【海魔の咆哮】護りの壁
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■ショートシナリオ担当：桜紫苑 対応レベル：6〜10ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：5 G 40 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：06月13日〜06月18日 リプレイ公開日：2009年06月23日 |
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●オープニング
●挑発「随分と馬鹿にされたものだな‥‥」
報告書と一緒に握り締められたパーシ・ヴァルの手は音がしそうな程。
デビルへの怒りに溢れていた。
「確かに‥‥我々は余程舐められているとみえる」
トリスタンは静かに頷く。だが内に秘められた思いはパーシ・ヴァルと同じか、もしくはそれ以上のはずだ。
『‥‥次の‥‥満月。楽しみに、するが‥‥いい‥‥』
先の沿岸調査にて。
ライオネルの消息を調べに出た冒険者は海で悪事を行っていたデビルがこういい残したのを確かに聞いたという。
そして‥‥今。
その言葉を証明するかのように東の海域にデビルが集まっている。
キャメロットから程近いその海域は小島、入り江なども多く存在している。魚が集まり、漁に行く船、貿易の船が行き来する元は穏やかで優しい海だった。
しかし、今はその海は沈黙している。
調査に出た騎士の報告では一隻のゴーストシップを中心にインプやグレムリンなどの低級デビルが集い日を追うごとに増えているのだとか。
低級デビルのみならず中級のデビルやブルーマンなども集る様は、かつての海戦を彷彿とさせていた。
「そして‥‥その‥‥」
騎士は口を篭らせた。
解っていた事である。
しかし、それでもその言葉が、円卓の騎士達の心を乱しているのだ。
「ゴーストシップの中央には‥‥その‥‥ライオネル様の姿が‥‥」
リヴァイアサンに連れ去られた仲間ライオネル。
「ライオネル様は‥‥まるで船長のように堂々と甲板の真ん中に立っておられました‥‥近くには明らかに中級と思われるデビルもいたのですが、彼らはライオネル様にかしずくがごとく‥‥」
今までのどんなに手を尽くして探しても見つからなかった彼が、再び表舞台に現れたということは‥‥
「デビル共は‥‥いやリヴァイアサンは本気でキャメロットを‥‥イギリスを狙いに来たということなのだろうな‥‥」
トリスタンが冷静に告げてくれるからこそ、パーシも怒りに見失いかけていたものを取り戻すことができた。
集まったデビル達は個人レベルで周囲を襲うものこそいるが、全体的には沈黙を守っている。まるで、何かを待つように‥‥。
「次の満月を楽しみにしろとデビルは告げたと言う。‥‥それはすなわちリヴァイアサンが満月の夜に何かを起こすと言うことだろう。リヴァイアサン程の悪魔が満月を待たなくてはならない『何か』というのはおそらく‥‥」
「ああ、津波だな」
冷静にパーシは一つの結論を導き出した。かつて船長の目撃したものもきっとそれだったに違いない。リヴァイアサンは満月の夜に大津波を起こすことができるのだ。
「先にメルドンを壊滅させた大津波は満月の夜に起きた。その被害はメルドンのみならず河を伝い内陸地にまで及んでいた。もし、東の海であの時と同じ、もしくはそれ以上の大津波が起きれば‥‥」
二人は顔を見合わせる。
言うまでもない。海岸の町は壊滅。それどころかキャメロットにも甚大な被害が出るだろう。
破壊と混乱。
その隙を突いてデビルが襲撃してきたら‥‥。王都とはいえきっとタダではすまない。
リヴァイアサンは間違いなくそれを狙っているのだろう。
「なんとしても阻止しなくては！ リヴァイアサンを倒し‥‥そしてライオネルを奪い返す！」
誓うように告げるパーシ・ヴァル。
ライオネルがデビルに操られているのは確かである。
変身か、憑依か‥‥はたまたデスハートンで魂を奪われているか‥‥。
いずれにしてもライオネルは敵として彼らの前に立ちふさがるだろう。
ライオネルを取り戻し‥‥
「‥‥リヴァイアサンの野望を阻止しなくてはな‥‥。‥‥パーシ卿」
トリスタンはパーシの方を真っ直ぐに見つめる。
それは託す眼差し。
「私は海岸付近の防衛とその指示にあたる。住民の避難、海岸の閉鎖、そしてデビル達の上陸の阻止‥‥。騎士達だけでは荷が重いだろうからな」
「それは‥‥」
静かに、だが信じる眼差しでトリスタンはパーシ・ヴァルに向けて微笑んで‥‥告げたのだった。
「こちらは心配するな。お前達の決着をつけて来い」
『お前達』
その言葉を深く噛み締めるとパーシはマントを翻した。
「‥‥ボールス」
服の下。
今までずっと出すことのできなかった書状を手に部屋を後にする。
今、イギリス最後の大海戦が始まろうとしていた。
●護りの壁
銀の鎧に朱のマントを翻した青年が、ギルドの扉を開けた。
さらりと流れる金の髪に、この世のものとは思われぬと称される容貌を持つ騎士は、アーサー王の円卓に名を連ねるトリスタン・トリストラムだ。
「依頼を」
時に竪琴を奏でる白く細い指先に見惚れながら、受付嬢は羊皮紙を受け取る。
「次の満月、リヴァイアサンが何かを企んでいる可能性がある。万が一に備えて、キャメロット近辺の沿岸住民の避難と海岸、港の封鎖、デビルの上陸阻止の為、冒険者の手を借りたい」
淡々と語られる内容に、ギルドはしんと静まりかえった。
「‥‥トリス‥‥タン？ それはちょっと範囲が広すぎやしないか‥‥」
キャメロット近辺と一言に言うが、いったい、どれだけの距離になるのか考えただけで眩暈がしそうだ。しかも、次の満月まで時間もあまりない。
「それは重々承知している。だが、範囲を拡大する事はあっても、縮小は出来ない。万が一、リヴァイアサンが東の海域で津波を起こせば、大波は一瞬にして沿岸部を飲み込み、その被害はキャメロットにまで及ぶだろう」
冒険者達の脳裏に、そびえ立つ波の壁が迫り来る様子が、そしてその波が一気に河を駆け上がり、キャメロットを飲み込む様が浮かぶ。
「私は、リヴァイアサンはパーシ達が決着をつけると信じている。だから、この防御も無駄に終わるかもしれない。無駄に終わるならばそれでいい。だが」
決然と、トリスタンは顔を上げた。
「東の海域に集うデビルの数は多い。上陸しようとするものも出て来るだろう。これらを一匹たりとも上陸させてはならない。船を出し、上陸しようとするデビルを討つ」
津波が襲うかもしれぬ場所へと船を出す。
それは、トリスタンがパーシ達がリヴァイアサンを倒し、津波を未然に防ぐと信じているからこその作戦だ。
「‥‥分かった。俺達もパーシ卿達を信じる」
次々と名乗りを上げる冒険者達に、トリスタンもほっと安堵したように表情を緩めた。途方もない依頼に、彼自身、冒険者が受けてくれるのか不安だったのだろう。
その笑みを真正面から受けて硬直した者数名。
そんな被害者を気にも留めず、トリスタンはすぐさま依頼を受けた冒険者達と打ち合わせに入ったのであった。
●今回の参加者
ea0018 オイル・ツァーン（26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国）ea2562 クロウ・ブラックフェザー（28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国）
ea9669 エスリン・マッカレル（30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国）
eb0346 デニム・シュタインバーグ（22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国）
eb6702 アーシャ・イクティノス（24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国）
ec1621 ルザリア・レイバーン（33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国）
ec2307 カメリア・リード（30歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国）
ec4979 リース・フォード（22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国）
●リプレイ本文
●避難誘導「はいはい、皆さーん、こっちですよー。なるべく高い所に避難してくださーい」
ペガサスとグリフォンで空から舞い降りるという派手な登場をしたアーシャ・イクティノス（eb6702）とデニム・シュタインバーグ（eb0346）の誘導で、沿岸部に住まう人々が動き出す。理由が分からないと拒否する者も当然いたが、そこはそれ。
「このトリスタン卿の紋章が目に入りませんか？」
デニムがトリスタンから預かった紋章入りの書状をにこやかに突きつける。そうするとあら不思議。今まで頑なに拒んでいた者達も、渋々腰を上げ始めるのだ。
「ま、皆さん、権力には弱いって事ですよね」
「敢えて言わせて頂くと、トリスタン卿よりもアーサー王の方が威力はあったと思いますけどねぇ」
のんびり会話を交わしながらも、周囲への注意は怠らない。既にデビルが潜んでいる可能性もあるのだ。用心に越した事はない。
「今の所、蝶の反応は無しですねぇ‥‥あらら？」
好奇心に負けてしまったのだろう。子供が数人、ペガサスへと近づいて来る。触られたぐらいで暴れ出すようなしつけはしていないが、相棒という名の責任者は、子供達を驚かせぬように気を遣いつつ、声を掛けた。
「真っ白で綺麗でしょ。ベガっていう名前なんですよ〜」
驚いた子供達に目線を合わせるべくしゃがみこんで、アーシャは頬杖をついてみせる。兜が邪魔だったが、これは仕方がないと割り切って、出来るだけ明るく言葉を続けた。
「もうすぐ悪〜いデビルが攻めて来るんです。でも、ベガもお姉さんもとっても強いのですよ。デビルなんてぶっ飛ばしちゃうのです」
顔を見合わせる子供達の視線が、アーシャを通り越して、グリフォンとデニムにも向けられる。「あ、そうでした」と、アーシャはぽんと手を打った。
「こっちのお兄さんも、とっても強いので大丈夫です」
「‥‥僕は付け足しなんですね、アーシャさん‥‥」
ふ、と視線を逸らして黄昏れた笑みを浮かべるデニムに、アーシャはおほほと笑って誤魔化す。
「真打ちは最後に登場と相場が決まっているものなのです」
そんな２人の息の合った説得と指示の効果か、沿岸部の避難誘導はさしたる混乱もなく、順調に進んだのだった。
●危険回避
沿岸部と違って、港や商店の密集している地域の防御対策は、非常に困難かつ大掛かりなものとなっていた。
商人達は例外なく自分達の財産となる船や積み荷の安全を口にし、ルザリア・レイバーン（ec1621）やクロウ・ブラックフェザー（ea2562）を困らせていたのだ。
「そんな場合ではないと言うのに」
溜息をついたルザリアの肩を叩いて、クロウが慰める。クロウはクロウで教会に協力を要請して来た所だ。うまく行けば、教会がごねている連中を説得してくれるだろう。
「俺達は俺達に出来る事をしようぜ」
くい、とクロウが顎で示すのは、カメリア・リード（ec2307）やリース・フォード（ec4979）が中心となって行われている工事だ。港湾関係者と共に石を積んで防波堤を築き、そして波が河を遡るのを防ぐ為に川底に石を沈め、杭を打ち込み、幾つかの木材を組んでは沈めている。
沿岸部の全てに備えるのは無理だろうが、それでも被害を最小限に抑えられるだろう。
無言で袖を捲り上げ、軽くはない資材を運ぶ手伝いを始めたルザリアに、クロウも遠巻きに眺めている街の人々に向かって叫ぶ。
「皆も手伝ってくれ！ これが出来たら、アンタ達の安全度も増すんだぞー！」
顔を見合わせる街の人々を尻目にクロウは水の中へと入って行った。基盤の石を積んだ後は杭打ちだ。道具を取りに戻らねばと思った彼の目の前に、木槌が差し出される。
「お、さんきゅー‥‥な‥‥」
クロウが固まってしまうのも無理はない。
彼に木槌を差し出していたのは、依頼人たる円卓の騎士。よくよく見れば、彼の部下である騎士達も石を運んだり、木材を組み立てたりしている。
「？ どうかしたのか？」
軽く首を傾げると、金の髪から滴る雫が陽の光を浴びて輝く。
「い、いや、何でもないっ」
慌てて首を振ったクロウが木槌を受け取ると、トリスタンは手助けを求める声に応じて流れの中で木材を押さえる手伝いへと回る。
「び、びっくりした‥‥」
「危ない所だったな」
まさか円卓の騎士が一緒になって工事をしているとは思わなかったクロウに、いつの間にか背後へとやって来ていたルザリアがぼそりと呟く。
「何が！？」
「木槌を介して触れ合う手と手。ずぶ濡れで熱く見つめ合う図‥‥。よかったな、ここにヲトメ隊がいなくて」
でなければ、貴殿も餌食になる所だった。
あまりにルザリアが遠い目をするものだから、理由も分からず不安になる。
健全思考のクロウに一抹の不安を与えつつも、簡易の防波堤と消波設備は思っていたよりも早くに完成したのであった。
●護りの壁
リヴァイアサンが動く時、沖合に群れているデビル達が攻め入って来るであろう事は想像に難くない。
「少しは引き寄せられたら良いのだが」
「麗しのトリスタン号」に穴をあけ、縁を壊し、船体に損傷があるように擬装したオイル・ツァーン（ea0018）が哀れな姿になった船を見上げて息を吐いた。円卓の騎士の船が沈みかけていると見れば、単純なデビル達ならば引っ掛かるかもしれない。
勿論、船に損傷の影響はほとんどない。
ルザリアやカメリアが手配していた消耗品も全て積み込まれ、仲間達も乗船した。後は出航を待つばかりだ。
「落ち着かないのか、エスリン」
１人、甲板に佇み東の空を見上げているエスリン・マッカレル（ea9669）に苦笑しながら、オイルは声を掛けた。生真面目な女騎士は鷹から戦場の報告を受けているらしい。
「多くの船が出航している。まだ戦いは始まっていないが、それも時間の問題のようだ」
「‥‥モルさん‥‥無事に、帰って来て下さいです」
背後から聞こえた、消え入りそうな祈りの声。指を組み、瞳を伏せたカメリアの隣では、アーシャも憂いの帯びた眼差しを東へと向けている。
「ならば、我らも始めよう」
銀の鎧を纏ったトリスタンが力強く腕を振り上げた。その合図に、船員達も、他の船に乗り込んでいる者達も一斉に動き出す。出航だ。
「ワールウィンド。行きましょう」
「はい、そこ。ちょっと待って下さいね」
飛び立とうとするグリフォンとデニムを止めると、アーシャはベガの首筋を優しく叩いた。
「デビルと戦うんですから、必要でしょう？ カメリアも」
デビルに抗する聖なる母の守護を与えて、アーシャもベガに騎乗した。開戦の知らせが届いたのは、そのすぐ後の事だ。
「皆さん、ご無事で！ 大切な、人の為に！」
翼の風圧に負けじとカメリアが声を張り上げた。軽く手を挙げて応えると、２人は雲霞の如く向かって来るデビルの群れへと突っ込む。デニムの奮う槍とアーシャの矢が戦端を開いた。
「よし！ そのままこっちに来てくれよ！」
破魔弓を引っ掴んでペガサスの元へと走ったクロウが、懐から取り出した赤い宝石のついた指輪を嵌める。と、彼の雰囲気が一変した。
「懲りない連中が。地上に貴様らの居場所なぞ無い。今度こそ、貴様らに相応しい世界に叩き返してやる！」
その豹変ぶりはエスリンにも覚えがある。覚えがあるが、まだ慣れるまでには至っていない。
未だ、彼を誤解したままのエスリンは、見なかった振りで待ちかねたとばかりに翼を広げるヒポグリフへと駆け寄った。
「トリスタン殿、お下がり下さい」
クルテインで断ち切ったのは、船体に取り付いていたアガチオン。１歩前に出ると、ルザリアは素早く仲間の位置を確認した。四方から、無数のデビルが襲って来る現状では、前衛も後衛もない。
だが、せめて。
呪の詠唱を始めたカメリアとリースの気を逸らさぬよう、彼らに向かうデビルを切り捨てる。
デビルが撒き散らす不快な体液と匂いに、むっと眉を寄せた時、カメリアとリースの息の合った声が響いた。
「皆さーん、避けて下さいねぇ〜！」
「気をつけてねー」
何を？
‥‥と、思う暇など無かった。
突然に吹き荒れた暴風に、船体に取り付いていたデビルが根こそぎ引き剥がされて空に舞う。その後は、飛行部隊の格好の的。次々に撃ち落とされて行くデビル達を呆然と見ながら、ルザリアは同時ストームという派手な技を繰り出した２人を振り返った。
「次からは予告して欲しい‥‥」
「あら、でも、予告をすると敵にも気付かれてしまいますし」
にこにこ笑うカメリアに、リースもうんうんと頷いて同意する。
「こういうのは、突然だからこそ効果があるものだよね」
だがしかし、彼らに余裕があったのは、そこまでだった。
海が、うねる。
リースは咄嗟に船の縁を掴んだ。体勢を崩しつつ、ルザリアも柱に捕まる。
次の瞬間、大量の海水が甲板に叩きつけられた。誰もが自分が流されぬよう、何かに捕まっているのが精一杯だ。
「トリスタン卿！ オイル殿！」
上空のエスリンが仲間達の名を叫んでいるのが途切れ途切れに聞こえた。だが、目を開ける事も出来ない。断続的に襲って来る荒波に、柱に捕まっている手が痺れて来る。
「手を離しちゃ駄目だ！ ルザリア！」
リースの叫び。
けれど、離すまいとするルザリアの意思とは関係なく、濡れた手は掴んでいた柱から滑って離れた。
「ルザリア！」
海水に押し流されそうになったルザリアを支えたのは、鎧の腕。目を開くと、波と共に潜入したデビルを貫いたダガーがオイルの手元に戻っていくのが見えた。オイルはカメリアと自分の体を船にロープで固定したようだ。
「我らは体を固定していては戦えない」
支える腕の持ち主の声に頷いて、ルザリアは再びクルテインを構えた。不安定に揺れる船の上は危険だが、大波が来る時以外はそれなりに戦える。
「アーシェ！」
白い天馬が揺れる船へと近づく。
「各隊に「大地」から連絡を。お前達は何の心配もしなくていい。心おきなく戦って来い、と」
気付けば、大波に散り散りになったと思っていた船も彼らの船に並んでいた。
そして、河口にデビルの侵入を防ぐ壁が出来る。
「このまま奴らを叩いてやるぜっ！」
クロウの雄叫びと共に、飛行部隊からの矢の雨が降り、リースとカメリアの息の合った魔法の連続攻撃が容赦なくデビルの数を減らす。
それでも、まだ船に取り付こうと足掻くモノがいた。甲板を走り抜ける影にルザリアが剣を滑らせ、オイルのダガーが容赦なく首根を掻き切っていく。吹き上がった体液は波が洗い流す。
襲い来るデビル達の姿が消えた頃、海原もゆっくりと静まり、穏やかさを取り戻していた。
それが何を意味しているのか。考えるまでもない。
太陽が再び顔を出し、ずぶ濡れの戦士達を照らし出す。
勝利を確信した仲間達の晴れ晴れしい笑顔を。
●嵐の後
事前対策のお陰で、人的な被害は皆無だった。あの大波とデビルの攻勢に誰１人として、怪我ひとつ負う事が無かったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
瓦礫の中にリースは膝をついた。辺りを埋め尽くす木片は家屋の残骸だ。海魔の激しい攻撃の結果、ここで暮らしていた人達は、住む場所を失ってしまった。
津波が起こらなかった分、被害は最小限で留められたと言えるのかもしれない。
けれど‥‥。
「大丈夫だよ。こっちに来てごらん」
じっと見つめる少女に気付いて、リースが手招きする。
慎重に取り除いた木材の下に、小さく可憐な花が一輪。
その花を少女に捧げると、リースは傍らに立っていたトリスタンを振り返った。
「急いで被害状況を纏めるから、それを王様に報告して貰えるかな？」
１日でも早く彼らが安心して暮らせる環境を整えたい。王が動いてくれたなら、被害を受けた人々にも十分な援助の手が差し伸べられるはずだ。
「承知した」
頷いたトリスタンに笑いかけると、リースは少女の肩に手を置き、港を指さした。海魔との死闘を終えた者達の船が港へと戻って来る。
「あの人達が怖いデビルを倒してくれたんだよ。「お迎え」に行ってあげたら？ 皆、きっと喜ぶと思うよ？」
彼らはきっと、勝利の余韻よりもこの惨状に心を痛めているだろうから。自分と同じように。
素直に駆け出そうとして、瓦礫に足を取られた少女をトリスタンが抱え上げる。
船から下り、沈痛な面持ちで辺りを見回している者達の前で、少女はトリスタンの腕から飛び降りた。危なっかしい足取りでパラディンへと駆け寄ると、一言、二言と言葉を交わし、リースから貰った花に笑顔を添えて差し出す。
優しい光景に、見つめる者達にも笑みが戻る。
満身創痍ながらも、共に戦った者達へ信頼に満ちた眼差しを向けていたパーシへと、トリスタンは歩み寄った。彼も、トリスタンに気付いたようだ。
どちらからともなく手を挙げる。
ぱん、と合わせられた手と手に、全ての想いが籠められていた。
長く続いた因縁の戦いは、こうして終わりを迎えたーー。
