ナンパ男にきをつけろ

■ショートシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月31日〜06月09日

リプレイ公開日:2006年06月09日

●オープニング

「ぃよっ!」
 しゅたっと片手を上げて、半年ぶりに姿を見せた男に、受付嬢は小さく溜息をついた。
 いつの間にかギルドに入り浸っていた遊び人。
 サウザンプトンの領主となり、それなりに責任を背負う公人となった「はず」のアレクシス・ガーディナーが、以前と変わらぬ様子で呆気に取られた依頼人や冒険者達に笑みを振りまいている。
「‥‥アレクさん‥‥何しに来たんですか?」
「よ、久しぶり! ギルドが再開したって聞いたからな。早速‥‥」
「結構です」
 一刀両断、アレクの話が終わる前に受付嬢は素っ気なく言葉を返した。
「早速‥‥」
「間に合ってますっ」
 にっこり笑顔できっぱり拒絶。
 これには、さすがにアレクも顔を引き攣らせた。
「‥‥依頼を出しに来たんだが?」
「‥‥え?」
 思わず絶句した受付嬢の表情が、彼の今までの素行を全てを物語る。
 静まりかえったギルドの中に、冷たい風が吹き抜けて行った。


「‥‥うちの領地の外れに、最近、評判の悪い男が出没している」
 卓の上をとんとんと叩きながら、アレクは話を始めた。勘違いをした受付嬢は、ひたすら小さくなってその依頼を羊皮紙に書き留めている。いつもであれば、本人に書かせるのに、今日はさすがに悪いと思ったらしい。
「年頃の若い娘を甘い言葉で口説くのだが、娘が本気になったら興味を失って別の娘に手を出すらしい。もう、何人もの娘が泣かされているとの陳情が舞い込んで来てな」
「‥‥あのぉ」
 上目遣いに、受付嬢は彼を見た。
「もしかして、それってアレクさんなんじゃ‥‥」
「失礼なっ」
 ひくひくとアレクの口元が痙攣する。言いがかりも甚だしいと、彼は自分の潔白を宣した。
「俺は! 領地では、見境なく娘を口説いたりはしない!」
「‥‥領地では、ですか」
 ああ、そうですか。
 ついでにと、受付嬢はその言葉も羊皮紙に書き留めた。
「とにかく! 年頃の娘を持つ親達が不安がっているんだ! だが、不実な男1人の為にうちの騎士を動かすわけにもいかん。どうするかと悩んでいた所に、ギルドが再開したという噂を聞いて飛んで来たんだ」
 依頼内容、ナンパ男を成敗。
 受付嬢が依頼を要約してまとめたその時に、向かい合う男から奇妙な呻きが上がった。
 怪訝に思い、顔を上げた受付嬢は見た。
 サウザンプトン領主の首に巻き付いた縄を。
「ったく!! ちょっと目を離すとすぐこれですか!」
「ま‥‥待て! 俺は依頼をっ」
 領主の首に巻き付いた縄の先は、銀の髪の男が握っていた。
「依頼なら、代理を立てて出せばいいでしょう。‥‥分かっていますよね? 復興計画予算案決議が1週間後に迫っているんです。目を通さなければならない資料が、貴方の机の上で雪崩れを起こしていますっ」
 逃げて来たんだぁ‥‥。
 目の前で繰り広げられる光景に、傍観者を決め込んだ受付嬢が納得する。
「とにかく戻りますよ! 休息なしで馬を走らせれば、部屋が書類で埋もれる前に帰り着けるかもしれません!」
 縄を引いて、彼は受付嬢を振り返った。
「というわけですから、後はよろしくお願い致します。謝礼はこれで」
「あっ、それは‥‥!」
 主の懐から重そうな革袋を取り出すと、彼はそれを受付嬢の前に置く。
「ちょっと多いですがお気になさらずに。どうせ主の懐金です」
 それでは、と主を引き摺って足早にギルドから立ち去って行く銀の髪の従者の姿を、受付嬢は渡された革袋と羊皮紙を手にしたまま、呆然と見送ったのだった。

●今回の参加者

 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4127 広瀬 和政(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4816 遊士 燠巫(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea8065 天霧 那流(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2238 ベナウィ・クラートゥ(31歳・♂・神聖騎士・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3361 レアル・トラヴァース(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 eb3389 シータ・ラーダシュトラ(28歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●情報は酒場から
「主、最近、女性に対して見境無く声を掛けている男の噂を聞いた事はないか?」
 注文した酒を空にしたところで、広瀬和政(ea4127)はそう切り出した。
 この周辺で一番大きな酒場だ。
 本人が出入りしていなくとも、何らかの情報が得られると広瀬は踏んでいた。
「女に見境無く?」
 大きな腹を揺すって、酒場の主人は広瀬の問いを笑い飛ばす。
「そりゃ難しい質問だ。どいつの名前を挙げりゃいいんだか」
「確かに」
 決まった相手のいない男が女に声を掛けるのは珍しい事ではない。主人の言葉に同意して広瀬は続けた。
「だが、誰かれとなく口説き、相手が本気になったら捨ててしまうという男は、そうそう居ないと思うが」
 ぽんと手を打ったのは、気の良い農夫といった出で立ちの男だ。
「ああ、そりゃアイツの事じゃあないかな。ほら、隣の村で一番の器量良しの娘を捨てたとか何とか‥‥」
 その言葉に、主人も思い当たる事があったようだ。何度か頷いている。
 ちらりと男を一瞥すると、広瀬は作りつけの棚に座っていたシャンピニオン・エウレカ(ea7984)に目配せを送った。小さく頷いて、シフールの少女は羽根を広げ、農夫の肩へと降り立つ。
「ねえねえ、それってどんなヤツ? 村一番の器量良しが本気になるぐらいだから、やっぱりいい男なんだよね?」
「いい男っちゃ、いい男みたいだけどなぁ」
 教えて、教えてと、興味津々な振りをして、シャンピニオンは男の髪を引っ張った。ほろ酔い気分の男は、明るく話をせがむ少女に頬を緩める。
「そうさなぁ、お嬢ちゃんみたいな可愛い子が騙されちゃ大変だからなぁ」
 そう前置きして語り出した男と、上手に聞き出していくシャンピニオンの様子をしばらく眺めていた広瀬は、ふと思い出したように主人へと視線を移す。
「しかし、その男は何を考えて女性に声を掛けているのだろうな。ただの女好きか、それとも‥‥」
 目を細めた広瀬に、主人は肩を竦めてみせた。
「さぁて。ただ、まぁ‥‥本当か嘘かは知らないが、本気になった娘は、皆、別嬪だって話だ。あの花と思えばこの花と目移りしちまうのかもな」

●男の行方
 予定の場所で落ち合うと、彼らは互いの情報を交換し合った。酒場で、村々で聞いた話をまとめると、依頼人の情報だけでは分からなかった事も見えて来る。
「しっかし、娘が泣かされた言うて、親が領主に訴えるんかいな」
 呆れ顔で呟くレアル・トラヴァース(eb3361)に、シータ・ラーダシュトラ(eb3389)がむぅと眉を寄せる。
「女の子にとっては、恋人って言うのは、ただ1人の人なんだよ! ぼ‥‥僕だって、いつかは‥‥」
 褐色の頬を僅かに染めて俯いたシータに、レアルは苦笑して頭を掻いた。
「結婚の約束したとか金銭が絡んでるなら別やけど、ただ振られただけやったら恋愛の範囲やないんかなぁと思うただけや」
 夢は大きくな。
 うんうんと頷きながらシータの頭を撫でるレアルに、天霧那流(ea8065)が小さく首を傾げる。
「それがね、問題の彼は結婚のけの字も出さなかったらしいんだけど、娘さん達はその気になっちゃったらしくて」
「うあ、最悪やな」
 うんざりとレアルが空を仰ぎ見た。
「ほんと、最悪だね! 見つけたら縄でグルグルに縛って引き摺って海へ放り込んでやらなくちゃ!」
 ぐっと拳を握り締めて気炎を上げるシータにうんうんと頷いて同意しているのは遊士燠巫(ea4816)だ。
「‥‥他人事じゃないんじゃない?」
 それまで黙って聞いていたカルゼ・アルジス(ea3856)が顔をあげて、ぽつりと呟いた。瞬間、仲間の動きが止まる。
「ふ、触れないようにしていたのに!」
 頭を抱え込んだシータの肩を叩いて、那流が頭を振る。
「触れても触れなくても一緒よ。だって、もう簀巻き経験者ですもの」
「失礼なっ! 俺はヒューとアッシュと嫁さん一筋だぞ!」
 それを一筋と言うのだろうか。
 頭に過ぎった疑問は、きっと皆して同じだったに違いない。
「一応、突っ込んどくで。嫁さんがいっちゃん最後や!」
 ずびし!
 レアルの裏拳にも、燠巫は豪快に笑って堪えた様子を見せない。
「ねえねえねえ! 俺、簀巻きやった事ない! 簀巻きってどんな感じなの? 面白い?」
 瞳を輝かせ、わふわふと尻尾を振って(幻覚)、ベナウィ・クラートゥ(eb2238)は燠巫を見上げた。何に興味を抱いているのだろうか。非常に危険である。
「んー? 簀巻きか? あれはなぁ、体の自由を奪われ、見ている事しか出来ないのが何とも言えず‥‥」
「やめんかっ!」
 刀の柄で燠巫の後頭部を殴りつけると、広瀬は逸れた話を無理矢理に戻す。
「ともかく、だ。話を総合すると、奴は女遊びが目的のように思える。金品を巻き上げたという話も聞かないしな。‥‥こら、変な事に興味を持つな」
 なおも燠巫から「簀巻き」の話を聞きだそうとしていたベナウィの襟首を引っ掴んで、広瀬は咳払う。健全な青少年を邪な道から救い出さねばならない! 沸き上がった彼の使命感は、だがしかし、控えめに手を挙げたカルゼの爆弾発言の前に燃え尽きた。
「でも、奴を誘き出すのは簡単だよね。可愛い女の子を囮にすればいいんだから。カリア、頑張るっ♪」
「それ、いいっ♪」
 ぴんと指を立てて、ね? と可愛く首を傾けるカルゼに、燠巫が両の拳を口元に当ててしなを作った。ご丁寧に声まで変えている。目を閉じてれば、少し低めの女性の声に聞けない事もない。
 ぞわり、と広瀬の背に悪寒が走った。
「貴様ら‥‥」
「大変やなぁ。ま、頑張れや」
 まるで他人事のように肩を叩くレアルに、広瀬のこめかみに血管が浮く。
「貴様ら、まとめてそこへ直れっ!」
 怒りの雷声が周囲に轟き渡る。
 カルゼの描いた似顔絵を手に男の行方を調べ、戻って来たシャンピニオンがその騒ぎにぷんすか怒り出すのは、それからしばらくしてからの事だった。

●囮捜査
 さほど大きくはない村の井戸端で、手にしていた桶を奪われた娘が小さく声をあげた。
「こんな力仕事をしていちゃ駄目だよ。俺に貸して」
 桶を追いかけた手を掴んで、耳元で甘く囁く。
「この村に、君みたいな可愛い子がいたなんて‥‥。俺は今まで何を見ていたんだろうね」
 邪気など欠片もない笑顔を見せて、男は井戸から汲み上げた水を桶に注ぐ。
「返して」
 桶を取り返そうと伸ばした白い小さな手をそっと押さえて、男は片目を瞑ってみせた。
「駄目。俺にやらせて? ああ、ほら、肉刺が出来ている。駄目だよ、折角の綺麗な手なのに」
「放っておいて下さい」
 つんとそっぽを向いた娘に、男は快活に笑う。
「洗濯かな? それともご飯の準備? 俺が家まで運んであげるよ」
 桶を抱えて男が娘を振り返ると同時に、壺が割れる乾いた音とけたたましい叫び声が響いた。
「カリア! ああ、カリア!」
「ステラお姉様」
 唇を戦慄かせた女性が、2人の元へと駆けて来る。たおやかな外見とは裏腹に、走り方が野生味を帯びているのは田舎暮らしのせいか。ステラと呼ばれた女性は、カリアから遠ざけるように男を突き飛ばした。
 桶が転がり、乾いた地面に零れて染み込んでいく。
「み‥‥見かけによらず、力が強いね、キミ」
 カリアの体を力一杯抱き締めて、ステラは男を睨み付けた。腕の中のカリアが苦しげな顔をしたが、ステラは気に留めずにますます力を込める。
「私の可愛い妹に何をしてるのっ!? よよよ‥‥」
 どこからか鐘の音が1つだけ聞こえて来る。時を告げる鐘にしては、小さすぎるその音に男が疑問を感じる間もなく、ステラはカリアを抱き締めておいおいと泣き始めた。
「ああ、私の大切なカリア! お父さんとお母さんがいない分、私が貴女を守ってあげますからねぇぇ?」
「ああ、ステラお姉様ぁ」
 派手に抱き合い、泣き声をあげる2人の姿は、端から見ればどこかの田舎芝居のようである。
 だが、男は目元を乱暴に拭うと、ぐしっと鼻を啜り上げた。
「なんて美しい姉妹愛なんだ‥‥。キミ達は、野に咲く花よりも可憐で、葉を揺らす風よりも優しいんだね。心配しなくてもいいよ、俺がキミ達の力になるから!」
「まあ!」
 ステラは男へと顔を向けた。その口元に浮かんだ笑みに何やら不穏なものが含まれていたが、感激に打ち震える男は気づかない。
「ちょっと待ちなさい!」
 男と姉妹の間に割って入ったのは、長い黒髪の娘だった。 
「ひどいじゃない! あたしという者がありながら、別の女の人を口説くつもり!?」
 腕を組み、怒りに眦を吊り上げて男を睨みつけたのも束の間、ぎゅうといきなり抱き締められて、娘‥‥那流は全身総毛立つ。
「キミを捨てたりするはずないじゃないか、クリスティ!!」
「ちょっ、ちょっと!」
 男の抱擁から抜け出そうと体を捩るものの、今の状態ではどうする事も出来ない。
「いい加減に‥‥っ」
 本気を出せば、一撃で仕留められる。だが、それはまずい。でも!
 葛藤する那流の心の内を知る由もない男は、彼女の背に回した手で艶やかな髪を撫でた。
「だから、キミは何も心配しなくていいんだよ」
 わなわなと、那流の手が震える。
「もちろん、キミ達も。俺は、いつだって‥‥」
「ふぅん? そっかぁ。それじゃあ」
 肩に回された手の重さに、男が言葉に詰まる。ステラから零れたドスの効いた声は、女性のものではない。
「俺と漢の友情、深めてみるかっ♪」
 たおやかで妹思いの女性の姿は、そこにはなかった。褐色の肌に白い歯がきらりと眩しく光る。
「え? え? 漢‥‥?」
 

 背筋を走った冷たい何かに、彼は手にしていた書類を取り落とした。
「で、次の‥‥って、どうした?」
「いえ、今、悪寒がしたもので」
 首筋の辺りを押さえて、銀色の髪の青年は不思議そうに背後を振り返ったのだった。

●罰
 男の旋毛を枝の先で突っつくとシャンピニオンは深く溜息をついた。
「そーれーで?」
「だから、俺は悪い事なんてしちゃいないって」
 先ほどからレアルは微妙な唸り声をあげるばかりだ。突っ込む気力も失せたらしい。
「さっきだって、俺はカリアが水を汲むのを手伝っていただけだろ? ね、カリア」
 ほっそりとした少女は、無言で服に手をかけた。
「わわっ!? 駄目だよ、カリア! 年頃の娘さんがこんな人達の前で! せめて俺1人の時に‥‥」
 思い切りよく服を脱ぎ捨てたカリアが、乱れた髪を撫でつけてにっこりと笑う。
 そこにいたのは少女ではない。やや細身だが、歴とした男。
「俺1人の時に‥‥何?」
「キミは‥‥キミ達は‥‥。そうか、そういう趣味の人達だったんだ」
「反省の色がないっ!」
 呆然と呟く男の頭を、シャンピニオンがぽかりと殴りつける。
 肩を竦めて、レアルは眉間に深い皺を刻んでいる広瀬を振り返った。女性に恨みがあるのか、はたまた理想の相手を求める愛の追求者か。その行動に何か理由があるのではと考えていたレアルだが、今は情けを掛けてやる気も起きない。
「どうする? ‥‥シータが臨戦態勢整えとるみたいやけど」
 暗にボコるかと尋ねたレアルに、広瀬は口元をひくつかせた。
「そうしたいのは山々だが」
 痛い目に遭ったとしても、この男の性根は直らないだろう。
「どーいう理由があるにせよ、不実な行いは戒めないとね?」
「不実? 不実な事など何も無い! 俺は、いつも全身全霊をかけて女性を愛してきた!」
 この期に及んでそう主張する男に、シャンピニオンのこめかみにも青筋が浮かぶ。
「素直に悔い改めないと‥‥発泡酒を鼻から飲んで貰うわよ?」
 ナックルを握り締めていたシータが、ざっと青褪めた。
「や、シャンピニオン、それは勘弁してあげようよ。せめて、発泡酒じゃなくてミルクとか‥‥」
 海に投げ込む前に殴り飛ばす気満々だった彼女も、そのお仕置きは恐ろしすぎて想像もつかなかったらしい。ぶるりと身を震わせて、恐る恐る妥協案を出してみる。
「んじゃあ」
 男の前にしゃがみ込むと、ベナウィはぴんと指を立てて笑いかけた。
「弟子になれっ」
 しん、とその場が凍り付く。
 誰もが言葉を忘れて、ベナウィを凝視する。
「んん?」
 首を傾げた彼の頭の上で揺れる獣耳ヘアバンド。
 弟子、とは何の弟子だろう。
「‥‥き、聞いてもええか、ベナウィ」
「なに?」
 生唾を飲んで、レアルは無理矢理に作った笑顔をベナウィへと向けた。
「何の弟子にするつもり‥‥だ?」
 仲間達が息を詰めて、彼の答えを待っている。その気配をひしひしと感じながら、レアルは顔の筋肉に力を込めて笑顔を維持した。
「そりゃあモチロン! 戦う萌え戦士2号の‥‥」
 自慢げにぴんと弾かれた獣耳に、男は声にならない悲鳴をあげた。
「悪かった! 俺が悪かった! 悔い改めるから! 鼻から発泡酒飲むから!」
 縛られたままで、男は那流の背後へと逃げ込んだ。
 こんな状態でも一番近くのカルゼではなく女性を選ぶ所はいっそ天晴れだ。
 妙な所で感心して、レアルは広瀬と共に項垂れた。