誇り

■ショートシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:10〜16lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月16日〜09月23日

リプレイ公開日:2006年09月25日

●オープニング

●依頼
 その夜遅く、人もまばらになったギルドの扉を開いたのは旅の軽装を纏った1人の男だった。
「あ、お久しぶりで‥‥!」
 軽く手を挙げて受付嬢の言葉を制し、男は静かに彼女へと歩み寄った。
「至急の依頼を受け付けて欲しい」
 男の声は硬い。
 感情を表に出すタイプではないらしいが、今夜の彼はどこか張りつめたような緊張感を漂わせている。自然と、受付嬢の表情も改まった。
「至急、ですね。分かりました」
 羊皮紙とペンを差し出すと、男は流麗な筆致で依頼内容をしたためた。
「依頼は、えーと、暴漢の襲撃阻止ですか? 襲撃される相手は‥‥ラーンス卿!?」
 男が眉を寄せた様子に、受付嬢は慌てて口元を押さえ、居住まいを正す。しかし、内容が内容だけに、動揺は隠しきれない様子だ。
「あ‥‥あの、ラーンス卿って、あのラーンス卿ですよね? 襲撃されても返り討ちにしちゃうんじゃ‥‥?」
 ラーンス・ロット。
 アーサー王の円卓に連なる高潔な騎士だ。数人の暴漢ごときがどうこう出来る相手でもなかろう。尋ねかけて来る受付嬢の視線に、男は息を吐き出して頬にかかる髪をうるさそうに払った。
「だろうな。だが」
 細められた瞳に苛立ちが過ぎる。
「騎士として、このまま見過ごす事は出来ない」
 強い口調で告げられた言葉に、受付嬢は改めて依頼状を見直した。

●襲撃計画
 その話を聞いたのは偶然だった。
 貴婦人達が笑いさざめく宴の席で、竪琴を奏でいてた彼が庭園へ出た時のこと。
「聞いたか? 王妃様とラーンス・ロットの話を」
「聞いたとも!」
 薄暗い庭木の繁みの陰から、激高を押し殺した会話が聞こえて来た。見れば、数人の男達が隠れるようにして囁き交わしている。優美な服装からして、貴族の子弟達らしい。
「これは王に対する裏切りだ」
「王の名に泥を塗ったも同然だ」
 それは、ここしばらく宮廷でよく聞かれる言葉だ。噂好きが多い場所であるが故に、さして気にも留めず通り過ぎようとしたのだが‥‥。
「だが、ラーンス・ロットも少しは懲りるであろうよ」
「手配した者達は手練ればかり。いかなラーンス・ロットも今度ばかりは無傷では済むまい」
「多少なりと痛い目に遭わぬと分からぬのだ。仕方があるまい」
 彼らの会話は、どんどんと危険な方向へと進んでいく。
 どうやら、彼らは無頼漢を雇い、ラーンス・ロットを襲撃する計画を立てているようだ。しかも、ラーンス・ロットの反撃を最小限に封じ込める為に、無関係の一般人が多い場所で狙うらしい。
 彼が聞いている事にも気付かないのだから、彼らの実力はその程度だろう。
 だが。
 彼らの素性を確かめ、問い詰めようとしたその時に、誰かが彼を探す声が聞こえた。
 密談していた者達が一様に口を噤み、そそくさと立ち去って行く気配がする。
 らしくない乱暴な舌打ちをして、彼は繁みを睨みつけた。
 彼を探してやって来たのは、この宴の主催者である貴婦人付きの少女だ。無視をするわけにも行かず、彼は踵を返した。

●愚者
「‥‥一般人が多い所でなんて、そんな形振り構わない事を?」
 見上げると、彼は苦りきった顔で頷いた。騎士として許せないのだろう。
「密談をしていた者達は、私の方で探している。貴族は自尊心が高い。冒険者が表だって動いていらぬ恨みを買う必要はない。冒険者には、ラーンス卿を襲撃する前に、暴漢を止めて貰いたい」
 どさりと重い音をたてて、革袋が受付台に置かれた。
「彼らが雇った連中も、どこで襲撃するのかも分からないんですよね?」
「ああ。だが、手掛かりが全くないわけではない。ラーンス卿は、ここしばらくキャメロットで過ごされる。足が付かない程遠くの者を連れて来るなど、彼らは思いつかないだろうし、誰かに手配させたとしても、見知らぬ乱暴者がやって来たとなれば噂にもなる」
 なるほど、と受付嬢は頷いた。何不自由なく甘やかされて育ったお坊ちゃんならば、そんな裏仕事の知識や知恵を知らずにいてもおかしくはない。部下に手配を任せたとしても、ラーンス卿がキャメロットから動かないのであれば、向こうから出向いて来る。
 キャメロット周辺で網を張っていれば、必ず引っ掛かるというわけだ。
「分かりました。では、早急に募集をかけます!」
 夜中だというのに、受付嬢は元気よく走り去っていく。
「‥‥噂の真偽を確かめずに愚かな真似をする者など、アグラヴェインとても良い顔はすまい」
 その後ろ姿を見つめながら、彼は美しい顔に憂いを浮かべて溜息をついたのだった。

●今回の参加者

 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea4200 栗花落 永萌(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●正しい裏情報の集め方
「そぉいえば、ラーンス卿の肖像画ならうちの倉庫で埃被って‥‥」
 ふと漏れてしまった言葉を咳払いで誤魔化して、エル・サーディミスト(ea1743)は隣に座っていたユリアル・カートライト(ea1249)に別の話題を振った。
「一般人を巻き込むのは、やっぱり見過ごせないよね。情報収集は苦手だけど、ボクも、集められる限りの情報を集めて来たんだよ」
 一目で愛想笑いと分かる笑みを向けられて、ユリアルの対応が一瞬だけ遅れる。頭の中に浮かんだ幾つもの言葉の中から、敢えて無難なものを選び、彼は穏やかに尋ね返す。
「ちなみに、方法はどのようにして」
「んと、裏通りのゴロツキにお金を握らせ」
「‥‥ようとした所を止めて、とりあえず平和的に」
 最後の単語をやたらと強調したのが気に掛かるが、にっこり断言した栗花落永萌(ea4200)の雰囲気は疑問を口に出せるようなものではなかった。
「ゴロツキの情報はゴロツキの方が詳しいもん。お金で雇うのも平和的だと思わない?」
「そ‥‥そうですね。とりあえず、エルさんお一人で交渉するのは止めた方がよいかとは思いますが」
 ガラの悪い狼や狐の巣に飛び込んで行く兎さんの姿が頭に過ぎる。大事に至らなくてよかったと、内心、胸を撫で下ろしたユリアルと溜息をついた永萌の気も知らず、エルは不満そうな声を上げた。
「もう! 何の心配もいらないのに! ボクは薬師だけじゃなくて冒険者としても全力投球してるんだからね!」
「それは分かっていますが、貴女をよく知らない方はそう思ってくれません」
 永萌にきっぱりと言い切られて、エルは眉間に皺を寄せた。更に文句を言い募ろうと彼女が息を吸い込んだ所に、ウォル・レヴィン(ea3827)が間に入った。
「しかし、王妃様とラーンス卿が‥‥なんて下世話な噂だなぁ。まぁ、教会の人達にそれとなーく聞いた話によると、ラーンス卿は噂通りに高潔な人物みたいだし、恋い焦がれる貴婦人が1人や2人いても不思議じゃないと思うが。でも、王妃様との噂が真実かどうかは確かめてみないと何とも言えないな。あぁ、そう言えばエルが持っているって言う肖像画もやっぱり男前だったのか?」
 一気に捲し立て、話題転換を図るウォル。
 しかし、それはエルが逸らした話に戻る結果となってしまった。
「ええと、その‥‥別にボクは夢見心で手に入れたわけじゃなく。確か、あれは」
 ぽんぽんと、ユリアルがエルの肩を叩いた。
 無言で首を振るユリアルに、ぽんと手を打ったのはクロック・ランベリー(eb3776)だった。
「はっ!? そんなに動揺するって事は、もしやエルが持っているのは噂に聞く裏肖像画‥‥」
「違ーーーーーーーーーうっっ!!」
「持っている人は結構多いから、恥ずかしがる事はないのに」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)の呟きに、何かが違うと思いつつもユリアスは緩く首を振るのみに留める。だが、彼が反応を返すよりも早く、リースフィアは表情を改めて本題へと入っていた。
「私も子供達のグループに情報を集めて貰ったんですが、あまり有力な情報はなくて」
 子供達のテリトリーと大人のテリトリーは違う。
 キャメロットほどの街になると、胡散臭い大人も多い。頻繁に出入りしている者もいて、子供達の視点からの情報収集は不首尾に終わってしまったのだ。
「でも、彼らには別の事を頼んでおきました」
 顔を見合わせたユリアルと永萌に、 澄ました顔をしてエールを飲んでいるウォルと視線を交わし、リースフィアは悪戯っぽい笑みを見せた。
「万が一の最終手段を少々。そのうち、分かりますよ」
「万が一の最終手段、ですか」
 皆、それぞれに手を打ってはいるが、相手はどこから来るのか、どんな手を使うのかも分からないならず者だ。そして、狙われているのは、行動の予定も何も知らされる事がない円卓の騎士、ラーンス・ロット。
 何が起きるか分からないのだ。確かに、手は幾つも打っておく方がいい。
 納得して、永萌は自分の杯に手を伸ばした。
「そう言えば、トリスタン卿からは何か連絡は?」
「ない」
 頭を振るのはエスリン・マッカレル(ea9669)。
 トリスタン直属の騎士達とは立場が違うが、彼らと共にトリスタンをサポートして来た騎士である。
「トリスタン卿はギルドに依頼を出された後、数騎の供とキャメロットを出られた。その後の連絡はないのだ。‥‥愚者の逆恨みなどに遭ってはおられぬだろうか」
 心配げなエスリンに、滋藤御門(eb0050)は大丈夫ですよと笑いかけ、真面目な顔に戻った。
「ですが、ラーンス卿の居場所を知る手段がないのは困りますね」
 ならず者達も彼らと同じ条件のはずだが、あちらの依頼人が宮廷に出入りしている貴族であり、こちらの情報源であるトリスタンが不在である今、少々分が悪い。考え込んだ御門にエスリンは同意を示して苛ついたように指の先で卓を叩いた。
「せめて、ラーンス卿の予定が分かればよいのだが」
 ひょいひょいと気軽にギルドや酒場に顔を出す者もいるが、最高の騎士と名高いラーンスは城に詰めている事が多いらしい。動向があまり伝わらない、情報が少ない騎士の1人なのだ。
「でも、分からないものは仕方がありませんよね」
 思考を切り替えて、御門は顔を上げた。
 出来ないと踏んだならば、すっぱりと諦めて次の手を考える。でなければ、ただ時間ばかり過ぎて何の解決にもならない。それどころか、依頼の遂行にも支障が出て来る。小さく自分に気合いを入れ、御門は口を開く。
「皆様、ここで一旦、得られた情報と皆様が打たれた手をまとめ、次の行動を決めませんか」
 彼らの卓の近くで不審な行動を見せる男に気付いたのは、真剣なものへと変わっていく仲間達の表情を見回した時だった。御門の目配せを受けて、エスリンがダーツを右手に忍ばせ、リースフィアが卓の下に置いてある武器へと手を伸ばす。だが。
「アニキ!」
 不審な男は、黙り込んだ彼らの様子にあからさまな安堵を見せて、卓へと駆け寄って来る。
「お話の邪魔しちゃいけないと思ったんですが! 話はもう終わりやしたか!?」
 彼が声を掛けたのは、仏頂面になった永萌だ。
「えーと、‥‥アニキ?」
 男と永萌とをかわるがわる指さして、ウォルは視線で説明を求めた。どこからどう見てもチンピラな男と、どこからどう見ても真面目で礼節を重んじるジャパンの志士、永萌は接点がないように思える。
「ご兄弟‥‥なわけないですよね」
 自分の言葉に、あり得ないと自己突っ込みを入れて、リースフィアはアハハと笑った。
「まあまあ皆さん、落ち着いて下さい。永萌さんもキャメロット歴は長い方ですし、我々の知らない交友関係があったとしても不思議ではありません。我々に出来るのは、生暖かく見まもって差し上げる事ぐらいで‥‥」
 1人、落ち着いていたユリアルが、仲間達を諭しかけたその時に、次なる一撃が炸裂した。
「お嬢! お嬢に命じられた事も、ちんたらしてる連中を蹴り飛ばして、ばっちり済ましておきましたぜ」
 男がエルに笑いかける。白い歯を見せた爽やか青年笑いだ。ただし、強面なので見る者に逆の効果をもたらしたようだが。
「お嬢、ですか。アニキにお嬢‥‥。お2人は、どうやら我々の与り知らない未知の世界へと旅立たれたご様子」
 頬に手を当てた御門が息を吐くと、クロックがその肩を慰めるように叩く。
「気にするな。奴らがどんな交友関係を築いていたとしても、この依頼を共に受けた仲間に変わりはない」
「そ、そうですね」
 というわけで。
 仲間達の総意を代表して、御門は淡々と告げた。
「永萌さんが別の顔をお持ちだとしても、エルさんが強面のちょいワル親父達を顎で使っているとしても、私達は貴方達の仲間です」
「いや、ちょっと待ってください。それは誤解で」
「誤解なんかじゃありませんぜ。アニキは割のいい話を探して俺達の所に来て下すった。リーダーのアレンをあっという間に倒した腕っぷしに俺達は惚れたんでさ。心ン底から。我がキャメロットに咲く可憐な野の花団は、一生、兄貴に付いていくッス!」
「いらない」
 即答した永萌に、男はひっくり返らんばかりに驚いた。
「アニキ、そんなっ!!」
「永萌はともかく、ボクは無関係だからね。そんな人聞きの悪い事言わないでよ!」
 この強面達を顎で使っているだなんて噂が立ったら、お嫁に行けなくなってしまうではないか。そうなったら、誰が責任を取ってくれると言うのだろう。
 エルの脳裏を過ぎるのは、近所の子供達に武勇伝を語って聞かせるのが楽しみという、1人寂しい老後。それは、とてもリアルな光景だった。
「い、いやだからね! ボクは絶対に!」
「お嬢もそんな切ない事をおっしゃらないで下せぇ! お嫁の貰い手なら、俺達がいいのを見繕って」
「結構ッッだよ!」
 はふぅと大仰な溜息をついてみせて、ユリアルは2人に向き直った。にこやか笑顔全開で、彼は静かに尋ねた。
「私は、お2人が新たな絆を築かれるという事に口を出すつもりはありません。ですが、このご友人方に何を調べて貰っていたのか、お聞きしてもよろしいですか」
「‥‥や、やあねぇ、目が笑ってないよ、ユリアル」
 笑って答えるエルのこめかみに汗が伝う。
「誤解をしないで下さい。我々はおかしな事はしていませんから。ただ、ちょっと話を聞いて貰う為に、静かになって欲しかっただけで‥‥」
「そうでさ! アニキは変な事ァしてませんぜ! アニキやお嬢に言いがかりをつけるつもりなら、このキャメロットに咲く可憐な野の花団が‥‥」
「お前は黙っていてくれっ」
 話の途中でしゃしゃり出て来た男を制して、永萌が言葉を続ける。
「彼らには、景気のいい話があれば、1口乗せて欲しいと頼んだだけです。エルさんも裏社会の裏情報を使って、怪しい者達が流入していないか調べて貰っただけです」
 大きく何度も頷いたエルに、ユリアルは更に微笑みを強化して頷きを返した。
「分かっています。分かっていますとも。副業とか肩書きを複数持つ人は多いですしね。私は気にしません。で、その情報は?」
 口元を引き攣らせた永萌に喋る許可を貰った男が、ぺらぺらぺらぺらとマル秘裏情報を語り始めたのは、そのすぐの事だった。
 もっとも、その大半は有用な情報を拾い集めるのに苦労するような自分達の武勇伝だったのだが。

●最終手段
「で、リースフィア。首尾は?」
 子供達の手に菓子を握らせて、リースフィアはウォルを振り返った。
「上々のようです。永萌さんとエルさんのお友達が教えて下さった宿の近くで、子供達が大騒ぎをしてくれたそうですから」
 必要な情報は伝わっていると思っていいのか。
 ウォルは会心の笑みを見せる。
「場所は冒険者街近くという事にしてるが、それでも一般人はいる。その人達を出来るだけ遠ざけておかないとな」
「はい」
 頷き返して、リースフィアは苦笑した。
「でも、本当にこの手を使う事になるなんて」
 2人が準備していたのは、ラーンスの偽情報を流してならず者達を誘き寄せる手段だ。
「仕方がないさ。‥‥御門達が公園近辺を押さえたようだ」
 見守っていた人の流れが少しずつ変わって来ている。
 頃合いと見計らって、ウォルも人混みに紛れ込んだ。

●実力の差
 昼間だと言うのに周囲の人通りが途絶えていた。
 息を潜めているかの静けさに、男達も不自然さを感じたのか。剣の柄に手を掛け、建物の陰に身を隠しつつ進んでいる。
 それらの全てが見張られているとも知らず、冒険者達が万全の準備を整えて待ち構えている場所へと近づく。
「リースフィア、そろそろ来るみたい」
「今、どの辺りか分かりますか?」
 目を閉じ、精神を集中させて感覚を研ぎ澄ませる。バイブレーションセンサーで掴んでいる男達の位置と、自分の知る街の地形とを重ね合わせて、エルはリースフィアに耳打ちした。
「分かりました」
 柄を握る手に力を籠めて立ち上がり、リースフィアは足を踏み出した。
 通りに姿を現したリースフィアに、男達が動きを止める。その様子を感じ取り、エルは背後に目配せを送った。離れた場所で合図を待っていたクロックが口元を引き締めて走り出す。リースフィアとは反対の方向へと。
 動かないリースフィアと周囲の静けさを疑問に思ったのだろう。
 男達が数人、姿を現した。
「女、そこで何をしている」
「何をしていると聞かれましても」
 それぞれの得物を手に周囲を囲んだ男達が、とぼけた答えを返したリースフィアへとと掴みかかる。そこへ、空を裂く鋭い音と共に飛来したダーツが、彼女へと伸ばされた腕に突き刺さった。
「そこまでにしといて貰おうか」
 男達の退路を塞ぐように道の真ん中で立ちはだかると、ウォルは不敵に口元を引き上げて笑った。
「これ以上、手間をかけさせないでくれるとありがたいんだがな」
「何だと!? お前っ、俺達を‥‥」
「無関係の人を巻き込むのってさ、一番やっちゃいけない事だと思うんだよね」
 潜んでいた場所から姿を現したエルの言葉に、二射目のダーツを構えていた永萌も頷いて同意する。
「すみませんが、未熟者故、手加減をしてのお相手は出来そうにありません」
 見逃すつもりはないとも取れる永萌の発言に、男達はいきり立った。挑発にあっさり乗ったのは、それなりに腕に覚えがあるからか。すかさず、ユリアルがアグラベイションを唱える。動きが鈍った男達は、見た。
 ラーンスがやって来ると聞かされた冒険者街から駆けて来る筋肉質の男の姿を。
「貴様らの好きにはさせんよ!」
 怒号を上回る声が響き渡ると同時に、凄まじい衝撃が彼らを襲った。竜巻にでも弾き飛ばされたのかと思うほどに激烈な一撃だった。
 それでも荒事に慣れた者達は、すぐに立ち直り、倒れた仲間の体を飛び越えて冒険者達へと襲い掛かって来た。
「申し訳ありませんが、僕も手加減する事は出来ません」
 重い剣の一撃をクリスタルソードで受け流し、御門が静かに宣告する。持ち直したソードの切っ先を襲って来た男の首もとへと突きつける。
 力を見込まれて貴族雇われ、意気揚々と訪れたキャメロット。それなりに自信も、それに伴う力もあったはずだが、手加減無しの冒険者達には敵わなかった。
 次々に押さえ込まれていく仲間達の姿に、男は剣を取り落とし、がくりと膝をついたのだった。