悪魔の島
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月31日〜11月09日
リプレイ公開日:2005年11月11日
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●オープニング
●飛び込んで来た少年
派手な音と共に飛び込んで来た少年は、最初に目が合った冒険者へと体当たりをかました。
「父ちゃんを探せッ!」
身長差が招いた不幸‥‥としか言い様がなかった。
少年の頭は冒険者の鳩尾を直撃し、ほんの少しだけ油断していた冒険者は、その衝撃にのたうつ事となった。
「父ちゃんを探せッ! 探せったら探せ!」
ぐりぐりと、なおも加えられる鳩尾への攻撃に晒される仲間を見るに見かねて、近くにいた冒険者が少年の肩を叩く。
「あー、キミキミ、ちと落ち着きたまえ」
「父ちゃんを探せーーーっっ!!!」
聞く耳は持っていないようである。
仕方ない。
溜息をついて、彼は腕を伸ばした。
暴れる少年の襟首を掴んで、ひょいと持ち上げる。痩せこけた少年は思っていたよりも軽く、吊り上げられるがままに宙に浮いた。
「な、な、な〜っっ!?」
「だから、落ち着けって言っただろ」
冒険者の目の高さまで摘み上げられると、少年は大きく見開いた目を瞬かせた。その間に、女冒険者が頭突き攻撃に倒れた仲間を抱き起こす。
「しっかりして。傷は浅いわ」
傷は浅くとも、冒険者としての誇りと心がざっくりと抉られたらしい。放心する仲間をゆさゆさと揺さぶって正気に戻すと、女冒険者は猫の子のようにぶらんとぶら下がる少年を見上げた。
「もう。少しは手加減なさいな。でなきゃ、貴方のお父さんを探す人が動けなくなっちゃうじゃないの」
それは俺の事ですかぁ〜‥‥。
床から聞こえて来る声を無視して、彼女は微笑んだ。
「最初から、ちゃんと話してくれるかしら?」
●悪魔の島
少年の父は、ポーツマスの漁師だった。
だが、ここ10年近くは沖合へ出る事が出来ず、父親と母親、そして彼と妹の3人が、その日の糧を得られるかどうかの量しか捕る事が出来なかったという。
「どうして、沖に出られないの?」
尋ねた女冒険者に、ロッドと名乗った少年は顔を顰めて吐き捨てるように言い放った。
「悪魔の島だよッ!」
悪魔の島。
繰り返して、冒険者達は顔を見合わせる。
「悪魔の島とは何だ?」
「沖にある島に、悪魔が住み着いてるんだ! 時々ポーツマスに現れる化け物は、みんな悪魔の島からやってくるんだよ!」
再び興奮した少年を宥めて、女冒険者は先を促す。また癇癪でも起こされては、話が進まない。
「こないだ、妹が風邪をこじらせたんだ。薬を買う金が必要になって、父ちゃん、母ちゃんが止めるのを聞かずに沖まで舟を出して‥‥それっきり戻って来ないんだ‥‥」
目元に浮かびかけた涙を乱暴に袖で拭って、彼は続けた。
「あの日は海が荒れてたから、もしかしたら舟が流されたのかもしれない。父ちゃんの仲間に頼んでも、悪魔の島が怖いからって、誰も探しに行ってくれないんだ。だから」
「だから、ここに来たの?」
ふるふると、少年は首を振った。
「守護騎士団に行った。守護騎士団は、俺達を守ってくれてるんだって父ちゃんが言ってたから。けど、父ちゃんを探すだけに人を割けないって言われた」
守護騎士団を頼みの綱とした少年は、どれほど悔しかっただろう。
彼の心中を思い、冒険者達は表情を曇らせる。
「でも、自分達は父ちゃんを探せないけど、力になってくれる人を紹介してやるって、ウィリアムっておっちゃんが、これをくれた」
差し出された革袋を受け取って、女冒険者は戸惑い気味に仲間を見た。
革袋の中には、依頼料に十分なだけの金と羊皮紙に書かれた紹介状とが入っていたのだ。
「‥‥ポーツマスの漁師は沖へ出ると悪魔を呼び寄せると、舟を出す者もいない。舟は私が用意しておくので、少年の父を探してやって欲しい。漁師達に沖へ出ると知られては、妨害される事もあり得るので、細心の注意を払うように。ウィリアム・カーナンズ‥‥か」
手紙を読み上げた冒険者は、真剣な表情で自分達を見つめてくる少年を見た。
冒険者が最後の頼みと、ただ1人、キャメロットまでやって来た彼の依頼、引き受けるべきか、否か。
しばし逡巡して、冒険者達は息を吐き出すと口を開いた。
●リプレイ本文
●出発前の災難
ポーツマスの街は眠りの中にある。しかし、漁に出る漁師達は既に海に出ているはずだ。
守護騎士団のウィリアム・カーナンズが用意した小舟は、切り立った崖の下に隠されていた。それでも念には念をと、事前にブレスセンサーで周囲に人がいない事を確認して、彼らはゆっくりと岩場を降りていく。
「足下、滑るぞ。気をつけろよ」
スクロールを荷物の中に戻したミリート・アーティア(ea6226)は、ハイラーン・アズリード(ea8397)が差し出した手を取って、そっと足を踏み出した。足下の岩場は暗くてよく見えない。まるで底のない闇の中へ足を踏み入れるような気がする。
怖々と進む彼女の歩みに合わせて、ゆっくりと降りてくれるハイランドに感謝しながら、ミリートは恐怖すら覚える暗い海面をきっ、と見据えた。
「‥‥漁師達の話によるとな、今日の海は穏やかで舟を出しやすいそうだぞ」
港の酒場に紛れ込んで、漁師達から情報を得て来たハイランドが独り言のように呟く。
それが、緊張を解す為の言葉だという事は、ミリートにも分かった。
「ありがとう、ハイランドお兄さん」
「ん? 別に礼を言われるような事はしてないぞ」
ふるふると頭を振って、ミリートは足下に集中した。先ほどまで感じていた恐怖は、もう感じない。ゆっくりと、だがしっかりとした足取りで、彼女は先に降りた緋芽佐祐李(ea7197)が待つ浜へと進んで行った。
舟の周囲には、既に仲間達が集まっていた。
ウィリアム・カーナンズに助力を請うた少年、ロッドの姿もある。
「ロッド、出発の前に、お前の父親の事を詳しく聞かせておいてくれ」
フレドリクス・マクシムス(eb0610)の問いに、ロッド少年はこくりと頷いた。
「父ちゃんの名前はジョージってんだ。大きくて、怒ると怖くて、手もごつごつしてるけど、ホントは優しい父ちゃんなんだ」
浮かべた苦笑は、闇に紛れてロッドには見られなかったようだ。フレドリクスはロッドの目線に合わせるように砂地に膝をついた。
「ジョージ、だな。分かった。で、髪や目の色は?」
闇に慣れた目に、ロッドが首を傾げるのが分かる。
「髪も目も俺と同じだけど?」
少年にとっては見慣れた父の姿。だが、冒険者は会った事のない他人。彼は、そこまで考えが至らないようだった。
「そうか。お前と同じ髪と目だな」
「うん。絶対に、父ちゃんを探し出せよッ!」
ロッドが叫んだ途端に、フレドリクスの横合いから手が伸びる。
少年の頬をうにぃと引っ張って伸ばすと、アンジェリカ・シュエット(ea3668)は大人びた溜息をついた。
「お願いをする時はそれ相応の態度でなさい」
自分より年下の少女に窘められて、瞬時に頭に血が上ったようだ。フレドリクスが止める暇もなく、彼はアンジェリカに手を伸ばした。
「全く。女の子に対する態度もなってないのね」
ひらりと身を躱したアンジェリカに、ロッドは目標を見失ってつんのめる。倒れかけた彼がぶつかったのは
「またかーッ!!」
ギルドに続き、またも彼の頭突きを鳩尾に食らう事となった葛城伊織(ea1182)であった。
「あら」
口元に手を当てて、可愛らしく首を傾げたアンジェリカと、額に手を当てたフレドリクスの哀れむような視線を浴びつつ、伊織はひっくり返った蛙の如き体勢で砂浜へと倒れ込んだ。
星が綺麗な夜であった‥‥と、伊織は後にそう語ったという。
●海原の迷子
いくら海が穏やかでも、素人が舟を操るには限界がある。
「うーん‥‥なんか不安になって来た」
夜が明けて、波がきらきらと輝く頃になっても、島影は見えない。大小、幾つもの無人の島があると聞いていたのに、見渡す限り海、海、海。
不安げに息を吐き出した和紗彼方(ea3892)を元気づけようと、ミリートが舟の縁に腰かけて、自慢の歌声を響かせ始めた。
美しく穏やかな海の上で歌うなんて滅多にない事だ。
「知らない奴が聞いたら、セイレーンに間違われるかもしれないな」
惹かれて惑う者が出るかもしれん。
冗談めかしたハイラーンに、彼方は苦笑する。
「今度、ギルドに依頼が出たりして」
ポーツマスの海にセイレーン出現とか、なんとか。
「依頼の前に、聞いてる人がいるのかなぁ」
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)の呟きに、彼方とハイラーンは顔を見合わせて笑い合い、がくりと肩を落とした。
「うーむ。見事に何もない」
自分達は、今、どこにいるのだろう。夏の青さとは違う、少し灰色がかった青空を見上げたハイラーンの後頭部を、何かが軽く叩いた。
「黄昏れている暇があったら、手を動かして頂戴。進路はもっと右寄りよ」
進行方向を真っ直ぐに見据えたアンジェリカの指示通りに、ハイラーンは艪を動かし始める。海に関する知識を持った者達だけが頼りの状況に、彼方の不安はいや増すばかりだ。
「どうか、無事に陸地に辿り着きますように。この際、悪魔の島でも構いません〜っ」
真剣に祈りを捧げて、彼方は貝殻で作られた指輪を海へと投げ入れた。航海の無事が約束されるという白波の指輪は、彼女の願いを聞き届けてくれるのだろうか。他にも、彼方は船乗りのお守りやフレイの首飾りを身につけている。
「‥‥」
ふと気がつけば、舳先に移動したアンジェリカが数個の青い宝石がついた円盤を掲げて祈っている。それは、海の神の娘達の力が宿ったとされる航海のお守りだ。
「‥‥‥‥‥‥」
フレドリクスは空を見上げた。
悠々と風を切って飛ぶ鷹のステッラが、少しばかり羨ましく思えた晩秋の午後であった。
●モンスター襲来
ようやく視界に島々が見える頃、太陽は西に沈み掛けていた。
オレンジ色に染まった海に、波頭が白く砕けている。どうやら、島の近くには岩場が多いらしい。注意して進まねばならない。交替で艪を漕いでいる男達に指示を出そうとしたアンジェリカは、咄嗟にピアに手を引かれて倒れ込んだ。
彼女達の急な動きに舟が大きく揺れる。
「駄目! また来るよ!」
身を起こそうとしたアンジェリカをしっかと抱きかかえながら、ピアは手探りで己の武器を探した。
「ステッラ!」
舟目掛けて近づいて来たモノを、ステッラの鋭い爪が襲う。
「あれは、インプ!?」
鷹の爪に失速した姿に、佐祐李が聖者の剣を抜き放つ。狙いを定めようとしても、揺れる舟の上では体を固定する事も難しい。そうこうしているうちに、インプの数は増えていく。
「モルト、出て来ちゃ駄目だよ!」
毛を逆立てた猫を荷の中へ押し込んで、ピアも魔獣の牙で作られたと言われる短刀を握りしめた。狭くて足場の悪い舟の上という不利は承知していたが、負けるわけにはいかない。
小太刀で襲って来たインプを薙ぎ払ったフレドリクスは、手の甲に走った鋭い痛みに舌を打った。
シルバーナイフに持ち替えると、深く息を吸い込む。
全神経を尖らせ、インプが襲い掛かって来るタイミングを計って、彼は銀のナイフを突き出した。群れが割れた所へ、佐祐李とピアが同時に攻撃を仕掛ける。
人間の反撃に憤ったインプ達が我を忘れて飛び込んだその瞬間に、彼方の作り出したアイスチャクラが群れを散らす。その隙に、伊織とハンラーンは全力で舟を走らせた。
赤い空に浮かぶ巨大な島影に近づく程に、襲って来るインプの数は減り、やがて、姿を消した。
そして、舟は静かに浜辺へと乗り上げたのだった。
●悪魔の島
穏やかに波が寄せて返す砂浜に打ち上げられていた壊れた小舟。
それだけが、残された手がかりだった。周囲に人が倒れている形跡もなければ、砂浜に足跡もない。
「時間が経っているから、仕方ないか‥‥」
どこかの岩場にでもぶつかったのだろうか。砕けた舟の破片を拾い上げて、彼方は悔しそうに呟く。
「嵐で座礁したとかだけなら、まだいいんだけど」
彼方が心配するのは、先ほど、彼女達を襲って来たインプの群れだ。ロッドの父親が襲われた可能性は高い。
「無事だといいんだけど‥‥」
落胆の表情を隠さないミリートの肩に手を置いて、佐祐李は闇の中に眠る島を見た。
人が住んでいるのかいないのか。
噂通りに悪魔の島なのか。
暗闇の中での探索となると危険だが、一刻も早く、ロッドの父の安否を確かめなければならない。
「ミリートさん、ブレスセンサーを使って頂けますか?」
佐祐李の要請に、ミリートはこくんと頷くとスクロールを取り出した。
砂浜の向こうには、森のようだ。
「小さい動物達がいるみたい。それから‥‥」
砂浜を上がり、森へと向かう途中でミリートは足を止めた。
「‥‥何か、近くにいる」
何かいる。
緊張した面持ちで、伊織は仲間達を手で制した。
静かに忍者刀を抜くと、足音を殺して気配がする方へと忍び寄る。
がさと、茂みを揺らす音がやけに大きく響いた。
草を踏む音は、動物のものではない。人か、人の形をしたものの足音だ。
いつでも刀を振るえるように身構えて、それが姿を現す時を待つ。
息を詰めていた仲間達も、すぐに伊織を援護出来るよう、それぞれに武器を構え、印を結んだ。
気配は更に近づいて来て、そして‥‥。
「お兄様?」
茂みから飛び出して来た姿に、伊織は一瞬、呆けた。
伊織だけではない。その背後で緊張を漲らせていた者達も同様だ。
「あらあら?」
月の光が、人の形を作ったかの少女が不思議そうに冒険者達を見つめている。身に纏っているのは薄いドレス。まるっきり無防備な少女に、彼らは毒気を抜かれたかのように武具を下ろしかけた。
「待て。この娘もモンスターかもし‥‥」
「お嬢様!」
注意を促しかけた伊織は、娘に続いて茂みから飛び出して来た男に、今度こそあんぐりと口を開けた。
少女が淡く優しい月の光色を纏っているならば、男を形作るのは研ぎ澄まされた刃の色だ。そして、その男に伊織は見覚えがあった。
「お‥‥おまっ、お前‥‥っ!」
「ヒュー? あなた、ヒューじゃないの」
アンジェリカの呟きに、伊織は我に返る。
「そうだ! お前、今、キャメロットでどんな騒ぎになっているのか‥‥」
胸倉を掴まんばかりの勢いで迫った伊織は、ふと口を噤んだ。
「‥‥おい」
じぃ、と注がれる視線に居心地の悪さを感じて、伊織はヒューを肘で突っついて促す。同じ事を、ヒューも感じていたのだろう。ただ佇み、冒険者達を見つめていた少女に話し掛ける。
「お嬢様、この方々はキャメロットの冒険者ギル‥‥」
ヒューの言葉が終わらぬうちに、少女はとてとてと歩み寄って来た。
何をする気かと見守る冒険者達の前で、彼女はヒューの手を取り、伊織の手に重ね合わせる。
「あ‥‥あの?」
困惑したヒューの声に、静かに、少女は首を振った。
「大丈夫です」
何が、と問う暇も与えず、少女は言葉を紡ぐ。
「わたくし、2人の事を反対など致しませんわ。例えアレクお兄様が反対なさっても、わたくしは2人の味方でしてよ」
言葉の意味を理解した瞬間、真っ白に燃え尽きた伊織とヒューを気の毒そうに見遣ると、佐祐李は気になっていた事を少女に尋ねた。
「この島は、悪魔の島‥‥ですか?」
「悪魔の島? いいえ、ここはワイト島ですわ」
にこやかに、躊躇う素振りなど微塵も見せずに即答した少女に、佐祐李はフレドリクスと顔を見合わせる。
「浜辺に壊れた舟が打ち上げられていた。舟に乗っていた者の事を知らないか?」
舟‥‥と呟いて、少女は首を傾げる。
「わたくしは何も‥‥あら? 貴方、怪我をなさっているのでは?」
この暗闇で、よく気が付いたと驚くフレドリクスに歩み寄ると、少女は自分のスカーフを外し、血が流れる彼の手を取った。傷口にスカーフを巻きつけようとした彼女の手が不意に止まる。
「?」
ぴたりと動きを止めた少女から優しくスカーフを奪ったのは、なんとか精神的ダメージから立ち直ったヒューだ。
「この方の手当ては私が。‥‥お嬢様、皆様、冷えておられるご様子。香草茶で温まって頂くというのはいかがでしょうか」
「そうですわね! でも、もうお父様はお寝みになってますから、静かに、ね」
ヒューの提案に目を輝かせた少女が、茂みの向こうに走り去って行ったのを確認して、ヒューは冒険者達を振り返った。
「‥‥あなた方が探している男は、下の村で保護されたはずです。多少、怪我をしているようですが、命に関わるようなものではありません」
告げるヒューの口調からは、何の感情も感じられない。
「おい」
「後で、人を出しておきますから、それまで、香草茶で温まって‥‥」
「ヒュー!」
ハイラーンが乱暴にヒューの肩を掴んだ。
「お前、その前に俺達に説明する事があるんじゃないのか」
肩を掴まれたままの状態で、身じろぎもしないヒューの顔を、ピアはそっと覗き込む。
「ヒュー君?」
「‥‥ギルドに依頼を出したのは誰ですか?」
唐突に尋ねられて、ピアは面食らったように瞬きを繰り返した。仲間達と顔を見合わせると、彼女は依頼人の名を告げる。
「村で保護されているって人の子供。ロッド君って言うんだけど‥‥でも、ギルドに依頼を出したのは、守護騎士団のウィリアム君だよ」
「ウィリアム・カーナンズ‥‥」
うん、と頷いて、ピアは表情を隠す銀の前髪を払った。
「守護騎士団って、ポーツマスの人達を守ってるんだよね」
不意に、彼方が口を開いた。怪訝な仲間達の視線を受けながらも、彼女は続ける。
「でも、サウザンプトンでは異端とされた人達を連行してた。そして、ポーツマスの人は、この島を悪魔の島って呼んでる。これって、どういう事なのかな?」
「‥‥悪魔の島って、ハーフエルフとか、異端とされた人達を閉じ込めてる島って事?」
ピアの一言に、ヒューはゆっくりと頭を振った。
「でも、ヒューお兄さん、この島の周囲にモンスターは多いと思います」
ミリートの指摘に、フレドリクスは頷いた。冒険者である彼らだからこそ、軽傷で済んだが、普通の漁師達ならば舟ごと沈められていただろう。
「ええ。周囲の島のどこかに巣があるんです。島の人達は近づかないようにしています。さ、そろそろお嬢様が痺れを切らす頃でしょう。こちらへどうぞ」
銀色の髪の青年に案内されて、彼らは「悪魔の島」の館で温かい香草茶と心づくしの食事とにありついた。
そして、翌日、香草茶の手土産を持たされ、ロッドの父親ジョージとヒューイットを伴って、ポーツマスの浜辺へと戻ったのであった。