災厄の訪れ
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 38 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月21日
リプレイ公開日:2005年12月20日
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●オープニング
その日、ギルドに届いたのはポーツマスからの書状であった。
運んで来たのは、守護騎士団の一員だという血塗れの青年。彼は、書状を受付嬢に渡すや否や昏倒し、そのまま息絶えた。
「ウィリアム・カーナンズからの緊急依頼か」
青年が衣服の中に隠して運んで来たらしい。血で汚れた羊皮紙を丁寧に伸ばすと、冒険者は眉を顰めた。
走り書きの依頼。
署名はポーツマス守護騎士団団長、ウィリアム・カーナンズ。
以前の依頼状と照らし合わせた受付嬢が、カーナンズ本人の署名だと思うと自信無さげに告げた。
「ボーツマスを再び災厄が襲った。至急、応援願う」
短い内容は、深刻な状況下に置かれているポーツマスの現状を現しているようだ。
一体何が起きたのか。
不安が募る。
「ポーツマスを襲った災厄、か」
不意に響いた声に、冒険者達は振り返った。
扉を開き、室内へと入って来たのはこの世のものとは思われぬ、と形容される男。先のアーサー王の依頼から戻った直後から、報告やら後処理やらでずっとキャメロット城に詰めていた男だ。
「災厄とはバンパイアの害だったと聞いているが」
淡々とした口調に、冒険者は我に返った。
慌てて頷き、彼の問いに答える。
「あ‥‥ああ。12年前、サウス丘陵にあったバンパイアの都から溢れ出したバンパイアがポーツマスとその周辺を襲ったらしい」
その「災厄」が、未だポーツマスの人々の心に暗い影を落としている。
もしも‥‥本当に「災厄」が再びポーツマスを襲ったのならば、かの地の人々はどうなっているのか‥‥。
「守護騎士団とは、災厄から人々を守る為の組織だな」
「そうだ。ポーツマス領主、エレクトラ・ベイリアルがポーツマスと周辺の村々を護る為に組織した」
彼は、しばし考え込んだ。
「領主のいないサウザンプトンの街では行き過ぎた異端の取り締まりに反感を買っていたが、ポーツマスの人々からは慕われていた。領主と守護騎士団がいれば、ポーツマスは安心だと。だが‥‥」
冒険者の声に、彼は顔を上げる。
「ウィンチェスターの街を支配したバンパイア、モレスティドに住み着いた女バンパイア、そして周囲に溢れるスレイブ。奴らがポーツマスまで支配下にいれるべく動き出しても、何の不思議もないか」
ポーツマスの北にあるサウス丘陵にはバンパイアの都があった。
かつての都を取り戻そうと動いているとするならば、それも考えられる。
彼の言葉に、冒険者達は険しい表情で互いの顔を見合わせると、やがて口を開いた。
「ポーツマスの城に捕らえた異端の者を閉じこめている塔がある。その塔に、スレイブが大量に発生していたという報告があるんだ」
それは、彼が依頼に出ている間に判明した事だ。
差し出された報告書に目を通すと、彼は形のよい眉を寄せる。
「この騒動、塔に閉じこめられていたスレイブが、何らかの理由で外へと出て起きた事で引き起こされたのかもしれない。調べてみないと分からないが」
キャメロットからではポーツマスの状態を窺い知る術はない。現地に赴かねば、情報も手に入らない。
「‥‥今回の依頼、私も同行する」
彼の言葉に、冒険者達は仰天した。
今の彼は騎士の正装姿だ。つまりは、いつもの身軽な「冒険者」の立場ではない。
しかも、現在は先の遺跡調査とその後の処理で忙殺されている身。
だが、彼は冒険者達の動揺を意に介する事なく、付き従う騎士へと指示を出すと改めて冒険者に向き直る。
「ウィンチェスターからポーツマス一帯でバンパイアが跋扈しているとなると、私とて見過ごせん。状況を見極める為にも同道させて貰う」
きっぱりとそう告げると、彼‥‥円卓の騎士、トリスタン・トリストラムは僅かに躊躇した。だが、すぐに感情を感じさせぬ声で言葉を続けた。
「使者の遺体は焼いた後、丁重に弔うように」
●リプレイ本文
●悪い予感
彼らが知る守護騎士団はポーツマスの人々から慕われ、頼りにされていた。
ポーツマスを護りたいという熱意をもち、己を鍛え続けた者は、気がつけば人々から信頼されるに足る力を身につけ、自信に裏付けされた風格を得る。
だが‥‥。
「そうか」
最後に櫛を入れたのはいつなのかと思うほどに乱れ、縺れた髪。痩けた頬に無精髭。かつては人々の尊敬を一身に受けていた守護騎士団団長は、彼らの言葉に悄然と肩を落とした。
「命がけで‥‥届けたんだな」
「しかし、ご遺体は」
言い難そうに言葉を濁したエスリン・マッカレル(ea9669)に、彼は軽く手を振って苦い笑みを浮かべた。
ギルドに辿り着いて息絶えた使者の体には無数の傷があった。大半は擦過傷や打撲の類だったが、ただ1つだけ、見過ごせない傷があった。獣に噛まれた跡のようなそれは、死者を冒涜するおぞましき証拠。
「お疲れのご様子ですが、教えて下さい」
祈りの言葉を呟くウィリアムの傍らに膝をつき、ジークリンデ・ケリン(eb3225)は彼の顔を見上げた。
「ポーツマスがただならぬ状態であるのは、私達にも分かります。ですが、何がどうなっているのかを判断する事は出来ませんでした」
馬やセブンリーグブーツを用いて急ぎ駆けつけた彼らは、ポーツマス領内に足を踏み入れた途端、もぬけの殻となった村々に眉を顰める事となった。日用品や食料が散乱し、住民達が慌てて逃げていった様子が窺える。その惨状は、市街地に近づくにつれてひどくなった。物だけではなく生き物の死骸が転がるようになり、やがて、絶命した人々が道の真ん中で折り重なっていた。人肉の味を覚えた獣はそこかしこにうろつき、隙あらば襲い掛かろうと待ち受けている。
これが、イギリスでも指折りの港と名高いポーツマスかと目を疑いたくなる荒廃ぶりだった。
「災厄が襲って来たのよね? でも、何が原因なの?」
ステラ・デュナミス(eb2099)の探るような視線に、ウィリアムが頭を振る。
「何の前触れもなく突然に始まったのだ。後は、あっという間だった。奴らに対抗する手段を何度も何度も体に叩き込んで来たはずなのに、まるっきり役に立たなかった」
気がつくと、守護騎士達は半数以下に減っていた。
「‥‥ご領主様は、ご無事なのですか」
どこか硬い口調で尋ねた栗花落永萌(ea4200)に、ウィリアムは再び首を振った。
「城の周囲はモンスターの巣窟と化している。何度か城へと向かったのだが、途中で救いを求める者を放ってはおけず‥‥」
「えっ!? 街の人、まだ残っているの!?」
驚きの声をあげたのは、和紗彼方(ea3892)だ。
この状況で、街に人が残っているとは。まだ助けられる命がある。喜色を浮かべた彼方に、リデト・ユリースト(ea5913)がむぅと唸って腕を組んだ。
「けど、喜んでばかりもいられないのである」
確認だけは怠らないようにしなければ、助けた者に逆に襲われかねない。
「12年前の災厄を教訓として、家々には窓も扉も最低限の補強が施されている。家の中に閉じ籠もっていれば、しばらくは持ち堪えられる」
あまり長くは持たないであろう事は、苦悩を深めたウィリアムの表情からも察せられる。
「生き残っている人達を助け出す事が急務ですね。ウィリアムさん、城周辺の詳しい状況を教えて頂けますか? 出来れば、図面にして頂けると有り難いのですが」
分かったと短く返したウィリアムが部屋を出ると同時に、永萌は仲間達を振り返った。
「どう思われますか?」
「塔の中にスレイブが増殖していたのだな?」
リィ・フェイラン(ea9093)の問いに、永萌と彼方は顔を見合わせて頷く。
「異端、か」
ポーツマスの人々は、災厄をもたらす者として異端を嫌う。ハーフエルフであるリィは、人々の心情を慮って耳を隠している。帽子やフードではなく、やぎ手拭いで頭から頬、顎にかけてすっぽり被い隠したその姿を最初に見た時に、仲間達は絶句したのだが、それぐらいしておかねば街の人々に余計な猜疑心を与えてしまう。
「異端の人達の中にスレイブが紛れ込んでいたのかもしれないね。でも、誰が扉を開いたんだろ? まさか‥‥」
口籠もる彼方。彼女の脳裏に浮かんだのは、この街では歓迎されない者の名だ。
永萌は拳を握り締めた。
「塔のスレイブが故意に解き放たれたのならば、ご領主も関わっているのではないかと思うのですが」
「そうですね」
じっとカールスナウトの刃を見つめていたリースフィア・エルスリード(eb2745)が口を開く。
2人の言葉に、彼方はぶんと頭を振った。
「そんなの考えたくないよ!」
「ですが、考えられない事ではありません。例えば、ご領主が異端の隔離という名目で手駒を集めていたのかもしれませんし」
剣を鞘へと戻し、強く握り締める。
カールスナウトは鎮魂の剣。人としての生を奪われ、死して尚も安息を許されぬ魂を解放すると言われている剣だ。この剣で、災厄の元凶を断ち切らねばならない。そう決意したリースフィアの耳に、押し殺した声が届く。
「そうだとしたら、俺は‥‥」
拳を柱へと叩きつけて、永萌は唇を噛んだ。
荒れた感情を顕わにする永萌に、仲間達も静まり返った。
声を掛ける事すら躊躇われる雰囲気の中、溜息を1つ零して永萌へと歩み寄ったのはステラ。
「今は、目の前の事だけを考えましょ」
慰めの言葉などかけない。その代わりに、ステラは永萌の肩を軽く叩いた。
●救いの手
「この奥、人です」
インフラビジョンで生存者を確認したジークリンデに頷きを返して、リィはつがえた矢を放った。スレイブにはさしたるダメージを与えられないが、獣には有効だ。仲間を射殺された獣達が、じりと後退る。
「お早く! 近くにアンデッドらしきものもいます。気づかれると面倒です」
街に到着するまでに何度も魔法を使って消耗しているだろうに、ジークリンデは疲れた様子を微塵も感じさせず、仲間達へ次々と指示を出している。開けた道を一気に駆け抜け、エスリンは周囲を見回した。
場所は狭い袋小路だ。奴らに気付かれ、道を塞がれては面倒である。
「リースフィア殿」
「分かりました!」
リースフィアはカールスナウトの柄に手をかけた。いつでも飛び出せるよう、重心を下げて息を殺す。
仲間達に周囲の警戒を任せて、ジークリンデは人の気配を感じた民家へと歩み寄り、静かに扉を叩いた。
「もし、大丈夫ですか? 私達は、守護騎士団のウィリアムさんから依頼を受け、キャメロットの冒険者ギルドから参った者です」
しかし、家の中で息を潜めている者達からは何の返事もない。
「安心召されよ。円卓の騎士、トリスタン卿も我々と共においでになっている」
トリスタンの名は効果覿面であったようだ。
やがて、小さな物音が聞こえて細く扉が開く。
そこから覗いた人影に、ジークリンデは微笑み、手を差し出した。
●再会
「エレクトラさんが領主となったのは11年前。嫁いで来てすぐに、ご主人がモンスターに襲われて亡くなられて、彼女が後を継がれたとか」
時折、薄暗い廊下を召使いの成れの果てらしきスレイブが彷徨っているが、溢れ返っているという雰囲気ではない。外周はスレイブやズゥンビの類で埋め尽くされていたのに、城内のこの静けさは気味が悪い。
足音を消し、細心の注意を払って塔へと向かっていた最中に、不意に永萌が沈黙を破って語り出した。
「その前は?」
問うたステラに、永萌は口元を僅かに吊り上げる。
「ウィリアムさんはご存じないそうです。襲って来た災厄にポーツマス中が右往左往していた時に、突然に結婚話が持ち上がったようですね」
「災厄が襲って来た後に、ね」
永萌が含ませたニュアンスを、ステラは正確に拾ったようだ。
彼女自身も、ある程度は予測していた事なのだろうか。
「それって、領主様が最初から皆を騙していたって事じゃない‥‥よね?」
思わず立ち止まった彼方が、信じられないと首を振る。
「そんなの悲しすぎるよ」
「でも、そう考えるとスッキリするわ」
きっぱりと言い捨てて、ステラは窺うように廊下の角から顔を出した。
直後、その体が沈み込む。
ぶんと音を立てて襲って来た太い腕が、遅れて舞った彼女の髪を掠めて空を切る。
ティールの剣で腕を切り落とすと、彼方は素早く後方へと飛び退る。それと同時に、飛んで来たアイスチャクラがスレイブを弾き飛ばした。だが、スレイブはそれ一体ではない。
ステラが印を結んだその時、「危ない」という甲高い悲鳴と共に、何かがトリスタンへとぶつかる。さすがの彼も、その勢いを受け止めきれずに床へと倒れ込んだ。
「トリス!」
切羽詰まったリデトの叫びに視線を巡らせ、ステラは動きを止めた。
暗い廊下の真ん中で、銀の鎧を着けたトリスタンが倒れている。その上に乗っかっているのは、この場には不似合いな娘。
ゆっくりと体を起こすと、娘は心配そうにトリスタンに尋ねた。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「‥‥今、打ち付けた頭以外は」
呆然と立ち尽くしていた騎士の間で囁き交わされる「女難」という言葉に苦笑しながら、彼方は手を差し出す。
「ねぇ、とにかく起き‥‥あれ? 君は」
「ルクレツィアなのである!」
首を傾げた娘は、ややあって「ああ!」と嬉しげな声を上げた。
「アレクお兄様のお友達さんとリデトちゃん!」
再会を喜び合う3人に、ステラは額を押さえる。
「挨拶は後にして、まずはトリスタン卿を解放してね、3人共」
「ああっ!? すまないのである、トリス!!」
再び聞こえて来た「女難」の声。戦闘中であったのに、緊張感が霧散してしまったようだ。
それでも気を抜かず、印を結んだステラは眉を寄せた。
スレイブが人形のように立ち尽くしている。攻撃してくる様子はない。
怪訝そうに顔を見合わせたステラと永萌は、はたと我に返った。
明かり取りの窓に、薄赤く染まり始めた空が僅かに覗いている。もうじき夜。バンパイアの時間が来る。
侵入に思っていた以上に時間を取られてしまったようだ。
「皆さん、戻りましょう」
永萌の声に、彼方が娘の手を取る。
「ここは危険だよ。ルクレツィアちゃんも一緒に行こう!」
「危険、ですか?」
何を不思議そうに!
いつスレイブが動き出して襲って来るか分からないのだ。彼方は、強く彼女の手を握った。
「危険なのである! 怖いモノが一杯出て来るんである!」
「あら」
場違いな程に暢気な声で、ルクレツィアは答えた。
「彼らは、よく言う事を聞いてくれますのよ?」
永萌とトリスタンが同時に身構える。
ゆらり揺れながらスレイブが動き出したのだ。
「大丈夫ですわ」
ルクレツィアは、ついと手を差し出した。
その手の平に、スレイブの手がちょんと乗せられる。
ー‥‥お手?
ースレイブがお手!?
呆気に取られた永萌と彼方を、ルクレツィアはにこにこと笑って振り返った。
「ほら、大丈夫でしょう? わたくしの事を仲間だと思っているみたいですわ」
「仲間?」
娘は、ほんの少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「わたくし、バンパネーラですの」
「ルクレツィアはバンパネーラなのである!?」
素っ頓狂な声をあげたリデトに、彼女はこくりと頷く。
だが、彼女の言葉に驚いている暇は、永萌にはなかった。
冬の太陽が沈むのは早い。もう時間がない。このままでは、合流地点で待つ仲間達にも危険が及ぶ。
瞬時に判断を下して、永萌は彼方を促した。
「でも、ルクレツィアちゃんが!」
「ルクレツィアさん、本当に大丈夫なのですね?」
念を押した永萌の視線が彼女の喉元を探る。噛み跡は無さそうだ。だが、何だろう。このざらりとした違和感は。
「はい」
邪気の無い笑みで手を振ったルクレツィアと、その背後で動きを止めたままのスレイブとに見送られながら、彼らは城を後にした。
感じた違和感の正体を確かめる術も時間も、彼らにはなかったのだ。
●騎士の務め
「もういいのです。安らかに眠ってください」
刃の鋭い一閃を浴びてもなお腕を伸ばし、スレイブはリースフィアと彼女が背後に庇う者達を食らおうと鋭い犬歯を剥き出して近づいて来る。スレイブが身に纏う襤褸に、見覚えある印を見つけて、リースフィアはきゅっと唇を噛んだ。
ウィリアムも、詰め所の壁に凭れて休息を得ていた騎士達もつけていた印。守護騎士の証。
カールスナウトの柄を握り直すと、リースフィアはスレイブを薙ぎ払った。ポーツマスの為に戦い、魔の手に落ちた騎士の魂が救われる事を祈りながら。
夕闇が近づくにつれて、モンスター達の動きが活発になっていく。リースフィアの背後では、助け出した人々が震えながら身を寄せ合っている。もはや、一刻の猶予もない。太陽の光が消えてしまう前に、彼らをこの街から脱出させなければ。
「お城に行った人達はまだ戻って来ないのですか!」
「まだだ」
問うたリースフィアに、リィは苦々しく頷く。
仲間を見捨て、人々の救出を優先するか。もうしばらく留まり、仲間を待つか。どちらかを選ばなければならないのだろうか。息苦しさに、リィは苛立たしげに喉元を緩めた。
「仕方が‥‥」
「トリスタン卿!」
リィが口を開きかけた時に、エスリンが安堵を滲ませた声を上げた。
城へと向かった者達が、ギリギリで間に合ったようだ。
「スレイブ相手にどこまで通用するか分かりませんが、目くらましを使います!」
素早く呪を唱えたジークリンデの周囲に立ち込めた煙が、スレイブと冒険者の間に幕を作る。その煙をかい潜り、駆け込んで来た仲間達は息をつく暇もなく、怯えた人々に手を貸して街の外を目指す。
「ここは我々が!」
「ウィリアム殿!」
外へと続く道に並んだのは、守護騎士達。
「ですが、ウィリアム殿、貴殿らは」
「我らは守護騎士、ポーツマスを守る為に存在するのだ」
エスリンの言葉を遮って、ウィリアムは剣を抜き放った。
「待つのである!」
宙で向きを変え、飛び戻って来たリデトがウィリアムにリカバーをかける。全ての騎士達を癒したかったが、それだけの力は残っていない。
「ありがとう。‥‥突撃ッ」
ウィリアムの号令に、騎士達は一斉に動き出した。
「街の者達を頼んだぞ!」
一声残し、煙の中へと消えていった彼らが無事であるようにと祈りつつ、冒険者達は託された人々を守って街の外を目指したのだった。