夏の夜に夢を

■ショートシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月13日〜07月22日

リプレイ公開日:2006年07月23日

●オープニング

「サウザンプトンの復興祭に、彼女を招きたいのです」
 重そうな皮袋を卓の上に載せて、銀色の髪と赤みがかった瞳が印象的な男はにこやかに微笑んだ。
 サウザンプトン領主アレクシス・ガーディナーの従者、ヒューイット・ローディンである。
 複雑な事情を持つ彼は、現在は唯一の主であるアレクを陰から支え、日夜奮闘しているサウザンプトン1の苦労人だ。
「彼女‥‥というのは」
「サウザンプトン前領主のご令嬢、我が主アレクシスの従妹殿であられるルクレツィア様です。サウザンプトンの混乱も一応の収束をみましたから、領民と共に平和が戻った事を祝うべく、復興祭が執り行われます。‥‥その祭りに、ルクレツィア様にも参加して頂きたいのです」
 しん、とギルドの中に沈黙が落ちた。
 ルクレツィアという少女は、1度、キャメロットを訪れた事がある。
 波打つ金髪と、柔らかな笑顔、育ちの良さそうな物腰が印象的な少女だった。だがしかし。
 冒険者達の戸惑いを察したのか、彼は強く言葉を重ねる。
「一緒に、災厄が去って平和が訪れた事を祝いたいのです」
 その中に籠められた想いを感じ取り、冒険者達は強く目を瞑った。
「分かったよ。彼女が皆と一緒に笑える事が、平和が戻った何よりの証だな」
「よろしくお願いします。‥‥しかしながら、ルクレツィア様の移動に関しては、いくつか注意しなければならない点があります。1つめは、太陽の光に晒さないこと」
 胸に手を当てて感謝を表すと、ヒューはすぐに真剣な口調に戻った。アレクシスが最も信頼を寄せる者として、ルクレツィアを守る者の1人として、彼女が無事にサウザンプトンに辿り着く手配しなければならないのだ。
 ほんの僅かに和らいだ表情を再び引き締めて語る彼に、冒険者達は頭の中で依頼の遂行過程を思い描いた。
 移動は夜中。闇の中を進むのは、昼間よりも少しばかり危険が増すが問題はなかろう。
「2つめは、ルクレツィア様を乱暴な事、血を流すような事から遠ざけること」
 万が一にも盗賊に襲われても、彼女の前では戦えない、か。
「3つめは、彼女に退屈させないこと」
 とりあえず、自分の持ちネタを指折り数えてみる。
 そこへ、見透かしたようなヒューの冷たい言葉が重なった。
「しかし、それは芸を披露しろと言うわけではありません」
「つまり、ルクレツィアさんが旅を楽しめるようにって事ね?」
 その通りです。
 銀髪の従者は大きく頷いた。
「ルクレツィア様は、あまり島を出られません。滅多にない機会ですから、存分に楽しみ、思い出を作って頂きたいのです」
 彼が浮かべる微笑みは優しい。
 冒険者達も釣られて笑んだ。
「なるほどね。そういう事なら、お嬢様には楽しい旅路を提供させて貰うぜ。3つの条件を守っていれば、多少羽目を外してもいいんだよな?」
「はい。必要経費は全てアレクシスがもちますので、存分に」
「全て」と「アレクシス」を強調して、にっこり笑うヒューに、彼らは一瞬だけ年若いサウザンプトン領主に同情した。金の出所は、おそらく彼のへそくりであろうから。しかし、それはあくまで「一瞬だけ」だ。
「あの方にお金を持たせておくとロクな事がありませんから、せめて有効活用してやって下さい」
 きっぱりはっきり告げた従者に、冒険者達も同意を示して陽気に笑ったのだった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2238 ベナウィ・クラートゥ(31歳・♂・神聖騎士・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3389 シータ・ラーダシュトラ(28歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●夜を行く
 日中の暑さを含んだ風が追い越していく。僅かに潮の香りを残す風が乱した髪を軽く手で押さえると、御門魔諭羅(eb1915)は来た道を振り返った。
 木立の向こうに広がるのは、真っ暗な闇。
 それは、つい数時間前まで揺られていた海原だ。
「お疲れではありませんか?」
 声を掛けて、魔諭羅は馬車に吊してあったランタンを手に取った。
「この先に泉があるはずですから、少し休息致しましょう」
「休憩なのであるか!? ルクレツィア! お菓子、お菓子を食べるのである!」
 小さく開いた扉から勢いよく飛び出して来た影をするりと避ける。魔諭羅の代わりに苦鳴の呻きをあげたのは、メグレズ・ファウンテン(eb5451)だ。それから、飛び出して来た影、リデト・ユリースト(ea5913)と。
「あ‥‥あら? 申し訳ありません。メグレズ様」
「い‥‥や、気にしなくてもいい」
 鼻を押さえたメグレズが、頭を抱えたまま落下したリデトを地面に落ちる寸前で掬い上げて、魔諭羅に手を振る。
「あらら、出会い頭やなぁ。恋が芽生えるんとちゃうやろか」
 リデトの後に続いて馬車から降りて来た藤村凪(eb3310)が、おっとりと笑う。
「いや、‥‥それはちょっとどうだろう」
「真剣に答えなくてもいいのであるッ!」
 リデトは放たれた矢の如く馬車の中へと飛び戻った。恋が芽生えたわけではないが、即座に否定されるとそれはそれで傷つくものだ。
「ルクレツィア〜っっ!!」
 シータ・ラーダシュトラ(eb3389)から借りたインドゥーラの民族衣装の胸元に飛び込んで来たリデトの頭を、ルクレツィアと呼ばれた少女は優しい手つきで撫でた。この少女こそ、今回の護衛対象、サウザンプトン領主アレクシスの従妹だ。
「ちっちゃいっていいなぁ」
「可愛さなら、俺も負けてナイけどネッ!」
 薄暗い馬車の中、羊皮紙にペンを走らせていたカルゼ・アルジス(ea3856)がぽつりと漏らす。カルゼとは逆に、ベナウィ・クラートゥ(eb2238)はぐっと拳を握り締めて闘志を燃やしていた。標準装備の犬耳の位置を直し、きゅるるんと瞳を潤ませて、力強く床を踏みしめる。
 その襟首をしっかと掴んだのは、シータ。
「‥‥もしもし? そこのお2人さん?」
 褐色の肌の少女の冷たい視線を浴びて、カルゼは慌てて首を振った。ベナウィの犬耳も、心なしか垂れたように見える。
「ごっ、誤解だよ? ツィアちゃん! 俺は変な意味で言ったんじゃ‥‥」
「俺だってぇ。ただ、獣耳の愛らしさと触り心地の良さと直に伝えたかっただけなんだから!」
 うるうる瞳のベナウィと、首まで赤く染めたカルゼの姿が、蝋燭の乏しい光の中でもよぉぉぉく分かる。
 付き合っとられん。
 はふと溜息をついて、シータは馬車の外の様子を確認した。外に出た凪と魔諭羅の和やかな会話が聞こえて来る。飛び戻って来たリデトもルクレツィアとじゃれてるし、警護に回っている者達からの警告もない。
 という事は、外に出ても危険はないだろう。
「ねぇ、ルクレツィアも外に出ていいよね?」
 やたらと立派な馬車の屋根の上で、小さく音がした。例えるならば、猫が着地するような。いや、音からするともう少し大型の獣か。故郷の密林に生息する誇り高い動物を思い出しつつ、声を掛ける。
「それとも、もう少し待った方がいい?」
「‥‥今のところ、怪しげな気配はありません‥‥」
 少しばかりくぐもった声が、屋根から聞こえて来た。
 今回の主をルクレツィアと定め、その傍らに常に控え、守っている大宗院透(ea0050)だ。
 馬車が止まると同時に安全確認に走った透は、闇の中でも気配を察知する術に優れている。その彼女が言うのだから間違いはない。
「では、お菓子休憩なのである!」
「‥‥お菓子休憩ってナニ?」
 今の今までルクレツィアに慰められていたはずのリデトが元気いっぱいの声を上げた。がくりと肩を落としながら問うたシータに、驚きの声をあげたのはベナウィだ。
「ええっ!? お菓子休憩を知らないの!?」
 知っていない方がおかしいとばかりの反応に、不安が募って来る。
「そ、そんなに有名なの?」
「有名ってか常識だよ! ねえ?」
「そうなんである! 常識なのである!」
 2人がかりで頷かれ、そうなのかとシータが信じかけたその時に。
「はいはい、そこまでにしとこうな。シータさんがほんまにするやろう?」
 馬車の中を覗き込んだ紫が苦笑しながらルクレツィアを手招く。
「ほな、行こか。ルクレツィアさん。お菓子休憩やあらへんけど、お星様見ながら、お茶とお菓子を頂くのもええよ」
「夏の夜の星による演出を見る事が出来る場所に寄り道で寄るというのはどうでしょうか」
 屋根の上から覗き込んで来る少女がぽつりと落とした言葉に、まず紫が動きを止めた。
「夜の星による‥‥」
 続いて、透の言葉を繰り返しかけたカルゼがアイスコフィンを食らったかのように凍り付く。
「ど、どうしたのであるか? 何か‥‥」
 頭の中で、先ほどの場面がリピートされる。不意に、周囲の気温が下がった気がして、リデトは体を震わせた。
 あっという間に拡張していくフリーズフィールド(もどき)。
 無駄に飾られた馬車の屋根の上からその光景を眺めていた透は、馬車から下りて来たルクレツィアに深々と頭を下げた。
「忍は、主を影ながら守る事が使命ですので」
「あら。一緒にお菓子を頂けるかと楽しみに致しておりましたのに」
 立ち去ろうとしていた気配が留まる。
「一緒に頂いては下さいませんの?」
 そっと振り返れば、今回の主がにこにこと微笑みかけている。
「‥‥」
「ご一緒して下さいますわよね?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 忍にとって、主の命は絶対のものであった。

●散策
「ルクレツィアさま、ご覧下さい」
 大声を上げぬようにと、唇に指を当ててメグレズが大振りな枝を指さす。
 そこに、野生のフクロウがいた。小刻みに首を動かす愛嬌ある仕草に、ルクレツィアは小さな笑い声をあげた。
「中には畑を荒らしたりと悪さをする動物もいますが、普段は、皆こうして静かに暮らしているのです」
「畑を荒らす悪い動物を退治した事がおありですの?」
「勿論です」
 微かに眉を跳ね上げて、メグレズは淡々と答える。だが、夜目の利くルクレツィアには、彼女が浮かべている微笑みもちゃんと見えているはずだ。
「困っている人の力になる事こそ騎士の務めであり、冒険者の使命ですから」
「そうですか」
 ふくろうに気を取られつつ相槌を返したルクレツィアに手を差し出すと、メグレズは彼女に歩調を合わせて静かに語り出す。その様は、まるで花園を散策している騎士と姫君のようだ。たとえ、その話の内容がちょびっとだけしょっぱい冒険の苦労話だとしても。
「‥‥嗚呼っ、俺が手を繋ごうと思っていたのにぃ」
 空を切った遣り場のない手。ルクレツィアに渡す機会を待っていた青いスカーフが、生温い風にひらりと揺れた。
「君に渡したくて渡せないこのスカーフは、俺の心と‥‥」
「‥‥そこ、勝手に人の気持ちを代弁しない」
 背後で熱く語るベナウィにずびしと突っ込みを入れて、カルゼは息を吐き出した。今回の護衛対象であるルクレツィアの周囲には、常に誰かがいる。さりげなく渡せばいいのだと分かっていても、誰かの目があると思うと躊躇してしまう。繊細な男心である。
「焦らなくてもいいんじゃない? まだまだ機会はあるだろうし。それに、ほら、サウザンプトンには「木の下でプレゼントを渡すと想いが伝わる」とゆー伝説の木が‥‥」
「「あるの!?」」
 勢い込んで尋ねて来た仲間達に、シータのこめかみに汗が伝った。思いつきで口にしただけなのだが、予想以上の反応である。しかし、嘘はつけない。
「‥‥あるといいなァ」
 あからさまに何名かが肩を落とした。
「う‥‥」
 頭の上へぽふんと落ちて来たリデトが更にシータの罪悪感を煽る。
「いーけないんだいけないんだー」
 煽る。
「ルクレツィアに言ってやろー」
 煽る。
「トーリースにも言ってやろー」
「ぅわぁぁぁぁぁん!」
 泣きダッシュして駆け去っていくシータに、はて? とリデトは首を傾げた。
「シータはどうしたのであるか?」
「リデトさん‥‥」
 子供の間で流行っている戯れ歌である事は分かってはいたが、シータが不憫で、凪はそっと目頭を押さえたのであった。
「この先が、魔諭羅さんの言っていた泉です。魔諭羅さんが準備してくれているはずですが‥‥」
 後ろで起きている騒動には気づかぬふりをして、メグレズはそつなくエスコートをこなしていた。ルクレツィアが退屈しないよう、次から次へと持ち出す話題は、彼女が持つ博物誌から得たものも多い。何の役に立つか分からぬものだ。
 メグレズがしみじみとそう思ったその時である。
 ルクレツィアの傍らに控えていた透の気配が消えた。
 続いて、泣き駆けていたシータが土を抉る勢いで向きを変えて戻って来る。
「ルクレツィアさんを」
 そう短く言い置いて、凪も前へと出た。目のよいルクレツィアには分からぬよう小太刀「陸奥宝寿」を袖口に隠し持った凪に頷くと、カルゼはルクレツィアの手を引いた。片手はいつでもスクロールを取り出せるよう、懐へ忍ばせている。
「まあ。どうかなさいましたの?」
「何でもないよ、ツィアちゃん」
 でも、と後方を振り返りかけたルクレツィアの手を、カルゼはぎゅっと握り締めた。
「何でもないんだよ、本当に」
 危険が迫っているならば、馬車へと辿り着く前に騒ぎが起きてしまうだろう。後方が安全とも限らない。仲間達から離れ過ぎるのもよくない。どうすればルクレツィアを守れるのか、頭の中で考えを巡らせる。
「ちょっと待ったぁ!」
 助走をつけて地面を蹴る。踊り手のように華麗な回転を決めつつ、ベナウィは仲間達の前へと躍り出た。
「ベナウィさんっ?」
 驚きを滲ませた凪の声に、人差し指を振り、ちちちと舌を鳴らす。
「戦う萌え戦士の耳はどんな音も聞き逃さないってね〜♪」
「はい?」
 いきなり何を言い出すのか。
 瞬きを繰り返した凪に、ベナウィがぴんと犬耳を弾く。
「ガサガサ言ってるけど、あれは多分‥‥」
 繁みが揺れて、再び身構えた凪とメグレズの目の前に、小さな影が飛び出して来た。
 その後を追って現れたのは、姿を消した透だ。
「キツネかタヌキ。あんまり大きいヤツじゃないけど、1匹じゃない。‥‥ね?」
 犬程度の大きさをした影は、人間達の姿に驚いたのか反対の繁みへと逃げ込んでいく。
「なんだ‥‥動物か?」
 上がった語尾は、影を追って来た透に対するものだ。
 メグレズの問いに、透は無言で頷いた。安堵しつつ、メグレズは柄に伸ばしていた手を離す。傍らの凪も、小太刀を握っていた事など微塵も感じさせない様子で襟足に落ちた髪を掻き上げた。

●星に包まれて
 澄んだ泉に星空が映り込む。
 まるで星の中に浮かんでいるかのようだ。
 泉を覗き込んで歓声を上げる仲間達に、魔諭羅は口元を隠して上品に微笑んだ。
「凄いですわ! 星が掴めそうです」
「落ちないでよ、ルクレツィア」
 身を乗り出したルクレツィアに注意を促して、シータも波のない水面に手を伸ばす。ルクレツィアの言う通り、星が掴めそうだ。冷たい水を手で掬い、シータは「ほら」とルクレツィアに見せた。
「星を捕まえたよ」
「まあ! 素敵ですわ!」
 無邪気に喜ぶルクレツィアに、真夜中のピクニックの準備をしていた者達の口元も緩む。太陽の光を避けねばならなかったり、血を見せてはいけないという条件付きで旅をする彼女だが、こうしてみるとまるっきり普通の少女と変わらない。
「ご存じですか」
 星の掬い合いをしている少女達に歩み寄ると、魔諭羅は泉の真ん中を指さした。小さな光が無数に集まる空に、一際光る星がある。
「あの星と、あちらに光る星は恋人同士なのです」
「星なのに?」
 振り返ったルクレツィアの柔らかな髪が揺れる。肩口に座ったリデトは擽ったそうに身を竦めて笑うと、ふわり羽根を広げた。
「私も聞いた事があるのである。星の川の両岸に住んでいるので1年に1度しか会えない恋人達の事なんである」
 ええ、と相槌を打って魔諭羅は泉に映る星から本当に星へと視線を移す。
「2人は、この時期、たった1日だけ会う事が出来るのですよ」
「まるでわたくしとお兄様のようですわね」
 ルクレツィアの傍らに控えていた透が僅かに表情を動かした。1日の逢瀬しか許されない恋人達の気持ちと肉親の感情は別の物だ。そんな透の視線に気づいた魔諭羅が苦笑して首を振る。
「ヒューはよく島に戻って来るのですけれど、アレクお兄様はちっとも戻って来て下さいませんの。ヴァレリーお兄様なんて、冬にお会いしたきりで‥‥」
「ねぇ、ツィアちゃん」
 それまで黙って彼女と共に水を掬っていたカルゼが不意に口を開く。
「俺、ツィアちゃんの事大好きだよ」
「はい。わたくしも大好きですわ」
 うんうん。
 分かっていたよ、通じない事は。
 頭で分かってはいるのだが、無情の風を感じてしまうのもまた事実。
「着くまでに完成するかなぁ、肖像画‥‥」
 溜息混じりの関連性の無い呟きを漏らせば、ルクレツィアがくすりと笑う。
「あら‥‥。わたくし達の間に星の川はありませんのに」
「そやなぁ。1年に1度しか会えへん恋人達と違うんやし」
 キャメロットから少し足を伸ばせばサウザンプトン。そして船に乗ればワイト島にも行ける。面識が無い者と違い、行けばすぐにでも会えるだろう。絵が完成すれば、それを持って会いに行こう。
「でも、小舅がいるけどね」
 ルクレツィアと凪の言葉に浮上しかけたカルゼの気分は、シータの一言で再び沈んだ。
「落ち込まない落ち込まない。障害があればあるほど萌えるものなんだよ。第三者が」
 ベナウィはベナウィで力一杯、傍観者として楽しむ気満々のようである。
「頑張れ、若人」
 香草茶を啜って、既に傍観者だったメグレズがエールを送る。
「さて、私達もお茶を頂きましょうか」
「星見に干し果物が欲しいのですが‥‥」
 真夜中の茶会は、ブリザードが吹き荒れた一部を除いて和やかな雰囲気の中で和気藹々と行われたのであった。