり、金を巻き上げたりしてるらしいのさ。プラム君も気をつけるんだよ」
 眉根を寄せ、苦々しい顔をする女将。
 プラムにはよく解らなかったが‥‥どうやら、『悪い人』がこの辺りにいるらしい。
「女将さん、困ってるのれすか?」
「え‥‥ああ、そうだねぇ。こんな事が続けば、店の客足も減るだろうし‥‥困ったもんだよ」
 その話を聞き、プラムの頭にあるひらめき浮かんだ。
 困っている人を助けるのは『男らしい』事だ。だったら自分が困っている女将さんを助ければ‥‥『男らしく』なれるかもしれない。
 ‥‥けれど、自分一人では難しいかもしれない。どうすればいいだろう‥‥
「ま、いきがったチンピラなんて、すぐ誰かにやられちまうかもしれないしね。しばらく放っておくさ。ああプラム君、これ、パンのお代。少し多めにあげるから、何か欲しい物買っておいで」
 プラムの小さな手に、チャリチャリとお代を渡す女将。少しと言ったが、大分多めの様に見える。
 そのお金を見ていたプラムの頭には、新たなひらめきが形となって浮かんでいた。

  ◆

「まぁあれだ、最近歓楽街の方でうろついてるチンピラどもを、退治してくれってこったな」
 冒険者達を前にして、冒険者ギルド職員の青年は説明を始めた。
「依頼人はプラム・ハーディー。まだ十歳のおこちゃまだ。一応戦士で、自分も戦うって言ってるが‥‥俺の見た限りじゃ、まだまだ危なっかしいな」
 小さな身体で一生懸命に説明する依頼人を思い出し、ギルド職員は溜め息をついた。
「このチンピラ共については、ギルドに少し情報が入ってる。歓楽街の奥の方に、中年女将が経営してる高級娼館があってな。夜になると、その辺りをチンピラ共が六人ばかりうろついてるらしい」
 一息つき、ギルド職員はニヤリと笑った。
「最近キャメロットにやって来たらしいが‥‥所詮半端者がいきがってるだけだ。ちょいとシメれば大人しくなるだろ。可愛らしい依頼人に協力して、新参者にキャメロットの流儀を教えてやってくれ」

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3201 セリス・フォレット(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea9547 夜十字 信人(22歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0276 メイリア・インフェルノ(31歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1903 ロイエンブラウ・メーベルナッハ(25歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 eb2020 オルロック・サンズヒート(60歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2322 武楼軒 玖羅牟(36歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2441 式堂 こくり(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「ふがふが‥‥メシぃ〜はまだかいのぅ〜‥‥」
「オルロックさん、さっき食べましたよ?」
 冒険者酒場の一席でベタな掛け合いをしているのは、そろそろ記憶が曖昧な老エルフ、オルロック・サンズヒート(eb2020)と、女浪人の倉城響(ea1466)だった。
 気立ての良い響は、一人では心配なオルロックをかいがいしく世話している。
「あー! 響おねーさんれす!」
 そんな時、酒場の人混みから響の姿を見つけたプラムが、たたたっと駆け寄って来た。
 響はにこにこと微笑み、パラの少年を小柄な体格でぎゅっと抱き止める。
「お元気そうで何よりです。カミーオさんもお元気ですか?」
 プラムの顔は、響の豊満な胸に埋もれている。ぱたぱたと手足を振り、少年は何とか抱擁から抜け出した。
「ぷはぁ。あい、おねーちゃんもぼくも元気なのれす!」
 言って、にぱっと満面の笑顔を浮かべるプラム。
 響は以前、依頼でプラムの手助けをした事がある。料理好きで優しい彼女に、プラムはよくなついていた。
「おお、おお、坊主えらいのぅ」
 わかっているのかいないのか、オルロックも優しい手つきでプラムをなでる。
 初めて見る老人にも物怖じする事なく、プラムは満面の笑顔を返した。

「あ‥‥愛らしい‥‥」
 少し離れた席からプラムを熱い眼差しで見つめ、エルフのナイト、ロイエンブラウ・メーベルナッハ(eb1903)は呟いた。
 長身でスタイルも良く、美しい外見の女性なのだが‥‥彼女はプラムの様な愛らしい少年が『大好物』なのである。
「‥‥欲しい。是非とも持って帰りたい‥‥いやしかし彼は依頼人だ‥‥いやいや、ならば依頼の後なら‥‥」
 欲望が頭の中に渦巻いているらしく、彼女はブツブツと危険な妄想を膨らませている。
「私の占いによると‥‥ロイさんが彼を『お持ち帰り』した場合、新しい依頼が冒険者ギルドに入る、と出てますね」
 そんなショタコン美女の妄想に、隣の席の式堂こくり(eb2441)が横槍を入れた。
 陰陽師である彼女には、占星術の経験もある。ロイエンブラウに優しく微笑みかけ‥‥
「『エルフの騎士にさらわれた、パラの少年を助けて下さい』と」
 さらりと意地悪な予言をするこくり。
 ロイエンブラウはピタリと妄想を止めた。
「‥‥うむ、持って帰るのは保留しよう」
 『諦める』とは言わない辺りに未練が見え隠れしていた。

  ◆

「おいプラム、お前可愛いナリして結構男じゃねぇか! 世話ンなってる人の為に、この依頼持ちかけたんだってな!」
 プラムの頭を手荒くなでながら、浪人の夜十字信人(ea9547)は嬉しそうに言った。
 荒っぽい言動と少年の様な顔立ちだが、一応少女である。
 まだ12歳の彼女は身長もかなり小柄で、自分より小さなプラムの存在が嬉しいのだろう。
「男らしくなりてーなら、俺に任せとけ。兄貴分として、しっかりお前を鍛えてやるからな!」
 言って、得意げに胸を張る信人。彼女は記憶喪失であり、どこで間違ったのか自分を男だと思い込んでいるのだ。
 プラムは不思議そうに信人を見つめた。
「おにーさん、れすか‥‥?」
「おう! 聞きてー事は、何でも俺に‥‥」
 ‥‥むに。
 信人の言葉が途切れた。突然、プラムが彼女の胸を触ったからである。
 その場の空気が凍る。
「おにーさんじゃないれす、信人おねーさんなのれす。だってむにっとしたのれす」
 いやらしさなど微塵も無く、にぱっと微笑むプラム。
 大きくはないが、確かに女性特有の感触だった。
「な‥‥なな‥‥」
 顔を真っ赤にして、小刻みに震える信人。
 『子供のやる事だから』などと割り切れる程、彼女は大人ではない。
「なにしやがるこのバカガキーっ!!」
 酒場中に、少女の怒号と打撃音が鳴り響いた。

  ◆

「へぅ〜‥‥痛いのれす‥‥」
「よしよし‥‥男の子なんだから泣かないの」
 半泣きのプラムをあやしている女性は、神聖騎士のセリス・フォレット(ea3201)だった。
 少し離れた席では、未だ怒りの収まらぬ信人がそっぽを向いている。
「でもプラム君、いきなり胸タッチなんて積極的でいいと思うよ! 男は可愛いだけじゃダメ! 時には野獣の如く激しく‥‥」
 ‥‥ぽむぽむ。
 セリスの少々ズレた熱弁が止まった。またもやプラムが胸を触ったのである。
 信人とは違い、セリスは何故か嬉しそうにほほを赤らめた。
「や‥‥やぁねープラム君。いくら私が魅力的だからって、そんないきなり‥‥」
「わかったのれす! セリスおねーさんは、キレイだけど実はおにーさんなのれす! だってぺったんこなのれす!」
 恥じらうセリスの言葉を、得意げなプラムの声が遮った。
 そう‥‥セリスは、19歳の女性とは思えぬ貧乳なのである。
 ピキッ、とセリスのこめかみが引きつった。
「だ‥‥だれがお兄さんよこのばかーっ!!」
 再び酒場に響き渡る怒号と打撃音。
 この日以来、彼女は一部から『ひんぬー騎士』などとあだ名される様になったそうだ‥‥

  ◆

「えぐ‥‥頭がぐるぐるしてるのれす‥‥」
「‥‥災難だったな、プラム殿」
 大きな手でプラムを撫でるのは、ジャイアントの武道家、武楼軒玖羅牟(eb2322)だった。
 プラムよりも1mは大きいだろう。表情も口数も少ないが、どこか優しげな雰囲気の持ち主である。
「玖羅牟さんは‥‥おにーさんれすか? おねーさんれすか?」
 不安そうに、プラムは小声で問いかけた。
 確かに、玖羅牟は性別が解りづらい。体格も良く、顔立ちは中性的である。
「どちらだと思う?」
 別に怒っている風でもなく、玖羅牟は静かに尋ねた。
 プラムはしばし考えると、玖羅牟の胸元に手をのばし‥‥
「‥‥胸は、勝手に触ったらいけないのれすね」
 すぐに手を引っ込めた。
 玖羅牟は小さく頷き、再び少年の頭をなでる。
「そうやって少しずつ物事を知ってゆくのが、大人への道だと私は思う。焦ることはない、少しずつでいいんだ」
 言って、玖羅牟は優しく微笑んだ。
 その笑顔を見てプラムは気がついた。この人は素敵な女性なのだ、と。

  ◆

「ふふっ‥‥それはプラム君、一つ勉強になりましたね」
「あい、世の中はふくざつなのれす」
 プラムの手を引きながら、神聖騎士のメイリア・インフェルノ(eb0276)は夜の歓楽街を歩いていた。
 やせ形だが胸は大きく、何とも色気のあるスタイルだ。通り過ぎる男性達が、チラチラと彼女に視線を向けてゆく。
「ううっ‥‥みんな巨乳ばっかり見てぇ〜‥‥」
 そのすぐ後ろには、不機嫌そうなセリスが着いてきていた。彼女も魅力的ではあるが、『色気』という点ではメイリアにかなわない。
 三人は、目的のチンピラ達を引きつける『囮』役であった。
 女二人子供一人の組み合わせは、場所的にかなり目立つ。三人の視界に娼館が見えてきた時‥‥
「ヒュゥ。素敵な女性はっけーん」
「子供のお守りなんてしてないでさ、俺らと遊ばない?」
 軽い調子で、二人の男がメイリアに声をかけてきた。
 彼らの後ろには、四人の男達が控えている。合計六人‥‥どうやら、目的のチンピラ達に違い無さそうだった。
「あら‥‥私のお相手、して下さるんですか?」
 微笑む表情にも色気が溢れている。メイリアの反応を見て、男達はニヤっと笑った。
「しちゃうしちゃう! 俺らいい店知ってるからさ、まずはその店行こうよ。その後‥‥ぐあっ!?」
 機嫌良く喋っていた男が突然吹き飛んだ。
 油断し切っていた男は、メイリアが素早く詠唱したブラックホーリーをまともに食らったのである。
 チンピラ達の顔色が変わった。
「ふふっ‥‥最後まで、お相手して下さいね」
 微笑むメイリアの言葉を合図に、物陰に潜んでいた冒険者達が姿を現した。

 その後の展開は一方的だった。
「街のゴミはゴミ箱に‥‥ですね♪」
 にこにこと微笑みながら、響はチンピラの一人をゴミ捨て場に投げ捨て‥‥
「おせぇんだよ! チェストォッ!!」
 信人の小太刀二刀流を食らい、一人のチンピラが崩れ落ち‥‥
「このあたりで、あの可愛い少年に良い所を見せておかねば」
 邪な情熱を燃やすロイエンブラウの一撃に、一人のチンピラが吹き飛ばされ‥‥
「その身に‥‥恐怖を刻め」
 凄まじい殺気を放つ玖羅牟の拳を受け、一人のチンピラが悶絶し‥‥あっという間に、敵はリーダー格の男一人だけとなった。
「く、くそっ‥‥ナメやがって!」
 男は顔面蒼白だった。元々実力が違う上に、人数が6対9である。勝負にもならないのは当然だろう。
 だが‥‥リーダーと対峙しているのはプラムである。依頼人に花を持たせようと、冒険者達はリーダーの相手をプラムに任せたのだ。
 男はナイフを抜き、猛然とプラムに襲いかかる。
 プラムは男の動きを見切るが‥‥手にしたダガーで攻撃を受け止めた瞬間、力負けして地面に倒れ込んでしまった。
 冒険者達の間に緊張が走る。
「くらえガキィっ!」
 倒れたプラムに向かい、ナイフを振り上げる男。
 だがそのナイフは空を切った。
「‥‥こんな可愛い少年を、キズモノにされてたまるか」
 頬を赤らめながらしっかりとプラムを抱きかかえ、ロイエンブラウが危機を救ったのだ。
「幼子に手を挙げる愚か者が‥‥消し炭にしてくれる」
 驚くチンピラの背後から、老人の声が聞こえた。
 振り返るとそこには、普段の頼りない姿とは全く違う鋭い眼光のオルロックが、魔法の炎を全身に纏い立っていた。
「なっ‥‥ぐあぁっ!」
 次の瞬間、オルロックは炎を纏ったままチンピラに体当たりした。ファイヤーバードの魔法である。
 ある程度加減したため、消し炭にはなっていないが‥‥しばらく意識は戻らないだろう。
「オルロックさん‥‥あなた‥‥」
 よく老人の世話をしていた響が、珍しく驚きの表情を浮かべていた。
「ふがふが‥‥そろそろメシの時間かいのぅ」
 しかしすぐに、オルロックはいつもの調子に戻ってしまう。
 いつもの彼が本当なのか、チンピラを倒した彼が本当なのか‥‥この日以来、彼は『もうろく? ウィザード』というあだ名で呼ばれる事になったのだった。

  ◆

「へぅ‥‥みなさん、ご迷惑おかけしたのれす‥‥」
 チンピラ達を倒した後、プラムは目に見えて落ち込んでいた。
 自分も戦うつもりでいたのに、結局冒険者達に頼り切りだったためである。
「ぼく‥‥やっぱりまだ未熟なのれすね。まだ‥‥男らしくなれないのれすね‥‥」
「そんな事はないぞ」
 涙ぐむプラムを、ロイエンブラウは優しく抱きしめた。
「男らしさとは腕っ節の強さだけではない。心の強さ‥‥自分が正しいと思うコトを実現しようとする思いもまた、男らしさだ。君は自分が正しいと思うコトのために戦った。だから君は‥‥『男』だと、私は思う」
 ポンポンと背中をさすりながら、たっぷり愛情の籠もった言葉をかけた。
 邪な欲望は、『守ってあげたい』という保護欲に変化しつつあるらしい。
「ほーらプラムさん、エッチなお姉さんから離れましょうねー」
 微笑みを浮かべつつ、こくりはロイエンブラウからプラムを引き離した。
「ななっ! 私は、邪な気持ちなど抱いていないぞ!」
「先日‥‥何て言ってましたっけ? 持って帰りたいとか‥‥」
 慌てるロイエンブラウに、意地悪な笑みを向けるこくり。その間でプラムは不思議そうにしている。
「でも、ロイさんが言ってた事は正しいですよ。困っている人の為に一生懸命になれるだけでも、十二分に男らしいです。その気持ちを忘れなければ、きっと素敵な大人になれます」
 笑顔でプラムの頭をなでるこくり。それは、依頼中初めて見せた本当の笑顔だった。
 その彼女からひょい、とプラムを奪い取り‥‥
「今回は結構楽しかったです‥‥また会いましょうね?」
 メイリアは少年の頬に口づけした。
 途端に大騒ぎを始める冒険者達。
 まだまだ理想の『大人』には遠いけれど‥‥プラムは今日、理想に向けての階段を一歩上ったのである。