初雪が降ったら‥‥
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 46 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月25日〜12月02日
リプレイ公開日:2004年12月03日
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●オープニング
「初雪が降ったら、会いに来ます」
夏が終わり、秋が訪れる頃、娘はそう言って儚げな笑みを見せた。
もうすぐ、雪が降る。
けれど、彼女は訪れない。
そうと知ってはいるけれども‥‥。
見るからに憔悴しきった青年がギルドを訪れたのは、真中を過ぎたと思えばあっという間に傾いた太陽が、1日の最後に投げた光も消える頃。
まるで死人のように青白い顔をして扉を開け放ち、陰鬱な表情で中へと入って来た青年に、室内はしんと静まりかえった。
周囲の冒険者達を気に留める事もなく、青年は受付台へと歩み寄る。
「これで‥‥僕の依頼を受けて下さい‥‥」
台の上に乗せられたのは、幾ばくかの金。
金と青年と顔とを交互に眺めていた受付係が同僚に小突かれて正気に返り、慌てて羊皮紙を取り出す様に、ギルドの中にも騒がしさが戻る。
「随分と追いつめられている様子だな」
「モンスターだろうか」
冒険者達が小声で囁き交わすのは、当然の如く、幽霊のように現れた依頼人についてだ。
「一体、どのような依頼でしょうか?」
しばらくの間、迷いを見せていた青年は細く震える声で語り始めた。
青年には恋人がいた。
青年の村から小さな山を1つ越えた所に住んでいた優しい娘だった。
「僕達は毎日のように会えるわけではありませんでした」
小さいとは言え、山を1つ越えねばならない。
青年には仕事があったし、娘も両親の手伝いをせねばならなかった。
秋になれば穀物の収穫と冬支度とで忙しくなる。しばらく会えないと互いに知っていたから、彼らは1つの約束を交わした。
初雪が降ったら、彼女が青年に会いに来る、と。
両親に青年の事を話し、ちゃんと許しを貰って来るから待っていて欲しい。頬を染めて語る娘に、青年は頷いた。
「僕には親がいません。‥‥彼女の両親は、彼女の話を聞いて激怒したそうです」
どこの馬の骨とも分からぬ青年に大事な娘をやるわけにはいかんと、彼女の両親は青年と会う事をきつく禁じた。
それどころか、彼女を遠い修道院に入れようとまでした。
「彼女は、両親をとても愛していました。ですが‥‥」
青年に会う事を禁じられ、遠い修道院に預けられる事となった彼女は絶望した。修道院に入れば、青年と交わした約束を守れない。
彼女にとって、親の言葉は絶対であった。
だが、青年への想いは捨てられない。
親か、恋人か。
どちらかを選ばねばならない状況に追いやられた彼女がとった行動は、湖に身を投げる事だった。
「‥‥そんな‥‥」
話を聞いていた少女が、瞳を潤ませて頭を振る。
「そんなの、選んでないです‥‥」
青年は寂しげに笑うと、話を続けた。
「彼女が亡くなったと知っても、僕にはどうする事も出来ませんでした。彼女の両親は僕と会ってはくれませんでしたし、彼女がどこに眠っているかも教えて貰えませんでした。ですが‥‥」
もうすぐ、彼女と約束した季節が巡って来る。
楽しみに待っていたはずの季節の訪れを、悲しく沈んだ心で迎えようとしていた彼は、奇妙な事に気づいた。
夜、村中が寝静まった頃に、家の前までやって来る足音が聞こえるのだ。
最初は誰かが訪ねて来たのかと思った。
しかし、扉を叩く気配はなく、やがて足音は彼の家の前から去っていく。
気になって、外を覗いてみても誰の姿も見えない。
そんな出来事が続いたある日、彼は近くに住む老人から驚くべき話を聞かされた。
真夜中、老人の家の前を通り過ぎていく女がいるというのだ。女は、青年の家の前に佇み、じっと扉を見つめているという。
老人からその女性の容姿を聞き出して、青年は青ざめた。
背格好や年の頃、髪の形も死んでしまった恋人とよく似ている。まさか、と彼は思った。
「だから、僕は確かめようと思ったんです。昨夜、僕はその足音が聞こえるのを待ちました。そして、家の前に止まるのを見計らって、扉を開けたんです」
暗闇の中、彼が想い続ける娘がいた。
思わず駆け寄った青年に、娘は青白い頬に笑みを浮かべると、ふわり身を翻して走り去ってしまった。
「『初雪が降ったら』‥‥そう聞こえたような気がしました」
青年の話に、冒険者達は微かに身を震わせた。
何やら背筋に寒いものを感じるのは気のせいだろうか。
「つまり‥‥あんたは俺達に、その娘の正体を確かめて欲しいわけか?」
乾いてしまった唇を舐め潤して、冒険者は青年の顔を真っ直ぐに見据えて尋ねた。
「それとも、その娘が2度と現れないようにして欲しいのか」
辛そうに、青年は口を開く。
「どちらもです。もし、その娘が本当に彼女なら‥‥約束から解き放ってあげたい」
組んだ指が白くなる程握り締められた青年の手を見つめていた別の冒険者が、冷たい口調で問う。
「夜な夜な現れる女が、本当に死んだはずの娘ならば‥‥それは俗に言う幽霊‥‥モンスターとして分類するならばレイスと言ったところだな。‥‥俺達に、自分の恋人を退治させたいわけか」
青年は首を振りかけ、しばしの逡巡の後で頷いた。
「モンスターのまま、彼女がこの世を彷徨うぐらいなら、皆さんの手で眠らせて下さい。彼女の魂を救う為になら、僕はどんな事でもします」
青年の悲痛な決意に、冒険者達は言葉なく互いの顔を見合わせた。
●リプレイ本文
●疑惑
依頼内容の詳細を聞いたレヴィ・ネコノミロクン(ea4164)は、はてと腕を組んだ。
「聞いた事あるわ、そういう話。華国? ジャパンかな?」
彼女に近い場所で状況を確認していた笠原直人(ea3938)が、その言葉に顔を上げる。
「どんな話ですか?」
彼の遠く離れた故郷、ジャパン。イギリスで故郷の話を聞く事はそう多くはない。興味を惹かれて、直人はレヴィに尋ねた。
同国人である沖田光(ea0029)もレヴィの言葉を聞き取ろうと耳を澄ます。
「夜中、背中に恋人背負って逃げるんだけど」
「それ、立場逆‥‥」
「力のある女性ですねぇ」
感心するクウェル・グッドウェザー(ea0447)とトリア・サテッレウス(ea1716)へ、何と説明すべきか思案しつつ、直人が口を開きかけたその時に
「僕はお地蔵さんが犯人ではないかと‥‥」
真面目な顔をして光が呟いた。
「夜中に米俵持って来るんですね?」
思わずぽんと手を叩いた直人に、光は更に考え込む。
「という事は、初雪が降った夜に、扉の前に正月用品がどっさりと‥‥ああっ! しまった!」
光はふるふると頭を振る。癖のない艶やかな黒髪がさらさらと宙に舞った。
「イギリスにはお地蔵さんがいませんーっ!!」
「‥‥ジャパンの話は横に置いておくとして、初雪が降るまでに調べなければならない事が山とある」
苦悩する光を一瞥した後、冷静に話を引き戻したジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)に、ネフティス・ネト・アメン(ea2834)が勢い込んで大きく頷いた。
「そうよ! まだ彼女の幽霊だって決まっていないもの。それを確かめなくちゃ!」
いつにも増して気合いの入ったネティの様子に、ジラは苦笑して肩を竦めて仲間達を見回す。
「という意見も出ている。‥‥俺も調べたい事があるんでな。娘の村に行って来る」
「では」
静かに、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)は手を挙げた。
「私はこの村に残るわ。‥‥彼女が、彼に何を伝えたかったのかを調べたいの」
レイスは見境無く人を襲うという。だが、依頼人の話を聞く限りでは、レイスに襲われた者はいない。真夜中にやって来る女性の姿を見た老人も、彼自身も。その1点がヴァージニアの心に引っ掛かっていた。
「そもそも、彼女は本当に死んでしまったのかな」
幽霊=地蔵説について真剣に考えながら、直人は自身の中に生まれた疑問を口にした。
「墓の場所も教えてくれない、会ってもくれない彼女の両親が知らせてくれるはずがないし」
「村と村の交流が無いわけではないもの。身投げした娘の噂ぐらいは聞こえて来るでしょう? それに、生きていたとしても、女の子が夜中、山1つ越えて来るなんて普通に考えれば出来ないわよ」
レヴィの反論に、直人は言葉を詰まらせる。
でも、とレヴィは爪を噛んだ。
彼女自身も、本当は直人の考えを否定し切れなかったのだ。
●噂
かれこれ小1時間も、光はその場所にいた。
おば様方というのは、どこの国でもパワフルだ。娘の村で、仲間達と分かれた光がまず最初にした事は、村のおば様達と仲良くなる事、であった。他愛ない世間話から始めて、やがて必要な話を聞き出すつもりだった。それは簡単なように見えて、実は非常に難しい。
世の常として、おば様のおしゃべりは目まぐるしく話題が変わる上に、無駄が多いものだからだ。
「それで、ですね。最近、この村で‥‥」
「最近? そういえば、最近、お隣りの」
「ジョンの事はもういいですから」
きっぱり切り捨てた光に、おば様が怪訝そうに顔を見合わせる。
「何を言ってるの。お隣りの、と言えばマイケルの事でしょ」
そうよそうよと合唱を始めたおば様方に、光はがくりと肩を落として背もたれに額を預けた。どうやら、必要な情報が得られるのはまだまだ先のようだ。
「そうそう、そのマイケルが、最近、奉公に出ている恋人が村に戻ってもこないと浮かない顔で」
「仕方ないわよ。お姉さんを亡くしたばかりですもの。マイケルも少し待ってあげりゃいいのに」
はた、と光は顔を上げた。
「山の向こうで、お嬢さんに良く似た女性が目撃されていると、ご存知ですか」
同じ頃、クウェルとジラは死んだ娘の両親の前にいた。
クウェルの問いに、両親は落ち着かない様子だ。突然に訪れた神聖騎士に、死んだ娘の話を持ち出されて動揺しているのがありありと見てとれる。
「神より賜った命を捨てるとは許されない行い。それはお分かりですね」
淡々と語るジラの言葉に、両親は竦みあがった。
両親を責める為に来たわけではなかったが、これはこれで都合がいい。
クウェルはジラと視線を交わして厳かに続けた。
「お嬢さんがレイスとなって彷徨っているのならば、僕達は神に仕える者としてその魂を救いたいのです」
●レイス
来た。
女性を目撃した老人の家から様子を見ていたレヴィの体に緊張が走った。合図に声無く頷いて、ヴァージニアもそっと裏口の扉を開ける。
「無茶はしないで下さいよ」
「分かってるわよ」
釘を差した直人に、犬を追い払うように手を振って、レヴィは挟み撃ちにするタイミングを計る。
「やっぱり幽霊より現実の女性の方が怖いよな‥‥」
「何か言った?」
棘を含んだレヴィの声に、直人は慌てて頭を振った。
「言ってない。俺よりネティの方が強いだなんて、1言も言ってないッ」
「‥‥今、言ったじゃない」
こいつもなんだかなぁ。
呆れ顔をしたレヴィの表情が改まる。裏から回ったヴァージニアが「彼女」の行く手を遮るように現れたのだ。
「行くわよ!」
直人の首根っこを掴まんばかりにしてレヴィは通りへと飛び出した。
ヴァージニアの登場に動揺した「彼女」は慌てて身を翻す。
「あなたはどなたですか」
人気の無い通りにヴァージニアの声が響いた。
「レイス、じゃないよね。当然、幽霊さんでもない。直人、逃げられないようにね」
「分かってるよ」
逃げ道を塞いだ直人の鋭い視線に、女は活路を見出そうと必死だ。そんな女の様子に、レヴィは印を結んだ。彼女の体が薄茶色の光に包まれると同時に、女の動きが止まる。
「村の人に聞きました。最近、森に住み着いた女性がいると」
流れて来た者が森に居着くのは珍しくはない。だが、村人に聞き込んでいる最中に、ヴァージニアの中に疑惑が生まれた。女が居着いた時期と、依頼人のもとに娘が現れるようになった時期とを確かめて、それは確信へと変わったのだ。
「あの方の恋人の振りをして、どうするつもりだったのですか」
「彼女は、死んだ‥‥依頼人の恋人だった娘さんの妹です」
ヴァージニアの問いに答えたのは、暗い夜空からフライングブルームで舞い降りたクウェルであった。
「妹?」
「ええ、妹だったんです」
クウェルより僅かに遅れ、馬で山を越えた光は、手綱を引くと女の傍らへと近づき馬を下りる。
「お姉さんが死んだのは彼のせいだって、貴女はそう思ったんですね」
「私は‥‥!」
周囲を囲まれ、最早逃げられないと悟ったのだろう。
女は袖口に隠し持っていたナイフを振りかざし、光へと襲いかかった。
「やめて下さい! こんな事をして何になるんですか!」
冒険者相手に彼女の一撃など、子供の剣遊びに等しいものだ。だが、相手に追い詰められた女にはそれに気付く余裕はない。再びナイフを振り上げた彼女に、光は辛そうに首を振る。
「やめろ」
女の手首を捕らえたのは、白馬の手綱を引いたジラだった。
「こんな事をして何になる。君は知っているのか? 君の姉上の亡骸が無くなった事を」
ジラの言葉に、女だけではなく、レヴィや直人、ヴァージニアまでもが目を見開く。
「そして、僕達の推測が当たっているとしたら‥‥」
きゅっと唇を噛み締めて、クウェルは依頼人の自宅を振り返った。
●願い
「どうして、このような事をするのですか?」
娘は何も答えない。肉が崩れかけた手をトリアの視線から隠し、無言で佇むだけだ。
「約束、守りたかったの? そうよね?」
上擦った声で口早に尋ね、ネティは娘に向かって1歩足を踏み出した。
途端に、娘の気配が荒ぶる。
悲しげに俯き、トリアは胸元のクルスに手を当てた。冷たい金属と石を握り締めて、彼は1言1言を搾り出す。
「お分かりでしょうが、貴女は既にこの世のものではない。ここに存在してはならないのです」
「ちょっと待って! 彼女を倒すって言うの!?」
悲鳴のような声をあげて、ネティはトリアの前へと回り込み、彼の腕を掴んだ。
死してなおも恋人に会いに来た娘をただのモンスターとして倒すなんて、ネティには絶対に許せなかった。
「そんなの駄目よ!」
トリアを突き離すと、ネティは依頼人の体を揺さぶる。
「ねえ! 彼女と話してあげて。彼女を本当のモンスターにするかどうかは、貴方次第なのよ! ねぇ!」
「‥‥貴女が、こんな姿になってまで彼の前に現れた理由は何ですか? 初雪の約束を守りたかったから? その約束を終えたら、どうするつもりですか?」
トリア! と、ネティが叫んだ。
彼は何を言い出す気なのだろう。
だが、トリアは言葉を止める気はないようだった。
「もしも、貴女が彼を連れていくおつもりならば、僕は貴女の行動を阻止します。それが、僕の受けた仕事ですから」
依頼人は何も言わず、ただ食い入るように変わり果てた娘の姿を見つめていた。決して目を逸らす事なく、真っ直ぐに彼女を見つめ続ける。
「だから、貴方も馬鹿な事を考えないで下さい。どんなに共にありたいと願っても、それは‥‥」
十字架と勾玉を握るトリアが苦しそうに喘ぐ。彼自身も、こんな事は言いたくはない。恋人達を引き離したくない。しかし、それは許されない事なのだ。
「‥‥分かっています」
青年は、感情のない声でトリアに応えた。
娘から離れない視線が、それが彼の本心ではないと告げている。
「どうして、どうしてそんな事言うの! 彼女は!」
信じられないとネティが激しく首を振ったその時、外が騒がしくなった。
何事かと扉に駆け寄ろうとしたトリアを、娘が遮る。
扉そのものを隠すように塞いだ娘に、トリアは戸惑ったように依頼人とネティを見、そしてゆっくりと手を伸ばした。
「貴女は、もしかして‥‥」
娘の頬に手を伸ばしかけて、寸前で止める。
外では争うような音がしばらく続き、やがて元の通り静かになった。
そろり、と娘の体が動いた。
扉から体をずらし、トリアとネティ、そして恋人の視線を避けるように項垂れる。
「願いは叶っただろ。もう、気が済んだでしょ」
娘と外の騒ぎに気を取られていたトリアは、突然に聞えた声に反応して身構えた。いつの間に入って来たのか、部屋の中に1人の女がいる。
「貴女は!」
蝋燭の微かな光が照らし出した女の姿にネティが驚くよりも早く、娘が女のもとへと駆け寄る。
「さ、行くよ」
「待って下さい! 彼女をどこに連れて行く気ですか!?」
呼び止めたトリアに、女は足を止めて振り返った。
「元に戻すのさ。アンタ達には辛いだろ」
短く吐き捨てて、女は娘を伴って歩き出す。闇に翻った黒髪を見送りながら、トリアは手にした十字架に口付けて哀れな魂の為に祈りを捧げた。
「悲しき御魂に安らぎを‥‥」
「ね、大丈夫よ」
恋人の姿を目に焼き付けるように見つめ、涙を流す依頼人の手を、ネティは軽く叩いた。
「神の御元に召された魂は、いつかまた地上に生まれ出て‥‥そして、必ずもう1度巡り合えるから。だから‥‥」
涙声になったネティの肩に、暖かな手がそっと置かれる。
「‥‥直人」
彼の後ろには、仲間達の姿もある。
ジラが腕を掴んでいるのは、今までここにいた娘によく似た少女。
「彼女は、彼に危険を伝えたかったのでしょうね」
小さく、ヴァージニアが微笑んだ。
今にも泣いてしまいそうな微笑みに、ネティがしゃくりあげて手で顔を覆う。
「送る歌を、せめて彼女に」
優しく切なく、ヴァージニアの声が鎮魂の歌を紡いでいく。
その物悲しいメロディに耳を傾けながら、ジラは掴んでいた娘の手を離した。復讐の計画が露見し、死して尚も恋人を守ろうとした姉の想いを知った彼女は、これ以上、青年に危害を加えないだろうと判断したのだ。
依頼人と崩れ落ちて号泣する娘の姿に、ジラは不意に呟いた。
「‥‥戻ったら、兄上に口添えしてやろうか」
恋と家族との間で苦しんでいる自身の妹の顔が、ジラの脳裡に浮かぶ。愛しい妹にこんな悲しい想いをさせたくはない。やはり、妹には幸せになって欲しいと思うから。
そう決意して、彼はマントの襟を立てると、雪が薄く積もった外へと静かに歩き出した。