【物資補給阻止】掴んだ糸の先

■ショートシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月31日〜01月07日

リプレイ公開日:2007年01月10日

●オープニング

●止まらぬ流れの中で
「ラーンス様!」
 深い森の中を捜索していた騎士は、見つけ出した円卓の騎士を呼んだ。ラーンス・ロットは振り向くと共に深い溜息を吐く。
「またか‥‥いくら私を連れ戻そうとしても無駄です」
「連れ戻す? 私どもはラーンス様と志を同じくする者です。探しておりました。同志はラーンス様の砦に集まっております」
「砦だと!? 志を同じく?」
 端整な風貌に驚愕の色を浮かべて青い瞳を見開いた。
 騎士の話に因ると、アーサー王の一方的なラーンスへの疑いに憤りを覚えた者達が、喜びの砦に集まっているという。
 喜びの砦とは、アーサー王がラーンスの功績に褒美として与えた小さな城である。この所在は王宮騎士でも限られた者しか知らないのだ。
 状況が分らぬままでは取り返しのつかない事になりかねない。ラーンスは喜びの砦へ向かった。
 ――これほどの騎士達が私の為に‥‥なんと軽率な事をしたのだ‥‥。
 自分の為に集まった騎士の想いは正直嬉しかった。しかし、それ以上にラーンスの心を痛めつける。
 もう彼らを引き戻す事は容易ではないだろう。
「ラーンス様、ご命令を! どんな過酷な戦となろうとも我々は立ち向かいましょう」
 ――戦だと? 王と戦うというのか?
 ラーンスは血気に逸る騎士達に瞳を流すと、背中を向けて窓から覗く冬の景色を見渡す。
「‥‥これから厳しい冬が訪れる。先ずは物資が必要でしょう。キャメロットで食料を補給して砦に蓄えるのです。いいですね、正統な物資補給を頼みます」
 篭城して機会を窺う。そう判断した騎士が殆どであろう事に、ラーンスは悟られぬように安堵の息を洩らした――――。

「アーサー王、最近エチゴヤの食料が大量に買い占められていると話を聞きました。何やら旅人らしいのですが、保存食の数が尋常ではないと」
 円卓の騎士の告げた報告に因ると、数日前から保存食や道具が大量に買われたらしい。勿論、商売として繁盛した訳であり、エチゴヤのスキンヘッドも艶やかに輝いていたとの事だ。
「‥‥王、もしやと思いますが、ラーンス卿の許に下った騎士達が物資を蓄えているのでは‥‥」
「あの男は篭城するつもりか‥‥」
 苦渋の思いに眉を戦慄かせるアーサー王。瞳はどこか哀しげな色を浮かべていた。そんな中、円卓の騎士が口を開く。
「冒険者の働きで大半は連れ戻しましたが、先に動いた騎士の数も少なくありません。篭城するからには戦の準備を進めていると考えるのは不自然ではないでしょう」
 ――戦か‥‥本気なのか。出来るなら戦いたくはないが‥‥。
「ならば物資補給を阻止するのだ! 大量に買い占めた者から物資を奪い、可能なら捕らえよ!」
 難しい命令だった。先ずはラーンスの許に下った騎士か確かめる必要があるだろう。全く無関係な村人や旅人が聖夜祭の準備で買う可能性も否定できない。保存食というのが微妙だが‥‥。
 それにこれは正しい行いなのか? 否、そもそも王を裏切ったのだから非はラーンス派にある。王国に戦を仕掛けるべく準備を整えるとするなら、未然に防ぐのは正当な行いと言えなくもない。
 ――なぜ戻って来ないラーンスよ。おまえの信念とは何だ? なぜ話せぬ‥‥。
 聖夜祭の中、王国の揺れは終わりを迎えていなかった――――。

●繋がる糸の先
 その日、ギルドに現れた彼は騎士の姿だった。
 それはつまり、円卓の騎士、トリスタン・トリストラムからの正式な依頼である事を意味する。
「話は聞いていると思うが」
 挨拶も前置きも無しに、彼は口を開いた。
「最近、エチゴヤで食糧を買占めている者がいる。そして、様々な状況から判断するに、その食糧はラーンス卿の許に運び込まれている可能性が高い」
 噂になっていた事柄だ。
 冒険者達も驚かない。彼らが見せた反応は、眉を顰め、気まずそうに互いの目を見交わすぐらいだった。
「ラーンス卿は、何処かで篭城するつもりなのかもしれない‥‥」
 淡々と告げていたトリスタンの顔に僅かな苦悩が過ぎる。
「篭城の準備は、この諍いが戦いに発展する事、または長期間に及ぶと見越しての事と思われる。ラーンス卿が篭城の支度をしているとの噂が広まれば、民は不安になる」
 憂いを帯びた吐息を1つ。
 トリスタンは、何かを振り切るかのように顔を上げた。
「また、食糧を大量に買い占められては日々の糧の値も高騰し、更に民を苦しめる事になろう。ラーンス卿の思惑も、真実も関係ない。潔白であるのならば、彼自身がいずれ証を立てるだろう。だが、その為に、民をいたずらに苦しめていいというものではない」
 集った冒険者達を見回して、トリスタンは強い眼差しと迷いのない口調で続ける。
「王のご命令通り、ラーンス卿の元に運び込まれる物資の供給を断つ。食糧や物資は、各所で買い占められている。個々に運ぶにも限度があろう。物資を集め、ラーンス卿の許へと運び込む中継地が幾つかあると思われる。そこを叩けば」
「一気に、大量の物資を奪還出来るというわけだな」
 横合いから言葉を奪った冒険者に、トリスタンは視線を動かした。悪戯を共謀でもしているかのように2人は顔を見合わせて笑う。
「そういう事だ」
 短く肯定して、彼は続けた。
「まずは物資を買い占める者を泳がせて中継地の1つを特定する。その後、そこを叩く。相手は騎士である確率が高い。そう簡単に潰す事が出来ると思うな」
「でも、いちいちそんなまだるっこしい事をしなくても、そのまま彼らを泳がせてラーンス卿の許へ案内させればいいんじゃないのか?」
 尋ねた冒険者に、ギルドにいた者達が息を詰める。
 緊張が走る中、トリスタンは静かに冒険者を見返した。
「それはつまり、ラーンス卿と戦がしたいという事か」
「え? いや、そういう訳では」
 署名を入れた依頼状を受付嬢へと渡すと、トリスタンは踵を返す。金属が触れ合う音と衣擦れとが、静まり返ったギルドに響いた。
「同じ事だ。ラーンス卿の居所を突き止めて何をする。王と対する彼らが、王の目の届くキャメロット近郊にいると思うか。例え、幾日もかけ、キャメロットを空けて我らが話し合いに出向いたとしても、彼の下に集う騎士達はそうは思うまい。小競り合いではなく、戦が始まる。ラーンス卿自身が潔白の証を立てる事も、王との和解もなく、多くの罪もない民を巻き込んだ戦になる」
 扉に手をかけて、彼は振り返った。
「それを望むのならば、私は全力をもって止めるのみだ」

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4164 レヴィ・ネコノミロクン(26歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●よりどりみどり?
 装飾品から武器、酒類まで多種多様な品を扱うエチゴヤには、さまざまな人々が出入りしている。
 リアナ・レジーネス(eb1421)と同業である冒険者や、旅装束の農夫、どこかの貴族に仕えているらしい男や騎士‥‥。一見すると、怪しい者はいないように思える。だが、全ての者が怪しく見えるよう気もする。
 食糧や物資を買い集めているラーンス派の騎士を特定するのは至難だ。
「間違えて関係のない人を捕捉しないよう、気をつけなきゃ」
「ええ、それは分かっているのですけれど」
 レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)の言葉に、リアナは同意を返してエチゴヤに出入りする人々を凝視した。服装はいくらでも変えられる。だが、どれほど姿形を変えていようと、何気ない立ち居振る舞いに日常が垣間見えるはず。それに‥‥。
「エチゴヤの方に、物資を大量に買って行った人の特徴をお聞きしてあります。勿論、同じ人物がもう一度訪れるという保証はありませんが」
「なるほどね。でも、それだけじゃないんでしょ?」
 澄まして尋ねたレヴィに、リアナは2度3度と瞬きを繰り返した後、破顔した。
「一応は。ですが、ひいた籤が当たりかどうかは、結果が出てからでなければ分かりませんものね」
 肩を竦めて、レヴィは笑った。
「じゃあ、あたしはあの籤を引いてみようかな。リアナはどうするの?」
 レヴィが指さしたのは、大きな荷物を抱えてエチゴヤから出て来た男だ。伸びた背筋と歩き方が商人風の装いと合っていない。
「あら、奇遇ですね。私も同じ籤を引こうと思っていたのです」
 くすくすと、2人は笑い合う。
「そういえば、昨日、荷車の手配をしたという方が、丁度、あの方と似た背格好だったらしいですよ」
 ふーん、と気のない返事をしたレヴィの表情はやたらと楽しげだ。
 さながら獲物を見つけた猫である。
 そんなレヴィの前で、猫じゃらしを振るが如くリアナは続けた。
「後、尾行ますか?」
 返る答えは、当然‥‥。

●作戦会議中
「どこにあるかな中継地〜、探して見つけて壊すんだ〜」
「ボルジャー殿」
 上機嫌で歌うボルジャー・タックワイズ(ea3970)に、隣を歩くエスリン・マッカレル(ea9669)は引き攣った笑顔を浮かべながら、控えめに注意する。
「どこに誰の耳目があるか分かりません。あまり直接的な表現は‥‥」
「駄目なのか?」
「あ、いえ、駄目というわけでは‥‥」
 無邪気に問い返して来たボルジャーに、エスリンは返答に窮した。
 エスリンの困惑に気付かぬ様子で、ボルジャーは視線を上げて考え込んだ。結論が出たのは、10を数えるよりも早かった。
「みつけろみつけろ、騎士の人〜。たくさんたくさんかーーーーーーーいーーーーーーーこーーーーーーーむーーーーーーぞーーーーー」
「‥‥歌を変えろという事ではなく」
 ぐらりとエスリンの体が傾ぐ。
 生真面目な彼女は、元気の良いボルジャーに些か押され気味のようだった。
「まぁまあ。目的地にはまだ少しありますから、大丈夫ですよ」
 取りなすユリアル・カートライト(ea1249)も2人の遣り取りに苦笑いだ。でも、とユリアルは表情を改めて背後を振り返る。
「中継地と思しき場所には、それなりに偽装が施されているでしょう」
「だろうな」
 オイル・ツァーン(ea0018)は短く答えた。
 エチゴヤを張っているレヴィやリアナからの連絡によると、ラーンス派と思われる男が大量の荷を持ってキャメロットを出たという。男が進む道は、彼らが現在目指している廃屋へと続いている。
 収税倉庫だったという廃屋は、荷車や馬車の出入りに十分な広さがあるらしい。
「奴らも荷車と馬を使っている。そうそう大掛かりな罠は無いと思うが、用心に越した事はない」
「とは言え、どうすれば‥‥。バイブレーションセンサーで感知出来るのは振動。仕掛けられた罠までは分かりませんし」
 ねぇ、と同意を求めるように滋藤御門(eb0050)を見れば、御門も思案気な顔で頷く。
「そうですね。僕も、隠密行動はあまり得意ではありませんから、やはり中の様子や状態が分かった方がよいかと」
 囮や陽動などの作戦行動を取る時にも、状況が分からなければ不利になるのだ。
「ああ、そうだ!」
 それまで話に加わる事なく、周囲の冬景色を楽しむように軽やかな足取りで進んでいたユイス・アーヴァイン(ea3179)が、突然にぽんと手を打った。
「これを持っていたんでした〜」
 ごそごそと荷を探ると、取り出したスクロールを自慢げに高々と掲げる。
「エックスレイビジョンのスクロール〜」
「「「‥‥‥‥」」」
 今、何かが過ぎった。
 いや、そんなはずはない。
 心を通り過ぎた何かに気付かぬ振りをして、オイルは話を続ける。
「ならば、中の様子はある程度把握出来るな。中継地内の大まかな構造と物資を貯蔵してある場所の確認はユイスに頼もう。後は総戦力と警備の数か。移送の手として雇われた者もいるだろうが、一応は敵の数と見なしてもいいだろう敵の戦力はユリアルのバイブレーションセンサーとリアナのブレスセンサーで逐次確認し、その場に応じて臨機応変に対応する」
「分かりました」
 オイルの言葉にユリアルがこくりと頷く。役割が振られていく中で、だがとエスリンが口を挟んだ。
「物資を買い集めている者達が少数とは思えぬ。物資を運び出すだけであれば、このオーベロンも役に立とう。しかし」
「中継地に集まるラーンス卿を支持する者の数が多ければ、そう簡単には行かないでしょうね」
 エスリンの意図を読み取った御門が、オイルを伺う。
「戦わずに済めばそれで良いが、気付かれた場合、戦闘は避けられぬ」
「‥‥どうも、話が戦乱の方へと転がり過ぎている気がするな」
 様々な噂と憶測、そして幾つもの依頼。
 冒険者達は、平和的解決を目指して尽力して来た。しかし、そのすぐ後に新たな火種が生まれる。一つの火を消す毎に、新たな火は大きくなり、争いが避けられぬ事態へと発展していくような気がするのはオイルの思い過ごしか。
「ラーンス卿が、まことに戦もやむなしと考えているのであれば、逆にこのようなあからさまな動きはおかしい。円卓の騎士‥‥戦うつもりならば、いたずらに相手を警戒させるような真似はしないはずだ」
 そう言い切ったオイルが向ける視線の先には、ラーンスと同じ円卓に連なる騎士、トリスタンがいる。
 彼らの話が聞こえていないはずもないが、トリスタンは何の反応も返さない。
「そうですね。籠城が本当にラーンス卿の意思であるのか、僕も疑問があります。ラーンス卿を支持している騎士達の先走りであるならば尚更の事です」
 ちらりとトリスタンを窺って、御門は仲間達へと微笑みかけた。
「それに〜、いくら信条が違っていると言っても同じ国に住む民ですし〜。騎士がそれを無視した行動に走るのは悲しい事だと思います〜」
 飄々としたユイスの呟きは、彼らが敢えて口にしなかった言葉だった。
 騎士なのに、何故。
 何が、彼らをそのような行動に走らせるのか。
 思わず、エスリンは胸を押さえた。
「内戦になると、パラの戦士じゃない人が困るよね! そんなの可哀想だから、頑張るぞ! どんだけ敵が多くてもっ!」
 重く心にのし掛かった雲を払ったのは、ボルジャーの元気な声だった。
 その明るさにほっとしながら、エスリンも愛馬の首を叩いた。
「敵の数が障害となるのであれば、私はオーベロンと共に彼らを混乱する役を担おう」
「あ〜、それなら私にもいいものがありました〜」
 ぽぽんと再び手を叩いたユイスに、仲間達の足が止まる。
「なになに? なにがあるんだ?」
 好奇心も顕わに詰め寄ったボルジャーを笑顔で押し止めて、ユイスは荷の中に手を突っ込んだ。
「え〜と〜、確かここら辺に〜‥‥あった」
 抜き出された手には、スクロール。
「コンフュージョンのスクロール〜」
 また何かが過ぎった。
 深く追及しないでおこう。
 自分で自分に言い聞かせて、オイルは早足に歩き出した。

●物資奪還
 案の定、中継地には多くの者がいた。
 ラーンス派の騎士だけではない。金で荷役として雇われた農夫や商人も多い。
「あたし達が尾行て来たヤツも、途中でガタイのいいお兄ちゃんをナンパしていたわ。ね、リアナ?」
「ナンパ‥‥と申していいものかどうか。どちらかというとスカウトのような気が」
 どちらでも同じだと心中突っ込んで、オイルは仲間達へと頷いた。
 作戦開始の合図だ。
「参ります」
 愛馬に騎乗したエスリンが短く言い捨てて廃屋へと向かう。
 騎馬の襲来に驚いた荷役が逃げ惑う中、一般人に身をやつしていた騎士達がそれぞれ得物を手に飛び出して来る。突然の敵襲に臆する事なく、即座に対応した彼らの行動に、オイルは感嘆した。
「さすがだな。そこいらの雑魚とは違うようだ」
「感心している場合じゃありませんよ」
 言いざま、リアナがライトニングサンダーボルトを放つ。
 雷は、殺到する騎士達の足元に落ち、彼らの足を止めた。その傍らをエスリンが駆け抜ける。
「ボルジャーさん、今です〜」
 待ってましたとばかりに、ボルジャーがコンフュージョンで更に混乱した中継地へと斬り込んでいく。逃げ惑う荷役の間をすり抜けると、剣を振り下ろして来る騎士の攻撃を避けて刀を薙ぎ払う。
 辛うじて、その攻撃を受け止めた騎士は体勢を崩しながらも反撃をしかけて来る。
「さっすが騎士の人! よぉし、騎士の人が強いか、パラの戦士が強いか勝負だ!」
 反撃されても楽しげに、ボルジャーはぶんと得物を振り回した。
 ボルジャーが大立ち回りで敵の目を引きつけている間に、御門達は物資が貯蔵されている場所へと走った。ユイスのエックスレイビジョンで大体の場所は掴んである。
「硬い物が動いています」
 走りながら御門が告げる。
「それから、多分、馬です。物資を運び出そうとしているようですね」
「運び出されるとマズイわね」
 彼らの目的は中継地の制圧ではなく、物資の奪還だ。
 ち、と舌打ちしたレヴィに、ユイスがくるりと振り返る。
「こちらも「シゴト」で来ているわけですし〜、このまま逃がすわけにはいきませんし〜」
 後ろ向きで走りつつ、ユイスは首を傾げた。
「あんまり使いたくはないんですけど〜逃がすよりはマシですし〜」
 ユイスが何を提案しているのか、考えること数秒。
「ちょっ、ちょっと待って!!」
 慌ててレヴィがユイスを止める。
「え〜? でも〜」
「あの中に美味しいお酒があったらどうするの! 一緒に吹き飛ばしちゃうの!? そんな勿体ない事、あたしが許さないわよっ」
 ぱちくりと、ユイスは目を瞬かせた。
「お酒が無ければいいんですか〜?」
「ええいっ、こうなったらあたしがっ!」
 腕捲くりしてレヴィが呪を唱える。使う魔法は「ストーン」。積荷が重くなれば、運び出すのも困難になると踏んだのだ。
「腕捲くりする必要はあったんですか〜?」
「さあ! 後は任せたわっ!」
 ユイスの問い(突っ込みとも言う)には答えず、レヴィは大きく手を振り広げて仲間に道を示した。
「「‥‥‥‥」」
 こめかみを揉み解していたオイルが仕方ないと動き出せば、乾いた笑いを浮かべた御門も後に続く。
 そうして、彼らは瞬く間に集められた食糧などの物資を押さえたのであった。

●掴んだ糸の先
「パッラッパパッパ! おいらはパラっさ!」
 全てが終わった中継地に、勝利の舞を披露するボルジャーの歌声が響く。
「パラッパパラッパ! おいらはファイター!」
 出鱈目な旋律が妙に頭に残る。
 釣られて口ずさみかけて、御門は慌てて口元を押さえた。
 こほんと咳払いを1つ、ユリアルは辺りを見渡して微笑んだ。
「どうやらうまく行ったみたいですね」
 彼の周囲は、嵐でも吹き荒れたかのように人や馬がなぎ倒されている。勿論、命までは奪っていない。倒れて気絶している騎士の1人を引っ張り起こして、ユリアルはトリスタンを仰ぎ見た。
「この騎士達からラーンス様の事を‥‥。‥‥? トリスタン様?」
 ほんの一瞬だが、彼は頷いていたように見えた。
 ユリアルや仲間達にではない。どこか、別の場所、別の相手。
 トリスタンの視線を追ったユリアルの目に映ったのは、物資を捨て、彼らの手から逃れたラーンス派の騎士達。
「トリスタンさん! おいらとちょっとだけ模擬戦して〜! 駄目〜?」
 ユリアルが怪訝に思ったのも束の間、彼はボルジャーに呼ばれてその場から離れたのだった。