お届けものです!
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 55 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月23日〜05月03日
リプレイ公開日:2009年05月02日
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●オープニング
●届け物
それを見つけたのは偶然だった。
露天で手作りのジャムや菓子を売っていた、純朴そうな老婆の呼び声に何気なく彼女の覗き込んだのだ。
「隣に住んでいたノルマンから来た娘さんが教えてくれたんだよ」
生地に蜂蜜を練り込み、干した果物を混ぜた菓子だという。老婆はそれにすり潰した木の実を蜂蜜で煮たものでコーティングしてあった。
「生地を作るのにも時間が掛かってね。今朝、ようやく完成したんだ。今すぐじゃなくて、7日ほど寝かせてから食べるのが美味しいんだよ」
保存期間も長いようだ。
見るからに甘そうな菓子に、彼の脳裏に赤い髪の青年の顔が浮かぶ。
「‥‥貰おう」
菓子の入った袋を手に数歩歩いた所で、彼は再び運命の出会いをした。
神経質そうな芸術家といった雰囲気の男が手にしていたものは、そういった類の物を見慣れた彼の目にも良いものだと分かった。あれやこれやと理由をつけて売り渋る男と交渉して、小さな小箱に収めてもらう。
手にいれた品々と共に、待ち合わせに指定いた宿屋へと向かう。
そこに待っていたのは、キャメロットへの使いを頼んだ部下のシフールだ。
シフール便も便利だが、このような場合は信頼出来る部下に頼むのが一番である。
早速、彼は予めしたためてあった手紙と、手に入れた品を机の上へと並べた。
「‥‥というわけだ。こちらはサー・ケイに。こちらはモードレッドに届けて欲しい」
シフールの青年は、机の上の品と神様がえこひいきして造ったと言われている上司の顔とを、困ったように見比べた。そんな部下の様子に、上司もすぐに気付いたらしい。怪訝そうに眉を寄せた上司に、彼は正直に告げた。
「こんなに持っては飛べません、トリスタン様」
彼の上司は、たまにマが抜けている事がある。
だから女難に遭ったり、花嫁役を押しつけられたりするのだ。
こんな事は、彼の評判に傷をつけるから大声では言えないけれど。
●重大任務
「いい? 重大任務よ!」
キャメロットの冒険者ギルドで胸を張ったのは、円卓の騎士、トリスタン・トリストラムの代理人を称するシフールだ。偉そうなのはいつもの事なので、その辺りは誰も突っ込まない。
「トリス様は今、サウザンプトンにいらっしゃるのだけれど、キャメロットから3日ほど行った途中の街で、ケイ・エクターソン卿と王宮騎士のモードレッド卿への密書を預かった者がいるの。その子に会って密書を受け取り、キャメロットに戻って来てサー・ケイとモードレッド卿にお渡しして欲しいの」
沈黙がおりた。
「‥‥密書なら、いつもお前達が運んでんじゃないのか」
誰かの呟きに、シフールの少女はない胸を更に張る。
「当たり前でしょ! 円卓の騎士様宛の密書よ? 誰彼と頼めるわけないでしょ!」
「じゃあ、なんで今回はお前達が運ばないんだ?」
疑問は尤もだ。
んだんだと頷いた冒険者達に、シフールの少女はちっちと指を振った。
「ちょっとは考えてご覧なさいよ。アタシ達の体はアナタ達と比べたら小さいの。大きな荷物をいっぱい持って飛べるわけないじゃないの」
「‥‥‥‥他の騎士は‥‥いや‥‥」
それぞれが心の中で呟いた言葉は、敢えて伏せる事にする。
「‥‥とりあえず、その街でトリスからの届け物を預かって、ケイ・エクターソン卿とモードレッド卿に渡せばいいんだな? で? その届け物ってのは?」
にんまりと、少女は笑った。
その笑みが好物を見つけた猫のようだったとか、獲物を見つけて舌舐めずりする肉食獣のようだったというのは、彼らの見間違いだ。ああ、見間違いだ。そうに違いない。
「まず、サー・ケイには厳重に封をされた革貼りの箱に入ったもの‥‥大きさからすると書物じゃないかって言ってたわ。それから、綺麗に包装された小さな箱。どちらも取り扱い注意って言ってたわ」
サー・ケイ。
円卓の騎士にして、アーサー王の信頼篤いイギリスの国務長官だ。別名、「舌で竜を殺す者」。
そんな大物相手への届け物だ。余程、重要な品なのだろう。
表情を引き締めた冒険者達に、シフールの少女は相変わらずにまにまと笑ったままだ。
「‥‥でね、小さな箱にはカードがついていて、これは見る事が出来るんだけどぉ〜、あ、やっぱ駄目。アタシは言えないワ」
一体何なんだ?
首を傾げた冒険者達を尻目に、少女は次の品の説明に移った。
「次にモードレッド卿へのお届け物は壊れ物注意だって。こっちも木箱に入っているわ。あとね、その木箱と一緒に蝋にトリス様の印章を捺して封された手紙がね‥‥」
いやん、と少女は身を捩らせる。
「トリス様がお手紙に印章を捺されるのは、王様へのご報告書とか、大事なお手紙だけなのよねぇ〜。きゃあ☆ これってもしかして‥‥」
妄想を垂れ流しているシフールは放っておいて、冒険者達は依頼書の内容を確認した。
粗方は少女の語った通りだ。
だが、問題がいくつかある。
トリスタンに託された品を預かっている者から、どうやって品物を受け取るか。
送り主も届け先も、国の重要人物である。自分達が、品物を預かる為に来たのだと証明する必要がある。ギルドの依頼書をそのまま持ち出す事は出来ないだろうから、依頼を受けた冒険者である事を理解し、信頼して貰わねばならない。
そして、一番の難題は届け先だ。
国の要人達に、どうやって接触を取るのか。
彼らはキャメロット城の中にいる確率が高い。自邸に届けるという手もあるが、そもそも、彼らの自邸とはどこにあるのだろう?
城下で見掛ける事もあるモードレッドは、探し出す手立てもあるが、サー・ケイに至ってはその私生活の全てが謎である。
「と‥‥とりあえず‥‥何か手立てを考えるか‥‥」
舌で竜を殺す男とて人間であるには違いない。食べもするし寝もするはずだ。1年中、いや1日中、城に籠もっているわけでもなかろうし、ギルドで見掛けたという噂もある。まるっきり手掛かりがないというわけではないのだ。
「よ、よし、頑張ろうぜ。大丈夫。俺達には、キャメロットでエチゴヤのイースターラビットを捕獲したという輝かしい戦果があるじゃないか!」
キャメロットの事なら裏も表も知り尽くしているぜ!
‥‥と、豪語する冒険者の笑い声が妙に乾いているのは何故だろう。
それ以前に、円卓の騎士とその見習いをイースターラビットと比べるという事自体、問題があるだろう。
依頼人代理のシフールの少女は、悩む冒険者達を他人事のように眺めながらそんな事を思っていたとか、いなかったとか。
●リプレイ本文
●預かりもの
困った。
様々な人に掛け合って用意した品々を手に、トリスタンからの荷を預かった者が待つ街まで、エスリン・マッカレル(ea9669)の愛馬、オーベロンを駆け通しに駆けさせた。
問題の、トリスタンの荷を預かったであろうシフールも、すぐに見つかった。
見つかったのだが。
「ほら。これを見ればあたしが冒険者だって事は分かるわよね」
アリーン・アグラム(ea8086)が手にしたロイヤルクロースをちら見しただけで、シフールの少年はぷいと顔を背けた。冒険者が全て荷の代理引受人とは限らない。そう言いたいらしい。
「もう! ちゃんと他にも用意してあるわよ! ね、エスリン、あれ出して!」
「あ、ああ」
エスリンの荷の中から、皆で手分けして集めて来た品々を少年の前に並べていく。
「これはギルドの受付さん。で、こっちは、アナタのお仲間、トリスさんの依頼代理人さん」
羊皮紙に一筆ずつ添えられた証明のサインに、少年の表情が動く。
きらり、とアリーンの目が光った。後一押しだ。
「それから、これがとっておき! あんまりおおっぴらには出来ないから、こっちに来てよ」
アリーンの手招きにふらふらと近寄って来た少年に、エスリンは布にくるみ、懐の中に大事に抱えていた品をそっと取り出した。
「これは、トリスタン卿の家令殿から預かったものだ」
小声で囁きながら、布を解いていく。
中から現れたのは、トリスタンの紋章が入った短剣だった。それも、宝石で飾られた豪華な宝剣。恐らく、持ち主に放置され、屋敷の棚で数年は眠っていたであろう品だ。
「むむ‥‥」
「これでも疑う気!?」
じゃあどうすればいいのよ!
癇癪玉が破裂寸前のアリーンとエスリンと宝剣と羊皮紙との間に何度も視線を走らせて、少年は顔を伏せてもごもごと呟く。
「なあに? 聞こえないわよ?」
それは、荷物引受人にこれまで荷を守って来た報酬の要求だった‥‥。
「信じられない、信じられない、信じられなーいっ!」
ぷんぷんと赤くなった頬を膨らませたアリーンに苦笑し、エスリンは預かった品を確認する。ケイ・エクターソン卿とモードレッド・コーンウォール卿に宛てた密書と荷。密書はトリスタンの印章を捺した蝋で封印されていた。余程、大切な事が書かれてあるのだろうか。
「そりゃいいわよ、エスリンは。でも、あたしは‥‥あたしは‥‥」
うえ〜ん。
少年が望んだ報酬は、ほっぺにキス。挨拶だと思えば割り切れない事もないが、乙女には大事である。
「あ、ああ、モードレッド卿には恐らく菓子だな。甘い香りがする。サー・ケイには‥‥」
ふみふみ泣いている少女の気を引くために、声に出してトリスタンの荷を確認していたエスリンは固まった。
「‥‥小さな小箱。丁寧に包まれて‥‥カードが添えられている」
突如、調子の変わったエスリンの声に羞恥心より好奇心が上回ったのか、アリーンが手元を覗き込む。本人の手に渡ったら、見る事が出来ないものだ。今のうちにほん少しだけ覗いても罰は当たるまい。
「‥‥これってトリスさんの直筆?」
魂が抜けたようにエスリンが頷くと、今まで泣いていたはずのアリーンは「きゃあ」と嬉しげな声を上げた。
●詰め所
国の要人に会うのは容易い事ではない。大貴族など、何ヶ月も前から予約を取り付けても、当日になって取り止めになる事もある。普通の貴族でそれなのだから、国政を預かるケイ・エクターソン卿に会うのは非常に難しい。
サー・ケイが食べて寝て、たまには休息を取る普通の人間だとしても、街角で偶然出会いましたーーなんて事は有り得ないだろう。
その可能性があるのは、もう1人の方。
彼の情報を求めて、マール・コンバラリア(ec4461)は王宮騎士の詰め所を訪れていた。
運が良ければ詰め所に本人がいる場合もあるだろうが、幸運を期待するよりも、まずはモードレッドの情報収集をという事らしい。
マールが訪ねたのは、「エクター」という名も持つ少女。
「なるほど。モルの行きそうな場所‥‥ですか? んー、詰め所にいないのならば」
考え込む素振りを見せた少女の背後から、別の声が上がる。
「モードルならここにいるじゃないか。俺達の心の中に‥‥よ」
予測外の回答に、固まった笑顔のままでマールは言葉を探す。それよりも早く、一刀両断にしたのはマールの前に立っていた少女だった。
「すみません、無視します。あの子がフラフラするとしたら‥‥お菓子関係でしょうか。最近、それら関連のお店が賑やかなようですし、そちらを当たった方が良いのではないでしょうか」
「いや俺は敢えて影でキュアナイトに嵌ってると見るね」
「―――あ、すいません。ちょっと先輩と2人で話がしたいので、これぐらいでいいでしょうか?」
口を挟む暇も与えられず、呆然と瞬きを繰り返している間に、2人はマールの目の前からいなくなってしまった。
「えーっと」
とりあえず、有力情報ゲット?
首を傾げながらも、マールは王宮騎士の詰め所を後にした。
●捕獲
「サー・ケイは、調べれば調べる程、謎の人ですぅ」
頬に手を当て、溜息をついたのはマルキア・セラン(ec5127)。
アリーンとエスリンが荷を受け取りに行っている間、キャメロットに残った者達で手分けして2人の情報を得る為に動いていたのだが‥‥。
「モードレッドさまは、すぐに分かりましたのに‥‥」
ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)も、ふぅと息をつく。
彼女達が眺めているのは、キャメロットでも有名なとある菓子職人の店だ。コレットからの情報を元に、新作の菓子が売り出されるというこの店にモードレッドが現れると踏んで、皆して張り込みをしているわけなのだが‥‥。
「モードレッドさまがご存じならばよいのですが、もし、ご存じでないのであれば」
ラヴィは小さく拳を握った。
「最後の手段です」
ぐっと決意の程を示すラヴィの拳と、表情とに微笑むと、マルキアは「それにしても」と最初の疑問へと戻る。
「警護の人の口が堅いのは良い事ですがぁ、少しぐらいは目撃談があってもよいと思うのですけれどぉ‥‥って、あれは!」
マルキアの声に弾かれたようにラヴィが顔を上げた。
じわじわと動く列の中に覗く赤い髪。
「見つけましたわ!」
反対側にいるマールと視線で頷き合うと、2人は駆け出した。逃げ道のない通りだ。獲物を挟み撃ちにするのがオーソドックスだが確実な作戦だ。
彼女達の殺気を感じたのか、モードレッドも反応を返した。素早く周囲を見回すと、己を追う狩人の姿と位置とを確認し、戦列を離脱すべく退路を探す。がしかし。
「春の新作スイーツは本日が最終日で〜す」
無情に響き渡る声に躊躇し、彼の動きが鈍った。そこへ
「モードレッド様、捕獲致しましたぁ!」
がしりと肩を掴まれ、腕を取られ、普通は諦めるところだが、敵はしぶとかった。
「もうキュアナイトは嫌だ〜!」
「「「は?」」」
腕を解こうともがきながら叫ばれた言葉に、彼女達は彼の心の傷を知る事となったのだった‥‥。
●教え子からの情報
「先生のご自宅?」
なんのかんので誤解が解け、サー・ケイの情報が欲しけれど新作菓子を奢れとの言葉に応じた彼からの情報は、ただ一言。
「知らない」
であった。がくり、項垂れる冒険者達にモードレッドは胸を張る。
「城におられる時間とか、帰られる時間は知っているが、それ以外はな。先生は秘密主義の方なのだ」
「そ‥‥そうですか」
モードレッド確保の知らせを受け、休む間もなく駆けつけたエスリンとアリーンも引き攣った笑いを浮かべるしか出来なかった。
「これはもう本当に最後の手段ですね」
「‥う。はい! 頑張って美味しいお菓子を一杯作りますね♪」
マールの呟きにラヴィの肩に重圧がのし掛かる。けれども、それは一瞬の事。すぐににっこり笑ってぎゅぎゅっと両の拳を握って気合いの程をみせる。
「菓子? 何の事だ?」
新作菓子に舌鼓を打ちながらも、菓子という言葉に敏感に反応したモードレッドに、マルキアが最後の手段について簡単に説明する。それが、ラヴィが作るお菓子一杯のお茶会と知った彼の反応は、そこにいた者達の想像通りのものであったという。
●サー・ケイ
王宮の門を守る者に、トリスの印章入りの手紙を見せて、更には紋章入りの短剣も持ち出して事情を説明し、お茶会への招待状をサー・ケイに渡してくれるように頼み込む。
円卓の騎士に取り入ろうとする者や、気を引こうとする者も多い。普段であれば、適当にあしらう所だが、トリスの印章やら紋章を持ち出されて対処に困った門番達の背後から、不意に手が伸びた。
「一体、何を騒いでいるのですか」
怪訝そうにそこに立つ男は、ラヴィが手にしていた招待状を取ると、それをさらりと一読する。
「なるほど。トリスタンからの手紙と荷ですか。今、お持ちですか?」
「え、あ‥‥はい。しかし」
サー・ケイにしか渡せない。身分が高そうな相手でも、それだけは譲れぬと瞳に力を込めたエスリンに、相手はあっさりと自分の名を名乗った。
「私が手紙と荷の受取人、ケイ・エクターソンです」
「え? ええっ!?」
驚く冒険者達を尻目に、ケイは差し出された分厚い手紙と荷とを確認して、まずは小箱に添えられたカードを読む。そして、丁寧に結ばれたリボンを解いた。
しゃらりと耳に優しい音と共に中から現れたのは、細やかな細工の施された品の良いネックレスだ。
荷の中身に唖然とする冒険者達の前で、ケイは口元に笑みを浮かべてみせた。
「‥‥下手にセンスがいいところがまた小憎らしいですね、トリスタン」
ーう、受け取った!?
驚愕が走る。
「カードには何と書かれておりましたの?」
添えられていたカードに何が書かれていたかを知るエスリンとアリーンに、マールとマルキアが小声で尋ねた。エスリンは幾分青ざめ、アリーンは頬を染めて、同時に一言、口にする。
「「可愛らしい方へ」」
「わざわざ届けて頂いてありがとうございました。‥‥ああ、お茶会にも出席させて頂きますよ」
声に出して驚きたい。
でも出来ないでいる少女達へ、ケイはトリスタンからの荷とラヴィの招待状を手に、にこやかに微笑むと踵を返した。