思い出の輝き
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■ショートシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月08日〜11月14日
リプレイ公開日:2006年11月21日
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●オープニング
●訪問者
「あのぅ」
細く開いた扉から、恐る恐るといった風情で覗き込んで来た娘に、冒険者達は顔を見合わせて肩を竦めた。
様々な困難に立ち向かい、時に命がけで人々を守る冒険者。頼りになる存在であると分かってはいても、一般の人はその実態までは知らない。中には、ギルドは荒くれ者の巣窟であると思う者もいる。
おずおずと様子を伺っている娘も、ギルドに対してそんな印象を持っているのかもしれない。
「我々に、ご用がおありですか?」
微笑みを浮かべ、ゆっくりと扉を開くと、娘は驚いたように彼を見上げた。
厳つい大男が現れるとでも思っていたのだろうか。
自分を見上げて目を丸くした娘に、苦笑を禁じえない。
「あ‥‥あの、私、ギルドに依頼を‥‥」
怯えながらも、好奇心はあるようだ。ちらちらとギルドの中へ目を遣る娘に手を差し出し、貴婦人をエスコートするように室内へと迎え入れる。
「我々がお力になれる事でしたら、なんなりと」
そうして彼女が導かれた先は、冒険者と依頼人が入れ替わり立ち替わりし、活気と熱気に満ち溢れたギルドの中心、受付嬢が手ぐすね引いて‥‥もとい、笑顔で待ち受ける受付台であった。
●消えた宝物
ナンシーと名乗った娘は、モンスターに奪われた母親の形見を取り戻して欲しいのだと告げた。
「その形見の形状と特徴を教えて頂けますか?」
羊皮紙に依頼内容を書き留めつつ、受付嬢が尋ねる。
「水晶なんです。小指程度の原石」
ギルドの雰囲気に慣れたのか、ナンシーも落ち着いた様子で答えを返す。
「何か、特別な力を持っているとか?」
「いえ」
彼女は小さく頭を振った。
それから、はにかんだように微笑んで俯く。
「ただ、母にとっては大切な思い出の品だったんです。父から貰った、一番最初の贈り物」
「それは大切な物ですね」
どんなに高価な物よりも、稀少な品よりも、彼女と彼女の母にとっては価値のある宝物だ。それまで事務的に尋ねていた受付嬢の口調が柔らかくなる。
「はい。ですから、何としても取り戻したいんです」
「冒険者も、力を尽くしてくれますよ。その為にも、モンスターに奪われた時の詳しい状況を教えて頂けますか?」
記憶を辿っているのだろう。
ナンシーはしばし考え込んで、その時の状況をぽつりぽつりと語り出す。
「お天気が良かったんです。だから、窓を開けてお掃除をしていて‥‥」
何かがぶつかるような音がしたと思ったら、窓から飛び出していく黒い影が見えた。そして、棚の上に置いてあったはずの水晶が消えていたのだ。突然の事に動けなかった彼女が震える足を必死で動かし、窓へと近づいた時には、飛び出して行った影らしきものはどこにもいなかったという。
「でも、それだけでモンスターと決めつけていいの? 例えば、泥棒だったとか子供の悪戯とか」
「二階だったんです」
ナンシーの言葉に、冒険者はなるほどと呟いて考え込む。
二階の窓から侵入し飛び出して‥‥となると、人である可能性は低くなる。勿論、0ではないが。
しかし、モンスターだとしても、何故、水晶を奪ったのだろうか。
特別な効力を持つ品でも無さそうだ。ただの水晶に、モンスターが何の価値を見出したのだろう?
「お願いします! 母の為、父との思い出の為にも、水晶を取り戻して下さい!」
目に涙を溜めて懇願するナンシーの姿に、冒険者達は頷くより他なかった。
●リプレイ本文
●囮作戦
悲痛な呻きが、小さく部屋に響いた。
びくりと震えた依頼人、ナンシーの肩を優しく叩いて、姜珠慧(eb8491)は安心させるように笑う。さりげなく、体を移動させて彼女の視界を遮る事も忘れない。
「大丈夫です。心配はいりません」
「でも‥‥」
それでも、彼女は気になるようだ。
珠慧の背後を覗き込もうと必死に首を伸ばす。
「どうぞお気になさらずに」
彼女の視線を追って、珠慧はそっと振り返った。
開け放たれた窓の側、1人の男が頻りに手の中の何かに向かって囁きかけている。
「もし、お前が掠われたとしても泣かないっす」
はぁと手の中に息を吹きかけては、布でゴシゴシと擦っている男、ゴータマ・シダルタ(eb7051)に、アスル・リグスワイス(eb8361)は深く溜息をつくと額に手を当てた。
「いい加減、諦めろ」
「べ、別に未練があるわけじゃないっす。これは、より光り輝くように磨いているだけであって‥‥」
眉尻と口元を下げ、うるうると瞳を潤ませたゴータマを冷たく一瞥して、アスルは彼の手の中の金貨を奪い取る。呻きとも悲鳴ともつかぬ声をあげて、ゴータマはアスルに奪われた金の輝きへと手を伸ばした。
「‥‥お前が持ったままでは何の意味もないだろ」
片手でゴータマの顔面を押し返すと、アスルは金貨を作りつけの棚へ置いた。
ナンシーの話によると、その日、奪われた水晶は同じように窓辺の、この棚に置かれていたという。
珠慧は窓へと歩み寄ると、身を乗り出して周囲を見回す。障害になるものは何もない。辺りには気持ちのよい午後の光景が広がっているだけだ。
「伝って侵入するような足場もありませんし、やはり我々の予想通りなのではないかと」
「そうだな。ならば、後は」
アスルの言葉を遮って叫んだのはゴータマだった。
「自分の!! 金貨の輝きに誘き出されるのを待つばかりっす! 皆、何モタモタしているっすか! そんな所でウロウロしていたら、警戒して誘き出されるものも誘き出せないっすよ!」
先ほどまでの消沈ぶりはどこへやら、俄然張り切り出したゴータマの一言に、珠慧の頬が僅かに引き攣る。それを見なかった事にして、アスルは依頼人へ向き直った。
「ともかく、後は我々に任せて別の部屋で待っていろ」
「ですが」
不安げなナンシーに、アスルは重ねて告げる。
「心配する事はない。仲間がこの家の周囲に張り込んでいる。村の人々に話を聞きに行った奴らも、情報を掴んで来るはずだ。ここは我々に任せろ」
突き放すような口調だが、彼なりにナンシーを心配しているのだろう。彼らの予想が正しければ、この場で戦闘が始まってもおかしくはない。彼女を出来るだけ危険から遠ざけたいと思うのはゴータマも珠慧も同じである。
ナンシーの背を軽く押し、珠慧は彼女を部屋の外へと押し出したのだった。
●別働隊
窓から作戦開始の合図を送ってくるアスルの姿を確認して、グラン・ルフェ(eb6596)は足音を消して仲間の元へと歩み寄った。
「どうやら始まったようだ」
グランの言葉を、リンティス・サードアイ(eb8404)がミッシェルに伝えると、ミッシェル・バリアルド(eb7814)は頷きながら表情を改めた。彼のダウンジング・ペンデュラムによると、盗まれた水晶は、現在、身を潜めている場所とは逆の方角にある。
「状況や、アレスさん達が村の人から聞いた話を総合すると、犯人がジャイアントクロウの可能性は高いと思います。でも、本当にそうなのかを確認してから追う方が、水晶を取り戻せる確率がより上がると思うんです」
今度は、ミッシェルの言葉をリンティスがイギリス語に訳した。
「ああ。ここは慎重に行こう。確実に、ナンシーさんの大事な思い出が詰まった、世界で1つの宝物を取り返す為に」
力強い言葉と共に、グランが頷く。
アレス・ジル・バイゼス(eb8439)が村人から聞き込んで来た話では、ミッシェルのダウンジング・ペンデュラムが示した方角でジャイアントクロウがよく目撃されるらしい。占いの結果を裏付ける証言を頼りに、そのまま巣探しをしてもよかったのだが、犯人がジャイアントクロウではなかった場合、彼らは二度手間を踏む事になる。
「では、予定の場所に移動する」
二階の窓を睨み据えたまま、アレスが移動を始める。
「頼む」
頷いたグランが短く答えると、言葉は分からないながらも状況を察したミッシェルが慌てて荷物を手に立ち上がった。
「私も一緒に行きます!」
「ミッシェルさんが行くなら、私も! グランさん、後、よろしくね!」
通訳の務めは果たさねばと、リンティスがいそいそとその後を追う。だがしかし、彼女の真意は別にあった。
「アレスさん、アレスさん、目標が現れる前にお聞きしたい事が‥‥」
好奇心に頬を紅潮させて、彼女は先を行く神聖騎士の背に声を掛ける。
「本当に、アレスさんはそのお年なのですか?」
ぴたりと、アレスの足が止まる。
「‥‥その問いの意味が分からぬが」
「え、ですから、アレスさんは本当に25歳なのですか、と」
言外に25歳に見えないと言われた青年は、複雑そうな顔でリンティスを振り返った。悪意のない、ただ純粋な興味だけを浮かべた瞳にアレスは困惑して視線を逸らす。
「‥‥25だ」
「え?」
小声の早口で囁かれた言葉が聞こえなくて、聞き返したリンティスに、更に口早に同じ事を繰り返す。
「聞こえないわ、アレスさん。何て言ったの?」
「い‥‥今しばらく静かにせよ!」
言い捨てて、彼は馬の手綱を取るなりさっさと歩き出してしまった。
「それ、答えになってませんよ?」
アレスを追いかけていくリンティスとミッシェルの姿に、残されたグランが額を掻いて空を見上げる。
まだ怪しい影はない。いつもと変わりない、長閑な冬の空だ。
「そう言えば、ディディエはどうしてるかな‥‥」
押し寄せてくる疲れと、ちょびっとだけ寂しさを感じながら、グランはここにいない仲間の事を考えた。
●その頃
くしゅん。
「あれー。風邪ひいちゃいましたかねぇ?」
風邪は引き始めが肝心。
とりあえず、水晶を取り戻して依頼を完遂したら、薬草を煎じて飲んで、ゆっくりと寝た方がいいかもしれない。
「風邪に効く薬草って、何があったかなぁ? いやいや、薬草よりも酒場できゅっと一杯‥‥いやいや、いやいや、そうすると寝られなくなるような気も‥‥」
酒場で同業者に出会い、そのまま拘束されて朝方までというのはよくある話だ。
どうすべきかと頭を悩ませて、ディディエ・ベルナール(eb8703)は太陽を見上げた。先ほどよりも西へ傾いている。そろそろ、仲間達が動き出す頃合いだろう。
「さて、じゃあ、もう少し先へ進んでおかないと。ミッシェルさんの占いとアレスさんの聞き込みと、現場検証の結果と、私の推理によると、ヤツの寝床はこの先のはず」
仲間よりも少しばかり先回りしても罰は当たらない。
彼らはディディエよりも体力がある上に、馬だのセブンリーグブーツだのを使用するのだから。
「今から向かっていれば、丁度いい場所で合流出来ますよねぇ」
言いつつ、ディディエは腕を振り上げた。
「水晶、ナンシーさんにとって大事な物のようですから、なるだけ早く見つけてあげられるといいですねぇーっと!」
ぐぐんと大きく体を伸ばすと、彼は上機嫌で再び歩き出したのだった。
●更にその頃
壁際で息を潜め、気配を殺していたアスルがぴくりと肩を僅かに動かした。
「アスルさん‥‥」
「し。どうやら、引っ掛かったようだ」
傍らの珠慧にも緊張が走る。
窓の外に気配がある。羽ばたき、それも普通の鳥よりも大きい鳥のものだ。
剣に伸ばしかけた手を、アスルは止めた。しばらく考え込んで、彼はダガーを取る。致命傷を与えるのが目的ではない。それに、室内ではロングソードよりもダガーの方が何かと有利な場合もある。
「残し行く者が、残された者への気持ちを託した形見ならば、取り返してやらねばな」
「はい」
アスルの言葉に強く頷いて、珠慧も拳を握る。
瞬き程の時間もが長く感じられる。息苦しささえも覚える緊張の中、乾いた音が響く。
さかさか。
さかさかさかさか。
何の音かと眉を寄せた珠慧は、はっと顔を上げた。
外から聞こえる音ではない。
それは室内から、しかも、至近距離から聞こえて来る音だ。
さかさかさか‥‥。
「‥‥アスル、さん? この音は‥‥」
言いかけた珠慧の視界の隅を、何かが過ぎった。
身構えたのは、乙女の本能だ。世の乙女達の天敵、Gと遭遇した記憶が蘇る。無意識のうちに振り上げられた拳は、しかし行き場を無くして宙を彷徨う。
「‥‥シャカ‥‥やん?」
床にべったり全身を伏せて匍匐前進をしているのは、家具の影に隠れていたゴータマだ。這いつくばっているとは思えない速度で、彼は窓際へと忍び寄っていく。
どうしよう。
珠慧は真剣に悩んだ。
この拳を、このまま振り下ろしてはいけないだろうか。
蹴りでないのは仲間に対する気遣いという事で。
だが、珠慧が逡巡している間に、状況は刻々と変わっていく。
窓辺に影が落ちたと思った瞬間、棚の上に置かれてあった金貨が消えた。影の主が、その鋭い嘴で咥えたのだ。
「自分の金貨っ!」
アスルがダガーを投げつけるのと、ゴータマが飛び掛かるのとは同時だった。
しかし、ダガーは寸前のところで躱された。伸ばされたゴータマの手をあざ笑うように、巨大なカラスは二度、三度と大きく羽根を動かして飛び去っていった。
●水晶奪還作戦
巣は、険しい崖の中程にあった。
「どうやって、あんな場所まで!?」
思わず声をあげたグランの言葉は、その場にいた者達全ての気持ちを代弁するものだった。
ジャイアントクロウの収集物は恐らく巣の中に。
つまりは、巣の中を探さねばならないわけだが、巣の場所が場所である。崖を登るか、どこかから崖の上に出て、そこから降りるか。
どちらにしても大事だ。
「お困りですかー?」
頭を悩ませる冒険者達に、どこか呑気な声が掛けられたのは、覚悟を決めたグランが岩場に手をかけたまさにその時だ。
「ディディエ!?」
彼らとは別行動していたディディエが、岩場の影からにっこり笑顔で手を振っている。
その笑顔にほっと息を吐いたグランが、はたと顔を上げた。
「ディディエ! 確か、キミはサイコキネシスが使えたな? あの巣の中から水晶を取り出すなんて事は‥‥」
グランの言いたい事が分かったのか、ディディエは片手を軽く振ると、指を立てて口元に当てる。静かに、というジェスチャーだ。
「巣の中にはヤツだけのようだ」
ずっと黙り込んでいたアレスが静かに口を開いた。
仲間達の会話に加わらなかったのは、巣の中の様子を探っていたかららしい。
「という事は、ヤツを巣から引き離した隙に、巣の中で水晶を探し、取り戻‥‥」
作戦を纏めようとしたアスルが、難しい顔で崖を見上げた。ほぼ垂直の切り立った崖は、彼らを巣に近づけないようにと立ちはだかっているかのようだ。
「‥‥巣に雛とかいないって聞いて、ちょっと安心した」
母の形見を取り戻す為に、雛鳥に怖い思いをさせたり、場合によっては手にかけなければならないという状況だけは回避出来たようだ。安堵の息を漏らしたリンティスに、クルスソードを抜きはなっていたアレスも同意する。
「巣に戻っているヤツを誘き出している間に、サイコキネシスで水晶を取り出してくれないか、ディディエ」
リンティスとアレスの会話を聞きながら、グランがディディエに尋ねた。それが一番確実な方法に思えたのだ。だがしかし、
「うーん、それはちょっと難しいかもですねぇ」
ぽりと頭を掻いて、ディディエは巣を見上げた。
「水晶がどこにあるのか、どんな状態なのか私には見えないので、サイコキネシスで動かせるかどうか‥‥。巣の住カラスを外に出して貰う事って出来ますか?」
突然に向けられた問いに面食らいながらも、アスルは頷いた。アスルに視線を向けられたリンティスが片目を瞑り、呪を唱える。炎を纏ったリンティスがふわりと宙に浮いた。そのまま、巣目掛けて飛んだリンティスを、ジャイアントクロウは敵と認識したようだ。威嚇するように大きく羽根を広げ、鋭く鳴く。
「そう、そうよ。そのまま出ていらっしゃい。遊んであげるから」
何度か襲いかかる素振りを見せて、リンティスがジャイアントクロウを挑発する。その誘いに乗って、巨大カラスが巣を飛び立った。
「じゃあ、ボチボチいってみますか」
コキコキと肩を鳴らし、ディディエも印を結び、呪を唱え始めた。
「見えてないと動かせないって言わなかったか?」
怪訝そうに眉を寄せたグランに、ディディエは首を動かして肯定してみせた。
「そうですよ。ですから‥‥後、お願いします!」
彼の言葉と同時に、崖の岩場に収まっていた巣が落下し始める。慌てて、グランは走った。巣を受け止めるべく、咄嗟に腕を差し出し、地面を蹴る。ずしりと重い衝撃の後に、異臭が鼻についた。目にくる匂いを堪えつつ、グランは巣を覗き込む。
巣の中には様々な物が溜め込まれていた。
半貴石や輝石が圧倒的に多いが、中には金貨や銀貨、貴族の持ち物らしい装飾品まである。
「売り飛ばせば、そこそこの値段になりそうだ」
それらの中から、小さな水晶を取り出すと、グランは巣の主を見た。
地上へと戻ったリンティスを追い、彼女の数倍の速さで降下してくるカラスを待ち受けていたのは、剣を構えたアレスだ。
「空を飛ぶ敵とは‥‥」
腰を落とし、タイミングを見計らって低く構えた剣を突き上げる。剣は、巨大カラスの羽根を貫いた。もんどり打って地面に倒れたが、それでもまだ敵愾心を見せ、嘴で彼らに攻撃を仕掛けようとするジャイアントクロウに、アスルのロングソードが静かに、鋭く振り下ろされた。
●残る想い
母の形見を大切そうに手の中に包み込み、ナンシーは冒険者達に深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。本当に‥‥なんて言ったらいいのか‥‥」
「亡きご母堂の形見だ。これからも大事になさるがよかろう」
深みのあるアレスの声に、ナンシーの瞳から堪えきれなくなった涙が零れる。ぽろぽろと涙を流しながら、彼女は何度も何度も頷いた。
「‥‥自分、今夜は故郷のお袋に手紙でも書くっす」
無事に戻って来た金貨を握り締めて貰い泣きしていたゴータマが、しゅんと鼻を啜って呟く。
その呟きを耳にしつつ、アスルは背を向けた。
「死して尚思い出が残る‥‥か」
彼の心に、今、どのような思いが去来しているのであろうか。
その心情を推し量る術はないが、とミッシェルはリンティスと顔を見合わせて笑みを交わす。アスルの口元が確かに笑っていたのを、彼らはしっかりと見ていたのだった。