サウザンプトン復興祭／昼の部
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■ショートシナリオ担当：桜紫苑 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：普通 成功報酬：0 G 91 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：08月22日〜08月31日 リプレイ公開日：2006年09月02日 |
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●オープニング
雲１つない空だ。小さな星の瞬きも、はっきりと見える。
催事の打ち合わせから主の捕獲という些事までに忙殺されて、ゆっくりと空を見上げる時間すらなかった。心地良い風が窓から吹き込み、銀の髪を揺らす。
僅かに目を細めて、彼は微笑んだ。
祭りの準備は整った。
後は、皆に楽しんでもらい、サウザンプトンに平和が訪れた事を実感して貰うだけだ。
「ヒュー」
自分を呼ぶ小さな声に、銀髪の青年は振り返った。
月の光の下で光沢を放つ金の髪。
存在そのものが光を放っているかに思える少女が、静かに佇んでいる。
「ルクレツィア様」
「ヒュー、わたくし」
喉元を軽く押さえた彼女のしぐさに、ヒューは柔らかく笑んだ。
「ああ、喉が渇かれましたか」
傍らに置いてあった文箱からナイフを取り出すと、袖を捲くりあげ、手首に押し当てる。ぷつりと皮膚が切れる感触がして、すぐさま赤い玉が浮かんで来た。
「どうぞ」
「ありがとう」
そっと傷口に唇を当てた少女へ慈しみの篭った眼差しを向ける。
忌まわしいこの身に、たった１つだけ与えられた特権。それを感謝するようになったのは、この少女と出会ってからだ。それまでは、おぞましいだけだったのに。
「ルクレツィア様」
「なぁに？」
唇を真っ赤に染めた少女が顔を上げる。
その口元を絹の手布で拭い、穏やかに尋ねる。
「お幸せですか」
その問いに、少女は２度、３度と瞬きをし、花の蕾が綻ぶような笑顔を見せた。
「はい。お父様やお兄様やヒューが傍にいてくださいますし、何より、お友達も出来ましたし！」
ワイト島からサウザンプトンまでの旅路でどんな事が起きたのか、彼女は何度も何度も楽しそうに語った。同年代の者達と旅をしたのがよほど楽しかったのだろう。
ちなみに、その話を聞いたどこかの領主のゴリ押しで復興祭の行事が追加されたのは、領主に近しい者しか知らない裏事情である。
「お祭りも楽しみですの！ お昼の行事は、皆様、当日のお楽しみだと言って教えて下さらないのですけれど‥‥、わたくし、お昼は外に出られませんので確かめられませんわ」
拗ねた少女に、ヒューは顰めっ面を作って見せる。
「当たり前です。お嬢様の体に太陽の光は害にしかならないのですから」
ぷぅと頬が膨らむ。笑いを堪えつつも厳しそうに、ヒューは口を開いた。
「仕方がありませんね。なるべく、太陽を浴びないように気をつけると約束して頂けるならば、昼間の行事にも参加して構いませんよ」
顔を輝かせた少女から星の瞬く空へと視線を移す。
「冒険者達はどんな催しを用意しているのでしょうね」
「あら。ヒューも知らないのですか」
ええ、と彼は頷いた。
「とりあえず、資金だけは提供致しましたが」
「アレクお兄様が、ですわね」
にこにこと微笑み合って、空を見上げる。
「楽しみですわねぇ」
「ええ、楽しみです」
裏で泣く者の悲しみなど知らぬ顔で、彼らは来るべき楽しみへと思いを馳せた。
●今回の参加者
ea3856 カルゼ・アルジス（29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国）ea5913 リデト・ユリースト（48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国）
ea5984 ヲーク・シン（17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国）
ea6870 レムリィ・リセルナート（30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国）
ea8065 天霧 那流（36歳・♀・侍・人間・ジャパン）
ea9951 セレナ・ザーン（20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国）
eb2745 リースフィア・エルスリード（24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国）
eb3389 シータ・ラーダシュトラ（28歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国）
●リプレイ本文
●お祭り騒ぎ配られた焼き菓子を受け取り、天霧那流（ea8065）は館の庭に所狭しと並んでいる出店を見渡して苦笑した。
「これも、アレクが真面目に仕事をしている成果って言うのかしらね」
街は、以前とはまるっきり様子が違っていた。
何かに怯え、息を潜めて生きていた人々が心の底から笑っている。かつて受けた傷は、まだ至る所に残っていても、それでも活気と希望に満ち溢れた明るい街、サウザンプトン。
けれど。
那流はふ、と目を逸らした。
けれど、これは行き過ぎじゃないかしら？
派手派手しい‥‥を通り越して、毒々しい塗料で塗りられた木の板は乾かぬうちに立て掛けられたのだろう。塗料が滴った跡が、何やらおどろおどろしさを醸し出している。本当に「楽しい」のだろうかと疑ってしまう程に。そして、アレだ。
「ナマステー！ インドゥーラ名物蛇踊りだよー！ あ、そこそこ！ 逃げないで！ 大丈夫。うちの蛇はみぃんな良い子達ばかりだから！」
ぺしんと粗末な机を叩いて、シータ・ラーダシュトラ（eb3389）は一際大きく声を張り上げた。
「はい、赤蛇さーん、出ておいでー！」
机の上に並べられた壺の中から赤い物体が顔を出す。歓声が一際大きくなった。
「‥‥」
くねくねと蛇が踊っているかのように動くのは赤く染めた手袋。しかも。
「‥‥アレク、何やってるの」
布で隠された机の下、色違いの手袋をして潜んでいたのは、つい先ほど見直したばかりのサウザンプトン領主、アレクシスだった。眩暈を起こしかけた那流に、シータが満開笑顔で手を振る。
「あ！ ナル！ 手伝いに来てくれたんだー！」
そう来たかぁ。
がくりと肩を落として、那流は虚ろな笑いを漏らした。
「よかった。アレク、もうすぐ別のトコロに貸し出さなきゃいけなかったんだ」
「貸し出されるのね‥‥」
視線を空に向けて、那流は呟く。
黄昏を背負った那流の腕を引いて、シータははしゃいだ様子で１枚の看板を指差した。そこには、やはり塗料が滴った字で大きく「的当てゲーム」と書かれてある。那流の見間違いでなければ。
「的当て」
「うん！ このダーツを的に投げて、当たったら景品が出るんだよ！」
那流の頭に駆けめぐった光景。それは、四肢を拘束された自分に向かってダーツを投げるアレクの姿だった。
「ちょっ、ちょっと待って、シータ！ 私は的になんて‥‥」
慌てふためいた那流を、シータが怪訝そうに振り返る。
「何言ってるの？ 的はあれだよ？」
木枠に天蓋を張って作った簡易な小屋の中、樽の蓋に色を塗った的がある。全身から力が抜けて、へなへなと座り込んだ。
「ナルー？」
覗き込んで来るシータに、那流は引き攣り気味の笑顔を向けた。
「大丈夫よ。気にしないで。そ、それよりもシータ、その服、素敵ね」
「えっ！？ そう？ 似合ってる？ よかったー！ これ、ボクの晴れ着なんだ。それでね、これは‥‥」
シータは早口で捲し立てて晴れ着について語っている。
祭りに浮かれているというよりは、この街に訪れた平和な一時を心から喜んでいるのかもしれない。
その気持ちは分からないわけではない。
微笑んで、那流は差し出されたシータの手を取った。
●楽しんでますか
「ルクレツィア、大丈夫なのであるか？」
「はい！」
あれこれと細やかに気を遣ってくるリデト・ユリースト（ea5913）に、ルクレツィアは大きく頷いた。その拍子にずれた被り布に、リデトとカルゼ・アルジス（ea3856）が同時に手を伸ばす。
「気をつけるのである、ルクレツィア」
めっと叱りつけたリデトに、ツィアは肩を竦めて小さく舌を出す。その子供のような反応に、リデトとカルゼは顔を見合わせて苦笑した。
空は今にも雨が降り出しそうだが、太陽の光が無くなったわけではない。注意してしすぎる事はないのだ。
「でも、先ほどは楽しかったですわ」
そんな２人の心配を余所に、ツィアは手を合わせてくすくすと笑う。どうやら、室内で行われたゲームでのハプニングを思い出しているようだ。
「最後の椅子を取ろうとして‥‥」
途中で笑い出して言葉にならない。
空中で腕を組むと、リデトはつんとそっぽを向く。
リデトが発案した「椅子取りゲーム」は地味な遊びと思われたが、始まった途端に白熱し、参加者達は椅子を取り合って目の色を変えたのだ。司会だったはずのリデトが「お手本」で参戦してからは更に。
そして、最後の戦いでは、素早さを活かして先に椅子へと辿り着いたリデトに対戦者が体格差で勝利を奪い取ろうとし、リデトのペット「おこし」に弾き飛ばされてしまうという結果に終わった。
「あの時のお顔ったら」
笑いの発作が止まらないツィアに、頬を膨らませていたリデトもついつい釣られて笑い出した。
「自分が用意した賞品を自分が受け取る事になっちゃったもんね。リデトも結構負けず嫌いなんだ？」
「うるさいのである」
からかうカルゼに怒ってみせるが、声が笑っている。
笑いながら、被り布がふんわりと流れる肩へ下りると、リデトはそこから覗く金の髪を握った。
「これはルクレツィアへのプレゼントなのである。賞品とは別のものであるから、安心するのである」
ふわふわの金髪を、うんしょと取り出した朱塗りの櫛で梳いた。少しも引っ掛かる事なく通っていく髪が嬉しくなって、リデトはもう一度と櫛を動かした。
「ジャパンの女の人は髪を結って、櫛を飾るんである。ルクレツィアの金髪にもきっと似合うのであ‥‥」
「はいはい、そこまでそこまで」
リデトの体を両手で掴んで、ツィアの肩からどかした。
「何をするんであるか！ アレク！」
いつの間に現れたのか。領主はにんまりと笑うと、抱えたリデトの頬を指で突く。
「ツィアは年頃の娘だからな。贈り物は、まず俺を通して貰わないと」
暴れるリデトをカルゼに預け、ツィアの頭を一撫でして、アレクはじゃあと手を挙げた。
「俺は忙しいから。あ、後でＤＳＧＰの方にも来いよ。そこで手伝う事になってるんだ」
「ＤＳＧＰ？」
聞き返したカルゼに、アレクは得意満面で頷きを返す。
「ヲークがやってる、どっちが凄いかグランプリの略だ。お前らも参加したらどうだ？ 何をやるのか、俺もまだよく知らないんだが」
「‥‥知らずに参加しようとする、そのお祭り根性に敬服します」
カルゼの言葉に、アレクは嬉しそうに笑った。
「そう誉めるなよ。じゃあな！」
「‥‥アレク、誉めてないでのある、誉めては‥‥」
意気揚々と立ち去っていく領主の姿をわ見送って、苦笑しながらカルゼはツィアを振り返る。
「そ、そろそろ２時だね。迷路の受け付けを始めなきゃ。ツィアちゃん、手伝ってくれる？」
「はい！」
大きく頷いた少女の被り布を慌てて押さえると、カルゼとリデトはもう１度、顔を見合わせて笑い合ったのだった。
●鎮魂
遠くから楽しげな笑い声が聞こえてくる。
そう言えばと、リースフィア・エルスリード（eb2745）は広場で霧の迷路に参加しないかと誘われた事を思い出した。ミストフィールドで作った迷路の中に置かれた５つの絵の具を渡された木札に塗り、戻ってくる時間を競うゲームらしい。
「そろそろ時間ですね。行かなくちゃ」
傍らで、真剣な表情で羊皮紙に見入っていた男が微笑む。
「そうですね」
彼らが立つのは、庭園の片隅。
四季折々の花が美しく咲く場所だ。
「では、後の手配はお任せしてもよろしいでしょうか」
誰かが供えた花束をそっと置き直すと、リースフィアは銀髪の青年へと尋ねた。
近いうちに、ここに慰霊碑が建つ。
サウザンプトンとポーツマスでバンパイアの餌食となり、魂を汚された人々への哀悼を込めた碑だ。
彼が持つ羊皮紙には、リースフィアが周囲の村々を巡り、犠牲者の家族から託された想いが込められていた。
「慰霊碑が完成したら、ご連絡いたします」
「はい」
花々に囲まれた場所ならば寂しくはないだろう。
少し躊躇って、リースフィアはもう１つ、慰霊碑を建立しようと思い立った時から抱いていた事を切り出した。
「慰霊碑に、守護騎士団の方々の名前も‥‥刻んで欲しいのですが」
駄目ですかと、驚いたように目を見開いた青年を見上げる。
「サウザンプトンで、彼らの評判が良くない事は知っています。でも、彼らも大切なものの為に戦った人達ですし‥‥」
「‥‥分かりました。その件につきましては、私から領主へ話しておきます。領主の一存では決められない事ですが」
苦く笑うのは、犠牲となった人々の多くが守護騎士によって連行されたという事実があるからだろう。
お願いしますと呟いて、リースフィアは花束へと目を遣った。
●温もりを届けて
「ヴァレリーお兄様のお友達ですの！？」
迷路の呼び込みをしていたツィアは、褐色の肌の少女をまじまじと見つめた。
自分を見つめる大きな瞳に、セレナ・ザーン（ea9951）は頬を染めて頷く。
「ルクレツィア様とはぐれた後、ヴァレリー卿は黒の御前と名乗る者の手を落ちました」
アシュフォードを支配するプリンス・ヴァレンタインと、セレナ達冒険者は対峙した。それから後の話を、セレナは詩に託し、ツィアへと語って聞かせた。彼女の立場を考えると、誰が聞き耳を立てててるか分からない状況で詳細を語るのは危険だ。
「彼は今、ドーバー劇場の管理人をしています」
ヴァレリーとセレナ達冒険者の戦いと深まっていった絆とを美しい言葉で紡ぎ終えると、セレナは最後に一言、そう付け足した。
「お兄様が？ 劇場の、管理人？」
少し呆然としたツィアに、セレナは慌てて手を振った。
「あ、あの、管理人と言うのは」
「その劇場に行けば、お兄様にお会いする事が出来る‥‥のですか？」
セレナの手を取ったツィアが、小さく飛び跳ねる。嬉しくて堪らない子供のように。
ルクレツィアの反応に、セレナは胸がじんと熱くなって来た。
彼女自身にも、兄がいる。
遠い異国の地に旅立ち、随分と顔も見ていない兄。
だから、セレナにも分かるのだ。
兄の消息を告げられた彼女の気持ちが。
「勿論です」
被り布から覗く髪をおそるおそる撫でる。
セレナよりも年上の彼女を抱き締めてやりたい衝動を感じながら、セレナはふわりと微笑んだ。
「いつか、お兄様の所へご案内いたしますね」
「本当に？ 本当に連れて行って下さいますの？」
「はい‥‥って、ルクレツィア様？」
突然に抱きつかれて、セレナは戸惑った声を上げる。
「ありがとうございます。お兄様のお友達とお会い出来ただけでも嬉しい事ですのに‥‥」
「ルクレツィア様」
潤んだ目元を拭ってやりながら、セレナはその華奢な体を抱き締め返してやったのだった。
●ＤＳＧＰ
「やっぱり、まだ信じられないのよねぇ。アレクが領主だなんて」
レムリィ・リセルナート（ea6870）の呟きに、食材を前に呆然としていたアレクがき、と振り返る。
「その領主に何をやらせてるんだッ！」
「んーと、とりあえずミートパイ作り？」
「だーかーらー」
地の底から響いて来るような恨みがましい声をきっぱり無視して、レムリィは手つかずの食材に眉を顰めた。
「あーあ。まだ全然出来ていないじゃない。お客さんは皆、「お腹いっぱい夢いっぱい」を楽しみに来てくれるのに、肝心の料理人がこれじゃあねぇ」
やれやれと首を振るレムリィに、握り締めた拳がふるふると震える。
「材料を用意してくれた人達も悲しいでしょうねぇ。自分達の食材は、一体何のために！ って」
言葉巧みにアレクを煽るレムリィに、強力な助っ人が現れた。
このＤＳＧＰー「どっちが凄いかグランプリ」ーの主催者、ヲーク・シン（ea5984）だ。
「おおっと！ ここでトラブル発生か！？ サウザンプトンの領主、リタイアか？ リイタアなのかーっ！？」
「ほら、あんな事言われてる」
がくりと膝をついた領主を、レムリィは更に煽った。
しかし、ヲークはアレクばかり構っている暇はない。勢いよく手を叩いて観客へと振り返った。
「困った事になったぞ！ 街を短期間でここまで復興させたのは凄いが、このままじゃ領主の面目が丸潰れだッ！ 皆のお腹も夢もいっぱいになりゃしない！ さァ、我こそはと思う奴はいないか！？」
「では」
人混みを掻き分けて現れた青年に、レムリィは目を丸くする。その姿には見覚えがある。アレクの従者、ヒューイットだ。
「あれぇ？ ヒューじゃない。もしかして、ヒューが挑戦するつもり？」
「私は、家事全般得意ですが」
しかし、とにっこり胡散臭い笑顔でヒューはレムリィの手を取った。
「へ？」
もう片方の腕は腰に回される。何事かと瞬きを繰り返すレムリィに、爽やかにヒューは告げた。
「私が挑戦すると、主に手心を加えているのではと誤解されそうですから」
もしかして、と冷や汗を掻くレムリィの悪い予感は、当然、当たる。
「おおっと！ どうやら挑戦者が決定したようだぁ！ 某名物教師の愛弟子を自称するレムリィ・リセルナート！ さぁて、料理の腕前は如何ほどか？ ‥‥とりあえず、害の無い物を作ってくれ。頼むから」
実況兼審査員のヲークの懇願を、観客が遠慮なく笑い飛ばす。
観客にとって、他人の不幸は蜜の味。自分に害が及ばないならば、より面白い方がいい。
会場中から変な期待を寄せられて、レムリィは頬を引き攣らせた。いっそ、わざと激マズ料理を作ってやろうかとも考えたが、それは自分の自尊心が許してくれない。
「見てらっしゃい。皆が度肝を抜くような美味しいミートパイを作ってみせるんだからっ！ ちょっとアレク！ そんな所で落ち込んでないで、手伝ってちょうだいっ！」
領主の首根っこを掴んで立たせると、レムリィはその手に粉ふるいを押しつけた。
●平和への祈り
「えっとね、ツィアちゃん」
ぽつぽつと降っていた雨が止んだ。夜の部の為に、カルゼがレインコントロールを使ったのだ。
髪を揺らして振り返ったツィアに、カルゼは緊張しつつ小さな包みを手渡した。
「これは何ですの？」
首を傾げたツィアに、微かに照れを含んだ声で告げる。
「ツィアちゃんの、絵だよ」
それは、ツィアとの旅の思い出を切り取ったものだった。
「まあ！ これはお菓子休憩の泉ですわね！」
「うん」
この泉で、彼らは異国に伝わる星の恋人達の逸話を知ったのだ。
「ありがとうございます！ 嬉しいですわ！」
画板を抱き締めて喜ぶツィアを、カルゼは優しい微笑みを浮かべて見守る。
そんな微笑ましい２人の様子から、那流は捧げられた花束の前で佇むリースフィアへと視線を巡らせた。
「‥‥亡くなった方は戻って来ません。ですが」
せめて魂が安らぐようにと、那流は静かに舞い始めた。
魂をも呪縛されて苦しんだ人々への鎮魂の舞だ。
「彼らの悲しみは、いつかきっと癒されますよね」
そうあって欲しいと願いながら、リースフィアは手にした一輪の花を、そっと花束の隣に添えたのだった。
