【栄光のメニュー】新酒開発秘話
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月16日〜06月23日
リプレイ公開日:2005年06月26日
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●オープニング
「ま、こんなものかしら」
書き上がった依頼状を一通り見直して、エリーゼは満足そうに頷いた。
グローリーハンドの開店まで、まだ時間がある。受付嬢が依頼を手際よく処理し、壁へと張り出すのを眺めながら、彼女は小さく微笑んだ。
幼さを残した娘が2人、パーティをしたいと予約を入れて来た時には驚いた。
何しろ、グローリーハンドは冒険者酒場と異名を取るくらい、冒険者の出入りが多い。だが、冒険者ではない娘が出入りするのは少々珍しい。全くないとは言わないが、冒険者の数と比較するならば、やはり圧倒的に少ないのだ。
娘達もそれは分かっていたのだろう。
驚いたエリーゼに、それでも彼女達は一生懸命に拙い言葉で訴えたのだった。
「へぇ、グローリーハンドで誕生祝いか」
顔馴染みの冒険者が依頼を読み上げて振り返る。
そう、とエリーゼは大きく頷いた。
「あらゆる苦難に勇敢に立ち向かい、困っている人々を助ける冒険者に憧れている‥‥純粋な娘さん達のお誕生祝い」
怪訝そうな顔をした冒険者に、片目を瞑る。
「冒険者の噂と一緒に、冒険者が出入りしているうちの店の話も流れているらしくてね」
エリーゼは顔を真っ赤にして頼み込んで来た娘達の姿を思い浮かべた。
「なんか、嬉しいよねぇ」
冒険者に憧れる娘達が、キャメロットを訪ねた時に行ってみたい場所はギルドとグローリーハンドなのだと言う。出来るならば、自分もエリーゼのようになりたいと言われた時の面映ゆさったら!
笑みを深くして、エリーゼは冒険者達に語った。
「その子達は今年の誕生日が過ぎたら、1人前の大人として働きに出るんですって。そんな特別な誕生日の祝いは、憧れの冒険者が冒険から戻った時に一息をつく場所でって、ずっと前から決めていたらしくてね」
顔を見合わせた冒険者にも、照れくさそうな表情が浮かんでいる。
「その特別な誕生日、一生忘れられない思い出にしてあげたいねぇ」
「盛大なパーティにするって?」
それもあるけど、とエリーゼは悪戯っぽく口元に指を当てた。
「憧れの冒険者が、自分達の誕生日に新しいメニューを考えてくれたと知ったら、彼女達、きっと卒倒するくらい喜ぶんじゃない?」
ちょっとしたサプライズというわけだ。
「よし、じゃあ、俺達が心を込めて最高級の食材を使い、世にも珍しい料‥‥」
「ちょっと待って」
やる気満々に拳を握った冒険者をエリーゼが止めた。
腕を組み、半眼気味に冒険者を睨みつけているエリーゼに、腰が引けてしまうのは本能が危険を告げるからだろうか。
「月道を通った食材や、滅多に手に入らないようなものを使われたんじゃ、採算に合わないでしょ。いい? 食材はキャメロットで普通に手に入るものか、もしくは周辺の山や森で調達出来るもの「だけ」」
こくこくと頭を上下に振った冒険者に、エリーゼは念のためにと付け足した。
「勿論、モンスターなんか獲って来たら‥‥分かっているわよね?」
冒険者達の頭の振りが大きくなる。
「さて、と。料理はあっちに任せるとして、あんた達には飲み物を頼むよ」
振り返ったエリーゼの視線に、気を抜いていた冒険者達は不意打ちを食らって飛び上がった。
「なんだい? そのモンスターと遭遇したような反応は」
「い、いや、別に‥‥」
慌てて取り繕う様が怪しい。
だが、それ以上の追及はせずに、エリーゼは彼らに告げた。
「うちは、やっぱり酒場だし、彼女達も大人の味を覚えてもいいだろ。飲み物はエールを使って作っとくれ」
「エールを「使って」?」
慣れ親しんだあの味。あの喉越し。
たまに、財布の中が寂しい時には気の抜けたエールを飲むが、それもそれで良いものである‥‥というのは、この際、横に置いておくとして、冒険者はエリーゼの次の言葉に動きを止めた。
「そうだよ。エールを女の子にも飲みやすくしておくれ」
エールはエールだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
それを、どうしろと?
かぱっと口を開いたままの冒険者を無視して、エリーゼは上機嫌で付け足した。
●リプレイ本文
●女の子の為のお酒
「お酒よ、お酒!! こーゆー依頼を待っていたのよ〜っっ!!」
卓の上に並べられたエールの樽を見るなり、レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)は感極まった声を上げた。三度の飯より酒が好きな彼女には、どうやら願ったり叶ったりな依頼であったらしい。
「エール〜っ! ワイン〜っ!」
興奮しきって、じたばたと暴れるレヴィに、アルメリア・バルディア(ea1757)は幼子を見守る慈母の眼差しを向けると、栗花落永萌(ea4200)が手に持った袋の中の品々を卓の上へと並べた。
ベリー類は少々傷んでいるようだが、品としては悪くない。蜂蜜も本物である。
市場の商品には、たまに粗悪な品が混じっている場合もあるが、アルメリア達はちゃんと見分けて来たようだ。
「たまに思うんだけど、蜂蜜の偽物ってどうやって作るのかしらね」
レヴィの疑問に答えたのは、山本修一郎(eb1293)である。
「蜂蜜に、ワインを煮詰めたものと水や澱粉、小麦粉や砂を混ぜるそうですよ」
「砂ぁ〜!?」
自分が振った話だが、あまりにあまりな内容に、レヴィは額を押さえて頭を振った。
「あたし、もう絶対に偽物の蜂蜜は口に入れない」
「でも、料理に混ざっているものは防ぎようがありませんね」
動じた様子も見せないアルメリアの言葉に、レヴィはがくりと項垂れた。
酒が飲めると浮かれていた気分が急速にしぼんでいく心地がする。
「でも、よくご存知ですのね」
キャメロット中を巡り、ようやく納得出来る材料を見つけたのが4日前。職人に無理を言って譲って貰ったオリーブの木材を削り、磨いて、作り続けて来たゴブレットはようやく形を成した。小さなスノードロップの花を彫り込んでいた小刀を卓の上に置いて、セリア・アストライア(ea0364)は修一郎に微笑みかける。一時は間に合わないかとも思ったが、明日までには何とかなりそうだ。
「以前、店のお客さんから伺った事があるので」
小さく欠伸を零したセリアへ、さりげなく水を差し出すと、修一郎は上品な顔に苦笑めいた表情を浮かべた。ここ、グローリーハンドに限らず、酒場というものは情報が集まってくるものらしい。
「では、女の子にも飲みやすいエールの話はご存知ですか?」
「そうですね、色々と。でも、女の子にも飲みやすいエールとなると‥‥」
エールも酒も、いつの間にか飲めるようになっていた修一郎には、飲めない者の嗜好はよく分からない。
「ワインとか、他のお酒をお勧めする事はありますけどね」
「私、エールは苦味が苦手で」
アルメリア達が買って来た品を見ていたサリュ・エーシア(ea3542)が小声で呟く。修一郎の言う通り、ワインのように口当たりのよいものならば、少しは大丈夫だが、エールを美味しいと思った事は、これまでなかったように思う。
「あの苦味が美味しいのに‥‥。でも、確かに匂いだけでも駄目って子もいるのよね」
溜息混じりのレヴィの言葉に、ヴォルフガング・リヒトホーフェン(ea3143)は顎に手を当てる。
「以前、蜂蜜エールというのを飲んだ事がある。あの時は邪道だと思ったが、女性には飲みやすいかもしれんな」
「それでは、蜂蜜を使ったというエールをベースに、色々と作ってみましょうか」
蜂蜜の壺を手に取って、アルメリアは仲間達を振り返った。
「私はお酒には詳しくありませんし、あまり飲めませんから、娘さん達の立場になって試してみます」
「彼女達にとってステキな誕生日になるように、私達も頑張りましょう」
互いの手を取り合い、セリアとサリュは決意と使命感に燃えて頷き合う。
「本当は自分の為に用意したのですけれど‥‥。酔い覚ましの効能がある薬草はございますから、安心してお飲み下さいね」
そんな2人に、アルメリアはにこやかに、爽やかに笑って付け足した。
●漢達
「遅れてすまない」
勢いよく開かれた扉と、開店前の店内に響き渡った声に、その場でいた者達は一瞬、動きを止めた。
逆光の中をきびきびと歩いて来る五百蔵蛍夜(ea3799)の姿は、昼間から酒の匂いで溢れ返っていた店内に眩しすぎて、思わずレヴィは目の前に手を翳した。
「‥‥ん? おにぃちゃ‥‥」
「気にするな、寝てていいから」
目を覚ましかけたセリアに囁いて、ヴォルフは蛍夜にサインを送った。ゴブレット製作で寝ていない所に、新しいエールの試飲ですっかり酔いつぶれてしまった彼女を起こすにはしのびなかったのだ。
「どうした? 気分でも悪いのか」
卓の上に突っ伏したセリアを気遣って、幾分小さめの声で尋ねた蛍夜にヴォルフは無言で彼女が持ったままのタンカードを示す。
蛍夜にも事情が飲み込めたようだ。
持ち手を握り締めたセリアの指をそっと外すと、大事そうに抱えた袋から取り出した卵を1つ、割り入れる。
「何をするつもりですか?」
手近にあったスプーンで軽く卵を溶きほぐすと、口元を引き上げる。
止める間もなかった。
言葉を発しようとして、そのまま凍り付いた永萌。
信じられない物を見たかに目を見開くレヴィ。
ほろ酔い気分のアルメリアとサリュは、何も見なかったとばかりに視線を逸し、己の目の前のタンカードの縁にベリーを飾りつけて、はしゃいだ声を上げている。
溶き卵の上に注がれたエールが、ぷちぷちと小気味良い音を立てるのに目を細めて、蛍夜はそれを卓の上に置いた。
「どうだ」
「‥‥どうだ、と聞かれましても」
問われた永萌は、困惑するしかない。
「なんだ。気に入らないか」
それならば、と蛍夜は店内を見回した。
卵にひびを入れると、器用に卵白と黄身とを分けて小さな器に移す。手慣れた風に卵白を泡立てると、燻っていた火に息を吹きかけ、その上に掛けた鍋へと流し込み、ゆっくりと掻き混ぜ始める。
何をしているのかと問いかけて、今度こそ、レヴィは悲鳴を上げた。
煮立ち始めた鍋の中に、蛍夜が黄身とエールとを落とし入れたのだ。次いで、とろりとした蜂蜜も。
「ふんふんふーん♪」
フリーズフィールドとアイスブリザードが同時に吹き荒れ、アイスコフィンで凍り漬けにされたかのような仲間達の様子を気にする事なく、蛍夜は鼻歌まじりで鍋を混ぜ続ける。やがて‥‥。
「よし、出来た」
幾度かの移し替えの後、ゴブレットに注がれたとろみのある液体が、仲間達の前に出された。
「ジャパンに伝わるお袋の味ってやつだな。本当はジャパンの酒で作るもんなんだが」
「た‥‥卵エール‥‥」
ごくりと生唾を飲んで、永萌はそれだけを呟いた。
他に、何と呼びようがあろう。
「ま、百聞は一見にしかず。飲んでみろって」
勧められたレヴィは、卓上の物体に視線を据えたまま、傍らの永萌を肘で突っついた。
「ちょ、ちょっと、ジャパンには「据え酒飲まぬは男の恥」って格言があると聞いたわよッ?」
一気に酔いが醒めたレヴィの顔は青ざめ、声は焦りの色を帯びている。
「そ、それを言うなら「据え膳食わぬは」です‥‥って、そんな事はどうでもいいです」
睨みつけて来るレヴィに、永萌は覚悟を決めた。
「‥‥飲ませて頂きます‥‥」
口元にゴブレットを近づけると、永萌は息を詰めて中身を煽る。
「‥‥どう?」
恐る恐る尋ねたレヴィに、永萌は無理矢理に作った笑顔を向けた。そして、そのまま後ろへと倒れ込む。
「きゃーっっ!? ちょっと! 永萌ーーーーッッ!!」
慌てて駆け寄り、抱き起こすも、永萌は既に事切れている。
「うや?」
「うや? じゃないだろうが」
不思議そうに倒れた永萌を覗き込む蛍夜に、ヴォルフはこめかみを押さえた。
「毒は入っていないんだが。はっ! もしや、卵とエールは食い合わせが?!」
ゴブレットに新たな卵エールを注ぎ入れ、蛍夜は何やら真剣に検分をしている。痛み出した頭がくらくらして来るのを、店内に満ちている酒の匂いのせいにして、ヴォルフは平静を装い尋ねた。
「蛍夜、聞いても良いか」
「ん?」
屍と化した永萌を見下ろし、生返事を返した蛍夜に、まずは遠回しに聞いてみた。
「‥‥温くなったエールは好きか」
「そうだなぁ。俺はエール自体、しばらく慣れなかったんでアレだが‥‥、やはりエールは冷えていた方がいいな」
よかった、とヴォルフは内心、安堵の息をつく。
彼と自分の感覚は、概ね同じのようである。
「そうか。ならば、煮立ったエールというのはどうだ」
しばし考え込んで、蛍夜はぽんと手を打つ。
「飲めたものではないな」
そこから先、彼がヴォルフの言わんとしている事に辿り着くのは早かった。
永萌と、手にしたゴブレットの間に何度か視線を走らせると、蛍夜は見た目だけは薄黄色で可愛らしいその液体を一気に飲み干した。
「蛍‥‥、っ!」
ごとんと、鈍い音を立ててゴブレットが落ちる。
伸ばされたヴォルフの手が空を切った。
永萌に重なるように倒れ伏した蛍夜に、ヴォルフは驚嘆の呟きを漏らした。
「これが、漢か」
なんと言う潔さ。
己が失敗の責任を自身で取った蛍夜に、熱くなった目頭を押さえるヴォルフが現実に気付くのは、この後の事であった。
●
料理とデザートを堪能した少女達の前に出された特別な酒は、ほの赤く染まっていた。
冷やされたゴブレットを手に取ると、不思議そうに少女はサリュへと尋ねる。
「これは何ですか? ワインにしては色が薄いみたいですし‥‥」
「エールよ」
エールと聞いて顔を顰めた少女達に、サリュは大丈夫と微笑んだ。
「苦いのは嫌い? 私も、エールの苦味はちょっと苦手なの。でも、これは飲みやすいと思うわ」
「君達が飲めるように、皆で作ったんですよ。まずは一口だけ飲んで下さい。何の味か分かりますか?」
修一郎の言葉に釣られて、少女達はゴブレットを口元へと近づけた。怖々、口に含んだ彼女達の表情がすぐに明るくなった。
「おいしい‥‥」
「でしょう? で、分かりましたか?」
少し茶目っ気を混ぜて問うた修一郎に、少女達は互いに顔を見合わせる。
「ワインを混ぜたとか?」
「残念ですわ」
後ろ手に隠していたベリーを、アルメリアがそっとゴブレットの縁に乗せた。鮮やかなビルベリー、落ち着いた色合いのラズベリーと、小さな果実が添えられただけで、卓の上が華やいで見えるから不思議だ。
「ベリーエール、気に入ってくれたかしら?」
サリュに大きく頷きを返して、少女達はベリーエールを口元に運んだ。
「良かった。でも、これだけじゃないのよ」
サリュが差し出した盆には、小皿に盛られた淡い色の雪があった。
この時期に、キャメロットに雪はない。
あ、と少女達は声を上げた。
先ほど出されたデザートを思い出したのだ。
「もしかして、これもエールですか?」
「はい」
おっとりと笑って、アルメリアは雪の上に黄金色の蜂蜜をかけた。じわりと溶けて行くエールの雪に、少女達は瞬きも忘れて見入ってしまった。
「さ、全部溶けてしまう前に召し上がって下さいね」
勧められても、彼女達は魂を奪われたかのように見つめ続けている。思っていた以上の反応に、アルメリアは嬉しそうに振り返った。
クーリングのスクロールを使ってエールを飲みやすく冷やそうとした彼女に、凍らせる事を提案したのは永萌だ。それにアルメリアが蜂蜜をかけ、2人で作ったフローズン・エール。
だが、その制作者の1人、永萌は店の隅で頭を抱えている。
「美味しくて飲みやすいからと言って飲み過ぎると、あそこのオジサン達みたいになってしまいますよ」
「誰がオジサンか!」
やんわりと忠告をした修一郎を怒鳴りつけた蛍夜が、呻いて頭を押さえる。どうやら、自分の声が響いたらしい。
「あーあ、今回は酔っぱらいオヤジの介抱なんぞせずに済むと思ったんだがな」
二日酔いの蛍夜と永萌の間でぼやいているのはヴォルフだ。精々が酔った娘さん達の面倒を見る程度だと思っていたらしいが、少々甘かった。
不景気な溜息を漏らした3人を横目に見て、レヴィは真面目な顔で少女達に教え諭す。
「いい? お酒は飲んでもあんな風になるまで飲んじゃ駄目よ。折角の美味しいお酒だもん。最後まで楽しく飲まなきゃ。ね、セリア」
突然に話を振られて、首を傾げたのはセリアだ。
昨日は酔いつぶれて眠ってしまった彼女だったが、一夜明けて、いつもと変わらぬ清々しい笑顔を見せている。
しかも、いつの間に仕上げたのやら、オリーブで作ったゴブレットも完成している。
「これは、私からお2人へのプレゼントですわ」
ころんと丸い形をしたゴブレットには、スノードロップなどの花が彫られていた。
2人の為に作られたゴブレットに、サリュがエールを注ぐ。
エールも勿論、2人の為に作られたもの。キャメロットでもなかなか手に入らない部類に入るレモンや柑橘系の果汁を使ったシトラスエールだ。
新しいゴブレットで、珍しいエールを飲む。
しかも、全て、憧れの冒険者が自分達の為に用意してくれたものだ。
「嬉しい‥‥。本当に嬉しいです」
料理も、エールも、手作りのゴブレットも嬉しい。
けれど、何よりも幼い憧れだけでグローリーハンドで誕生日を祝いたかった自分達を心から祝ってくれた冒険者達の心が。
「私、今日の事を一生忘れません」
アルメリアから貰った香草茶を詰めた小袋と、セリアのゴブレット、そして未来への希望が込められたカードや持ち帰り用の菓子と、これ以上無いくらいに贅沢な誕生日の記念品を胸に抱き締めて、少女達は冒険者達に心からの感謝を告げた。
●宴の後
何度も何度も礼を述べて少女達が帰っていった後、グローリーハンドの女主人エリーゼは冒険者達を労った。
「随分と喜んでいたよ、彼女達。ご苦労様だったね」
少しばかり雰囲気の違う店内を見渡して、エリーゼは器用に片方の眉を上げてみせる。
「ま、たまにはこんなのも良いね。あんた達の作った料理もなかなかのものだったし」
でも、ちゃんと後片づけはしておく事。
しっかりと釘を刺し、エリーゼは踵を返す。パーティは終わったが、グローリーハンドはこれからいつも通りに開店するのだ。
仕込みに戻りかけた彼女が、ふと足を止めた。
「そうそう。今回の料理、なかなか面白いものが多かったから、今後の参考にさせて貰うからね」
ちらりと振り返ったエリーゼの婉っぽい微笑みに、冒険者達は互いに顔を見合わせた。