【聖人探索】古への扉

■ショートシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月24日

リプレイ公開日:2005年09月29日

●オープニング

●不安と後悔と
 窓の外に浮かぶ月を見上げる。
 酒場で起きた凄惨な事件を伝え聞いたからか、人々は早々に家に帰り、扉と窓をしっかりと閉ざしているらしい。静まり返った街は、まるで廃墟のようだ。
 空は雲1つなく、月の光を遮るものもない。
 美しい夜だった。
 こんな状況下でなければ、心ゆくまで竪琴を奏でたいと思うほどに。
 だが、暗躍する敵はいつ現れるとも知れない。伴った騎士達は自警団と協力して警戒に当たっているが、それでも心許ない。
 彼らの顔が、日を追うごとに、緊張と不安に青ざめていくからかもしれない。
 どんな時でも余裕を持ち、軽口を叩いて笑い合える冒険者達がいてくれたならば、少しは雰囲気も違っただろうが。
「トリスタンさん」
 掛けられた声に、ゆっくりと振り返る。
「夕飯の支度が出来ましたから、いらして下さいって司祭様が」
「わかった」
 冒険者達がキャメロットに戻って以来、この少女も元気がない。自責の念にかられているのだろうと、この教会の司祭は言った。こればかりは、彼女自身が解決しない事にはどうしようもない。
 聖なる母の力を借りる事も、その教えで諭し、導く事も出来るかもしれないが、それでは駄目なのだと彼は静かに、だがはっきりと告げたのだ。
 トリスタンも、彼の言葉が正しいと思うが故に、沈み込んだままのアンジェリカに慰めの言葉はかけない。
「あの」
 窓から離れたトリスタンに、アンジェリカは遠慮がちに尋ねた。
「皆に、ここに居て貰う事は出来なかったんですか?」
「定められた日数を越えて、彼らを拘束するわけにはいかない」
「でもっ!」
 淡々と答えるトリスタンに激昂しかけて、彼女は慌てて顔を伏せる。
「でも、あたしには皆の力が必要で‥‥」
 堂内を照らすのは、月の光と奥の扉から漏れる蝋燭の灯りだけ。それでも表情を隠した彼女の気持ちを尊重して、トリスタンは何も見なかったかのように、彼女の横を通り過ぎた。
「‥‥戻った冒険者に、依頼を言付けてある」
 は、と彼女が息を呑んだ気配が伝わってくる。
「数日もすれば、新たな冒険者がやって来るだろう。それまで、ここで大人しくしている事だ」

●トリスタンからの依頼
 帰還した冒険者が携えていたのは、聖杯へと繋がる手掛かりを求めてウィンチェスターに滞在しているトリスタン・トリストラムからの依頼状であった。
「聖女の憂いを払い、聖杯へと繋がる道を開け、か」
 聖女と聖壁。
 どちらが欠けても、ウィンチェスターに眠る聖杯への手掛かりは手に入らない。
 聖壁のに隠された聖杯の伝承を読み解く事が出来るのは、聖女ただ1人なのだ。
「水没した聖壁へと続く道は特定出来た。出来たが、辿り着くには冒険者の力が必要である。万端の準備を整えて聖女と共にそこへと向かい、助けとなるように」
 そして、と依頼状は続く。
「この依頼は、神の国へと至る道を示す聖杯の手がかりを得る為のものである。
 と同時に、聖杯へと近付く道を示す役目を担いし聖女の憂いを晴らす為のものである」と。

●今回の参加者

 ea0479 サリトリア・エリシオン(37歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea2708 レジーナ・フォースター(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea3143 ヴォルフガング・リヒトホーフェン(37歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3385 遊士 天狼(21歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4200 栗花落 永萌(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5541 アルヴィン・アトウッド(56歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●闇に紛れて
 目の前に聳え立つ堅牢な建物を見上げて、栗花落永萌(ea4200)は息を吐き出した。
 神の家、祈りの場所と頭で理解してはいても、文目も分からぬ闇の中では得体の知れぬ魔の城に見える。
 そう考えて、永萌は自嘲めいた笑みを浮かべ、風に乱れた前髪を掻き上げた。
 どうやら随分と不安になっているらしい。
 闇が怖いわけではなない。
 敵を恐れているわけでもない。
 ただ、と永萌は思う。
 真暗闇の聖堂、その地下に降りた仲間達の身に万が一の災いが降りかかった時に援護が間に合わない事、それだけが心に翳りを落としているのだと。
「大丈夫。‥‥信じていますから」
 誰に告げるともない呟きを漏らして、永萌は闇に目を凝らした。
 太陽を神と崇める少女から聞いた奴らの隠れ家は、目と鼻の先だ。おそらく、奴らは聖壁に近づく者の存在に気づいているだろう。出入りが途絶える夜を待ち、聖壁への扉を開こうとしている事も。
 彼らがここに姿を現した時こそ、絶好の機会。
「今度こそ、モニカさんを助け出してみせます」
 己への誓いを胸に、永萌は弓と矢を握る手に力を込めた。

●地下の奮闘
「これを汲み出すのは無理だな」
 少しでも水嵩が減ればと思ったのだが、これではいつまで経っても終わらない。桶と水とを見比べて、サリトリア・エリシオン(ea0479)は小さく頭を振った。
 次の手段を試すべく、ワスプ・レイピアの柄で叩き始めた彼女の脇を抜けて、遊士天狼(ea3385)は水の中に手を入れてみた。
「とにかく、瓦礫を撤去して」
「水中での作業は手間がかかるな」
 周囲のお兄さん、お姉さんの会話に耳を澄まして、天はぽんと手を打つ。水が邪魔なら、水の中でも自在に動けるものを使えばいい。手早く印を結び、呪を唱える。
「がぁくん、お手伝いするの!」
 その言葉に、はたと気づいたサリが止める間もなく、狭い地下の通路に巨大な蝦蟇がぽんと音がする勢いで現れた。
「うわっ!?」
「お、おいっ!」
 突然にあがった水飛沫を頭から被ったのは、ヴォルフガング・リヒトホーフェン(ea3143)と双海一刃(ea3947)だ。瓦礫という難敵を相手にしていた彼らは、突然に盛り上がった水面と頭上から降り注いだ大量の水の原因となった「モノ」を、呆気に取られて見上げた。
 ネフティス・ネト・アメン(ea2834)が作り出した光に、てらてら艶々と光る皮膚。
 通路いっぱい、幾分窮屈そうに水の中に居座る蝦蟇に、彼らは言葉もない。
「‥‥見事にきっちり収まっているな」
 どこか呆然としたアルヴィン・アトウッド(ea5541)の呟きに、我に返ったレジーナ・フォースター(ea2708)が噛みつく。
「何を暢気な事を! 今の状況を把握しておられますかっ!?」
「‥‥潜っている者がいなくて幸いだったな」
 うっきぃー!!
 詰め寄るレジーナを片手で防いで、アルヴィンは呆けたままのヴォルフと一刃を振り返った。
「これでは作業を続けるどころではない。蝦蟇が消えるまでに次の手を考えるぞ」
「わ、わかった」
 水の中の全ての瓦礫を取り除いている時間はない。水を減らす事も出来ないから、扉を開く事も難しいだろう。ならば、
「天りん」
 蝦蟇を見上げていた天の肩に降り立って、カファール・ナイトレイド(ea0509)は気遣いながら声をかけた。
「天りん、カエルさんでお手伝いしようとしてたんだよね、邪魔したわけじゃないもんね。おいらも皆も分かって‥‥」
「がぁ君‥‥おうち帰ったら、もちもちぽんぽんのぷよぷよお肉、かか様と一緒に減らすの‥‥」
 かか様が聞いたら、せーしょあたっくされそうな天の決意に、「頑張って」と心の中から声援を贈り、カファはそっと後退ったのだった。

●待ち伏せ
 漆喰の隙間に金具を突き入れて、一刃はゆっくりとそれを掻き出した。
 金具にかかる抵抗が不意に軽くなる。慎重に、彼は石壁を押す。水の中でのこと。不自由さもあるが、逆に助かる事もある。通常であれば、この石壁も決して1人では動かせなかっただろう。
 勢いよく壁の向こうに流れ込んでいく水に押されぬよう、体を固定させつつ、手で周囲を探る。
 どうやら、向こう側はこちら程水量がないようだ。
 それだけを確認し、彼は仲間達の元に戻った。
 一刃の報告を聞いた仲間達は、すぐさま次の行動に移る。
 次々と水の中へ消えていく仲間達を見送ると、カファとレジーナはそっと頷き合った。ランタンの火を消し、息を殺して耳を澄ます。
 一刃が用心の為に撒いた砂を踏みしめる音が、やけに大きく響いた。
 続いて、階段を下りる靴音が彼女達が潜んでいる場所へと近づいて来る。
 静かにレジーナは手を動かす。
 と、野太い悲鳴が地下に木霊した。
「やった!」
「油断は禁物です!」
 ごろごろと階段を転げ落ちた男が大きな水音を立てると同時に、複数の乱れた足音が耳を打つ。すばやく宙へと舞い上がると、カファは黒い影に向かい、くるくると回転しながら降下した。
「カファールキィィィック!」
 小さな体のカファが渾身の力をこめても、相手を昏倒させる事は出来ない。しかし、暗闇の中、突然にぶち当たって来た礫に、影は体勢を崩した。
 続いてやって来た影に再度カファールキックを食らわせるべく、羽根を広げたカファは、潜った苦鳴と空を切る音に気づいて慌てて飛び退く。
 彼女の脇を、何かが通り過ぎて石壁にぶつかり、砕ける音がした。
 たらりと、カファの背に冷たい汗が流れる。
「ああ、すみません。当たりませんでしたか? 当たってませんよね」
 のんびりとした声と共に、ランタンの灯りが地下から闇を払った。
「と‥‥永萌りん‥‥あとちょびっとで、おいら、まっぷたつ‥‥」
「またまた。カファールさんなら避けられるでしょう?」
 カファの抗議を軽く流して、永萌は手にしたランタンを掲げた。
「1人、2人‥‥あれ? 1人足りませんね?」
 足下に倒れ伏した黒づくめを踏み越えて、永萌は背後へと手を差し伸べる。その手を取ったのは、白い修道服を纏った女性。
「モニりん! 無事だったんだね!」
 喜色を滲ませたカファの声を聞きながら、階段を踏み外して倒れ込んだ影がそろりと懐に手を入れた。しかし、隠し持っていたダカーを取り出す前に、背中に鋭い痛みを感じて声を上げる。
「あらあらあら? おイタは駄目ですよ?」
 不自然に語尾が跳ね上がった猫撫で声。
 男の背を踏みつけて、レジーナはにこやかに微笑んだ。
「ささ、てっとり早く、知っている事を吐いて貰いましょうか」

●隠された伝承
 暗闇の中にネティのライトが点って、どくんとヴォルフの心臓が跳ねた。
 その光に浮かび上がったのは、濡れた髪を掻き上げる絶世の美女の姿で‥‥美女の‥‥。
「だああああっ!?」
 自分は今、何にときめいたのか。
「ヴォルフ」
 ぽんと肩を叩いたサリに、ヴォルフは飛び上がった。
 彼の内心の動揺を見抜いているのか、サリは優しげな声で囁く。
「気持ちは分かるが、道は誤るなよ」
「誤りません」
 誤りたくありません。一瞬、危なかったけど。
 あわや、人生の分岐点半歩手前だったヴォルフを気にも留めず、女に見誤られた事も知らず、トリスタンは先へと進んでいく。その後に、手に光球を掲げたネティと、彼女の服をしっかりと掴んだアンジェが続く。
「‥‥水音が」
 一刃の呟きに頷いて、アルヴィンは自分達が潜って来た穴へと向き直った。
「ここは俺に任せておけ。すぐに追いかける」
 開いた穴は、大人1人がようやく通れる程しかない。それに、とサリは素早く頭の中で考えを巡らせた。
 向こう側にはカファとレジーナ、そして永萌もいる。彼らの取り零しがあったとしても、そう多くはないだろう。
「‥‥分かった。だが、気をつけてくれ」
 頷いたアルヴィンを残し、彼らは身を翻すと先に進んだ者達を追う。ライトの光を頼りに暗い地下廟を抜けた所で、彼らは立ち止まり、息をのんでいる仲間の姿を見つけた。
 彼らが見上げているのは、壁面。
 一面に描かれているのは、聖書に記された麗しの楽園。御使いが空に舞ってラッパを吹き鳴らし、花が咲き乱れる地上では人々が神の栄光を讃えている。
「これが本当に聖壁なの?」
 こっそりと尋ねたネティに、ヴォルフは困ったように首を傾げるだけだ。
 確かに見事な壁画だが、聖杯の手がかりになりそうなものはない。
「‥‥これが来るべき神の国の姿ならば、こちらの獣は悪しきものの象徴か?」
 無言で壁画を観察していたサリが指し示したのは、ばらばらに千切れた獣の姿。楽園の構図には不似合いだが、悪しきものを打ち倒して‥‥ということならば納得出来る。
「アンジェ」
 彼らから離れた所で物珍しそうに壁画を見ていたアンジェに一刃は手を差し出した。躊躇したアンジェの手を柔らかく掴み、彼は聖壁の前までエスコートする。
「あ、ここに何か書かれてるみたい」
 壁画の隅に刻まれている文字に気づいたネティが仲間を呼んだ。
「でたらめに文字を並べただけのように見える」
 イギリスの言葉でも、ノルマンの言葉でもなさそうだ。反対から読んでも、逆さから読んでも何の意味もなさない文字の羅列に、ヴォルフは眉を寄せた。
 ただの飾りとして刻まれたものだろうか。
「ラテン語でもないな」
 文字を検分したサリに、トリスタンも頷く。
「しかし、何の意味もなく文字を刻むだろうか」
 遅れてやって来たアルヴィンの声に振り返り、ネティは小さく悲鳴をあげた。
「血が!」
「掠り傷だ」
 頬に流れた血を拭うと、アルヴィンは壁画へと歩み寄った。悪しき獣を打ち倒し、神の国で栄光を讃える御使いと人々の姿を描いた絵に、意味のない悪戯書きを付け足すとは思えない。
 思えないが、アルヴィンの知る全ての言葉も、精霊碑文の知識も、並べられた文字に当てはまる答えを導き出す助けにならなかった。
「一応、この文字を書き写しておくか。我々では分からんが、かのマーリン殿や図書館長ならば解明出来るかもしれん」
 ヴォルフの提案にサリは同意を示した。だが、書き写すと言っても、筆記用具は一式置いて来た。持っていたとしても、水に濡れて使い物にならなかっただろう。
「仕方がない。書き写す事が出来ぬなら、我々が記憶して‥‥」
「四肢を‥‥分かたれし獣‥‥蘇りて」
 サリの言葉を遮るように、途切れ途切れに呟く声が聞こえた。
「アンジェ?」 
 ぐらりと揺れたアンジェの体を咄嗟に支え、一刃はその顔を覗き込んだ。目を見開き、震える手で一刃の腕を掴むと、アンジェは戦慄きながら、言葉を紡いでいく。
「正しき者に‥‥道を示さん‥‥」
 は、とアルヴィンは壁画を見上げた。
 サリも同じ事に気づいたらしい。
「四肢を分かたれし獣!」
「ああ、どうやら我々の解釈は間違っていたようだ」
 苦笑いで肩を竦めると、怪訝顔の仲間達を手で制し、アンジェへと歩み寄る。
「ここに何が書かれてあるのか、分かるのだな?」
 一刃の腕を掴んだ手に力が籠もった。安心させるように、一刃は彼女の手に手を重ねる。
「心配しなくていい」
 素っ気なく聞こえる一刃の言葉に、アンジェは視線を巡らせた。
 ネティが、彼女に大きく頷いてみせて、手にした光球を高く掲げる。
「両親が生きていた頃に、よく言葉遊びをしたの。内緒の遊びだから、誰にも教えちゃ駄目よって言われてた」
 じわりと滲んだ涙を拭おうとしたアンジェの手を止め、一刃はその袖口で素早く涙を拭き取った。無愛想な彼の優しさに、冒険者達の眼差しの暖かさに、アンジェは笑った。
「父さんと母さん、これを読む方法を教えてくれてたのね」
 泣き笑いに近い笑顔だったが、ギルドに飛び込んで来た時の彼女「らしさ」が戻って来ている。
「ねーちゃ」
 うまく説明出来ない気持ちがこみ上げて来て、天はぎゅうとアンジェに抱きついた。沈んでいたアンジェに明るい笑みが戻ったのは嬉しい。けれど、彼女が父と母にもう会えないのだと知って、ひどく悲しくなったのだ。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。だって、あたしにはモニカ様がいるもの」
 天を抱き締め返すアンジェの様子に微笑んで、ヴォルフはトリスタンに向き直った。アルヴィンも、一刃も、サリもトリスタンを見つめている。
 ネティが掲げた光に、彼の金色の髪が鈍く反射した。
「四肢を分かたれし獣とやらが道を示す、か。つまりはそういう事だろう」
 聖壁に隠されていた伝承と壁画が示すのは、聖杯への手がかりは「四肢を分かたれし獣」が持つという事。
「これで聖杯に1歩近づいたな」
 不敵な笑みを閃かせたアルヴィンに、サリは眉を寄せて首を振った。
「近づいたが、楽観視は出来ない。その四肢を分かたれた獣がどこにいるのか、そもそも、それが言葉通りのものなのか、それとも何かの比喩なのかも分からない」
「確かに」
 静かに、トリスタンは口を開く。
「だが、手がかりは得た。我々は神の国へと続く階を1つ登ったのだ」
 ウィンチェスターにおいて、聖女と聖壁に関わった冒険者全てに感謝と賛辞と祝福を。
 差し出されたトリスタンの手を堅く握り締めて、彼らは互いに笑い合った。
「モニカ様!」
 来た道を辿った彼らが水の中から顔を出して最初に見た光景。それは、永萌、レジーナ、そしてカファと共に佇む修道女の姿であった。
 ずぶ濡れのままでモニカへと抱きついたアンジェに満足そうに頷くと、永萌はトリスタンの傍らへと歩み寄る。
「彼女を連れ去った不審人物達は、一応、捕らえてありますが、これまでの連中同様に何も喋りません。‥‥これからどうするおつもりですか?」
 聖壁から情報を得、彼らの依頼は完了した。トリスタンもキャメロットヘ戻る事になる。
 もしも、またアンジェ達が狙われたらどうするのかと尋ねた永萌に、彼は表情を僅かに翳らせた。
「聖杯に関する情報は得た。‥‥聖壁は価値ある美術品でもある。水を掻き出すなりして、この後は廟所と共に公開すればいい」
 聖壁を公開すれば、アンジェ達の危険も減るだろう。危険が無くなるとは言い切れないが、出来る事はそれぐらいだと分かっていたから、永萌もそれ以上は問えなかった。
 依頼が完了した今、自分達もここに留まるわけにはいかなかったから。