【黙示録】北海掃討戦
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月01日〜03月11日
リプレイ公開日:2009年03月09日
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●オープニング
●送りつけられた招待状
『そろそろ潮時か‥‥』
かつて『船長』と呼ばれた人物はそう言って楽しげに笑った。
『本来なら、もう少し奴らを苦しめ、悩ませたかったのだが‥‥あやつのせいで‥‥』
愚かな部下の失態に小さく苦笑し、だがまあいい、と余裕の笑みを浮かべると彼は振り返った。
足元に跪くデビル達は並ではない力をその身から漂わせている。
さらにその後方には、無数のインプやグレムリンなど下級のデビル達も集う。
『こちらの用意は整った。招待客を招くとしよう。いよいよだ‥‥。楽しみだ。なあ? 『船長』よ』
『彼』は氷柱とその中の人物に笑いかけると振り返り、デビル達に告げた。
『いよいよ、時が来た! 目的のものを我らの元へ!』
地響きのような唸りは空間を支配し‥‥海を、時をうねらせる。
それは‥‥メルドンを超え‥‥やがてキャメロットへと‥‥。
王城に集った円卓の騎士達は差し出された一枚の羊皮紙に息を呑んだ。
「これは‥‥まさか‥‥パーシ殿」
トリスタンの言葉の続きを理解し、パーシは頷く。
『円卓の騎士 パーシ・ヴァル
汝が家族、オレルドを返して欲しくば、指定の時、指定の場所に来るべし。
さもなくばオレルドの命は無い‥‥。海の王』
それは、血で書かれた招待状。いや‥‥挑戦状であった。
「昨夜王城に接近したデビルを倒した。そいつが持っていたものだ。差出人はおそらく‥‥」
「海の王‥‥リヴァイアサン‥‥」
静かに告げたライオネルの言葉にパーシは無言で頷く。
指定の場所はメルドンの先、数十kmの海のど真ん中である。
そして海の調査を続けていたライオネルの元にはその場所を目指すかのようにデビルが集まっている、との報告も寄せられていた。
「間違いなく、これは罠だ。パーシ卿をおびき寄せる為の」
「おそらく」
頷いたパーシは思い返すように目を閉じる。
北海で起きた数々の事件。その結果を‥‥
「冒険者の調査と証言により、オレルド船長がデビルである、という疑義は消えた。貴公への追求もじき止むと思うが‥‥危険だな」
トリスタンの言葉にああ、とパーシは頷き腕を組む。
「船長がデビルに捕らえられ利用されているという事実に変わりはない。彼の命と多くの人々の命。秤にかけるまでも無いと思っていたのだが」
「パーシ卿!」
ライオネルの責めにも似た呼びかけをスッと、ボールスは手で遮る。
「思っていた。それは過去形です。‥‥そうですね」
そして、小さな微笑を浮かべ、真っ直ぐに彼はパーシを見た。
その目にパーシもまた真っ直ぐな思いと眼差しで答える。決意の込められた微笑と共に‥‥。
「ああ。ある意味、これはチャンスといえる。俺に来いと言うのであればその場に必ず『奴』が現れる筈だ。その時を見逃さずリヴァイアサンを討つ!」
おお! 手を握り締め意気上がるライオネル。
トリスタン、ボールスの口元も綻んでいる。
「この国から海の脅威を取り除くチャンスだな」
騎士としてこの国に剣を捧げた騎士に怯え惑いがあろう筈もないのだから。
「元より、一人で来いとは書いていないし指定の場所に辿り着く為には船が必要だ。力を貸してはもらえないだろうか?」
円卓の騎士達の返事は一つであった。
そうして冒険者ギルドに依頼が出される。
先の幽霊船団との戦いとは比較にならない、イギリス王国とデビルとの大海戦が今、始まろうとしていた‥‥。
●掃討戦
「北海に集うデビルを討つ」
受付嬢の物問いたげな視線に、トリスタンは壁に貼り出された羊皮紙に目を遣った。そこに並ぶのは、円卓に名を連ねる者達からの依頼だろう。自然と口元が綻んでいく。
「依頼内容は、北海沖に集結するデビルを一掃する、でいいんですよね。‥‥デビルの数はおおよその数は分かりますか‥‥って、そうですよね、分かりませんよねぇ〜あはは‥‥。デビルの数、不明っと」
一瞥されて、冷や汗をかきつつ受付嬢は依頼書に情報を書き足した。
なんだか今日のトリスタンはいつもと違う。
それは周囲の冒険者達も感じ取っているらしかった。
「北海沖では小回りのきく船に分乗、もしくは飛行可能なペットに騎乗し、臨機応変に対応のこと‥‥ですか」
報告によれば、集まっているのはデビルだけではない。アンデッドや他のモンスターも多い。その上、数も分からなければ、戦闘の状況予測も難しい。確かに臨機応変な対応が求められるだろう。
苦笑して、受付嬢はぺったんと受理の印を押した。
「船は用意する。それから、矢やポーション等の消耗品もこちらで揃えておく」
船ってアレ?
何気ない問いかけに、トリスタンは黙り込んだ。何やら複雑そうな顔をしている‥‥と思ったのは、受付嬢だけではなかったようだ。
「そういや、金だけ出して現物を見た事がなかったんだよな‥‥トリスタン」
誰かがぽつりと呟いた。
「ああ、そっかあ。とうとう見ちゃったんだあ」
トリストラム家の家令が卒倒しかけた船。
豪華に、艶を消した金で上品に飾り付けられた船は、やたらと目立つ。「円卓の騎士」を囮にする目的を立派に果たした後も、再利用されているわけだが‥‥。
「ま、いいんじゃない? 「麗しのトリスタン」号」
トリスタンの肩に、何か重いものが落ちて来たのが見えたーーー。
後日、冒険者はそう語った。
「見た目はともかく、それなりにしっかりとした造りになっている。それ故、目標海域では掃討戦の旗艦として‥‥」
「トリスタン、眉間に皺が寄ってるぞ」
不意にかけられた声に、その場にいた者達が一斉に振り返る。どこか面白げな表情を浮かべ、ギルドの入り口に佇むのは、気の強さが面差しに滲む赤い髪の少年だった。
「モードレッド‥‥」
「お前がどうしてもと言うから、僕は船に残ってやるんだからな。そういう不景気な面をするな」
つかつかと歩み寄り、モードレッドと呼ばれた少年は不満げに口元を歪める。
「本当なら、僕もデビルに切り込みたかったんだ。なのに、お前らときたら」
意志の強そうな瞳を向けられて、トリスタンは柔らかく苦笑した。
「地上とは違う、不安定な場で戦うのだ。いざという時に戻る船が無ければ、皆、不安に思うだろう」
ふんと鼻を鳴らして、少年は腕を組む。
「まあいい。そういう事にしておいてやる。だが、僕は僕で好きにやらせて貰うからな」
そうして、彼は呆気に取られる冒険者に不敵な笑みを向けたのであった。
●リプレイ本文
●嵐の前
「あー‥‥」
額に指を当てて、オイル・ツァーン(ea0018)は仲間達に告げた。
「そろそろ予定の海域に到達する。到着次第、クロウ、エスリン、ベアータ、そしてアヴァロンは空から、光、ガブリエル、沙雪華と私、それからトリスタンは小船に乗り換えて‥‥」
ふう、と息を吐く。
本来ならば、これらの事柄は指揮を執るトリスタンが行うべきだ。だが。
「「「「「「「「‥‥‥‥はあ」」」」」」」」
全員の口から溜息が零れた。
「あっ、そ、そのトリスタン卿はこれからの事を案じて‥‥」
「いや、庇わなくていいから」
慌てた様子で援護を始めたエスリン・マッカレル(ea9669)の肩を叩いて、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)が頭を振る。
指揮を執るべきトリスタンは、彼らから少し離れた船の最後尾で海を眺めていた。纏った空気がどんよりと重いように感じるのは、クロウの目の錯覚でも何でもないだろう。
「トリス様、どうなさったのかしら。どこかお加減でも‥‥?」
頬に手を当てて、御法川沙雪華(eb3387)がトリスタンの身を案じる。
『『『『『トドメをさしたのは誰だっ!?』』』』』
無邪気に沙雪華に同意を示したガブリエル・シヴァレイド(eb0379)と天然な沖田光(ea0029)以外が心の中で叫ぶ。が、当然ながら本人には聞こえない。
「困ったものだ」
呟いたオイルに、アヴァロン・アダマンタイト(eb8221)も苦笑するしかない。
「誉れ高き円卓の騎士に会うのを楽しみにしていたのだがな」
「円卓の騎士も人間という事だ。それに、あれは多分‥‥」
同船しているモードレッドに対しては、いつもと変わらぬ様子だった。後輩や部下の前では見せない姿を晒す。それだけ、トリスタンが冒険者という仲間を信頼しているという証であり、また‥‥。
「? オイル殿?」
しばし黙り込んだオイルに声をかけたアヴァロンは一歩後退った。
「甘えるのもいいが、時と場合を選んで貰わねばな」
邪微笑を浮かべたオイルの奇妙な迫力に、アヴァロンはただ頷くのみであった。
●空中戦
「行くよ、リンドブルム」
ベアータ・レジーネス(eb1422)の声に応えて、ウィングドラゴンの咆哮が響き渡る。その雄叫びに恐れをなしたのか、十重二十重に船を取り囲むデビルが動きを止めた。
翼が巻き起こす風が波を起こさぬよう慎重に飛び立つと、ベアータは上空から他の船の位置を確認して魚の干物を海へと投げ入れる。強い匂いを放つそれを追ったデビルのものか、海原に無数の波が立つ。
見れば、仲間達も次々と船から飛び立っている。小船への乗り換えも完了したようだ。
「なら、もう遠慮はいらないですね」
デビルを煽りながら低空から一気に駆け上がる。
油断すればリンドブルムから剥ぎ落とされそうになるのを堪えながら、ベアータは呪を唱えた。手綱を持つ不自由な手で印を結び、上昇が止まると同時に術を放つ。彼らを追って来ていたデビルの一群が、突然の暴風に吹き飛ばされた。
「まだまだ、だよ」
もっと数を引きつけなくては。
ベアータの心を読み取ったのか、リンドブルムも一際大きく翼を羽ばたかせて垂直に降下を始める。ドラゴンの急な動きに反応出来なかったデビルを跳ね飛ばし、水面ぎりぎりで首を上げる。攻撃の好機とみたデビル達が襲い掛かって来るのを躱し、追いつけるぎりぎりの速度で旋回すると、再び上空を目指す。
デビル達はまだ、リンドブルムの翼にーーベアータの作った見えない檻の中に囲い込まれた事に気付いてはいなかった。
「集まって来たな」
クロウの言葉に頷きを返して、エスリンは破魔弓を強く握り締めた。小船は波の影響を受けやすい。2人、3人の小船は大海に揺れる葉のようだ。何とも心許ない。
「だからこそ、我々がお守りする。必ずっ!」
ヒポグリフのティターニアに飛行を任せ、エスリンは弓を構えた。先制とばかりにつがえた2矢でデビルを射抜く。
「ふん。のこのこ出てきやがって‥‥」
隣を飛ぶペガサスの背から聞こえる言葉に、ぎょっとなる。
「クロウ殿?」
おそるおそる視線を向けると、先ほどまで爽やか好青年であったクロウが雑に髪を乱しながら、何やらお下品にデビルを罵っていた。
「‥‥え」
硬直したエスリンの様子も気付かぬように、嘲りの笑みを浮かべて弓を構えるクロウ。
ーはっ!? そういえば聞いた事がある。常には抑え込まれている心が何かの折に表に出て、まるで違う人物のようになる事があると‥‥。ま、まさか、これは隠されたクロウ殿の心がっ!?
「デビルどもが。地上に手前らの居場所なんか無いって事を思い知らせてやるぜっ!」
叫び、雨霰と矢を射かけるクロウの指に赤い指輪が嵌っている事を知らぬエスリンは、とんでもない秘密に動揺した。弦を引く指が震えるのを叱咤し、集中力を高め直して襲い来るデビルの急所を違えず射抜く。
それでも、どこか動きがぎくしゃくとぎこちなくなるのは避けられない。
「一体、どうしたのいうのだ? エスリン殿は」
船の護衛についていたアヴァロンが、怪訝そうに上を見上げながら首を傾げる。
「さあ。でも、大丈夫ですよ。エスリンさんはしっかりした方ですし」
それよりも、と光は表情を引き締めた。
小船は船から離れ、ベアータが誘き寄せたデビルの群れの真ん中にいた。大きく揺れるのは、海の中にもデビルが集まっているからだろう。
「燃え上がれ、僕の精霊力よ!」
群がるデビルに向けて火の玉を放つと、光は空中のアヴァロンと視線を交わす。
グリフォンの手綱を放し、手にした槍を一閃させて、アヴァロンは朗々たる声でデビルへと名乗りを上げた。
「我が名はアヴァロン! この身は決して破れぬ盾なり! 貴様らの企み、今日この場で潰えると知れ!」
群れている中に、彼の言葉を理解する程に知能のあるデビルは見当たらない。けれど、それが自分達への宣戦布告である事を感じ取ったのだろう。デビル達の叫びが大きくなった。
耳障りな叫びに、アヴァロンは不敵な笑みを口元に浮かべ、膝でアウルムへと合図を送る。
デビルへと突進していくグリフォン、アウルム。
「私とお前は一連託生。お前が落ちれば私も水の底だ。アウルム、お前に命を預けるぞ!」
手当たり次第に敵を薙ぎ払うアヴァロンの傍らでは、炎を纏った光がデビルを落としていく。
「お前達がどれだけ集まろうと、僕達は負けない! 人々の幸せは、この手で守るんだ!」
援護するように走るのは、トリスタンが放つホーリーだ。剣と魔法とで巧みにデビルの数を減らして行く彼の小船に、光は一旦戻った。
「トリスタン卿、剣に炎の力を!」
意図する所を察し、トリスタンは群れて襲い掛かって来た数匹をまとめて斬り捨て、光へと剣を投げる。
呪を唱えながら細身の剣に指を走らせ、光は船底を蹴った。頭上に迫るデビルの首を一撃のもとに切り落とし、そのまま剣を落とす。炎の力を受けた剣がトリスタンの手の中に戻るのを確認して、再び呪を唱えた。
身を包む炎にも似た感情の昂ぶりを感じながら。
●うねる海
デビルが間近に迫るのを確認すると、オイルは茶水晶を手に静かに目を閉じた。
「オイル様、参ります!」
沙雪華の言葉と同時に、黒い帯がデビルへと伸びる。近づくデビルが弾き飛ばされて、オイルの手の上の茶水晶が砕け散った。
それが始まりの合図。
数の不利を補うには、効率よく敵を屠らなければならない。
「き‥‥きりがないなの‥‥」
ポーションやソルフの実で回復しても、疲れは蓄積され、疲労は気力を奪っていく。
「けど、ここで退くわけにはいかないなの!」
肩で息をしながらも、ガブリエルは鋭い爪を振り上げて迫るデビルを凍りづけにした。
彼らがここに引きつけているデビルがパーシ・ヴァル達の元へ向かえば、混戦は必至。ただでさえ大変なものと対峙している彼らに、余計な負担をかけるわけにはいかない。
「ぜぇっったいに近づけないもんね〜!」
ぶんと腕を振り回して、ぺちんと頬を叩く。
「よぉし!」
気合いを入れ直して、ガブリエルはスクロールを広げた。
「お空の果てまで飛んでいっちゃえなの〜っ!」
そんな事は無理だと分かってはいるけれども。
「皆様、お気をつけて!」
数匹のデビルを吹き飛ばしたガブリエルが切羽詰まった沙雪華の声に振り返る。次の瞬間、衝撃が小船を襲った。
「沙雪華っ!」
海に落ちかけた沙雪華を抱え込み、オイルは咄嗟に船縁を掴む。降り注ぐ海水に視界が遮られ、ガブリエルの姿を見失って、オイルは舌打ちした。
「ガブリエル! 無事か!?」
激しく揺れる船は、いつ転覆してもおかしくはない。沙雪華の手が船縁に伸ばされたのを確認して、オイルは腕を上げた。豪雨のように叩きつける海水を腕で遮って視線を走らせる。
「ガブリエル! ガブリエル!?」
「だ‥‥大丈夫なの〜‥‥」
ふにゃあと猫にも似た声とひらひら揺れる小さな手の平に安堵したのも束の間、沙雪華が再び声を上げた。
「パーシ卿とボールス卿の船が!」
リヴァイアサンと対峙していたはずのパーシの船が大破し、乗船していた者達が海へと投げ出されている。
「私、行って来るなのっ!」
素早くウォーターウォークの呪を唱えたガブリエルが、船外へと飛び出していく。
「一体‥‥これはどういう事だ‥‥」
「王、が‥‥怒っている‥‥そうですわ」
華奢な指に嵌められた指輪をそっと押さえて、沙雪華が呟く。彼女が見つめているのは、海面に落ちて足掻くデビルの姿。
「デビルがそう言っているのか?」
「ええ。何が起きたのかを聞き出そうと思ったのですけれど」
沙雪華の話では、デビル達も恐慌状態にあるらしい。分かったのは「王」が「怒った」、その事だけだった。
●諦めぬ心
「パーシ! ボールス!」
彼らは、半ば放心していた。
無理もない。
リヴァイアサンの策略によって、目の前でライオネルを奪われてしまったのだから。
濡れた髪を掻き上げた。噛み締めた奥歯が、ぎりと鳴る。
周囲に集まっていたデビルは粗方駆逐出来た。
しかし、今のこの状況ではそれを喜ぶ事は出来ない。
大元を倒さぬ限り、また何度でも同じようにデビルは集まって来る。
「失礼します、トリスタン卿。これを預かって来たのですが‥‥」
肩に鷹を乗せたエスリンが差し出す羊皮紙に目を通して、トリスタンは笑んだ。荒れていた心が凪いで来るのが分かる。
「あの‥‥?」
心配そうに見上げるエスリンに何でもないと首を振る。
「修理を‥‥するか」
「海の王」との戦いに船は必須。ライオネルを取り戻す為にも、使える船は一隻でも多い方がいい。
本当はそのまま廃船にするつもりだったのだが。
苦笑しつつ、トリスタンはところどころ濡れて字が滲んだ手紙を懐へとしまい込んだのだった。