【Evil Shadow】Involved thread
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:11〜17lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 86 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月29日〜10月05日
リプレイ公開日:2006年10月22日
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●オープニング
●独白
気がつけば、いつの間にかこんな事になっていた。
一体、どこから糸は絡んでいたのだろうか。
キャメロットでも騒動が起きていると知らせが来た。
関わりがあるのかないのか、今はまだ判断は出来ない。だが、もしも関わりがあるとしたら‥‥。
一体、いつから糸は絡んでいたのだろうか。
●届いた依頼
シフールが運んで来た依頼は、キャメロットから離れている円卓の騎士、トリスタン・トリストラムからのものであった。
「トリスタン? どうしてトリスタンがシフール便で依頼を送って来るんだ?」
シフール便に託された依頼に、冒険者は眉間に皺を寄せた。受付嬢も困ったように頬へと手を当てる。
「さあ‥‥。この手紙には詳しい事は書かれていないみたいですが‥‥」
書状が入っていた筒を逆さにしても、他に何も入っている様子はない。
「でも、トリスタン卿が皆さんの援護を求めているのは事実ですし」
「それは分かっている」
渋い顔をしていた割にあっさりと頷いて、冒険者は受付嬢の手から羊皮紙を引ったくった。他の冒険者達も彼の手元を覗き込み、あれよあれよの間に受付嬢は輪の外へと追い出されてしまう。
ぷんすかむくれる彼女を気に留める者は誰もいない。
「‥‥デビルに操られていると思しき男?」
真っ先に目に飛び込んで来た単語に、冒険者達は深刻な顔で互いを見合う。
「確か、トリスタンはラーンス卿の襲撃を企んだ連中を調べてたんだよな」
実行犯の対処をギルドに依頼し、自身は悪企みした貴族に対して手を打つ、と。
それは、つい先日の話だ。
「ならず者達の始末がついたばかりだし、トリスタンがキャメロットを出たのも「それ」絡みという可能性は高いが‥‥」
だが、今は彼の行動について議論している場合ではない。
「ああ、部下を連れて行ってるらしい。って事は、トリスとしてじゃなく、トリスタンとして動いているわけか」
彼と数人の部下達が、デビルに操られている可能性が高い男をキャメロット近郊まで追っていたという。そして、追いつめられた男は小さな村に逃げ込み、村人を人質にして立て籠もったらしい。
「トリスタンと配下の騎士達が村を包囲している間に、村に潜入、村人を救出して男の身柄を確保しろ‥‥か。簡単に言ってくれる」
苦く笑って、冒険者は羊皮紙を卓の上に放り投げた。
「デビルに操られているかもしれないんだろ? 正気を失っていると考えてもいいわけだ。村人に危害を加える事も躊躇しないだろうし‥‥」
手勢から考えて、周囲を包囲し、逃走の手段は封じるのが精一杯だろう。相手がただの人間だと言うのならば、数を割いて強襲も出来ようが、デビルに操られているというからには万が一の事も考えられる。
「‥‥まぁ、操られているだけなら問題はないだろうがな」
「魔法の使い手であるとか、そういう可能性も考えての事だろう」
ふむ、と羊皮紙を前に、彼らは考え込んだ。
トリスタンの依頼にある通り、作戦の班を分ければより確実だろう。
「人質となっている者達を救出する班と、陽動し、人質救出後に男を押さえる班、だな」
どちらも難易度が高い。
相手の状態が掴めない以上、不測の事態も起こり得る。
人質の安全の為には、陽動班が男を人質から気を逸らし、離れるまで「冒険者」と気付かれるわけにもいかないのだ。
「気を抜くな。1人の被害も出さず、依頼を完璧にやり遂げるつもりで行こう」
囁かれた決意の言葉に、彼らは力強く頷いたのだった。
●リプレイ本文
●出陣前
しゅんしゅんと湯気が立つ。
緊迫した状況下にいるはずだが、そこだけ別の時間が流れているようだ。
「焦っていても仕方がないだろう? 潜入したお嬢ちゃん達が動き出すまで、俺達は何も出来ないのだから」
ですが、と心配げに視線を外へと向けるカシム・ヴォルフィード(ea0424)に、ランティス・ニュートン(eb3272)は笑って肩を竦めると、湯沸しに手を伸ばす。
「まあ、なんだ。頭の巡りをよくするのはお茶が最適だ。温かいお茶を飲んで、落ち着‥‥」
動きを止めたランティスの顔を、ユリアル・カートライト(ea1249)が不安そうな表情を浮かべて覗き込んだ。
「あの‥‥、どうかされましたか?」
眉間に寄せられた皺。
何事かを考え込んでいる様子のランティスに、スタッフを握り締める手に力が篭る。
「ランティスさん?」
「ん? ああ、すまない。いや、実は茶葉を忘れて来てしまってね。良い茶葉だったから、皆にも喜んでもらえると思ったんだけど」
肺の奥から吐き出したかのような長い吐息と、彼の言葉に、ユリアルの目が丸く見開かれた。
「カップに白湯を注いでも、情緒も何もないよな」
やれやれと肩を竦めたランティスの手元に目を留めたカシムが凍りつく。
ーマイカップ‥‥マイカップですかッ!?
呆然と立ち尽くすユリアルとカシムに、一部始終を眺めていたベアトリス・マッドロック(ea3041)が堪えきれないといった様子で吹き出す。釣られて、栗花落永萌(ea4200)と滋藤御門(eb0050)も口元を押さえた。
「‥‥ベアトリスさん‥‥」
物言いたそうに見つめてくるユリアルに、ベアトリスは笑いながらも「ごめん」と謝る。程よく緊張が解れ、和んで来た仲間達を一睨すると、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)はトリスタンへと向き直った。
「あっちはとりあえず置いといて、現在までに分かっている事を教えて貰えないだろうか」
「置いてかないで下さい‥‥」
がくりと項垂れたユリアルの肩に手を添えて、カシムもそっと目頭を拭う。
「俺達が知っているのは、デビルに操られている男というのが、貴方が追った貴族の1人という事ぐらいだ。聞けば内向的で、ラーンス卿襲撃などという大それた事を考えるような男ではなかったとか」
ひゅるり。
天幕の隅に風が吹き抜けていった。
同情する気持ちはある。確かにあるのだが、今はトリスタンから情報を聞きたい。申し訳なさそうな視線を向けると、仲間達も情報交換の輪に加わっていく。
「ユリアルさん」
「カシムさん」
寂しいね。
互いに慰め合う2人に、カップが差し出された。
「‥‥ランティスさん‥‥」
元はと言えば、彼のせいではなかろうか。無言で小さく拳を作って激励してくれる彼の優しさを喜べばよいのか、それとも憤ればよいのか。複雑な表情を浮かべながらも、渡されたカップに口を近づけた。だが、その時。
「失礼致します。空から偵察して参りました。そろそろ、もう1班の方々が村に‥‥あらぁ?」
勢いよく天幕に走り込んで来た時に、何かにぶつかったような気がすると、リアナ・レジーネス(eb1421)は頬に手を当てて首を傾げた。
「あの、まさか、お2人を蹴り飛ばしてしまったなんて事は‥‥」
「ええ、ええ、そのまさかです」
熱い茶を頭から被ったカシムがぽたぽたと髪から伝い落ちる滴を拭い、ゆらりと立ち上がる。
「でも、お気遣いなく」
瞳を潤ませ、心配そうに覗き込んで来る女性を責める気など毛頭無い。なぜならば、彼は‥‥
「男ですから、僕は」
微笑んで、カシムはリアナの目元を指先で拭う。
「大丈夫だよ、リアナの嬢ちゃん。これぐらいで死にゃあしないし、もし何だったら、あたしが聖なる母に祈ってあげるよ。そんな事より、村の様子を聞かせておくれ」
さすがにこれには誰もが2人に同情すると同時に、口を噤んだのだった。
●負けない心
音を立てないように地面に降り立ったリアナとカシムが、待ち構えていた仲間達へと頷いた。
声に出さず、了承の意味をこめて頷きを返すと、彼らはそれぞれの役割を果たすべく動きはじめる。村人脱出の任を遂行中の仲間達が動きやすいように、こちらは男達の目を集めなければならない。
「さ、行くよ」
本業の粉屋のおかみに「扮した」ベアトリスが、慣れた様子で麻袋を肩に担ぎ上げる。彼女と並んで歩くのは、旅の楽士を装う御門と薬草師のユリアルだ。
ベアトリスを真中にして、当り障りのない会話を交わしながら村へと続く道を歩いていく。
真正面からやって来る彼らに男達の注意が向いた時が、潜入の好機。
「‥‥奴らは今、ひとところに集まっているという話だったな」
テスタの問いに、リアナは簡略化した村の見取り図を差し出して、1ヶ所に丸をつける。上空から確認した限りでは、村の女達が食事の席を整え、夜通し警戒していた男達が動き始めていた。男達が集まり、食事をとる確率は高い。
「恐らくは」
言葉よりも確信に満ちたリアナの表情に、満足そうな笑みを口元に浮かべ、テスタは傍らの永萌と共に見取り図を覗き込む。
リアナが印をつけた場所は、村の中心に近い広場だ。
正面から向かったベアトリス達が見咎められるのは村のギリギリか、うまく行けば村に入り込めるかもしれない。彼女達の起こす騒動次第では、強襲班の動きも変わって来る。
「しかし、全員が見張りから外れて食事‥‥というのは変じゃありませんか」
情報を分析し、慎重に状況を見極めていた永萌が不意に口を開いた。
トリスタン達の話では、彼らは警戒し、交代で見張りに立っていたという。それが集まって食事をする‥‥何か企みがあるのではないかと勘繰ってしまうのは仕方がない。だが、そんな永萌の杞憂はカシムの言葉で晴れた。
「見張りには、村人が立っていました。奴らは、村人に見張りを任せたようです。空から見た感じでは、無理矢理という風には見えませんでした。村人と談笑して、肩を叩いていましたし」
一体、どういう変化だろう。
前もって潜入した者の報告では、村人は彼らに見張られた状態で、限界に近かったそうだ。
それが、談笑?
「もしかすると、潜入した彼が接触した村人が、皆に働きかけたのかもしれないな」
冒険者達が自分達の救出と村の解放の為に動いていると知って、彼らにも希望が戻ったのだろうか。呟いて、ランティスは大人しく伏せている愛犬オットーの頭を撫で微笑んだ。
「つまり、それは村の人達が僕達の協力をしてくれているって事ですか?」
「だといいと思うよ」
真面目な顔で問うて来るカシムに、ランティスは目元を和らげる。
中からの支援を得たとしても、彼らの任が楽になるわけではない。それどころか、このような状況に慣れていない素人の行動が敵に不審を抱かせ、失敗、そして更に重大な事態へと繋がる可能性もあるのだ。
だが、とランティスは思う。
だが、村人が恐怖の中から立ち上がり、自発的に希望を掴む為に動き始めているのだとしたら、それは意味のある事だ。その行動の結果、不利な状況に陥ったとしても、村人に危機が及んだとしても、必ず挽回してみせる。
静かな決意を胸に、ランティスはシールドソードを手に立ち上がった。
●デビルの影
ベアトリスの背に隠れ、ユリアルは怯えた振りをして周囲を囲む男達を見回した。
田舎の乱暴者といった風情の男達の中に、この場に似つかわしくない、いかにも気の弱そうな男が1人紛れ込んでいる。この男が、恐らくはトリスタンが追った貴族の子弟だろう。確かに、ラーンス襲撃や人質をとっての籠城などしでかしそうにない男だ。
「御門さん」
小声の呟きに、寄り添って震えていた御門がユリアルの腕を握る手に力を籠める。
「ちょっと、こりゃあ一体どういう事だい!? あたしらが何をしたって言うんですかね、旦那?」
大声で捲し立てるベアトリスに怯んだ様子を見せながらも、男は部下達を視線で促した。
「あ、何するんだい! それは商売物だよ!」
「これも、ただの薬草です!」
「武器なんて持っていません。これはリュートで‥‥」
荷を探られて困惑した声をあげると、男達は下卑た笑い声をあげる。お定まりの脅しを口にする彼らに、一応は怖がる素振りを見せて、御門は注意深く呪を唱えた。感知出来る範囲にいる動く気配は、村に入る直前よりも減っている。
人質救出の班は、順調に村人を連れ出しているようだ。
同様にブレスセンサーで気配を探っていたユリアルと視線を交わす。
「もう、いいではありませんか。我々が武器の類を持っていない事は確認出来たでしょう?」
薬草に興味を示し、1つ1つ効能を尋ねていた男とユリアルの間に身を滑り込ませると、ベアトリスも彼らの意図に気付いたのか大声を張り上げる。
「ああ、なんてこった! すまないねぇ、あんた達! あたしがこの村に寄ろうと言ったばかりに!」
大袈裟に嘆くベアトリスに、男達の注意が集まる。その隙に、ユリアルは御門に耳打ちをした。
「そろそろ始めましょう」
「分かりました」
上空を飛ぶ影にこっそり合図を送ると、男達に気付かれぬように印を結ぶ。
後は、タイミングを待つだけだ。
「あたしはともかく、この子達だけは放してやっとくれ! こんなに怯えてるじゃないか!」
ベアトリスがその大柄な体で2人を男達の目から隠す。騒々しい犬の鳴き声が聞こえたのはその時だった。
勿論、彼らが合図を聞き逃すはずがない。
近づいて来る犬の声に、何事かと振り返る男達の反応が鈍くなる。注意が逸れた瞬間を見計らって、御門はクリスタルソードを手にベアトリスの影から躍り出た。近くにいた男の手から剣を弾き飛ばし、切っ先を喉に突きつける。
「抵抗しないでください。無闇に傷つけるのは本意ではありません」
冷たい御門の宣告に、武器を失った男は為す術なく頷くしかなかった。
突如として現れた者達と、怯えて震えていた者達の豹変ぶりに、男達は動揺し、浮き足立った。強ぶってはいても、このような奇襲など受けた経験がないのだろう。慌てふためき、叫びながらでたらめに剣を振り回す者、腰を抜かしてへたり込む者など、何日も村人を苦しめ、恐怖を与えて来た者達とは思えぬ狼狽えぶりは、滑稽なほどだ。
だが、そんな中でただ1人、動じる事なく周囲の様子を眺めている者がいた。
真っ先に逃げ出してもおかしくない、気弱そうな男‥‥この事件の首謀者たる男だ。
表情の無い男の眼差しを受けて、ベアトリスは体を震わせた。
「あんたはやっぱり‥‥」
男に手を伸ばしかけたベアトリス目掛けて、勢いだけの剣が振り下ろされる。雇い主を守ろうとした部下の、精一杯の攻撃だ。
だが、その剣がベアトリスを斬りつける直前に、鋭い真空の刃が男の足を切り裂いた。悲鳴をあげて、男が地面でのたうつ。
「怪我はありませんか! ベアトリスさん!」
駆け寄るカシスに手を振って、ベアトリスは険しい表情で貴族の男を見据えた。
「聖なる母のお力でも、この坊やを元に戻すのは難しいよ」
「それは、どういう‥‥」
「カシス、後ろだ!」
倒れていた男が怒りの形相で剣を振り上げる。その一撃を大刀で受けて、テスタは背に庇った2人へ視線を向けた。
「油断をするな、と言いたいところだが、それどころではなさそうだな」
「テスタさん」
飛び掛かって来る影を一刀のもとに斬り伏せて、テスタは小さく舌打ちをした。
「厄介な‥‥」
襲い掛かって来た小さな影は、インブ。
小物とはいえ、歴としたデビルである。
「あ、お待ち!」
それまで、焦点の定まらぬ瞳で戦闘をただ見つめていた男が、突然に走り出す。
咄嗟に手を伸ばすが、男の方が速かった。倒れる仲間に見向きもせずに、男は村の出口を目指す。
「仕方がありません。悪く思わないで下さいね!」
だが、リアナが加減して放ったライトニングサンダーボルトが男を打つ直前に、彼を庇ったインブによって阻まれた。
「そんな‥‥デビルが人間を庇うなんて」
呆然と呟いたリアナを、感情のない虚ろな瞳で一瞥して、男はそのまま駆け去っていく。
「追いかけないと!」
後を追って走り出そうとしたユリアルは、足下に打ち込まれた矢に動きを止めた。
逃げた村人を追いかけていた男達が、異変に気付いて戻って来たようだ。
「仕方がありません! 彼はトリスタン卿にお任せして、我々は彼らを」
永萌の指示に、テスタが大刀を握り直す。
「オットー、もう少し遊んで来てもいいぞ!」
ランティスの声に、倒れた男達を吠え立てていたオットーが新たに現れた者達目掛けて勢いよく飛び出していく。手早く男達を縛りあげて、ランティスは苦く笑った。
「デビルが人間を庇う、か。さて、本当の所はどうだか‥‥」
●男の行方
救出された村人達と共に村へと入ったトリスタンは、村から逃げ出した男を追跡していた彼の部下が、その姿を見失ったという事実のみを告げた。
「見失った? トリスタン卿直属の騎士達が、ですか?」
表情を伺いながら問うた永萌に、トリスタンは淡々と肯定を返す。
「途中、インブの妨害を受けたそうだ」
「またデビルですか‥‥」
何故、インブは男を庇ったのか。
そもそも、男を操っていたデビルとは何なのか。
幾つもの謎を残しながらも、村は恐怖から解放された。
それを良しとすべきなのだろうが、永萌は言いしれぬ悪い予感を感じて小さく身を震わせたのだった。