出動! 王都少年警備隊!?

■ショートシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月05日〜09月10日

リプレイ公開日:2008年09月13日

●オープニング

 開け放した窓から、爽やかな風が吹き込んで来る。
 強い夏の陽射しに焼け付いた外と違って、ここには涼がある。
「それで、お兄さまが」
 楽しげに弾むルクレツィアの声。
 太陽を苦手とする従妹も、いつもより浮かれているようだ。何しろ、3人揃っての茶会は随分と久しぶりだから。
 満足そうに微笑んで、サウザンプトン領主アレクシス・ガーディナーはテーブルの上のカップに手を伸ばした。中を満たす液体は、冷たく冷やした香草茶。清涼感のある香りを楽しみながら、彼は従妹と従者の他愛のない会話に耳を傾ける。
「ツィア様がキャメロットに移られたと伺った時には、どうなる事かと心配いたしましたが、アレク様よりも立派にお過ごしのようですね。あ、香草茶のおかわりはいかがですか」
 微笑んだヒューに、ルクレツィアは嬉しそうに頷いた。
 にゃあにゃあとヒューにじゃれつく様は、母猫に甘える子猫のようで、見ていて微笑ましい。
 微笑ましいのだが。
「‥‥‥‥俺は、失踪なんかしなかったぞ。多分」
 ぶすくれるアレクに、主思いのソニアが「その通りです」と相槌を打つ。
「夜通しの賭け事やら何やらで何日もお戻りにならない事はございましたが、必ずヒュー様が見つけ出して下さったと母が申しておりました!」
 援護にもならない。
 ずぶずぶと長椅子に沈み込んだアレクの前に、新しい茶を煎れたカップが差し出された。
「はい、お兄さま。新しいお茶ですわ。‥‥って、どうなさいましたの?」
 小さく首を傾げるルクレツィアに首を振って、アレクはカップを受け取る。こんな馬鹿馬鹿しい遣り取りを出来る事が本当はとても幸せなのだと、彼は知っていた。
「いや、何でもない」
 笑って、アレクはカップに口をつけた。
 その時に。
「てぇへんだてぇへんだっ! 親分、てぇへんだっ!」
 げほごほっ。
 噎せ返るアレクを気にも留めず、突然に乱入して来た少年がルクレツィアの元へと駆け寄る。慌てた様子からして只事ではなさそうだ。だが、ルクレツィアはうふふと微笑みを浮かべて平然としている。
「まあ。ジミーってばいつもそればかりね」
「これが落ち着いていられるもんか! チャールズ2世が裏の湖に落ちちまったんだよ!」
「何!?」
 屋敷の裏手には小さな湖がある。水は綺麗に澄んでいるが、そこそこに深い。そこに落ちたとなると確かに大事だ。咳き込みつつも、アレクは席を立つ。ヒューも表情を険しくして茶器をテーブルに戻し、立ち上がる。
「あらあら、お兄さまもヒューも落ち着いてくださいな」
「いや、事態は一刻を争う。ツィア、お前はここにいろ。行くぞ、ヒュー」
 早足にドアへと近づいたアレクに、そこに控えていたヤコブが申し訳なさそうに真実を告げる。
「‥‥旦那様、チャールズ2世は犬です」
 把手に手を掛けたまま、アレクは固まった。
 犬。
「恐らくは、水を飲みにでも行って、落ちたのでしょう」
 誰だ、紛らわしい名前をつけたのは。
「「‥‥‥‥」」
 尋ねなくても分かる気がした。
「違わい! チャールズ2世はそんな間抜けじゃないやい! 妙ちくりんな物を追っかけてる途中で、湖に落っこちたんだ!」
 顔を真っ赤にして怒り出すジミーを、ルクレツィアが窘める。
「駄目よ、ジミー。さあ、お茶でも飲んで」
 途端に、地団駄を踏んで憤っていた少年は大人しくなった。言われるがままにテーブルに座り、ルクレツィアから渡される茶器を畏まって受け取っている。
 むかっと、心の中に走る感情。
「ところで、お前は誰なんだ? うちのルクレツィアとどーゆー関係だ」
「‥‥アレク様」
 大人げない主の言葉に、ヒューは苦笑する。この調子では年端もいかぬ子供と本気で喧嘩を始めかねないと、仲裁に入ったヒューは、得意げに胸を張った少年の言葉に硬直する事となった。
「おいらはルクレツィア親分の一の子分だ!」
「「‥‥‥‥」」
 点目のまま、凍り付いたように動かなくなった主達に、こっそりソニアが耳打ちした。
「あの子が、先日の騒動の折、ルクレツィア様と一緒に行動をしていた少年なのです」
「ああ、それより親分、大変だっ! 林の中に変なのがいたんだっ! 最初は土の塊かと思ったら、チャールズ2世が吠えたら逃げてった!」
 少年から異変の報告を受けたルクレツィアの表情がみるみるうちに曇った。頬に手を当て、憂いを帯びた息を漏らす。
「それは‥‥もしかすると恐ろしいモンスターかもしれません」
「何だって!?」
 仰天した少年が、椅子から飛び上がった。勢いで、テーブルの上の茶器がガチャガチャと耳障りな音を立てたが、彼の耳には届かなかったようだ。
「親分、心当たりがあるのか!?」
「いいえ。ですが、異界から、このキャメロットを侵略しようとやって来たのかもしれないと‥‥」
 不安そうに呟くルクレツィアに、少年は悲壮なまでの決意を瞳に浮かべ、ぐっと拳を握り締めた。
「親分、王都少年警備隊の出動だなっ!」
「待て待て待てーいっ!」
 ぼーっと、呆けたままで目の前で交わされる会話を聞いていたアレクだったが、聞き捨てならない単語が飛び出すに当たって我に返った。
「何だ!? その王都少年警備隊というのは!」
 王都というのは、このイギリスの中心、アーサー王がおわすキャメロットの事を指すのだろうという事は分かる。問題は、その後だ。このキャメロットで、何ですと? 
 しかし、青ざめた従兄の動揺を微塵も察していない少女は、ころころと笑いながら事情を説明してくれた。
「その名の通りですわ、お兄様。キャメロットを不埒な者の手から守る少年達の集まりですの。もちろん、わたくしが「たいちょう」ですのよ」
「いや、その‥‥」
 お前は少年じゃないからーとか、もう、どこからツッコんだらいいのか分からない。
 るるると涙目になる従兄を不思議そうに見て、ルクレツィアは首を傾げた。
「あら、どうなさいましたの? ‥‥お兄様も入りたい?」
「親分、おいらはエミリーとハリーにしゅつどうよーせーしてくる!」
 言い残して部屋から飛び出していく使命感に燃えた少年を見送って、アレクはがっくりと肩を落とした。
「‥‥エミリーとハリー‥‥?」
「エミリーは、ジミーのお隣に住んでいる女の子ですわ。最近、ようやくおねしょをしなくなったので、警備隊の一員にして差し上げましたの。ハリーは、1つ向こうの通りにある金物屋さんの子ですの。ハリーは頭がよくて‥‥、驚かないでくださいね? まだ5つなのに字が読めますのよ!」
 ぐらり、アレクの体が揺れた。
「‥‥‥‥‥ヒュー‥‥‥‥‥」
 そのまま隣のヒューへと寄り掛かると、ぽそりと呟く。
 察しのよい従者には、それだけで十分だった。
「‥‥早急に、手配して参ります」
 心労の絶えない保護者達を余所に、ルクレツィアは蜂蜜色の髪を手早くまとめ、うきうきとした様子で腕まくりなんぞしている。昼間のお出かけには欠かせない外套は、最近、しつらえたばかりの夏仕様。
「それではお兄様、わたくし、「たいちょう」の務めを果たして参りますわね」

●今回の参加者

 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb5357 ラルフィリア・ラドリィ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0212 テティニス・ネト・アメン(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ec4936 ファティナ・アガルティア(24歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●異変
 犬達が狂ったように吠えている。
 なにかを追っているのか、吠える声が遠く、近く響いて距離感が掴めない。
 ルクレツィアを背に庇い、身構えた伏見鎮葉(ec5421)は素早く周囲の気配を探った。
 いつでも抜けるように刀の柄に手をかける。
「わあっ!」
 聞こえた悲鳴は誰のものであったのか。
 弾かれたようにツィアが顔をあげる。
「嬢! 私から離れちゃ駄目!」
 揺れた繁みに気を取られた僅かな隙に、彼女は鎮葉の手をすり抜けて駆け出した。
 声のした方へーーー
 太陽の光を受けて鏡面のように輝く泉のほとりへとーーー

●品定め
「‥‥ふぅん。あなたが「アレク」なのね?」
 サウザンプトン領主は、じぃと自分を見つめて来る視線に気圧されたように後退った。初対面のはずだが、相手は自分の事を知っている口ぶりだ。
 値踏みするように頭の天辺から足の先まで眺めると、テティニス・ネト・アメン(ec0212)と名乗った女性は、ふぅと溜息を落とす。さらには、額に手を当てて軽く頭を振ってみたり。
ーな、なんか馬鹿にされてないか?
「‥‥大切な妹を任せるには頼りないのだけれど‥‥」
 ひくとアレクが頬を引き攣らせたその時に、ぼそりと漏らされた呟き。
「テティ姉様!」
 眉を寄せたアレクに、ネフティス・ネト・アメン(ea2834)が、慌てた様子で駆け寄ってテティの腕を引く。
「なんだ? ネティの知り合いか?」
「‥‥さらに減点」
「姉様〜っ!」
 自己紹介を聞いていなかったのかと、テティの眉間に皺が寄る。大事な妹の未来を見極めるのは自分の役目と、贔屓目、妥協一切ナシに評価点をつけているらしい。
 そんな微笑ましい3人の様子を眺めていた銀髪の従者の脳裏に、不意に浮かぶ光景。
ー何なの、この塩辛いスープは。こんなのを毎日食べていたら、体を壊すわよ、ネティ
ーあら、姉様、この人にそんな配慮を求めても無駄よ。お料理とかお洗濯とかお掃除とか、ちっとも上達しないんですもの
ーはいはい、悪うございましたね!
「‥‥‥‥」
 思わずほろりとして、彼は主の肩を叩いた。
「大丈夫ですよ、今から練習しておけば」
「何の話だ?」
 わけがわからんとぼやきながら、アレクは元気いっぱいの子供達の後を追いかけて駆け出そうとしたルクレツィアの襟首を掴む。慌ててフードを引っ張るのは、王都少年警備隊の顧問に立候補したリデト・ユリースト(ea5913)だ。
「ツィア、外に出るなら、ちゃんと被らなければ駄目であるよ」
 め、と叱られて、ツィアは小さく首を竦めた。
「それに」と、リデトは続ける。
「敵の正体が分かっていないのであるからして、備えも必要なのである!」
 じゃじゃん。
 リデトが指し示したのは、数本の何の変哲もない木の棒だ。
 だが、これが今の状況下では防御の切り札となる。
「敵は土の塊に似ているのであるから、これで探って注意して行くであるよ!」
 使い方を説明するリデトに、ツィアは素直に感嘆の声を上げた。
「まああ! 凄いですわ、リデト!」
「不用心に近づいては危ないのである。それと、忘れてはならないのが、任務の終わりのかけ声なのである」
 はて?
 首を傾げたツィアに、警備隊顧問は胸を張って宣言した。
「任務は「えいえいおー」でシメるのが一般的なのである!」
 それが、どこの一般論なのかは定かではない。

●スキル習得
 びえええええっ!
 突如として響き渡った大きな泣き声に、ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)は、その青い瞳を更に大きく見開いた。
 ぱちぱちと瞬きを数回。
 ラルフィリアは、つい一瞬前に何が起きたのかを探る為に記憶を手繰る。
 そう。確か、子供達に警備隊の「任務」を説明しようとしたのだ。「警備隊は守るのがお仕事」だと。だが、一言発する度に、子供達から素朴な疑問やら混ぜ返しやらがあって、「守る」の定義を納得させた頃には、さすがのラルフィリアも疲れ果てていた。けれども、それは本題に入る前の予備知識でしかない。とりあえず、次は「警備隊」と「守る」を結びつけねばならない。
 ぐ、とラルフィリアは小さく拳を握った。
 頑張るーー。
 彼女が気合いを入れるのと、エミリーが泣き出したのとはどちらが早かったのか。
 ほんの一瞬の半分ぐらいの差だったかもしれない。
ー‥‥なにが‥‥原因‥‥?
 そうは見えなくても焦りつつ、ラルフィリアは膝を屈めた。
 エミリーの目線に合わせ、彼女の涙の原因を突き止めようと思ったのだ。
 が。
「ハリーのぶぅぁぁぁぁか!」
「‥‥‥‥‥」
 再び固まった14歳。人年齢44歳。
 真っ赤な泣き顔のままで、エミリーが突然にハリーを罵倒し始めた。
 激しく降る大粒の雨のごとく、その口から出るわ出るわ、どこでそんな言葉を覚えて来たのだと問いたくなるような悪口雑言の数々。「守る」の意味も知らなかったのに、どうして悪い言葉は知っているのか。
 ラルフィリアは額を押さえた。
 子供の相手をするのがこんなに大変だとは思いもしなかった。
「‥‥‥‥ごめんなさい」
 ついつい、漏らしてしまった言葉は誰に対してのものか。
 正真正銘の子供達ーー自分よりも下の子供達のお守りをする事で、彼女自身、何か感じる事があったのかもしれない。
 長く息を吐き出すと、ラルフィリアは駄々をこねて暴れるエミリーの手と、そんなエミリーをからかうハリーの手を取って歩き出した。
「‥‥警備隊の‥‥お仕事なの。行くの」
 とりあえず、自分がついていれば大丈夫だろう。例え、彼らが「任務」を理解していなくても。
 決断したラルフィリアの行動は素早かった。
「お仕事、終わったら満腹豆、あげるの」
 暴れる子供達の動きがぴたりと止まる。
 その現金さに呆れつつも、ラルフィリアははっきりとした手応えを感じていた。子供達の制御に、食べ物は有効であると心のメモにしっかりと書き込む。
「欲しい?」
 こくこくと頷くエミリーとハリー。
 冒険者には目新しい品というわけではないが、子供達には未知の食べ物だ。目を輝かせる幼子達に微笑んでみせる。
「じゃあ、お仕事‥‥。何か見つかったら‥‥皆にじょーほー伝えるの」
 こくこくこくこく。
 激しく振られる子供達の頭。
「難しいの。できる?」
 うんうん!
 情報とは何かを分かっているのかどうかは不安であったが、ここで立ち往生するよりは遙かにましである。
 俄然張り切り出した子供達に手を引かれて歩き出す。
 ラルフィリアは、子供の操縦方法を習得した。
 がしかし。
「へん! 報酬になんて釣られないぜ! おいらには警備隊のほこりがあるんだ! ね、親分!」
 食べ物で懐柔できる年齢には制限がある事も、忘れてはならないのであった。

●想定外
「元気がいいのは結構な事ね」
 苦笑して肩を竦めた鎮葉に、テティも小さく笑みを返す。
「本当に。ネティの小さい頃を思い出すわね」
「‥‥その世話をしている貴女の姿も、想像がつくわ」
 感慨深げに子供達を見つめているテティから視線を外して、鎮葉は地面へと意識を戻した。リデトの話によると、「変なの」は土塊に擬態したモンスターの可能性が高いそうだ。
 その土塊が、ツィアを誘い出す罠であるとも限らない。
 子供達が夢中になっている「任務」とは別の事に、鎮葉は考えを巡らせた。
 木々が伸ばした枝が陰を作る林の中では、太陽を苦手とするモンスターも活動が可能かもしれない。
「考え過ぎかしら? でも、用心に越した事はないわよね」
 万が一の時には、屋敷に逃げ込めばいい。ツィアや子供達を逃がす時間を稼ぐ為に、自分達はどれだけ持ち堪えればよいのか。頭の中で組み立てた状況を幾通りか検証する。
「ジミー! 駄目よ、そんなに離れちゃ!」
 1人で先に行ったジミーを追いかけて、ネティが駆け出した。
 それを横目で追いながら、鎮葉は一緒になって走りだそうとしたツィアの手を掴んだ。
「嬢は駄目」
 私と一緒よ、と軽く片目を瞑れば、ツィアは不満そうに唇を尖らせた。
 幼子と手を繋いだラルフィリアも釣られて急ぎ足になり、鎮葉とツィアから離れていく。
「たいいんが勝手に飛び出さないようにするのが「たいちょう」の役目だとネティが言っておりましたわ」
「あら、その「たいちょう」が飛び出さないようにするのが私達の役目なのよ? 知らなかった?」
 フードの下で、ツィアが頬を膨らませるのを笑って見遣った鎮葉は、林の中の異常を感知して身構えた。
 狂ったように吠える犬の声が、遠く、近くに響く。
 何が起きたのかを確認するより先に、後方の繁みが不自然に揺れた事に気付いた。
 そしてーー

●急転
 一瞬の出来事であった。
 蠢く土塊を発見して勇んだジミーに浴びせられた酸。
 間一髪で彼を引き戻したネティ。
 土塊は、逃げた獲物から、ようやく彼らに追いついたラルフィリアと子供達へと目標を移し。
 両手が塞がったままで、スクロールも魔法も使えないラルフィリアが、それでも子供達を庇うように前に出て。
 そんな彼女達を守る為に、リデトはホーリーフィールドを展開すべく呪を唱え。
 少し遅れて、土塊と子供達の間にツィアが割って入った。
「な‥‥っ!」
 強力な酸を浴びた体が、力なく崩れ落ちる。
 突然の出来事に、その場にいた誰もが動きを止めた。
 土塊が吐き出した酸からツィアを守るように飛び出して来たのは、青白い肌の男。酸を浴び、倒れた男の体は降り注ぐ太陽の光に焼け爛れ、もがき苦しみ、やがて動かなくなった。
「どうして‥‥?」
 咄嗟に、自分の体で子供達の視界を遮ったラルフィリアが呆然と呟く。ジミーの体を抱え込んだネティと、彼女らを背に庇っていたテティとが互いを見交わす。
 3匹の犬達の吠える声が近づいてくる。
 その声が耳を素通りしていくのを感じながら、鎮葉は獲物を捕らえようと伸ばされる土色の塊に刀を突き立てた。
 ぷるんとした手応えは、どこか現実味がなかった。