宿場町の人捜し
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月26日〜11月02日
リプレイ公開日:2004年11月01日
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●オープニング
新しく貼り出された依頼の前で、難しい顔をして考え込んでいる黒髪の青年に気づき、冒険者達は互いに顔を見合わせた。
よくギルドや冒険者達が集う酒場に入り浸っている青年だが、冒険者と言うわけではなさそうだ。自ら依頼を受けたという話はあまり聞かない。そんな彼が食い入るように見ている依頼に興味がわいて、彼らは青年の背後から依頼の詳細が書かれた羊皮紙を覗き込む。
「これって、つまりは要人警護か?」
「‥‥いや、人捜しじゃないのか?」
内容を流し読みして、冒険者達も頭を傾げた。
依頼の内容を要約すれば以下の通りである。
『キャメロットへと向かっているアンドリュー・グレモンという人物と合流し、道中を警護すべし』
警護対象のアンドリューなる人物は、キャメロットから2日ばかり行った小さな宿場町にいるらしい。
「‥‥警護、というのはいいんだけどさ。これはどういう事だ?」
続く依頼文を指し示して、冒険者の1人が顎をしゃくる。
『なお、アンドリュー氏は隠密行動中。容貌は不明』
どういうこっちゃ?
首を捻った冒険者達は、その後の報酬額を目にして更に驚いた。通常の依頼料金を上回る額である。
「この額を出すという事は、依頼主は金持ちってわけだが‥‥」
ギルドに来る依頼は様々である。
また、依頼主も僅かばかりのおやつを握り締めて来る子供から、じゃらじゃらと重そうな装飾品をこれ見よがしに身に着けている金持ちまで幅広い。ギルドの料金も依頼主が状況に応じて選択出来るようになっている。
「顔も分からぬ相手を捜し出さねばならないからか? それとも‥‥」
その男が、何らかの危険に晒されているという事か。
それならば、隠密行動中というのも頷ける。
「しかし、厄介だな」
羊皮紙を壁から剥がして、女が呟いた。
「宿場町というからには、当然、人の出入りも激しい。その中から顔の分からぬ相手を捜し出せ‥‥か」
隠密行動というからには、偽名を名乗っている可能性も高い。また、こちらが「アンドリュー・グレモン」の名を掲げても、警戒して逃げられるのがオチだろう。
「訳ありの人物を、どうやって捜し出す?」
「やな名前‥‥」
女の溜息混じりの問いと、心底嫌そうな呟きが重なる。
「この名前に心当たりでもあるのか?」
「まっさかぁ〜」
即答するのが怪しい。
冒険者達の視線が集中する中、黒髪の青年はくるりと彼らに背を向けて、あはははと態とらしい笑い声をあげた。傍らで額を押さえている銀髪の従者の表情も彼らの疑念を掻き立てる。
「おい。知っているなら話せ。これは依頼だぞ」
「いやいや、お仕事大変だねぇ。戻って来たらエールぐらいは奢ってやろう。さ、俺達もそろそろ宿に戻るぞ、ヒュー」
近くにいた冒険者の肩をぽんぽんと叩いて、青年は爽やかな笑顔を振りまきつつ歩み去って行った。
「‥‥怪しい」
「あの、いかにもな爽やか笑顔は絶対に何かを隠している」
彼らが何者であるのか尋ねた事はないが、これまでの付き合いでその人となりは知っている。
何かを言いたそうに、こちらを窺い見つつ主に従う銀髪の青年の様子に、彼らは確信した。
「奴は、アンドリュー・グレモンを知っている」
「よろしいのですか?」
冒険者達から離れて、従者の青年は主に問いかけた。
「あの依頼のアンドリューという方はもしや‥‥」
「関係ない」
きっぱりと言い捨てて、青年は足を速める。その顔に浮かぶ表情に、銀髪の青年は息を吐いた。こんな顔をしている時、主は意固地になっている。何を言っても聞き入れやしない。
「大体、何だってキャメロットにまで来てあいつの名前を聞かにゃならんのだ!」
主が頑なになる気持ちは分からないでもない。何しろ、『彼』には随分と遊ばれていたのだから。
「しかし、ギルドに依頼が出るという事は、あの方に危険が迫っている可能性が」
「‥‥‥‥知るか」
ぷいと顔を背けた主に、従者の青年は仕方がないと頭を振って彼の後を追った。
●リプレイ本文
●不審
依頼人の意向で名が伏せられている以上、情報は出せないと言うギルドの言い分は分かった。だが、何か釈然としないものを感じる。
ギルドの扉を押し開けて、広瀬和政(ea4127)は不機嫌そうに舌打ちした。
「駄目だったのね」
返って来た鋭い一瞥に、ブランカ・ボスロ(ea0245)は肩を竦めて見せる。
「奇妙な依頼ね。護衛する相手の事さえも明かされていないんですもの」
「大方、金持ちが例の男を手元に置きたいのだろう」
現在の情報から穏便な推測をするとその程度だと、広瀬は吐き捨てるように呟く。考えれば考える程、腑に落ちない。
「この依頼、信用に値するとは思えん。気を抜くな」
「ええ。‥‥残る手掛かりは彼らね。あまり時間を掛けていられないけど」
真上に来た太陽の陽射しを手で遮り、ブランカは茶色の瞳を細めた。先行したカッツェやサリトリアとの合流時間を考えると、そろそろ出立しなければならない。
「奴らから手掛かりを得られぬ場合は、現地で本人を捜すしかあるまい。人である以上、食事もすれば睡眠も取る。捜し出す手段はいくらでもあ‥‥」
「どんな手掛かりでも、逃すわけには参りませんッ」
レジーナ・フォースター(ea2708)の背後にめらめらと燃え上がる炎が見えたような気がして、ネフティス・ネト・アメン(ea2834)は、己の目を擦った。
「あや〜、気合い入ってますねぇ」
のんぴりぽややんな感想を述べたエリンティア・フューゲル(ea3868)の言葉が終わらぬ内に、レジーナは1軒の酒場に飛び込んでいく。
「‥‥迷いもなくあの店に入っちゃいましたねぇ」
「オーラセンサー使ったから」
あっさり答えを告げると、ネティはレジーナの後に続く。店に入らずとも中の光景が視える気がした。
案の定、
「お知り合いの危機を放っておかれるはずがありませんよね? ね? ヒューさん‥‥」
長椅子の上、半ば押し倒される形となり、冷や汗だらだらで狼狽ているヒューと円らな瞳で訴えかけるレジーナにネティは肩を落とす。
不機嫌そうな主の姿まで、ネティの予想通りだ。
「おい」
「邪魔ですわ」
こめかみに青筋を浮かべて肩を叩いたアレクの手を邪険に払い除けると、レジーナは尚もヒューに迫る。
「このままでは、アンドリューさんの身が危険です。どうか、私に力を貸して下さいまし」
ヒューの手を両手で握り締めるレジーナと椅子の端まで後退り、もはや後がないヒュー。傍で見ている者には面白い光景である。
「押すわねぇ。でも、振り解かない所を見ると、ヒューも案外‥‥」
ぶつぶつと呟くネティを押しのけて、広瀬は店内へ足を踏み入れた。
「貴様‥‥。この時間の無い時に何を」
咄嗟にテーブルに置かれていた鍋蓋を取り、頭を庇ったのはレジーナの条件反射。
奇妙に張り詰めた空気が店内に流れる。
「‥‥何だ、その反応は」
「我求める風泊の旅人〜抗う術なく嵐の前に〜‥‥あら?」
睨み合う広瀬とレジーナを中心に冷気が漂う店内を見回して、ニミュエ・ユーノ(ea2446)は首を傾げた。
「皆様、どうなさったの?」
尋ねてみても、返って来るのは、あーとかうーとか要領を得ない言葉ばかりだ。
怪訝そうな視線を仲間達へと向けて、ニミュエはお目当ての人物へと近づく。あんぐりと口を開けている様子がどこか少年っぽい黒髪の青年に。
「あの、わたくし‥‥」
僅かに銀色の光を帯びたニミュエが上目遣いにアレクを見上げる。
「人を捜しておりますの。ご協力‥‥頂けませんか?」
月の精霊魔法付きのニミュエの頼みに、仕方無さそうにアレクは頷いた。
「出来る範囲でなら、な」
「まぁ! 嬉しいですわ」
喜ぶニミュエに「出来る範囲」を強調し、髪を掻き回すアレク。レジーナと広瀬は相変わらず睨み合ったままだ。
「‥‥あのぉ、よろしければぁ、アンドリューさんの事を教えて貰えませんかぁ?」
忘れ去られている間に何とか体勢を整えたヒューの耳元に、エリンはヴェントリラキュイで声を送った。小さく頷いて、その場から抜け出したヒューに労いの言葉をかけてみる。
「大変ですねぇ、ヒューさんも」
「‥‥いえ」
彼が憔悴しているような気がするのは、エリンの見間違いではなかろう。
「それでぇ、アンドリューさんの特徴を教えて頂きたいのですけれどぉ」
「ああ、はい。アンドリュー様は金色の髪と青い瞳をお持ちで、何と申しますか‥‥お元気な方で」
言葉を濁したヒューに、エリンはネティと顔を見合わせた。
「おじいちゃん?」
「いえ、まだそういうお年では。我々にとって‥‥その‥‥兄‥‥とも言うべき方ではないかと」
「‥‥ヒュー、目が泳いでる」
ネティの冷静な指摘に、ヒューが慌てて居住まいを正す。
「宿場町とやらに行けば、噂なり事件なりの話を聞く事が出来ると思います。あの方は、いつも何かしらの事件に巻き込まれておいでですので」
ちらりと、ネティはニミュエを相手に似た内容を語るアレクを見た。
「2人が一緒に来てくれれば早いと思うんだけど」
途端に、アレクの肩がびくりと震える。
「じ‥‥冗談じゃないぞ。何を好き好んで奴に会いに行かにゃならんのだッ」
「と言うわけですので」
トラウマでもあるのか、直接的に激しく拒絶をしたアレクと、遠回しに断ったヒューの様子を交互に見て、エリンはぽやぽやと笑うと仲間を促した。思っていたよりも重い2人の口からこれ以上の情報は得られそうにない。
「仕方がないですねぇ。町へ行けば何かがあるみたいですしぃ、サリさんやカッツェさんも待ってますから」
その言葉に、仲間達は不承不承に店を出て行く。
「ああ、そう言えば」
思い出したように、ブランカが足を止めてアレクを振り返った。
「サリトリアがアンドリューを捜すのに貴方の名前を使うと言っていたわ」
え゛?
石化したアレクに華やかな笑みを残し、ブランカは仲間達の後を追ったのだった。
●宿場町
もうすぐ仲間達が到着する。
携えて来るであろう情報が届けば、色々な方策も取れるだろう。今は町中の状態を把握し、彼らがすぐに動けるよう手筈を整えておけばよい。
撒いた餌に何かが掛かれば御の字だが‥‥
「誰か待ってるんだ?」
馴れ馴れしく声を掛けて来た男に、考えを巡らせていたサリトリア・エリシオン(ea0479)は眉を顰めた。こういう輩は無視するに限る。
「おやおや? もう行っちゃうの? ここ、結構面白いものが一杯あるのに」
山積みにされていた商品の中から、男は小さな貝殻のネックレスを引っ張り出す。
「ほら、コレ。つけてると船酔いをしないんだって。なんだって陸地で船酔いのお守りなんて売ってるんだろうね?」
「行こう、カッツェ」
貝殻の首飾りを2つ買い求めると、男は店を出ようとしたサリトリア達の前にぶら下げる。
「はい、プレゼント」
ここまで来ると怪しいを通り越して胡散臭い。
「えーと、どちら様ですか?」
露骨に顔を顰めたサリトリアの代わりに尋ねるカッツェ・ツァーン(ea0037)へ、男はにっこり嬉しそうに笑ってみせた。
「どちら様って聞きたいのは俺の方なんだけど?」
何かを含んだ物言いに、サリトリアは表情を変える。
「お嬢ちゃん達、捜してたでしょ? アレクシス・ガーディナー。俺の知り合いにも、似た名前の奴がいるんだけどさ」
「まさか、お前‥‥」
驚いたサリトリアが言葉を続けようとしたその時、男の体がぐらりと揺れた。
咄嗟に身構えたサリトリアとカッツェの目に、男に攻撃を仕掛けた者の姿が映る。
「‥‥えーと」
ぽりぽりと頬を掻いたカッツェの、何かを尋ねたそうな視線。
気づいてはいたが、答えようがない事は答えられない。仕方がないではないか。ずきずきと痛み出したこめかみを押さえて、サリトリアは大きく溜息をついた。
「おいコラ、おっさん! 人を働かせておいて女を口説いてるたァ、いい度胸だな」
「誰がおっさんかッ!」
目の前で繰り広げられる馬鹿馬鹿しい子供の喧嘩。
「‥‥子供の、って言うのは間違いだよね‥‥この場合」
見たままを言えば、大人と子供の喧嘩。ただし、子供なのは男に攻撃(蹴り)を食らわした少年で、男はどう見ても「分別のある年齢」の大人だ。
「あ‥‥頭痛くなってきちゃった」
自分は、もう「とっく」にだ。
そう答えようとしたサリトリアは、感じた殺気にシールドソードへと手を伸ばした。いつの間にか、人の流れが途絶えている。残っているのは、一般人とは思えない殺気立った者達。気配を消して人波に紛れ込んでいたのだろうか。その数の多さに、カッツェは肩を竦めた。
倒せない事もないが、全部を相手にするのは大変そうである。
「お前、‥‥アンドリュー、心当たりは?」
「んー? ありすぎてよく分からない」
どこまでも巫山戯た奴だ。
内心、舌打ちをして、サリトリアは周囲の男達へと剣を向けた。カッツェもアンドリューと少年を背に庇い、印を結ぶ。
張りつめた緊張が臨界に達していた。
「お〜っほっほっほ」
敵に定められていた剣の切っ先が大きく揺れる。
「貴方達、わたくしをニミュエ・ユーノと知っての所業かしらん?」
「知っての、って‥‥」
突然現れてそんな事を言われても困惑するだけだ。
思わず敵に同情したくなったカッツェの心情を知る由もなく、どんどんと状況は変化していく。
「ほらねっ! 太陽神のお告げに間違いは無かったでしょ」
「アンドリュー氏だな。キャメロットまで貴様の護衛を引き受ける事になった」
わいわいがやがや。
いきなり賑やかになった周囲に、サリトリアもカッツェも、殺気立っていた敵でさえも武器を構えたまま唖然とした。戦意を殺がれた者達に、やる気満々のニミュエの歌声が響き渡る。
「なんつーか‥‥」
傍らに寄り添ったエリンに、アンドリューは小声で尋ねた。
「おたくら、いつもこんなん?」
「えーとぉ」
ここで「そうです」と答えれば、冒険者に対して間違った印象を与えるかもしれない。
かと言って「違います」とも言い切れず。
さすがのエリンも答えに困って言葉を濁した。
●予感
道中、襲われること数度。
それらを全て撃退して、アンドリューを無事にキャメロットまで送り届けた。
自分を呼び寄せた商人が心配して依頼を出したのだろうと言うアンドリューの言葉をそのまま信じても良いものか。
「なぁ! おっさん見なかった!?」
心に引っ掛かるものの正体について考え込む彼らを呼び止めた幼い声に、ブランカは足を止めた。
「‥‥依頼主の屋敷に行ったのではなくて?」
「行ったよ! でも、俺を部屋ン中に押し込めてどこかに行っちまったんだ!」
地団駄を踏むと、少年は呆気に取られる彼らに目もくれず、つむじ風の如き勢いで走り去る。
「‥‥あの方向って、確か歓楽街ですよねぇ」
ぽつり呟いたエリンに、ネティが慌てて少年の後を追った。
「ねぇ、もしかして私達って」
「言うな」
カッツェの言葉を遮って、広瀬は拳を震わせた。
キャメロットに厄介事を引き入れてしまった気がするが、ここは深く考えてはいけない。
願わくばあの男が問題を起こさぬように、とサリトリアは夕闇の迫る空を見上げて祈った。