楽園の扉
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月12日
リプレイ公開日:2005年11月13日
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●オープニング
●因縁
イーディス、と彼は口の中で繰り返した。
硬くなった彼の表情に気付く事なく、少年は軽く頷いた。
「うん。ウィンチェスターを占領したバンパイアがそーゆー名前なんだってさ」
彼は、キャメロットからやって来たというフードの男から言付かっただけだ。大変な事になったとは思うが、それでも実感を伴わない。
「でもさ、冒険者ギルドから何人かウィンチェスターに行ったって言うから、心配いらないんじゃないの? あの連中、強いし」
俺も、将来、冒険者になろうかな。
腰掛けていた窓枠から飛び降りると、カムラッチは見様見真似で拳を構えてみる。冒険者のように決まらないと苦笑して、彼は被保護者のような保護者を振り返った。
「なぁ、おっさん。やっぱ、毎日鍛えてないと‥‥」
途中で言葉が途切れる。
彼の目に、信じられないものが飛び込んで来たのだ。
震えていた。
いつも腹が立つぐらいに飄々として、女だ酒だと聖職者とは思えない行動を繰り返して彼を苛立たせる男が。
しばらく一緒に旅をして来たが、こんな彼の姿は初めて見る。
「おい、おっさん?」
気遣わしげに覗き込んだカムラッチは気付いた。
彼が震えているのは、恐怖からではない事に。
慈愛溢れる聖なる母に仕える白の聖職者は、憎悪を顕わに、握りしめた拳を震わせて呟いた。
低い、低い声で。
「カムラッチ、頼みがある」
●探索依頼
カムラッチ少年から冒険者ギルドに提出された依頼状は、アンドリュー・グレモンの名義となっていた。
「あの軽薄司教、なんかヤバい事でもやらかしたのか?」
「例えば、どこかの奥方との火遊びが旦那にばれたとか」
「どっかの酒場で、酒代でも踏み倒したんじゃねーの?」
アンドリューからの依頼と聞いた冒険者達から出る言葉はこんなものばかりである。彼らの気持ちは非常によく分かる。
うんうんと頷きながら、カムラッチは「でも」と冒険者達の前に依頼状を突き出した。
「今回は、なんか様子が変だったんだよなー。おっさん」
依頼状には「探索」の文字が大きく躍る。
「シデンの村の北東に広がる丘陵地帯の探索、ね。確か、この丘陵地帯って立ち入り禁止じゃなかったっけ」
「うん。だから、シデンや他の村の連中に見つかるとうるさいと思うよ」
あっさりと答えたカムラッチは、冒険者が卓に置いてあったタンカードをひょいと取り上げると口元へと運んだ。
「あなたにはまだ早いの! まったく‥‥環境が悪いとこれだから‥‥」
それを奪い返して、女冒険者がぶつぶつと文句を言う。
小さく肩を竦めて、カムラッチは思い出したように依頼の補足を告げた。
「丘陵地帯の中にはアンデッドがうようよしてるみたいだから、ちゃんと戦う準備とかしといてくれってさ。今回は、かなり奥まで行くらしいから」
●楽園の扉
「アンドリュー殿が?」
家令からの報告を受けて、ポーツマスの女領主、エレクトラは眉を寄せた。所領における様々な出来事、守護騎士団の活動であったり、領民の嘆願などに混じって告げられた居候の行動に、それまで静かに聞き流していた彼女が反応したのである。
戸惑い気味に、家令は主を見る。
「奥様?」
微笑んで家令に下がるように命じると、彼女は月が輝く空を見上げた。
「ようやく開く‥‥楽園の扉が‥‥」
●リプレイ本文
●環境問題
サウス丘陵、そう呼ばれるポーツマスの北に広がる丘陵地帯は、10年近くの間、誰も立ち入る事がなかった忘れ去られた場所だった。正確に言えば、人々が忘れようとしていた場所だ。
この場所から始まった恐怖は、今もポーツマスの人々に深い傷となって残っている。
「お久しぶりネ」
こっそり囁いた龍星美星(ea0604)に、以前、共に依頼を受けた鳳蒼龍(ea3761)と滋藤御門(eb0050)がぎこちない笑みを返して来る。
再会を喜び合う雰囲気ではなかったが、それでも旧知の者がいるのは嬉しい。
「舞にシータも、またここで会えると思わなかったアルヨ」
胸の前で手を合わせたシータ・ラーダシュトラ(eb3389)を真似て、美星もインドゥーラ風の挨拶を交わす。
「でも、どしたネ? あの悪いオトナ、なんか雰囲気が前と違うよーな気がするアルネ」
「ワルイオトナ‥‥美星、それは違うような気がするわ」
依頼人であるアンドリュー・グレモンを気遣ったのか、藍星花(ea4071)は美星を窘めた。だがしかし、美星は肩を竦めて星花の背後を指さす。
「そうか。俺も愛の存在を信じているんだ。奇遇だな。いや、これは運命かもしれない」
振り返れば、御法川沙雪華(eb3387)の肩に馴れ馴れしく腕を回し、にやけきった顔で話しかけているアンドリューの姿。
「悪い大人だね」
「悪い大人です」
美星に同意を示すシータと御門の声を聞きながら、星花の頬がぴくりと動いた。
「まったく。ああ言う大人にはなっちゃいけないって見本だな」
やれやれと溜息をついた遊士燠巫(ea4816)に、逢莉笛舞(ea6780)が冷たい視線を向ける。
向けては見たのだが、とりあえず、どの口が言うかとの突っ込みは心の中だけに留めておく。それよりも、舞には気になっている事があったのだ。
「この場所に、何があると言うのだ‥‥」
疑問を口に出した舞に、蒼龍は微かに首を振る。
ここに来るまでの間、彼自身が抱いた疑問である。だが、明確な答えは見つからなかった。彼らに分かっている事と言えば、10数年前に何かが起きて、以来、この一帯に立ち入る者がいないという事、アンデッドが徘徊している事ぐらいである。
彼らに答えられるのは依頼人のみ。しかし、何やら事情がありそうなアンドリューに尋ねるのは躊躇われて、何度も何度も、己の中で同じ疑問を繰り返し、答えを模索していたのである。だが、その思考の無限回廊を彷徨うのもそろそろ限界が訪れようとしていた。
「‥‥そうね。彼が語ってくれないなら、まずは別の所から情報収集といきましょうか」
星花の視線を辿り、冒険者達の視線が一点に集まる。
「冒険者って、どうすりゃなれんの?」
「カムくんはこっちの神様に仕える勉強をアンドリューさんに習ってんじゃないの?」
その視線の先には、シータと会話を交わすカムラッチの姿があった。冒険者になりたいという少年は、保護者の反対を押し切って、彼らについて来ていたのだ。
「カムラッチ。聞きたい事があるの」
微笑んで、星花は少年を見下ろした。
「グレモン司教の様子が変わったのは、何時? 何がきっかけだったのか教えてくれないかしら」
2度、3度と瞬きをした少年は、星花を見上げて笑った。
「おー、いいぜ。その代わり、姉ちゃん、ちゅー1回‥‥」
がつんと、星花が抱えていた剣の柄が少年の頭に落ちる。
頭を抱えて蹲った少年の姿に美星は御門達とこそこそと囁き交わす。「悪い大人」とか「影響」やら「習って」と、漏れ聞える単語を無視して、星花は笑みを深めた。
「カムラッチ、白状した方が身の為というものよ?」
この空気は覚えがあると、燠巫は思った。しばし考えを巡らせていた彼は、それに思い当たった途端、頭を庇って蹲る。カムラッチと同じように。
「‥‥どうしたアルカ? 燠巫」
不思議そうな美星の声で我に返り、燠巫は取り繕うように咳払いをした。何でもないと、服についた泥を払って立ち上がる。
「で? どうなんだ? カムラッチ」
努めて平静を装って、燠巫は少年に尋ねた。何か言いたそうな舞の視線は気付かない振りを通す。
「ってぇ‥‥。おっさんが変になったのは、キャメロットから使いが来て、ウィンチェスターがバンパイアの支配下になったって聞いた時だよっ! これでいいだろっ」
頭のこぶを押さえて、乱暴に吐き捨てた少年に、冒険者達は互いの顔を見合わせた。
●過去と現在
カムラッチの怒鳴り声は、少し離れた場所を歩いていた沙雪華とアンドリューにも届いていた。
「アンドリューさんは」
肩に回された手を気にしながら、沙雪華は彼女よりも高い位置にある男の顔を見上げて尋ねた。
「抜け道をご存知という事は、以前、こちらに住んでいらしたのでしょうか?」
「ん? いや、住んでいたわけじゃない。何度か、ここに来た事があるぐらいだな」
沙雪華は気付いていた。
軽薄な素振りを見せている男が、時折厳しい表情をする事に。
「昔は化け物の巣、だったそうですわね」
「そうだ。だから、抜け道を知っているんだ」
今、彼らが辿っているのは、かつてアンドリューが使った道なのだろうか。小鳥が歌い、美しい緑に覆われた長閑な森の景色を見回して、沙雪華は眉を寄せた。
この穏やかな場所が化け物の巣だったとは信じられない。
「この奥には、何があるのですか」
彼らに追いついた御門が、静かに問うた。
「化け物の巣‥‥と伺いましたけれど、アンドリューさんと何か因縁がおありなのですか?」
御門の問いに、冒険者達は一斉にアンドリューを見る。
「そ、そうだ! いや、話したくない事を無理に聞き出そうとは思わないが、だが」
一呼吸おいて蒼龍は表情を改めた。道中、さんざん思い悩んだ事が蒼龍の頭に過ぎる。しかし、聞かねばならぬ事もある。
「昔、ここで何があったんだ?」
アンドリューの顔が歪んだ。
痛みに耐えるように胸元を押さえた彼は、やがてのろのろと顔を上げた。
「‥‥今は、昔話をしている場合ではない」
彼が顎をしゃくって示したのは、木々の間に見え隠れする白いもの。それが、スカルウォーリアーの団体と気付いて、冒険者達に緊張が走る。
「この先、数が増えるかもしれん。‥‥はぐれるな」
低く呟いたアンドリューに、星花は艶やかに笑んだ。
「平気よ」
彼女の剣が一閃すると、頭上を覆っていた枝の1つがばさりと落ちて来る。
「目印よ。はぐれたら、この目印を探す事ね」
ふと、後ろを振り返れば、彼らが辿って来た獣道に沿って、同じような「目印」がつけられている。
―‥‥いいのか、それで
哀れなり、聖剣アルマス。別名、デビルスレイヤー。魔力を持つとされる剣が、柴刈りの鎌と同じ扱いを受ける事になろうとは、刀を造った者も、かつての使い手達も想像だにしなかったに違いない。
「と、ともかく、今は目の前の奴らを倒すのが先だ!」
真っ先に気を取り直したのは燠巫。突飛な行動に多少なりと耐性があったのが幸いしたらしい。言うが早いか、彼は音もなく走り出した。
「燠巫の言う通りだ」
手にした剣を鞘から引き抜くと、舞は真正面に迫るスカルウォーリアーを見据える。
「‥‥この剣の試し斬りに丁度いい。‥‥行くぞ」
アンドリューとカムラッチを庇う位置に立った沙雪華を確認して、御門は一歩、前へと踏み出した。襲い来る敵は一体も通すつもりはなかった。
水晶剣を構えた御門の傍らを駆け抜け、シータが飛び出していく。
「お前達はとっくに死んでいるんだ! いい加減、塵に還りがれっ!」
拳のナックルにオーラパワーを付与した蒼龍の渾身の一撃に、骨ばかりのアンデッドは吹き飛ばされ、カラカラと崩れていく。
「皆、先は長いヨ! 気をつけるアル!」
シータと連携を取りながら、スカルウォーリアーの群れの真ん中に飛び込み、接近戦を展開していた美星が仲間達を振り返り、叫んだ。
彼女の言う通り、戦いは始まったばかりだった。
●忌まわしき記憶
次から次に現れるアンデッドとの戦いを極力避けて、彼らが辿りついたのは焼け焦げた廃墟だった。
「アンドリュー殿‥‥ここは一体、何なのだ?」
煤けた石の壁に手をつき、状態を確認していた舞がアンドリューを振り返る。
「化け物の巣‥‥と伺っていましたが、そんな雰囲気ではありませんね」
沙雪華の言葉に、蒼龍も頷く。
貴族達の静養地かとも思うぐらいに、しっかりとした石造りの屋敷が幾つか並んでいた。中心部は地面も石畳で、ちょっとした街のようだ。
「焼け落ちる前は、さぞや美しかったのだろうな」
そう呟いて、燠巫が頬を緩めた。
周囲に広がる緑と、整えられた街並みと。花に飾られ、活気に満ちたかつての姿が見えるかのようだ。
だが、足元でじゃりと音を立てた物に、彼の表情は鎮痛なものへと変わる。
それは、骨であった。
打ち捨てられ、10数年の歳月のうちに朽ちた骨。
「ここで何があったのでしょう」
散らばる骨を一ヶ所に拾い集めて、沙雪華が手を合わせる。
御門は道端に咲き残っていた小さな花を摘み、その骨の前に供えた。
「そろそろ詳しい話を聞かせて頂けないかしら? グレモン司教様。ここで何が起きて、貴方は何の為にここへ来たのか。そして、ウィンチェスターを支配したイーディスというバンパイアは、この件にどう関わっているの?」
問うた星花は、息を呑んだ。
焼け崩れた廃墟を眺めているアンドリューの顔には深い悲しみと憤りとが綯い交ぜとなった複雑な表情が浮かんでいたのだ。
「アンドリュー殿‥‥」
舞の声に、アンドリューは振り返った。
「10数年前、ここで何が起き、何故、廃墟となったのか‥‥それは知らない。だが、ここは、お前達が思っているような場所ではない」
沙雪華が積んだ骨の山へと向けた視線を、アンドリューはすぐに外した。
「化け物の巣だと言っただろう?」
崩れ落ちた屋敷の1つを見上げ、彼は淡々と告げる。
「ポーツマスや周辺の村々を襲った災厄は、ここに巣食っていた化け物が解き放たれて起きた」
「‥‥その化け物って?」
息を詰めて成行きを見守っていたシータが、怖々と尋ねる。何物も恐れない誇り高い戦士の彼女も、得体の知れない何かが蠢く闇の中を覗き込むかの心地を覚えていた。
「もう、察しはついているだろう? ‥‥バンパイアだ。ここは、バンパイアの都だったのさ」
バンパイア、と御門は口の中で繰り返した。
「都? つまり、ここには複数体のバンパイアがいたと言う事か?」
ぞっと、燠巫の背に冷たいものが走る。
1体でも厄介なのに、複数体?
ポーツマスや周辺の人々が未だにこの一帯を恐れる理由が分かったような気がした。
「バンパイアは上位種に逆らえない。ここは1体の上位種が支配する都だったんだ。そして‥‥」
アンドリューは煤けた壁に拳を打ちつけ、吐き捨てるように叫んだ。
「周辺の人間をさらい、血を啜っては下僕とした! その骨は、下僕となった人間のなれの果てだ!」
沙雪華がびくりと震える。
集めた小さな骨の山。彼らの嘆きと怨嗟の声が聞えて来るような気がする。
「なんと酷い事を‥‥」
視界が揺れる。
それが、いつの間にか零れていた涙のせいだと気付いたのは、御門が袖口でそっと頬を拭ってくれた後の事だった。
「‥‥俺には姉がいた。姉は、俺のせいで連れ攫われ、死ぬよりも辛い目にあった! 俺が、俺があの時、奴を仕留めておけば、姉は‥‥っ!」
「アンドリュー! アンドリュー、しっかりするネ! 気をしっかり持つアル!」
壁に拳を打ちつけ続けるアンドリューに駆け寄って、美星は彼の体を揺さぶった。
「過去は、どんなに喚いても叫んでも取り戻せないヨ! 今、大事なのは‥‥するべき事は、前に進む事アル!」
それでも壁を殴り続けるアンドリューに、一言断って、蒼龍が頬を張り飛ばす。
「過去を悔い続けたいならそれもよかろう。だが、あんたがここに来たのは、嘆く為だけか? グレモン司教」
冷たくも聞える蒼龍の言葉に、アンドリューは青ざめた顔を上げた。
「‥‥すまない」
瞳一杯に涙を溜めたシータが、無言で傷ついた彼の拳に布を巻きつける。その少し乱暴な手当てに任せながら、アンドリューは再び口を開いた。
「俺は姉を救う為に何度もここに忍び込んだ。‥‥姉の魂を救えるまで、何年もかかったがな。ここが崩壊したと聞いたのは、その何年か後の事だ」
ゆらりと立ち上がり、アンドリューは崩れた都を見渡した。
「お姉さんを連れ去ったのが、ウィンチェスターを支配したというイーディスね」
星花に頷きを返し、廃墟から冒険者達に視線を戻す。
「バンパイアどもはポーツマスを襲った後、何処かへ散った。主を失った都をアンデッドどもは守り続け、周辺の人々も災厄の眠る地として立ち入る事がなかった。だが、奴が現れた」
「焼け落ちてはいても、バンパイアの都だ。‥‥何か、奴らに関する手がかりが残っているかもしれないな。アンドリュー殿はそれを探して?」
舞の問いに答えが返るまで、僅かな間があった。
「それもあるが‥‥。ともかく、手分けして調べてくれ。廃墟とはいえ、何が起こるか分からないからな。日が暮れる前には、ここに戻って来る事」
キャメロットに戻る時間を考えれば、滞在出来るのは今日1日が限度。
冒険者達は硬い表情で頷いた。
●そして
短い探索の結果、彼らは様々なものを見つけた。
焼失を免れ、堅く閉ざされた扉や、埃が堆く積もった地下の部屋。
何体もの白骨と、彼らが身につけていたと思しき装飾具。せめて人の世界に持ち帰り、弔ってやりたかったが、今の彼らにその余裕はなかった。
「‥‥次の機会に連れ帰ってやろう」
落胆した様子のアンドリューに、燠巫は御門と怪訝そうに見交わした。
「どうかしたのか? アンドリュー殿」
「次の機会‥‥というのは、どういう事ですか?」
炎の害が少なかった屋敷から持ち出した肖像画を検分していた舞と星花も顔を上げる。
「‥‥まだまだ、色々とあるって事さ。ここの連中も連れ帰ってやりたいしな。もう1度、ギルドに依頼を出す事になると思う」
厳しい表情で廃墟を見据えたアンドリューに、重くなった空気を打ち払うようにシータが明るい声を張り上げた。
「そ、それにしても、この2人って可愛いよね。兄妹の肖像って感じ。こんなものがバンパイアの家にあるとは思わなかったよ」
「そうアルナ。手を繋いで、微笑ましい絵アルヨ」
絵を見つけてきたのは蒼龍だ。
最も大きな屋敷の、そのまた奥にひっそりと建っていた豪奢な離れに掛けられていたうちの1枚だった。
「忘れるなよ。その2人もバンパイアだぞ」
そして、と彼に同行していた沙雪華が言葉を継いだ。
「他の肖像画も全て、幼い2人組でした。この絵以外は、片方の子供が赤く塗りつぶされておりましたが」