【微睡みの終演】狂喜の宴
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月05日〜09月15日
リプレイ公開日:2009年09月19日
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●オープニング
●目覚めた意味
風が、血の匂いを運んで来た。
そして、何かが焼ける臭い、掠れた悲鳴。
風の吹く方角には、確か小さな村があったはずだ。
「っ!」
守らなければならない一族と、彼らを敬い慕ってくれた民達ではないが、戦う術を知らず、日々を精一杯生きている人々に害が加えられているのを見過ごす事は出来ない。
見つめていた小さな壷を懐に仕舞い、駆け出した彼女の手には愛用の槍。
彼女と共に、長い眠りについていた槍は、しっくりと手に馴染み、彼女の気持ちに応えてくれるようだ。
目覚めたからには、互いに成すべき事があるに違いない。
仲間の眠りを守る事、蘇ろうとしているモノを止める事、そして‥‥。
そして、例えばかつて、誰にも託す事が出来なかったこの槍を託せる者を、今度こそ見出す事。
「行くぞ、ゲイボルグ」
●ギルドへの要請
その日、サウザンプトン領主の館に飛び込んで来たのは、褐色の肌をした1人の女だった。
いつも共にいた従者がここに居れば「どこで誑かしたか、ちゃんと覚えてますか?」とかでも言われそうなイイ女。だが、生憎とその女の容貌は彼の記憶にはなかった。
「すまんが、身に覚えのない事で認知しろとか、責任を取れとか言われても俺にはどうする事も‥‥」
「お前が、この辺りで一番偉いのか!?」
いきなりの質問に面食らって、思わず間抜け面になってしまう。だが、女の方は真剣そのものだ。
「どうなのじゃ!? 偉いのか、偉くないのか、はっきりせい!!」
「え‥‥偉いというか、とりあえずこの辺り一帯を王に任された領主ではあるわな」
女は眉を寄せた。
けれど、すぐに険しい表情へと戻る。
「ならば、民を守る義務があるな?」
「それは当然」
うむ、と頷いて女は口早に告げた。
「冒険者ギルドを知っておるであろう? そこの冒険者達に至急の「依頼」とやらを出すのじゃ!」
ギルドに依頼を出せ?
いきなりの注文に、領主は怪訝そうに女を見返す。
「先ほど、ここから少し離れた場所にある村がフォモールに襲われておった。たった1匹じゃったが、小さな村を潰すだけの力はある」
フォモールと女の告げた言葉を繰り返した領主の表情が変わる。椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がると、女に詰め寄った。
「どこの村だ!? 村の連中は!?」
「村を襲ったフォモールは、わしが倒したので安心せい。村は、ここから南に下った所じゃ。名を知らぬが、近くの森に大きな杉の木が1本、突き出しておった」
該当する場所を探そうと、領主は机の上の地図を広げた。森は多いが印象的な杉があるという噂は聞いた事がある。
「村の者達は‥‥数名、フォモールの手に掛かった。もう少し早く気付いておれば、助けられたかもしれんが」
「‥‥そうか。他の者達は」
「命に関わるほどの怪我人もおるが、あいにく、わしは癒しの術は知らぬ。いそぎ、術者を派遣するがいい」
深刻な表情をした女に分かったと頷いて、領主は側に控えていた秘書官を顧みた。慌てて、秘書官は救援の手配に走る。これが、彼ならば‥‥と、こんな時にも思わずにはいられない。
だが、今はそんな時ではない。
領主は女へと向き直った。
「それで、村への救援要請ならば、ギルドへの依頼を出す必要はなかろう? 他に、何かあるんだな?」
「物わかりがよいのは助かるのぅ。‥‥村を襲ったフォモールは「あの御方がお目覚めになる。前祝いだ!」と笑っておった。そして、己が先触れであるとも」
あの御方?
先触れ?
首を傾げた領主に、女は開け放たれた窓から見える景色へと目を遣った。
「お前達は知らぬであろうが、ジーザスとやらを信じる者達がやって来る前、この国は神と崇められた一族が民を守っておった。そして、邪なる者も。フォモールはその邪なる者を王と仰ぎ、命がけで従う者達じゃ。奴らが「あの御方」と呼ぶは恐らく‥‥」
邪眼のバロール。
女が呟いた名に、領主は書きかけの羊皮紙をぐしゃりと握りつぶした。
幼い日に読み聞かされた絵巻物の中に出て来る悪いモノ。絵巻では、勇敢なる戦士達の手によって葬られ、めでたしめでたしとなったはずだ。
「まさか、本当に存在する‥‥はずが‥‥」
つい先日、書庫で発見された書物の中に隠されていた絵にも片目の禍々しい存在が描かれていた。これは、偶然だろうか。
「お前が信じる信じないは勝手じゃが、あのフォモールは先触れと言うておった。どこかに同様に村を襲う準備をしているフォモールの群れがおるやもしれぬ。ここに来るまでに調べたのじゃが、フォモールの噂は聞かなかった。群れは恐らく5〜10匹程度の小さなものじゃろうな」
「‥‥それで、ギルドか?」
女は領主を見つめた。
鋭く、厳しい、野生の獣のような眼差しだ。
「冒険者とやらは人々の幸せや平和を守るお節介どもなのじゃろう? ならばわしに協力せいと伝えよ」
「何を協力しろと?」
領主の問いに、女は窓際へと歩み寄り、緑の広がる大地を見つめる。
「わしは、このどこかで蠢くフォモールどもを探して来る。小さな群れとはいえ、バロールが蘇ると狂喜するフォモールどもを片付けるのはちと手間じゃ。故に、冒険者どもに手を貸して貰う」
領主が机の上に広げた地図の一角を指さして、女は不敵に笑ってみせた。
「わしはフォモールの動きを探った後、この遺跡で待っておる。早う来いと伝えておけ」
言うなり、女は窓の桟に足をかけて飛び降りた。
止める暇もない、一瞬の出来事だった。
「ちょっと待てよ、おい‥‥」
バロールにフォモールに謎の女。
しかも謎の女はいきなり3階の窓から飛び降りるときた。
「勘弁してくれ‥‥」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き回しながら、領主は天を仰いだのだった。
●リプレイ本文
●過去の亡霊
指定された遺跡には、既に依頼人‥‥スカアハの姿があった。こちらの到着にはとうに気付いているであろうに、巨石にもたれかかったまま目を閉じ、微動だにしない。そんな依頼人に、やれやれと肩を竦め、限間時雨(ea1968)は明るく声を張り上げた。
「お呼びとあらば急いで参上! ハイハイ、お節介さんがやってきましたよーっと♪」
ふ、とスカアハの口元に笑みが浮かんだように見えた。
だが、それは一瞬の事。時雨の見間違いではなかったのかと思うほどに険しい表情で、冒険者達を見回した。
「奴らの巣を見つけたが、既に出立した後じゃった。故に‥‥」
「俺達は襲われる村を守るか、攻撃に出るか‥‥だな」
天城烈閃(ea0629)の静かな言葉に、レイア・アローネ(eb8106)は嫌そうに眉を寄せる。
「フォモールに降伏はない。‥‥人に近いものを殺意をもって斬るのは後味が悪いな」
「‥‥そう、ですね」
頷いて、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)はスカアハを見た。
「バロールが復活するというのは本当でしょうか? アニュス・ディも生贄を止めたのに‥‥」
「あやつらの贄の儀は‥‥我らが眠る地、誰もいない地と手当たり次第じゃ。バロール復活の為だけではなかったのやもしれぬな」
アニュス・ディ。神の仔羊を名乗る集団が遺跡で自らの命を捧げて来た裏には、デビルの影がある。王都での騒動といい、奴らはこのイギリスで何を企んでいるのだろう。
黙り込んでしまった仲間達の雰囲気を変える為か、ベアトリス・マッドロック(ea3041)が不意に思いついたように大きな声を上げた。
「そういや、アンタ、いい選択をしたねェ! サウザンプトンの領主はちっとだらしないトコもあるけど、そこそこ有能だし、この辺りの領主様ン中じゃ、一番冒険者に理解があるからね」
言いつつ、ばんばんとスカアハの背を叩くベアトリスに、「スカアハ」を知る者達がずざざと後退る。だが、スカアハ自身は気にした様子もなく、ベアトリスの言葉に首を傾げていた。
「そうなのか?」
「そうだよ。ちょーっとばかし、妹大事、従者大事過ぎる所もあるし、目を離すとすぐにサボるし、いい加減だし、片付けも出来ないって、あたしの娘みたいな子が言ってるけどね」
むぅ、とスカアハは腕を組んだ。
「それは‥‥ダメ男と言わんか?」
「だが、妹の上司だ」
ぼそり、呟いたのはミュール・マードリック(ea9285)。ベアトリスがサウザンプトンから持ち出して来た地図をもとに、前もって周辺を偵察していた寡黙な男の一言に、仲間達がそっと肩を叩いていく。
「?」
「あ、あまり気にしない方がいいですよ! ね、限間さん!」
「そうそう! ダメな上司を持つと苦労するかもしれないけど、そこは妹さんに頑張って貰って!」
その妹も知るベアトリスは、秋めいた空を流れる雲を見つめた。
「それはともかく、今はフォモールを何とかしないと!」
ファング・ダイモス(ea7482)の一言に、話が逸れていた事に気付いた者達が、強引に話題を戻す。
「そ、そうじゃったな。フォモールはバロール復活の祝いじゃと言うておった。群れの数で襲う事が出来る、一番大きな村‥‥お前達を待つ間に幾つか調べて来たのじゃが、この遺跡から少し離れておるが、条件に合う村を見つけた。村の者に聞けば、フォモールらしきものを見たという話もちらほら出ておる」
「その村はどの辺りですか!?」
ベアトリスの用意した地図を見ながら、ファングが勢い込んで尋ねる。
「ここから南に下るのじゃ。川のほとりにある大きな村。たわわに実った畑がいくつもある‥‥」
スカアハの告げる村の特徴と地図を照らし合わせ、村を絞り込むのをファングとミュールに任せ、レイアはスカアハに改めて問うた。
「邪眼のバロールとはどのような存在なんだ? フォモールとは戦った事があるが‥‥あいつらが王と崇めるのだから、相応の力を持った魔‥‥デビルか何かだろうか」
「バロールは‥‥邪悪なる存在じゃ。人に深い憎みを抱いておる。じゃが、とうの昔に滅んだも同然のものじゃ。再び目覚める事など‥‥いや‥‥」
スカアハは自嘲めいた笑みを浮かべて肩を竦めてみせた。
「それを言うのであれば、わしもバロールと同じじゃな。再び目覚める事がないはずの眠りから目覚めてしもうた。‥‥わしも、バロールも、流れてしもうた時間の彼方から蘇った亡霊のようなものかもしれん」
その言葉に、烈閃が何か言いかけて止める。
「バロールが復活したら、どう言う事が起きるのでしょう?」
不安げなヒルケの問いに、スカアハの表情は険しくなる。
「まずは、今、この地を支配する者達を滅ぼそうとするであろうな。‥‥じゃが、この地にはお前達のような戦士もおる。フォモールの数も減っておる故、いかなバロールとてそう簡単には‥‥」
不意に言葉を切って考え込んだスカアハに、ヒルケはレイアと顔を見合わせた。
「何か、あるんですか?」
「‥‥いや、わしの考えすぎじゃ。それよりも今はフォモール達を阻止せねばな」
●未来のその先
フォモールが狙うと思われる村は、まだ静かな秋の気配の中にあった。
安堵の息をつくと、アヴァロン・アダマンタイト(eb8221)はグリフォン、アウルムの手綱を引いた。フォモールに気付かれぬよう、遙か上空からの偵察だったが、知りたい事は粗方分かった。仲間達の元へと舞い下りると、アヴァロンは頷いてみせた。それだけで、仲間達には十分だ。
予め決めてあった作戦通りに、冒険者達は一斉に動き出した。
基本は2人1組での行動だ。
村を背にフォモールを迎え討つ組、そして、後方から忍び寄って挟み撃ち、逃亡を阻止する組。
神隠しのマント、隠身の勾玉を使った時雨が、まずフォモール達の背後へと忍び寄る。フォモールの集う場所はアヴァロンの上空からの偵察で確認済みだ。ギリギリまで忍び寄ると、少し離れた場所に身を隠すヒルケと視線を交わす。
周囲を確認すると、木立の中に烈閃とミュールの姿がある。
お互い、フォモールに気付かれる事なく、予定通りの位置に陣取る事が出来たようだ。
「さあて、後は正面の班が派手に暴れてくれるのを待つだけだね」
呟いて、緊張に乾いた唇を湿す。村雨丸を握り締めた手のひらにもじっとりと汗が滲む。幾つもの修羅場を潜り抜けて来たが、この一瞬だけは、何度味わっても慣れる事はない。後方で待機するヒルケも、木立の中の烈閃とミュールも、そして、正面から行動を起こそうとしている者達も同じだろう。
「力無き者、助けを求める者の為に槍を振るうは騎士の本懐! フォモールども! 悪いが手加減はせぬぞ!」
朗々とした宣告が静かな森に響き渡る。
それが、戦闘開始の合図だ。
「わちゃあ‥‥! やってくれますね、アヴァロンさん!」
「私達も負けてられないよ!」
身を潜めていた繁みから飛び出す瞬間、レイアは盾を握る手をちらりと見た。細い指を飾る指輪の石の中、蝶はただ静かに浮いているだけだ。
ーーつまり、フォモールはデビルではないという事か
派手な名乗りをあげたアヴァロンは、真っ先に飛び出して来たフォモールの男と既に槍を交えている。敵の目を引きつける役も担っている為か、名乗り同様に戦い方も派手だ。槍先が剣を受け止める音が高らかに響く。力強く剣をはね返すアヴァロン。しかし、フォモールも村を狙うただの野盗ではない。すぐさま剣を構え直して斬りかかって来る。
「やっぱり、手強い、ですね!」
渾身の力を込めた一撃を止められたファングの額に汗の玉が浮かぶ。
「だが、1人たりとも討ち漏らすわけにはいかない!」
襲い掛かって来るフォモールの剣を髪一筋で躱して、レイアは倶利伽羅剣を振り下ろした。手応えはあったが、斬り付けたフォモールの闘志は衰える事はない。それどころか、ますます熱り立って剣を叩きつけて来る。
「怪我なんてしないで無事に帰って来るんだよ。あんた達にゃ、主のご加護があるんだからね」
戦端が開かれた場所から少し離れた所で、ベアトリスはやきもきしながら戦いの成り行きを見守っていた。その隣で、スカアハは腕を組んだまま冒険者達の戦い振りを眺めている。
「ふむ。ただの面白いもの好きのお節介どもではないようじゃな」
「はぁ?」
何やら上機嫌で槍を手にしたスカアハに、子供の身を案じる肝っ玉母さんは眉を跳ね上げ、口をひん曲げた。だが、森の中で新たに上がった怒声に、またすぐ視線を戦いへと戻す。
挟撃の為に後方へ回っていた者達が攻撃を開始したようだ。
ミュールの冥王剣から放たれた衝撃波で吹き飛ばれたフォモールに、ライトバスターを手にした烈閃が斬りかかり、ヒルケの援護を受けた時雨が相手の懐へ飛び込んだ一瞬で剣を滑らせる。
連携の取れた冒険者達の攻撃に、じわりじわりとフォモール達が追いつめられていく。だが、彼らは追いつめられたからと退く相手ではない。
「あの御方の為に、貴様らの血を捧げてくれるッ!」
そんな叫びと共に、一回りほども体格の違う相手と戦っていたファングへとフォモールの大剣が振り下ろされる。
「ファング!」
背を預けて戦っていたレイアも、目の前の相手で手一杯だ。
後方からのヒルケの援護も間に合わない。
「くっ!」
受け流そうと、咄嗟に小盾を動かした隙を狙って、ファングが相手をしていた男が剣を突き込んで来る。体に突き刺さる寸前、轟乱戟で剣先を受け止めるファング。だが、盾を持つ左手に訪れるはずの衝撃がいつまでも来ない。
「よく止めたの。そう言えば、お前はわしの槍も止めた事があったか」
フォモールの大剣を押さえていたのは、先ほどまでベアトリスの隣にいたスカアハだ。
「スカアハさん!」
「じゃが、まだまだ甘い。油断するでない!」
銛に似た形をした槍で大剣を弾くと、手首を返してそのままフォモールを貫くと同時に、腰に吊していた短剣をもう片方の手で引き抜き、背後から迫るフォモールの肩を斬りつけた。
勿論、フォモールはその程度では怯まない。息の根を止めない限り、何度でも起きあがって来る。
森の中は、既に前方班も後方班もない混戦状態だ。
槍は、森の中では不利になる場合がある。だが、そんな事を微塵も感じさせないスカアハの戦いぶりに、同じく槍を使うアヴァロンは思わず感嘆の声を上げた。
「これが噂に聞いた神代の槍術か‥‥」
彼女が使う型は、己が操る槍術の源流の1つであろう。戦いの最中であるにもかかわらず、沸き上がる気持ちが知らず口をついて出る。
「スカアハ殿! 私は己が望む私である為にはまだまだ強くならねばならない。どうか私に槍の真髄をご教授願いたい!」
「あ?」
突然の弟子入り宣言に、スカアハも動きを止めて二度、三度と瞬きをした。その一瞬に、倒れていたフォモールが最後の力を振り絞り、剣を握り締めて体ごとスカアハへと体当たりを仕掛ける。
「スカアハ!」
スカアハとフォモールとの間に、間一髪、体を滑り込ませたのは烈閃だった。同時にフォモールをスカアハの槍が貫く。
「天城!」
崩れ落ちるフォモールと共に倒れ込んだ烈閃に駆け寄ると、彼の体を引っ張り出す。
「はは‥‥。初めて「命知らず」以外で呼んでくれたな」
「馬鹿かッ! お前はッ! こんな無茶をする奴を「命知らず」と言わずして何と言うのじゃ!」
「‥‥スカアハは、愛や恋は邪魔になると言っていたけれど、俺はそうは思わない。今のスカアハを動かしているのも仲間達への想いだろう? 誰かを想う心は‥‥こんなにも力になるんだ」
「天城ッ!?」
血塗れのまま、烈閃は笑んだ。その体をスカアハが揺さぶる。
「この命知らずがッ! しっかりせんかッ!」
「‥‥はいはーい、ちょっといい所だけど、まだ終わってないんで、そろそろ後片付けに復帰してくれマスカー?」
「‥‥天城さんの印象が‥‥どんどん崩れていくのは気のせいでしょうか‥‥」
八つ当たりのようにフォモールを斬り捨てた時雨が、小石を放り投げる。それはコツンと烈閃の頭に落ちた。
後方から援護していたヒルケも時雨の傍らで遠い目をして明後日の方角を探している。
「‥‥‥‥」
長い溜息の後、ミュールが動けなくなった者達を手早く縛り上げていく。
「えーと」
ぽりと頬を掻いた烈閃に代わって、間近で一部始終を見ていたファングが呆れ半分にスカアハに解説する。
「説明しましょう。フォモールがスカアハさんに体当たりをかけた時、間に割り込んだ天城さんはライトバスターでフォモールの剣先を防いでいたんです」
あまりに近すぎて、そして予期せぬ烈閃の行動に動揺していたスカアハには見えていなかったようだ。ふるふると、スカアハの拳が震える。
「いや、だから想う心は力になると‥‥」
「この大馬鹿者がッ!! ええいっ、お前もじゃ!!」
指さされたアヴァロンが、はてと首を傾げる。
「幾人も戦士を育てて来たが、このような大馬鹿者達は初めてじゃ! よいか! 武の技は教わるものではない! 師と決めた者の技を盗み取るものじゃ! で! 想う心とやらで無茶をする命知らずは、どうしてくれよう‥‥っ!」
「よくわかんないけどさ、とりあえず一段落って事でいいのか?」
浴びた返り血を拭いながら尋ねるレイアに、ファングは肩を竦めた。
「多分。ミュールさん、フォモール達は‥‥」
振り返ったファングの目に縛り上げられたフォモール達が舌を噛んで自害して果てた姿が飛び込んで来る。
「‥‥やっぱり、投降はしてくれませんでしたか」
分かっていた事だ。
だが、やはり気持ちのよい終わり方ではない。
苦笑すると、ファングは未だ怒りのおさまらぬ様子のスカアハを見遣った。
「あーあ。俺もスカアハさんの槍術を教わろうかなぁ」
「かなり厳しそうだがな」
「ビシバシって感じですね」
「ま、頑張んなよ」
心配そうに待つベアトリスの元へと戻りながら、レイアがファングの肩を叩く。ヒルケと時雨もにっこり一言呟いてレイアの後を追う。
「‥‥‥‥」
彼女達に続いて、混乱を一抜けしたミュールがすれ違い様、目礼しつつ両手を合わせていったのはどういう意味だろう。
フォモールそっちのけで大揉めしている者達の後始末を押しつけられた事に彼が気付くのは、それからしばらく後の事であった。