謎の店を探れ
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 89 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月07日〜07月16日
リプレイ公開日:2008年07月15日
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●オープニング
●姉の変化
「あ‥‥あやしい‥‥」
大通りの真ん中で、アニーは呟いた。
彼女の視線の先では、最愛の姉が1人の少女の手を引いている。何の事はない。姉は、目の前で転んだ少女に手を差し伸べただけだ。妹の身内贔屓からだけでなく、姉のエマは誰にでも優しい。困っている人を見過ごす事なんて出来ない。
そう、アニーも、それは理解していた。
しかし、問題はその後だった。
「大丈夫?」
姉は、少女を助け起こしながら尋ねた。
「は、はい」
差し伸べられた手に手を重ねて、少女が頷く。手に力を込めて彼女を引き起こした姉は、転んだ時に傷つけたであろうすり傷に目を留め、形の良い眉を寄せた。
「怪我をしているわね」
「え? あ、本当だわ‥‥」
言われて初めて気付いたのだろう。少女は膝から滲む血に驚きの声を上げる。
「ああ、手の平も。可哀想に」
そっと、労るように彼女の手についた砂を払うと、姉はそのまま少女の頬へと手を伸ばした。
「痛む?」
「は‥‥はい、少し」
戸惑う少女に、姉はくすりと笑った。取ったままの手を引き寄せて、軽く口づける。
「君の綺麗な手が傷ついてしまったね。でも泣かないんだ‥‥。君は強い子だね、子猫ちゃん‥‥」
あんぐりと、アニーは口を開いて姉と少女の様子を眺めるしかなかった。姉は歯が浮くような言葉を羅列して少女を慰め、少女は少女で、頬を赤らめている。
ーいったい‥‥お姉ちゃんに何が‥‥?
やがて、少女は名残惜しそうに何度も姉を振り返りながら去って行った。
「お待たせ。あら、アニー、どうしたの? 変な顔をして」
呆然と立ち尽くすアニーに笑いかけたのは、いつもと変わらぬ姉。
だが、見てしまった事実は消えはしない。
そして、彼女の苦悩の日々が始まった。
●夢の館
「というわけなんです」
一通り、事の成り行きを述べた銀髪の青年に、サウザンプトン領主は沈黙した。
出向先のポーツマスから突然に戻って来たと思ったら、少女のお悩み相談状を突きつけてきた。主への帰還の挨拶や、ポーツマスの報告は一切ナシである。
「ヒュー‥‥」
「館の前で門番と揉めて困っていた少女から受け取りました。この書状には書かれていない事情も少々伺っています。それによると、彼女の姉は、最近、サウザンプトンに開店したとある店に勤めているそうです。彼女が、その店が一連の姉の変調の原因ではないかと言うので、調べに行ったのですが‥‥」
顰めっ面の主を気にする様子もなく、彼は連々と報告を並べて行く。
「店は、大通りから一本外れた通りにありました。あの辺りも、大分賑わって来ましたね。店には「夢の館」と書かれた看板が掛けられており、外から見た限りではおかしな所もありませんでした」
「‥‥オヤジ相手の酒場か何かじゃないのか」
ぶすくれて言葉を挟んだ主に、彼は銀色の頭を振った。
「営業時間は正午から日没後1時間。近所の人の話では、出入りしているのは若い娘達ばかりのようです。ただ、看板に気になる言葉が‥‥」
視線で先を促すと、彼は手に持っていた羊皮紙を読み上げた。
「基本料金1時間4シルバー、指名料1シルバー。延長料金30分2シルバー、同伴料金1時間4シルバー。一番手、ジャスパー、二番手、ネイサン‥‥」
「は?」
なんだ、それは。
主の困惑した様子に、調べて来た当の本人もさてと頭を傾げるしかない。何故ならば。
「店内に入ろうとしたのですが、怪しげな娘に怒鳴られまして」
くるくる巻いた金色の髪に大きなリボンをつけたその娘は、ずるずると引き摺った服の裾を踏んづけて躓きながら、物凄い剣幕で叫んだのだ。
『ここはおとこのくるところじゃないのにゃーーーーーっっ!!! でてけーーーーっっ!!!』
「あ‥‥あやしい‥‥」
主の呟きに、彼は何度も頷いた。
確かに怪しい。
「男子禁制、しかし、私が見た限りでは、室内には男性らしき影がちらほら‥‥」
だが、そんな怪しい店でも、実態もしくは悪事の証拠が無ければ踏み込めない。
にも関わらず、男では調査に入る事も難しいときた。
「かと言って、女性にお願いするわけにも参りませんし」
言葉を切った青年に、主は同意を示す。こんな時は、ギルドに頼むが一番だ。男も女も、様々な状況に柔軟に対処出来るブロフェッシュナルが揃っているのだから。
「早急に依頼を出しておいてくれ」
はい、と一礼して青年は部屋を出て行った。
彼の主が帰還報告を受けていない事を思い出したのは、それから3時間後であった。
●リプレイ本文
●侵入・潜入
明け方。
ようやくぼんやりと確認出来るまでになってきた店内を眺めて、マリヤ・シェフォース(ec4176)は、息を吐き出した。
「うーん。やっぱり普通のお店よねぇ」
深夜、彼女は調査依頼を受けた店「夢の館」へと忍び込んだ。仲間達にも内緒でこっそり‥‥だ。
なのに。
「なんかぁ、期待外れ? 損しちゃったってカンジぃ?」
手入れの行き届いた金の髪を指に巻きつけながら、マリヤは唇を尖らせた。
折角、貴重な時間を費やしたのだから、怪しい植物とか怪しい酒とか怪しい地下室とか怪しいペットとかを見つけられたらよかったのに。
もう一度息を吐き出すと、マリヤは立ち上がった。
店に怪しい所がないと分かれば長居は無用だ。開け放したままにしていた部屋の扉を、元通り閉めてまわっていた彼女は、1つの部屋で足を止めた。
「あらん? これって殿方の服だったのぉ?」
従業員の休憩室と思しき部屋の棚に、綺麗に畳まれていた何着かの衣服。それを手に取って広げてみる。
小さめな事を覗けば、仕立ても生地も上等な男性の服だ。
「ぜぇーんぶ、殿方の服だしぃ。‥‥でも、変よねぇ。このお店、殿方は立ち入り禁止じゃなかったぁ?」
顎先に指を当てて、マリヤは考え込んだ。
「ん〜? もしかしてぇ」
その数時間後、「夢の館」の扉に凭れかかるようにして座り込む1人の旅人が、出勤してきた従業員の肩を借りて店内へと消えたのであった。
●銀髪従者の受難
「話だけ聞いているといかがわしそうなお店だけど」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)の報告を聞いていたネフティス・ネト・アメン(ea2834)が、苦笑しながら呟く。
「殆ど明るい時間しか営業していないし、料金も「ものすごーく高い」って感じじゃないのよねぇ」
「出入りしているのは、お客さんも従業員も若い娘のようです。ご近所の評判も悪くはないみたいですし」
頷いたアクテが、手にした包丁を翳す。情報収集で周囲の店を回った際、砥ぎ終わらなかったものを預かって来たらしい。鋭い刃を見つめる瞳は真剣そのものだ。
「でも、「ものすごーく高く」なくても、そこそこ出費よねぇ」
ふぅとわざとらしく息をついたのは、レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)だ。
「美味しいお酒や珍しいお酒を扱っているとか、カッコイイ店員さんがいるなら、少しぐらい出してもいいんだけど」
ちらりと意味ありげな視線を送られたサウザンプトン領主が、途端にそわそわし始めた。こんな展開になると、決まって続く言葉が‥‥
「勿論、必要経費は持たせて頂きます。いえ、ご心配なく。依頼料とは別に領主の私有財産からお支払い致しますから」
にっこりと微笑む銀髪従者に、領主は机に懐いた。この瞬間、彼のへそくりの消失が決定した。
「そんな些細なものよりも! もっと大切な事があります」
領主の頭を、ネティがそっと撫でる。そんな微笑ましい光景を横目に、真剣な顔をしたレジーナ・フォースター(ea2708)は銀髪従者、ヒューへと歩み寄った。
「ヒュー様、‥‥そんな危険地帯に冒険者とは言え、女性だけを行かせる‥‥なんて、お優しいヒュー様がおっしゃるはずないですわよね」
女性だけとは言え冒険者、の間違いだろ。
顔を机に伏せたまま、領主が心の中で呟く。声に出すなんて、そんな愚かな真似はしない。
「え、えーと」
案の定、ヒューも言葉に詰まっている。
「ないですわよね?」
レジーナは、そっとヒューの頬へと手を伸ばした。
「そ、そうですね。では、私も店の近辺で待機‥‥」
頬に伸びた手が、そのまま彼の首の後ろへと回り、銀の髪を纏める紐をするりと解いた。
「レ‥‥ジーナさん?」
「大丈夫。優しくするから‥‥」
のけぞり気味なヒューに、蠱惑的な笑みを浮かべて迫るレジーナ。彼女の頭の上ではお蝶ふじんが櫛とリボンとを手に持ち、仁王立ちしていた。
「きゃー! おもしろそう! あたしにもやらせてー!」
言うが早いか、レヴィがヒューの背後へとまわり、その体をがっちりと拘束する。もはや、ヒューには逃れる術はない。
間近に迫る白粉を含んだブラシに、彼は恐怖に顔を引き攣らせ、目を見開いた。
騒動を無視して、サクラ・キドウ(ea6159)は飲んでいた香草茶のカップを卓へと戻した。自然と漏れるのは深い溜息だ。この街に着いた日から質素な服に身を包み、アクテとは別に「夢の館」の情報収集をしていた彼女は、今日はふんわりとした愛らしいドレスを着ている。幾重にも重なった柔らかなドレスの裾からほっそりとした足が覗くのが気になるらしく、サクラは先ほどから何度も裾の位置を直していた。
「アクテさん、サクラさん。私、そろそろ時間ですから」
銀髪従者の受難を視界に入れぬようにしながら、シャロン・シェフィールド(ec4984)が席を立つ。
「あら、もうそんな時間ですか?」
薄い羊皮紙で包丁の研ぎ味を確認していたアクテが窓の外へと目を遣った。
「エレェナさんをお待たせするわけには参りませんし」
数日前から、マリヤが調べた情報を元に、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)が「夢の館」に潜入している。寄る辺ない身の上という設定上、仲間達とは頻繁に連絡を取り合う事が出来ないが、「客」としてならば接触は容易い。
「そうですね。私達もそろそろ参りましょうか、サクラさん」
こくりと頷いて、サクラも立ち上がる。
「では、打ち合わせ通りに」
彼女達はにこやかに笑みを交わし合った。
●夢の館
「エレ‥‥エーディク」
困惑したように、シャロンはエレェナの腕を引いた。話には聞いていたが、実際に目にすると動揺してしまう。
「左の隅のテーブル‥‥。この店の一番手、ジャスパーだ。本当の名をエマと言う」
「はい?」
どこかで聞いた事がある名‥‥どころではない。驚いて顔を上げたシャロンに、エレェナは肩を竦める事で答えた。
「そ、そうですか」
シャロンの笑みが、少し引き攣っているように見えるのは仕方がない事だ。ジャスパーがよく見えるテーブルへとシャロンを案内して、エレェナは店内を見回した。
打ち合わせ通りならば、もうじき仲間達もやってくる筈だ。特別な客を伴って。
「彼女は」
ジャスパーを見つめたまま、シャロンが呟く。
「彼女は、とても楽しそうに仕事に行くと‥‥アニーさんが」
「だろうね」
数日の間、店内で共に働いていたエレェナには何となく、エマの気持ちが分かるような気がした。
「この店に勤める彼女達の仕事は、客である娘さん達に一時の夢を与える事だ」
「それは‥‥」
そうかもしれませんが。続く言葉は、シャロンの口の中へと消えていく。
「うん。分かるよ。シャロンの言いたい事は。でも」
店内での会話は、両親への愚痴や、恋人や友達と喧嘩をしてしまった話など、他愛のないものばかりだ。店員達は、そんな話に耳を傾け、相槌を打ち、時には慰め、一緒に解決策を考える。
「‥‥ね?」
「‥‥そう‥‥ですね。これは‥‥アニーさんが‥‥想像しているようなもの‥‥でもなく‥‥。どちらかというと‥‥」
ぽつりぽつりと呟かれた言葉に、エレェナは魅惑的な笑みを浮かべて振り返った。
「これはこれはお嬢様。ようこそいらっしゃいました」
サクラの手に敬愛のキスを落とすと膝を折り、その背後で驚いた顔で固まっていた少女の手を取る。
「リトルレディ。夢の館へようこそ」
「アニー!?」
相手をしていた娘を放り出して駆け寄って来るジャスパーに、大人っぽい装いに慣れない化粧まで施したアニーの肩がびくりと震える。
「大丈夫です」
肩に手を置いたアクテが囁いた。「ジャスパー」の仮面を外し、姉の顔に戻ったエマを見て、アクテも確信したようだ。
「そうそう。大丈夫、怖くないわよ。だって、アニーちゃんのお姉さんが働いているお店じゃない」
すとん、と椅子に腰を下ろして、レヴィはぴんと指を立てた。
「というわけで、このお店で一番美味しいお酒をお願いねっ」
「レヴィ‥‥」
楽しむ気満々のレヴィに、ネティが苦笑する。
「だってー、「夢の館」を満喫出来る絶好の機会じゃない。あ、コースは「お任せ」で」
仕方がないとネティもテーブルにつく。
アクテに促されて、アニーもサクラの隣に座った。
「‥‥あの」
銀髪のおさげ娘が、遠慮がちに声を掛ける。
「皆さん、もしかして‥‥この店について予めご存じだったのでは?」
ぎくり。
不自然に動きを止めたり、目を逸らしたりしているのが何よりの証拠か。おさげ娘は、額を押さえて溜息をついた。
「や、やあねぇ! ちゃんと調べたんじゃない! あたしはテレスコープ使って観察したし」
「そ、そうよう! 常連の女の子達におススメの店員さんとかコースを聞いたし!」
ネティとレヴィのフォローは、おさげ娘の溜息をますます深くしただけであった。
「私達は‥‥依頼‥‥を受けて‥‥このお店‥‥を調べただけ‥‥だし」
サクラの援護に、おさげ娘が口を開きかけた所へ
「私の名前はエクセレント仮面」
その肩を抱くように手が伸びた。
「「「「「「「‥‥」」」」」」」
素っ頓狂な格好に仮面という出で立ちの人物の登場に、周囲が静まり返る。ご丁寧に、肩の上の小妖精も同じ格好をしていた。
「あの、レジーナさん」
「私の名前は、エクセレント仮面。この世の女性を‥‥!」
おさげ娘が肩に掛かる手を外したその時に、自称「エクセレント仮面」の後頭部めがけて何かが叩きつけられた。
「遊んでないで仕事するにゃっ!!」
ハリセンを肩に担いでふんぞり返る娘に、エレェナが隣のシャロンにそっと耳打ちする。
「あれが、店主のサクリャ」
「ねぇ、そんなことよりぃ、今は思いっきり楽しみましょ」
「そうですね。時間も限られている事ですし」
マリヤの提案にアクテが頷き、店主には見えない小動物系の娘と火花を飛ばし合うエクセレント仮面を放置して、冒険者ご一行様は夢の一時を心行くまで堪能した。
‥‥らしい。