囚われ人
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:9〜15lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月22日〜12月01日
リプレイ公開日:2005年12月02日
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●オープニング
●協力者求む
その日、ギルドに張り出された依頼状の中に、奇妙な依頼があった。
「協力者求む。詳細は依頼人まで」
以前、このような依頼を出したのは、いつもギルドの隅でだらだらだらけているアレクシス・ガーディナーだったのだが、彼はまだウィンチェスターから戻って来てはいない。
では、一体誰が?
怪訝そうに、冒険者は受付嬢にこっそり尋ねた。
「あの依頼の依頼人って、どこにいるんだ?」と。
受付嬢が指さしたのは、隅の卓に座っているフードを着込んだ男。落ち着きなく周囲を見回して、何かを警戒しているようだ。
ゆっくりと男の卓に近づき、冒険者はどかりと彼の前の席に座った。
「よぉ、依頼状を見たんだが、協力者を探しているんだって?」
値踏みするように冒険者を見、しばしの思案の後、男は口を開く。
「そうだ。内密かつ緊急に、協力者を探している。条件は、口が堅い者、そして、状況に柔軟に対応出来る者だ」
「俺、口は堅いぜ?」
男は沈黙した。
次に、彼が発した言葉に、冒険者の眉が寄る。
「我らに協力してくれる画家の助手として、ある城に入り込み、内部を探って欲しい」
「城の内部‥‥か。攻め込むとか、そういうんじゃないだろうな?」
城の内部構造は、重要機密である。また、中でどのような事が行われているのかも、秘密というベールに包まれているものだ。それらを知ろうとするとは、この男は城を攻めようとする者なのか。冒険者が尋ねたのも無理はない。
「今のところは、そういうつもりはない。ただ‥‥」
男は声を潜めた。
「ただ、ポーツマスには、守護騎士によって異端と判断された者達が収容されている場所があるという。それを確認したい。その中で、囚われた者達はどのような暮らしを強いられているのか‥‥」
「ポーツマス?」
問い返した冒険者に、男は慌ててその口を押さえた。
「駄目です。どこで奴らの手の者が聞いているか分からないんですから」
かなりの警戒ぶりだ。
冒険者は溜息をついた。
「画家の助手としてポーツマスの城の中に入り、異端とされた連中が収容された場所を探り、彼らがどんな暮らしをしているか調べるのに協力しろってのが依頼だな?」
こくこくと頷いて、男は革袋を卓の上に置く。
「依頼料は、この通り用意しています。‥‥本当の依頼人から」
革袋に伸ばしかけていた手を止めて、冒険者は男を見た。
「本当の依頼人?」
「はい。彼女は、現在、表だって活動する事が出来ないんです。‥‥サウザンプトンで、異端とされた者達を逃がし、助ける活動を行っているブリジットという女性が、本当の依頼人なんです」
なるほど、と彼は頷いた。
●肖像画
「奥様、新しい絵師の方がお見えになりました」
物憂い表情で1枚の肖像画を眺めていたポーツマス領主、エレクトラは小さく頷いた。
肖像画に描かれているのは2人の幼い子供の姿。
そして、それは、長く封じられて来たサウス丘陵の廃墟で発見されたものだ。
「奥様、絵師の方は、これで最後となるのでしょうか?」
「いえ、もっと腕のよい絵師を集めて下さい。1人でも多くの絵師に、この絵を1枚でも多く模写させて、各地にばら撒くのです。この2人を知る者が現れるまで」
絵では幼いが、今は立派に成人しているだろう。
だが、幼い頃の面影は、どこかに残っているはずだ。
「この2人を見つけ出さなくてはならないのです。どうしても!」
強く言われて、家令は頭を下げた。
「承知致しました。ですが、奥様、知らぬ者が城内を彷徨かれると、色々とまずいのではないかと‥‥」
「塔には近づけぬよう、それだけは通告しておきなさい」
もう1度一礼して家令が下がっていくと、エレクトラは壁にかけられた肖像画に手を伸ばしかけ、寸前で躊躇って指を握り込んだ。
「‥‥この2人が見つかれば、あの者も好き勝手は出来なくなる‥‥。秩序が戻る‥‥」
そっと肖像画の2人を見上げた。
顔も知らない、会った事もない者達を、この絵だけで探し出せというのは無謀かもしれない。しかし、探さねばならない。何としても。
決意を込めて、エレクトラは自分に出来る事を行った。
すなわち、城に大勢の画家を呼び集め、絵を模写させる事であった。
●リプレイ本文
●既視感
守護騎士団。
それは、領主の命を受け、ポーツマスの人々を災厄から守る為に結成された自衛集団だ。
城の中で鉢合わせした時の為に、髪をくるくると丸めて印象変えに心を砕いていた和紗彼方(ea3892)は、女官から聞いた話に安堵と失望の吐息を吐いた。
守護騎士達は城の外で活動しており、時折、団長のカーナンズが登城する程度らしい。
「折角、気合い入れたのになー」
不満げに頬を膨らませて、彼方は絵師達が作業を続けている部屋へ足を踏み入れた。
助手の名目で城に入り込んでいるのだから、ずっと席を外しているわけにはいかない。
途中で城の探索を打ち切って戻って来たのだ。
探索の成果は、城内のスケッチ数枚。
重要機密とされる城の間取りなどは怪しまれるから、頭の中に留めて、庭や石像などを描き写して来た。
「あれ?」
次の機会はどこを探ろうか。そんな事を考えながら協力者たる絵師の元へ歩み寄った彼方は、ふと足を止めた。
彼女の視界を肖像画が過ぎる。
一瞬、感じた何かに彼方は首を傾げた。
●庭園の向こう
その城は、中に入れば大層暗いが、庭園はとても美しかった。
太陽の光を浴びて浮かび上がる陰影は、月道の向こうにある遠い国の技法を真似たものだと庭師は自慢気に語っていた。綺麗に刈り込まれた低木が作る複雑な小道が子供用の迷路のようだと、スケッチをしていた手を止めて、ユリアル・カートライト(ea1249)はくすりと笑った。
「どうかしましたか?」
不意に声を掛けられて、ユリアルは笑みを浮かべたまま振り返った。
「あ、いえ、この庭が小さな迷路みたいだと思って」
「そういえば、そんな感じですね」
城内で、絵師達の健康管理を引き受けているレジエル・グラープソン(ea2731)は、ユリアルの言葉に同意を示した。太陽の光を受けた緑の迷路が眩しい程だ。城の中が閉ざされて、淀んでいるように感じていたから尚更かもしれない。
「だいたい、この城は暗過ぎます。窓という窓を打ち付けて太陽の光も差し込まないのですから」
窓らしきものと言えば、高い場所にある小さな飾り窓だけ。
後は全て、漆喰で塗り固められている。
「この街を襲った災厄のせい‥‥ですね」
ええ、とレジエルは頷いた。
城に着いて、真っ先にレジエルが抗議したのは薄暗い城内環境についてだ。
昼間でも蝋燭が必要な状態で、絵を描き続ける絵師が体調を崩すのは目に見えていた。実際、彼らよりも先に来ていた絵師達は、何人も不調を訴えている。
暗い中、蝋燭の煙や画材の匂いが充満する部屋!
思い浮かべたレジエルの眉間に、くっきりと皺が寄る。
「健康によくありませんよ、あの部屋」
成り行きで、彼らと共にやって来た絵師だけではなく、城に招かれた全ての絵師の健康管理を引き受けてしまったレジエルは忙しい。城の召使い達をこき使‥‥手伝わせて、体調を崩した絵師達が休む部屋を用意させた彼の様子を思い出して、ユリアルはくすくすと笑う。
「城の人達が目を丸くしてましたよ、レジエルさん」
「これまで気がつかなかったという事が信じられません」
仕方がないと、頭では理解していた。
この城に限らず、ポーツマスの家々は窓が塗り固められている。それを当然と暮らして来た者には、その不自然さが分からないのだろう。
「災厄は窓からやって来るそうですからね」
仲良くなった下働きの娘が、ユリアルにそう教えてくれた。
「災厄、ですか」
「ええ。異端の者が忌み嫌われるようになった原因です」
呟いたレジエルに答えて、ユリアルは小さな迷路の向こうにそびえる塔を見た。
「結構、大きいですね」
しかも、警戒厳重だ。分厚い石の壁は、中を覗き見る隙間さえもない。出入り口は頑丈な鎖と鍵で固く閉ざされている。
「でも、あの中に異端の人達がいます。一度捕まったというのに、ブリジットさんは彼らの為の活動を続けている‥‥」
決意に満ちたユリアルの表情に、レジエルも憂い顔を解く。
「‥‥では、我々も出来る限りの事をしましょうか」
静かなレジエルの言葉に、ユリアルは小さく頷いた。
●お土産
「又三郎さん」
絵師の昼食を作り終え、後片付けも一段落ついてほっと一息をついた沖鷹又三郎(ea5928)に、軽やかな声がかけられた。振り返ると、厨房の入り口からふわふわとした茶色の髪が覗いている。
「やや、これはサリュ殿。いかがされた? 確か、おつかいで街に出られていたはずでは?」
ふふ、と笑って、サリュ・エーシア(ea3542)は厨房の中へと足を踏み入れた。後ろ手に何かを隠して近づいて来る彼女に、又三郎は首を傾げてみせる。
「さてさて、一体、拙者に何用でござろうか」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、サリュは背後に隠していた籠を又三郎へと差し出した。それは‥‥。
「林檎でござるか。それも、こんなに沢山!」
「露店のおばさんと仲良くなって、頂いたの。又三郎さん、これで何かお菓子を作って下さいな」
山盛り積まれた林檎に、又三郎も相好を崩す。これだけの林檎があれば、色々と作る事が出来る。パイに蜂蜜煮‥‥彼の知るありとあらゆる林檎菓子が、頭の中を駆け抜けて行く。
「あのね、林檎のお菓子とお茶をもって、ご領主様の所にお邪魔しようかと思っているの」
こっそり告げられた言葉に、又三郎は仰天した。
領主に招かれた絵師の、そのまたお付きという立場である彼らに、領主が簡単に会ってくれるだろうか。
「サリュ殿、それは‥‥」
「ね、いい案でしょ? 大丈夫、ちゃんと家令の人にもお願いして来たの。あまり長い時間は取れないけど、少しならって許可も頂いたのよ」
又三郎は、再び仰天した。
ふわふわおっとりとした外見からは想像もつかない行動力である。
「だから、ね? とびっきり美味しいお菓子を作ってね、又三郎さん。私、ここで待ってるから」
「‥‥‥‥」
行動力、だけでは無さそうだったが。
●怖いもの
細かく動かしていた手を止め、レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)は、じぃと自分の「作品」を見つめた。
少し離れて、そして至近距離からその出来映えを確かめる。
「‥‥これでよし。今度崩したら、両三つ編みにしちゃうから」
間近から凝視される居心地悪さから解放されて、安堵の息をついていた栗花落永萌(ea4200)は、さりげなく宣告された怖い内容に、眩暈を感じて額を押さえた。両肩に乗っかる三つ編み髪の自分。ふと過ぎった想像図に、眩暈が強くなったような気がした。
「健武くんも、ちょーっとお姉さんにいじらせてくれないかなぁ?」
「‥‥遠慮する」
素っ気なく答えた風霧健武(ea0403)に、レヴィはつまらないと唇を尖らせた。
「こんな短い髪、どうにも出来まい」
「そんな事ないわよ。短いなら短いなりに、あーんな事やこーんな事や。サラサラだしぃ、いじりがいありそうなのよねぇ」
何を、どうされるのだろうか。
健武の常識の範囲を超える何かが、そこにあるというのだろうか。
背筋に冷たい汗が伝うのを感じながら、健武は別の話題を振った。勿論、永萌を相手に。
「やはり、絵師達が近づかぬようにと釘を刺された塔、あれが怪しいようだな」
絵師の助手として、城内をうろついていた彼が呼び止められたのは塔に近づいた時だった。声を掛けて来たのは、強面の兵士ではなく、洗濯物を抱えた下働きの少女だ。
「怖いものを閉じこめているそうだが」
「怖いものねぇ」
自分の髪を玩びながら、レヴィが肩を竦めてみせる。
「それってやっぱりバンパイアみたいよ」
キャメロットで流行っている髪型を結いながら、世間話をした女官達が一様に怯えていた様子を思い出す。彼女達は、ウィンチェスターに現れたバンパイアが、12年前、この地を襲った者だと信じているらしい。
「ああ、そのようですね。ウィンチェスターを支配して、ポーツマスに攻め入るのではないかと噂していましたよ」
顔にかかる髪がいつもと違って気になるのか、頻りに落ちて来た髪を払っていた永萌は、レヴィのきつい視線に慌てて手を顎へと持っていった。
「だが、二言目には「ご領主様と守護騎士団が守って下さる」だ」
吐き捨てた言葉に、健武が感じている胡散臭さが滲み出ていた。
「聞けば、異端について詳しく語れる者は誰もいない。ある者は、人ではないと言い、またある者は罪人だと言う。しかも、彼らが囚われているのはあの塔だ。窓もなく、やたらと堅牢な塔の中が快適とは思えん」
「‥‥又三郎さんからの報告では、厨房では余分な食事は作っていないようですね。ご領主の食事から下働きの食事まで確認して下さったようですが」
その場に沈黙が落ちた。
「食事だけではありません。こちらの方々は、あの塔に一切関わっていないようです。塔の扉は閉ざされたまま、新しい「異端の者」が運び込まれる時以外は」
「ちょっと待って。それって‥‥」
青ざめた顔で尋ねようとしたレヴィを、健武は身振りで制した。絵師達の助手が戻って来るようだ。
「ともかく、今夜、確かめる」
短く告げた健武の言葉に、永萌とレヴィは視線で了承の意を返した。
●闇の中の
夕食の後に時間を空けてくれた領主の前に林檎の菓子と茶器を並べて、サリュはどこか緊張した様子で一礼した。彼女の背後に控えているのは林檎菓子を作った又三郎だ。
エレクトラは、小さく取り分けた菓子を口に含んで微笑を浮かべた。
「美味しい‥‥」
「ありがとうございます」
又三郎が謝意を述べ終えると、サリュは待ち兼ねたように口を開いた。
「あの、ご領主様、1つお聞きしてもいいですか?」
いきなりで不躾かとも思ったが、エレクトラは笑顔で先を促す。
「どうして、絵師さん達を集められているのですか?」
口元に手を当て、領主は婉然と笑った。
「絵師の助手殿とは思えぬ問いですね」
どきり、と心臓が飛び跳ねたサリュに、彼女は続ける。
「絵師をお招きしたのは、あの絵と同じものを作って欲しいからです」
「可愛いご兄妹の絵でござったな。ご領主殿のお子様でござるか?」
エレクトラは静かに頭を振った。その顔に浮かぶのは、安堵しているかの表情。
「私の主筋にあたる方です。ずっと、お探ししていたのですが、手掛かりがなくて。でも、ようやく見つかったのです。ただ1つの手掛かり‥‥」
サリュと又三郎は顔を見合わせた。
絵師と親しくなったレジエルの話によると、彼らが自身のタッチを織り交ぜて描き写した肖像画は、既に何枚も各地に送られているようだ。人捜しが目的であるならば、絵師を招いての大量複製も納得が出来る。
「そうですか。早く見つかるといいですね」
「ええ」
答えて、エレクトラは優雅に茶器を口元へと運んだ。
その頃、健武は分厚い壁の上にいた。
磨き上げた大理石ならばともかく、石の壁には足を掛けられる所がいくらでもある。忍者である健武に越えられない壁ではない。
「気をつけて下さい」
小声で囁いたユリアルに、軽く手を振り、健武は内側へと降りた。
窓のない塔。
だが、攻略の手段は見つけてある。鍵をかけられた扉の枠へと手をかけると、壁のでこぼこを足がかりにして塔を登り始めた。
ユリアルのスケッチによると、塔にはらせんを描いて塔の上まで伸びる雨水を排出する為の溝、樋と吐水口がある。樋まで辿り着けば、後はそれに沿っていけばいい。窓はなくとも、完全に密閉された塔など無い。どこかに排気口があるはずだ。
どれほど登ったのか。
壁の外、周囲の気配を窺いながら見守る仲間達からも、健武の姿は見えなくなっていた。
「大丈夫かな、健武くん」
「信じましょう」
小声で言葉を交わすレヴィと永萌に歩み寄り、レジエルは硬い声で尋ねた。
「呻き声のようなものが聞こえませんか?」
地の底から響いて来るような、不気味な呻き声。もしも、それが塔の中で苦しむ者の声であるならば、とレジエルは手にした薬袋を握り締めて塔を見上げた。
出来るならば、健武と共に様子を確かめに行きたかった。中に病の者がいるならば、自分の知識と経験が役に立つはずだ。
しかし、今はただ待つしかない。
「中の様子次第では、扉を開くよう、ご領主に要請する事も考えておいた方がいいかもしれませんね」
もしくは、力づくでも扉を破り、彼らを逃がすか。
脱出経路は、既に確認済みだ。
途切れ途切れに聞こえて来る呻きに表情を険しくした永萌の呟きに、仲間達は頷き、健武が戻って来るのを待った。
●肖像
絵師達が自分達に与えられた部屋に戻ったのを確認して、彼方はそっと作業場へと入り込んだ。
昼の間は近づく事が出来なかった肖像画の前に立つ。
「何か気になるんだよね」
遠目に見た時に感じた、あの奇妙な既視感。
それを確かめにやって来たのだ。
蝋燭を翳して、彼方は肖像画へと顔を近づけた。
「この兄妹、見た事あるよーな、ないよーな」
幼い兄妹の微笑ましい肖像だ。
繋ぎ合った手が、仲の良さを現している。
銀色の髪の兄は凛として顔を上げ、真っ直ぐにこちらを見つめている。幼いながらに誇り高さが滲み出ているようだ。一方、小さな妹は無邪気に兄の手を握り締め、寄り添っている。
「一瞬、ヒューに似ているかと思ったけど‥‥違う。でも、この女の子‥‥」
会った事がある。どこかで。
彼方は眉を寄せて記憶を手繰り寄せた。
「あっ! 悪魔の島で、ヒューと一緒に居た子!」
悪魔の島と呼ばれている島で、彼女達の前に現れた娘。
彼女達に香草茶を振る舞い、無邪気に笑っていた娘が肖像画の中の少女と重なった。
「それは‥‥まことですか?」
不意にかけられた声に、彼方は驚いて手燭を落とし掛けた。
いつの間にか彼女の側へとやって来ていた領主エレクトラが、彼方の腕を掴んで再び問う。
「悪魔の島? まことに!?」
「い‥‥痛っ!」
腕を掴むエレクトラの力の強さに、彼方は顔を顰める。そんな彼方の様子など、女領主は気にも留めてはいない。
「悪魔の島とは‥‥」
繰り返し呟く女領主の目が、蝋燭を映して赤く光って見えた。
●囚われ人
排気口から中を覗き込んだ健武は呻いた。
塔の中は蝋燭の1本も無い。月の光を助けに、目を凝らした健武が見たもの。それは‥‥。
「なんという‥‥」
幽鬼の如くに彷徨う、赤い目をした亡者の群れだったのだ。