ルクレツィア、失踪
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 94 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月02日〜06月08日
リプレイ公開日:2008年06月06日
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●オープニング
●ルクレツィア、失踪
サウザンプトン領主、アレクシス・ガーディナーが従妹の為に用意したキャメロット郊外の屋敷から、その従妹ルクレツィアが消えた。
世話係として付けられていた少女、ソニアが恒例となっていた真夜中の茶会の為に茶を煎れようと目を離した、ほんの僅かの間の出来事だった。
アーサー王のお膝元であるキャメロットとはいえ、犯罪が全く起こらないというわけではない。特に、地をあまねく照らし出す太陽が姿を隠した夜ともなれば、危険度が増す。
泡を食ったソニアの報告を受け、護衛のヤコブが屋敷の周囲から辺り一帯を捜索したが、ルクレツィアの姿を発見する事は出来なかったという。
すぐさま、サウザンプトンのアレクシスの元にシフール特急便が送られた。
同時に、キャメロットの冒険者ギルドへと助けを求める依頼が出されたのであった。
●募る不安
ソニアは、ずっと泣きじゃくっていた。
居たたまれない気まずい空気に、冒険者達はもぞもぞと体を動かしては咳払うという行動を繰り返す。誰かが口火を切るのを待っているようだ。
「私が、お側を離れなければよかった‥‥!」
何度めかの自分を責める言葉に、これまた何度めかの慰める言葉を返し、息を吐く。
仕事の全てを放り投げて駆けつけたアレクシスは、先ほどから黙り込んだままだ。その眉間には、深い皺が刻まれている。ソニアを責める素振りは見せないが、責任を感じているソニアには、それも辛いらしい。
「ともかく、だ。ルクレツィアを探し出せばいいんだろ? キャメロットから出た様子は無いんだし、そんなに難しい事では‥‥」
膠着した雰囲気を打ち破るべく、冒険者が口を開いた。
だが、アレクシスとソニアはおろか、仲間の冒険者達からも賛同の声は上がらなかった。
口を開いた冒険者自身が、難しくはないなどと、楽観的には考えられなかったのだから当然だ。
キャメロットは、イギリスで一番大きな街である。中心部‥‥いや、キャメロット城だけでも、近隣の町1つや2つ、遙かに凌駕する人数が勤めていると思われる。失踪人の捜索依頼は数知れず。しかし、それが川底の石を探すに等しい事だと、冒険者達も知っていた。
「普通なら、該当人物の行動範囲やその背後にある事情などの情報を精査して、捜索範囲を絞り込んで行くわけだが、今回はなぁ」
頭を掻いた冒険者に、別の冒険者が頷く。
「真夜中の話だ。目撃情報も少ないだろうな」
「‥‥それは、ルクレツィアが自分の意志で動いている場合の話だろ」
その一言に、ソニアがまた盛大な泣き声を上げ始める。言った本人は、気まずそうな顔をしつつも、仲間達を見回して話を続けた。
ルクレツィアは、その特殊な事情から太陽を苦手とする。よって、昼の間に移動する事は、まず有り得ない。しかし、もしも第三者の意志が介入しているのであれば、その限りではない。
「で、でもね、例えば急に思い立って、真夜中の散歩ですわ〜って、ふらふら〜っと外に出て、そのまま迷子になったとか」
ぴしり、と深刻な表情で卓を囲んでいた者達が固まった。
「それでもって、どこかの穴に落ち込んで、出られなくなっちゃいましたの〜とか」
上から重い石でも落ちて来たかのように、何人かが卓に懐く。それは、ルクレツィアの従兄アレクシスも例外ではない。
「もしくは、可愛い猫さんですわ〜、と追いかけているうちに朝になってしまって急遽避難したら、それが荷車の中で、今頃はゆらゆら揺られてどこかの村へ‥‥」
否定出来ない。
その場にいた誰もが、そう思った。
「だが、最悪の事態も考えられる」
頭上の見えない石を払うように、大きく頭を振ると、冒険者は卓に手を叩きつけた。
「もしかすると、ルクレツィアの事に気付いた者が」
勢い込んで語り始めた冒険者の語尾が、頼りなげに消えていく。
それは、彼の言う通り最悪の事態だ。そうなった場合、ルクレツィアは彼らの知るルクレツィアではなくなるかもしれない。それどころか‥‥。
思い浮かべた未来に体を震わせた冒険者の姿に、アレクシスは小さく舌打ちした。気合いを入れるように、己の顔を叩いて立ち上がる。
「ここで議論していても仕方があるまい! どちらにせよ、ツィアは己を守る術を知らない。すぐには致命傷に至らないとはいえ、太陽の光はツィアにとって有害以外の何物でもないし、悪意ある者達の見分け方も知らない。何より、喉の渇きが限界を超えたら‥‥」
ごくり、と冒険者達は生唾を飲んだ。
渇き。その問題があった。
「待ては教えたが、それでどこまでツィアが我慢出来るか‥‥。こんな事になるなら、もっと厳しく仕込むべきだった」
頭を抱えるアレクシスの後悔が微妙にズレているような気がするが、今はそれどころではない。
冒険者達は、慌てて席を立った。
一刻も早く、ルクレツィアを見つけ出さなければ大変な事になる。
そんな焦燥に煽られながら。
●リプレイ本文
●不安を紛らわせて
太陽の陽射しが日増しにきつくなっている気がする。
普段はさほど気にも留めないのだが、今はやたらと落ち着かない。ふと手を止めて、窓の外を見る。
「大変大変、大変である〜!」
同じく落ち着かないのか、部屋の中をぐるぐると旋回していたリデト・ユリースト(ea5913)が、物思いに耽るアレクシス・ガーディナーの頭を目掛けて急降下。ガツンと派手な音が室内に響き渡る。
「大変なのである〜! アレク、落ち着くである!」
「‥‥まずは、お前が落ち着け。リデト」
痛みに呻きつつ、アレクは頭にしがみついたリデトを引き剥がした。
途端に、リデトから盛大な抗議の声があがる。
「ツィアが行方不明になったである! これが落ち着いていられるであるか!? 見損なったである、アレク!」
「‥‥一体、俺にどうしろと?」
母猫に運ばれる子猫のようにぶら下げられたリデトに、アレクが口元を引き攣らせて文句をつけようとしたその時、彼の後頭部を再び衝撃が襲った。
「手を休めない! それじゃ立派な菓子職人になれないわよ?」
大振りの木匙を手にしたリン・シュトラウス(eb7758)の一撃に、アレクは頭を押さえて蹲る。リデトとの時間差合体攻撃は、どうやらクリティカルとなったらしい。
「だ、大丈夫であるか?」
ぶら下げられたまま、リデトが心配そうに覗き込む。さすがにイロイロ気の毒になったようだ。
「あのなぁ!」
何か言い返そうと勢いをつけて顔を上げたアレクと、彼を起こそうと前屈みになったリン。至近距離で接近遭遇しかけた彼らは、しばし無言で見つめあった。間で、文字通りに挟まれたリデトがじたばたと暴れるのも気に留める事もなく。
間が良いのか悪いのか。
フォーノリッヂの結果を知らせに来たネフティス・ネト・アメン(ea2834)が、偶然にもそれを目撃して硬直した。
後に待つ修羅場の被害者は、アレク唯1人であったという。
●彼女の行状を顧みると
それぞれが調べた結果を持ち寄って、彼らは遅い午後の茶で疲れを癒していた。
「それで、ツィアとアレクとソニアとヤコブ、バンパイアノーブル、血で占った時は何も見えなかったんだけど」
一旦、言葉を切って声を潜める素振りを見せたネティに、仲間達は身を乗り出す。
「ツィアとバンパイアノーブル、血で占ったら‥‥ちょっと嫌なものが見えて」
「嫌なもの、とは?」
カップを持ったまま、身を傾いだアリスティド・ヌーベルリュンヌ(ea3104)へと視線を向けて、ネティは口早に結果を告げた。
「夥しい血。それから、フードを着た誰か」
予想していた、だが考えたくもなかった未来の図だ。静まり返った仲間達に、ネティは慌てて首と手を振る。
「これは確定した未来じゃないのよ! このまま何もしないと、そうなってしまうってだけ‥‥で‥‥」
ごにょごにょと消えそうな語尾が、大丈夫だと語る彼女自身の動揺を表しているようだった。
「まだ、あの娘を狙う馬鹿がいるとはな。あの娘には、今の在り様以外、似合いはしないというのに」
渋面で呟いたフレドリクス・マクシムス(eb0610)に、その通りだとリデトとネティが大きく頷く。
「‥‥何か事情があるのよね」
こっそりと尋ねたヒルケイプ・リーツ(ec1007)に、御法川沙雪華(eb3387)が微笑みを返す。
「ええ。人は、誰しも何かしらの事情を持っています。ツィア様もそうですわ。でも、ツィア様は私達と共にある事を望み、アレク様達も、それを望んでおられます」
「そう」
それだけ聞けば十分。これまでから推測される「答え」は確かにあるけれど、ヒルケは占いの結果も、仲間達の呟きも胸の中に封印した。いつか、ツィア達の口から語られる日まで。
「‥‥とか、よく分からないけど‥‥」
全身を隠す布の奥から、ぽつぽつと聞こえてくるレン・オリミヤ(ec4115)の声に、ヒルケと沙雪華は互いに顔を見合わせて、目を瞬かせた。
「レンさん?」
「‥‥ルクレツィア、心配」
しん、と室内が静まりかえる。そう言えば、と彼らは考えを巡らせた。事の始まりは何だったのか、と。
「あ、ああ、そうだなっ! 心配だ!」
「そ、そう言えば、ルクレツィア嬢が「外へ出なかった」可能性は考えられないだろうか? ベッドと壁の間に落ちているとか、屋敷には実は隠し部屋や隠し通路があって、そこに引っ掛‥‥迷い込んでしまっているとか」
思考が脱線しかけていたらしいアレクとアリスティドが我に返り、強引に話を戻した。
「そそそそうねっ!」
同じく、そもそもの目的を一瞬忘れてしまっていた者達が、慌てて相槌を打つ。
「あ、でも、先ほど屋敷を透視してみたけど、それっぽいものは何もなかったわよ?」
ヒルケの調査結果で、隠し通路説は消える。
「残るは壁とベットの間に落ちている‥‥か」
それは無理があるだろうと誰もが思った。
しかし、否定しきれないのは何故だ。ツィアを良く知る者達は苦悩した。
「季節的に」
ふいに、フレドリクスが口を開いた。
彼の視線は、窓の外に向けられている。
「丁度、猫の子が生まれる頃合いだな‥‥」
「「「「「「「「‥‥‥」」」」」」」」
再び、室内に沈黙が満ちた。
●目撃者
ソニアとヤコブの話によると、ツィアから目を離したのは、香草茶と菓子を用意している僅かの間だったという。それまでは間違いなく部屋にいて、ソニア達が準備を整えるのを待っていたらしい。
「ツィアが気にしていた、真夜中の子供もその日を境に現れなくなったみたいね」
関係があると言っているようなものだと、ネティは息を吐いた。問われるまで思い出さなかったソニア達を責められない。彼女達は、主が消えて動転していたのだろう。
「この辺りかな?」
子供の姿があったという場所に立ち、ヒルケは屋敷を振り返る。居間の、丁度真正面だ。
「何か落ちていないであるか?」
地面にへばりつくように、リデトが周囲の土へと目を凝らす。しかし、手掛かりになるようなものは何もなさそうだ。
「この子達、何かを見ていないかな」
繁みに手を置いて、何かを考え込んでいたヒルケがネティ達に問う。
「そうなのである! 見ているかもなのである!」
飛び上がったリデトは、ヒルケの手元を覗き込んだ。そこに乗せられたスクロールが紐解かれ、ヒルケが薄茶の光に包まれていく様を、彼はネティと共に息を呑んで見守ったのだった。
●事情
「ツィアさんの事情とは別に、彼女が狙われているのにも事情があるのよね」
問いかけというよりも、そう確信しているらしいリンの言葉にアレクは菓子に伸ばした手を止めた。
彼の代わりに、焼き菓子の切れ端を摘んだのは、レンだ。まるでアレクを避けるように、素早くテーブルの上から菓子を取ると、顔覆いの下へと運ぶ。
「‥‥‥‥違う」
何が違うのか、落胆したようなレンの声を聞こえない振りしつつ、アレクはぽつりぽつりと語り出した。
ツィアが暮らしていたワイト島で起きた悲劇の一部始終を。
「‥‥どうして‥‥ツィアを?」
「それは」
「分かったである! 分かったのである〜!」
アレクが言い淀むと同時に、興奮した様子のリデトが飛び込んで来た。
「木が! 子供! ツィアが!」
少し遅れて、ヒルケとネティも部屋へと駆け込んで来た。
「手掛かり、見つけたよ!」
聞くや否や、レンは傍らにおいてあった刀を手に取る。
「妖精達の悪戯ではなかったようですね」
リンも前掛けを外した。
ヒルケが植物から聞き出した話では、ツィアは子供と一緒に、子供1人が通り抜けられるのが精々の崩れた塀から抜け出したらしい。
これは大きな手掛かりだ。外へと調査に出た仲間達と合流すべく、彼らは踵を返し、慌ただしく飛び出して行った。
「必ずルクレツィアさんを連れて戻りますから! お茶会の準備をして待っていて下さいね!」
アレクに大きく手を振ると、ヒルケも仲間達の後を追いかけて走り去って行った。
●彷徨うもの
仲間達からの情報を元に、彼らは捜索の範囲を狭めていた。3つの班に分かれた彼らの案内は、それぞれのペット達の鼻だ。
「月響?」
突然に唸り始めた幼犬に、沙雪華は身構え、周囲の気配を探った。闇に慣れた目が、やがて先を行く影を捕らえる。
「まさか!」
「馬鹿な! ここはキャメロットだぞ!?」
沙雪華とフレドリクスが小さく叫んだ。驚愕するのも無理はない。彼らの視線の先、ゆらゆらと揺れながら彷徨うのは、生ける死人。赤く光る目が、呪われた者の証だ。郊外とはいえ、キャメロットで彼らが人を襲い始めたならば、騒ぎになっているはずだ。
「待て。よく見ろ。あいつはまるで何かを探しているように見えないか」
冷静に観察していたアリスティドが呟いた。
何を探しているのか。
彼らが思い浮かべたものは、恐らくは同じであろう。
「ともかく、放っておくわけには参りません」
決然と告げた沙雪華の手には銀色の光。
「当然だ」
応じる声と同時に、彼らは土を蹴った。そして‥‥。
●保護
「見つけた!」
廃屋の、更に崩れた馬屋の隅、藁に埋まるようにして2人はいた。
「あ‥‥」
子供を抱えたツィアから掠れた声が漏れる。
その瞳は紅く輝き、体は傍目にも分かるぐらいに震えていた。
「お化けが! お姉ちゃんが!」
「分かっている」
少年の頭を一撫でして、フレドリクスは懐に入れて来た桜まんじゅうの存在を思い出した。ツィアの腹が減っていたならば、食べさせようと思って持って来たものである。それを、少年の口に放り込み、沙雪華へと押し遣る。
「よく我慢した」
少年の目に触れぬよう注意を払いながら、アリスティドは自分の腕にナイフを走らせた。
差し出された腕に、ツィアはぶんぶんと首を振る。
「いいんだ。足りなければ、俺の血もやるから。だから」
今は飢えを満たせ。
囁いて、その頭を引き寄せたフレドリクスの顔を身上げ、ツィアはおずおずと血が滴る腕へと顔を近づけた。