英雄、探しています
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月22日〜06月27日
リプレイ公開日:2004年06月30日
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●オープニング
むかし、むかし。
その森は人の立ち入れないモンスターの森だった。しばしば、モンスターは里へと現れて略奪と殺戮とを繰り返し、人々は、日々を怯えて暮らすしかなかった。
‥‥1人の青年が現れるまでは。
彼は、里の現状を知ると、単身、モンスターの森へと向かった。
7度、太陽と月が昇った後に、彼は里に戻って来た。
「安心してください。もう、奴らは現れない。貴方達は、モンスターの恐怖から解放されたのです」
誇らしそうに告げると、彼はそこで息絶えた。
里の人達は、命がけでモンスターを退治し、自分達を守ってくれた青年への感謝を込めて、毎年、その日に森で祭りを行う事にした。
『英雄』となった彼の偉業を後世に語り継ぐ為の祭りを。
それは、ずっとずっと昔のお話。
「‥‥英雄、探しています‥‥ねぇ」
ギルドの貼り紙を指先で弾いて、青年は喉の奥でくぐもった笑いを漏らした。
そんな主の袖口を窘めるように引いて、銀色の髪の青年は息をつく。言わなくてもいい事を口に出して争いの種をまくのは、なるべくなら避けたい。
「里の方々も困っているのですから」
「こんな貼り紙で『英雄』が集まるのなら、とっくにやっているさ」
どこか小馬鹿にした口調の主に、青年の笑みも苦くなる。だが、彼はすぐさま、それを包み隠して人当たりの良い表情を作った。
「ですが、人々の窮状を見捨てるようでは、真に我々が探している者達であろうはずがありません」
「それはそうだが」
主の苛立ちも分かる。
こうして、キャメロットのギルドに足繁く通っているにも関わらず、彼の目的は果たされるどころか、その最初の一歩を踏み出す事さえも出来ぬ状態なのだから。
「待ちましょう。ここには大勢の冒険者達がやって来ます。いつか‥‥‥」
瞳に宿る野心が消えぬ限り、いつかチャンスは訪れる。
そう信じて、彼は貼り紙に目を向けた。
「森にモンスターが現れる‥‥か」
2人の青年が見つめていた貼り紙の前に、1人の冒険者が足を止めたのは、それから数刻後の事であった。
「森に巣くったモンスターを退治した英雄を祀る為の祭りが、モンスターの為に行えない‥‥とは皮肉だな」
里の人々も困り果てて、こうしてギルドに助けを求めたのだろう。
「祭場は森の奥、昔の『英雄』とやらがモンスターと死闘を繰り広げた場所だそうだ。そして、今、そこにモンスターが出没する」
別の冒険者が声を掛けた。
どうやら、彼よりも先に貼り紙の内容を読んでいたらしい。
「それで『英雄、探しています』か」
「そう。里の人々は求めているのさ。再び、自分達を救ってくれる『英雄』を‥‥な」
彼は貼り紙に見入った。
場所はさほど遠くはない。
キャメロットからであれば、往復で5日ほどの距離だろう。人里が少ない地域だから不便そうではあるが。
「要するに、祭場に出没しているモンスターを退治して、祭りを行えるようにすればいいわけだ」
モンスター退治に慣れた者達にとって、取るに足らない内容かもしれない。だが、その字面から、言葉にならない人々の叫びが聞こえて来るような気がした。
「状況から察するに、コボルトが数匹にグランドスパイダ‥‥か。念のため、毒消しは用意しておいた方がいいな。ジャイアントラットは数によるが、大した手間は掛からないだろう」
コボルト如きの毒を甘んじて受ける気はないが、備えあれば憂い無しというやつだ。グランドスパイダは巣穴を見つける事が出来れば、先制攻撃も可能だし、ジャイアントラットに至っては、数に任せて襲いかかって来るのを、切って切って切りまくればいい。
「チョンチョンがいる可能性もある。‥‥受けるのか?」
声を掛けて来た冒険者に、彼は肩を竦めてみせた。
「目があってしまった、というやつだ。仕方がない」
1つ、仕事を終えて来た所だ。金に困っているわけではない。だが、何故だか放ってはおけなかった。
「そうか。偶然だが、俺も同じだ」
精悍な顔に不敵な笑みを浮かべ、男は親しげに彼の肩を叩いた。
「しばらくはお仲間というわけだ。よろしく頼むぜ、相棒」
「‥‥ギルドに大事な事を言わなくても良かったのですかい」
里へと向かう帰り道、男は小声で前を行く小太りな男に尋ねた。
「お前なら言えたか」
返る声も潜められる。
周囲には彼らだけしかいないと言うのに、自然と声が小さくなるのは後ろめたいからだろう。
「死人が襲って来るから殺してくれ‥‥なんて言えない」
苦しげに男は顔を覆う。
例え、それが命を失っていたとしても、かつては彼らと同じ人であったもの。
「しかも、それが本当にいたのかどうかも分からないのだぞ」
「でも、里長‥‥」
見たという者がいる。
森の中を徘徊する人の形をしたモノを。
だが、それが確かにそうであるとは限らない。よく似たモンスターも多いし、それが目撃された当時は、まだ森に人が出入りしていた。見間違いである可能性は高い。
「もしも、万が一、そうであったとしても、必ず何とかしてくれるはずだ。必ず‥‥」
祈るように、彼は急速に夜の色を増していく空を見上げた。
「さあ、早く戻ろう。夜は里の周囲も危険だからな」
●リプレイ本文
●英雄の眠る場所
例年であれば、華やかな飾り付けで森も祭壇も賑やかになっている時期だと、老婆が語った。しかし、一連のモンスター騒ぎで、今年は森に近づく者がいない。そんな話を聞いたからだろうか。村の「英雄」が眠るこの場所が、やけに寂しく感じる。
レクルス・ファルツ(ea0231)は共に不寝番をしていたクウェル・グッドウェザー(ea0447)に話し掛けた。
「どうやら、今夜は何も起きそうにないな」
聞いた話とは違う。「月のない夜、怪物が出て来て人の生き血を啜るよ」そう脅され、森で野営を張る事をとめられたのだが。
「拍子抜けですね」
答えるクウェルは、どこか上の空だ。
もう1つの噂が、彼の頭の中でぐるぐると渦を巻く。
「ッ!」
突如、間近で上がった苦悶の声に、クウェルは咄嗟にクルスソードを握った。
「どうしました? レクルスさん?」
「く‥」
油断大敵。気をおつけ。あの森には化け物が住んでいるのだから。
聞かされた言葉がクウェルの中に蘇える。だが、今はそんな声に耳を傾けている場合ではない。レクルスを襲った事象をはっきりさせ、適切な処置を施す。例えば、それが死んで尚も彷徨い続ける哀れな者ならば、救ってやらねばならぬ。
並々ならぬ気合いと共に、クウェルはレクルスを振り返った。クルスソードを構え、いつでも魔法を使えるよう心も研ぎ澄ませて。
が、しかし。
はむはむはむ‥‥。
レクルスの腕を囓っているのは、半分以上眠った状態のカファール・ナイトレイド(ea0509)。
「‥われてしまった。さて、どうするか」
苦笑しつつカファールを摘み上げて、レクルスはこつんとその頭を指で小突く。うにゃむにゃと意味不明な言葉を返すシフールの娘に、クウェルは笑いを堪え、そう言えばと思い出した。
「カファールさん、確か保存食を持って来ていませんでしたね」
起きたら、僕のを分けてあげるねとクウェルは彼女を自分のマントに包んで寝かせた。
「月のない夜、か」
レクルスの呟きに、クウェルは空を見上げた。夜空に引っ掻いたような月が浮かぶ。
新月は明日だ。
●不器用な優しさ
現れると聞いたモンスターについての知識は、一通り頭に叩き込んだ。道すがら講義をしてくれたヴォルフガング・リヒトホーフェン(ea3143)に感謝しつつ、沖田光(ea0029)は注意深く藪の中を覗き込んだ。無闇に突っついて蛇ならぬモンスターを出すのは得策ではない。
「毒を持った奴もいるようですしね」
「なに、安心するといい。万が一の時は薬を使ってやろう」
光とて、そう簡単にモンスターの毒にやられる気はないが、ここは男らしく騎士らしく労ってくれたのであろうレディアルト・トゥールス(ea0830)に礼を述べた。
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」
「気にするな。レディを守るのも騎士の務めだ」
ひくりと光の口元が引き攣る。
「一応、言っておきますけど」
振り返ったレディアルトに、出来る限りの穏やかな笑みを向けて、言い飽きてしまった言葉を彼に贈る。
「僕、男ですから」
止まってしまった彼の歩みを気にもせず、光はスタスタと先へ進んだ。こんな時の相手の反応にも慣れてしまった自分がちょびっとだけ悲しい。
「す、すまん。てっきり‥‥」
「気にしないで下さい。慣れてますから!」
最後の言葉だけ声が大きくなったのはレディアルトの気のせいだろうか。とりあえず、気づかなかった振りをして、再び歩き始めたレディアルトを、光が制した。
「どうした?」
「いいもの、見つけました」
微笑む姿は聖母のよう。
彼が指さした場所を覗き込んで、レディアルトは表情を引き締めた。地面に大きな穴が開いている。イタチや小動物の巣穴にしては大きい。ヴォルフから教わった知識が告げていた。これは、グランドスパイダの巣穴だと。
「中にいるだろうか」
自然と潜められた声に、光は無言で落ちていた石を拾い、巣穴に投げ込んだ。
途端に、何かを擦り合わせたような音が響く。同時に、穴の奥から何かが這い上がって来る気配がする。
ロングソードの柄を握り締め、光を庇って前に出る。
「ああ、ここは僕にやらせて下さい」
にこやかに告げて、自分を庇う腕を軽く叩く。その背後で、硬い毛で覆われた足が穴から突き出された。
動じる事なく、光は穴に向き直った。
その体が赤い光に包まれる。‥‥と同時に放たれたファイヤーボムが、グランドスパイダの巣穴へと吸い込まれた。
言葉無く、レディアルトは、姿を見せる事すら許されずに巣ごと燃え上がった哀れなモンスターの、唯一、外気に触れた足を見つめた。
「火事と喧嘩は江戸の華って言うんですよ」
いや、ここエドじゃないし。
突っ込むかどうか一瞬だけ迷い、レディアルトは溜息をついて髪をぐしゃりと掻いた。
「華はいいが‥‥」
無造作に手を懐へ入れ、些か乱暴に光の腕を取ると、取り出した解毒薬を光の頬に走った傷へと擦りつけた。
「‥‥奴の毒は牙から注入されるんですよ」
「いいから!」
怒ったような物言いに、光は瞬く。
「万が一って事もある! つけとけ!」
不器用なレディアルトの優しさに、光は頬の傷に手を当ててはにかんだように笑って頷いた。
●鉢合わせ
同じ頃、野営地を挟んで反対の木立の中を、ヴォルフと世羅美鈴(ea3472)は並んで歩いていた。その先、木々の合間をすいすい飛んで行くのは、カファールだ。
「カファール、あまり離れるなよ」
「分かってる〜♪」
油断なく周囲の気配を探っている美鈴に、ヴォルフは肩を竦めてみせた。
「本当に分かっているのかな」
「御礼を探しているそうですよ」
美鈴は葉の間に見え隠れするカファールの赤い髪を見つめると、くすりと笑ってマントを払った。美鈴のネイルアーマーに、木の実やらきのこやら、森で自生していると思しき食糧が引っかけられている。
「カファールさんが持っていてくれ‥‥と」
偵察のついでに、食糧を集めているのだ。だから、あっちこっちと飛び回っていたのかとヴォルフは肩を落とした。
「一石二鳥というやつですね」
くすくすと笑い続ける美鈴の声が、静かな森の中に流れた。
彼らの声が聞こえている範囲は大丈夫と、カファールは藪の中できょろきょろと辺りを見回した。ここで何日過ごす事になるのか分からない。食糧調達は彼女にとっては死活問題であるのだが、今日は少々事情が違っていた。
「他に、クウェりんへのお土産は‥‥っと。あ!」
木の根の陰にきのこを見つけて、カファールは手を伸ばした。また1つ、保存食を分けてくれたクウェルへのお土産が出来た。
‥‥はずなのだが。
カファールと同時に伸びた手は、どう見ても人の手ではなかった。
「わわわっ!」
後ろへ飛び退ったカファールの声に、周囲の藪が慌ただしく動き出す。
「どうした!」
カファールの後を追うように飛び出して来た灰色の集団に、ヴォルフは全てを悟って弓に矢をつがえた。1本ずつでは追いつかない。一気に2本の矢でジャイアントラットを射抜く。
美鈴も抜刀すると、襲いかかって来た鼠を切り伏せた。
「さてと‥‥次の私の相手は誰ですか?」
ぐるり見渡すと、気迫に圧されて鼠どもが後退る。
そこから先は、ただただ切って切って切りまくり、撃って撃って撃ちまくるのみだ。
モンスターと言えど、所詮、鼠は鼠。集団であっても、たかだか2人の冒険者の前には歯も立たなかったのである。
●新月
静かな夜だった。
昼の間に、現れると聞いたモンスターの粗方は倒したわけだから、冒険者達はゆっくりと休み、疲れを癒せるはずだ。なのに、それぞれで寛いでいるはずの彼らの間から緊張が抜けない。
「なあに、月が隠れていようが心配するこたぁない。慈悲深い聖母様がちゃあんとお守り下さるさ」
子供はさっさと寝る! と、食事の後、ベアトリス・マッドロック(ea3041)の手で十代の冒険者達が強引に寝床に押し込まれるのを苦笑して見つつ、今日の不寝番となったシスイ・レイヤード(ea1314)は息をついた。
木に背を預けると、1日中森の中を歩き回った体が疲れを訴えて来る。
「‥‥全く‥‥あの村の連中は自分で‥‥何とか‥‥しようと言う気はなかったのだろうか‥‥」
昔も今も「英雄」に頼り、自分達はより安全な村の中で嵐が過ぎ去るのを待っているだけの村人達へのぼやきにも似た不満。
「そう言いなさんな。誰だって自分と違うモンは怖いのさ。それが、自分達に害を与えるモノなら尚更さ」
深く響くベアトリスの声に、シスイは無言で空を振り仰いだ。
「いろいろと‥‥気をつけないと‥‥な」
それが何に対しての言葉であるのか、ベアトリスは追及しなかった。子供達を立派に育て上げたこのクレリックの女傑は、世の酸いも甘いも噛み分けていたので。
「昼の間に討ったモンスターは、グランドスパイダとジャイアントラット、それからコボルトでしたね。後はチョンチョンと‥‥」
ルーラス・エルミナス(ea0282)の声が低くなる。
「ズゥンビ」
ベアトリスの顔から笑みが消えた。村人へと聞き込みを行った彼女が何度も耳にした噂。依頼にはなかったが、この森には死人返りとも呼ばれるモンスターが徘徊している‥‥と。
「何故‥‥死人が‥‥襲って来る‥‥。死人は死人‥‥滅多な事では‥‥」
シスイの言葉が終わらぬうちに、森の中に一瞬の閃光が走った。
「‥‥ライトニングトラップが‥‥発動した‥‥」
その一言に、休んでいたはずの者達も得物を手に起き出して来る。
シスイが祭場に繋がるルートに仕掛けておいた罠の位置から測るに、応戦態勢を十分に整えられるだけの時間はある。
「気を付けな、坊主達、嬢ちゃん達! 聖なる母も祝福して下さるからね!」
仲間達の額に触れて、ベアトリスは彼らに聖なる母の祝福‥‥グッドラックを掛け、レディアルトは己自身を奮い起こすオーラエリベイションを掛けた。
「‥‥来る‥‥」
シスイの呟きに、ルーラスは剣を構えたまま、静かに念を高めた。彼の体の周囲を淡いピンクの光が包む。
突然に、祭場が明るくなった。
予備のランタンの側で息を潜めていたカファールが火を点したのだ。
ゆらゆらと影が不気味に揺れる。
その中に浮かぶのは、肉が腐り、半ば白骨化したズゥンビの姿。
「噂は本当だったって事かい」
気の毒な死者に祈りを捧げたベアトリスの傍らから、ルーラスが飛び出した。この時に備え、念を高めていた彼の先制攻撃だ。
「ズゥンビに通常攻撃は効きません。哀れな魂の為に‥‥お願いします!」
クウェルの祈りにも似た願いに、ルーラスは頷いた。
仲間達の中、彼のオーラパワーがズゥンビには最も効果的だ。オーラパワーを乗せた彼の剣が、朽ちた体に打撃を与えた。
「そして、そこ!」
士気を高めていたレディアルトの剣が暗闇から姿を現そうとしていた顔‥‥人面に似た胴を持つ蝶、チョンチョンを素早く切り裂く。渾身の一撃だ。
「これで、依頼に出てたヤツは出揃ったというわけだ」
大地に落ち、羽根をばたつかせるチョンチョンに剣を突き立て、レディアルトは最後に残ったモンスターを振り返る。
シスイのトラップとルーラスの攻撃を受け、ズゥンビは肉ごと今にも崩れ落ちそうだ。
悲しい死人の姿に、悲痛な表情を浮かべてレクルスはクルスソードを掲げ、祈りを捧げる。彼に手向ける、祈りを。
ルーラスの剣が、再度、構えられた。
それが、死人をこの世に縛り付ける鎖から解き放つ最後の一撃となった。
●存在
見事に森のモンスターを討ち、現代の「英雄」として村に迎え入れられた冒険者達は、それぞれに手渡された仮面をつけ、祭りに紛れ込んでいた。
美味しいものをここぞとばかりに食べる者、華やかな祭りの雰囲気を楽しむ者、楽しみ方は人それぞれだ。
「‥‥お? お前も来たのか」
仮面を外し、かつての「英雄」の墓の前で酒を飲んでいたヴォルフは、見知った姿に片手を挙げた。
「ええ。これを「英雄」さんに預かって貰おうと思って」
クウェルも仮面を外し、手にしていた小さな指輪をヴォルフが置いた杯の隣に並べる。
「これは‥‥」
「ズゥンビの遺品です。村の人に心当たりはないそうで‥‥。他に預かってくれそうな人を思いつきませんでした」
指を組み合わせ、クウェルは英雄とズゥンビの為に祈りを捧げた。
「英雄さんなら、この哀れな人も受け入れてくれそうな気がして」
村とは関係のない者。
どこで命を落とし、どこから何の為にやって来たのか分からない、死人。
素性が分からない点では、ここに祀られている英雄も同じだが、村人達も彼のようには受け入れてはくれまい。
「気の毒な人ですよね。死んでしまった後に‥‥あんな‥‥」
いつの間にやって来たのか、勢揃いした仲間達の中、今にも泣き出しそうな顔をした光が唇を噛む。
「‥‥可愛い指輪」
墓に供えられた指輪に、美鈴が涙を指で拭って微笑んだ。
「きっと、あの人はこんな指輪が似合う女性だったのですね。きっと、今頃‥‥」
忌まわしい呪縛から解放されて、その女性はようやく魂の平安を得た事だろう。
賑やかに流れて来る祭りの音楽の中、彼らはかつての「英雄」とズゥンビとなった気の毒な女性の為に祈りを捧げた。