【正義のお嬢様】静寂の戦い
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月17日〜07月22日
リプレイ公開日:2004年07月26日
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●オープニング
上品な物腰の老人が、ギルドの受け付けに金の入った革袋を置いた。
「これで、お願い申し上げます」
丁寧な口調。
生きてきた歳月が刻まれた穏やかな容貌からも、緩慢な仕草も、どこか育ちの良さを感じさせる。
「しかし、厄介だな」
彼の依頼を受けた冒険者は、彼とは反対に難しい顔で考え込んだ。
「相手に気づかれぬようモンスターを退治し、守る‥‥か」
「皆様の腕を信じ、お頼み申し上げております。皆様ならば、出来ます」
目尻に刻まれた皺を深くして、老人は静かに断言した。
そこまで言われては「出来ない」等とは言えない。
「‥‥わかった」
息を吐き出して、冒険者は前髪を掻き上げた。
「俺は依頼を受ける。他に受ける奴はいるか?」
「今来たばかりなんだ。すまんが、どんな依頼か、最初から話してくれないか」
扉近くにいた冒険者の言葉に頷いて、老人は口を開く。
「そもそもの始まりは、わたくしめの主人の1人娘、御年15歳になられるヴィヴィアンお嬢様が噂話を耳にされた事でございました」
お嬢様、と語る老人の目は優しい。
彼にとっては孫娘のように愛おしい存在なのであろう。
「噂話? 何の?」
このキャメロットには、お隣の夫婦喧嘩から城におわすアーサー王と円卓の騎士の武勇伝まで多種多様、毎日語っても語り尽くせない程の「噂」がある。
それらは噂好きな者達の口から口へと伝わるうちに形を変えていく。時には真実に程遠い噂となって。
ヴィヴィアンお嬢様とやらが何の噂を聞いたのか。
尋ねた冒険者に、老人は僅かに表情を曇らせた。小さく祈りの言葉を呟いて、彼は「噂」を語り始める。
「それは、モンスターに支配された村の噂でございました。人々は、常にモンスターの監視下にあり、助けを求める事も出来ず、生命の危険にさらされて暮らしているとの事でした」
「ああ、聞いた事あるわ。閉鎖された村でしょ? でも、本当にモンスターがいるかどうか分からないのよね」
話を聞いていた女が隣にいた騎士に囁いた。
「外部の者との接触を極端に恐れていて、いつも怯えた素振りを見せる村だというのは本当らしいけど」
その程度の噂だけでは、冒険者達も動く事は出来ない。
ただ外部の者を嫌っているだけの村かもしれないのだから。
「噂は真実と、その村から逃げ出して来た男が申したのです。男は命からがら逃げて来たとかで、体中に深い傷を負っておりました」
冒険者達の間にざわめきが拡がる。
「その者の話をお聞きになったお嬢様は、村人を苦しめるモンスターは許しておけぬと討伐に向かわれたのです。わたくしめの口から申し上げるのも何ですが、お嬢様はお優しくて、困っている者を見過ごせない方なのでございます」
「討伐‥‥って、そのお嬢様はモンスターと戦えるのか!?」
ならば、依頼を受けた者達の負担も減るはずだ。期待を込めて尋ねた冒険者に、老人は一瞬だけ目を伏せると、小さな声で答えた。
「6つの精霊魔法と2つの神聖魔法、闘気魔法を使いこなし、武術は全ての流派を会得し‥‥」
「ほ‥‥本当に!?」
そんな事が出来る者が存在するのか!?
身を乗り出した冒険者達の声が聞こえていないかのように、老人は続ける。
「‥‥ていると、ご自身はおっしゃっておりますが、魔法のまの字も使えませんし、旦那様、奥方様から大切に育てられた方ゆえ、荒事の経験もございません」
「「‥‥‥‥」」
ギルドの中に白けた空気が流れた。
「ですが、自分は正義を行う者だから、いざと言う時に必ず魔法も武術も使えるのだとおっしゃっておりました」
何人かの冒険者が頭を抱え込む。
「そ‥‥それで、今、お嬢さんはどちらに?」
何とか平静を装った冒険者が尋ねると、老人は在らぬ方へと視線を向けた。
「今頃、その噂の村への旅の途上かと‥‥」
ぎゃあ!
声にならぬ悲鳴が上がる。
そんな世間知らずのお嬢様を野放し‥‥もとい、1人で旅に出すなんて無茶が過ぎる。慌てた冒険者達に、老人は焦りなど微塵も感じさせない笑顔を見せた。
「今年9歳になるわたくしめの孫のサフィーアを従者として従え、皆が寝静まった夜中に書き置きを残して出立されたのです。何という行動力! ‥‥ああ、将来が楽しみでございます」
「感心している場合か!! 今すぐにでも追いかけないと!」
相手が依頼主である事も忘れて、思わず叫ぶ者数名。
だが、老人は大丈夫と身振りで返した。
「サフィーアは無口ですが、年の割に聡い子ですから」
いくら聡い子でも、子供2人でモンスター退治の旅をさせて何が大丈夫なものか。
いきり立つ冒険者達に、今度は逆の在らぬ方向へと視線を投げた。
「アレはお嬢様の嗜好も知り尽くしておりますし、2日の行程に5日掛ける事など造作もございません」
つまりは、その少年がお嬢様の足止めをしているという事か。
体から力が抜けていく。
ずきずきと頭が痛む
しくしくと胃まで疼いて来る。
「ですが、行程の引き延ばしもそろそろ限界の頃。さて、皆様。ここからが依頼の本題でございます」
老人は背筋を伸ばして、冒険者達に向き直った。
「依頼の内容は2つ。1つは、お嬢様に気づかれぬよう、護衛について頂く事。もう1つは、誰にも知られずに、噂の村に赴き、モンスターを退治する事でございます」
脱力感に苛まれていた冒険者達は、のろのろと顔を上げた。
「さて、村のモンスターですが」
お嬢様の護衛依頼にまわった者へ同情の籠もった眼差しを向けていた冒険者達は、意識を老人の言葉へと戻して居住まいを正す。
「こちらは簡単。村人に気づかれる事なく村へと潜入し、誰にも知られずにモンスターを倒すだけなのですから」
あっさりと告げて、老人は3本の指を冒険者達へと突き付けた。
「モンスターは3体。凶悪な顔つきで頭に角を生やした者どもです。これが、村で一番大きな屋敷を乗っ取り、村人達に食事を作らせ酒を運ばせ、我が物顔でのさばっているとの事」
村は普通の集落らしい。夜陰に乗じて忍び込む事も可能だろう。
頭の中で素早く段取りを組み立てていた冒険者達に、老人は更なる情報を伝える。
「村人達を働かせているのは、豚の顔をした乱暴者で、これが何匹か交替で村を回っているそうです」
「‥‥質問。それはモンスターのうちに入らないのですかぁ?」
手を挙げた娘に、老人は目を細めて頷いた。
「そのような下っ端如き、皆様にとっては敵と言えないでしょう」
彼らは言葉に詰まった。そう言われては反論しにくい。
「大切なのは、誰にも知られずにモンスターが退治する事。それがお嬢様のお手柄として世に広まってくれれば言う事はありません」
依頼の内容を聞き終えた冒険者達は、1依頼終えたかのような疲労感を感じた。
「こんな事を言うのはアレだが‥‥、お嬢さんには少々現実というものを教えてやった方がいいんじゃないのか?」
至極もっともな言葉に、数人が同意を示して頷く。
だが、老人はとんでもないと首を振った。
「我が主家の将来を背負って立つお嬢様の人生には僅かな汚点も挫折も許されません! 常に! 輝きに満ちた、堂々たる人生を歩んで頂かねばなりません!」
それが依頼主の依頼であるなら、受けた以上はやり遂げねばならない。どんな依頼であろうとも、やり遂げてこそ、真の冒険者だ。
‥‥そう自分に言い聞かせて、彼らは席を立った。
●今回の参加者
ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
ea0945 神城 降魔(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
ea1182 葛城 伊織(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
ea2446 ニミュエ・ユーノ(24歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
●リプレイ本文
●裏方仕事
さて、と葛城伊織(ea1182)は執事に用意させた品々を手に、仲間達を見回した。
「小道具は揃っているわけだが、これを使うのは‥‥」
辺りは既に闇の中。
月明かりだけが唯一の灯りという状況下でも、仲間達が彼から顔を背けた様子ははっきりと見て取れた。
「‥‥これを使うのは‥‥」
近くにいたオイル・ツァーン(ea0018)の顔を覗き込んでみても結果は同じ。あからさまに逸らされた目に、伊織は満面に笑みを浮べたままで硬直した。ゆっくりと彼の思考が認めたくない現実を認識していく。
「俺か!? 俺が使うのかッ!?」
「静かに」
慌てて、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)が伊織の口を塞いだ。ここで騒いで村の中にいるモンスターに気付かれると厄介だ。
「村の様子はどんな感じだい?」
ちらりとオイルはヒースクリフを見た。語調から何かを尋ねられたと悟ったのであろう。オイルはすぅと腕を上げた。指先が示すのは、村に幾つか灯った火の揺らめき。
ゆらゆらと動いているそれに、オイルが言わんとする事を察して、ヒースクリフは頷く。
「あれが、オークだと思っていいわけだね」
目印をもっているとは好都合。ふむ、と炎が動く様を眺めて考え込んだヒースクリフの手の下で、伊織が藻掻く。ヒースクリフの大きな手は伊織の顔半分を覆ってしまうのに十分だ。呼吸が出来なくなった伊織の存在を思い出すと、ヒースクリフはごめんと手を離した。
心ここに在らずなヒースクリフに、伊織の背を擦っていたニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)が首を傾げる。
「何か気になる事でも?」
「ん? 少しね」
オークの動きが分かったとしても、村人は?
オーガは?
探りを入れられない分、懸念事項が増える。思考を巡らせたヒースクリフに、仲間達の視線が集中した。と、そこへ、
「やっぱり駄目だ」
ふいに聞えて来た故国語の呟きに、オイルは背後を振り返る。
「どうか‥‥したのか?」
オイルに向かって肩を竦め、ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)は足元を見た。明るいうちに、彼が採取して来た草花がそこに無造作に放り出されていた。
「草花の毒を使って痺れ粉が作れないかと思ったんだけど、無理だな」
神城降魔(ea0945)が2人の会話を伊織に語り、伊織がイギリスの言葉に直す。
「そんな事が出来るのですか!?」
驚いた様子を見せたニルナに、ヴァレスが苦笑した。
「道端に咲いている草や食用植物の中にも毒素を持つものは多い。根っこは食べるなとか、汁に触れるなとか、聞いた事はあるだろう? そういう毒を使えないかと思ったんだが‥‥」
食事に混ぜるならば、摩り下ろすなり何なり出来ただろう。だが、呼吸器官から吸い込むような微細な粉に精製するには足りないものが多すぎた。
時間も道具も知識も、だ。
「オーク達の食事に混ぜるというのはどうだ?」
伊織の提案を、降魔が伝える。だが、ヴァレスは首を振った。
「食料に近づくまでに倒せるさ。‥‥毒は諦めよう」
「では、オーク達の動きを止めるのは、この華麗なる乙女、ニミュエ・ユーノにお任せ下さいな。お小さいのに村を救おうという健気なお嬢様の為に、お力をお貸し致しましてよ!」
おーっほほほほほほほ。
高笑いと共に名乗りを上げたニミュエ・ユーノ(ea2446)の口を、今度は伊織が塞ぐ。
「ひゃひぃひょひゃひゃひぃひゃひぅひぉ!(何をなさいますの!)」
てい、と伊織がニミュエの額をぺちりと叩く。
「駄目だろ〜? 目立っちゃ。一応、俺達ァ隠れてるんだからな」
「お前が言うな」
鎧を脱いでいた手を止めて、トール・ウッド(ea1919)がぽつり呟いた。
●夜陰に乗じて
夜の帳に乗じて、酒によったオークに気付かれる事なく背後に忍び寄るのは簡単だ。
ましてや対象がニミュエのスリープによって眠っている場合は、断末魔の叫びを聞く前に、その命を絶つ事も容易い。
月明かりに煌めく白刃が血と脂に汚れても、降魔はクールな表情を崩す事なく、オーク達を守る鎧を砕き、淡々と刀を振り下ろし続けた。
「こっちは今のが最後だ」
オークの注意を引き、降魔の元へと誘導していたオイルの声に、降魔は静かに刀を鞘へと戻す。
「あちらも、そろそろ終わる頃だ。‥‥行くか」
「ああ」
切り捨てたオークの屍を避けて、降魔は促されるままに歩き出した。向かう先はオーガのいるという屋敷。オーガを倒せば、この村は解放される。もっとも、その後に1つ厄介な裏工作が必要となるのだが。
「そういえば‥‥あいつは無事だろうか‥‥。無茶はするなと言い聞かせてはいるのだが‥‥」
今ごろはお嬢様と合流しているであろう妹の無事を祈りつつ、オイルは降魔の後を追ったのだった。
一方、降魔とオイルとは別の場所から忍び込んだ者達も、オークとの戦いを終えかけていた。ハンドアックスの一撃で音もなく崩れ落ちたオークを1体、足先で転がすと、トールは仲間達に不敵な笑みを向けた。
「先に行け。後は俺が引き受ける」
「しかし‥‥」
躊躇うヒースクリフに背を向け、トールはふんと鼻を鳴らす。
「構わん。行け。オーガの屋敷で落ち合おう」
「分かりました」
襲って来るオークの一撃を受け止め、剣で切り伏せて、ヒースクリフは仲間達を促す。
「そんな! トールさんが!」
ニルナの押し殺した叫びに、トールはちらりと背後を見た。その目が行けと告げている。
「彼の働きを無にしてはいけない。私達がすべきは、無謀なお嬢さんの内に潜む正義の力を代行し、この村を解放する事だよ」
諭されて、彼女は一瞬だけ唇を噛みしめ、渋々と頷いた。
●伝説? の誕生
村のあちこちで手下のオークが倒されている事も知らず、オーガは広間で酒盛りをしていた。村人の作った料理を食べ、酒を飲む。脅しさえすれば、こうして食べ物にも酒にも困らない。楽をするコツと人への侮りがオーガの警戒心を薄めていたと言ってもよいだろう。
だから、急に眠気が襲って来た時も気に留めなかったし、自分の前に人が立っても、ただうるさそうに目を上げただけであった。
「黒死鳥、いざ参る‥‥」
ニルナは小さく呟きを漏らし、深々とオーガの胸へと細身の剣を沈めた。
痛みが脳髄まで到達し、そこで今の状況に気付いたようだ。
暴れ出したオーガに、ニルナの体が吹き飛ばされる。
「ニルナ!」
「ニルナさん!」
「大丈夫です!」
ニルナの脳裡に浮かぶのは、トールの背。
今回の依頼を共に受けた者達の顔。
彼らの尽力を無駄にするわけにはいかない。今、ここで仕留めてしまわねば。
「聖なる力によって、天に召されよ」
唱えたコアギュレイトに、オーガの動きが止まる。
「今だ!」
そこに生まれた隙を見逃す者は、仲間の中に居はしない。
ヒースクリフと伊織、そして、ニルナのクルスダガーがオーガへと向けられる。酒に酔ったオーガは対抗する術もなく、彼らの剣の下に倒れたのであった。
後片付けの案には、2つの意見があった。
オーガの屍を隠す意見と、そのまま放置する意見と。
その時の状況に合わせ、どちらを選択するかを決定する事になっていたのだが‥‥。
屋敷の中は静まり返っていたが、村のあちこちに転がっているオークの死体に村人達が気付いたようだ。
「村人が気付いたようですわ」
促すニルナに、執事に用意させたヴィヴィアンと同じ服を着た伊織は立ち上がる事も出来ずに頭を抱えていた。
「伊織さん?」
「何で俺なんだ‥‥」
女に見えるようにと薄く化粧まで施された彼に、ニルナは微笑む。
「可愛いですわ、伊織さん。今度は私が鎧以外の服をお見せしますね」
何やら複雑そうにニルナの励ましを受けた伊織は、渋々と立ち上がった。
「ほら、早く行って下さい」
逆らえぬ強さをもったヒースクリフの静かな言葉に背を押されて、伊織は騒ぎ始めた村人達の前に姿を見せた。そして、ゆっくりと踵を返して歩み去る。
「い‥‥今の御方は一体?」
スカートの裾を翻し、女とは思えぬ乱暴で力強い足取りで去って行った勇姿に、村人達は困惑して互いを見合った。オークが死んでいるという報告に、今度は何の凶事だと泡を食って駆けつけてみれば歩み去る娘がいた。困惑するのも当然である。
「‥‥水面に揺れる儚き影に真の姿を認めたのはいつの日か‥‥」
ニミュエの歌声に耳を傾ける村人達に焼きついたのは、自分達が解放されたという喜びと、歩み去っていった娘の姿。
「目を背けずに向き合えば、おのずと見えるはず」
小さな歓喜の声が、瞬く間に大きな輪になって人から人へと広がっていく。
「真実の姿が‥‥」
くすくすと笑って、ニミュエは喜びに踊り狂う人々の間を抜けた。
その目が、騒ぎに驚き、周囲を見回している1人の少女を捉える。その周囲を囲んでいるのは、どこかで見た事のある顔だ。
「あれが噂のお嬢様ですのね。ああ、後ろのちっこいのが執事さんのお孫さん。なかなかに将来有望そうですわ」
この騒ぎにも動じる事なく立っている姿に、ニミュエは顎に指を当てる。
「ただ、惜しい事に、わたくしの下僕としては少し早すぎるようですわね」
「今は」と付け足し、ニミュエは片目を瞑ると己の唇に指を当て、幼い2人に祝福を送ったのであった。
一方、村の狂乱振りに呆気に取られていたお嬢様は、ぶつかって来たエルフの青年に手を取られ、手荒い歓迎を受けていた。
「ありがとうな、お嬢ちゃん!」
ぶんぶんと振られる手と周囲の歓迎振りと。何が起きているのか分からない様子の娘に青年は満面の笑みで告げる。
「この村を支配していたモンスターを倒してくれてありがとな!」
「は? モンスターはこれから倒‥‥」
もみくちゃにされる娘に、口元に両手を当てて彼は叫んだ。
「俺は見たぜ! 去って行ったのはあんただった! こいつらも見てたぜ! きっと、あれはお嬢ちゃんの力が具現化したものだろうよ!」
嘘八百。
しかし、嘘も方便。
人ごみの中に紛れつつ、ヴァレスは自分を待つ仲間達の元へと戻っていった。